ヤマトがオクトパス原始星団という大自然の驚異に翻弄されていた頃、デスラーは自身の居住にある専用の浴室で日々の疲れを洗い流しながら、ガミラス最大の脅威を観測してから今日までの日々を反芻していた。
……ガミラス星に向かって真っすぐに突き進んで来る移動性ブラックホール――カスケードブラックホールが観測されたのは三年ほど前のことだった。
世にも珍しい銀河の中を移動するその天体の存在はガミラスの目を引いた。その時は観測史上初となる天体の観測をする、それ以上の意味はなかった。――その天体の予測進路上にガミラスならびにイスカンダルが存在していると知れるまでは。
初めてその報告を受けた時の衝撃は筆舌し難いものがあった。それが誤りであってほしいと何度となく計算をやり直しても結果は変わらなかった。ガミラスとイスカンダルは三年以内にカスケードブラックホールに飲まれてこの宇宙から消える。いまのままでは揺るがない現実であると。
デスラーは大ガミラスの総統として速やかに対策を検討させると同時に、カスケードブラックホールそのものをも徹底的に分析させた。
その結果、カスケードブラックホールは大マゼラン星雲の中の有益な資源を有する惑星を根こそぎ飲み込むコースを描くという、自然現象としてはありえない軌道を描いていることが発覚したのだ。
つまりあのカスケードブラックホールは天然自然の産物ではない、何者かが作り出した人工天体ではないかと考えられるようになるまでさしたる時間はかからなかった。
さらなる調査の結果、ブラックホールのように見えていたそれはこの宇宙とはまったく異なる別の宇宙に星を転移させる時空転移装置であることが判明した。――決して少なくはない科学者の犠牲の果てに。
そこまでの情報を得たデスラーは人工物であるなら壊せるはずだ、と考えるようになりそのための手段の模索と並行し、カスケードブラックホールの影響を受けない新天地への移住というふたつの命令を下したのであった。
しかしそのどちらも至難を極めた。
破壊を試みるという方針は、次元の裂け目が生み出す重力圏に邪魔をされて攻撃が届かないという難関にぶち当たった。
しかしデスラーにはひとつ、たったひとつだけこの難題を実現する兵器に心当たりがあった。……イスカンダルの古い文献にその名を残していた超兵器――タキオン波動収束砲。
波動エネルギーを直接転用した、星をも砕くとされている禁忌の力。その砲の威力であれば、重力圏の影響を振り切って破壊できるはずだ。
いままではガミラスの独裁政治体制に反発する勢力の手に渡ることを忌避して、同時にガミラスが最も欲する惑星資源の不必要な損失を生み出しかねないと研究されてこなかったが、もうこれに縋るしかない。
デスラーはスターシアに双方の星の危機だと訴え技術提供を願ったが、スターシアは頷かなかった。
スターシアからすればガミラスに――いや、侵略戦争を行っているような国家にだけは、渡したくなかったのだ。
もちろんデスラーも断られると承知の上で頼んだことなので、袖に振られたからと言って彼女になにかしらの報復をするつもりはない。第一イスカンダルの助けを借りれずとも、偉大なガミラスの技術局ならば間に合わせることもできるだろうという確信ももっていた。
かくして二年の歳月をかけ、いままさにガミラス製のタキオン波動収束砲が形になろうとしている。現在その砲は新しいデスラーの座乗艦への搭載作業が進められていて、作業進展率は六〇パーセントとなっている。
しかしいまのガミラスでは波動エンジン二基分の出力を撃ち出すのがやっと……それではカスケードブラックホールの重力圏の影響を突破して次元転移装置を破壊するには力不足。
もしもそれを可能とするのであれば――ヤマトの六連射型、その全出力を一挙に開放する必要があると、ガミラスの技術局は苦渋に顔を曇らせていた。
いまも技術局は改良を続けているが、現状ではこの方法でガミラス民族を救える可能性は極めて低いと言わざるをえない。
となればもうひとつの手段である移民にかける期待が大きくなるというもの。数ある候補地からデスラーが移住先として選んだのは、兼ねてより進出を考えていた天の川銀河にあり、まだまだ豊かな自然を持つ美しき星――地球であった。
天の川銀河への侵攻を検討したときから目を付けていた星であり、惑星改造なしに速やかに民族を移住させられるというのは、この上なく魅力と言える。
それに調査の過程で連中はガミラスでは失われたに等しいボソンジャンプを利用している痕跡が見つけられた。連中が自力で開発できるわけがない、つまりボソンジャンプを開発した古代宇宙人の遺跡のようなものがあり、それを解析することで活用する術を得たのだと考えるのが自然だった。
これもデスラーが地球に狙いを定めた理由のひとつだ。波動エネルギーとの相性で切り捨てた技術とはいえ、いまの目で見れば利用法があるかもしれないと考えたのである。
……問題は交渉によって極力平和的に解決するか、侵略によって手に入れるかの選択だった。
…………結局デスラーは度重なる検討の末……侵略という手段を選んだ。
理解できたかぎりの地球の情勢――特にここ数年分を鑑みた結果、交渉するに値しないと断定したからである。
あのような文明相手では交渉している間にガミラスが消滅してしまうという焦りもあったのもそれを後押しした。
調査開始から半年も経ったころには冥王星に前線基地の設営が始まり、地球側に悟られることなくすべての準備を終えたのが一年前、都合よく発生した内紛に乗じる形で侵攻を開始することで意表を突き、地球人が古代異星人の技術――相転移エンジンやグラビティブラストやディストーションフィールド――それにボソンジャンプ。たしかに個々にみれば決して悪いものではないが、発掘品に手を加えた程度で自己改良もできていないありさまでは、負けるほうが難しいというものだ。
相転移砲なる超兵器やハッキング戦法は多少鬱陶しかったが、絶対的な力の差を覆せるものではなかった。
――もう、地球に勝ち目はない。あとは凍えて死滅しつつある地球を制圧して解凍し、移民を完了させるだけでガミラス民族の未来は安泰だ。
スターシアたちを置き去りにするのは隣人として心が痛んだが、彼女たちが同行を受け入れないことは想像が付いていた。デスラー個人としては痛ましくとも、国家の代表としては執着するわけにもいかない。
決して楽とは言えない未知の果てに未来を掴んだと思った矢先に現れたのが――あの宇宙戦艦ヤマト。
(記録を見れば見るほどに素晴らしい艦だ……石を齧り泥水を啜ってでも祖国を救おうとする姿の――なんと勇ましく美しいことか……)
ガミラスの未来を摘み取らんとするヤマトの存在は疎ましい。それは揺るがない事実だ。
だが同類と言うべきヤマトを心から憎むことができようはずもない。立場が違えばデスラーがそうしただけだ。
そう思わせるほどにヤマトの戦いは気高く美しい。
大ガミラスの総統としてヤマトに屈することはできないが、もし仮にヤマトがデスラーの見込んだとおりの存在だとしたら、スターシアが見込んだほど人間が操っているのであれば、ガミラスを滅ぼすような真似をするだろうか……。
ガミラスが最後まで地球を諦めないようであれば、ヤマトは躊躇せずガミラスを滅ぼすだろう。スターシアも状況次第ではそのことでヤマトを咎めはしないはずだ。ガミラスの自業自得として。
デスラーは自問自答する。――ヤマトに対し、どのように応じればいいのだろうかと。
デスラーは迷いを抱えてしまった。ヤマトを通して見た地球人類に対しても、はたして自分の選択は正しかったのかと考えてしまうほどに迷っていた。
ガミラスのためにもデスラー個人としても――ヤマトが欲しい。艦だけではない。クルーも含めてすべてが欲しいのだ。
きっと……最高の理解者となれただろう。……ガミラスが侵略者でなければ。
「デスラー総統。ドメル将軍がルビー戦線より戻られました」
「ん……わかった」
使用人の報告を受けて、デスラーは湯船から出る。
その後は従者の手を借りていつもの軍服を身に纏い、マントを翻して歩み始めた。
……その背にへばりつく、迷いを抱えながら。
新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット
第十四話 次元断層の脅威! ヤマト対ドメル艦隊!
