ヤマトが救助活動のため移動を開始した直後、ドメル率いる対ヤマト決戦艦隊がバラン星に緊急ワープで帰艦した。
「これほどとは……!」
目を覆う惨状にさしものドメルも悔し気に唇を歪める。
敵航空部隊が出現した瞬間の観測データから、それが瞬間物質移送器によるものだとすぐに判明した。
それだけに自身が考案した瞬間物質移送器の威力をまざまざと見せつけられる形となり、自身の発想が正しかったことを証明すると同時に敵に回したときの恐ろしさを嫌というほど突き付けられる形になってしまった。
「ドメル司令、あの瞬間物質移送器の対抗策は考案されていないのですか?」
戦闘空母の艦長であるハイデルンが問いかけてくるが、ドメルは首を横に振るしかない。
「対抗策は完成していない。理論上は意図的な空間歪曲でワープ後方を強制中断させることやワープインを阻害することは可能だ。だがそのために必要な空間歪曲場の生成の研究は、まだ途上だ。ワープそのものの阻止は現状不可能と考えていい。出現を予期して対応するにしても、ワープの空間歪曲反応や重力振を検出する従来の方法では出現するそのときまでどこから来るのかはわからない。加えてワープ航路の逆探知もワープアウトの方向の調整次第で防げてしまう。……強いて欠点を上げるなら、片道一方通行ゆえ、敵を殲滅できなければ帰ることができないという程度。それも、俺が考えていたように波状攻撃を加え、退却中の部隊への追撃を許さず、ローテーションを組んで相手が倒れるまで攻撃を浴びせ続ける。もしくは最初から撤退が不要な爆弾や機雷の類を送り込んで相手の行動を制限するなど、運用次第ではいくらでもカバーできてしまうものだ。ワープそのものを阻害できない限り、あの兵器の優位性は揺るがない」
ドメルはゲールから送られてきた敵航空部隊の動きから、自身が対ヤマト用に考案していた戦術とほぼ同じ行動をしていることを見抜いていた。
「見ろ。あの黒色艦隊所属の航空隊も波状攻撃を続けることで弾薬を使い切った機体の撤退を助けている。ヤマトの航空隊も攻撃を防ぐのに手一杯で撤退中の部隊を攻撃できてはいない。彼らも防空を優先しているがゆえに、追撃よりも迎撃を優先せざるをえないのだ……。このままでは相手の弾薬が底を尽きるまで、一方的に蹂躙され続け、われわれは壊滅してしまう」
元々試作兵器だったのだ。十分に研究してカウンター手段を含めた装備・戦術を構築するには圧倒的に時間が足りなかった。
だが、運用側ですらカウンターが難しいという性質だからこそ、ヤマトに対しても有用である――というよりはそうでもしなければ少数先鋭の戦力であの強敵を葬り去ることができないと考えたからこそ、引っ張り出してきたのだ。
それが第三勢力の手に渡ってしまうなど、予想できなかった。それが悔しい。
「ドメル司令! ヤマトが逃げ遅れた民間人の救助活動をすると言っていますが……」
ゲールがドメルに助け舟を求めてきた。判断に困ったのだろう。彼の表情を見れば理解できる。
だが無理もない。ヤマトはガミラスにとって最も脅威とみなされている存在なのだ。それがよりにもよって救援にやってくるなど、だれが想像できようか。
「……要請に応じろ。誘導に向かった兵たちにも連絡して、ヤマトに乗れと伝えるのだ。いいか、内部から制圧しようとは考えさせるな。この戦い、地球を救うだけならヤマトにとっては無益でしかない。にも拘らず自ら進んで参戦し、このような振る舞いをしてくれるということは――」
「まさか!? ヤマトはガミラスとの講和を求めているとでも言うのですか!?」
ドメルの言わんとすることを察して驚きの声を上げるゲール。だが、そうとでも考えなければヤマトの行動は説明がつかないことは、彼も気付いている様子だった。
タキオン波動収束砲を封じていることも、それを裏付けるいると判断して相違ないだろう。
「その可能性は高い。ともかくいまはヤマトを味方として扱う。向こうの言い分どおり、一時休戦して共通の敵を排除する」
ドメルの命令にゲールも「りょ、了解しました!」と応じてすぐに部下に指示を出していく。
さて、ヤマトを味方に付けたことで事態が好転すればいいのだが。
「……気に入らねえが、あそこの連中を救うためだ。いまだけは見逃してやるぜ、ヤマト」
愛機のコックピットで待機していたバーガーも不満不平を露にしながらも、軍人としての責務を果たすためといまだけはと抑え込む。
これが終わったら、決着をつけてやる。
この程度の行動でガミラスがヤマトの要求に応じるとは考えていない。たかが戦艦一隻に屈するなど、真っ当な国家ならまずありえないことだ。
バーガーはそう考えながら愛機をカタパルトに接続させ、猛烈な加速と共に母艦を離れて敵艦隊に向かっていく。
基地の防空は第一空母が搭載しているDMF-3高速戦闘機に任せて、バーガーはクロイツが指揮するDMT-97雷撃機の部隊と協力して駐屯艦隊と交戦中の黒色艦隊に対して攻撃を仕掛かけて撃滅する。
ガミラスの未来のために、この基地を落とさせるわけにはいかない!
