こうして、ヤマトの本格的な修理作業が開始され、真田とウリバタケはそれぞれ役割分担して作業を進め始めた。
 真田は主に資源採掘と補修用の部品の製造を一手に引き受け、ウリバタケはヤマト本体の点検と修理作業をすべて引き受けた。
 ウリバタケはこの手の実作業には強いが、真田ほど効率的に部品の製造ラインや採掘作業を指揮できないので、妥当な配置であった。
 おまけに無駄にテンションの高いウリバタケの指揮する修理陣は士気が妙に高く、意外なほど手が早くて正確ときている。任せない道理はなかった。おかげで真田も浮いた時間を使ってヤマトを完全にするためのアイデアを捻出するのに余念がない。
 こういった仕事を通じて互いに強い信頼関係を結んだこともあり、公私問わず良好な関係を築き上げ、よく顔を合わせて相談をしているくらいだ。
 その会話の中には、

「やっぱり主砲で実体の砲弾撃ちたい」

「弾薬庫と給弾装置のスペースがなぁ〜。やっぱボソンジャンプ給弾か?」

とか、

「第三艦橋を独立運用できるように改造したい」

「あのデザインだと単独移動しても違和感ねえしなぁ。改造しちまうか?」

 など、機能面での改良はもちろん冗談なプランも含めていろいろと雑談に花を咲かせている。
 時折イネスも混ざって、

「じゃあ艦長の生活をサポートするアイテムでも生産してもらおうかしら?」

 といろいろと話し合い、いくつかは実行に移せる段階に達していた。
 今度艦長の了承を得ようと考えている。きっと、役に立つことだろう。






 ヤマトが姿を隠して八時間余りが経過した。
 順調にヤマトを追いかけていたと思ったシュルツは、ヤマトが脇目も振らずカイパーベルトの中に入り込んだことに歯軋りし、すぐにその消息を追わせた。

「まさか、ワープで逃げたのか?」

 言葉に出してから真剣にその可能性を追求してみるが、ガンツが調べた限りではワープの形跡はまったく検出されていないという。
 そもそも時空間を歪めて跳躍するワープ航法は、規模に関わらずその瞬間にかなりの痕跡を残すものだ。
 特に重力波や空間歪曲場の観測そのものは、たとえガミラスに数段劣る地球の艦艇でも容易にできるほど、ワープの痕跡は大きい。当然ながらわが艦隊が見落とす道理はない。
 カイパーベルトの中に身を隠したとしても同じことだ。捜索中の艦隊が必ずその痕跡を発見できる。もっと巨大な重力源のそばでもない限り、見落とすことはありえない。
 それに――。

(小天体の集まりとは言え、カイパーベルト内でワープするのは重力場のバランス的にもリスクが大きい。周辺に障害物があるとワープインの際に巻き込んでワープ中やワープアウト時に激突してしまう危険がある。ヤマトのワープ性能を推し量るには情報が少なすぎるが、昨日今日技術を手にしたばかりの彼らがそんな無謀をするとは考えにくい。だからこそ身を隠したはずだが……)

「やはり、ヤマトはカイパーベルトの中に身を潜めたとしか考えられん……。ガンツ、ヤマトの最終確認地点はどこだ?」

「はっ。ヤマトはこの地点で姿を眩ませたと報告が重複しております」

 ガンツはレーダーモニターに映るカイパーベルトの一点を指差して報告する。シュルツはその地点を中心にヤマトの捜索包囲網を形成することを指示した。

「……早く発見せねばならぬ。ヤマトの修理が進めば進むほど、あの波動砲の威力が物を言うのだ」

 冥王星でヤマトは波動砲を使わなかった。もちろん使われないようにシュルツなりに作戦は練ったが、おそらくヤマトは冥王星を破壊する可能性のある波動砲の使用を自ら控えたのだろうとシュルツは見ている。
 だがここはカイパーベルトだ。たしかに波動砲の威力で天体のバランスが崩れ、地球になんらかの影響が生じる可能性はあるが、冥王星を砕くに比べればいくぶん対処しやすいはず。
 ヤマトが波動砲を有する限り、正面から艦隊決戦を仕掛けるのはリスクが高過ぎる。それに、ボソンジャンプを使ってこないという保証がイマイチ得られないのも気がかりだった。

「しかし、ボース粒子反応も検出されていないし、ヤマトはいままで一度たりともボソンジャンプを使っていない。波動エネルギーの影響を懸念してだろうとは思うが……」

 シュルツは顎に手を当てて考えるが、答えを導き出すことはできない。
 ボソンジャンプを利用することができなくなって久しいガミラスだが、対策のための基本知識くらいは持っている。
 実際ジャミングにしても過去の遺物を考えなしに使っているわけではない。動作原理をしっかりと理解し、制御下に置いたうえで使っているのだから当然だろう。
 だが奴らは未熟な技術なれど活用していたし、遺物を漁っていたのだから、もしかすると過去のガミラスでは気づけなかった抜け道の類を発見していて、活用できている可能性は否定できない。
 それゆえにシュルツはヤマトに対して慎重に接してきた。
 超兵器波動砲、ボソンジャンプ、それらを抜きにしても一二〇隻もの艦隊に包囲され、超大型ミサイルを四〇発にも見舞われ、反射衛星砲三発にすら耐えきった、あの圧倒的な性能。それに加えて見事な采配を見せた指揮官の冴えと、それを忠実に実現したクルーの練度。
 ……悔しいがヤマトは強い。シュルツが知る限り――いやガミラスが過去相対したいかなる敵よりも。
 シュルツはヤマトを屠るためなら奥の手を持ち出すことも辞さない覚悟を決めていた。だがそのカードを切るよりも前に、できる限りのことをしておかなければならない。