ガミラス銀河方面軍司令本部。
そこへ続く道を、濃いモミアゲと割れ顎に筋骨隆々とした体躯の軍人――ドメル将軍を乗せた車が駆け抜けていった。彼こそがデスラーが対ヤマトを任せられる唯一の人間と期待をかける、ガミラス最強の名誉を賜った人材であった。
そのドメル将軍は走行中の車内からガミラス市街の様子を観察していた。表向きは落ち着いて見える。
(まだ市民に大きな混乱は広がっていないようだな……)
ガミラス本星から離れた場所で防衛線構築を担うドメルにも、本星の状況は耳に入ってくる。
(地球から出現したヤマトとかいう戦艦――シュルツの冥王星基地を破ったばかりかデスラー総統の策をふたつも打ち破って見せるとは……侮りがたい艦だ)
最初その報告を聞いたとき、さしものドメルも我が耳を疑った。ドメルは我が目で実際に確かめるまではどんな噂も頭ごなしに否定したりはしないし、相手を侮ったりもしないように心掛けている。そういった些細な慢心が致命的な事態を招くと知っているからだ。
だがどのような手品を弄すれば、技術力でガミラスの後塵を拝している地球がガミラス、それも艦隊規模の戦力を相手取れる戦艦を建造できるというのか。
それにヤマトが打ち破った相手が相手だ。シュルツとは個人的な面識があるが、決して無能ではない。視野も広く状況判断も適切、部下には厳しくも優しいまさに理想の指揮官のひとりと太鼓判を押せる、ひとかどの軍人だ。
それを正面から――超兵器も使わずに打ち破って見せるとは……ガミラスの常識でも考え難い事態だろう。
そこまで考えが及ぶと、ドメルは自分が召喚されたのも当然だと思えるようになった。驕るつもりはないが、自分以外にこんな怪物と相対して平常を保てるような指揮官はいないだろう。いるとしたらデスラー総統だけだと思うが、一国の代表を最前線に送り込むわけにはいかない。
最近国境付近に現れる正体不明の黒色艦隊は気になるが、それに関してはほかでも務まる。目下の脅威はガミラスの移民計画の妨げになるヤマトだ。
思案に暮れるドメルを乗せた車が、銀河方面軍司令本部前に停車する。
ドメルは車を降りると司令本部内に続く長い階段を上り、デスラー総統の待つ執務室へと進んでいった。
「デスラー総統。ドメル、ルビー戦線よりただいま帰投いたしました」
「ご苦労。忙しいところを呼び出してすまなかったね」
敬礼するドメルの労を労い、手振りで楽にするように伝えるデスラーにドメルもわずかに体の力を緩めた。
「今回君を呼んだのはほかでもない、地球の戦艦――ヤマト討伐を任せたいと思ってね」
「その名前はルビー戦線にまで届いております。だいぶ苦労されていると――」
ドメルの言葉にデスラーはふっと笑う。
「そうだ。突然降って湧いた戦艦だが……これがたいそう強くてね。冥王星前線基地を潰されたばかりか、ガミラスの兵器開発局が誇る最新鋭の宇宙機雷も、ベテルギウスを利用した罠も、すべてて乗り越えられてしまったよ。いやはや、敵ながら天晴れとしか言いようがなくてね」
妙に清々しい表情のデスラー。ドメルはこれまでのやり取りで、彼がヤマトと言う艦に並々ならぬ思いを抱いていることを察した。
だからこそ、自身も感じたことを素直に伝えることで応える選択を選んだ。
「記録映像は私も拝見いたしました。素晴らしい艦です。性能もさることながら、乗組員の質も士気も高く、なにより祖国の命運を背負って孤軍奮闘する姿には、気高さすら感じさせられました」
「そうか――やはり君もそう感じたか……」
「やはり、総統も?」
ドメルが問うとデスラーは一度頷いてからしばしの間を置いて、ぽつりと話し出す。
「素晴らしい艦だ。もし……ガミラスに余裕があった状態で相対したならば、彼らを嘲るだけだっただろう。しかし、滅びゆく母星と民族のために必死に抗う姿には共感を覚える。だが、われわれが加害者である以上その力の向く先は――。どれほど個人的な好意を持ったとしても私はガミラスの総統として、ヤマトに屈するわけにはいかないのだよ」
目を伏せて心情を吐露するデスラーの姿に、ドメルは軍人として答えた。
「総統。私も同じ考えです。だからこそ、偉大な祖国の――ガミラスのため、このドメルめがヤマトを打ち破って見せましょう。それが、総統のお望みとあれば」
「君は察しがよくて助かるよ、ドメル。君にはいま一度、ヤマトを見極めて貰いたい。今後のためにもね。五日後、バラン星にある銀河方面前線基地に向かってくれ。君を銀河方面作戦司令長官に任命する。同時にバラン星基地の司令官も兼任してくれたまえ」
デスラーは予め用意していたであろう命令書を差し出した。
精一杯の忠誠心を胸に命令書を受け取ったドメルは、敬礼を送ったあと踵を返してデスラーの執務室を出た。
五日の準備時間はあるが、あまり猶予があるとは言えない。
まだ底が見えていないとは言え、相応のデータは得られている。それを基に考案した対ヤマト用にアイデアがいくつかある。それを形にできるか否か、有用性を含めて兵器開発局に提出して検討してもらう必要がある。
それにヤマトと戦って死んでいった者たちの墓参りもしたいところだ。
いや待て、軍務だけにかまけるわけにはいかない。せめて一日くらいは普段さびしい思いをさせている家族とゆったり過ごす時間を設けられなければ。息子もだいぶ大きくなってきたし、なにより家のことは妻に任せっきりだ。
なにかこう、喜ばれることもしなければ夫として父親として失格だろう。
――さて、どうしたものか。
オクトパス原始星団を突破したヤマトは小ワープを敢行、オクトパス原始の影響圏から完全に離れた場所にあった。
銀河系外縁より推定二〇光年離れ、イスカンダルへの航路誤差右二五度三分、上方一一という地点で、ユリカは待望と言ってもいい報告を受けていた。
「艦長。オクトパス原始星団突破と重なってしまい報告が遅れてしましましたが、エックスの組み上げと初期調整を完了いたしました。最終調整の為に実働テストの許可を頂きたいのですが」
もちろんユリカは大きく頷いた。「私も格納庫で現物見たぁ〜い!」という駄々もこねて。
ユリカの反応は想像していたのだろう、真田も「ええ、是非とも見てやってください!」と乗り気だ。よほど完成したエックスの出来栄えに自身がある様子。これは嫌が応にも期待が高まるというものだ。
……一方その喧騒を横目に見たエリナは無言で通信席のパネルを操作、問答無用でアキトを第一艦橋に呼び出してユリカの世話役を押し付けた。さすがの才女も真田はともかく、自信満々に鼻息も荒くエックスを見せびらかすであろうウリバタケの相手は疲れるのだ。
こういう役目こそ、夫たるアキトが背負うべきだろうと、エリナはさじを投げたのである。
同時刻。新型機のテスト準備していたアキトはエリナからの威圧を含んだ呼び出しで第一艦橋に来るようにと告げられ、なんとなく嫌な予感がするなと赴いてみれば予想どおり、ユリカを格納庫に連れ込む羽目になった。
