ユリカの宣言を受けた会場は騒めいていた。ヤマトの来歴の衝撃もそうだが、彼女が見せつけたヤマトにかける熱い情熱と信頼。
 そして、自分達こそが愛するモノたちにとって最後の砦であるという事実を悲観的ではなく、むしろ誇らしげに語ってみせたその姿は、不思議と彼らの心を沸き立て、勇気を与えていた。

 無論ヤマトのクルーに選ばれた者たちは直接的、間接的に彼女が余命幾許も無い身の上であることを知っていた。少しでも穿って調べればすぐに見つかる情報である。

 だからこそ、あの力強い言葉に勇気を貰えたと言っても過言ではない。自分自身の未来すら危ういのに、むしろ地球同様すぐにでも終わってしまいそうな状態なのに、微塵も諦めを感じさせない姿に、クルー一同は敬意すら抱いていた。



 我々はまだまだやれる。絶望するにはまだ早い。信じてぶつかっていけば、何とかなるかもしれない、と。



 その後一人の脱落者も出すことなく全員がアクエリアスへと移動し、宇宙戦艦ヤマトに乗艦して行った。全員が連絡艇の窓から見た地球の惨状に心を痛め、この作戦の成功を心に近い、ガミラスへの怒りを湧き上がらせる。



 全員乗艦、欠員無し。その報告を艦長席で受けたユリカは全員の覚悟に感謝し、なおのことしっかりしなければと、改めて自分に決意表明をする。



 生まれ変わった体と、新たな使命、そして新たなクルーを得て、宇宙戦艦ヤマトの旅が、再び始まるのだ。






 ヤマトへの乗艦が完了してから1時間。乗組員は自分達の部屋割りを確認して荷物を置くと、それぞれの配属先に散らばってシステムを立ち上げていった。

 大介は配備先になる第一艦橋の操舵席にて、家を出る時まだ幼い弟から渡された激励の手紙をポケットに入れ、使命感を燃え上がらせていた。内容は弟だけではなく、父と母からの激励も書かれている。
 島は操舵席に備わった“コ”の字型の操縦桿を動かして手応えを確認し、各種スロットルの位置や計器類の表示を確認する。ヤマトの運航を一挙に賄う航海班の長として、努々手を抜くわけにはいかない。

 「次郎、親父、お袋よ。待っててくれ。きっと帰るからな……」

 そんな大介の様子を進は自分の受け持ちである第一艦橋最前席の中央、戦闘指揮席の計器チェックをしながら見ていた。各種武器を一括で管理するこの席は相応にモニターとスイッチが多く、チェックは入念に行う必要がある。
 ここは、ヤマトの最終兵器波動砲のトリガーを有する場所でもあるので、責任は重大だ。
 故に進は戦闘部門を一挙に引き受ける戦闘班長に任命され、航空部隊もその管轄下にある。経験と年齢が釣り合っていない役職だと思いはすれど、とにかく人手が足りない現状ではそこまで不思議に思うほどではない。ただし、ヤマトの、特に第一艦橋の人事にユリカの意向が大きく反映されていることは知らされていない。

 「島、気張って行けよ。しくじったら残された家族が可哀想だからな」

 胸に去来するわずかな悲しみを振り払い、進は親友を激励する。

 「古代……ああ、しっかりするさ。その、ありがとうな」

 進の前で軽率だったか、と言う顔をする大介に進は心配するなと笑い飛ばして見せた。

 「俺の事は気にするな。世界のどこもかしこも、同じような人間が山ほどいるんだ。それに俺は、ルリさんや、ユリカさんを信じるって決めたんだ。全身全霊をかけて、この計画に命を懸けるだけさ」