帰還したドメル艦隊と艦隊に所属する航空部隊は、結局シェルターに入れず、民間船も使って基地の外に避難しなければならなくなった民間人を護るべく防御陣形を敷き、ヤマトと入れ替わりになる形で基地の盾となって戦闘を開始した。
「ロケットアンカー射出!」
進の指示で第一五区画に最も近いドックに侵入したヤマトは、座礁している艦船をロケットアンカーで引き摺り出そうと悪戦苦闘していた。
真田の思惑どおり、ロケットアンカーで引きずり出すことはできそうなのだが、破損して脆くなった艦船をそのまま引きずり出すことは難しく、左右のチェーンの長さやらヤマトの姿勢を幾度も微調整する。
「よし……! 引き出せそうだ……!」
大介は苦難の末、座礁船を引き出すことに成功した。
引き出した民間船は乗員の反応がないことを確かめてからドックの外へと放り出す。
空いたスペースにヤマトを滑り込ませるべく、リバーススラスターで逆進しながら慎重に連絡橋の位置に右舷後方の搭乗口を合わせる必要がある。
ルリがシステムをハッキングして連絡橋を伸ばしはしたが、艦の移動と固定は自力で行わなければならない。
艦体を固定するためのガントリーロックが機能していないのだ。しかたなくロケットアンカーを左右の壁面に撃ち込み、続けて姿勢制御スラスターとアンカーの巻き取りでヤマトの位置を十数センチ単位で微調整し、連絡橋とのずれがないことを確認してから完全に艦体を固定させた。
「よし! ここからは俺たちの仕事だ!」
「艦長代理、医療科も準備完了です!」
艦内管理席から立ち上がった真田と、受け入れ態勢を超特急で完了した雪の声を聴くと、進はすぐに救助活動の開始を指示した。
規格が異なる連絡橋のエアロックに接続するため、工作班は破損部を一時的に覆うための保護カバーを持ち出してエアロックと乗員ハッチの周囲に覆い、気密を確保。
強度が十分であることを確認するとすぐさまルリに連絡、合図を受けたルリがシステムを操作してエアロックを解放、ヤマトとの接続が完了した。
苦労の末繋がった連絡橋の中を、工作機械を担いだ工作班、護衛兼労働力の戦闘班にファーストエイドキットや担架を持った医療科、そして建材撤去要員の小バッタの軍団が道を阻む瓦礫や炎を退けつつ、一斉に駆けて行く。
全員がルリとイネスが手掛けた翻訳機を身に着けることは忘れない。威力のほどは未知数だが、言葉が通じないのでは案内もできないのだ。
「そこの通路を右です」
システムに侵入しているルリからのナビゲートを頼りに、ひたすら施設内を突き進んでいく。
そうやっていくつもの分岐を超え、爆発の衝撃で施設が揺れるたびに恐怖しながら進んだ先に、民間人の大群とそれを導いていた兵士たちの姿が見えた。
――小さな子供もいるようだ。急がなくては。
兵士の何人かが驚いてこちらに銃を向けるが「ドメル司令からの命令を忘れたのか!?」とほかの兵士が制止している。
翻訳機もちゃんと機能しているようで言葉が通じる。これなら誘導できるだろう。
「われわれは地球の宇宙戦艦ヤマトのクルーです! ここは危険です! 早くヤマトの中に避難してください!」
地球の戦艦と聞いてはっきりと民間人の顔に恐怖が浮かぶ。
さすがに自分たちが戦争している国の名前くらいは知っているようだ。報復を恐れているのだろうが……。
「……ドメル司令から指示を受けている。いまは、諸君らの厚意に甘えさせてもらう」
渋い表情ながらも、この隊の隊長と名乗る兵が敬礼をしながら答えた。持っていたアサルトライフルらしい銃をベルトで肩に下げて銃口を上に向けている。
ドメル司令と言うのがどういう人物かは知らないが、どうやら非常に柔軟な思考をしているらしい。ありがたいことだ。
案内するにあたって人数の確認もそうだが、負傷者がいないかを確認しなければならない。
案の定、これだけの攻撃に晒されているだけあって、火傷や切り傷を負った人も多く、骨折して自力で動けない人もいた。
医療科の面々はそういった負傷者に止血バンドを巻いて止血したり、簡易ギブスを施すなどして応急処置を行うと、消耗の激しい子供やけが人を持ち込んだ担架に乗せて運搬を始める。
こういうとき、小バッタの頼りになること。そのパワフルさは障害物の撤去はもちろんのこと、けが人の運搬にも威力を発揮している。
道中できるだけ丁寧に処理して来た通路を、ヤマトクルーはガミラス人を誘導しながら戻り、必死の思いでヤマトに辿り着いた。
だがまだ仕事は終わっていない。今度は戦闘配備中のヤマトの艦内に連れ込んだガミラス人を、邪魔にならない場所に誘導する仕事が待っている。
連れ込んだガミラス人は総勢二五九人。ヤマトの乗員数と変わらない人数を一気に収容する羽目になった。
彼らを誘導する場所は予め検討していたが、やはり大きなスペースのある場所に優先して運び込み、戦闘の邪魔にならないように、かつ被弾で破損しにくい場所を選定しなければならない。
第一候補として挙げられたのは艦橋の基部にあり、纏まったスペースを有する中央作戦室だ。居住区エリアに近く装甲に守られた場所と言えばここ以外にない。
それでもスペースは足りないので、外部に近く不安が残るが、戦闘の邪魔になることがまずありえない両舷展望室(防御シャッターで閉鎖済み)や食堂、だがそれでもあぶれてしまったのでやむをえず、居住区の通路にシートを敷いて耐え忍んでもらうしかなくなった。
負傷者は優先して医療室に運び込み、医療科の面々が代わる代わる処置して必要ならベッドに寝かした。