彼女の体調の悪化は留まることを知らない。最近ではとうとう杖を使っても歩行に苦労するようになり、車椅子を使う機会が激増しているくらいだ。
それでも艦長としての責務を果たそうとしている姿にはアキトも感心させらる。ナデシコ時代とは本当に意気込みが違っている。
――それだけ垣間見た記憶の中の沖田艦長に感銘を受けた、ということなのだろう。
「カッコいい……ダブルエックスよりもスタイリッシュな感じだぁ……」
そのユリカの眼前にあるエックスの姿を見て感激に震えている。まあ気持ちはわかる。
胴体と足首と袖の部分が青、胸周りと顎と隈取、頭頂部のカメラの外周部分が赤、胸部のダクトと頭部のブレードアンテナが光沢のない金に塗られ、全体的にマッシブな印象のダブルエックスに比べるとシンプルでスリムな印象の強い。
襟や肩や腕や足には機体外部に露出したエネルギーコンダクターが装備されていて、エネルギー解放時には青白く発光もする。
背中に装備されたバックパックは薄い四角形で、辺の部分に長方形型のスラスターが装備され四方に噴射することで空間戦闘での運動性能を高め、角の部分には前後方向に回転可能なハードポイントが計四つ装備されいる。これは装備換装による戦術バリエーションを持たせるための設計だからだ。
いまはそのすべてを使ってパーツが装着されている。
上ふたつを使って二本のビームソードホルダーを兼ねた可変スラスターを備えたコネクター装備のカバー。下ふたつはそれぞれ外付けのエネルギーパックが装備されている。これは結局Gファルコンとの合体を諦めることになった結果問題となった出力不足を補うための措置だ。
そのためGファルコン合体相当の出力での戦闘時間には制限がついてしまっているが、余裕があるときは本体からも低速ながらチャージ可能な造りになっている。
このふたつの装備は機体名を象徴する『X』を象っているのは、技術者としての粋な計らいというやつだろうか。
採用された相転移エンジンはダブルエックス以下、Gファルコン以上の中間出力に留めて扱いやすさを優先。加えてアルストロメリアやダブルエックス同様、B級以上のジャンパーによる単独ボソンジャンプ機能も装備しているなど、要点を押さえた設計となっている。
「以前お話ししたようにエックスはもともと装備換装による戦術バリエーションを求めた機体であり、そこからダブルエックスにまで派生していったベースモデルです。ゆえに構造もベーシックにして堅牢、地形適応から武装適応の幅も広く、今後の人型機動兵器のスタンダードを作れるように設計されています。……まだ少々コストが高いのですが」
「ふむ」、とユリカは頷いていた。
たしかにガンダムタイプは基本性能は高いのだが、もともとがイスカンダル製の機体。地球の技術力と生産技術では少々コストが重いというのは、アキトも理解している。
「残念ながらアルストロメリアのオプション製造との兼ね合いもあったので、本来想定していた装備の換装による対応性も実現できませんでしたが、現状のディバイダー装備でも、対空・対艦戦闘まで幅広く対応するだけの性能はあると、保証します」
「そうですか……わかりました。あれこれ求めて形にならないよりはずっとマシです。ご苦労様でした、真田さん」
アキトは真田たちがエックスを汎用機として再設計してサテライトキャノンを捨てるという選択をしたと聞いたとき、少し複雑な気持ちだった。自分のダブルエックスも、願わくばそういった機体であったほうのが気持ちが楽だったと思うからだ。
もちろんサテライトキャノンの威力はヤマトの航海に必要なものだと思う。以前のヤマトには波動砲以外に戦略兵器と呼べる火器はなかったらしいので、それと比較すれば不必要なのかもしれないが、冥王星の戦いに加えてプロキシマ・ケンタウリでの戦いと、サテライトキャノンは役に立っている。
(やっぱりまだ、こいつの力は怖いな)
アキトは己が愛機に目を向ける。バージョンアップで細部のデザインとバランスが少しだけ変わった、大量破壊兵器に。
「……エックスへの搭載こそ見送りましたが、蓄積したデータを基にダブルエックスのツインサテライトキャノンのバージョンアップは行っています。ガミラス機を解析して得た発想と技術を基に、若干ではありますが低燃費化に成功しています。これに相転移エンジンのアップグレードとエネルギーコンダクターを含めたコンデンサー類の強化を合わせることで、従来どおりの出力であれば発射直後であっても自衛程度の戦闘なら十分に行えるだけの余力を残せるようになり、余裕が出た分を注ぎ込むことでより強力な砲撃も可能としています」
量産されなかったと思ったらこの強化だ。表情なく語る真田の心境など言葉にするまでもないだろう。
アキトは再びエックスの姿を仰ぐ。エックスの脇にはトライアングル型のエネルギーチェンバーを備えた連装ビームマシンガンが一挺、大型のシールドユニット――ディバイダーが吊るされている。
どちらも火器としての性能はすこぶる高く、部分的にはGファルコンDXすらも凌駕する戦闘能力を与えるエックスの専用装備。
結局サテライトキャノンの搭載がオミットされ、先の事情からほかの装備への換装も見送られたこともあってか、コックピットのレイアウトはダブルエックスと同じながら右の操縦桿は左と同じデザインの標準モデルになっている。
――つまり、運び込まれるだけは運び込まれた試作の単装型サテライトキャノン完成の目途が立ったとしても、仕様変更には手間がかかる。そういった仕様に、サテライトキャノン量産に対する心境の複雑さが見て取れると思ったのは、アキトだけではないだろう。
「――エックスのスペックについては以上となります。なにかご質問はありますか?」
真田の言葉にユリカは「いえ、大丈夫です。本当にご苦労様でした」と理解と労いの言葉を送っていた。
「ありがとうございます、艦長」
真田は期待を裏切らなかったことが嬉しいのか、満足げに見えた。
するとユリカはしばしの間右手を顎の下に当てがって悩んでから、ぽんと左手のひらを右のこぶしで叩いてから、
「これからはエックスとダブルエックス、それにエアマスターやレオパルドを含めた機体の名前を『ガンダム』って呼びましょう。もちろん、このフェイスデザインを採用していることが絶対条件ってことで」
それはアキトも聞かされた、イスカンダルがかつて開発した最強の機動兵器の雛型――相転移エンジン搭載に加えてボソンジャンプシステムとフラッシュシステムを搭載した、当時はもちろんいまの目で見ても最強クラスの戦闘能力を秘めた、異星の人型機動兵器。
たしかそのデザインは、ダブルエックスやエックスに近しいものであったと聞く。
だからアキトは時折『ガンダムダブルエックス』と心の中で呼んでいたりしたのだが、なるほどそれを正式なものにしようということか。
