冥王星前線基地の残存艦隊を、アステロイド・シップ計画とGファルコンDXの活躍で辛くも切り抜けたヤマト。
しかし冥王星前線基地攻略作戦で負った傷は大きく、ヤマトは航行スケジュールの予定日数を超過する形で太陽系内に足止めを食らっていた。
だが、それでも艦内の空気は明るかった。
その最期に思う事こそあったが、地球を滅亡寸前にまで追い込んだ脅威を退ける事に成功し、図らずも最後の希望として2度目の復活を遂げた宇宙戦艦ヤマトの威力を肌身に感じる事で、多少の遅れならどうとでも出来ると気が大きくなっているのだ。
本来なら緩んだ気を引き締める立場にある艦長のミスマル・ユリカも、
「いえ〜い! 私達勝ったよ〜〜! 祝勝会だ〜〜!」
と艦内のあちこちに出現しては、左手でVサインを高らかと掲げ、勝利の喜びを共に分かち合おうとハイタッチをしたり、手を握り合ったり、隣で付き添っているアキトやエリナの眉間に皺が寄るレベルで盛り上げていくので、誰も歯止めがかけられなかったのである。
ユリカなりに皆が気落ちしないようにと、艦内の空気を持ち上げようと必死だったのだ。
とは言え陰で小言を言われる事は避けられないし、「お前自分の体調わかってるのか?」と夫から白い眼で見られて、泣きを見る羽目になるのも全部自業自得である。
ある意味、天国の沖田艦長が苦笑しているであろう軽〜い空気で満たされたヤマト。
その艦長室で、そんな空気を積極的に広めているユリカは、日々の書類仕事に勤しんでいた。
冥王星前線基地残存艦隊との決戦から、8日程が経過していた。
「ふ〜む。やっぱりあちこちやられたせいで修理に時間がかかるんだねぇ……」
ペン型入力端子を鼻と唇の間に挟んで唸りながら、真田が纏めて提出したヤマトの損害報告に頭を痛める。
今は壁に収納したベッドの裏側の折り畳み式デスクを開いて、その上に紙書類とバインダー、ファイル、さらには電子報告書を表示したウィンドウなどを広げて、ユリカなりに今後の運航についてアイデアをひねり出している所だ。
「真田さんとセイヤさんに言わせると、結構細かい所にダメージが及んでいるらしく、時間を取られているそうです――それに、部品の生産が追い付かないので作業の進みが遅いとか」
ユリカの隣で書類の整理を手伝っているルリが補足する。
今は電算室をフル稼働させる必要も無く、索敵任務は部下達と自ら手伝いを名乗り出たハリの好意に甘え、ルリはユリカとお話をしに来たのだが、事務作業中だったので手伝いを買って出たのだ。
ルリはユリカの隣で電算室に頼んで出して貰ったヤマトの損害報告一覧と、真田が提出した修理の進展や運用によって判明した問題の改善作業、それに伴う資源の消費についての資料を突き合わせて、今後の見込みを立てる。
「ユリカさん、やはりカイパーベルトの天体だけで資源を調達するのには限度があります。希少金属などの資源がほとんど得られません……一応アキトさん達がこの間のガミラス艦の残骸なんかを拾い集めてくれていますが、回収に苦労しているようです。特にアキトさんがボソンジャンプを駆使して頑張ってくれてますけど」
ルリは資料を睨みながらユリカに報告する。
現在ヤマトは破損した自身の残骸、撃破したガミラス艦の残骸、さらにはカイパーベルト内の天体から回収した資源を使って艦の修理作業と、今後に備えた資材と交換部品のストックに努めている。
とにかく単独でどこにも寄港せず航行するしかないヤマトは、こういう風に残骸を漁って再利用したり、可能であれば立ち寄った惑星から資源を確保しなければ保守点検すら危うい。
その資源採掘に役立つのが意外と汎用作業機械として使える人型機動兵器各種で、Gファルコンに装備された相転移エンジンの恩恵で活動時間が大幅に延長されたこともあり、航空科のクルーはヤマト防衛の為の半数を残してローテーションで飛び回り、使えそうな資源の回収作業に当たっている。
今の所ガミラスの姿は確認されていないが、不意の遭遇戦は想定する必要があるので、作業艇の類を出撃させる時は航空科が護衛するのが当たり前となっている。
そんな状態なので、固定武装だけでもエステバリスを凌駕する戦闘力、かつボソンジャンプ無しでも速力と運搬能力に優れるダブルエックスはほぼ出ずっぱりの日々だ。
アキトは状況が状況なので文句も言わずに働いているが、依存度の高さから疲労が溜まり気味なので、出来ればアキトを休ませたいと皆が考えているのだが、資源回収だけは早く終わらせないと、その後の生産作業が全部遅延してしまうため外すに外せない。
状況をさらに悪くしているのは、既存機と大幅に異なる操縦系を持つダブルエックスに乗れるのは、開発に協力したアキトと月臣、アキトから直接レクチャーを受けた進しかいない事だ。
またパイロットで唯一のA級ジャンパーである事も、彼にとっては災いしていた。イネスがナビゲーターをするには、まだ艦内の負傷者の具合が悪過ぎたのである。
ちなみに、機関班からはエンジン絡みで「コスモナイトがもう少し欲しい」と要望があったため、ラピスに「駄目ですか?」と潤んだ瞳で頼まれては断れず、アキトは可哀そうな事に単身タイタンにジャンプして例の採掘場所からコスモナイトも回収してくる羽目になった。
とても不憫だ。
余談だが、回収した資源は1度に工場区に運んだり倉庫に入れられないため、反重力感応基を取り付けてアステロイド・シップ計画よろしくヤマトの周囲に停滞させて少しづつ消費している。
本当に地味ながら便利な装置であった。
おまけにこれでユリカとルリがさらなるひらめきを得て、反重力感応基のさらなる発展を考えてしまったので、修理が一段落したら最終案を真田とウリバタケに纏めて貰う所存である。
「はあ……この7日間、アキトにまともに会えてないなぁ」
寂しそうに呟くユリカにルリは少し同情する。
が、内心「どうせ会えるようになったら所構わずイチャイチャするんでしょ」と冷ややかな考えも浮かんでくる。しかし、それを咎める事は誰にも出来ないだろう。
だって本当に目の毒なのだから。特に独り身で相方募集中だったり結婚願望がある人間にとっては。
ルリもその内の1人なので、2人が再会して元の鞘に収まった事に対する喜びのピークが過ぎれば、こういう感想も出てくる。
そんなんだからエリナに「ラピスの教育に悪いから自重しろ」と夫婦そろってお説教を食らうのだ。
思春期直前のラピスの眼前だと言うのに、2人の世界作ってキスなんてしたら当然である。
で、その後決まって「恋をするってどんな気持ちなんですか?」とラピスに質問されるエリナも気の毒だった。
ラピスももう13歳。そろそろ誰かに恋をしたっておかしくない時期だから、なおさら自重を求めたい。
「すぐに会えますよ。離れ離れになったわけじゃないんですから。それに、資材の回収もそろそろ目処が立つらしいですし、そうしたらたっぷりイチャイチャして下さい――さて、一息入れましょう、ユリカさん」
そんな考えは顔に出すことなく、休憩しようと切り出す。
「そうだね」
とユリカも応じる。
と言っても、今のユリカは栄養ドリンクの類か水しか飲めない。なので、ルリも付き合って同じ栄養ドリンクを飲むことにする。ルリも疲れているので、栄養ドリンクがとても美味い。
こうして家族の時間を過ごす事が、最近のルリとユリカの楽しみでもあった。
しかし、穏やかに見える日常の裏では、(ある意味ではとても深刻な)問題が発生しつつあったのだった。
新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ
第一章 遥かなる星へ
第十話 さらば太陽系! いつか帰るその日まで!
ヤマトの修理作業は順調に進んでいた。
修理開始から10日が過ぎる頃には装甲外板の補修作業は粗方終了し、ヤマトの艦内はようやく気密を取り戻す事が出来た。
そこからは専ら内部の修理活動になるのだが、これがまた厄介なもので、単独での長期的に多種多様な作戦行動が求められるヤマトは、全長333m、艦幅50mの艦体に似つかわしくない程多数の機能を盛り込んだ宇宙船である。
結果、とにかく内部構造が複雑で余裕が無いと言う致命的な問題を抱えている。
必要な物を効率的に詰め込んではいるが、一般的な宇宙戦艦には不要な装備(艦内工場とか)も多いため、必然的にそうなってしまうだ。
先の戦闘でヤマトが負った損傷の内、特に被害の大きかった反射衛星砲のダメージの回復にはかなりの時間を割かなければならなかった。
装甲板の穴を塞ぐだけなら製造含めて2日もあれば足りたのだが、内部への被害も大きく、装甲を塞いだ後艦内から修理すると却って手間になる部分も散見されたため、装甲の修理と並行して破損部から内部の部品交換や修理作業を行う事になった。
真田とウリバタケのコンビはここでもその能力を発揮し、ぱっと見どう手を付けるべきかと悩みそうな損傷個所を一瞥すると、すぐにその場で打ち合わせをして補修の優先順位をあっという間に定めてしまった。
その後はすぐに部下を率いて補修作業に乗り出し、陣頭指揮を執りながら自らも工具を手に破損個所に挑む。
だがその2人が指揮しても手間取る程損害は大きい。
浸水による被害と被弾の衝撃等で細々とした破損が多かったこともあり、ヤマト全体の検査と修理作業が一段落して何とか出港出来る、と言う所まで回復するのに予定されていた補修日数の14日を大きく超過する後れを出し、スケジュールの予備日数もまた、大きく目減りしていた。
そんな大修理が終わる少し前に、その事件は起こった。
外装の修理を完了し、後は内部の補修が完了すれば弾薬や消耗品の補充作業に切り替えられるので、日数の消費が激しい事もあって修理完了次第出航すると言う話になった。
そこまでは特に問題が無い。
問題はその後で、ユリカはヤマトが誇る技術者3人組に今後の事を考えた提案とやらを持ち掛けられた事である。
「新兵器の開発?」
第一艦橋で真田とウリバタケ、さらにはイネスを交えた面々に話を振られてユリカは目を白黒させる。
「ええ。先の冥王星海戦でコスモタイガー隊の決定力の乏しさが課題になってしまいましたし、ダブルエックスはサテライトキャノンの運用が第一で、今後も今回の様に戦闘に参加出来ない状況が想定されます――そこで、その穴埋めをするために既存機をより強化出来ないかと、仕事の合間を縫って3人で知恵を絞ってみたのです」
真田の言葉にユリカは腕組みして天井を仰ぐ。
確かにあの戦い、航空隊にもう少し火力があれば楽だったとは思うし、あれで敵機動部隊が出てこられたらヤマトはどうなっていた事か……。
だから、航空隊が強くなるに越した事は無いのだが……。
「ヤマトの設備と資材で出来るんですか? 実働28機分ともなると、かなりの資源が必要になると思うんですけど」
ユリカの疑惑は尤もだ。万能工作機を持つヤマトの工場区画とは言え、倉庫のスペースにも限りがある。それが資源の上限だ。
これを増やせない以上、下手に許可を出してヤマトの懐事情を切迫せるわけにはいかないのだ。
「何とかなります。いきなり全機分用意することは難しいですが、時間さえ頂ければ可能です。すでに試作品が1組完成していて――」
「ちょっと待って下さいな」
ユリカはこめかみをぴくぴくさせながら真田の言葉を遮る。今、聞き捨てならない事を聞いた気がする。
「私、新兵器の開発の許可を求められていたと思うんですが、試作品とは言え何故もう造られてるんですか? その辺も許可制だと出航前に念を押しましたよね?」
ユリカの指摘に「あっ」と真田が口を押える。隣に立つイネスも「失言ね」と非難を込めた視線を送り、「ちっ、しくじりやがって」とウリバタケも悔しそうな顔をする。
そうかそうか、あんたら全員グルだな。こんなところは本当にナデシコの気質にがっつり染まってるじゃないか、とユリカは少々頭痛を覚えた。
修理作業の遅滞は聞いていないので仕事の合間を縫ってやったのだろうが、だったらその労力で1日でも早く修理を進めてくれた方がありがたいのに(2日も予定より短縮しているが)。
ちなみに、ヤマトが誕生した世界の真田も流石に無許可では無いが、色々と発明を行っては“テストも無しにぶっつけ本番で披露する”事が多々あった事は、流石にユリカも知らない。
知っていたらもう少し手綱を締めている。そりゃもうギリギリと。
どちらにせよ、現在のヤマトは軍・政府の管理下を外れたかなり特殊な状況にある。
そのため、ヤマトの運航に携わる諸々の案を最終的に決定する最高責任者は艦長のユリカであり、何をするにもその許可を取り付ける必要があった。ので、その許可を取り付けずに勝手に新装備の開発だとか生産とかを行って、資材や労力を使われるのは無視出来ない問題となる。
とはいえ、ユリカの体調を気遣った副長のジュンがとても有難い事に、「少しでもユリカの負担を減らせるなら……」と自身の裁量で7割近い雑務を片付けてくれるし、要点もまとめて口頭報告してくれるので、ユリカはそれを聞いて問題が無ければハンコを押すだけとなっている事案も多い。
もしも彼がいなかったら、ユリカはこの時点で過労で倒れていた可能性がある。
ルリも暇を見つけては手伝ってくれる事もあり、ユリカの負担はかなり減っていて、その分体調管理に精を出しているのが現状だった。
常日頃ナデシコ時代のような気安さと能天気さを見せているとはいえ、ユリカも並々ならぬ覚悟でヤマトに乗り込んだのだ。
それに、他のクルーは知らないとは言え、ユリカは自分なりにヤマトの艦長としての気負いがある。半端な仕事をするつもりは最初から無い。記憶の断片でとはいえ、あの偉大な沖田艦長の背中を見た1人なのだから……。
ただ、彼女のやり方だと艦内の空気が(特に平時において)緩いだけなのだ!
