新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット
第二十六話 決戦! 機動要塞ゴルバ!!
飛び交う閃光。
飛び交う物体。
重力波、粒子ビーム、ミサイル、戦闘機、人型。
イスカンダル・ガミラス宙域は激しい喧騒に包まれている。
その喧騒の中を、宇宙戦艦ヤマトとデウスーラが暗黒星団帝国の機動要塞目掛けて進撃を続けていた。
ヤマトもデウスーラも激しい砲火に傷つきながら、要塞の動きをつぶさに観察し警戒も露わに、だが大胆に真正面から相対するように進。
だがヤマトもデウスーラも要塞に対する決定的と呼べる攻略法を見いだせてはいない。
対要塞攻略の要として考えていた波動砲が封じられたままだからだ。あの要塞に対して決定的な破壊力を秘めた装備は、ツインサテライトキャノンのみが安全を確保したまま使えると目されている。
しかしそれはあの要塞がツインサテライトキャノンすら弾き返す防御フィールド出力を持っていない、またはそれを突破して砲撃を届かせることが前提の、薄氷の上を渡るような危うい賭けでもあった。
ユリカはメインパネルに拡大投影されている奇妙な形状の機動要塞をバイザー越しに睨みながら、どうやってツインサテライトキャノンを届かせるか思案していた。
要塞は不気味なほど沈黙を保っている。
唯一確認された行動は、いまヤマトとデウスーラに群がってきている無人らしい攻撃艇を放出したことだけだ。
……だがこの行動は、おそらく要塞からの直接攻撃の前触れだと睨んでいる。
要塞から直接制御されているであろう攻撃艇は、ヤマトとデウスーラの進路を巧みに阻み船速を鈍らせていた。
周りの敵艦が距離を取りつつある。要塞からの直接攻撃が近い。
だがユリカはいますぐに進路変更をしようとは考えていなかった。
ここでヤマトの進路を無理に変更することはできる。だがそれに合わせて敵が照準を修正するのは必然。
――確実に避けるためにもギリギリまで粘る。あの規模の要塞だ、機敏に動けるはずがない。ましてや敵が目論んでいるのはこの攻撃艇ごとヤマトとデウスーラを葬り去ること。
そんな攻撃ともなれば、ツインサテライトキャノンや波動砲のような広範囲を吹き飛ばすエネルギー砲か、もしくは超大型のミサイルか。可能性が高いのは前者だ。後者なら艦隊がもっとギリギリまでヤマトとデウスーラをくぎ付けにしようとするはずだ。
波動砲規模の砲撃ともなれば数度程度の微調整ならまだしも、発射直前に大きく進路変更されたら追従できないはず。だからこそ確実を期すために足止めをしているのだ。
だがヤマトとデウスーラほど無茶の利かない親衛隊は先に退避行動に移らせた。敵の狙いはあくまでヤマトとデウスーラ。親衛隊の撃ち漏らしは気にしないだろう。
現にヤマトとデウスーラを見捨てるかのように退避行動を開始した艦への攻撃はまばらだ。あわよくば、程度には考えているようだがヤマトとデウスーラだけを確実に足止めせんと、包囲網を狭めてくる。
ヤマトとデウスーラの回避行動が成功するかどうかは、攻撃の予兆を見逃してしまわないかにかかっている。
これはECIをフル稼働させていまも要塞を解析しているルリたちオペレーターの手腕次第だろう。
彼女らが要塞の動きを見落としてしまえば、避けられない。
デウスーラでも要塞の解析作業は進めているだろうが、オペレーターの練度と解析能力はヤマトのほうが優れている節がある。
――被弾の衝撃で艦が揺れる。
シートから振り落とされないように締めたベルトが腹部に浅く食い込む。
――まだか。まだ撃たないのか。
緊張で喉が渇いてひりつく。汗が流れる。
きっといまこの瞬間も改装されたコスモレーダーが赤い光の往復運動をせわしなく行い、収集した情報をルリたちが目を皿のようにして捌いているに違いない。
……………………。
緊張を割くように、ついに待ち望んだ報告が飛び込んできた。
「艦長! あの要塞のエネルギー反応がどんどん上昇しています!」
「詳細を!」
第三艦橋のルリからすぐに詳細情報が送られてきた。
要塞の巨大なハッチを中心に極度にエネルギーが集約されていく。その数値は、エネルギーの上昇値は――波動砲にも匹敵するレベルだ!
エネルギー反応が生じていた要塞の胴体部分にある巨大なハッチが開き、中からまるで土管を彷彿とさせるような太く短い砲身が顔を覗かせる。
要塞が砲撃準備に入った!
「両舷全速! 反転上昇! コスモタイガー隊にも離脱を指示! 格納庫のジャマーをカット! ジャンプで退避させて! デウスーラと戦闘空母に打電、我に続け! 後方の防衛艦隊も敵艦の砲口の軸線から退避するように勧告!」
すぐにユリカは回避行動を指示した。
「――攻撃艇が進路を塞いできます!」
ハリが悲鳴じみた声を上げるが、ユリカは意に介さない。
「四の五の言わずに突っ込みなさい! 強行突破あるのみ!!」
「了解!!――く……っ!」
意を決したユリカの指示に従い、ハリはスロットルレバーを押し込み、操縦桿を力の限り引き上げる。
バルバスバウ根元のスラスターが、メインノズルが、最大出力で噴射を開始。ヤマトの艦首が持ち上がり、加速を開始する。
……ハリが言いたいことはわかっている。
あの攻撃艇の火力は高い。被弾覚悟で突っ込めばその火力が容赦なくヤマトに降り注ぐ。限界寸前のフィールドが決壊してヤマトがハチの巣にされてしまう危険性は極めて高い。
だがこのタイミングでしか、あの要塞砲を避けられない。もう照準は定めてしまったはず。急激な進路変更には付いてこれないはずだ!