「……なるほど、イスカンダルで建造された人型ねぇ……。たしかにこいつらは艦長の言うデザインにも近しいし、イスカンダルからの技術提供で形になったようなもんだからな。名前を借りるってのも悪くないか」
いつの間にか隣にやってきていたウリバタケも乗り気だった。
結局そのままトントン拍子に登録情報も書き換えられ、エックスとダブルエックス、そしてまだ形にもなっていないエアマスターとレオパルドも含めた一連の機体は『ガンダム』というペットネームが加えられることとなり、合わせて形式番号なども(開発元であるネルガルに無断で)変更され、『GX-9900-DV』だの、『GX-9901-DX』だのと悪乗りともいえる勢いであった。
(ああ、うん。真田さんはともかくセイヤさんってこういうの好きだもんな)
アキトは気分的に距離を置きながら、盛り上がってしまった真田とウリバタケを生暖かく見守っていた。
「しまった、油に火を注いじゃった」
「……逆だぞ、ユリカ」
エックスディバイダーのテスト結果は良好であった。
リフレクトディフェンサーを仮想標的にビームマシンガンにハモニカ砲、大型ビームソードといった専用装備の威力を存分に見せつけ、Gファルコンと合体できないというハンデを補うに足る出来栄えになっていることを示した。
ディバイダーをハモニカ砲展開状態にしてバックパックカバー中央のコネクターに接続することで完成する『高機動モード』の機動力は抜群であり、やはりGファルコンDXに追従可能な性能を見せつけていた。
これにより、いまだ完成の目途が立っていないエアマスター、レオパルドと共に専属の護衛機としての役割が確定し、強化されたダブルエックスがサテライトキャノンを運用していくうえで欠かすことのできないパートナー機としての地位を揺るがないものとした。
また当機の専属パイロットとして選ばれたのはコスモタイガー隊隊長、スバル・リョーコであった。
技量においてはタカスギ・サブロウタや月臣元一朗も見劣りしない、いや元一朗に関して言えばむしろ勝っているとも評されたのだが、彼らは揃って「隊長という立場にある彼女にこそふさわしい」と立場を譲ったことから確定したのである。
結論から言えば彼らの判断は正しかった。
元来がプロトタイプ・ダブルエックスであるエックスは情報収集能力と処理能力に長けているため、隊長として戦況を把握して指揮を下すには都合がよかったうえ、部下を鼓舞するにもエックスの性能と目立つ外見は思いのほか効果的であった。
並行して開発が進められているエアマスターとレオパルドこそ完成の目途が立っていなかったが、エックスの完成とその能力は過酷な旅を続けるヤマトにとって頼もしい力であった。
その後ヤマトは遅れを取り戻すべく、慎重に検討を重ねた末、ワープの最長記録に挑戦することとなった
今度は約二一〇〇光年のワープへのチャレンジ。
さきほどのワープのデータにより、銀河間にも銀河同士の重力場もワープに小さくない影響することがはっきりとわかったため、想定していたよりも難度の高いワープ。
しかし、遅れを取り戻すためにもワープ距離の延伸は必要だ。オクトパス原子星団でロスした時間は約一ヵ月。一分一秒が貴重な航海においてこの遅れは致命的であろう。
だからこそみな焦っていたのだろう。
ヤマトの後ろには迫りくる滅亡を前に耐えることしかできない地球がある。生き残った人々がいる。
彼らを救うためにこそヤマトは発進したのだという気概、使命感。
それらがこの挑戦を後押ししてしまった。
このワープがヤマトに思わぬ試練をもたらすことになろうとは、だれひとりとして予想していなかった……。
強烈な衝撃がヤマトを襲った。ユリカは艦長席で激しく揺さぶられ、ベルトが腹部に食い込むのを感じた。
ヤマトはいま、長距離ワープを終えてワープアウトした直後であった。いままでのワープアウトでこのような衝撃が襲い掛かってきた経験はない。
つまり、異常事態ということだ。
「なにがあったの!?」
腹部を襲う鈍痛を振り払うように声を張り上げるユリカに、探査システムを全開にしたルリとハリが共同で解析を開始。
眼前の戦闘指揮席では進が身を乗り出して窓から外を覗いていた。
「ん? おかしいぞ……星が、まったく見えない!?」
進が驚愕の叫びを上げた。慌ててユリカも艦橋右後方の窓に目を向ける。
……銀河を飛び出したとはいえ、ほかの銀河や銀河間に漂う星の光がまったく見えないということはあり得ない。にもかかわらず視界には星の明かりがひとつたりとも飛び込んでこない。どころか、視界を遮る星間雲の類も見当たらない。
「島、ワープシステムのログは?」
進が大介に問い質しているが、操舵席でログを確認していた大介は、
「ワープシステムは正常だ。安全装置が稼働した形跡もない――まさか……艦長、ヤマトは次元の境界面付近にワープアウトして、次元断層に落ち込んでしまったのでは?」
言われるまでもなく、その可能性を考えていた。懸念していたことが現実になってしまった。
ユリカはイスカンダルから送られてきた宇宙地図に記載されていた注意事項を思い出す。
銀河系と大マゼランの間にはかつて両者が接近した名残であるマゼラニックストリームと呼ばれる水素気流の流れがある。
その高速で流れるガスの中には次元断層と呼ばれる異次元空洞に通ずる境界面が存在しているのだという。
次元断層の落ち込むことは、きわめて危険なできごとである。
通常の手段では脱出が不可能に近く、次元の開口部を正確に把握し、かつ任意に開く術を持たなければ二度と出られぬ監獄と化してしまう。
さらに致命的なのは、次元が異なる影響で相転移エンジンや波動エンジンの動作効率が極端に悪くなることだ。
動力をそのふたつのエンジンに頼っているヤマトにとっては死活問題。さらにエネルギー吸収性を持つ空間も存在しているので、処置なしでそこに足を踏み入れてしまえば難破船とかして永遠に漂い続ける羽目になる。
まさに宇宙の神秘にして跳びぬけた難所と言えるだろう。
もちろんスターシアはそれを見越した対策を授けてくれた。イスカンダルの協力で改修された相転移エンジンと波動エンジンにはエネルギー吸収性空間への防護策が施されているし、ヤマト最大の必殺兵器である波動砲は、次元の境界面を強引に開くマスターキーの役割を果たすことも教わっている。
波動砲は強烈な空間歪曲作用を及ぼすため、次元の境界面に撃ち込めば強烈に湾曲させ、ワームホールの一種を形成することができる。この理論を基に考案されている最終手段が『波動砲ワープ』であると言えば、どういう現象化は想像しやすいだろう。
改修され波動砲を連射、つまり一発で空にならないいまのヤマトだからこそ脱出手段として期待できるのだ。
それ以外の方法では境界面でワープシステムの起動が挙げられるが、ヤマトのワープエンジンの性能では正直偶発的に落ち込むのが精々で、自力で脱出するには少々性能不足だ。
つまりヤマトがこの空間から抜け出したくば、最低でも波動砲一発分と自力で航行するだけのエネルギーを残した状態で、次元の境界面を探し出すしかないのだ。