幸いヤマトはまだ装甲を貫通するような被害を被っていないので、ベッドを必要とするけが人は出ていないが、これから戦闘が激化するとクルーの処置に支障をきたしかねないありさまとなる。
連れ込んだ兵士たちの武装解除は、議論の末行わないこととなった。一応は敵国の戦艦の中だと考えると、市民の精神衛生上、彼らの存在が不可欠と判断してだ。
もちろん彼らが艦内で暴れることがあれば、ヤマトは無視できない損害を被ることになる。なので銃の携行を許可する代わりに爆薬の類は引き渡しを訴えた。
渋々ではあったが、彼らも状況を理解しているのだろう。無事に引き渡しに応じてくれた。
「ドメル司令が信じろと仰ったのだ。われわれはその指示に従うだけだ」
苦々しい表情であるが、それでも命令に従うあたり、ドメルという司令官は相当人望が厚いらしい。
「第一五区画に生存者はもういません。救助活動を終了してもよさそうです」
監視カメラやらを総動員して内部の捜査を続けていたルリの報告を受けて、進も救助活動の切り上げを決定した。
もとよりこの状況下でドックに長く留まり続けるのは自殺行為だ。
速やかに撤収を指示した直後、施設全体がまた揺れる。
「こちらコスモタイガー隊リョーコ! 敵艦隊の射程に基地が捉えられたみたいだ! 早く発進しないとドックが潰されるぞ!」
リョーコは必死に敵航空隊の足止めをしながら警告する。
ディバイダーを背中に装着した高機動モードのエックスディバイダーを駆り、左手で引き抜いた大型ビームソードを振り回し、右手に持ったビームマシンガンからビームの弾幕を張って敵機の侵攻を抑えてきたが、そろそろ限界が近い。
さしものガンダムも、艦砲射撃の直撃に耐えられるほどの頑強さはない。
防衛戦はもう限界だ。砲撃が命中した基地の一角が吹き飛び、無作為に飛び散る破片から身を守るために回避行動を取れば、好機と言わんばかりに敵機の攻撃も飛んでくる。
アクロバティックな機動で回避しながら返す刀でビームを叩きこんでも、敵の数は一向に減らない。じり貧だ。
何度目かの艦砲射撃を回避する中で、破片に煽られて左手のビームソードがすっ飛んで行ってしまった。
ビームソードは諦めてディバイダーを左手に構え、拡散放射モードで弾幕を張る。エネルギーが急激に減少。こういった長期戦では、ディバイダーは必ずしも有効な武装ではないのだと思い知らされる。
そのとき、合流したアキトのGファルコンDXの砲撃がエックスディバイダーの背後にいた敵機を射抜いた。やばかった。
相転移エンジン搭載でもエネルギーは心許ないし、弾薬も底をつきかけている。一度補給しなければ……!
「こちらヤマト、これよりドックから出てバラン星の環に突入する。コスモタイガー隊は防空任務をガミラスに引き継ぎ、ヤマトに帰艦して補給を行え。これ以上の継続戦闘は危険だ」
パイロット兼任だっただけはある。進はちゃんとこちらの消耗具合も図ってくれていたようだ。
「了解!――野郎共、交代で補給に入るぞ! 消耗の激しい奴からだ! アキトは最初のグループと一緒に補給してすぐに再出撃だ! ガンダムは極力戦線に残す!」
「了解! すぐに補給を済ませて戻ってくる!」
アキトは文句も言わずにリョーコに従ってヤマトへの帰艦コースを全力疾走する。
よし、アキトが再出撃したら次は自分が戻って装備を整える。
(ハードな戦いだぜ、ちくしょう)
リョーコは心の中で毒づきながら、エネルギーが切れそうなビームマシンガンを敵機に撃ち放った。
「ヤマト、発進!」
「ヤマト、発進します!」
連結橋に繋いだカバーの回収も諦め、ロケットアンカーを巻き上げて艦体を自由にしたヤマトは、すぐに乗員ハッチを閉じて補助エンジンに点火、ドックから発進。
これ以上この場に留まると狙い撃ちにされてしまう。
普段ならまだしも、たっぷりと避難民を抱えてしまったいまのヤマトは無茶ができない。
ヤマトが動き出してすぐ、多数の敵弾がついさきほどヤマトが停泊していたドックに着弾して大爆発を起こす。至近で大量に生じた爆発の破片に身を打たれ、爆炎に飲まれながら、ヤマトはそれらを振り切って猛然と加速する。
煌々とタキオン粒子の噴流をメインノズルから吹き出しながら、ヤマトはバラン星の環に向かって突き進む。
黒色艦隊もヤマトを逃がすつもりはないようで、航空攻撃はよりも効果的な艦砲射撃を雨あられと降り注いでくる。
ヤマトはフィールドを艦首に集中展開して攻撃を受け止めながら必死に突き進む。
しかし帰還のため接近していたGファルコンアルストロメリアが二機、攻撃に巻き込まれて一瞬で蒸発してしまった。当然パイロットも即死だ、脱出は間に合わなかった。
ついに部隊に人的被害を出してしまったと悔しがる中、攻撃を避けながら次々とコスモタイガー隊がヤマトに着艦していく。
その中にはアキトとヒカルとイズミの姿もあった。
「さっすがにシンドイねぇ〜……でも、ピンチからの大逆転は漫画とアニメの王道だし、こっちにはスーパーロボットなガンダムだってあるんだから、なんとかして見せないとね」
軽口を叩くも声に余裕のないヒカル。
たしかに状況はかなり悪い。
敵が突然出現する戦闘なんて、彼女にとっては木星との戦争以来であろう。
――あとはゲームの類、だろうか。
「……補給、頼んだよ」
こちらも余裕がないのか駄洒落さえ出てこないイズミ。声には拭いきれない疲労が滲んでいる。