「なんとしても探し出せ! 星の裏も表も全て調べ上げろ! われらの命に代えても、ヤマトはここで叩かねばならんのだ!」

 シュルツの激に部下たちは必死になってヤマトの姿を追い求める。
 あの激戦でヤマトの脅威は身に染みている冥王星基地の面々にとって、ヤマトは命と引き換えにしても叩き潰す必要のある祖国の脅威と認識しているようだった。
 全員が必死になってヤマトを探す。文字どおり目を皿のようにして、僅かな痕跡すら見落とすまいとレーダーを睨み、光学機器をフル稼働させ、それでも足りぬと窓から直接乗員がヤマトの姿を求めた。

 それからさらに二時間が経過した。ガンツは光学モニターに映るひとつの小惑星を目に留めた。

「シュルツ司令! 不審な小惑星を発見しました!」

 頼れる副官の声にシュルツは即座に駆け寄りモニターに詰め寄る。
 そこに映し出されているのはなんの変哲もない小惑星。だがその表面に妙な膨らみがあるのが見て取れた。
 その膨らみの表面は非常に荒く、まるで岩石を無理やり寄せ集めたような不自然さを感じさせる。だがそれも注意して見ていればの話で、注意を払っていなければ見逃しかねない程度には自然だ。

「ガンツ、あの不審な膨らみを拡大しろ」

 シュルツの命令に従ってカメラの倍率を拡大する。すると岩石の隙間に巧妙に隠されている観測機器の存在を確認できたではないか! 外部を監視する役割を持つ装置だけに完全には覆えなかったのだろう。

「あれは探査プローブの一種だな……だとすれば、ヤマトはあの中にいるはずだ!」

 どうやったかは知らないが、発見を避けるために周りを漂う小天体を寄せ集めて偽装に使用したらしい。中々頭の回る連中だ。しかしこちらとて、必死の覚悟で挑んでいるのだ、見事な偽装だがわれわれの目を欺くには一歩足りなかったようだ。
 シュルツはさっそく通信機に飛びついて指示を出した。最終決戦の始まりだ!

「――全艦集結せよ! ヤマトに対し、最後の攻撃を仕掛ける!」






 少し時を遡り、岩盤の中に身を隠したヤマトの中では。

「しっかし派手にやられたもんだぜ。俺達がいなかったら修理できなかったかもしれねえなぁ」

 宇宙服を着込んで船外作業に従事するウリバタケが愚痴る。百戦錬磨の名メカニックの目から見ても、ヤマトの損害は目を覆わんばかり。無事な場所を探すほうが大変なくらいだ。
 とは言え、

「まあ、沈まなかっただけ運がよかったか。――そういう意味じゃ、たしかにお前さんは伝説の宇宙戦艦で、かつナデシコの魂も継いでるってことかねぇ」

 ウリバタケは独り言ちる。
 ヤマトの戦歴には目を通している。詳細な戦闘データこそ残されていなかったが、大まかな経歴を知るには十分な資料が残されていたので苦労はなかった。
 すさまじい戦果だった。そんな陳腐な感想しか浮かんでこないほどに。ウリバタケはそれを捏造だとは疑わなかったし、むしろ実際ヤマトに触れれば確信も得られた。
 ウリバタケとてメカニックの端くれだ。艦体構造やデータ上に残されている改修内容から、ヤマトが潜り抜けてきた修羅場の数々が窺い知れると言うものだ。
 完成されたあと、幾度にも渡って手を加えられたがゆえの歪さと不完全さが同居しながらも、それらを踏まえて徹底的に性能を底上げしていったヤマトの歴史――実に見事な仕事ぶりだった。
 同じメカニックとして、負けてはいられないと敬意すら覚えるほどに。
 対してナデシコもヤマトに比べれば戦績は劣るかもしれないが、相応の修羅場を潜り抜け生還した縁起のいい艦だ。かつての乗艦として思い入れのあるナデシコを引き合いに出すのは当然の流れだろうし、戦いの規模が違えど同じように修羅場の数々を潜り抜けた名艦二隻に関われたのだ。メカニック冥利に尽きる。
 しかも、戦いにおける立場としては揃いも揃って『初めて敵に正面から対抗できる戦艦』の立ち位置にあるのだ。
 この因縁にウリバタケだけではない、初代ナデシコのクルーたちはヤマトを『違う形で登場したナデシコの跡継ぎ』と考えている節がある。それくらい立ち位置が似ているのだ。
 ――もしかしたら、自分たちがこの世界に漂着したヤマトに乗ったのは運命だったのかもしれないと、作業の手を止めずに考える。
 部下たちに細かく指示を出しながら自身も破損個所に取り付いて、壊れた装甲板の切除や溶接、その前に外部から作業したほうが早いだろう内部構造の修理を的確にこなしていく。
 そんなとき、