ユリカは頬を汗が濡らす感触を覚える。
(まずいな。亜空間ソナーで対処できる範囲の空間ならいいんだけど……)
ヤマト艦首バルバスバウ内部には亜空間ソナーが装備されている。パッシブ・アクティブ双方に対応したイスカンダル製の機器で、こういった事態に遭遇した時の『目と耳』として装備されたものだが、地球の技術力で造られたそれは本来の性能に達してはいないだろう。
「艦長、波動相転移エンジンの反応効率が急激に悪化しています。幸い停止には至っていませんが、大量にエネルギーを消費すると、エンジンが停止してしまう危険性があります」
コンソールを睨んでいたラピスの報告に少しだけ安心。どうやら防護策は機能しているらしい。
「ここが次元断層だとしたら、僕たちの技術だと脱出に波動砲が必要になる……撃てそうかい?」
「発射は可能です。ただ、この空間内でエンジンが停止してしまうと再始動できないおそれがあります。エネルギー発生量も二割まで減少していますし、不要なエネルギーは極力カットして備蓄に回したほうが賢明だと思います」
「わかりました。艦内の不要な電源を極力カット。少しでも予備電力を蓄えてください。脱出のためには波動砲とワープ、それぞれ一回分のエネルギーが不可欠です。ラピスちゃんはエンジンが停止しないように機関班を総動員して。ルリちゃんとハーリー君はイネスさんの協力も仰いで、この空間を全力で解析――」
そこまで指示したところでユリカは気づいた。何時も――イスカンダル製の薬で抑え込んだ状態でも頭の片隅に引っかかるようなあの感覚が、消え失せている。
「……私、演算ユニットとのリンクが切れている……」
「ということは、この空間は演算ユニットが観測できない――ボソンジャンプできない空間ってこと?」
エリナが尋ねると、ユリカはゆっくりと頷いた。
「そうだと思う。これ、私にとってもヤバいかも……演算ユニットとのリンクが切れちゃったら、リンクを確立しようとしてナノマシンが活性化しちゃうかも――エリナ、イネスさんにすぐに連絡とって。ジュン君は私の代わりに艦の指揮をお願い。私、しばらく医務室で様子を見て貰って来るから」
ジュンはすぐに「わかった、任せて」と頷いた。エリナも医務室のイネスに連絡を取ったあと、艦橋に常駐するようになった車椅子を広げてくれた。
「じゃあ、あとは任せたね」
そう言い残し、ユリカはエリナに運ばれて医務室へと移動した。
「……何事もなければいいのだけれど」
一度は失ったと思っていた大切な『家族』。彼女の苦しみはルリの苦しみ。
早くなんとかしなければ。貴重な時間を浪費するつもりはない。一分一秒でも早く脱出の目を見つけて、ヤマトをイスカンダルへ――!
「ハーリー君、ECIに行きます。この空間の解析作業を第二艦橋で手伝ってください」
ルリはオペレーターとして最も信頼しているハリにそう頼むと、座席のスイッチを押して第三艦橋へ移動する。
すぐにでも電算室をフル稼働させて、この空間の情報を集めて脱出の手段を探さなければ!
ECIに到着するなり探査システムを稼働。ヤマトのセンサーをフル稼働した瞬間、レーダーに反応があった。
これは――ガミラス艦だ!
ルリの報告を受け、進は即断した。
「副長、この状況で戦闘はリスクが高過ぎます。逃げましょう」
「……そうだね。ここは全力で逃げよう!」
ジュンは進の進言に応じてくれた。ならば話は早い、一目散に逃げだすのみ!
「島!」
「了解! 両舷全速! 取り舵二〇!」
大介はすぐにガミラス艦の真逆の方向へヤマトを走らせる。進は念のため艦尾ミサイル発射管に通常弾頭を装填、ガミラス艦が追撃してきた場合の迎撃に備えた。
……しかしガミラス艦はヤマトを追撃してこない。
この場合は助かったと捉えるべきだろう。
(しかしあの艦はどうしてこの空間にいたんだ?……これ以上悪いことが起きなければいいんだが)
悪寒が背中を駆ける。
もしも、もしもだ。あのガミラス艦がヤマトのように事故で落ち込んだのではなく自分から入ってきたのだとしたら……。
ここで、一戦交えることになるかもしれない。
デスラーに任命され銀河方面作戦司令長官の地位に就いたドメルは、すぐにバラン星基地に赴任していた。
自身の乗艦であるドメラーズ三世がバラン星基地の発着場に着陸、その周囲のスペースに部下たちの艦と試作の無人艦数十隻も着陸する。
艦降りたドメルの眼前に口髭を生やした男――この基地の先任司令官だったゲールが待ち構えていた。
案内されて足を踏み入れた司令室の調度品に軽くめまいを覚える。「下品」の一言で説明の済みそうな、ドメルの趣味にはまったく合わない、正直に言って反吐が出そうな内装だった。
が、ドメルは嫌悪感を飲み込んで極力事務的に、かつ横柄にならないように心掛けて接するよう心掛けた。
「よろしく頼むぞ、ゲール。早速だが、二日後に艦隊の半分を引き連れ、今後の移民船団護衛訓練の為第六区異次元演習場にて演習を行う。君は別の艦隊を率いて、あのヤマトに対しての作戦行動を実施して貰いたい」
いまは協調を乱してはならない。感性が合わぬ人間であろうとも問題なく付き合い、足元を掬われるような事態を極力避けなければ、ヤマトには勝てない。
あの艦は、正真正銘祖国の命運を背負った地球艦隊そのものだ。たった一艦と侮ることはできない。
不確定要素をひとつでも多く潰さなければ、足元をすくわれて取り逃がすことになる。ドメルの感がそう告げていた。
幸いなのは、ゲールという男は重要拠点であるバラン星の基地を任されているだけあり、総統への忠誠心に厚く、少々詰めが甘いことを除けば軍人としても優秀な部類に入ることだろう。
資料を読んだ限り、戦略の方針がドメルと合致するとは言い難いようだが、副官として置いておけば役に立ちそうな予感はする。むやみに敵対することはないだろう。
一方でゲールは、突如として湧いた自分の後釜に対して敵意を抱いていた。
しかしガミラス軍人としてデスラー総統の意向に逆らうわけにはいかない。不満を押し殺して新たな上官となったドメルに渋々ながら従うことを選んだ。
最初にドメルから依頼されたのは、彼の考案した罠を張りヤマトを待ちかまえることだった。
最初は意図が読めなかったが、資料と口頭説明でその意図を聞かされれば唸るしかない。さすがはガミラス最強とも称される宇宙の狼。
上手くいけば、軍内部でも噂になっているあのヤマトを屠ることができるし、失敗してもこのバラン星から目を逸らすことができるのなら、ガミラスにとって損はない。
「ヤマトはタキオン波動収束砲を装備しているだけでなく、純粋な戦闘艦としての能力もクルーの質も極めて高い。正面から戦いを挑めば、物量で圧倒しても甚大な被害を出しかねん。だからこそ、ヤマトの意表を突く必要があるのだ」
ドメルが仕掛けた罠は、常識ではなかなか考えられないことだった。まさか自然現象すら利用するとは、そうそうお目にかかれない作戦だろう。