いくら彼女らが凄腕、機体も連中と同格のアルストロメリアであっても、数の暴力を覆すには少々力不足だ。
機体の損傷は比較的軽いとは言っても、ガンダムに比べれば程度は重い。
「……エアマスターとレオパルドは?」
アキトは険しい表情で格納庫奥で最終調整中の二機を見る。見た感じ作業は終わっていそうなのだが……。
とか考えていたら、短距離ボソンジャンプで格納庫に直接帰投したアルストロメリアから、月臣とサブロウタが飛び出してくる。
対ジャンプジャマーを切ってたのか。だったらアキトもそれで戻ればよかった、とチラと思ったが、二人が緊急帰投したということは……!。
「隊長、エアマスターとレオパルドの最終調整が完了した。テストも訓練も抜きのぶっつけ本番になるが、出撃の許可をくれ。リスクが高くとも、ガンダムの力が欲しい」
「俺からも頼むよ中尉。リスクがあっても構わない。この戦局を少しでも好転させるには、ガンダムがいるんだ」
揃って真剣な表情でリョーコに訴えている。
絶賛戦闘中で余裕のないリョーコだが、少し悩んだ様子を見せてから苦々しい声で「わかった……でもヤバいと思ったらすぐ逃げ帰れよ」と許可を出していた。たぶん、止めても無駄だと感じだからだろうし、戦力が必要だと判断したからだろう。
――新品同様の新型機、ダブルエックスと肩を並べるガンダムの名を関した機体。
アキトはいままさに出撃せんとしている新型に期待するやら不安がるやら。複雑な気持ちだった。
「こちらは大ガミラス帝国軍、銀河方面作戦司令長官のドメルです」
「こちらは地球連合宇宙軍極東方面所属、特務艦、宇宙戦艦ヤマト。艦長代理の古代進です」
進はガミラスの援軍としてワープアウトした艦隊の旗艦から通信を受け、それに応えていた。
理由は不明だがドメル将軍は少し驚いた顔をしていたが、すぐに真顔に戻って簡潔に告げる。
「貴官らの救援に感謝いたします。進路から、あのアステロイドを使用した防護システムで防御を固めるつもりと見受けます。わが軍も支援しますので、早く防御を固めて戴きたい」
ドメルの読みに進は内心舌を巻いた。
ヤマトの進路からあっさりとこちらの目的を推察する洞察力、そしてヤマトが取ろうとしている手段にすぐに結びついたところから、こちらの戦力やいままでの戦法を徹底的に研究しているであろうことが伺える。
――次元断層で戦った指揮官だ。
直感がそう告げる。
「わかりました。ご理解が早くて助かります。ヤマトはいま、波動砲――タキオン波動収束砲を封印しているため、敵艦隊に対して決定打を持ちません。航空部隊の戦略砲も同様です。そちらの不安を少しでも払拭するための措置でしたが……」
波動砲、というのは地球側の呼び名であって本来の呼び方ではない。わかり易いようにと正式名称に訂正を加えつつ「波動砲とサテライトキャノンで事態を打開するのは難しい」と訴える。
封印の解除は容易だが、それを示唆するわけには……。
「わかっています。古代艦長代理、あなたがたの心遣い、痛み入ります。お互い思うところはありますでしょうが、いまこの場においては友軍であると考えています」
「こちらもそのつもりです。共にこの窮地を切り抜けましょう」
進は少しでも余裕を見せるために、礼を失しない程度に笑みを浮かべて応じる。
そんな進にドメルも笑みを返し、
「わが帝国の市民を救助して頂き、本当に感謝しています。この礼は、必ず」
そこで通信は終わった。
これ以上話したければ、まず眼前の脅威を取り除く必要がある。せっかく繋がったガミラスとの細い糸。切らすわけにはいかない。
あのドメルという司令官は話せる相手だとわかったのも収穫だった。
――さて、できることをしよう。
ヤマトはもう間もなくバラン星の輪に突入できるところまで来ている。ガミラス艦隊が追いつき共に戦ってくれているおかげで幾分楽になっているが、予断は許さない状況には変わりない。
「艦長代理、バラン星の環に突入します」
ハリの報告に進はすぐに反重力感応基の射出を指示する。
黒色艦隊からの砲撃を掻い潜りながらバラン星の環に突入したヤマトは、すぐに両舷中距離迎撃ミサイル発射管を増設分含めて解放して、中から七本を一つに纏めた反重力感応基を六四発射出、射出後に散らばった計四四八発の反重力感応基が周囲を漂う岩塊に次々と撃ち込まれる。
続けてリフレクトディフェンサーも打ち出され、アステロイド・リングに交じって重厚な防御壁を構築する。
次元断層で使用したときの倍にも及ぶ、出し惜しみなしの徹底した防御姿勢。避難民を抱えて被弾が許されなくなったヤマト本気の防護幕であった。
「アステロイド・リング、形成完了。リフレクトディフェンサーも所定の位置に配置完了。防御幕制御を開始します」
「反重力感応基とリフレクトディフェンサーへの動力伝達制御はこちらが受け持ちます。ルリ姉さんは防御幕の位置調整に専念してください。――山崎さん、エンジンの管理と各部へのエネルギー伝達管理の一部をそちらに任せます」
「リフレクトディフェンサーの反射角制御は僕が受け持ちます。任せてください」
「ハーリー君のフォローは僕がしよう」
すでにバラン星へのハッキングを終了したルリがアステロイド・リング防御幕の制御を開始する。
そしてハリとラピスが制御に手を貸すことでルリの負担を軽減。ルリが過労から回復したあと、時間を作っては制御プログラムの更新は行っていたようだが、改修作業であったり解析作業であったりが重なっていたこともあって、伐根的な改善には至っていない。