「セイヤさん、この装甲はどこに運べばいいんですか?」

 宇宙服の内蔵無線からアキトの声が響く。
 早々に修理を終えたダブルエックスと一緒に、ヤマト艦首の左右に搭載された資材運搬船と協力して装甲などの大きな部品の運搬作業や、装甲の張替え作業の手伝いに名乗りを上げてくれたのだ。
 元々は完全なダブルエックスをあらかじめ出撃させておくことで、偽装が見破られたとき速やかに攻勢に出られるようにという配慮だったのだが、だったら手伝ったほうが時間を持て余さないとアキトが言い出したことで、修理作業の手伝いもしているに過ぎない。
 そのため携行武装を搭載したGファルコンが左舷カタパルトの上で待機しているし、機体の調整を終えた三人娘のアルストロメリアも、戦闘態勢のまま発進レーン上で待機中であった。
 アキトが疲れたら後退して修理作業を手伝ってくれるつもりらしい。

「おう! それは右舷展望室下の装甲板だな! 持って行って張替えを手伝ってやってくれ! 雑な仕事すんじゃねぇぞ!」

 ウリバタケの指示に「うっす!」と応じてアキトのダブルエックスが機体の全長ほどもある装甲版を運搬していく。
 戦闘用の機体の癖に、案外手先が器用なダブルエックスによる修理作業は手早く精密だ。
 それもそのはず、修理作業を円滑にするためにわざわざルリに頼んで制御プログラムも組んでもらったから間違いない。ついでにウリバタケと真田でマニピュレーターの再調整も行ったのだ。パイロットがヘマしない限り、作業はつつがなく終了することだろう。

 そんなこんなで八時間ほど修理作業が続いたが、そこで第一艦橋のエリナから無線でガミラス接近の警告が届く。ユリカからも警戒体制に移行するので修理作業を中止するようにと通達され、ウリバタケは聞こえないように舌打ちした。

「ちっ、しょうがねえな。全員艦内に避難だ!」

 ウリバタケは渋々修理作業を中断して作業員を引き揚げさせる。
 もちろん作業艇や工作機械の類も一緒に引っ込めるが、剥がしたばかりだったり、これから溶接するところだった装甲板は置き去りだ。
 なにかあってロストしたら貴重な資源を無駄にすることになる。――なにごともなく過ぎ去って欲しいものだが、それは高望みだろうなと、自虐した。



「ガミラス艦隊は、真っすぐこの小惑星を目指しています。後方にも展開を確認、囲まれました!」

 電算室でプローブからの情報を解析するルリが、緊張を滲ませた声で報告する。

「あちゃ〜。敵さんの執念を侮ってたよ。こんなに早く発見されるなんて」

 ユリカがぺちっと額を叩く。もう少し粘れると思っていたのだが、見込みが甘かった。いや、素直に敵の根気強さに敬意を表するべきだろう。ヤマトが回復する前に決着を付けたいと考えること自体は、自然なものであるし、立場が逆ならユリカとて同じことをするだろう。

「艦長、どうします? ヤマトの武装はほとんど使えませんよ」

 戦闘指揮席で進が額に汗を滲ませる。
 各砲へのエネルギー供給ラインの修理はおおよそ完了しているのだが、まだ最終点検が終わっていない。点検未了で発砲してなにかしらのトラブルを生じてしまうとかえって危険だ。なにしろ機関部から直接エネルギー伝導管を引っ張っている構造であるわけだし、リスクを避けるのは当然の判断だろう。
 おまけにミサイルはすべて撃ち尽くしたまま補充されていない。そんな時間的余裕はなかった。

「だいじょぶ、だいじょぶ。アステロイド・シップ計画に死角なし。……ルリちゃん、いよいよ本番だよ。心の準備はOK?」

「はい、任せてください艦長。ヤマトは私たちオペレーターがきっちりしっかり護ってみせますとも」

 ルリは不敵な笑みを浮かべて部下たちと視線を合わせて頷く。普段目立たない縁の下の力持ちにスポットライトが向けられた瞬間だ。……ルリは常日頃から目立っているが。

「偽装解除、ヤマト浮上後、岩盤を回転させます」

「了解!」

 六人の部下がそれぞれ応じ、今後の作戦に合わせてコンピューターを操作する。

「大介君、偽装解除と同時にヤマトを小惑星から浮上させて。このカイパーベルト内でガミラス艦隊を迎え撃ちます!」

 ユリカの頼もしい声に大介ら第一艦橋の面々が真剣な眼差しで各々準備を進めた。これが太陽系内での最後の戦いになるだろうという緊張感が満ちていく。

「了解。機関長、メインエンジン点火準備願います」

「了解。機関室、メインエンジン点火準備。偽装解除後、ヤマトを小惑星から浮上させます」

 大介の要求を得て、ラピスは頼もしい部下たちに命令を下す。
 幸いなことにエンジンには目立ったダメージはなく、反射衛星砲で大打撃を受けた出力制御系統の修理は真っ先に終わらせてある。
 攻撃能力こそ喪失しているとはいえ、ヤマトは逃げるには十分な余力を残している。ただ、ディストーションフィールドは発生器の交換作業が途中で機能半減しているので、耐えるには厳しいが。