 「……そうか、そうだったな、古代。必ずやりきろうな。俺達の未来の為にも」

 家族を失った心の痛みは消えない。しかし進はナデシコCに乗船した時から交流を重ねることになったルリやユリカの影響を受け始めていた。






 始まりは勿論あのナデシコCの騒動からだった。

 ルリは厳密に言えば家族を失ったとはいえない状況にあるが、生きているだけで接点を失ったアキトの事、傍にいるのにどこか遠いユリカの事。
 進は同じような傷を抱えるルリと立場を超えて打ち解け、互いに家族への想いを馳せた。生存しているだけ羨ましいと思わないではなかったが、憔悴したルリにそんなことを言うわけにもいかず、むしろ進の方が聞き手に回って身の上話を聞く羽目になった。

 自分が作られた存在であること、両親と思っていたものが単なる虚像に過ぎず、遺伝上の両親とは縁遠く、ようやく手に入れた家族は無残に奪われ傷つけられた。悲劇を超えて取り戻せたと思ったら、また手から零れ落ちそうな現在。

 涙交じりに語られたルリの数年の記録は、進の心を大いに抉った。
 それまでは電子の妖精だとか、史上最年少艦長だとかと持ち上げられてきた少女が、年相応の、どこにでもいる人間なんだと、このやりとりで進は初めて理解した。

 そしてユリカだ。兄を見殺しにした張本人。だがその事に心を痛め、進が報復を企てようものなら、甘んじて受け入れようとする姿勢を見せられると、どうにも気概を削がれる。

 幸いなことに帰還までの2週間もある。

 そう考えた進は、彼女がどんな人間なのかを知りたくて頻繁に足を運び話をすることにした。正直かなり勇気が必要だったが、それでも自分には知る権利がある、納得しなければ先に進めないと思い正面からぶつかって行った。
 無論本人だけではなく、ルリの様に古い付き合いの人達に、または入院中のユリカの世話を担当していた雪に、その人なりを聞いて回る事も怠らない。



 そうやって数日も経てば、進はユリカが平然と仲間を見捨てられるような冷たい人間ではなく、逆に感情豊かで情に厚い、太陽のような暖かい人間であることを知った。
 それなのにルリを徒に心配させる行動についてもついつい非難してしまったが、ユリカは困ったような顔をして「そうするしかなかったの」と言い訳をする。
 その態度が悲しそうだったので、ユリカの行動が決して本意ではなく、本当に必要だから、そうしなければならない何かがあるのだと悟った。

 例え病床の身の上であっても、それが出来るのは実験の後遺症で異常な力を得てしまった彼女だけなのだと。そして、彼女を突き動かす最大の動機が今は雲隠れしている夫――テンカワ・アキトなのだと知り、彼がどのような道を進んだのかも、聞く事が出来た。

 そこまで理解が進むと、今度はあの一家を身勝手かつ自己満足の正義を振りかざして引き離した、火星の後継者にも怒りを覚えた。確かに実験の後遺症とやらが無ければヤマトの再建は成しえなかったかもしれないが、ここまで苦難な道を歩まずに済んだかもしれないのだ。
 いや、ガミラスが避けられない脅威であったとしても、彼女の隣には最愛の夫がいたであろうし、その夫にしても、自分で自分を許せなくなるような所業に手を染めずとも済んだはずだ。
 そんな感情が口を吐くと、ユリカは本当に泣きそうな顔で「それ以上言わないで」と進を留める。

 それから間を置かずに嗚咽を漏らして泣き出す姿を見て、火星の後継者の遺した傷跡が決して小さい物ではないことを実感させられた。

 彼女もまた自分と同じように、理不尽な暴力で不幸になった存在だったのだと。

 ――そして、彼女はまだ、火星の後継者の呪縛から逃れられていないことを。



 彼女らとの関係が深まるに連れ、何時しか進はユリカに強い敬意を抱くようになった。
 あんなに弱々しい体なのに、本心では寂しくて寂しくて泣き叫んでいるというのに、それを感じさせない不思議な包容力に心が休まるのを感じた。
 兄を見殺しにしたことを気に病んでいるのか、それとも生来の器の大きさ故なのか、彼女は進をよく気遣ってくれている。その優しい視線と態度が、ささくれていた進の心を癒してくれたのは間違いない。
 自分の事で手一杯のはずなのに、こんな自分すら気にかけてくれる。