となれば、ルリに伍する能力を有するオペレーターに助力願うしかない。
その分ハリとラピスの負担が増え、本来の任務を果たせなくなるのだが、ラピスは山崎が、ハリの作業はジュンが一部請け負うことでフォローを行うことで成立させる。個々の負担が増えるのは避けられないことだ。
「太助! エンジンのコンディションには気を配れ! これから攻撃に防御と、エネルギーの消費が激増するぞ!」
「了解!」
山崎はすっかり片腕として定着しつつある太助に声をかけつつ、自分もエンジンの管理作業に余念がない。
改修を重ねたとは言ってもまだまだ安定性に欠ける超高出力エンジン。小ワープ明けからすぐに戦闘に突入しただけあって、いまも少々ぐずっている。
――万が一に備えて、波動砲も撃てるようにも備えておかなければならない。
事前に言われていたことだ。表向きは封印していると言ってもヤマトの切り札、最終兵器。敵のこの猛攻。最悪封印を破って敵艦隊に向けて使用しないとも言えない。
(撃たないで済めばいいが……)
アステロイド・リング防御幕を展開したヤマトは敵の攻撃をすべて受け止め、無力しながら反撃を続けている。
度重なる激戦で洗練された防御幕に、さしもの黒色艦隊も物量以外に攻略法を見いだせないようだ。攻撃が激しくなっていく。
敵艦隊はヤマト左舷前方に集中している。
無駄なくアステロイド・リング防御幕を活用するため、敵艦隊の方向に円盤状に回転する盾として展開。一挙集中させることで分厚く展開した防御幕は鉄壁の防御であった。
「艦首ミサイル、両舷ミサイル、目標選定完了」
ゴートがミサイルで狙う標的の選定を完了。
「主砲発射準備。目標、距離五万一〇〇〇キロ、方位左三七度、上下角プラス一九度」
戦闘指揮席でやや不慣れながらも守が主砲の準備を進めさせている。
ヤマトから攻撃するためには、リングの制御をしているルリと呼吸を合わせ、射撃の瞬間だけ射線を解放するようにリングの制御をしてもらわなければならない。
ヤマトに乗って日が浅く交流の乏しい守ではあるが、そこは指揮官としての経験も生かして呼吸を読み、ここぞというタイミングを示して攻撃を開始している。
さすがだと、進は兄の後姿を頼もしく思った。
完璧なタイミングでアステロイド・リング防御幕の一部が必要最低限の大きさで開口部を作り、主砲の重力衝撃波とミサイルが通るゲートを構築、重力衝撃波とミサイルがすり抜けていく。
攻撃完了後はすぐに開口部が閉じて鉄壁の防御を崩さない。理想的な戦闘スタイルであった。
――戦況が動いていく。
敵艦隊が前進し、押し込まれる形で後退した基地駐屯艦隊が、自然とヤマトと合流して共同戦線に至る。
合流したガミラス艦隊はヤマトの盾となるように展開されていく。ヤマトが抱えた避難民を守るためだろう。
しかし、両者の間に連携など存在していない。
避難民を守るため、そしてドメル司令官の命令でヤマトと共闘しているだけで、不信感を拭えていない。艦隊はヤマトの動きを警戒していて動きが硬く、ヤマトもガミラスに誤射しないように注意を払わなければならず、改修されて威力を増した主砲を活かせなくなっていった。
……これでは双方足を引っ張り合って敵に付け込まれるだけだ。
「艦長代理。このままだと足の引っ張り合いで敵に付け込まれるだけだ。向こうと話してヤマトを指揮下に一時組み込んでもらうとかしないと、満足に戦えなくなる」
「私も副長の意見に賛成です――残念ですが、私たちが指揮権を得ることは難しいでしょうし、なにより艦長代理は艦隊の指揮経験がありません。こちらからお願いして、一時艦隊に編入して貰うほうがやりやすいと思います」
ジュンとルリから進言され、進は悩んだ。
進が受けたユリカの即席教育はあくまでヤマト単独での作戦行動を前提としたもの。必要とされていなかった艦隊運用のノウハウは含まれていない。
こればかりは仕方のないことだ。
ジュンとルリもそれを承知だからこその進言ではあったが、表情は険しい。
一時的であってもガミラスの指揮下に入ることの抵抗はこの際無視できる。この場に来た以上、覚悟していた。
……問題なのは、指揮下に入れば当然ながらデータリンクの接続がどうしても避けられない点だ。
その過程でヤマトの戦闘データや機能に関する情報が流出する可能性は否めない。
今後もガミラスと敵対関係が続くのであれば、些細な情報でも漏洩は避けたいのが本音である。
しかしこの状況下で尻込みしている余裕は――やはりない。
思い悩んだすえ、進はさきほど話をしたドメル司令に意見しようと通信を決意したのだが、それよりも先にガミラス側から通信を求められた。
「古代艦長代理、ドメルです。戦線が後退しヤマトと艦隊の距離が近づいて合流してしまっています。これからはヤマトもわが艦隊と連携して戦わねば、ジリ貧になるだけでしょう。――連携を密にするため、私の指揮下に入ってはもらえないでしょうか?」
と、そのドメル司令直々にお願いされた。表情から察するに、こちらの懸念材料はすべてお見通しなのだろう。だとすればなんと潔く、そして柔軟な思考を持った指揮官なのだろうか。
ユリカが手玉に取られ、ギリギリのところまで追い込まれただけのことはある。敵ながら尊敬に値する人物だ。
それに彼はヤマトをよく分析している。だからだろう、単なる敵というだけでなく、対等な戦士として扱ってくれているような節がある。
ならば……!