「艦首にフィールド集中展開! 火力を前方に集中!」
艦首にフィールドを集中展開。体当たり前提で攻撃艇の真っただ中に突撃を開始する。
後方のデウスーラも戦闘空母も遅滞なくヤマトに倣って追従してきた。
さすがデスラー総統、思い切りがいい。ハイデルンもドメルが見込んだ将なだけある。
ヤマトは足止めしようと群がってくる攻撃艇を小回りと連射の利く副砲とパルスブラストを主軸に、デウスーラと戦闘空母は武器の多さを活かした手数を合わせて払いのけていく。
それでも大量の砲撃がヤマトとデウスーラと戦闘空母に襲い掛かる。
砲撃は集中展開したフィールドの強度で強引に弾き飛ばす。
正面に立ち塞がった攻撃艇はフィールドアタックで強引に蹴散らして進む。
出力も推力も質量までもヤマトが勝る。だが負荷で弱ったフィールドは一隻、二隻、三隻と衝突と破壊を繰り返すたびに著しく減退していく。
――五隻目からは限界を迎えたフィールドがついに消滅、それでもヤマトはその尋常ならざるフレーム剛性と装甲強度を活かして突撃を続行。
激しい衝撃。構造材が軋み、ひしゃげ、裂かれる轟音が艦内に響く。激突された攻撃艇はヤマトの体当たりに耐えられず、中央から引き裂かれるようにしてバラバラになった。対するヤマトも艦首波動砲とフェアリーダー周辺に激しい擦過傷が刻まれ、フェアリーダーの一部が欠ける被害を被った。
追従するデウスーラと戦闘空母はヤマトがこじ開けてくれた道を押し広げるように進む。ヤマトが蹴散らした攻撃艇の残骸が衝突しようともひるまない。
躊躇なく、恐れなく。一歩も退く姿勢を見せずに敵の包囲網を食い破っていった。
一方退避命令を受諾したコスモタイガー隊も攻撃の手を止め、指示どおり全速力でダブルエックスとの接触を試みていた。
「みんな! 急いでダブルエックスに寄り添え!」
敵の大砲が波動砲クラス、最低でもサテライトキャノンを下回ることはないだろう威力なら、ちんたらしていては余波だけでも致命的な損害を被ってしまう。
ユリカの意図を察したすべての機体がなりふり構わずダブルエックスを目指し、携行武装を破棄してでも手を繋ぎ、的にしてくれと言わんばかりの団子状態になった。
全機、ディストーションフィールドを最大出力で同期させて広域展開、出力がボソンジャンプに耐えられる数値に達した。
アキトはすぐにジャンプ先をイメージ。
ジャンプ先は格納庫。
イメージ――ジャンプ!!
コスモタイガー隊は瞬く間に消え失せ、次の瞬間にはヤマトの格納庫内に団子状態のまま出現、無事の帰還を果たしたのであった。
全速力で離脱を続けるヤマトとデウスーラ。
予測される敵要塞の攻撃範囲からギリギリ逃れた。
それからたいした間を置かず、要塞の大砲から強烈な光の奔流が放たれる。
小規模な艦隊程度なら丸々飲み込んでしまいそうな凶悪な光の奔流が、ヤマトとデウスーラが封じられていた空間を通過――イスカンダルとガミラス星のそばを掠めていく。
目論みどおりの回避行動を成功させたはずのヤマトとデウスーラと戦闘空母であったが、余波が予想よりも広域に及んでいた。想像を絶する威力のビームの衝撃波に艦体を煽られ、フラフラと外側に向かって弾かれていく。
辛うじて互いに激突することだけは避けたが、すぐには姿勢を立て直せない。
無防備になった瞬間を狙って、砲撃の影響圏外にあった敵艦数隻から砲撃が加えられた。
避けられない。
――それを防いだのは、余波で姿勢を崩されながらもヤマトとデウスーラの間に割って入った戦闘空母であった。
自らを盾にした戦闘空母に砲撃が次々と突き刺さり、その巨体を穿ち、砕いていく。
……盾になった戦闘空母が爆ぜた。
戦闘空母が撃沈されるまでのわずかな時間。その時間でヤマトとデウスーラは辛うじて体勢を整えることができた。
ヤマトとデウスーラは戦闘空母を撃沈した艦隊に向けて即座に反撃、攻撃してきた敵艦を沈める。
ほかに攻撃可能だった艦はいないのか、しばしの静寂が訪れた。
「ハイデルン……」
長きに渡って共に戦ってきた部下の呆気ない死に、さすがドメルも堪えたようだ。
だが歴戦の将である彼はすぐに気持ちを切り替えるべく、爆発した戦闘空母に向かって敬礼を捧げている。
進はもちろん、第一艦橋の面々もそれに倣い、短い間ではあった共に戦場を駆けた『仲間』の死を弔った……。
戦術モニターに表示される被害は想像よりもずっと大きかった。
遥か後方、最終防衛線を構築していた艦隊の一角すらも消滅させていている。
迂闊だった。――要塞の大砲の有効射程は、波動砲よりも長く、そして広いものだった。後方の艦隊への警告なければ、さらに多くの艦艇が巻き込まれ、失われていたであろう。
このまま撃たせるわけにはいかない。あの要塞の火力は予想を上回っている。
「……くそっ! 第一・第二主砲発射用意! 目標、敵機動要塞!――発射!」
立ち直った進がすぐに機動要塞に向けての砲撃を指示。
左右に振り分けられていた二基の主砲が旋回、波打つように角度を変えた三本の砲身がピタリと要塞に向けられた。発射遅延によって時間差で放たれた計六本の重力衝撃波がまっすぐ敵要塞に向けて飛翔する。
遮るもののない空間を飛びぬけ、機動要塞に突き刺さる――かに見えたが、すべに砲身を格納して防御を固めていた要塞表面であっさりと弾かれてしまった。