「反重力感応基、動力伝達を確認。岩盤解除一五秒前」

 ルリの報告とラピスの「メインエンジン点火一〇前」と指示が続く。カウントダウンは続き、カウントゼロで大介はスロットルを押し込む。

「メインエンジン点火。ヤマト、浮上します!」

 ヤマトをドーム状に覆っていた偽装が解除され、その中からメインノズルを噴射したヤマトが浮上する。






「ヤマト、自ら姿を現すとは――なんと潔い奴だ」

 モニターに映るヤマトの姿にシュルツは気を引き締める。

「シュルツ司令、ヤマトはどうやら反射衛星砲のダメージがまだ回復していない様子です。一気に畳みかけるのが最善かと」

 ガンツはヤマトの姿を拡大するや否や意見具申する。モニターに映るヤマトは反射衛星砲だけでなく、その前の艦隊戦で損傷したであろう装甲板の処置が終わっていない。
 部分的に内部構造を露出していているし、張り替えたばかりで塗装すら終わっていない部分が散見される、実に見ずぼらしい姿だ。
 勝機があるとしたら、いましかない。シュルツは決断した。

「全艦に告ぐ。全砲門を開いてヤマトを撃滅せよ! これが最後のチャンスだと思え!」

 シュルツの号令に応じて、各艦が隊列を整え照準をヤマトに向ける。一斉攻撃の構えだ。






「ガミラス艦隊より射撃用レーダーの照射を確認。攻撃態勢に入った模様です」

 反重力感応基の制御で手一杯のルリに変わり、副オペレーター席に座った雪が第一艦橋に報告する。
 その報告にユリカとルリと真田以外の全員が額に汗を滲ませる。敵の決死の覚悟が伝わってくるようだ。
 進はすぐに格納庫に連絡、ダブルエックスの武装を取り付けたGファルコン、三人娘のアルストロメリアの出撃を命じる。
 対艦攻撃がメインになる以上、主力はノンオプションでそれが可能なGファルコンDX。
アルストロメリアはその補佐と目くらまし要員だ。……残念だが大型爆弾槽も残っていないし、信濃も波動エネルギー弾道弾を撃ち切って戦力外だ。
 問題があるとすれば、このような障害物の密集した場所だと自爆の恐れがあるためサテライトキャノンが使い辛いということだろう。
 大型のスペースコロニーをも一撃で消滅させるサテライトキャノンも、それ以上の規模の小惑星が点在しているアステロイドベルトの中ではさすがに分が悪い。
 おまけに整備の都合からエネルギーパックの充電が終わっておらず、ヤマトからの重力波ビームの照射が必須になっているが、こんな障害物だらけの空間で受信するのは少々厳しい。――サテライトキャノンは使えないと判断するほうがいいだろう。――状況的にはともかく、心情的にはあまり使いたくない代物でもあるし。

 すぐにカタパルトに乗せられていたGファルコンが射出され、自動操縦でダブルエックス目掛けて飛んでくる。アキトはすぐに合体態勢をとった。
 伸長したサテライトキャノンを肩越しに前方に向け、リフレクターを後方に倒したダブルエックスに、GファルコンのAパーツが機首と翼を畳んで胸部に被さり、肩関節の根元が外側にスライドして出現するコネクターに、垂直尾翼の後ろからスライドして出現したコネクターを接続して固定。Bパーツが背中のドッキングコネクターに接続、中央ユニットに内蔵された大型マニピュレーターが腰のハードポイントに接続されてBパーツを起き上がった状態で支える。
 ――合体完了。すぐにカーゴスペース内に吊るされていた新兵器――ビームジャベリンとシールド――ディフェンスプレートを装備する。ようやく調整が終わったビームジャベリンはその名のとおり、ビーム刃を形成する投げ槍だ。腰部のビームソードよりもリーチが長く刺突に特化した調整がされているため、対フィールド突破力で勝る。
 今回は対艦戦闘がメインということもあって、バスターライフルは置いてきた。これとハイパービームソードを合わせれば、対艦戦闘も苦にならない――はず。

「さあかかって来い。ヤマトは、俺たちの希望はそう簡単にはやらせてやれないぞ――!」

 静かに闘志を高めるアキトに進から通信が入った。

「アキトさん、ヤマトはまもなくガミラスへの対処行動に入ります。それに合わせてリョーコさんたちと協力して、対艦攻撃を願います」

「了解」

 短く応じるとすぐにヤマトから今後の作戦プランに関する資料が送られてくる。
 簡潔に記されたとんでもない内容にアキトは開いた口が塞がらなかったが、すぐにニヤリと笑う。――これは、相手の意表を突けるいいアイデアかもしれない。



 その頃電算室では、反重力感応基を撃ち込まれた岩石の位置情報を完全に把握したルリが、ユリカと考え出した活用法のために部下たちと念入りに周辺情報を探る。
 ドームに埋め込んでいたプローブを修理途上のレーダーシステム代わりに、ガミラスの動向を正確に捉える。

「ルリちゃん!」

「はい! 岩盤回転! アステロイド・リング形成!」

 ルリの意思がIFS端末を通してオモイカネに、ヤマトのコンピューターに送り込まれる。さあ、これからが腕の見せ所だ!