「責任追及はまた後にするとして、その新装備って奴を見せて貰いましょうか」
ユリカはそれはもうにこやかに要求するが、目は全く笑っていない。
その迫力に真田もウリバタケもイネスもついっと視線を逸らす。一応悪い事をしたと言う自覚はあるようだ。
と言うか、初めて会った時から意外とお茶目な所があった真田ではあるが、どうもウリバタケから悪い影響を受けている節がある。
少なくともヤマトが生まれた世界の真田は、許可も無く勝手をしたりはしなかったと思うのだが……。
あれ、もしかしてそれってナデシコな空気を作った私のせいじゃ、と思ったそこは敢えて無視をする。無視をするったら無視をする。
「えー、ゴホンッ。では、新装備については私から説明しましょう」
ようやく巡ってきた千載一遇のチャンスにイネスが俄然張り切る。
なぜなにナデシコを(驚愕の艦長公認かつ主導の下に)演出したイネスではあるが、やはり自分の口で直接説明するのとでは得られる快感に雲泥の差がある。
それはもう大変満足げな表情で口を開くイネスを横目で見た真田は、「本当に楽しそうで生き生きとしている。この表情は好きなんだがなぁ〜」とか心中で呟いていた。
あまり女っ気のあるとは言い難い真田ではあるが、女性に興味がないわけではない。恋愛だってしてみたいという欲求も一応ある。
ただ、それ以上に科学に向き合っているだけであるし、そんな自分に付いてこれる女性と言うものが想像出来なかっただけだ。
そもそも、自身の科学との向き合い方は生涯を掛けたものなので、妻を娶って巻き込むことを内心恐れ、及び腰になっていたのだ。
だが、ネルガルに入りヤマト再建計画を通じて接点を持ったイネス・フレサンジュは、そういう意味では真田にとって大変好ましい女性であると言えた。
美人なのは勿論、自分と共通の話題で対等以上に渡り合えるのだから、話が結構盛り上がるのだ。それに、うっかり口を滑らせた自身の科学との向き合い方にも理解を示してくれたのだ。
意識しない訳がない。
事実ヤマト乗艦前にも頻繁に食事の席を共にしたり、技術面で相談を持ち掛けられたりもしているので、憎からず想っていると言っても良い感じなのだが、どうにもこの説明好きには馴染み切れないでいる。
そもそも真田も“自分が説明したい”クチなので、問答無用で聞き手に回らなければならないイネスの“説明”は少々苦痛なのだ。
つい口を挟んだり、先読みして正解を言い当ててしまうと、冷たい視線が飛んでくるので地味に辛いのである。なぜなにナデシコがそうだった。
格好も含めて耐えがたいので、今後の出演はボイコットする気満々であった。
対するイネスも、自分の隣にいて好ましく思える男性として真田を見てはいるものの、自分の説明好きをイマイチ理解してくれない事には多少の不満を持っている。
良いじゃないか、好きなだけ喋らせてくれたって。しかし、それを差し引いても好ましい感情を持っていることは事実。
一緒に居て苦痛に思えないと言うのは、相性が良いと考えて良いのではないかとも考えているが、イネスはこの旅が最良の結果で終わらない限り自分の幸せを追求するつもりはない。
それが、共犯者としての責務であり、場合によっては自分の命すら差し出す覚悟もっているからなのだが、きっとそれを主犯であるユリカに話せば「そんなの気にしなくて良いのに」と返されるに決まっているだろう。
だが自分の気が済まないのだから仕方ない。
だから、絶対に助けてみせる。
そんな深刻な考えも頭を過ったがまずは説明、1も2も無く説明だ。
イネスはどこからともなくホワイトボードを取り出して準備を整える。
「一体何処から……!?」
真田が驚いているが……乙女の秘密だ。
「この度私と真田さんとウリバタケさんが考案したのは、ダブルエックス級の火力をエステバリスに持たせるための多目的兵装――名付けてディバイダ―と連装ビームマシンガンの2つの武装です」
「ディバイダ―? 製図用語で“仕切る”って意味ですよね?」
電探士席で状況を見守っていたルリが合いの手を入れてあげる。
この際付き合ってあげよう。普段ユリカの健康管理でお世話になっているのだし――そうなると今後もなぜなにナデシコは定期的に協力しないといけないなぁ、と考えてルリは少し憂鬱な気分になった。
恥ずかしいものは、恥ずかしいのだ。
「そう、このディバイダ―は一見すると大型シールドにしか見えない」
ホワイトボードに貼られたカラー写真には、縦長で上下対称デザインの大型シールドが写っている。白を基調に縁を紺に近い青で塗られ、アクセントで赤色が配されている。
中央がドーム状に膨らんでいて、そこを中心に“Xのシルエットを象った”プレートが4枚伸びている。
上下の端には見るからに推力の高そうな、大口径スラスターユニットが装着されている。
「しかしてその実態はその名の通り複合兵装システムとなっているの――この通り」
イネスが懐のバインダーから新しい図面を取り出して張り付ける。
先程のシールドが中央から割れ、内部構造を露出した図だ。割れたシールドは後ろ側に折り畳まれ、中央から伸びていたプレートも起き上がって正面から見てXのシルエットを象り、上下方向を向いていたスラスターユニットは後方に倒れている。
特に目に付くのがシールドが解放された事で露出した中身で、まるでハーモニカのような多連装砲が覗いている。
中央に大口径1門。その上下に小口径の3連装砲が3つずつ装備され、計19門もの砲門が内蔵されている。
「ディバイダーはダブルエックス開発時に試作された、展開式シールドと、多連装グラビティブラスト――通称ハモニカ砲と、大口径可変スラスターユニットを組み合わせた武装ね。つまり、ディバイダーを装備すれば攻撃力・防御力・機動力の3つの機能を1度に強化出来るって寸法ね。携行武装だから、人型で5本指のマニピュレーターを装備していれば、とりあえずはどの機体でも使えるのも魅力かしらね」
自信作と言わんばかりに胸を張るイネスにとりあえずジュンが突っ込む。
「3つの性能が上がるのは良いとして、実際の性能はどうなんですか?」
「まずはシールドとしての能力だけど、表面に強力なフィールドを多重展開出来るから、総合的な防御力はダブルエックスのディフェンスプレートよりも上よ。試算では機動兵器の武装じゃ傷1つ付かないわ。火力も勿論保障するわよ。ハモニカ砲は最大出力ならGファルコンDXの拡散グラビティブラストを上回る火力があるしね」
「え? GファルコンDXと前置きしているという事は、エステバリスと合体した時とでは火力が違うんですか?」
イネスの言い回しが気になったラピスが疑問を投げかける。
実はダブルエックスの開発にはノータッチで、ヤマトの再建――特に機関室に入れ込み続けていたラピスは、Gファルコンを含めたヤマト伝来以降の機動兵器知識がやや乏しいのだ。
「そうよ。エステバリスやアルストロメリアと違って、ダブルエックスは相転移エンジン搭載機。それもGファルコンよりも強力なモデルで合体した後は出力が合計した値になるから、必要に応じてそれを分配する事でGファルコン側の機能も強化出来るの。それにね、ダダ余りってわけじゃないけど、自力で使えないサテライトキャノンを除けば武装や機能がシンプルな分、相転移エンジンの出力に余裕があるのよ」
イネスはラピスの疑問に対し、丁寧な回答を心掛ける。ここが腕の見せ所だ。
「また、サテライトキャノン用のエネルギーの蓄積補助や、発射後の再始動を高速化するために、機体の各所に“エネルギーコンダクター”と命名された新型コンデンサーが内蔵されていて、余剰エネルギーをそこに蓄積し、必要とされる時に開放する事でダブルエックスは瞬間的に大出力を発揮することが出来るのよ」
何時の間にか表示されていたダブルエックスの簡易図解を使用して説明を続ける。
「これらの要素が重なっているから、GファルコンDXはノンオプションでも対艦戦闘に問題無く対応出来るってわけ。完全新規設計で、新しいアイデアを詰め込めたからこそ、実現出来たのだけどね」
イネスの説明にラピスは「納得しました。凄いんですね、ダブルエックス」と素直に称賛する。
喜んでくれたラピスの様子に満足したイネスはホワイトボードの脇に吊るしていた袋から飴玉を取り出すと、「はい、良い子にはプレゼント」とラピスに手渡す。
「ありがとうございます」と、ラピスは嬉しそうに受け取って、早速貰った飴玉を頬張って美味しそうに口の中で転がす。第一艦橋での飲食は禁止されていないし、食べかすを出さない飴玉では叱責もされない。
口の中に広がる甘味を味わいながら、ラピスは興味津々と言った視線でイネスに続きを促す。それを受けてイネスも喜び勇んで続ける。
「説明に戻るけど、このハモニカ砲は見ての通り多連装だけど、これは言うなれば重力波同士の相互干渉を利用して破壊力を向上させるための措置であると同時に、短砲身でも効率的にエネルギーを放出出来るように、と言う構造でもあるの。まあ、こうでもしないとこのサイズで十分な火力を叩き出せないのだけども」
「サテライトキャノンと同じ理屈ね」とイネスは付け加える。
ダブルエックスのサテライトキャノンが連装型で、発射後に1軸に合成する方式を取っているのは、単装だと要求されたエネルギーを撃ち切れないからだ。
その副次効果として、発射したエネルギーが旧ショックカノンよろしく螺旋を描きながら1本に纏まり、ドリルの様に突き進むので貫通力向上と命中時の余波が広範囲に広がる効果が生まれたのだ。
冥王星前線基地を容易く破壊で来たのはこの効果によるところが大きく、テスト段階ではこれによる効果が把握出来ていなかったことも、あの時の2人が慎重にならざるを得なかった理由の1つだ。
余談だが、ディバイダーの土台にもなっているハモニカ砲の部分は、板状のパーツの中にコンデンサーやジェネレーター等が組み込まれているため、見かけよりも複雑な構造を持つ。
「だから、砲門数だけなら19発だけど、実際は7発と考えてくれた方が正解に近いわね。ただ単に細い重力波を7本発射するんじゃなくて、シールドから伸びてる4枚のプレート、これはダブルエックスのリフレクターの様に、制御フィールドを形成してグラビティブラストの収束制御を行う外部制御装置なの」
「これもサテライトキャノンの応用技術よ」とイネスは更なる補足を加える。この場合は、リフレクターユニットが発生するタキオンフィールド制御機構を指す。
「これを使う事で面制圧を実現する拡散放射から、相互干渉で破壊力を大幅に増した収束射撃、さらにはフィールド突破力に優れて対象を切断可能なカッター状に加工して放出するなんて荒業も出来るし、逆にシールドモードで受け止める重力波の収束を乱せれば、ディストーションフィールドと合わせて理論上は駆逐艦クラスの艦砲射撃を受け止める事も可能よ。端に付いている大口径スラスターも、ダブルエックスに採用されているのと同じタイプの新型重力波放射スラスターで、推力も大きい……これらの機能を統合して考えた場合、ディバイダーを装備した機体はその性能が大幅に向上すると言っても過言ではないわ」
長々しい説明を根気強く聞く艦橋の面々は、内心「そろそろ終わらないかなぁ」と考えながらも、その表情からまだまだ続くと察してげんなりしつつ、続きを促すことにする。あまり、機嫌を損ねたい相手ではないし。
「それだけ聞けば万能だけど、何かしら欠点があるんじゃないの?」
今回合いの手を入れたのはエリナだ。一応仲の良い友人であるし、共犯者である事も相まって無視するのが憚られる――だが本当は長くなりそうなので食い付きたくないのだが……。
「勿論あるわよ。まず最初の欠点はその重量と大きさから来る取り回しの悪さ。身の丈程もある大型シールドですもの、当然取り回しが良いとは言えないわね」