偏向フィールドだ。
予想はしていたが、あの巨大戦艦とは比較にもならない強度のフィールドだった。
ヤマトの主砲では、何百発撃ち込んだとしても突破はできないだろう。
「くそっ……予想はしていたが、やはりショックカノンで突破は無理か。あの大砲の出力から要塞の出力を推測してみるに、ツインサテライトキャノンはもちろん、単発では波動砲でも歯が立たん。……恐ろしい強度だ――!」
真田が主砲が命中したときの観測データを基に解析した結果、現在使用可能な兵器であの要塞の偏向フィールドを突破することは非常に厳しいと結論付けている。
敵は、想像以上の化け物らしい。
「――恐るべき要塞だ。わがデスラー砲も単発での威力はヤマトの二倍は保障しているが……それでも足らぬかもしれんとは……」
悔しそうなデスラーに申し訳なさそうにしながら、真田はさらに推論を口にした。
「……あくまで推測ですが、収束率を限界まで高めたと仮定しても、あのフィールドを突破するには単純計算で波動砲四発分以上の出力が要求されると考えられます。ヤマトの全弾発射なら可能性はありますが、諸々の事情からその選択は選べません」
「――ヤマトが以前使っていたという波動カートリッジ弾は、こういった敵に対抗するために用意されていたのかもしれませんね」
進が予想を遥かに超える要塞の強さに悔し気に語る。
たしかヤマトの波動カートリッジ弾が追加されたのは、イスカンダル救援を目的とした戦いにおいてこの要塞――ゴルバの並行同位体と交戦したあとだ。
その戦訓からより迅速かつ柔軟な波動エネルギーによる攻撃はもちろん、エネルギー偏向フィールドを有する敵に対してミサイル以上の決定打足りえる装備として開発されたのだろうと、ヤマトも語っている。
――真田本人でないので、詳しい理由については把握していなかったし、そもそもぶっつけ本番で使用されたから事前の説明は最低限しか把握していないとも。
――真田さん。
「たしかに実体弾による射撃が可能であれば、あの要塞の偏向フィールドを超えて打撃を与えられる可能性はある。しかしヤマトの主砲は実弾射撃機能をオミットしてしまっているし、波動エネルギーをオミットしなければならないと知れているいまとなっては、四六センチ砲弾とは言えあの要塞の装甲を貫通できるとは思えん。……あの砲口を狙い撃ちでもすれば話は別だがな」
「――真田工作班長、エネルギー融合反応を無視して急所に当てたと仮定した場合、最低でもどの程度の威力が必要になると思われますか?」
ドメルの質問に真田はしばし悩んだあと、
「そうですね、敵要塞の構造や構成材質が不明なので具体的には言えませんが……やはり、サテライトキャノンクラスの威力は欲しいと思います。しかしサテライトキャノンの場合はなにかしらの方法であのフィールドを打ち破って通す必要がありますし、ミサイルの場合はそれこそガミラスが使っているあの超大型ミサイルが必須になります。そして狙うべきは発射直前か、発射直後に無防備になるであろう発射口。あそこを狙えさえすれば、動力部に攻撃が届くはず。そうすれば強大な要塞と言えどひとたまりもないでしょう」
狙うべき場所はわかった。だがそこを狙うためには越えねばならぬハードルがいくつもある。
いますぐに、それを超える手段を見つけることはできなかった。
「――敵要塞砲の射程外まで一時退避します。デスラー総統もそれでよろしいですか?」
「異論はない。いましばらくは、あの要塞を能力を分析しなければ対抗することは……」
「艦長! 要塞に高エネルギー反応! 砲撃の予兆です!」
第三艦橋のルリから警告がもたらされる。
光学センサーが捉えた映像がメインパネルに映し出される。
見れば要塞がその場で回転し、隣の砲門を開きつつあるではないか。おまけに上に逃げたヤマトとデウスーラを射線に捉えるべく上昇している。
「反転右一六〇度!! 降下角二〇!! 全速!!」
すぐにユリカはこの場から移動することを命じた。
隣のハリは「了解!」と応じ、歯を食いしばって操縦桿を捻ってスロットルレバーを押し込む。
デウスーラもヤマトと離れることのデメリットを考え、追従するように動き出した。
バラバラに逃げたほうが一網打尽にされるリスクは減るが、僚艦を失い敵艦隊の只中にある現状では、ヤマトにはデウスーラの手数が、デウスーラにはヤマトの対空火器が欠かせない。
あまり気は進まないが、ヤマトとデウスーラは『ガミラス星とイスカンダル星と要塞の軸線上に移動した』。
あの要塞砲の射程はかなり長い。波動砲すらも上回る長射程を誇っている。威力も同等以上。
となれば、目的となる星が軸線に置かれてしまっては発砲できないはずだ。星にある資源を求めてきたのに自ら吹き飛ばしてしまっては本末転倒もいいところ。
案の定、要塞のエネルギー反応が低下、砲口を格納している。
安堵したのもつかの間、要塞にあらたな動きがみられた。
「!? 要塞にさらなる動きを確認!」
続けざまに放たれた警告に改めてメインパネルを見れば、要塞の頭頂部――角が生えた部分――が回転しながら浮き上がり、その内側に収められていた大量の砲門を覗かせているではないか!