 偽装ドームを解除されて周辺に散らばっていた岩石が反重力感応基に操られ、ヤマトの周辺に再集結。見る見るうちに左回りに高速回転する帯を形成し始める。






「なにをしようとしているのか知らんが、させんぞヤマト! 全艦砲撃開始!」

 シュルツの号令でガミラス艦隊は次々と重力波とミサイルを放ち、ヤマトを宇宙の藻屑にせんと火力を叩きつける。
 たかが岩石、これだけの火力を叩きつけてやればあっさりと消滅してヤマトは宇宙の塵と消えるはずだと、誰もが願った。






 ルリはガミラスの猛攻がヤマトに届く前に防御措置を完成させていた。反重力感応基を撃ち込まれた岩石を重力制御でヤマト周囲にまるで天使の輪のように集め、回転させることで形成されるアステロイド・リング防御幕。かつてのヤマトでも使用された防御手段のひとつだ。
 そのアステロイド・リングを巧みに制御して、襲い掛かってくる重力波とミサイルを次々と受け止める。
 帯の向きを変えたり、回転する盾のように形成したり、変幻自在の動きで適切な形状へと変えて猛攻を防ぐ。
 本来ただの岩石で防げる重力波砲ではないが、再生産された反重力感応基は小型のディストーションフィールド発生機が内蔵されていた。そこにヤマトからの重力波ビームを受けて、重力制御とフィールド用のエネルギーを確保して機能するため見かけによらぬ高出力を得ているというのは、エステバリスの運用データの転用だった。
 波動エネルギーの恩恵を直接受けられず、装置の規模から強度も十分とは言い難い。……だが、数が揃えば相互作用で補える。その技術はすでに確立済みだ。
 それに装置が回転しているのもミソで、無理に広域にフィールドを広げるのではなくフィールドアタックのように横殴りに殴りつけることで、フィールド強度以上の攻撃を凌ぐことができるのだ。
 さらに環境次第では追加で反重力感応基を打ち出すことで損耗した岩石を補填して防御力を維持したり、数を増やして防御を厚くしたりと応用しやすい。最悪敵艦の残骸すらも制御することは可能であろう。
 だが、防御一辺倒ではいずれ力尽きてしまうことは容易に予想できた。ここでルリとユリカが考案した次の行動が真価を発揮する。フィールド発生装置はこのためのおまけに過ぎない。
 と言うよりも、ビームではなく重力波砲をガミラスが備えていた時点で、ユリカは防御システムとしてのアステロイド・リングにある程度見切りをつけていた。
 もちろん度重なるシミュレーションによってご覧のとおりの防御性能を発揮することはできているが、本命はこれから行う行動にこそある。

「ルリちゃん、勢いつけてぇ〜〜」

「いつもより多く回しております」

 ユリカの指示を受けてルリはアステロイド・リングの回転速度を最高にまで上げる。
 リングはヤマトの喫水線と平行になるような位置で回転し、凄まじい運動エネルギーを蓄える。その姿はまるで天体の膠着円盤のよう。
 そして、ガミラス艦の位置情報や周辺環境データを、雪たちオペレーターが改めて処理してルリの手元に送り込む。準備完了!

「やっちゃえーー!」

「投擲開始!」

 ユリカの命令を受け、ルリは回転するアステロイド・リングからまるでピッチングマシーンのように次から次へと岩石をランダムに放出、ガミラス艦目掛けて撃ち込んでいく。
 ガミラス艦は想定外の事態に対処が間に合わなかった様子。次々と撃ち込まれる岩石に右往左往、次々と直撃を受けて傷ついていった。
 原理上ディストーションフィールドは質量を伴った攻撃に弱い。そこに大質量の物体を高速で大昔の攻城兵器よろしく叩きつけてやればどうなるか――結果は火を見るより明らかだろう。
 おまけにフィールドコーティングすらされているのだ。さすがのガミラス艦であっても無傷で凌ぎ切ることはできない様子だった。
 これが、ただの岩石では十分な防御力を得るのが難しいと考えたユリカの考えを、ルリの技術で形にした、アステロイド・ノック戦法である。




「や、ヤマトめ……なんという攻撃手段だ……!」

 シュルツは急な回避行動で揺れるブリッジの中で、近くのコンソールにしがみ付きながら戦慄する。
 周りにあるものを有効活用して、僅か一手でこちらの体制を崩す豪胆にして繊細な戦術。技術力で劣ると見下していたがとんでもないことだった。彼らは苦境の中で着実に技術と発想を磨き、ヤマトというイレギュラーの出現に伴って見事にその才能を開花させていた。
 まったくもって恐ろしい存在だ。常識に縛られることをよしとしない型破れで奇抜な――それでいて基本を疎かにしない優れた指揮官と、そんなついていくのも大変であろう指揮官にたやすく追従する部下。戦慄しないわけがない。あれは常識に囚われていては決して勝てない相手だと、いやというほど思い知らされた。
 ……これがヤマト。ガミラス最大にして最恐の敵!