「艦長代理の古代です。ドメル司令、了解いたしました。宇宙戦艦ヤマトはこれよりガミラス・バラン星基地艦隊の指揮下に入ります。この場においては力を合わせ、眼前の脅威を取り除きましょう」
進は決断した。
いまは情報漏洩を気にしている場合ではない。一致団結して事態の収拾にあたる必要がある。
進の決意はドメルにも伝わったようで、「感謝します」と言葉短いながらも敵国の将に従う決断への敬意が伝わってくる。
やはり彼は、とても器の大きな指揮官であった。
すぐにヤマトはドメルの乗艦であるドメラーズ三世とデータリンクを開始。双方情報を共有して戦列を立て直した。
ルリが構築していた対ガミラスの解析データのおかげで、ガミラス側から送られてくる情報の翻訳にも支障をきたさずに済んだ。
ドメル艦隊に一時編入されたヤマトは避難民を抱えているため艦隊の中央、ドメラーズ三世と戦闘空母のすぐそばに移動し、共に長射程を活かした砲撃で前線で戦うデストロイヤー艦を援護する。
優先すべきはやはり空母。
ワープで航空部隊を送り込めるとしても、母艦を失ってしまえば補給を封じられる。そうすれば撃墜を免れた機体があっても、いずれ補給が追い付かなくなって航空攻撃を封じることができる。
標的となる空母らしき艦艇は、円盤状の艦体の中央にある溝のような巨大な滑走路で航空機を受け入れ、その両脇にある格納庫に艦載機を出し入れしている様子が辛うじて確認できた。
推定全長は八〇〇メートルにも達する超大型の空母。数は確認できるだけでも三〇隻以上。定石どおり艦隊の後方に位置しているためかなり距離がある。また艦隊が壁になっているため直接照準に捉えにくく、有効な射線が生じる機会は非常に少ない。
そのためヤマトはもちろん、ドメラーズ三世や戦闘空母の砲撃も前線に立つ駆逐艦や巡洋艦クラスの艦に命中する形で遮られ、肝心の空母にはほとんど届かない。
しかしひとたび射線が通れば話は違った。ヤマトが誇る四六センチ――改良によって四八センチ相当に強化された重力衝撃波砲はその巨体さえもたやすく貫き、芯を外れない限りただの一撃で超巨大空母を轟沈せしめる威力を披露している。
隣に陣取ったドメラーズ三世や戦闘空母では射程外の標的も苦もなく狙撃し、かつてシュルツを震撼させたその威力を凌ぐ、驚異的な火力を存分に見せつけた。
ヤマトを含む前線部隊が奮戦する後ろで、脱出した民間船やら脱出艇は基地を挟んで艦隊の反対側へと移動が進められている。
転送戦術がある限り護衛対象を後方に置くことに意味はないともいえるが、艦隊の艦砲射撃に晒されないだけマシであるし、連中が標的にしているのはあくまで基地施設のみで、民間船は狙っていないことを見抜いたドメルの采配であった。
さらに数十分が経過。戦局はヤマトとガミラスが歩調を合わせるようになったことで五分となり、膠着状態へと突入している。
ガミラス側の残存艦総数は四〇〇隻。不意打ちを受けたことやヤマトを警戒した艦隊配置などが裏目に出て、初動で数を減らされたことで数的不利を被っている。
ヤマトとドメルの合流で持ち直せて入るが、押し込むには一手足りない状況が続く。
敵の主力兵器はビーム兵器。重力波砲とかち合えば一方的に湾曲してしまえるので、攻防一体の戦術で押し切ることも不可能ではない。
――ヤマトもガミラスも、威力を一転に集中する高収束型を採用していなければ、だが。
これがヤマト以前の地球艦隊のように、広域照射を可能とするタイプを装備しているのであれば優位を取れたのだが、ままならないものだ。
ドメルは膠着した戦局を打開する策を模索していたが、そこにヤマトから反重力感応基の簡易制御プログラムをガミラス側に譲渡し、防御を固めることで戦線を押し込むアイデアが飛び込んできた。
予想外の進言に大層驚かされたが、ドメルはヤマトからの提案を素直に受け入れた。
前線を構築するデストロイヤー艦は機動力に優れ、敵艦に対しても通用する火力はあっても防御が薄い。それを補填できるアステロイド・リング防御幕の提供は適切な処置と言えるだろう。
ただ、ヤマトにとっても重要な防御手段であり、次元断層での対決を制した要因とさえいえるそれを、簡易型とはいえこちらに譲渡する決断――彼らも必死だ。
講和を考えているのだとしても、身を切るような真似までするとは思わなかった。
(この行為には誠意をもって応えねばならん!)
ヤマトから制御を委譲されたアステロイド・リング防御幕は簡易制御ながら有用だった。多少機動力は削がれたが、デストロイヤー艦は防御力を増した恩恵でより積極的な攻撃に転じることができている。
ヤマトは無防備になってしまったが、残存していた三〇〇を超える岩塊に加え、ヤマトからの遠隔制御で送り込まれたリフレクトディフェンサーなる装備によって、前衛の被害が急速に減少した。
これを機に攻勢を強めることができるだろう。
「ドメル司令、敵艦隊の中に瞬間物質移送器を搭載した艦艇は未だに発見できません。敵艦隊の数が多く、艦影が重複していますので……」
「捜索を続けろ。あれを発見して叩くことができれば、この状況も覆せる」
この状況を改善するには、瞬間物質転送器を止めるのが先決だ。
(――ヤマトにも情報を与えて捜索への協力を頼むべきか?)