言われてみれば当然だな、とパイロットでもある進は頷く。
余談だが、フィールドがあるのに増加装甲の一種であるシールドが登場したのは、ガミラスが強力過ぎて、フィールドに依存しきった従来の防御方式では心許無いと考えられたからだ。
なので、今は装甲も立派な物を付けるべきと言う風潮になっている。
「次の欠点が要求出力が高い事。Gファルコンエステバリスだと、その機能を十全に発揮するには補助バッテリーパックを装着する必要があるわね。そもそもハモニカ砲は所謂“必殺武器”として調整しているから、主砲として常用する事を前提とし、内蔵ジェネレーターを組み込まれている拡散グラビティブラストに比べると、どうしても燃費が悪い。だから使い所は考える必要があるし、バッテリーパックを使い切ったら使えなくなってしまうから、エステバリスでの使用はダブルエックスに無い制限がどうしてもかかってしまうの」
確かにエネルギー制御問題は大変だと、飴を舐めながら機関長のラピスが頷く。
この間の戦闘で思い知ったが、増設されたエンジン出力に物言わせて高性能を獲得した新生ヤマトも、エネルギー効率は悪い傾向にあった。
「後は3つの機能を強化とは言っても、実際には機能が競合して同時に使える機能は2つまでって事かしら。尤も、これはマルチウェポンと言う武器自体が抱える根本的な問題でもあるけどね」
ふむふむと頷く面々。確かに複数の異なる機能を両立させる事の難しさはわかる。
「連装ビームマシンガンの方はもっと単純よ。上下連装なのは、ダブルエックス・クラスのビームを交互に発射する事で、威力を維持したまま射撃レートを上げるためと、2軸合成で強力な単射までをカバーする事を目的としたもの。トライアングル型の大型ビームジェネレーターを採用する事で、ダブルエックス程の出力が無くても、同等の火力を叩き出せる――とは言え、そこそこ重量があるし、近距離から中距離の制圧射撃を目的としているから、DX専用バスターライフルよりも射程が短いのが難点だけど、既存の火器よりは遥かに強力よ」
これにて説明終了と判断した面々が拍手を送る。
説明ご苦労様でした、と形ばかりの労いであった。
「ヤマトの万能工作機械に余裕があれば、新型の1機でも造りたい所だったんだけど、流石にそこまでの余力が確保出来る保証も無くてね……一応アイデアと言うか、設計図自体は無いわけではないのだけども……」
自分から脱線しておきながら言葉を濁すイネスに、戦闘班長として問い質したい進が尋ねる。
「新型の設計図? そんなものがあるのならどうして地球で造ってこなかったんですか? ダブルエックスは完成しているのに」
尤もな疑問だとイネスは思った。
こればかりは自分が説明するには少々不足なので、真田に視線を送ってバトンタッチする。
心得た、と真田は視線で返して進に答える。
「イネスさんが仰った新型は、簡潔に言えばダブルエックスの量産型の事だ。元々高性能を追及し過ぎてコストも高く、生産性の低さが問題視されていたんだ。だからコストダウン機を作ってそちらを今後の主力艦載機に――という案はあったんだが、ダブルエックスの稼働データが不足していた発進前では形に出来なかったんだ」
「へぇ〜! ダブルエックスの量産型ですか! 造れるなら1機でも良いから欲しいですね!」
ユリカはあっさりと食い付く。とにかく戦力不足が深刻なヤマトなので、少しでも戦力が増える分には一向に構わない。後は資材管理の問題だ。
「一応ダブルエックスと内部構造の大半や外装の一部を共用出来るようにデザインしていますので、開発そのものは全力を挙げれば1ヵ月以内に、多少余裕を見ても2ヵ月以内には完了出来ます。先程開発したビームマシンガンとディバイダーを最も効率よく使える装備バリエーションの他、単装になりますが、サテライトキャノンも装備出来ますし、そちらならGファルコンとの連動も可能です」
「ほう。もし本当に造れるのなら、戦力として当てに出来そうだな」
最近影が薄いゴートが話題に入る。こういったところで輪に入らないと、忘れられそうな予感がするのだ。
「そこは期待してくれて良いぜ、ゴートの旦那。なんせ、ナデシコが誇る俺とイネス先生に、真田さんが組んだんだからな! 鬼に金棒って奴だ!」
とウリバタケも太鼓判を押す――自信満々なのは良いが、失敗作もあるから少しだけ不安が残る。
「ジュン君、進、どう思う?」
頼れる副官と息子に意見を求める。2人は少しだけ難しい顔をして悩んだ後、目を合わせて1つ頷く。
どうやら同じような結論に達したらしい。
「とりあえず、1機だけならあっても損は無いと思うよ、ユリカ。戦力を増強したいのは事実だし、サテライトキャノンの追加が可能なら有難いよ」
「俺も副長と同じです――正直サテライトキャノンの増産は心苦しくもありますが、ヤマトの航海成功には欠かせない力です。それに、ダブルエックスの負担を少しでも軽減出来るのなら価値があるかと」
その意見を受けて、ユリカはダブルエックスの量産機の試作を許可する事にした。まあ、連中も航行中の宇宙戦艦が新型を用意するとは思わないだろうから、意表を突けるかもだし。
その後、勝手な兵器開発をした真田、ウリバタケ、イネスは厳重注意を受け、始末書の提出を求められた。ついでに「2度はありませんからね」とマジで脅しておく。
想像以上のユリカの迫力に3人揃って「2度としません」と真顔で頷く。
「こんなこともあろうかと、って言いたかっただけなのに」
等と裏で嘆いていた他、口を滑らせた真田がウリバタケやイネスに食事を奢る羽目になった事は、容易に予想出来たであろう。
なお、このセリフを言いたがるのは、大昔に誕生した日本が誇るヒーロー番組“光の国の超人シリーズ”。
その記念すべき1作目に登場するメカニック担当の隊員が、「こんなこともあろうかと、二挺作っておきました」というセリフと共に新型の光線銃を取り出したシーンがあり、それ以外にもストーリーの都合で何の伏線も無く発明品を出したり、その場その場で必要となるアイテムをすぐに用意する活躍から、メカニックキャラクター=「こんなこともあろうかと」のイメージが生まれ、後続の作品に多大な影響を与え、現実世界でもメカマン憧れの名台詞として、何と200年以上経過した今日まで語り継がれている。
勿論真田やウリバタケが、事ある毎に言いたがるのはこの事を知っていて、憧れがあるからだ。
んで、その後すぐにダブルエックスに装備した新兵器の実演テストが行われた。
パイロットはアキトを休ませるためと進が代理を務め、カイパーベルトの小天体相手にその威力を見せつける。
結論から言えば試作段階で想定された通りの威力を発揮し、そのまま正式に量産体制に移行する事が決定され、件の新機動兵器の開発が加速する事になった。
その後に行われたバッテリーパックを増設したエステバリスでも運用に成功。
最大出力のハモニカ砲の使用制限はやはり厳しく、使い所は難しかったがその威力にテストを担当したサブロウタも満足。
元々エステバリスやアルストロメリアがダブルエックスに劣るのは、相転移エンジンの有無による所が大きいが、相転移エンジンを増設出来ないのにはそれなりの理由がある。
まず第一に搭載スペースが無い事。最初から搭載前提で開発されたダブルエックスと違って、エステバリスは動力を内蔵するようには設計されていない。アルストロメリアも将来的な改装の上で搭載可能というだけで、現時点では搭載不能な設計である。
Gファルコンと言う形で増設するのならともかく、下手に外付けのエンジンユニットを付けると機体バランスが崩れる危険性があり、そもそもその大出力を適切に活用する構造も有していないため、実現に至っていない。
が、今回の改装はある意味ではサテライトキャノンの技術転用も含まれていて、エンジンを搭載するのに比べるとバランスの調整も楽だし、何よりエステバリス本体の設計変更が必要ない。
サテライトキャノン用のエネルギーパックは量産が利かないし、大き過ぎてエステバリスでは持て余してしまうが、このパックは大きさがエステバリスの腕程度と小さく、バッテリーなので過剰供給の心配もない。
これをGファルコンとの接続コネクターに2本接続、腕部のエネルギー供給ラインと剛性に手を加えてやるだけで、ダブルエックスと同等の強力な火器が使えるようになったのだからお得だ。
このおかげで、量産型ダブルエックス用の火器として考案された先の2種の他に、ハイパービームソードの廉価品である大型ビームソードや、小型シールドと一体になったシールドバスターライフルと言った武装も使用可能になったのである。
問題は、十分な数を調達するにはもう少し時間がかかる事だ。出来れば調達出来るまでの間は大規模航空戦は避けたいのだが……。
それから2日過ぎ、ようやく修理を終えたヤマトは、翌日には検査作業を終えてカイパーベルトを発ち、いよいよ人類が定めた太陽系の範囲を超える事になる予定だ。
残りの弾薬と補修パーツは、飛びながら生産していく予定になる。
ここを過ぎれば、人類製のボソン通信機では地球と連絡を取ることが難しくなると判断したユリカは、地球の連合政府に対して往路における最後の通信を行うことにした。
「随分遠くまで行ったんだな、ユリカ」
通信に出たのはヤマト計画の事実上の責任者であるユリカの父、コウイチロウだった。
ボソンジャンプ通信なので、人類にとって最長距離の通信をしているにも関わらず比較的安定した通信状況だ。
コウイチロウとしては、瀕死と言っても過言ではない愛娘が健在である事が救いになっているらしく、冥王星前線基地を叩いた事よりも、その時に負った傷を癒したヤマトが航海を再開すると言う報告よりも、何よりも娘が健在である事を喜んでいる。
それに、彼はネルガル会長アカツキ・ナガレから、アキトが非常に前向きな考えでヤマトに合流した事を聞かされている。となれば、当然娘とよりを戻したであろうことは容易に想像がつく。
コウイチロウとて、アキトの事が心配だったのだ。愛娘の夫である以上義理の息子であるわけだし。
加えてアキトが冥王星前線基地壊滅の立役者に名を連ねた事もあり、彼がコロニー連続襲撃犯であると感付いていた連中も、その功績とヤマトの成功を持って彼の罪状を追求せず闇に葬る事に同意させる事が出来た。
そう、ヤマトが成功さえすれば彼が愛する娘夫婦は元の生活に戻れるのだ。これほど嬉しい事は無い。
それに彼は、アキトが合流した時点でヤマトが失敗する事は無いと半ば確信していた。 親としては少々悔しい気持ちもあるが、愛するアキトを取り戻したユリカがしくじるなど、露ほども思っていない。
とは言え、これから娘を待ち受けている過酷な運命には、心が痛む。人として、親として、受け入れ難い運命に。
ユリカもそれを察してか笑顔で応対するが、すでにヤマトが地球を発って1月が経過しようとしている。それだけに……。
「そんなことありません。本当なら、とっくに太陽系を出てなきゃいけないのに」
忸怩たる思いだった。
冥王星基地攻略は発進前に決定されていた事であり、ユリカとしても譲るつもりの無い作戦であったが、深手を負ったヤマトは長期に渡って足止めを食らったのは事実。
言い訳のしようがない失態である。
ヤマトの旅は観光旅行などではない。
1年と言う限られた時間の内、1/12もの時間を太陽系で消費してしまっているのだ。
「なぁに。ヤマトならその程度の遅れは取り戻せるんだろう? 確かにこの遅れで軍や政府内ではヤマトの成功を不安視する声も上がってはいるが、それをお前達が気にする事は無い――ヤマトはただ前を向いて、その使命を果たせば良いのだ」
コウイチロウはユリカを始めとする、ヤマトのクルーを一切責めるようなことはしなかった。
「まあそれはそれとして、諸君には改めてこれを見て欲しい」