 そんな彼女の心の強さを、進は尊敬するのだ。



 その後、進は彼女がかつて連合大学を首席で卒業した才女であると知った事から、「俺に戦闘指揮を教えてください」と頼んでみた。すると、彼女は「良いよ良いよ、大歓迎だよ!」と快く応じてくれた。「やっぱりそうなるんだね!」と言いたげな視線が気にはなったが、下手に突っ込んで機嫌を損ねたりしても嫌なので、スルーして感謝する。

 丁度その時傍にいたルリは、それはもう怖いくらいに目を吊り上げて「大人しくして下さい」とユリカを非難したが、「ゲームだからゲーム。そんなマジなのやらないから!」と、本当にオモイカネに頼んでテレビゲームを起動して進と対戦する、と言う形でのレクチャーを兼ねて遊ぶことになる。

 進はちょっと拍子抜けしたが、ルリの心情も考えるべきだろうとその場は我慢する。
 ――隠れてこっそりとユリカが進を指導するようになるのは、地球に戻ってからの事だ。

 その時遊んだのは本格的なリアルタイムシミュレーションゲームだった。
 巻き込まれた(と言うよりも監視の為に残った)ルリも交えて戦ったが、結局進は一勝も出来なくて悔しい思いをした。
 ルリは進よりはマシだが結局まともに勝つ事が出来ず、尊敬するような悔しいような複雑な表情で「もう少し手加減してくれても良いと思います」と唇を尖らせてた可愛い表情を見せてくれた。
 その表情にユリカも進も大笑いして、陰鬱な空気を完全に吹き飛ばした楽しい時間を過ごしたものだ。

 直後にルリは拗ねてしまったので、ご機嫌取りが少し大変だったが、それも嬉しい苦労と言える程度だった。



 時にはユリカの看病のために離れられない雪や、ルリを心配して様子を見に来たハリに、進がまた馬鹿をしでかさないかと気になって顔を出した大介すら巻き込んで、他愛の無い無駄話に花を咲かせることもしばしばだ。

 ユリカの無茶苦茶な活動報告も悪い事ばかりではなく、一部は地球では見られないような変わった気象現象などの写真だったり映像だったりを残していたらしく、未知なる宇宙の神秘の記録に全員で目を輝かせた。

 他にも全員でゲームをしてバカ騒ぎをしたり、過去の映画ディスクなどを見て笑ったり感動したりと、暇さえあればユリカの所に顔を出してはしゃいだものだ。

 地球に戻ってからはヤマト乗艦の為の訓練に勤しむことになったが暇さえあれば顔を出すことに変わりは無く、そのため今度はラピスやエリナ、イネスらを始めとする旧ナデシコの面々とも知り合うようになり、進は兄を失った悲しみを克服し、出会った友人たちの為にこの航海の成功を誓うようになった。

 もう2度と、大切な人を失うまいと固い決意を抱いて。



 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 第一章 遥かなる星へ

 第三話 号砲一発! ヤマトの目覚め!!



 「ラピス、そちらの準備はどうですか?」

 電探士席に座ったルリが機関制御席に座ったラピスに問う。彼女はヤマトの電算室を始めとするコンピューター関連の総責任者、チーフオペレーターに任命された。ナデシコCからオモイカネも移植されているので心強かったが、ヤマトではオモイカネもサブコンピューター扱いだ。
 本来想定されていない改修故、マッチングが不完全なのが理由である。何しろ、ナデシコC自体どうなるかわからなかったので仕方がない。