ドメル個人としてはそれに異論はないが、機密漏洩で極刑に処された場合、デスラーとヤマトを引き合わせる人間がいなくなってしまう問題がある。
それに――ガミラスの将としては情けない話だが、残される家族のことを考えれば、軽率な行動には移せない。
結局ドメルはヤマトに情報を提供せず、独自に捜索を続けさせることしかできなかった。
一方ヤマトでも、艦載機のワープ攻撃を阻止するためにどうすればいいのかについて、議論がされていた。
「――ふ〜む。収集したデータを見る限り、あの爆撃機そのものにワープシステムが搭載されているという線は消去してよさそうだな。いくらなんでも計測されたジェネレーター出力が小さ過ぎる。おそらく外部から強制ワープさせているんだろう」
――あの、実は……――
ヤマトがなにか言いたさそうだったが、それを遮るようにして進が、
「――あった。ユリカさんのファイルによると、ヤマト出生世界においてガミラスとディンギル帝国という国家が、外部から物体を強制的にワープさせるシステムを利用していたとある。暗黒星団帝国については記載がないが、この世界の彼らが開発に成功していたとも考えられる」
ドメルの指揮下に入って余裕の出た進が、なにかしらのヒントを求めてファイルを捲っていたのが功を奏した。情報があったのだ。
「なるほど。となれば転送装置を持つ艦艇がいるはずだ。空母にそれらしい動きは?」
「ありません。安全を確保するため、ヤマトとガミラスのレーダーに引っかからない位置に待機しているのかと……」
ジュンの問いにルリが答えた。
さすがにこの状況下で敵艦隊の内側を丁寧に解析する余裕はない。
いまも敵艦載機は次々と襲い掛かってきているのだ。機体の大きさと空母の推定される容積から考えても、間違いなく二順以降の出撃になっているはず。どこかで兆候を察知できてもよさそうなのだが……。
「……真田さん、敵航空部隊のワープの観測データはあまさず記録してください。この戦闘中には無理でも、次の戦いを考えて対策を得られねば、ヤマトもどうなるかわかりません」
「うむ。そのとおりだな、艦長代理。解析は行うが、まずはこの状況を覆さないことには……」
「艦長代理、ガミラスの前衛部隊が戦線を押し込んだぞ!」
「ドメル司令より、ヤマトに優先して攻撃して欲しいターゲットの位置情報と攻撃順序が送られてきました。メインパネルに出します」
守とエリナからの報告を受け、進はメインパネルに表示された敵と味方の位置情報と、ドメル司令からの要請に目を通した。
――やはり凄い指揮官だと痛感する。
ユリカが無茶を承知で現場復帰を望んだはずだ。これは、自分だけではとても及ばない。
彼女と協力して知恵を絞り、ジュンとルリのバックアップがあって初めて対等に渡り合えるか、といったところだ。
やはり結論はヤマト側と同じで、アステロイドリング防御幕を活かして敵艦隊と距離を詰め、敵の空母を叩けるだけ叩いて航空戦力を封じるというものだったが、艦隊運用の指揮の細かさと着眼点は、進の指揮を上回っている。
やはり、彼の指揮下に入ったことは間違いではなかったようだ。
格納庫では月臣が自身の新しい機体――ガンダムエアマスターバーストを受領し、コックピット周りの微調整を行っていた。
基本的な構造はダブルエックス――いやコントロールユニットがないのでエックスと同型。ダブルエックスのテストパイロットも行っていた月臣にはアルストロメリアほどではないが、馴染んだ構造だった。
「そっちはどうだ、サブロウタ」
「問題ありません。いま機体を立ち上げました」
隣で片膝をついているレオパルドデストロイのサブロウタも特に問題なく進めているようだ。
(さて、使いこなせるか……)
シミュレーションは行っているが初見の機体には違わない。ましてやアルストロメリアともダブルエックスとも異なる可変型の高機動型ともなれば、月臣にとっても未知の機体だ。
その点サブロウタのレオパルドデストロイは全身武器の砲撃型。武装こそ増大しているがコンセプト的にはかつての愛機であるスーパーエステバリスと極端な差はない。
火器管制制御は大変だろうが、機体コンセプトが大きく異なる自分よりはマシだろうと思うと、少しうらやましい。
「いいか、月臣にサブロウタ! エアマスターもレオパルドも組み上がったあとの最終調整が終わっただけで、稼働試験も終わってねぇ! 合体機構の調整も間に合ってねぇからGファルコンとの合体もできない! 機体のコンディションには気を配れよ! 操縦の癖だってまったく別物なんだからな!」
格納庫の喧騒に負けないウリバタケの大声での注意に、月臣もサブロウタも力強く頷いて開放していたコックピットハッチを閉じる。
「完成度は九〇パーセント……少佐、結構な博打になりそうですね」
「だとしても、ここで凌がねば先はない。敵航空部隊のワープ攻撃は止んでいないんだ。少しでも肉薄して、空母の一隻でも叩きたいところだな」
不安は残れど戦意は衰えず。
ぶつかっていくのみ。
補給を完了して再出撃したGファルコンDXに続く形で、イズミとヒカルもヤマトから飛び出していく。
月臣とサブロウタも、標準武装のみを施されたそれぞれの新しい機体を発進スロープに乗せていく。
改めてエステバリス系列機とは違う手応えを感じて自然と気が引き締まる。
――この力、必ず使いこなしてみせる。
「月臣元一朗、ガンダムエアマスターバースト!」
「高杉サブロウタ、ガンダムレオパルドデストロイ!」
「発進する!!」
イスカンダルの支援を受けて新たに生まれた二機のガンダムが、宇宙にその身を躍らせる。
熾烈極まる防衛戦に、はたして一筋の希望を見出すことができるのだろうか。
ヤマトとガミラスが奮戦していた頃。バラン星基地を襲撃した暗黒星団帝国の艦隊旗艦では、指揮官がモニターに映るヤマトの姿を見てほくそ笑んでいた。
「……あれがヤマトか」