コウイチロウが通信画面に呼び出したのは、地球の現状だった。
「見ての通り、遊星爆弾が止んだとはいえ地表は凍り付いたまま、生き残った生物は無い」
上空に浮かぶ人工変圧装置は粗方除去されたのだろう。猛吹雪に見舞われることが当たり前だった地表は落ち着きを取り戻しているが、未だに太陽の光が届いておらず、むしろ吹雪が収まった事で、暗く冷たく音の無い死の空間が広がっている。
痛々しい地球の現状に第一艦橋の空気も重くなり、全員が沈痛な面持ちでその光景を目に焼き付ける。
「各シェルターや避難所の人々も、間近に迫った終末に恐怖し、救いを求めて来ている」
コウイチロウの言葉の重みに、改めて自分達の使命の重さを実感する。
失敗は許されない。
総人口の9/10が死に絶えたとはいえ、まだ10億もの人類が耐え忍んでいるのだ。
絶対に救わなければならない。
「幸いにも、ヤマト発進から冥王星前線基地を撃破するまでの活躍は、一部事実を伏せながらも民間に発表されている。おかげで、幾分気持ちが上向きになっているようだ、諸君らの活躍のおかげだ――ありがとう」
そう言って頭を下げるコウイチロウに全員の目頭が熱くなる。
伏せられた事実とは市民船の事だ。それに関しては仕方が無いと思いつつも、自分達の活躍が地球の支えになっていると聞かされて、嬉しくないわけが無い。
「無論、ヤマトが遠くなることで不安も積もってきているし、旅の過酷さ故にその成功を疑う者も少なくは無い――だが、我々はヤマトの成功を信じている。これからもそのつもりで、航海に挑んでくれ」
そう言って敬礼するコウイチロウに、全員が答礼して応じる。
それで職務は終わりと判断したのか、艦内全部に話が伝わる様にしなさい、と前置きしてから、幾分軽い口調でコウイチロウは話を切り出した。
「あ〜ユリカ。出航前に頼まれた通り、クルー全員の親類と極めて親しい人は、こちらで纏めて保護しておいたよ」
その発言にユリカ以外の全員が目を剥いた。
「艦長、そんなこと頼んでたんですか?」
驚きの声を上げたのは進だった。あの頃は発進準備に色々忙しかったというのに、何時の間にそこまで手を回していたのか。
「うん。だって家族の安否が気になってたら、ヤマトの旅に集中出来ないでしょ? だから親類とか、特別仲の良い友人とか恋人とかは、お父様に纏めて保護して貰えるように頼んでたの」
「どう? 気が利いてるでしょ?」とばかりに胸を張って鼻を鳴らすユリカに、思わず全員が拍手する。これは本当にありがたい。
「うむ。家族は大事にするものだからな。この件に関してはネルガルのアカツキ会長も力を尽くしてくれてね。個人情報を調べ上げるのは申し訳ないと思ったが、こちらで調査して該当した人々は漏らさず保護したよ」
コウイチロウの言葉に艦内が沸き上がる。家族だけならまだしも、親しい友達や恋人まで保護して貰えるとは破格の待遇だ。
ヤマトに乗って良かった、と叫ぶクルーが出てくるのも当然だろう。ただ軍に所属している程度で囲って貰えるほど、地球に余裕は無い。
最後の希望ヤマトに乗り込んでいるからこそ、そしてクルーを大事に思うユリカの気遣いと、娘にだだ甘なコウイチロウ、そしてユリカの心情を汲みヤマトの成功を疑わないアカツキの力があってこそ、成し得た超好待遇だ。
「そこでだ。幸いにも保護した人々は他の人々と半ば隔離されていてね。ヤマトがまだ太陽系にいる事を知られるのは不安を煽るだけだから伏せなければならないが、諸君らの大切な人に声をかける程度の事は許可されて良いと思う――そこでだ、諸君らが太陽系を離れて通信出来なくなる前に、全乗組員に5分間の個別通信を許可する」
コウイチロウの言葉にクルー全員が喜びを露にする。まさか個人の通信を許可して貰えるとは考えてもいなかった。
「こちらの方でも順番の調整を行うので、全員話したい事を纏めておくように。また、同じ人と通信したい者が居るのなら、人数分併せての通信時間を許可する。ああ、別の人の通信に便乗しても構わんが、その場合は時間は延長しない。いずれの場合も、必ず相手の了承を得るように。詳しい事はまた後で連絡する。それでは、準備をしておいてくれ」
そう言って通信は切れた。
そして案の定、艦内は大パニックに陥った。ついでに身内の保護を頼んでいたユリカの元にはお礼の連絡が殺到。あっと言う間にウィンドウに包まれてユリカの姿が見えなくなった。
予想通り過ぎる展開に、副長のジュンが進とルリと協力して、冥王星基地攻略の“祝勝会兼太陽系お別れパーティー”の準備を粛々と行うのであった。
そして、コウイチロウの通信からきっかり6時間でパーティーの準備は全て整った。
この手のレクリエーションを任せると異常な程作業が早いのが旧ナデシコクルーである。
ヤマトに乗艦したナデシコクルーは決して多くは無いのだが、ナデシコクルーの中でも特に優れた能力を持つメンツが揃っていて、彼らが陣頭指揮を執って部下を動かすため予想を遥かに上回るスピードで準備が行われたのである。
また、パーティーともなれば料理も相応の物を用意しなければならないので、当然生活班――特に炊事科の面々は今後の食糧管理等に頭を痛めるところなのだが、ちゃっかり事前計画に「冥王星攻略後、太陽系さよならパーティーをするかも」とユリカの書き込みがあったので、念の為と相応の準備をコツコツとしてきたので、何とかギリギリ対応出来た。一部の生鮮食料はこのために備蓄していた。何とか足りる。
とは言え、パーティーの形式が立食パーティーともなれば料理は自由に取ることが前提になるし、当然使用する食器も普段食堂で使っているプレートは使えない。
かと言って、艦長や来賓用に用意されている食器では数が足りないとなれば、もう工作班に制作を依頼するしかない。
ので、陶器の皿は用意出来ないが、雰囲気を損なわない程度に気を使った樹脂製の食器類が大量に用意されることになった。他にも不足が予想される品々も発注される。
本当に便利な万能工作機械である。
勿論、パーティーが終わったらこれらの品々は資材に還元され、今後のヤマトの保守点検に使われるのだ。
リサイクル万歳。
そして、戦場と化した厨房では料理長を務める平田一がその手腕を発揮して様々な料理を用意する。
ヤマトの食糧事情が決して豊かではないのは彼が一番よく知っているが、それがどうしたと言うのだ。
料理人のプライドにかけて、パーティーに参加する全クルーの舌と胃袋を満足させて見せると気合いも露わに調理と配膳の指示を出して良く。
生真面目で口数も多いわけではないが、必要な事は全て丁寧かつわかり易く伝える彼は人を使うのが上手く、滅多な事では怒鳴らない(ただし対応は厳格)事もあって、部下達から慕われている。
地味にこれで進と同期――18歳だというのだから驚きだ。
なので、アキトは尊敬すると同時にちょっぴり敗北感も味わったりした。
余談ではあるが、新生したヤマトは波動エンジンと波動砲が艦の中央を通っている構造なので、居住ブロックが左右に分割されている。左右で繋がる場所は主幹エレベーターの根本くらいしかない。
ある程度のスペースを要求される食堂をそんな狭いスペースには置けないので、左右の居住ブロックに食堂がそれぞれ存在している特殊な構造を持っている。
この構造のおかげで、炊事科の面々は(自動調理器があるとは言え)2か所の食堂を分担して管理しなければならなくなっている。
面倒ではあるが、片方だけに食堂を置くと、片側のクルーが食事を摂る際かなりの遠回りを要求されて不便になる。
艦の中央に置けなくなった以上、被弾して損傷する危険性も増した事もあり、左右に置く事で片方が使えなくなってももう片方で補完したり、今回のような大規模な調理においても役割分担を容易に出来たりと、デメリットばかりではないのが救いか。
これは、新設された医療室も同様だ。冥王星前線基地攻略戦でも、そのおかげで怪我人の治療を分担出来たのだ。
ともあれ、生活班の必死の努力の甲斐もあってパーティーの準備は目立ったトラブルも無く終了し、乗組員の地球との個人通信の順番や相手との調整も問題無く終了した。
地球に家族の居ない、極僅かなクルーを除いて。
全ての準備が整った後、パーティーの開始を宣言すべく、ユリカは左舷大展望室に誂えられて台の上でグラス片手にマイクに向かっていた。
勿論この宣言はコミュニケを通して全艦にリアルタイムで送信されるので、フライウィンドウがあちこちにユリカの顔を映して浮かんでいる。
傍らにはエリナとアキトが控え、ユリカの移動や小道具の準備に勤しんでいる。すでに見慣れた光景となっているので、クルーは何も言わない。
――目の前でちょっとイチャつかれても「はいはい、いつものいつもの」とやや投げやりな反応だ。流石に悲劇の夫婦であっても、そろそろ呆れてきた様子であった。
「え〜、皆さんの類稀な働きの結果、我々は無事冥王星前線基地の攻略に成功し、その残存艦隊の撃滅にも成功しました。全て皆さんの実力であり、艦長として大変誇らしく思っています」
と言う出だしから開会の言葉が始まる。
艦長直々に褒められて、激戦を潜り抜けたクルーの胸も熱くなる。
実際ヤマトが優れた戦闘艦であっても、ユリカの指揮官としての采配が優れていても、勝利するにはクルーの働きが不可欠。
ヤマトとはそういう艦なのだと理解しきったクルーにとって、その称賛がリップサービスではなく本心であることは良くわかった。
「基地攻略からすでに23日もの時間が流れ、今更感はありますが、ヤマトの修理中にパーティーなんかしたら工作班の人達から恨まれてしまうので気にしない事にしましょう」
この言葉には流石にクルーも笑いを隠せない。
実際あの被害から回復するのに工作班はフル稼働を余儀なくされたし、それ以外の部署でも復旧作業の為それなりに忙しい日々を送っていたのだ。とてもパーティーをする余裕なんて無かった。
――ので、「祝勝会だ〜!」と艦長自ら騒いでいたのに結局お流れか、とがっかりしていた過半数のクルーにとっては大変喜ばしい事態になったのである。
しかも、個人的な地球との交信すらおまけでついて来たのだ。棚から牡丹餅とはまさにこの事。
「ともあれ、ヤマトはまもなく太陽系を突破し、前人未到の外宇宙へと飛び出そうとしています。修理作業でヤマトの航行スケジュールがちょっと遅れ気味なので、これから少し規模の大きいワープを行い、次の経由地であるプロキシマ・ケンタウリ星系に跳びます。その距離はおおよそ4.25光年と、イスカンダルに比べるとご近所なのですが、そこまで行くともう地球との連絡も覚束なくなります。ので、ミスマル司令の御厚意に与り、皆さんに5分間だけですが、地球に残してきた大切な人との通信を許可しちゃいます!」
改めての宣言に、クルーが盛り上がる。ちなみに「ちょっと遅れ気味」と言っているが、実際には計画に含まれていた修理作業を大きく超過、スケジュールからすでに10日ほど遅れていた。
「それでは皆さん! パーティー終了まで飲んで騒いでお話して、存分に楽しんで下さい! パーティーの成功を期待します!――乾杯!」
そう言ってグラスを掲げる。グラスにはなんか濃い緑色のドリンクが注がれている。青汁の一種だろうか。
「乾杯!」と大展望室に集まったクルーが応じる(交代でパーティー参加なので、絶賛仕事中のクルーは参加出来ず悔しい思いをした)。
全員がグラスを掲げて乾杯し、中に入った色鮮やかなジュースを煽る。
流石にアルコールの摂取は許可出来なかったが、ヤマト農園で取れた新鮮な果物を使ったフレッシュジュースは美味い。
ユリカは飲めないので、「この時の為に用意した」と言われた栄養ドリンクを代わりに煽る……そして、
「ぶほぉっ!」
噴き出した。
いきなり場の空気を壊すような一撃にクルーに動揺が走る。
一体何事か!