「しゅ、シュルツ司令! あの人型が向かってきます!」

 ガンツが示したモニターの中で、冥王星基地をただの一撃で葬り去った人型機動兵器が迫ってくる。
 その威力を味わった彼らは、ヤマト同様の脅威を感じ速やかに迎撃姿勢を取ったが、それで止まってくれるほど、あの人形は甘い相手ではなかった。






 アキトはGファルコンDXのスラスターを全開にして一気に距離を詰め、手短なガミラス駆逐艦に襲い掛かった。
 ヤマトに繋いだままの通信からは、

「やったぁ〜! ルリちゃんさすがぁ!」

 とか、

「いえいえ、電算室オペレーターズのチームワークの力です」

 とか、

「艦長! アステロイド・シップ計画は完全に成功しました!」

 とか、

「すごいなこれ……! 島、いっそこれからは岩石を身に纏ったまま航行するのもありじゃ……」

 とか、

「馬鹿言うな! 積載量が増えて航行に支障が出るだろうが!」

 などといったやり取りが聞こえてくる――このノリは本当にナデシコだな、とか考えながらも千載一遇のチャンスを逃すまいと一気呵成に挑む。
 体勢を立て直す時間は与えてやらない!
 少し遅れてリョーコとヒカルとイズミのアルストロメリアも、アキトが狙いを定めた艦のすぐ近くの艦に襲い掛かったようだ。

 GファルコンDXは既存機の比ではない推力を最大限に活かした機動で岩石をぶつけられ弱ったガミラス駆逐艦に接近、爆発に巻き込まれることのない距離から、収束モードの拡散グラビティブラストを計一二発、矢継ぎ早に撃ち込んだ。
 相手のフィールドを食い破った重力波は、破損部からたちまちガミラス駆逐艦の内部構造を破壊、破壊されて暴走した機関部の爆発で内側から引き裂かれ、カイパーベルトの一部と成り果てる。
 撃沈を確認したアキトは機体を翻し、次の獲物を探していると三人娘の戦いが視界に入った。
 最初に至近距離からレールカノンとハイパーバズーカ三挺の全弾を撃ち込んでブリッジを叩き潰し指揮系統を混乱させ、すぐさま機関部に取り付き腕部クローを最大出力で叩き込みながらGファルコンの火力を集中して装甲を破って致命傷を負わせる。
 エステバリスでは不可能だった戦法を駆使して、手負いとはいえ一隻沈めて見せた。相も変わらず息の合った連携だ。
 戦果を見届けつつ次の獲物を選んだアキトは最大戦速で肉薄、今度は左手にハイパービームソードを持たせ、装甲が比較的薄い艦底部にビームジャベリンと同時に突き立てる。
 密着しなければ役に立たない近接戦闘武器ではあるが、ビームの収束率と突破力はバスターライフルを上回る。激しい抵抗をかいくぐり、接触して数秒でフィールドを突き破って装甲に喰い込んだ。粒子が激突する際に生じる熱と衝撃で見る見るうちに装甲が融解して穴を開けていく。
 そのままでは致命傷を与えられないためビームソードを引き抜くと同時に左右の拡散グラビティブラストを発射、ついでに左のミサイルポッドも開いて五発ほど撃ち込む。そこにさらにダメ押しでGファルコンAパーツの機首大口径ビームマシンガンも離脱しながら撃ち込んでから最後に拡散グラビティブラストをもう一撃。
 情け容赦ない攻撃にろくな抵抗もできずに破壊されたガミラス駆逐艦の残骸を尻目に、GファルコンDXとGファルコンアルストロメリアの部隊は更なる獲物を求めてカイパーベルトの間隙を飛び回る。
 アキトは左腕のハイパービームソードを腰に戻し、Gファルコンのカーゴスペースに釣られていたもうひとつの新型オプション――ロケットランチャーガンを持たせる。
 こちらもダブルエックス用のオプション装備で、カンフピストル風のロケット投射機だ。先日ロールアウトしたハイパーバズーカよりも弾頭が大きく破壊力で勝るが、構造の都合で有効射程が劣り、携行弾数も著しく制限されるという難点を抱えていた。
 アキトはそのロケットランチャーガンを敵艦の機関部目掛けて発砲、残りのミサイルもすべて使う。大型弾頭とマイクロミサイルが一点に立て続けに命中して爆炎を上げる。そこにすかさずグラビティブラストを連続で撃ち込んでやると、密着するまでもなく敵艦の機関部を破壊できた。

(ふむ、使い勝手は悪いけど威力はすごい。これは対艦攻撃に使えるな)

 アキトはこのオプションの生みの親であるウリバタケに感謝した。
 ――だからなおさらハンマーとの落差を感じ、よくも悪くもウリバタケがロマン型であることを思い知らされた。






 予想を遥かに超える新型機の戦闘力に顔面蒼白になったシュルツは、いよいよ最後の手段に訴える決意を固めた。

(たかが人形と侮っていたが、あの新型は危険だ。まさか単独でわが軍のデストロイヤー艦に匹敵する戦闘能力を持っているとは……! だが、所詮は艦載機。母艦であるヤマトさえ潰せれば――!)