直後、要塞がその場で回転を始め、全周囲に装備された大量のミサイル発射管とビーム砲から怒涛の砲撃が放たれた。
要塞砲による砲撃を避けるため、要塞とガミラス・イスカンダルの軸線上から逃げられないヤマトとデウスーラの退路を断つかのように展開されていた艦隊の砲撃も合わさって、集中砲火を浴びせられる形になる。
――あっという間にヤマトとデウスーラは大量の火線に飲み込まれた。
まだフィールドが健在のデウスーラも、これほどの火力を集中されては堪ったものではない。
フィールドを喪失しているヤマトはパルスブラストの弾幕を全力で展開、ミサイルを撃ち落とし、同時にグラビティブラストの干渉と温存していたリフレクトディフェンサーを放出して防御を再構築して堪える。
デウスーラも持てる火力をありったけ振り絞って弾道を狂わせるべく苦心しているが、到底防ぎきれない。
大量の砲火がヤマトに降り注ぐ。
増設された艦首甲板上のパルスブラスト群が壊滅した。左舷コスモレーダーアンテナが半分になり、右舷カタパルト吹き飛ぶ。
装甲表面には多数の弾痕刻まれ、度重なる戦闘で痛んでいた部位が貫通を許してしまう。
貫通された攻撃の大半はディストーションブロックによって防御され、致命的な内部破壊は免れたがそれでもダメージは大きい。
装甲支持構造が歪んで装甲が部分的に浮き上がり、剥がれ落ちそうになる。
装甲の内側に走っているさまざまな配管の一部が外れ、裂け、蒸気や液体などを吹き出す。
コンピューターのいくつかが衝撃でショートして激しくスパーク。モニターがいくつも弾け飛んで回路も断線、内壁が爆ぜる。
武装への被害も大きい。
強固な装甲を持つ主砲も完全破壊こそ免れているが、第一主砲は左砲を砲身半ばから吹き飛ばされ、第二主砲は中砲の駆動系を破壊されて砲身が大きく跳ね上がったまま沈黙してしまった。
第二主砲と第三主砲上部に増設されていたパルスブラストは完全に破壊され跡形もなくなり、主砲側面に追加されていたエネルギーコンデンサーもすべての砲がダメージを被って機能を低下させていく。
主砲よりも小さい副砲は被弾こそ少なかったが、装甲も薄い副砲は一発の被弾でも大きなダメージを受け、機能を損なわれた。
各部ミサイル発射管も、損害を被って使用不能になっていく。
それらの破壊に巻き込まれたクルーが負傷、その場に倒れこむ。
程度の軽い者はすぐさま救護班を呼び寄せて負傷者を任せつつ、己の部署を死守すべく奮戦を繰り広げていた。
消化ガスを撒いて火災を鎮火し、断絶したケーブルを予備に交換したり、応急処置と割り切って回路を強引接続して復旧を試みる。
内側に生じた亀裂は工作班が持ち込む応急修理用の速乾性液体金属を流し込んで処置。
工作班や各部署の担当者も大変だが、大量の負傷者を運び込まれた医務室と医療室も喧騒が絶えず、イネスは医療科の責任者として手術着に身を包んだままほかの医者と手分けして患者の処置を続けていた。
(くっ、このまま戦闘が長引くと助かる者も助けられないわ……!)
イネスは戦闘の激しさを嫌でも思い知らされる。
手の施しようがない患者を何人も見捨てなければならなかった。その被害はいままでで最も激しい戦いであったと断言される冥王星基地攻略作戦の比ではない。
医務室や医療室に運ばれていないだけで、負傷しているクルーも大勢いるだろう。――非常にまずい状況だ。
――人の意思を、命の輝きを受けて初めて真価を発揮する『いまのヤマト』の最大の弱点。それはクルーに対する直接的な被害と言っても過言ではない。
なまじ命を――意志を持ってしまったがゆえに、そしてフラッシュシステムの追加に伴っていままでとは比較できないほどに『意思の力』を受けられるようになったがために、人間に対する依存が極まってしまったのがいまのヤマトの弱点だ。
かつてもといた世界の『古代』が、『真田』が、ヤマトの在り方として拘っていた『機械ではなく人の意思によって管理されるべき』という部分が、より顕著に表れるようになってしまったヤマト特有の欠点である。
(これ以上クルーへの被害が拡大する前になんとかしないとまずいわよ、艦長――)
被弾が相次ぐデウスーラもヤマトと似たり寄ったりの状態であった。
すでにかなりの人的被害を出している。ヤマトほど人的制御に依存していないとはいえ、機械制御も被害が嵩めばいずれ破綻する。
……このままではなぶり殺しになってしまう。
やむをえず、ヤマトとデウスーラは破損部から煙を吹きながら退路を塞ぐ敵艦隊の真っただ中に再び突っ込んだ。
さきほどは攻撃艇を巻き込んだ砲撃をした要塞ではあるが、あれは無人艇であるからだと予想がついている。
いま飛び込んだ艦隊は明らかに有人艦艇で構成されている。ここに飛び込んでしまえば絶対とは言い切れずとも、要塞からの攻撃が収まるはずだ。
イチかバチかの賭けに出たヤマトとデウスーラを守るべく、散開していた親衛隊の艦艇のみならず、後方で戦っていた艦隊の一部が追いついてきた。
ヤマトとデウスーラを守るべく艦隊を再編成、再び徹底抗戦の構えを取る。
しかもありがたいことに反射衛星砲搭載艦が四隻、この戦域を射程に収められる位置にまで前進してきてくれた。
反射衛星砲特有の屈曲射撃によってこちらへの誤射を完全に回避しながら、ヤマトの主砲以上の火力を持つビームで敵艦隊に砲撃してくれている。
一度はヤマトを追い込んだガミラスの新装備の威力はたしかだった。反射衛星砲の直撃に耐えられる敵艦はほとんど存在せず、一撃で貫かれて砕け散る。