「はっ……てっきり例のタキオン波動収束砲とかいう装備以外は大したことない艦だと思っていたのですが……それ以外の装備も含めておそろしい性能の艦でした。おそらく、単艦での性能はわが軍のプレアデス級に匹敵、あるいは上回るやもしれません。辺境の星の艦艇とは思えぬ、けた外れの戦艦です」
五日前、ヤマトを侮って挑んだ挙句あっけなく返り討ちに遭った指揮官が、上司に向かって汗を垂らしながら受け答えしていた。
その言葉を受けた、筋骨隆々の厳めしい風貌と体格の指揮官――デーダーはその性能に脅威を覚える。
彼の任務は鹵獲したこの転送装置の威力確認と、バラン星基地を攻略してガミラスの動揺を誘うことだ。
重要拠点をあっけなく潰されたとあれば、動揺をしないわけがない。
ついでに将来の脅威になりえるかもしれない宇宙戦艦ヤマトの捜索、可能であれば鹵獲か撃破をするために部下の一人に小規模ながらも艦隊を授け、遭遇が予想される宙域に差し向けたのだが……想像以上に手強い。
わが軍に比べれば格が劣るとはいえ、一国相手に単艦で抗うだけの能力はあるらしい。
……それにしても目立った衝突もなくガミラスと共同戦線を張るとは――連中、ガミラスに与するつもりだろうか。
――ならば、もう少しヤマトの力を知りたい。これからに大きく影響する事案のようだ。
「――可能であれば、例のタキオン波動収束砲とやらの威力を見ておきたいところだな」
しかし安易に撃たせるわけにはいかない。艦隊に向かって放たれては被害甚大では済まされないはずだ。ガミラスの捕虜から聞いた程度の情報であっても、わが目で見るまでは過小評価は禁物。
貴重な将兵をいたずらに損耗させるのは指揮官としては下策中の下策。総司令の顔に泥を塗らないためにも、慎重な行動が必要だ。
――バラン星への攻撃は、十分成功したと言っても過言ではないだろう。
あの様子では、当分の間は基地として満足に機能しないはずだ。
となれば、あの正体不明の移動性ブラックホールから逃げ出そうとしているガミラスにとって、寄港地を失ったと浮足立たせるに十分な損害を与えていると判断してもいいだろう。
ならば、これ以上ここで戦闘を継続して戦力を消耗させる必要はない。もう連中は十分こちらの力を思い知ったことだろう。
それに、本星攻略には移動要塞ゴルバを動員するのだ。たとえ正面からガミラス全軍とぶつかったとしても戦力的に不足はない。
――ならば動かせる範囲の戦力を最大限に動員し、イスカンダルに向かっているらしいあのヤマトを出迎え、仕留めるのが得策。
――放置するには少々目に余る存在だ。
この場でテストも兼ねて使ってしまったが、転送戦術の優位性は証明された。多少の対策は立てられてしまうだろうが、完全に対処して覆すには情報も時間も不足しているだろう。
ならば空母を中心にした機動艦隊と駆逐艦隊を同時に差し向け、この旗艦プレアデスの威力も併せて一気に撃滅してしまうのが上策か。
連中がイスカンダルへの最短コースを取るのなら必ず通過しなければならない、例の七色混成発光星域で罠を張るのがいい。
長距離レーダーが機能障害を起こしやすいあの宙域は、この転送装置の威力を何倍にも増幅させてくれる。
なるほど、ガミラスにもいい指揮官がいるものだ。ほめてやる。
……そこまで考えてふと思いついた。これを実行できれば、味方に被害を出さずにタキオン波動収束砲の威力を見れるかもしれない。
デーダーはニヤリと、実に悪い笑みを浮かべた。
ユリカは夢現の中にあった。
先日の負傷が原因で衰えた体力が更に低下したせいか、一日で起きていられる時間が八時間を切っている。
進がバラン星救援のためにヤマトを動かしたことは確認しているが、そこから先はワープの負荷もあって意識が遠のき、いまになってようやく意識が戻りつつあった。
衰えた感覚でもはっきりと感じ取れる、戦闘の喧騒。
医務室にいてもヤマト自身の砲撃による衝撃音や、全力運転を続けるエンジンの唸りが感じられる。すっかり馴染んでしまった、ヤマトの息吹。
それらを感じながら、ユリカの意識は夢と現の境を彷徨い続ける。
そんなユリカはバラン星の軌道上を巡る人口太陽の軌道が突如として変わり、猛スピードでヤマト・ガミラス混成艦隊に向かって突き進む夢を見た。
あまりに衝撃的な内容に飛び起きたユリカは、感覚を頼りに右手に着けっぱなしになっているブレスレット型受信機のスイッチを入れて聴覚センサーをオン。
ベッドサイドに置かれている視覚補助用バイザーを大慌てて装着。コミュニケを起動。第一艦橋に警告を。
――あれはただの夢ではない。浸食が進みより演算ユニットに近づいたことで垣間見た、『未来』だ。
「太陽に、バラン星の太陽に気を付けて! 太陽が――太陽が迫ってくる!」
決死の覚悟でガミラス・バラン星基地と暗黒星団帝国艦隊との戦いの渦中に飛び込んだヤマト。
大量の難民を抱えながらもついにドメル司令指揮の下、ガミラスと共闘して事態の収拾にあたるヤマトに、更なる試練が襲い掛かる。
だがヤマトよ、この困難を乗り越えねば地球を真に救うことはできないのだ!
負けるなヤマト! 人類は君の帰りを、君の成功だけを信じている!
人類滅亡と言われる日まで、
あと、二四七日しかないのだ!
第二十話 完
次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット
第二十一話 未来を切り開け! 決意の波動砲!
ヤマトよ、奇跡を起こせ!
感想代理人プロフィール
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代理人の感想
天体質量兵器は恐ろしいですよねえ。
レンズマンでもひっでえしろものだったけど。
>「過ちは、繰り返さん……!」
うーん、ガンダムX。
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