「ゲホッ! ゲホッ!……なにこれ、すっごく苦い!」
むせるユリカにクルーの側頭部に汗が一筋。
「……え、艦長いきなり罰ゲーム?」
と誰かが呟く。
「あ、それ残さず全部飲むようにってドクターからの伝言ね」
と言いながらエリナは脇に置かれていた小振りのピッチャーを構えて継ぎ足しの準備を整える。何故楽しそうにしているのだろうか。
「パーティーの余興で倒れられても困るから、何時もの食事よりも栄養価を高めてあるそうよ。一気に飲む必要は無いけど、このまま会場で騒ぐなら必ず飲み切る様にって」
ピッチャーに並々注がれた緑なドリンクにユリカの顔が引きつる。不味い栄養食には慣れたつもりだが、これはそれよりも不味い。
たった一口で口の中がイガイガする。
それを、全部……。
「そうだぞユリカ。体の為にも残さず飲むんだ」
視線で助けを求めた夫に見捨てられた。
あ、貴方の可愛い奥さんのピンチですよ!
「みんなも艦長に倒れて欲しくないわよね?」
親友はそう言ってコミュニケも含めれば艦内全てに同意を求める。あれ、味方いないの……。
(に、逃げようかな……でも、艦長としてパーティーの賑やかしをやるって宣言しちゃったし……どうしようぅぅ〜〜!?)
立場的に逃げるわけにはいかない。視線でアキトに救いを求めても黙って首を横に振られた。
「はい! 倒れて欲しくありませ〜ん!」
と比較的軽い声でクルーが唱和して応じる。ますますユリカが顔を青褪めさせる。
「艦長、クルーの総意です。どうしますか?」
ニコニコとピッチャーを突き出すエリナにユリカが折れた。そりゃもうぽっきりと。へし折れた。
「うう……飲みますぅ〜」
涙目で飲み切ることを承諾する。完全敗北確定。
ちなみに、ドリンクが栄養価を高めてあるスペシャルな品なのは本当だが、味を調整せず苦いまま出しているのは、普段あまり自重せずアキトとイチャイチャし過ぎてクルーにダメージを負わせているユリカへのささやかな嫌がらせである。
勿論飲んでもらわないと困るので、クルーも巻き込んで強要するのだ。
この一件に関してイネスとエリナはグルだ。勿論アキトだって知っている。だから不味いのを承知の上でユリカに残さないよう釘を刺す。
そして、嫌がらせが含まれていると聞かされたのでこれからはもう少し自重しよう、と反省したアキトであった。
結局ユリカは涙を流しながらドリンクをちびちびと煽り、会場はそんなユリカをも肴にして盛り上がる。
すでに上下関係は無いに等しいが、だからと言って無礼になる程でもないと言う絶妙な距離感を保っている。
パーティーという事もあって活躍の場を得たと心得たか、イズミがユリカが開会を宣言した壇上に上がり、持ち込んでいたウクレレ片手に漫談を始めた。
旧ナデシコクルーはやや冷ややかな対応だったが、何も知らないクルーにはそこそこ好評であった。流石はバーの雇われママさん!
さらには、場を艦長自ら盛り上げるべきだと気張ったユリカが、
「ミスマル・ユリカ! 一曲歌います!」
と宣言して、かつてナデシコの一番星コンテストでも歌った「私らしく」を熱唱。流石にアイドルコスチュームではないし椅子に座った状態ではあったが、(涙目の)ウインクのおまけをつけたりしてとにかく盛り上げに徹する。
さらには景品を掛けた大ビンゴ大会まで開催される悪ノリっぷりを見せつける。
景品の中に「ウサギユリカ(杖ありと無し)」と「ルリお姉さん(17歳バージョンと11歳バージョン)」のフィギュアセットが含まれていて、アキトがウリバタケを睨むハプニングもあったが、大会はつつがなく進行した(ちなみにフィギュアはラピスが掻っ攫って行った)。
そんな会場も人の出入りはそこそこ激しい。当然、個別通信のため通信室の前に移動しているからだ。
今、ヤマトの通信室の前には残してきた人と話すべくクルーが待ち構えている。
事前に地球側で調整された順番に合わせて列を作り、生活班長の雪がPDAを片手に捌いている。
通信の時間はスケジュールで管理されているので、列を作る人数は5名に制限され、1人入る毎に次のクルーがコミュニケで呼び出しを受ける流れになっている。
列に並ぶクルーから世間話が漏れ聞こえる。待っている時間を適度に潰すためか、前後のクルーと雑談に興じているのだ。
「地球を出発する寸前に生まれた子供なんだ」
と赤子の写った写真を見せて語るもの。
「俺、婚約者を残してきたから、帰ったら結婚するんだ」
と語る者が居て、
「リアル死亡フラグ!?」
と突っ込まれたり、
「父の容態が良くないんだ。帰るまで、元気だと良いんだけど……」
と家族の様子をしきりに気にする者など、実に様々だ。
列の先頭に立つものは、通信室を出るクルーと入れ替わって中に入る。通信室を後にするクルーは涙を浮かべながら寂しげな表情を浮かべるものが多い。
当然だ。また話せる保証は無いのだから。
ヤマトの航海の過酷さは誰もが知る事。そして、保護されているとはいえ、地球の現状を考えれば何も無いよりはマシ程度で、絶対の安全が保障されたと考えるような楽天家はいない。
これが今生の別れかも知れないと思うと、通信では成功を強く誓って励ましていても、それが終わると不安に駆られて落ち込むのも無理らしからぬことだ。
通信室を去るクルーの様子に、列を作るクルーも覚悟を決めて通信室に入っていく。
その中に、航海班長の島大介の姿もあった。
大介は、雪の指示を受けた通信科のクルーに案内され通信室に入る。そこで通信機の操作を教わる。
と言っても、ドックタグに記載された認識番号を打ち込んでスイッチを入れるだけだ。
大介が認識番号を打ち込んでスイッチを押すと、20秒程度の待ち時間の後、通信画面に両親と弟の姿が映し出される。
「お父さん、お母さん、次郎……!」
「大介……!」
「兄ちゃん!」
1ヵ月ぶりの対面に互いの顔が歓喜に彩られる。
「ご無沙汰してます。お父さん、少し痩せたようですね?」
「おお、そうかね?」
他愛の無い話題から会話が始まる。限られた時間では言いたい事を全て言い切ることは出来ないが、重苦しい話題から入りたくないのは、同じ思いだ。
「次郎、元気そうだな」
「へへへ、そうかい?」
年の離れた弟も元気そうで、大介は一安心した。ヤマトで出発する時は使命感に駆られていたとは言え、置き去りにする家族の事が心配だったのだが、ユリカの手回しのおかげで状況は悪くないようだ。
それから少しだけ近況報告をする中で、母はやや思いつめた表情で大介に尋ねる。
「ねえ大介、ヤマトは本当に大丈夫なの?」
「うん?」と大介はいきなり深刻な話題を切り出した母に怪訝そうな顔をする。
「大丈夫に決まってるだろ。何てったって、俺達はあの冥王星基地だって攻略して見せたんだぜ」
大介は極力明るく応対する。不安があるのは大介とて同じだが、それを家族に見せるわけにはいかない。
「そう? 噂に聞いた話だと、ヤマトの艦長さんは命に関わる大病を患ってるって言うじゃない。そんな人で本当に大丈夫なのか、心配になって……」
大介は辛うじて表情を変える事を堪えた。
母の心配はわかる。他ならぬ自分自身、ユリカの体調に不安を抱いている。
軍内部では周知と言っても良いユリカの体調も、民間には当然公表されていない。死にかけの人間が指揮する艦に、誰が希望を託せるものか。
明かされているのは、彼女がかつての戦争で活躍したナデシコの艦長である事と、第一次冥王星海戦にて艦隊の被害を最小限に抑えた立役者であることくらいだ。
しかし軍に保護された以上、ユリカの体調に関する話が漏れ聞こえたとしても、何ら不思議ではない。
だからこそ、大介は努めて明るく答えるのだ。
「心配ないよお母さん。艦長は本当に凄い人だ。あの人が居なかったら、俺達は冥王星基地を攻略することも出来なかったし、ヤマトの窮地をもう何度も救ってる。それに、普段から俺達を大切にしてくれてて、空気を明るくしてくれるし、変に怒鳴り散らしたりもしないし、ノビノビと任務に打ち込める――本当に尊敬出来る艦長だよ」
言いながら、これまでのユリカの振る舞いの数々を思い返す。
戦闘指揮の凄さやいざと言う時の決断力は疑いようが無いが、それ以上に思い返されるのは、艦長としては奇行と言う方が相応しいであろう行動の数々。
発進直後から着ぐるみを着込んで児童番組同然の用語解説番組に出演したり、それから間を置かず夫婦喧嘩を勃発させて艦内に痴話喧嘩をリアルタイム放送したり、それが終わったら感動の再会に託けてイチャイチャを生中継したり、またなぜなにナデシコを開催したり、作戦名のセンスは微妙だし、戦闘中の体調崩して嘔吐したりボケをかましてノリツッコミせざるを得なくなったり。
……あれ、本当に尊敬してるのかわからなくなったぞ?