その後のおまけも、目的を達すればよいとするなら悪くない。
「お任せくださいドメル司令。このゲールめが、司令の作戦を一切の遅滞なく実施し、必ずやヤマトを討ち取ってご覧にいれましょう!」
上手くすればあの強敵を直接討ち取れる誉れに与れる。
それに与れなくても、国家の危機を救う作戦に従事するのになんの不満があろうか。すべては偉大なるガミラスの為、デスラー総統の為だ。
幸いドメルは鼻持ちならない相手ではない、ここはぐっと堪えて忠実な副官として振舞うべきだろう。
ドメルは作戦を快諾して出撃すると彼を鼓舞しながら、なんとか協調姿勢を維持できそうだと心の中で嘆息した。
そして現在、ドメルは艦隊を率いて異次元空洞内で大演習を行うべく、いままさに空洞内に侵入したばかりだった。
そこに部下から思わぬ報告が飛び込む。
「なに? ヤマトがこの空洞内に侵入しているだと?」
これは、悠長に演習をしているわけにはいかなくなった。
(自ら望んで入ってきたとは考えにくい。おそらくはワープアウト地点と次元の境界面が偶然重なった事故だろうが、これは、またとない好機やもしれないな……)
ドメルは頭の中で様々な策を練る。これは、どう転んでもガミラスにとっては益があるかもしれない。
ならば話は早い。さっそく部隊を派遣してヤマトの捜索を敢行すべきだ。
ドメルは唇に薄く笑みを浮かべた。
「――駄目……次元の境界面を発見できない。それどころか空間の端すら見えてこないなんて……」
ルリはあの手この手でこの空間内をスキャンしようとセンサーの感度やレーダーの波長も変えているのだが、一向に成果が上がらない。
頼みの亜空間ソナーをアクティブモードで起動しても、次元の境界面を発見できない。おそらくソナーの範囲外にあるのだろう。
逃走のため大きく移動してしまったとはいえ、ヤマトがこの空洞に落ち込んだ地点からそんなに離れていないはずなのに。
ワープの事故で落ち込んだからか、元の次元に近しい境界面とは離れた場所に出現してしまったのかもしれないと思うと、手掛かりがなさ過ぎて心が折れてしまいそうだった。
「思ったよりも広いのかもしれないですね。それに天体のような物体も発見できませんし、もしかすると――ここは次元が違うせいで物質の構成が僕達の次元とは根本的に違うのかもしれません。それで、ヤマトの探知システムには反応しないのかも」
ここまで入念に探査しても結果が変わらないのだから、ハリの指摘には頷くしかないだろう。
「……少し休憩しましょう。そろそろ四時間になりますし、一息入れたらなにか閃くかもしれません」
ルリは交代で全員に四〇分間の休憩を取ることを命じた。
指示を受けた部下たちは背筋を伸ばしたり腕を回したり、食堂にお茶を飲みに行ったりと、思い思いの手段で頭を休めようとする。
部下たちに先に休むように懇願されたルリも同様で、食堂でなにか甘いものでも飲もうかと思ったのだが、それより先にユリカの様子を見たくなり医務室に向かうことにした。 なにも聞こえてこないので心配はないのだろうが、心配は心配。顔を見て安心したかった。
そんな思いで医務室に顔を出してみると、部屋唯一のベッドの上でユリカが眠りこけていた。腕に点滴針が刺さっているが、ラベルから察するに栄養剤の類だと推測できる。
……どうやら大事には至っていない様子。安心した。
「あらルリちゃん。艦長が心配だったのかしら?」
「まあ、そんなところです」
ルリの姿に気付いたイネスに話しかけられると、ルリは気恥ずかしそうに頷いた。
「なら安心して。今のところは問題ないわ。ただ、あまり長いことこの空間に留まるとどうなるかわからないから、できるだけ早く脱出したいわね」
イネスの言葉にルリは顔がこわばるのを自覚した。
たしかにそのとおりだ。早く脱出しなければ彼女にも地球にも未来が――そうだ、この人になら相談しても大丈夫だろう。口は堅いだろうしなにより彼女の頭脳は当てになる。むしろこういうときこそ頼るべき人物だろう。
「その、イネスさん――解析作業に行き詰ってしまっていて、すこし相談に乗っていただけませんか?」
思い切って調査結果をイネスに打ち明け、ついでに愚痴も聞いて貰った。
造られて与えられた力とは言え、ルリにとって他の追従を許さないオペレート能力はプライドのひとつと言っても過言ではない。
だが実際はどうだ、ガミラスが進行を開始して以降の自分は敵に通用していない。火星の後継者を破ったハッキング戦法は通用せず、そうそうに鼻っ柱を折られただけで終わっている。
指揮官として無能だとは思わないが、いままで自分の指揮下で死んでいった兵たちのことを思えば、自分の力を誇れるはずもない。
加えて改めて見せつけられたユリカの人徳と言うか統率力――差は歴然だった。
それに――アイドルとして乗組員を鼓舞して士気を維持しようと奮戦するユリカの真似すら、できる気がしない。恥ずかしいとか以前に、最近ではかなり解消されたと思っているが、やはり人付き合いは根本的に苦手であることが尾を引いている。
あのカイパーベルトやオクトパス原始星団での停滞の時、ルリも自分なりに部下や周りのクルーを鼓舞して盛り上げようと頑張ってみたのだが、どうにもいい言葉が出てこなくて当たり障りのない言葉ばかりが口を吐いた。
対してユリカは体当たり的な手段ではあったが、いずれの場合も一時的とはいえクルーの焦りを和らげ、士気を取り戻させていた。……あれはルリが真似できるものではない。
それだけに、ユリカが倒れた時は士気の低下が著しかった。最初のワープでダウンしたときは影響が少なかったはずなのに、いつの間にか彼女はヤマトの精神的支柱として欠かせなくなってしまっている。
彼女がちょっと元気な姿を見せてやるだけで、アキトとクルーの前でイチャイチャするだけで、クルーは安心して職務に打ち込んでいるのをルリも知っていた。
……自分ではきっと、ああはいかない。
自分の容姿を理由に周りが騒いでいることも、それが人気を得ていることも把握しているが――それだけではヤマトの士気を保てない。この艦はそんな人気だけで支えられるほど小さな艦ではなかった。
ルリは、何としてもユリカの命が尽きる前にイスカンダルに彼女を運ばなければならない。そのために全力を尽くしているのに、現実は厳しく空回りしている気分になっていた。
そんなことまでついついイネスに話してしまった。
ユリカが爆睡していてよかった。とても彼女には聞かせられない、要らぬ心配をかけてしまう。
ルリの心情を聞かされたイネスは少し間をおいてからこう答えた。
「――気持ちはわかるわ。私も医療従事者として、そして科学者として、彼女を救いたい気持ちはあるもの。でも、私の力だけでは彼女は救えない。イスカンダルに縋りたいのは――私も同じよ」
こう言うしかなかった。イネスは『すべてを知っている』。が、それを口にすることは――いまはできない。