「ガンツ、最後の手段に出るぞ……体当たりだ!」

「えぇっ!?」

「ヤマトはここで潰さねばならんのだ! この命と引き換えにしても、デスラー総統に近づけるわけにはいかん!――ガンツ、生き恥を晒させるようで悪いが、おまえは脱出してヤマトとその搭載機との交戦データを、本国に伝えるのだ」

 シュルツの命令にガンツは反発した。冥王星基地以前から慕ってきた、共に戦ってきた上官に一緒に死なせてくれと切実に訴えたが、シュルツは頑として首を縦に振らなかった。

「おまえまで死んでしまったら、ヤマトの脅威を伝えるものがいなくなってしまう――行けガンツ! われらの戦いを無駄にするな!」

 敬愛する上官の檄に、ガンツは涙を溢れさせながら心からの敬礼を捧げ、脱出艇に走った。
 ……その姿を見送りながら、シュルツは無傷なデストロイヤー艦一隻に戦域を離脱してガミラス本星に戻るように伝える。
 たとえ極刑に処されても、データだけは渡すのだと言うシュルツの懇願に近い命令に、デストロイヤー艦の艦長と部下たちは熱い涙を流しながら応え、屈辱に紛れてでもヤマトとの交戦データを伝えると確約する。
 ――間もなく、シュルツの艦から飛び出した脱出艇が、離脱を受け入れたデストロイヤー艦に収納された。
 脱出艇を受け入れた艦は速やかに反転、カイパーベルトを離脱していく。
 その姿を見送ったシュルツは、無線機を手に取って指揮下にあるすべての艦、すべての部下に最後になる命令を下した……。

「全艦に告ぐ。冥王星前線基地司令のシュルツだ。ヤマトはここから一歩も外に出すわけにはいかん、最後の決着をつけるのだ!――諸君。長いようで短い付き合いだった。これより、ヤマトへの体当たりを敢行する! これ以外に活路はない……!……諸君の未来に栄光あれ。冥王星前線基地の勇士たちよ、覚えておきたまえ…………われらの前に勇士なく、われらのあとに勇士なしだ!」

 シュルツの最後の演説に、全員が涙を流して震えていた。
 それは死ねと命令されたことに対する悲しみでも反発でもなく、われら冥王星前線基地一同を最後まで大切に思ってくれたシュルツへの感謝と、最後の瞬間まで付き添う覚悟、そして強敵ヤマトをここで葬り去り、祖国への脅威を取り除かんとするガミラス軍人としての誇りで身を震わせていたのだ。
 ――そこに死への恐怖はなかった。

「……さあ行くぞ! 全艦突撃開始!!」

 シュルツの号令でガミラス艦隊は砲撃しながらヤマトに体当たりすべく突き進む。ただただ祖国への忠誠と、敬愛する上官を寂しく逝かせまいとする覚悟のみで、宿敵ヤマトに命をもって立ち向かうのであった。






「艦長! 艦隊が真っすぐ突っ込んできます!」

 電算室でルリの補佐を務めていた雪が、ガミラス艦の行動を速やかに第一艦橋に報告する。

「ルリちゃん、リング解除! 大介君、身軽になったらすぐに回避行動に移って! 体当たりするつもりよ!」

 敵艦の動きからその目的を悟ったユリカがすぐに指示を出す。使い方次第ではとても有用なアステロイド・リングにもひとつ弱点がある。
 ヤマトの全力機動に追従できないのだ。
 リング形成中は急激な機動をすると、追従できなかったリングがヤマトに接触する危険性があり、リングを解除して身に纏っても重量増加で機動力が落ちる二重苦を抱える、防御特化の戦術なのだ。

「了解、リング解除!」

「機関全速、取り舵一杯! 回避行動に移ります!」

 命令を受けた全員の行動は素早かった。
 ルリはすぐさま残っていた岩石を敵艦隊の進路に割り込むように放出、ハリは大介の操縦を補佐すべく、電算室から送られたデータを頼りに敵艦の進行方向からヤマトを外すための行動プランを選出する。
 送られたデータを頼りにヤマトを操る大介と、ヤマトの速力に影響する機関コントロールに全神経を集中するラピス。
 全員が一丸となって命を捨てて挑んでくる冥王星艦隊と相対。雌雄を決する瞬間が迫っていた。






 ばら撒かれた岩石に激突した僚艦たちが、ヤマトとの進路に割り込んできた岩石を避けられず次々と衝突を繰り返し、玉突き事故のように砕かれ、ひしゃげて、沈んでいく。
 さらにこちらの行動を阻止すべく、人型たちも決死の覚悟で僚艦の機関部を破壊し、宇宙を漂うゴミ屑へと変えていく。
 熾烈極まる攻防で艦隊が壊滅していくなか、シュルツの乗艦だけはヤマトに肉薄することに成功した。

「デスラー総統バンザァァァァイッ!!」

 シュルツは祖国の主の名を叫びながらヤマト向かって突き進む。――その脳裏に、祖国に置いてきた愛する娘の姿が過った。もう二度と、その笑顔を見ることはない。成長を見届けることができない。シュルツの心に残った、わずかばかりの無念。

(ヒルダ……)






 全力で右舷スラスターを全開にして軌道を逸らそうとするヤマトに敵戦艦が突っ込んでくる。回避は間に合わない!