「そうなの? それなら良かった。良い上司に巡り合えたみたいで、お母さん安心したよ」
息子の回答に満足したのかほっと胸を撫で下ろす母の様子に、大介も安堵する。
母としても、最期の希望であるヤマトに無視出来ない不安材料が含まれているとは思いたくないのだろう。噂話よりも息子の答えを信じる事にしたようだ。
「大丈夫。ヤマトは必ずコスモリバースを受け取って……地球に帰ります」
そこで、無情にも時間が近づいている事をブザーが知らせた。家族の顔も寂しげなものに変わる。あと15秒しかない。
「それじゃあ、お父さん、お母さん。お元気で」
「兄ちゃん!」
弟が通信モニターにしがみ付いてくる。その顔は、まだ終わりたくないと切実に訴えていたが、時間が許してくれない。
「次郎……あまり世話を掛けるんじゃないぞ」
弟に別れの言葉を告げたところで、通信モニターが暗転する。
「さよなら……」
大介は寂しさを飲み込んで、暗くなったモニターに別れの言葉を告げる。
次に会えるのは……ヤマトがコスモリバースを受け取って地球に帰った時になる。
果たしてその時が訪れるのか、その時まで自分は生きていられるのか。
そんな寂しさを抱えながら、根が生えそうだった体を座席から引き剥がして通信室を後にする。
1人でいると寂しさに負けてしまいそうに思えたので、大介は左舷展望室に戻ることにした。あそこの会場は艦長がいて、反対側の右舷展望室にはルリがいる。
ヤマト艦内でも特に話題のアイドル2人を分散する事で、どちらかの会場に人が集中しないようにするという苦肉の策だ。ルリもユリカも、互いに離れてパーティーに参加するのは残念そうだが、賑やかしのために仕方なしと言う感じだった。
母とのやり取りでユリカの体調への不安が再発したので、恐らく元気にパーティーの盛り上げに勤しんでいるであろうユリカを見て安心したかった。
――ぶっちゃけ普段の彼女を見ている分には重病で余命僅かなんて信じられないので。
そう思って通路を進んでいると、眼前から徳川太助が歩いてくる。さっきまでは左舷展望室でパーティーに参加していたと思ったのだが。
「あ、島航海長!」
大介の姿に気付いた太助が緊張の滲んだ声で敬礼する。
「おいおい、今敬礼は必要無いだろう。パーティーの真っ最中なんだぜ」
大介はそう言って太助の反応に苦笑いする。
「あ、す、すみません!」
手を下ろしながらも硬い表情の太助にとうとう島は笑いを隠せなくなった。
「そんなに固くなるなよ。もっと気楽にいこうぜ」
そう言って肩を叩く。
太助は島の2つ下の後輩にあたる存在だが、それぞれ専攻した分野が違うため接点はあまりない。とは言え、その名前は大介も知っていた。と言うのも……。
「そういえば、君の親父さんは徳川彦左衛門さんだったよな?」
「――ええ、そうです。僕は、父の背中を追って機関士になりましたから」
父の名前を出された瞬間、太助の表情が曇る。
この話題はすでに飽きるほど繰り返された。
太助の父、彦左衛門はかなり名の知れた凄腕の機関士だった。
彼が現役だったのは丁度木星との戦争が行われている最中で、全く新しい機関である相転移エンジンに関しても、四苦八苦しながらではあるが見事制御して見せ、ネルガルから購入した相転移エンジンやグラビティブラストなどを搭載してようやくまともに戦えるようになった宇宙軍を、陰から支えた立役者の1人だ。
そんな彼も、ガミラス戦の初期に戦死している。
太助はその悲しみをバネに機関士として勉学に励み、ヤマトに配属された。
とは言え、立派な親を持ち、その後を追いかけるとなれば当然比較されることも多い。
すでに大成していた父に比べれば駆け出しの自分は足元にも及ばない。当然怒鳴られることも多いし、その都度「親父が泣くぞ!」と言われれば、どれほど父を尊敬していても気が滅入ってくる話題だった。
「そうか……悪い事を聞いてしまったようだな。すまん」
大介は太助の地雷を踏んでしまったと察して素直に謝る。少し考えてみればわかりそうな事だったのに……迂闊だった。
「いえ、父の事は尊敬してますから……。それでは、僕はこれで」
「ああ、引き留めて悪かったよ――徳川」
「はい?」
「お前なら立派な機関士になれるさ。負けるなよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
大介の激励に太助は感激を顔に張り付けて頭を下げると、駆け足で通信室に向かう。その背中を見送った大介は、目的地である左舷展望室に足を踏み入れた。
――何だか、異様に盛り上がっている。
大介は何事かと注意深く展望室を見渡して、すぐにその正体に気付いた。気付かないわけが無い。
「ウィナー、ミスマル艦長ぉ〜〜!!」
司会を担当しているであろうウリバタケがマイク片手に叫び、その傍らでユリカがブイサインを観客に突き出している。
誰もが見られるようにと大きなウィンドウが開いていて、そこには戦略シミュレーションゲームの画面が映し出されている。対戦者の名前は「ホシノ・ルリ」とあった。
どうやら余興としてユリカとルリがゲームで対戦したらしい。
「さあさあ! ヤマトが誇る天才頭脳! ミスマル艦長に挑戦する勇気ある者は他に居ないかぁーー!」
テンションも高く煽るウリバタケにクルーもわいわいと「次お前が対戦したらどうだ?」「いや無理無理勝てっこないって」と言葉を交わし合っている。
挑戦、という言葉からするに、ユリカをチャンピオンか何かに見立てて挑戦者が挑む形式の様子。
冥王星で見事な指揮を見せたユリカに挑むのは例えレクリエーションと言えどそれなりに勇気のいる行動だと思うのだが、意外と挑む者が多いようだ。
現にゲーム画面の隣にやや小さいウィンドウで今までの対戦結果がつらつらと並んでいる。
複数回の挑戦も許されているようで、ルリは立て続けに2回挑戦しているのが伺える。他にもラピスやゴート、戦闘班のクルーを中心に挑戦者の名が刻まれている。
地味に月臣の名が連なっている。この手のレクリエーションには関心が無さそうだと思ったのだが……。彼なりに賑やかしに気を使っているという事だろうか。
「おおっ! 艦長当てに挑戦状が届いたぞぉ! これは……第一艦橋で当直中の古代進戦闘班長だぁ〜! 去る冥王星攻略作戦でついに艦長の息子になった古代戦闘班長! どんな戦いを見せるのか、今から楽しみだぞぉ〜!」
ウリバタケの言葉を聞いて大介は思わず顔を手で覆う。
「当直中に遊びの予約入れるなよ、古代……」
染まり過ぎだ。
それが大介の率直な感想だった。
親友の今後が――とても心配になってしまった。
ユリカとシミュレーション対決を終えたルリは、傍らに控えていたハリの手を取って通信室に向かって移動を開始した。
観戦していたクルー達に会釈しつつ、「順番が近いので通信室に行きます」と断ってそそくさと右舷展望室を後にする。
余興とは言え、正直負けたのはかなり悔しい。結構良い所まで追い込んだと思ったのに、僅か一手でひっくり返されてしまった衝撃は計り知れない。
元々天才と言われるに十分な実力を持ったユリカだったが、ヤマトに乗艦してからはその能力に磨きがかかっているような気がする。
「今度は負けませんよ……」
悔しさを滲ませた呟きを聞いたハリは「ルリさんなら勝てますよ」と励ましてくれる。素直に感謝しながらも、今は地球との通信が大事だと気持ちを切り替える。
ルリは通信相手にミナトとユキナを選んでいる。ピースランドの父と母も気にならない訳ではないのだが、そこまで近しいとは言えない距離感なのでここは親しい人を選ぶ。
「本当に良いんですか、僕も一緒させてもらって」
遠慮がちに尋ねるハリに「勿論です。ハーリー君だって気になるでしょ?」と返す。
ハリはルリの通信に便乗した後、養育してくれた義理の両親に連絡する予定だ。ナデシコに乗ってからはあまり会えていないが、血は繋がっていなくても育ての親である。やはり挨拶はしておきたい。
通信室前に到着した2人は、列に並びながらそわそわとその時を待つ。最初にルリがミナト達と話してから、ハリが両親と話す流れになっている。
――流れでルリはハリの通信にも同席する事になってしまったが、挨拶しておいても損は無い。ナデシコ時代は上官だったわけで、今でも立場上はチーフオペレーターの任についているルリの方が上だ。
とは言え、内心では「相手の両親に通信越しとは言え対面するなんて、まるで交際の許可を取ろうとしているみたい」とか考えてちょっとドキドキしている。
ユリカに焚きつけられてから1ヵ月近い時間が流れてしまったが、未だに自分がどう想っているのか、どう在りたいのかの答えが出てこない。
意外と、恋愛では優柔不断だったのだな、と思う。これではアキトを笑えない。
「おっ、ルリさんにハーリーじゃないですか。通信ですか?」
声をかけてきたのはサブロウタだ。ちゃっかり最後尾のルリとハリの後ろに付けている。
「サブロウタさんもですか?」
ハリの質問にサブロウタは「おう」と頷く。
「俺は秋山少将と話しておこうと思いましてね。両親もいないし、木星時代はお世話になったんで」
思い出すのは木連時代、かんなづきに乗っていた頃や、戦後宇宙軍に参画した事。
ナデシコに乗ってからはやや遠くなったが、サブロウタは変わらず秋山源八郎の事を慕っている。
「……高杉か」
想い出に浸っていたサブロウタを引き戻したのは、月臣だった。
「月臣少佐――」
「……」
驚くサブロウタと対照的にルリの顔はどうしてもキツくなる。
ルリも、彼が九十九を殺したことを知っている。そのせいで、ミナトが悲しい思いをしたことを忘れる事なんて出来ない。
そう簡単に割り切れるはずも無い。許せるわけもない。
とは言え、恨みを持って戦うのはもうんざりだ。
彼を責めるのは簡単だが、アキトは許して欲しい、償いの機会を与えて欲しいと思っていたルリが、罪の意識で苦しむ月臣を責め立てるなど、出来るはずも無い。
それに、彼はアキトを助けてくれていたのだ。その事も、忘れる事なんて出来ない。
「貴方も、誰かと話たいんですか?」
「……ああ」
月臣は多くを語ろうとはしなかった。ルリも問うつもりはない。ただ、言葉を交わしてみたかっただけだ。
「ホシノさん。頼みが――いや、忘れてくれ」
「――何ですか?」
「忘れてくれ。気の迷いだ……」
「……」
月臣の様子から何を言いたいのかは予想がつく。
大方ミナトとユキナの事だろう。かつて自分が殺めた親友の想い人と妹。
あの戦争が終結して4年。すでに草壁との決着も付け、人類の進退をかけた未知の脅威との戦いに身を投じる事になった今も、過去の過ちを清算し切れていないのだろう。
「私は、ミナトさん……白鳥さんの恋人だった人と、ユキナさんと話すつもりです――後で様子をお伝えしますね」
余計なお節介だと自分でも思う。嫌味だと思われても仕方が無いとも思う。だが、このままで良いとは思えない。
そんな、個人的な感情だ。
「……心遣い、感謝する」
言葉少なく礼を告げる月臣にそれ以上ルリは声を掛けなかった。
それからしばらくして、順番が来たルリはハリを引き連れて通信室に入室。順番が連続している事と、互いに通信に同席する事が通達されているため、合計10分間通信室を利用する事になっている。
ルリは早速認識番号を入力して通信機を起動する。
わずかな待ち時間。そわそわした気持ちで待ち構えていると、通信モニターが灯った。
「ルリルリ、元気そうね」
「ルリ、しばらくぶり!」
「ミナトさん! ユキナさん!」
モニターに映ったハルカ・ミナトと白鳥ユキナの姿に、ルリもハリも気分が高揚する。
「お体の具合は、もう良いんですか?」
「ええ、大丈夫よ。イスカンダルの薬って凄いのね。おかげさまですっかり元気よ」
モニターに映るミナトの顔色は確かに良さそうだ。2人はほっと胸を撫で下ろす。