この航海の果てになにが待つのかも、ユリカが助かる可能性がどの程度あるのかも、おおよそ把握している立場にある。
『すべてユリカから聞かされたことだ』
エリナも地球に残ったアカツキも、アカツキからすべて聞かされたアキトも知っている秘密。
いまなお隠されているこの情報ゆえに、ユリカは当初ルリたち『家族』の乗艦を拒否していたくらいだ。
それらすべての事情を知るがゆえに、イネスはルリとは違った意味で奇跡にすがりたい気持ちでいっぱいだった。
しかしそれを口にするわけにはいかない。
うっかり秘密を喋ってしまうかもしれないし、カウンセラーも兼ねている自分が気落ちした姿を見せるわけにもいかない。
だからルリには申し訳なく思うが、ここは目先の問題に対して自分なりの意見を述べて誤魔化してしまおう。
「ルリちゃんはいままでこの空間そのもの解析に拘ってたみたいだけど、ヤマトみたいにこの空間に落ち込んだ通常空間の物体は探してみたの?」
イネスの問いに、ルリは静かに首を振った。
「いえ、この空間の解析が先だと思って――いまのセンサー感度だと、宇宙船サイズの物体は反応しないので時間の無駄になるかと……」
なるほど、結果を求めるあまり視野狭窄に陥っていたのか。
たしかにヤマトのセンサーでも、数天文単位も離れてしまったら宇宙船程度の物体を補足することは困難だろう。
しかし最初から諦めていては結果は掴めない。
「だとしても、いまはそれをやってみたらいいんじゃないかしら。もしかしたらだけど、次元の境界面の近くなら、いまのヤマトみたいに不意に落ち込んだ通常空間の物体が密集してアステロイド帯みたいになっているかもしれない。そうしたら、そこで波動砲を使えば万事解決にもなるのだから――」
柔和に微笑みながら諭すイネスにルリは礼もそこそこに医務室から飛び出していった。
ヒントを得られて気持ちが逸ってしまったのだろうが、はたして彼女の身体能力で――。
ドアが閉まる直前、なにやらすっころんだような音と悲鳴が聞こえた気がした。そんなルリの様子にくすりと笑ってしまう。
「やれやれ、あの子も結構溜まってるわね――その元凶として、言いたいことあるかしら?」
イネスはそうユリカに振ってみる。当然反応はない。
それはそうだ。ユリカを休ませるために投薬してまで眠らせたのは、ほかならぬイネス自身なのだから。
「ま、眠ってなかったらあんな話はさせなかったけど。われながらいい判断だったみたい」
席から立ち上がってベッドで眠るユリカの顔を覗き込む。
穏やかな寝顔を浮かべているが、はたしてこの空間を脱出したあと無事でいられるかどうか……。リンクが再確立した際、浸食が進む可能性は捨てきれない。
「――イスカンダルまでは必ず持たせてみせるから、信用して頂戴ね」
自分に言い聞かせるように宣言する。
彼女が助かるには、なにがなんでもイスカンダルに辿り着かねばならない。
単にイスカンダルに連れて行くだけなら冷凍睡眠という手段もあるが、諸々の事情からそれはできなかった。
そんなことをしてしまえばユリカはまず助からない。浸食自体は抑えられても、肝心要の回復手段を取ることが難しくなってしまう。
それに……ヤマトには彼女が必要だった。ヤマトを理解し、勝手のわからぬクルーにその道を示すためにも。
だから彼女は艦長として乗り込んだのだ。みなを導くために。
ユリカが士気を高めるべく奮闘しているのは知っているし、そうでもしないと過酷極まるこの航海でクルーの士気をここまで保てなかっただろうことも理解している。実際たいした効果だったと感心させられっぱなしだ。
……しかしそろそろ、限界だろう。
正直いまからでも冷凍睡眠という手段を考えるべきなのかもしれないが、いま彼女を失えばヤマトは――。
「あとは後継者――古代君次第になってくるのね……」
不安はある。だがユリカから聞かされた『別世界』の彼のことを思えば、案外なんとかなるのかもしれないと、イネスは思った。
休憩を終えたルリたちは、イネスの助言を受けてすぐにヤマトと同じくこの空間に引き込まれたであろう通常空間の物体の捜索を開始する。
貴重な探査プローブも使いきり、目を皿のようにして捜索した結果、ヤマトを中心に三方向にそれらしい反応を発見することに成功した。
ヤマトの現在の進行方向から見て一時と五時と七時の方角。各々の反応地点をから推測するに、この空間は太陽系がすっぽりと収まってしまうほど広大であることが窺え、ワープを使えない現状では、それらの地点に移動するだけでも多大な時間を使ってしまう。
伸長に検討を重ねた結果、ヤマトの現在地から最も近い七時方向の反応地点を探査することに決定した。
到達までは最大戦速でも二三時間。ほかの地点はそれぞれ三〇時間に四八時間もかかるほど離れている。もしもなにも得られず梯子することになったら、ヤマトはこの空間内でどれほどの時間をロスすることになるか検討もつかない。
もう賭けるしかなかった。七時の反応地点に一縷の望みを託して、ヤマトは次元断層をさまよい始めるのであった。
そして――
「目標座標に到達。前方に多数の障害物を検知、反応からすると――これは宇宙船の残骸だと思われます」
計器を確認しながらハリがそう報告すると、真田がピクリと瞼を動かすのが見えた。
「艦長、調査と並行してこの残骸の回収許可を頂けないでしょうか? 宇宙船の残骸ともなれば、ヤマトにとって有用な資源になります」
「許可します。ヤマトの倉庫事情も厳しいですし、この機会に積めるだけ積み込みましょう」
ユリカは即決した。この次元断層からの脱出が急務ではあるが、貴重な補給の機会を見す見す棒に振ることはできない。ヤマトの航海はここを出てからが本番なのだ。
それに上手くいけば、回収した残骸からこの空間に関する情報を得られる可能性もある。
「? 艦長、一〇時の方向に微弱ですが動力反応があります」
ルリの報告に第一艦橋に緊張が走る。もしかしたら、まだ生きているガミラス艦かもしれない。
「――慎重に接近して。いまは危険を冒してでも、情報を得ることを優先しましょう。残骸の回収作業は効率を重視して反重力感応基を使ってください」
「艦長、解析データによると、改良を加えた小型相転移エンジンであれば、ヤマトからエネルギー供給すること始動は可能ですが、エネルギー生成効率が悪過ぎて重力波ビームを含めても……アルストロメリアは満足に戦えるほどのエネルギーを得られません。ガンダムも厳しいでしょう。――しかし、少々問題もありますが、機動兵器の活用法についてアイデアがあります」
真田の進言を聞いたユリカとジュン、それに進とゴートもそのアイデアを採用することにした。
少々リスクのある活用法だが、満足に運用できない機動兵器を少しでも活かすには、それ以外に方法がないのも事実だった。
改めて様々な制約を課せられた状態であることを突き付けられはしたが、気を取り直して調査活動を開始する。