「進! ロケットアンカー!」

「はい! ロケットアンカー発射!」

 ユリカの命令に進は疑問を挟むことなく応じる。彼女がなにを狙っているのかを直観的に理解したのだ。
 進の操作で撃ち出された右舷ロケットアンカーは、ヤマトに突っ込もうとしていたシュルツ艦の艦首側面に苦もなく突き刺さる。アンカー自体に高出力のフィールドを収束させ、ディストーションアタックと同じことをしたのだ。
 アンカーは命中と同時に内部でフィールドを解放し、小規模な爆発を引き起こす。戦艦を動かすには非力な一撃だが、ヤマトの回避行動を成功させるには十分だった。
 本来ならヤマトに正面からぶつかることができたであろうシュルツ艦は、わずかに軌道を逸らされた。ヤマト右舷中央付近に接触して激しい火花を散らし、右舷コスモレーダーアンテナ、その下のウイングマスト、対空砲の砲身を根こそぎへし折ったが、ヤマトを葬るには角度が浅すぎた。
 敵艦はそれ以上の損害を与えられないままヤマトを通り過ぎ、刺さったままのロケットアンカーの鎖が伸び切って張り詰め――ちぎれた。その反動で姿勢制御を誤った敵艦は、体勢を立て直す間もなく空しく小惑星に激突――散った。
 その爆発の光に、辛うじて撃沈を免れたヤマトが照らし出される。ちぎれてひらひらと漂う鎖は、まるで死闘の末散っていった敵艦に対して哀愁の意を示しているようであった。

 その最後を見届けたユリカは、ガミラスの残存艦艇がいなくなったことを確認したあと、全乗組員に黙祷を命令する。

「みなさん。彼らは地球を死の淵まで追い込んだ仇敵でした……しかし祖国のため、命を捨ててもヤマトを討ち取ろうとしたその忠誠心に、愛国心に、同じく祖国の命運を背負った戦士として、哀悼の意を捧げたいと思います……全員、黙祷!」

 誰もその命令に逆らうものはいなかった。たしかに地球を破滅寸前まで追い込んだ怨敵ではあるが、最後の特攻の瞬間、たしかに感じたのだ。
 自分たちと同じ、祖国の命運を背負った戦士としての気概を――使命感を。
 そう思えば窮地を切り抜けたはずの歓喜も沸いては来ず、クルー全員が死力を尽くして戦った冥王星艦隊の戦士たちに心から哀悼の意を捧げ、その健闘と生き様を称える。
 ――護るべきモノの為に命を賭した、戦士たちの冥福を祈って。
 ヤマトのそばに戻ってきたダブルエックスとアルストロメリアたちも、同じように黙祷を捧げていた。アキトたちも、同じようにしているのだろう。

「黙祷、終わり!」

 傍から見れば敵対した兵士に対しても礼を護ったに過ぎない行為であった。
 しかしガミラス侵攻の事情を知らない大多数のヤマトクルーにとって、それは大きな分岐点となった。
 地球人と変わらぬ姿を持ち、そして祖国のために命を賭せるメンタルをもつ行動を見せつけたその姿。
 自分たちと同じ『心』をもつ『人間』なのだと、改めて思い知らされた。
 ユリカを始め、事情を知る一部の者にとっても、心に刺さる出来事だったと言えよう。

 それは、シュルツが命と引き換えに成した、この時点では小さな――だが後に大きな意味を持つ出来事だったのだ。



 ヤマトは改めてカイパーベルトの小惑星に取り付いて資源の採掘と、傷ついた艦の修理作業に没頭し始めた。
 ヤマトの修理完了予定まであと二五日。急ぐ旅路においては手痛い損失である。
 それは、冥王星前線基地の執念と祖国への忠誠心が成した成果。
 ヤマトクルーはそのことを深く心に刻み、これからもあるであろう妨害を掻い潜ってイスカンダルに辿り着くと、改めて気を引き締めるのであった。






 太陽系に入り込んだガミラスの軍勢を辛くも壊滅させたヤマト。

 だが、その前途は未だ険しい。

 地球絶滅の危機を刻々と迎えている人類を救えるのは、宇宙戦艦ヤマト。

 その愛と知恵と勇気しかない。

 急げヤマト、その日まで!

 人類滅亡と言われる日まで、

 あと三五四日。



 第九話 完

 次回 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット

    第十話 さらば太陽系! いつか帰るその日まで!



    かならずの帰還を誓って。

 

第一〇話 さらば太陽系! いつか帰るその日まで! Aパート







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代理人の感想 
勇士シュルツに合掌。

しかし原作アニメで最初に見たときから思ってましたけど、このアステロイドリングって
ヤマトの装備の中でも一番訳がわからんと思うw



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