さらにバーガーを始めとするエースパイロットが指揮する航空隊も合流し、攻撃艇の代わりと言わんばかりに次々と戦線に投入されてくる艦載機への対処も始めてくれた。
再び激しい攻防が開始される。
そして予想どおり要塞からの砲火は目に見えて散発になり、ヤマトとデウスーラを襲う火線が目に見えて減った。
ここぞとばかりに速度を上げてヤマトとデウスーラが敵艦隊を突破、味方艦隊に戦闘を任せ、一時後退を成功させる。
ユリカは艦長席のパネルに映る戦況を見つめながら、要塞をどう攻略するかを思案する。
状況は最悪だ。
あの要塞の防御フィールドを上回る火力を用意することはできない。となればあのフィールドをどうにかして無力化する油断を考えなければならない。
このまま戦闘が長引けば敗北するのはこちら側だ。
あの要塞の火力はすさまじい。あの大砲を撃てずとも、通常兵装だけでも艦隊を壊滅に導くだけの威力がある。
状況は圧倒的に不利。
(覆せるの? この状況――)
ユリカは嫌な汗で背中がじっとりと濡れるのを感じる。
――波動砲さえ使えれば。
そう思わずにはいられない。依存したくないと願いながらもここ一番のときヤマトを助けてくれていたのはいつも波動砲だ。圧倒的な暴力に逆らえる切り札だ。
それが封じられたいま、どうやってあの要塞を攻略すればいいのだろうか。
ユリカはその答えをすぐに見いだせる自信をもつことができなかった。
ゴルバの艦橋で戦局を見守るメルダーズは、ゴルバの主砲を強引な手段で避けて見せたヤマトとガミラス旗艦の姿に感心するやら呆れるやら。
「強行突破の可能性は考えていたが、まさか体当たりで突破するとは……」
普通はそんなことはしない。相打ちになるのが精々だし、運よく突き抜けられても構造材の歪みやらが発生してまともに動けなくなるのが必然。
にも拘らず、ヤマトは『防御フィールド喪失後に』テンタクルス一隻を体当たりで撃破したうえ、その後の戦闘継続になんら支障を生じない。ばかりか、ゴルバと艦隊からの集中砲火に耐えて逃げ延びるとは……。
「……化け物か?」
冗談抜きでこのゴルバと同格の存在かと錯覚すら覚えそうなスペックだ。――単艦で戦局を左右する決定打を有する、という点では紛れもなく同格であろうが。
――地球人の技術力と発想力。もしかすると基礎科学力以外は下手な星間国家よりも強力なんじゃないだろうか。もしくは頭のネジが一〇本くらい飛んでる人間が多いとか……。
それに第二射に対する対応の速さも特筆ものだ。
最初の一発を撃てたのは位置関係的にガミラスやイスカンダルへの誤射を気にせずに済むからだったが、あっさりと見抜かれた。
この懸念があったからこそ貴重なテンタクルスを巻き込んでまで狙ったのだが――あそこまで思い切りがいいというか、非常識とは思わなかった。
その非常識にふさわしいとさえいえる艦載機の人形共も、思いのほか強い。
特に動きがいいのが四体ほどいたが、特別警戒する必要はないだろう。
バランのときに巨大空母を沈めていたし、この戦場でも獅子奮迅の活躍で暴れているが、このゴルバを沈めるにはあまりにも非力。虫けらも同然だ。
……警戒すべきはやはりヤマトだ。このまま火力でゴリ押していければ、最終的にはわが軍の勝利は揺るがない。だが連中が大人しく押されてくれるとは考えにくい。
なにかしら策を講じなければならないとは思うが……。
さすがのメルダーズも、底が見えないヤマトとそれに追従してみせるガミラス旗艦の奮戦に、いい策を思いつけずにいた。
裏を返せばゴルバという絶対的な力を持ってしまい、その力を活かせさえすれば基本に忠実に戦ってさえばいいという状況が鈍らせたのかもしれない。
強力な宇宙戦艦であっても所詮は単艦、それにごくわずかな艦載機戦力のみで常に不利な戦いを凌いできたヤマト。
そしてそのヤマトの非常識っぷりに揉まれに揉まれたガミラス。
よくも悪くも堅実な戦いに終始してきたメルダーズが彼らに一歩遅れてしまうことになるのは、必然と言える出来事だったのかもしれない。
味方の支援を受けて後方に下がったヤマトは、急ピッチで応急修理が進められていた。
ユリカは対要塞攻略の策を考えながら、作業状況の進展を見守っていた。
とにもかくにも表面に展開するディストーションフィールドの回復が優先され、各所でフィールドジェネレーターの部品の交換作業と再調整が進められている。
装甲外板の応急修理も並行して進められ、速乾性液体金属を流し込んで穴を塞ぎ、表面に防御コートを乱暴に塗布して処置する。
作業用の小バッタと、ボソンジャンプで緊急帰投したアルストロメリアに作業を手伝って貰うことで、大幅な時間短縮を実現。工作班を作業服で外に出すよりもずっと安全でもあった。
その流れでデウスーラの応急修理も手伝ったら、
「人型も案外馬鹿にしたものではない」
とデスラー総統も隣で控えるタラン将軍も感服していた。
前衛艦隊はヤマトとデウスーラの応急修理と敵要塞解析の時間を稼ごうと奮戦していたが、七色星団でヤマトを苦戦させた巨大戦艦が登場すると目に見えて苦戦を強いられはじめた。
ヤマトのショックカノンすら弾いて見せただけのことはある。やはりあの防御力は脅威だ。
火力も不足ないし、たった一艦しかいないというのにここまで食い付いてくるとは――ヤマトと相対したガミラスも、同じような気分だったのだろうか。
妙な感想を抱きながらも、一応考えてあったあの戦艦の攻略法を実行しよう。
とにかく、『周りの物を有効活用すればいけるはずだ』。
応急修理も途上だが、ヤマト以外にあの艦をやれる艦はないという確信も得ている。