反重力感応基を射出して周辺の残骸に打ち込み、艦体に装着する様に引き寄せる。引き寄せた残骸はすぐに搬入口から回収して収納しやすい様に加工し、次々と倉庫に叩き込まれていく。
さらにこの空洞内ではまともに運用できないであろう信濃は、上下反転のうえで格納庫に係留する作業が行われた。
こうすれば発進口を開放するだけで信濃の波動エネルギー弾道弾を遠隔操作で使用することができる。絶大な火力を誇る波動エネルギー弾道弾を死蔵してしまうよりは、幾分マシな判断だった。
ヤマトは反重力感応基で残骸を回収しながら動力反応を微速前進で追い続け、やがて中央が円形で前後に足のような構造物が伸びた、ボロボロの宇宙船を発見した。
「あれか……」
異様な風体の宇宙船にジュンがゴクリと唾を飲む。
本当にいかにもな難破船といったあれ具合に、わずかながら恐怖を覚える。
「外部からだけではよくわからんな……。艦長、危険を伴いますが調査隊を編成して内部から調べる必要があると思います」
真田の進言に難しい顔で悩んだあと、ユリカは頷く。危険を恐れるばかりではこの状況を打開できないと判断してのことだ。
すぐに幽霊船(仮称)調査のため、古代進・森雪・ウリバタケ・セイヤ・ゴート・ホーリー・月臣元一朗・高杉サブロウタの六名が選抜され、艦首両舷の格納庫に収納された多目的輸送機「Gキャリアー」で幽霊船に向かわせた。
この機体はGファルコンのAパーツとBパーツのウイングパーツのみを流用し、下部のスラスターとミサイルポッドを構成するパーツの代わりに多目的コンテナを据え付けた輸送特化のバリエーション機である。
拡散グラビティブラストも撤去され、ティルトウイングタイプのスラスターに換装され、全長が一七メートルと倍以上に大型化する要因となった巨大なカーゴユニットが外見上の特徴であり、Aパーツに残されているビームマシンガン以外の武装を失っているので戦闘は苦手ながら、十数名もの人員を一度に輸送可能な新生ヤマトの新しい輸送機であった。
Gキャリアーは相転移エンジンの不調もなんのその。急遽用意された燃料式スラスターをティルトウイングに強引に取り付け、通常時よりも低速だが順調に異次元空間を飛行する。
Gキャリアーはゆっくりと幽霊船の周囲を旋回しながら侵入口を探し出し、静かに接舷、固定用のワイヤーを胴体部分から撃ち込んで漂流しないように機体を固定した。
減圧室に移動した進たちは、減圧完了後ハッチを解放して機外へ。慎重にスラスターを吹かして発見したエアロック接近、技術担当のウリバタケと雪が協力して周囲を探り、エアロックの開放手段を探し出す。
動力反応があるから当然であるが、雪が生きている電源を使ってコンソールを起動してエアロックを開放、進たちはすんなりと幽霊船の中に足を踏み入れることができた。
「流石だな、雪」
「もっと頼ってくれてもいいのよ、古代君」
船内に侵入した六人は、すぐに調査準備を始める。解析はウリバタケと雪の仕事、ほかの四人は警戒を担当していた。
もしかしたら侵入者用の攻撃システムが生き残っているかもしれない。油断だけはできなかった。
今回は前衛担当の進と月臣が取り回し優先でコスモガンを構え、支援担当のゴートとサブロウタがレーザーアサルトライフルを装備していた。
道中、生き残っていた自動砲台の砲火を退けながら二つ目になるドアを開放した瞬間、突如として怪物に襲われた。
グロテスクな姿をした怪物の鋭い爪を避けつつ死に物狂いで返り討ちにした一行は、予想外のアクシデントに神経をすり減らしながらも幽霊船のメインコンピューター室に足を踏み入れる。
「――なんだったんでしょうね、あの怪物は」
戦闘であったがゆえに真っ先に怪物との遭遇を経験した進が、同じように怪物と至近距離で相対した月臣に話を振る。
「わからん。だがあの怪物には人為的な手が加えられている様にも感じた。ここはどうやら思った以上に危険な場所らしいぞ」
月臣の感想に嫌な予感が一行の頭を過る。コスモガンやレーザーアサルトライフルをしこたま撃ち込んでようやく倒すこととができた怪物の耐久力……人為的に生み出された『兵器』の可能性すら伺えた。
それに形勢不利と見るなり天井のダクトを使って一時撤退し、次の部屋に移動すべくドアを潜ろうとした瞬間背後に降り立って鋭い爪を振るう、戦闘力が最も低い雪を積極的に狙いに来るなど、頭もよかった。
はたして野生動物がここまで戦術的に行動できるものなのだろうか……。
不穏な空気に飲まれかけながらも、雪とウリバタケは協力して辛うじて生きている幽霊船のコンピューターからデータを吸い出していた。
異星人の宇宙船なのでデータの方式も違って手こずると思われたが、思いのほか呆気なくデータの吸出しが終わってしまった。
想像よりはるかに速く作業が終わったことに驚きながらも進は歓声を上げる。
「凄いな雪。いつの間にそんな技術を――」
「……!! すぐにヤマトに戻らないと! 大変なことがわかったわ!」
「雪ちゃんの言うとおりだ! すぐに戻って対策しないとヤバイ!」
ふたりの剣幕に困惑する進たちだったが、余計な詮索はせずヤマトへ帰艦すべく、来た道を素早く戻る。
道中で雪はこわばった口調で進にある事実を口にした。
「古代君、この船はね――」
「ガミラスの標的艦!?」
調査メンバーのもたらした報告にジュンが大声を上げた。
「はい。あの艦のコンピューターは間違いなくガミラスの物でした。データの吸出しがすぐに終わったのも、ルリさんがガミラスの解析を進めていたからです」
雪の報告は恐るべきものだった。
ガミラスはこの次元断層の存在を認知しているだけでなく、この空間内で大規模な艦隊演習を何度も行っているらしい。
あの幽霊船と思われていた宇宙船は、ガミラスの試作大型宇宙空母だった。しかし想定された性能を発揮できず廃棄が決定され、この空洞に運び込まれて標的艦とされていたのである。
となれば、この空洞に落ち込んだ直後に接触したガミラス艦はこの空洞内を哨戒しているパトロール艦の可能性が高い。
つまり、常駐して哨戒しているとも、近々この空洞内で演習の予定があって事前に調査しているとも取れる。
……いまヤマトが居る場所は、標的艦の密集した場所。
近々演習があるにせよ、ないにせよ、ヤマトがこの空洞に落ち込んだことが敵の指揮官に知れていることは間違いない。
「あの艦艇は自力航行でこの空間に入って来たとみられます。航路データが残っていましたので、これを遡れば次元の境界面があると思われる空間座標に到達できると判断します」
雪の報告を聞くなりユリカはすぐに発進命令を出した。
もはや一刻の猶予もない。
すぐにでもその境界面の座標に向かって脱出を図るか、さもなくば一目散にこの場を離れて安全の確保をしなければ、ヤマトは大艦隊と鉢合わせてしまう!
――艦内に非常警報が鳴り響く。
…………遅かったか。
「艦長! ガミラスの大艦隊が接近中! 数は推定四〇〇!」