行動力にやたらと優れたユキナがヤマトに乗艦しなかったのは、適性試験に落ちた事もあるが、それ以上に体調を崩したミナトが心配だったからだ。
現在の地球は極度に寒冷化が進んでいるため、地表ではウイルスや細菌等は生存していない。が、人々が暮らす居住区はそうもいかない。
食糧事情が厳しく慢性的な栄養不足に閉鎖空間でプライベートすらも確保出来ない程切迫した避難生活。
それらのストレスなどから体調を崩す人は後を絶たず、暴動や略奪等も繰り返し発生している。
ミナトは、避難生活が始まってからも教育者として避難所の子供たちに勉強を教えたり、ボランティアの引率と言うような形で居住環境の改善のための活動をしていたが、避難生活のストレスと疲れから、丁度ナデシコCが冥王星海戦に望むべく発進した後倒れてしまったのだ。
ナデシコCが帰艦した頃は相当具合が悪く、本人は平気だと言い張ったものの、心配になったユキナはそのままミナトの介護に専念する事にしたのだ。
ユキナは、もしかしたら自分が制止を聞かずナデシコCに乗り込んだ事がミナトが倒れた切っ掛けになったのではないかと自責の念に駆られ苦しんだ。
しかし幸運な事に、ナデシコCの帰還は同時にイスカンダル製の医薬品の本格的な拡散を意味していた。
先行してネルガルがアキト相手に行ったテスト結果から効果ありと判断され、少しづつではあるが民間にも出回りつつある。
薬の入手を巡った争いも少なからず発生してしまったが、それでも状態の悪い人間に優先して与えられ、幾人もの人命を救う結果をもたらした。
ミナトは残念ながらなかなか薬を得る事が出来ないでいたのだが、ヤマトの発進に合わせてネルガルと軍が保護した事もあり、最悪な事態を迎える前に治療を受けられるようになった。
その甲斐あって、治療開始から1月程経つ現在では完治に近い状態まで回復した。
「心配しなくて良いよルリ。あたしがついてるんだから!」
そう言って胸を張るユキナだが、ミナトは「調子に乗らないの!」と軽くその頭を小突く。
ユキナも勝手を言ってナデシコCに乗艦して迷惑を掛けた自覚があるので、強くは出れないらしく「てへへ……」と頭の後ろで手を組んで可愛らしく舌を出す。
「それだけ聞ければ満足です。心配してたんですよ」
「僕もです。これで安心してイスカンダルに行けますよ」
ルリもハリも、ミナトの病状が回復した事に安堵する。
困窮した地球の状況では医薬品を手に入れる事も難しく、民間人、それも教員と現状では立場の弱い地位にあるミナトは、それらを手に入れる手段に乏しかった。
ユリカがクルーに縁深い人間を保護するように頼んでいなかったら、もしかしたら今もミナトは病魔に侵されたままだったかもしれないし、もしかしたら……。
「もう大丈夫だから安心して。それと、ユリカさんにありがとうって伝えておいて。アカツキ君から彼女が保護を訴えてくれたって聞いたわよ……特別扱いなのは心苦しくもあるけど、ユキナも一緒に保護して貰えたし、感謝してるって」
複雑な心境なのは本当だった。今の地球に安全と言える場所は無い。備蓄された資源は着々と減って行っている。
だが、軍に保護されたミナト達は他の一般人に比べると食料も医薬品も優遇された立場にある。
心苦しくない訳が無い。
ミナトの教え子達も、今まさに苦しんでいるのだから。
「あ、そうそう。ルリ――元一朗ってヤマトに乗ってるの?」
予想外の質問に2人の顔が強張る。その様子から察したのか、ユキナは「そっか」と呟いた後、
「じゃあさ、伝えといてくれない。お兄ちゃんを殺した事、許せないけどさ……ヤマトの航海が成功したら、一緒にお墓参りに行こうって。だから、死んじゃダメだって、伝えておいて」
そう言伝を頼む。
今でも複雑な気持ちだ。兄を殺された事は許せないし、許せるとは思えない。彼も許されたいとは思っていないだろう。
しかし、色々な人間模様を見てきたユキナはこのままで良いとは思えないでいた。
だから向き合いたい。その思いを言葉にした。
「わかりました、伝えます」
ルリがそう答えた所で、時間が来た。
「時間みたいね……ルリルリ、必ず帰ってくるのよ。勿論、ユリカさんもアキト君も一緒にね」
「帰ってきたらお祝いするからね! 準備を無駄にしないでよ!」
「……必ず、必ず帰ります……!」
「約束します、約束しますとも!」
涙を浮かべながら別れの瞬間を迎える。モニターは無情にも時間きっかりに通信を終了し、暗転した。
2人は次に会えるのはヤマトが帰って来た時だと、未来に想いを馳せながら気持ちを落ち着かせ、次の通信相手、ハリの育ての親に繋げる。
そこで、隣に立つルリの姿を見るや否や「お前の彼女か?」等とからかわれて大いに赤面する羽目になる、予測可能回避不能な出来事もあったが。
そんな(予想された)ハプニングを挟みつつ、通信を終えた2人は通路で自分の番を待っている月臣にユキナの言伝を伝える。
それを聞いた月臣は静かに目を伏せて「わかった。ありがとう」と言葉少なく受け取った。
それ以上は邪魔になるだろうとその場を後にし、再び賑やかしを務めるべく右舷展望室に戻っていく。
その胸に、必ず帰るという強い決意を刻み込みながら。
先に通信を終えたサブロウタに続き、月臣も通信室に足を踏み入れる。
最初は誰とも話さないつもりだったのだが、ふと、かつての友と言葉を交わしてみたくなった。
多分それは、アキトが戻った事に影響されたのだろうと、今になって思う。
「よう、久しぶりだな月臣」
「ああ、久しぶりだな秋山」
月臣が選んだ相手はかつての友人である秋山源八郎。今は、連合宇宙軍に参画して、コウイチロウの片腕として敏腕を振るっている。
「お前がヤマトに乗るとは、流石に驚いたぜ。何かきっかけでもあったのか?」
「……俺はただ、九十九を殺した償いがしたかっただけだ。それに、あいつが生きていたらこうしただろうと思うと……じっとしていられなくてな」
それが月臣がヤマトに乗った理由だ。それと、
「テンカワも気がかりだった。会長の計略で乗る事になるだろうとは思ったが、万が一の時はあいつの代わりに艦長を護ってやるつもりだった――あの夫婦は、敵ではあったがそれ以上に俺の信じた正義の……草壁の被害者だ。少しでも、力になってやりたくてな」
ただがむしゃらに正義を、熱血を追い求めていたあの頃が懐かしく思えると共に、深い考えを持たずただ言葉とロマンばかりを追いかけていた自分が恥ずかしい。
もう少し視野が広ければ、もう少し九十九に理解を示す事が出来れば……あんな事にはならなかったかもしれないのに。
「そうか……なあ、月臣よぉ。そろそろ良いんじゃねぇか? 自分を責めるのを止めたってよ」
「しかし……」
「お前は十分罪滅ぼしをした。お前が気にかけてるテンカワ・アキトにしたって、世間に顔向け出来ねぇ事をした。だが、自分に向き合って真っ当に生きる事にしたんだろ?」
「それは……」
月臣自身、感じていた事だ。同じく過ちを犯しながらも、それを乗り越えて元の道に戻る決意をしたアキトの存在が、とてもまぶしく思える。
自分には、帰るべき場所も待ってくれている人も居ない。
だが、紛りなりにも彼の師の1人として、このままで良いのかと悩んでいた。
「何をしようが九十九の奴は帰って来ねぇ、昔に戻れるわけでもねぇ。だがな、テンカワを案じたお前が、元通りとはいかなくても普通の生活に戻る事を望んだお前が、そのままで良いわけねえだろ?」
秋山の言葉が胸に突き刺さる。自分でも思っていた事だ。
そもそも、九十九暗殺から続く自身の戦いは、すでに終わっている。
今の人生が蛇足でしかないと感じる事は多々あった。
――ヤマトに乗る前は。
「おっと、そろそろ時間か。説教臭くなって悪かったな。無事の帰還を信じてるぜ、月臣」
「ああ、必ず帰る。俺の戦いにケリをつけるためにも」
そこで通信は途切れた。だが、月臣の気分は幾らか軽くなった。
必ず地球に帰り、九十九の墓参りをしてから、身の振り方を考えよう。
少し前までに比べると前向きな気持ちで、月臣は通信室を後にする。
とりあえず自分の同類だったと言えるアキトの様子でも見るかと、左舷展望室の会場に足を踏み入れた瞬間、月臣はゴートに捕獲された。
何事かと問い質すと、「思った以上に盛り上がってるからリベンジしろ」と一方的に告げられて引っ張られた。
で、連れていかれた先は、会場の盛り上げになるかと思って挑んだユリカ艦長とのシミュレーションバトルの場だ。
――先程よりも会場が豪勢になっているような気がする。
「おおっとぉ!? 先程は前線空しく敗退した元優人部隊のエース、月臣元一朗のリベンジだぁーー!!」
相変わらず司会を続けているウリバタケが煽る煽る。その傍らに大きく表示されるウィンドウには対戦者の名前が山と表示されている。
一部の連中は束になって掛かって纏めて撃沈したらしく、試合の回数よりも挑戦者の数が多いようだ。
「ヤマト艦長との戦いだけに、山と挑戦者が現れる……お粗末」
何時の間にか隣に現れたイズミがそんな駄洒落を言ってから去る。
それが言いたかっただけか。
「わ、私もう十分戦った気がするんですけど……」
例の苦ぁ〜いドリンク片手にバテ気味のユリカが暗に「もう終わりにしよう」と訴えるが、誰も聞く耳持たない――ゲームとは言え全く疲れない訳ではないのですけど。
でも倒れないのは栄養ドリンクのおかげだろうか。
(ああ――ここまで来たら、せめて一勝持って行かないと気が済まないのか)
月臣は自分がこの場に担ぎ上げられた理由を悟る。
先程は、かつて秋山が「快男児」とまで評した指揮官の腕前を自分で体験してみたかったこともあって戦ってみたが、もう十分その手腕はわかった。
残念ながら、指揮官としては太刀打ち出来ない。
あの後再戦したであろう、3度目のルリの挑戦も空しく終わった様だ。名前の横に3つ目の黒星が付いている。
地味に艦長の息子の立場を受け入れた古代の名前が予約リストに入っている。
――あいつ当直中に予約入れたのか。
少し頭痛がしてきた月臣だが、この場で断るのは得策ではない。
逃げたと言われるのも癪だし、パーティーの成功に繋がるのなら――クルーの気分を盛り上げる事が出来るのならこの程度の協力は惜しむべきではないだろう。
艦長には……頑張ってもらおう。普段イチャつき過ぎて不評を買った報いと諦めてくれ。
普段の様子からするに、この程度なら大事にも至らないだろうし。
「そう言う事になったようです。艦長、再挑戦させて頂く!」
やる気十分と宣戦を布告して操作盤の椅子にどっかりと座る。
月臣のやる気にユリカは引き気味だ。
「うう……もうこれで49戦目……」
――嘆くユリカの姿に心が大いに痛んだが、乗せられてしまった以上完遂する。勿論全力で挑むのは、戦士の礼儀だ。そう、過ちを犯してしまったが、月臣元一朗は元来戦士の気質の持ち主だ。
例え病弱だろうと女性だろうと、戦うのなら全力でやらせてもらうのみ!
「ふっ、分の悪い賭けは嫌いじゃないんでな……いざ! 尋常に勝負!」
「……嫌って下さい、休ませてぇ〜……」
気合い溢れる月臣と疲れた顔のユリカの対比が面白いと、観戦中のクルーが盛り上がる。
何時の間にかユリカの傍らに来ていた夫のアキトがグラスにドリンクを継ぎ足して、
「頑張れよユリカ! 俺、ユリカの勝利を信じてるからな!」
良い笑顔で煽る煽る。本当は心配で仕方ないのだが、余興のためと妻の戦意を駆り立てるべく尽力している。
とは言え連戦連勝な妻の勇姿を誇らしく感じているのは本当だ。
万が一に備えて無針注射器を懐に忍ばせてあるし、ここは医療室にも近いから即対応可能なのだ! 良薬をありがとうイスカンダル!
「うぐっ……ア、アキトにそんなこと言われたら……頑張らない訳にはいかないじゃない……!」
追い詰められた表情ながら、しっかりと操作盤に向かって対戦準備を始めるユリカ。本当に旦那に弱いな、と改めて月臣は思う。
さて、申し訳ないが観戦者のためにも良い試合をしようではないか!