「……リョーコさん。あの戦艦をやります。コスモタイガー隊とヤマトの総力を結集して」
ユリカは自分でも無茶を言っているな、と思う。
あの巨大戦艦のフィールドはサテライトキャノンクラスの火砲でなければ破れない。
だがそれは一撃でやるにはそれしかない、というだけの話だ。
コスモタイガー隊の対艦攻撃の要であった大型爆弾槽は、最近出番が巡ってこなかった事もあって二〇個も残されている。
それに、ちょうどいい位置にある『アレ』を使ってヤマトとコスモタイガー隊の全火力を集中すれば、一隻くらいなら殺れる。
「……了解だ艦長。前の戦いのダメージが多少残ってるが、全機被害らしい被害もない。現時点での最良のコンディションを保ててる。あの巨大戦艦、なにがなんでも沈め――ん? なんだよウリバタケ、いま艦長と……あ? ハモニカ砲の奥の手? んなのあったのかよ……どうしていままで――まさかてめぇ、また『こんなことも』って奴か? え、違う? 一回で壊れる? マジでヤバい?――」
なにやら横やりを入れてきたウリバタケと問答を繰り広げているが……内容からするに、ハモニカ砲に隠しダネがあった様子。
ウリバタケすらここまで明かさずにいた奥の手の詳細が気になるが、まあ聞いている時間はないか。
「え〜と、とりあえず私たちのすべてを『叩きつけて』、あの巨大戦艦をぜぇったいにも撃破しましょう。まずはコスモタイガー隊が先発、サテライトキャノン以外の火力という火力を容赦も遠慮もなく、徹底的にお見舞いしちゃってください。そのあとヤマトが追いついて、『フリスビーをぶち当ててから』これまた全火力を徹底的に集中させます」
暗黒星団帝国に対してサテライトキャノンを使ったのは七色星団での戦いのみ。
あのとき戦った敵艦隊は壊滅させているのだから、存在が露呈していない可能性はある。
ヤマトの勝利を知られていることを考えると知られてしまっている可能性は無きにしも非ずだが、あのとき使ったエックスは装備が換装されているし、ダブルエックスは使っていない。
加えて『艦載機にも戦略砲がある』と知っているのなら、最低でも目立って強力なガンダムくらいはマークされていてもおかしくないのに、その様子がまったく見られない。
だとしたら、そこが付け込む隙になると考えても間違いはないだろう。
格納庫で再出撃の準備をしながらユリカの指示を聞いていたアキトは、
「アキト、ガンダムの火力も全部吐き出す覚悟で挑んでほしいけど、ダブルエックスは要塞攻略の要なんだから、サテライトキャノンを使えなくなるような損傷は絶対受けないようにしてね」
と念を押され、
「わかってる。サテライトキャノン、使うときは確実にあの要塞を沈めてみせるさ」
と答えた。
しかしアキトにはボソンジャンプで敵要塞の至近距離に接近し、あの主砲を撃つ瞬間に自爆覚悟で接射するという手段しか思いつけなかった。
どんなエネルギー偏向フィールドであっても、砲口まで遮蔽してしまえば発砲できないはず。
仮に遮蔽した状態で撃てるとしても、発射口の内側までは張り巡らされていないだろう。
ボソンジャンプならフィールドを乗り越えて接射に持ち込める。持ち込めるが――
(タキオンバースト流の影響を考えると、ボソンジャンプでの離脱はかなり難しい。次元断層のヤマトみたいに、反動を吸収させずにバックする? いや、あれだけの要塞が吹き飛ぶ爆発に巻き込まれたら、いくらダブルエックスでも木っ端みじんだ。間違いなく自爆必須の戦術になる……)
それでは駄目だ。
アキトの戦いは――贖罪は、ヤマトが地球を救うまで終わらない。
それは今後も現れるかもしれない脅威も含まれているし、アカツキが――義父たるコウイチロウまでもがアキトに「帰ってきて欲しい」と八方手を尽くし、その機会を用意してくれたのだ。
無碍にはできない。
(ボソン砲でガミラスの超大型ミサイルを送り込む? いや、内部に送り込むようなイメージは俺にはできない……)
もっとそういう訓練でもしておけばよかった。
後悔しても状況は変わらない。
なんとか代案を見つけなければ――。
「……」
戦闘指揮席からマスターパネルに映る要塞を睨み続けていた進も、いいアイデアがでないかと必死に頭を回転させていた。
奇しくもアキトが考えていた手段は進も考えていたが、実行できない手段と切り捨てる。
(フィールドを中和――駄目だ。一番ポピュラーの手段ではあるが、出力差が大き過ぎて中和には至らない。ボソン砲?――案としてありだが、それを実行する手段がない。アキトさんはたしかにA級ジャンパーだけど、内部のイメージがなければ送り込むことはできない。ユリカさんならできるだろうけど、病状の悪化を考えれば――。なにかないか、フィールドに穴を開けてサテライトキャノンを届かせるなにかが……)
考えに詰まり、なにかヒントになるものは――と後方を振り向く。そこには艦長席に座ったユリカと、その頭上にある沖田艦長のレリーフ――。
いまとなってはユリカと並んで進の背を押してくれる、目標と言っても過言ではない存在。
(いまはあの巨大戦艦を倒すのが先か……戦いの中で、なにヒントが得られればいいんだが)
進は一端思案を中断。ヤマトの火器のコンディションを確かめた。
とりあえずの方針が決定したユリカは、デスラーに一言断りを入れたあと、すぐに作戦開始を決定した。
「ミスマル艦長、確実に仕留めましょう。ヤマトの力ならできると、信じております」
ドメルの言葉にユリカも「お任せを」と応える。
張り切り過ぎで頭痛が酷くなってきたし目の前が軽く揺れるが、だいぶ慣れた苦痛なので耐えられる。
――耐えちゃいけないんだろうけど。
新しいドロップ薬を口に放り込み、雪が持ち込んでくれた無針注射針を腕に撃ち込んだ薬漬けユリカは、ルリと雪に突入コースの割り出しを依頼。ハリにもそれに則って突撃するように指示を出す。
ヤマトのフィールドはまだ完全ではないが、完全回復を待っているとあの巨大戦艦の蹂躙を許しかねない。
早急に退場願いたいのだ。
少々荒っぽく非道な手段が混じるが、背に腹は代えられぬと妥協するしかないだろう……。
「ルリちゃん、ロケットアンカーの強度は大丈夫そう?」
「計算上は。それでもできるだけ小さいのを選んでください」
「ラピスちゃん、機関部の様子は?」
「波動相転移エンジンの出力は八〇パーセントを維持。なんとか安定しています」
「全力運転は?」
「一八〇秒保証します。それ以上は、いまのコンディションでは厳しいですね」
ラピスの答えに頷くと、今度はハリと進に「一二〇秒で決着を付けるよ!」と宣言。
「了解!」
二人も戦意も露わに応じる。
ハリの腕に巻かれた包帯に滲む血の量が増えているのが気がかりだが、本人はまだまだやる気らしく交代する気配を見せない。
これから要求される精密操舵には不安が残るのだが……。
ユリカが不安がっていると、右エレベーターのドアが開いた。
「その傷で精密操舵は無理だと思うぞ、ハーリー……一人じゃな」
なんと、杖を突いた痛々しい姿の大介が第一艦橋にやって来たではないか。
頭に包帯を巻いて、右足と肋骨を折っていてとても任務には就けないと入院させられていたのだが……。
「ドメル将軍、申し訳ありませんが予備操縦席を使わせてください」
「しかし……」
「島さん、その怪我じゃ僕以上に無理ですよ!」
渋い顔の二人に大介は、
「だが精密操舵が必要なんだろ? その腕の怪我じゃ精密操舵なんてできやしないさ。だからハーリー、お前は無事な左手でスロットル制御を担当してくれ。舵は俺がやる。さすがに、腕を伸ばしてスロットルを動かすのキツイからな」
「……でも……」
「任せろって。だいたい入院してなきゃならないのは艦長だって同じなんだ。上司が頑張ってて部下が寝てるってのは、格好付かないだろう?」
「うぐぅっ……!」
まんまとダシにされたユリカが呻く。
たしかに艦長として指揮を執ると宣言したとき、猛反対されたのを屁理屈で押し通したのは自分なので、こう言われてはとても言い返せない。
「……わかりました」
ハリも折れるしかなかったようだ。
ドメルも大介の気持ちを汲んで座っていた予備操縦席を明け渡し、自分は空いている航行補佐席に移ていた。
「さてホシノさん、お手数お掛けするが航行補佐席の表示をガミラス語に変更して貰えませんか? 私も一仕事しなくては」
「――少し待ってください……これでよろしいでしょうか?」
「ありがとう。ヤマトのシステムには慣れていませんが、これで私も少しはお手伝いができるというものです」
ルリの仕事にドメルも満足。
七色星団のときから知恵袋として手腕を振るったドメルではあったが、ガミラス艦隊と合流してからは立場的に指揮を執れる立場ではなくなったからか、手持ち無沙汰だったらしい。
「コスモタイガー隊、全機発進!」
進の指示が格納庫に飛び、急ピッチで再出撃準備を整えていたコスモタイガー隊各機が次々とカタパルトレーンに乗せられ、ヤマトの外に飛び出していく。
ほぼすべての機体が大型爆弾槽を追加した重爆撃機仕様。倉庫の在庫を出し切る大盤振る舞いの――決して失敗できないオンリーワンアタック。
ガンダムは大型爆弾槽こそ装備していないが、各兵装を壊す覚悟で最大出力に設定し直している。特に隠し機能を解禁したエックスディバイダーには期待させてもらう。
全機発進したコスモタイガー隊がヤマトの周囲で一度停滞――突撃の構えを見せる。
「――ヤマト、敵巨大戦艦に向けて突撃開始!!」
「コスモタイガー隊、全機突撃開始っ!!」
ユリカと進の合図で、コスモタイガー隊とヤマトが動き出す。
先鋒はコスモタイガー隊。
「おっしゃぁ! いくぜ野郎ども!!」
リョーコが吼えれば部下たちから威勢のいい叫びが返ってくる。
大型爆弾槽で重くなった機体を巧みに操り、目標となる巨大戦艦目掛けて脇目も降らず挑みかかるヒカルやイズミを含んだアルストロメリアのパイロットたち。
対空火器を備えていない様子の巨大戦艦ではあるが、その穴を埋めるべく艦首の開口部からイモムシ型戦闘機を次々と放出してきた。
どうやらヤマトの航空隊を警戒してギリギリまで温存していたらしい。
だが、前線で艦載機を放出するのは判断ミスもいいところ。
「あそこが弱点だ!!」
リョーコが叫べば全員が虫型戦闘機の迎撃を交わしながら肉薄、一斉に爆弾槽をパージ。慣性で飛び込んでいく大型爆弾槽は、フィールドで威力の大部分を受け止められてしまったが、二〇発も連続で直撃させたことでフィールドに綻びを生み出すことはできた。
アルストロメリア全機はグラビティブラストの火力をすべて爆弾槽が命中した場所目掛けて集中させ、そこにダブルエックスとエアマスターとレオパルドも参加。干渉して威力を失ってしまうビーム兵器を使えないとはいえ、ガンダムの出力をすべて注ぎ込んだグラビティブラストの威力でゴリ押す。特にひと際高出力のダブルエックスの砲撃は圧巻であった。
そこに本命も本命のリョーコのエックスディバイダーが駆けつける。
リョーコはハモニカ砲を展開したディバイダーを頭上に構え、ウリバタケから教わったリミッター解除コードを入力して出力最大に。
するとディバイダーから重力波で構築された巨大な刃が生まれた!