そして、月臣元一朗とミスマル・ユリカの(2度目の)戦いの火蓋が切って落とされた。
ユリカが月臣との対戦でヒイヒイ言っていた頃、当直任務を大介に引き継いだ進がようやくパーティー会場に顔を出していた。
副長のジュンも、真田に引き継いだ後、家族との通信のために通信室に足を運んだ。
地球に話したい相手の居ない進は気が楽なもので、パーティー会場に顔を出すと近くのクルー相手に雑談に華を咲かせながら、適当に料理を摘まんで腹を満たし、フレッシュジュースを飲んで喉を潤す。
ヤマトで発つ前は、最後の家族を亡くして天涯孤独になったと悲しんだものだが、今の進にはユリカとアキト、ルリやラピスと言った新しい“家族”が居る。
だから進はもう寂しくなかったし、他のクルーが地球に残してきた家族や友人、恋人達と通信していようが孤独を感じないし嫉妬も無い。
寧ろ(ちょっと恥ずかしいが)日常的に“家族”と接している事を悪いと考えてしまうくらい、今の進は満たされていた。
勿論、その“家族”に引き摺り込んだ張本人であり、新しい母と言えるユリカが危機的状況にある事は重々承知だ。
激情のままに胸倉に掴みかかった時に触れた血の感触は、忘れたくても忘れられない。
万が一にもあそこで殴り飛ばしていたら、きっと今の自分は無かった。
それ以前にヤマトが木星以降乗り越えてきた困難に屈してしまい、旅が終わっていたかもしれないのだ。
あんな事をした自分を優しく受け入れて、ここまで導いてくれたユリカには感謝が尽きない。
勿論、ユリカと接するきっかけを与えてくれたのは同じ悲しみを共有したルリのおかげで、復讐という行為に対して考えさせてくれたのはアキトだ。
この3人の内1人でも欠けていたら、どうなっていたのだろうか。
ラピスにしたって、弟として生きてきた自分にとって初めて出来た妹のような存在である。可愛くて仕方ないし、彼女と接する事が進の他者への優しさを損なわせなかったのかもしれない。
それに――、
「あら、古代君もお休み?」
合成肉のステーキを齧っていた進に、雪が声をかけてくる。
手にはサラダとハンバーグの乗った皿を持っている。
「ああ。島の奴に引き継いだよ。俺だってパーティーを楽しむ権利くらいあるさ。冥王星攻略の要だったんだぜ?」
とわざと調子の良い事を言ってみる。
進はあの功績はアキトの物だと考えている。表沙汰に出来ない経験に寄るとは言え、アキトの経験値とそれに基づいた判断が無ければ、失敗していたかもしれない。
「うふふ。そうね、古代君とアキトさんの手柄だったものね」
それをわかっている雪はわざわざ補足して進をからかう。進も「ちぇっ」とわざとらしく反応して互いに笑う。
未だに距離を縮められないでいるが、進は恋も知った。
今後彼女とどうなるかはそれこそ神のみぞ知ると言った所だろうが、いずれはアキトとユリカの様に、仲睦まじい家庭を築きたいと将来の願望を抱くようになった。
その幸せ家族計画のためにも、何としてでもイスカンダルに行かなければならない。しかし――、
(イスカンダル……それ以外に希望が無いのも事実だが、何か引っかかるな……)
展望室の窓から深淵の宇宙を覗きながら、進はユリカと今まで交わした会話等からイスカンダルに対しての疑問を思い返す。
疑問とは言うが、イスカンダルの協力や支援を疑っているというわけでない。
ユリカの言動などから鑑みるに、イスカンダルには一定の信頼を置いて良いと思う。それにユリカの失言等を考慮すると、何らかの方法で――恐らくはボソンジャンプでイスカンダルとコンタクトを取った事は疑いようが無いだろう。
だからこそ、ユリカはイスカンダルを信じているのだろうし。
進が懸念を示しているのはイスカンダルの技術そのものだ。
壊滅的な被害を被った地球を救うと言われているコスモリバースシステム。果たしてどのような原理でそれを成すのだろうか。
それに、ユリカはあまりにも自分を気にかけ過ぎていると感じる事がある。鬱陶しいとかではなく、まるで自分の跡をすぐにでも継がせようとしているように感じる事が稀にあるのだ。
その様子は、自分がそう遠くない内に指揮を執れなくなる事を示しているように感じて、不安であると同時に何か裏がありそうな気がする。
(確かに病気が進行すれば、指揮を執れなくなるのは自然だ。しかし、副長だっているし艦長経験のあるルリさんだっている。なのにどうして俺に期待するんだ?)
経験値で勝るジュンとルリが控えているのだから、新米の域を逸脱していない自分に期待するのは筋違いに思える。
(お、月臣さん負けたのか……相変わらず凄いな、ユリカさん。ユリカさんの思惑はわからないけど、今は好意に甘えて自分を鍛えて、彼女の期待に応えて行こう)
結論の出ない思考を早々に打ち切って、進は皿の上の料理を飲み込んでカラになった皿をテーブルの上に置き、ユリカの居る場所に向かって歩き出す。目的は勿論。
「艦長! 挑戦に来ましたよ!」
「うええぇ〜〜〜っ!!」
鍛えたいのは貴方でしょう、と言わんばかりの視線を向けると「進相手じゃ断れないぃーっ!」と頭を抱えて対戦を承諾する(予約済みだから会場が拒否させてくれないが)。
うむ、生徒として恥じない戦いをしてみせるぞ。
楽しげな様子の進に雪も肩の荷が下りた気がする。正直、今回の地球との交信で問題になったのは、すでに家族を失って天涯孤独の身になっているクルーだった。
雪の中で特に気がかりだった進だが、すでにユリカ達と良好な関係を築けた事から振り切っているようで、一安心。
他の孤独なクルーも、ナデシコクルーが作り出すこの緩くて騒ぎやすい空気のおかげか、パーティーに参加している限り寂しさを感じない様子。
(でも、古代君が寂しくない理由の中に、私は含まれているのかしら?)
少しだけユリカ達に嫉妬する。関係を進められない臆病な自分にも非があるが、特にユリカが身近過ぎてこちらのアプローチに気付いていないのではと、少し恨めしい。しかし、
(焦りは禁物ね。そのユリカさんも協力してくれているんだし)
軽く頭を振って、せっかくだから特等席で進を応援しようと近づく。
ユリカの後ろではアキトが盛り上げのためにユリカを鼓舞し、挑戦者の進には周りから「絶対に勝てよ!」と野次が飛ぶ。
いい加減無敗の王者が地に落ちる様を誰もが見たいのだ。
幸いにも相手は弱り切っている。
ここで決めねば何時勝ちを拾えるというのだろうか! と最早悪役のノリである。
「――じゃあ、進との対戦はちょっと特別な編成でやろうか」
疲れ切ったユリカは不敵な笑みを浮かべて提案する。第一艦橋から仕掛けた時もそうだが、進相手だと気合いが違うようだ。
ユリカの提案した編成は至ってシンプル。
進は新生ヤマト単艦(搭載機30機(ダブルエックス含む)と信濃)。
対するユリカはヤマトのデータベースから復元したらしいアンドロメダなる戦艦とその原型らしい量産型の主力戦艦からなる30隻の艦隊。
基本性能では新生ヤマトが勝るが、数ではユリカ有利でしかない編成にブーイングも出たが、進はあっさり了承して戦う事にする。
恐らく、進を自身の後継者として本格的に鍛えるためのステップだと判断したのだ。
母からの挑戦状と言うべき戦いに、進の戦意も上がるというものだ。
不敵な笑みで応じた進は、ユリカ率いるアンドロメダ艦隊と戦った。
結果は、引き分けだった。過去最高成績と言っても過言ではない戦いは、最後は波動砲の相打ちによる双方の破壊で幕を閉じる。
波動砲搭載艦艇での試合は唯一とは言え、ユリカに波動砲使用の決断をさせたという事で、進は称賛された。
進としては、波動砲の使用を“促された”のは艦隊行動から察したし、それに乗る以外の手段では引き分けに持ち込めなかった以上、負けた気分なのだが。
だが、ようやく彼女相手に戦えるレベルにまで成長出来たのではないかと思うと、今後の勉強に励みが出るというものだ。
(ユリカさん、貴方が何を思って俺を鍛えているのかは、今はわからない。でも、その期待だけは裏切らないって、約束するよ)
司会の隅で健闘を喜んでいる雪の姿を見つけて、進はもう少し話してみるか、と席を立った。
そうして、“2日間”にも及んだパーティーはいよいよ終幕へと向かう。300人近い人数が5分とは言え個別に通信するとなると、大体25時間は掛かる計算になる。
つまり、ヤマトの発進予定がまたしても1日ずれ込んだことになる。
結局その2日間はどんちゃん騒ぎのお祭りパーティーが続き、クルーは大いに英気を養った。
2日目は流石に半ばダウン状態のユリカだったので、会場には居たが半ば上の空、隅っこでぐったりと椅子に座りながら例のドリンクをチビチビ煽り、時折司会担当としてマイクを掴む程度だった。
代わりに、今度は1日目に優先して通信を終えた航空科の面々によるシミュレーターによるトーナメント方式の対決が行われ、またしても騒ぎになった。
なお、優勝者は月臣でだった。
アキトは1日目の終わりも間近という頃に、ユリカを同伴してコウイチロウとアカツキと通信した。色々と裏で工作してくれた事への礼を述べると共に、必ずの帰還を誓う。
「アキト君、改めてユリカを頼むよ」
改めて告げられた義父の言葉に、アキトは深々と頭を下げて応え、通信は終わる。
寂しい気持ちは沸き上がったが、生き残り、ヤマトの旅を成功させればまた会えると、気持ちを入れ替える。
必ず、あの平穏な日々を取り戻すのだと硬く誓って。
そうして全員が思い思いの人と通信し、ヤマトの使命に改めて向き合ったパーティーの閉幕の時。
ユリカはクルー全員に唱和を求めた。
「皆、地球と残してきた大切な人達に改めて宣言するよ!――必ずここへ! 帰ってくるぞーーー!!」
必ずここへ、帰ってくる!
全員が心の底から叫び、使命を果たして帰還する事を改めて誓って、パーティーは閉幕した。
パーティー閉幕から2時間後。宇宙戦艦ヤマトは長距離ワープで太陽系を後にした。
ワープに伴い生じる空間の波動は、まるで別れを惜しむかの様にゆっくりと溶けて消えて行った――。
我が故郷太陽系に別れを告げて、ヤマトは旅立つ。
その先に待ち構えているのは、ガミラスの魔の手か、それとも大宇宙の神秘か。
ヤマトはすでに、予定日数をオーバーして36日もの時間を費やしている。
人類滅亡まで、
あと、329日。
第十話 完
次回 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ
第二章 大自然とガミラスの脅威
第十一話 絶体絶命!? ガミラスの罠!
全ては、愛の為に
あとがき
凄い難産だった10話です。リアルで3週間以上かかった……。理由の1つがハーメルン投稿に合わせて投稿済みの5話と、未投稿の9話までを纏めて改訂していたのがありますが。
いえ、1話と2話の改定だけで十分だと思ったら、有難い助言を頂けたこともあり調子乗って色々書き直したら、ボリュームアップ+3話以降も改訂が必要な差異があちこちに生じまして。
で、改訂に合わせて細部の変更と1話と2話に合わせてボリュームアップを図った結果、めちゃ遅れたんですよ。そりゃ殆どの話で10kbのボリュームアップが要求されたんで。
尺が足りない! ってオミットした展開や表現の付け足しとか、描き洩らしていた描写を足して何とかノルマは満たしたぜ……。
ついでに、このエピソードは何に焦点を当てるかで全然流れが変わるので、色々と悩まされたエピソードです。描きたいシーンはあるけれども、ぶっちゃけ通信シーンばかり書いてもしょうがないんでオミットした要素はそれなりに多いです。
本気であらすじ以外は別物と化してますしね。特にナデシコ勢の暴走が過去最高になりました。
原作では家族を残した他のクルーと、孤独な沖田と古代との対比と交流に、ヤマトの後ろには滅びかけた地球がある事を改めて突き付けたエピソードですが、本作ではやや異なります。
そもそも本作だと肝心の古代がテンカワ一家に加わってしまっているので、寂しくないんですよ。
ので、原作通りの島を除くとルリとハリを使って、1話で退場したミナトとユキナの現況に触れ、ちょっと触れてみたかった月臣の通信もちょろっと。本作では「V」に倣ってユキナが元一朗が九十九を殺した事を知っている、という設定です。原作ではどうか知らぬ。
で、パーティーとなってナデシコの連中が大人しい訳無いと思ってたら大宴会状態に。しかも、300人設定で個々に5分で計算したら25時間必要、ってなったので、パーティーの時間が2日に延長。ヤマトの航海が素で遅れました。おい地球ピンチなんだぞ。
そして、余命幾許もないと知られているはずなのに容赦して貰えないユリカとか鬼畜な展開に……。
どうしてこうなった?
で、マッド3人組も大暴れ。ここでガンダムエックス登場フラグ構築とエステバリスの強化を図ります。やっぱりこいつも登場させたいので、本作では量産型ダブルエックスと設定しています。
正直なところ、多少の改修程度では原作設定のエステ系じゃ力不足になり過ぎてしまってね……このままではいかんとテコ入れします。
ちなみに本作のヤマトは2199と同じ333mとなっていますが、これは信濃のサイズ(81m)からの逆算です。
信濃は復活篇メカで唯一はっきりと全長設定がされていて、対比で逆算するとどんなに小さくても320mを下回る事は無く、制作中の模型(2199ベース)で図ると大体それくらいが丁度良いのです。ちなみに初期構想時の設定全長は360m。
次回は原作とゲーム版をミックスした話になるので、また難産が予想されますねぇ……。快調だったのは改定前の5話までだよ……。あそこまでは大まかな流れがトレースで済んだから。
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代理人の感想
やっぱりディバイダーきたかw
まあGXが無い以上、エステに使わせますよね。
どちらかといえばDXよりGX、ディバイダーよりノーマルの人なんですが、GXディバイダーも好きなんだよなあ。
そして真田ウリバタケイネストリオがw
三人の悪いところだけ強化されてる気がするwwww
あ、ユリカは自業自得で(ぉ
> あそこまでは大まかな流れがトレースで済んだから。
二次創作あるあるすぎる・・・orz
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