これはウリバタケがロマンとして密かに研究していたが、構造的に負荷に耐えきれず、まず間違いなく一度の使用でディバイダーがスクラップ。下手をすればエネルギーの逆流でガンダムの腕部すら破壊しかねないと封じていた、ブラストブレード・モードだ。
収束した最大出力の重力波の刃を、切っ先から押し当てるように一転集中で突き刺す。
ディバイダーと機体のスラスターも全開にして押し込む。
スパークが迸るディバイダー。
コックピットに警告音が響くも構わずリョーコはブラストブレードを押し込み続けた。
ヤマト艦載機部隊の必死の攻撃で巨大戦艦のフィールドジェネレーターは悲鳴を上げ、乗組員はフィールドを維持せんと応急処置に奔走する。
だがそんな彼らの眼前にはやつらの母艦――宇宙戦艦ヤマトが迫っていた。
ヤマトの接近を確認したコスモタイガー隊が四方に散っていく。
エックスディバイダーは爆発寸前のディバイダーを投げ出しダブルエックスに掴まれながら急速離脱。
トドメはヤマトが任された。
「やるぞハーリー!!」
「はい大介さん!!」
出航以来互いに支え合ってきた二人が操るヤマトが、最大戦速で巨大戦艦へと突っ込む。
エンジンはラピスたちの努力で全力運転状態を維持、工作班の懸命の努力でディストーションフィールドも二〇パーセントの出力で展開可能となった。
大介は巨大戦艦の大型三連装砲から放たれるビームを速度を殺すことなく、艦体の避弾経始を利用して受け流す。
被弾した部分の防御コートが瞬時に帰化して煙となり、装甲が一部赤熱化して削られる。
だがヤマトは止まらない。その程度では致命傷足り得ない。
熟練の域に達した操舵でヤマトを操る大介に合わせて、ハリがスロットルを巧みに操作、大介が要求する推力を適時得られるようにしてくれている。
そして不慣れと言いながら航行補佐席のドメルが敵艦の回避行動を予測して進路を大介とハリに伝達、ヤマトの進路を確たるものとしていく。
「フィールド艦首に集中展開!」
進の指示でありったけの出力で展開されたフィールドがヤマトを包みこむ。
そのまま突撃――と思わせて、ヤマトは巨大戦艦の手前で大きく旋回。隣を航行中の巡洋艦に艦首を向ける。少々大きいが駆逐艦を狙うには遠い。妥協しよう。
「フィールド最大出力! ロケットアンカー発射!」
守が砲術補佐席からの制御で両舷のロケットアンカーを射出。
高密度のフィールドを身に纏った二基のロケットアンカーが艦首方向の巡洋艦目掛けて伸びていく。
拮抗。そして貫通。
フィールドを突き抜けて艦首付近に深々と突き刺さった。
「引っ張れえぇーーっ!!」
ユリカの号令に合わせて大介は素早く逆噴射、それまでの勢いを一気に殺して急停止――からの逆進で巡洋艦を強引に引っ張る。
巡洋艦は予想外のヤマトの行動にパニックを起こしているようだが、そんな巡洋艦の艦橋に進は容赦なく副砲を撃ち込んで指揮系統を黙らせる。
準備完了!
「錨上げっ!!」
ユリカの命令に従ってロケットアンカーのリールが最大トルクで巻き上げられる。
リールからは激しい金切り音が鳴り響き、鎖もあちこちで『ギギギ』と金属が変形する音を上げるが、躊躇せずに巻き上げ続ける。
巡洋艦は制御を失い噴射を続けるメインノズルの推力も借りて、ヤマトの艦首にぐんぐんと迫り――艦首表面に展開されたフィールドに接触寸前になる。
「いまだ!! 反転右二七〇度!!」
大介は巡洋艦がヤマトの艦首に接触するタイミングを見切ってヤマトをその場で二七〇度回頭、一二〇度回頭した時点で守はアンカーのリールをフリーに、鎖が自由に伸びるようにする。
すると巡洋艦は自身の勢いはもちろん、接触したヤマト艦首の窪みに上手く引っ掛けられるような形で『投げ飛ばされる』。
円盤状の艦体を持つため、まるでフリスビーのように。
哀れ巡洋艦はそのまま『質量弾』となって巨大戦艦に向かって突き進み――直撃した。
「全砲門! 敵艦艦首に向けて全火力を集中! 撃てぇっ!!」
最後の仕上げと、勢いのままに全火力を左舷に向けたヤマトから怒涛の勢いで砲撃が開始される。
傷つきながらも機能している主砲三基と副砲二基。それに生き残った左舷側のパルスブラストと復旧したミサイル発射管も足して次々と砲火を撃ち放つ。
ヤマトから放たれた砲撃は質量弾代わりにされた巡洋艦をあっさりとハチの巣にして大爆発を引き起こしながら、その先にある巨大戦艦の発着口目掛けて集中される。
度重なる攻撃による負荷、そして味方の巡洋艦を故意にぶつけられて限界を迎えつつあった巨大戦艦のフィールドがついに決壊!
偏向フィールドの加護を失った巨大戦艦の艦首発進口から次々と内部に砲撃が侵入――反対側から突き抜ける。
「急速離脱!!」
効果を認めたユリカはすぐさま離脱を指示、ヤマトはメインノズルと補助ノズルを最大噴射。
猛烈な噴射炎を吹き出しながら、巨大戦艦の爆発が生み出した火の玉を背に悠然と宇宙を進む。
ボロボロになったロケットアンカーを巻き上げつつ、行きがけの駄賃とばかりにほかの艦への火力支援を加えながらもデウスーラの傍らに戻る進路を取った。
共通の目的を持ち、互いに認め合って数多くの修羅場を共に潜り抜けてきたからこそ生まれる連帯感。
それにフラッシュシステムを介したヤマトとのほんのささやかな、だが確たる一体感があってこそ成し得る『ロケットアンカーによる投げ技』。
まさに神業であった。
ヤマトの離脱に武器を使い果たしたコスモタイガー隊も続き、次々とヤマトに着艦。
ダブルエックスはサテライトキャノン周りの再点検、エックスは失ったディバイダーの代わりにシールドバスターライフルを装備してすぐさま再出撃、エアマスターとレオパルドと協力して周辺警戒を開始した。