 第一艦橋のパネルはやや簡素なもので、透明なスクリーンモニター1つとコンソールパネルが1枚だけで、パネルは右側にある支柱1つで支えられている。
 改修が追い付かずIFS端末の使えないキーボードタイプのそれは、ルリの能力を最大限に発揮出来るものではなかったが、元々本体は第三艦橋にあるのであまり問題ではない。本格的な作業をしたければそちらに移動すればいいだけだ。

 ただ、移動方法がちょっと……。

 ルリは当初、ラピスも自分の部下に付くものかと思っていたのだが、彼女は自らエンジン制御の責任者に名乗りを上げた。エンジン本体の調整作業はその細腕では無理だが、プログラム関連は元よりコンソールパネルを使用してのエンジンコントロール技術に優れた手腕を発揮したことで、案外すんなりと決まってしまった。
 本人も再建の際に最も力を注いだのが機関部の制御系だったようで、愛着があるのだとか。

 また、見目麗しい妖精が自分達の上司になった事で、どちらかと言うとむさ苦しい機関部の人間は小躍りして喜んだものだ。ラピス自身は特にそれを嫌がる様子もなく、むしろ年齢を考えれば当然だと大目に見ている他、礼儀正しく部下となる男共に接している。

 「起動準備は進展率50%。事前のエンジンチェックでは問題はありませんが、後は起動してみない事には何とも言えませんよ、ルリ姉さん」

 ラピスは計器類のチェック作業を止めずに回答する。こちらはボックスタイプの立派なコンソールが用意されているのだが、小柄なラピスだとパネルより先は殆ど見えない。長い桃色の髪は後ろで縛って邪魔にならないようにして気合いもばっちり。
 計器盤はアナログメーターとデジタルメーターが複数備わったもので、複雑なエンジンの出力管理とエネルギー分配はこの席で行う(意外なことにラピスはIFS端末への改修作業を断っており、想定されていた入力キーとレバーのみで機関制御席を操作するつもりだ)。
 無論、機関室からの直接制御を求められることも多いため、この席は機関室への直通回線が備わっている。

 ナデシコCが地球に帰還してからの一月の間に再会した、と言うよりも初めて顔合わせをしたと言える2人だが、共通の話題としてアキトとユリカがあったため思いの外早くに打ち解けた。
 無論ルリからはアキトの所在を教えて欲しいと頼まれたので、素直に月にいることを白状したが、ユリカが今の段階ではアキトとの再会を望んでいないことを止むを得ず教えた。無視して人の輪を乱すのは、ヤマトに乗る上で致命的と判断したラピスの独断ではあったが、なぜユリカがアキトを避けるのかを聞いたルリは納得せざるを得なかった。

 根の深いその問題にそれ以上の深入りを避けた2人は、互いの関係を深めるべくお泊り会を実施してみたり一緒にご飯を食べたり、過去のドラマを見たりなどして打ち解けることに努めた。

 その結果、ラピスはあまり実感の湧いていなかったユリカの「じゃあルリちゃんの妹だね」という言葉に実感を持つようになり、特にそう言われたわけではないが何時の間にかルリを姉と呼ぶようになった。少々困惑したルリではあったが可愛い妹分の追加にちょっとだけ心がときめいたのは内緒だ。

 「通信システムは現在の所正常、と。流石我が社の製品ね。完璧だわ」

 とは通信長に抜擢されたエリナの発言だ。こちらは壁面に備えられたコンソールが特徴で、目の前には艦内の各所を映し出す小型モニターが幾つも連なり、それぞれの場所に艦内通話を繋げる事が出来る。
 当然通信席なので、外部からの入電に対しても応答する必要があり、場合によっては不審な電波の受信や解析も担当する、地味に仕事の多い席でもある。入力は全てキー入力。
 ナデシコでは副操舵士の役割についていた彼女だが、ヤマトでは通信関係の責任者としての乗艦になる。と言うよりも第一艦橋に配属されるために少々無理を言ったのだ。

 「それにしても、エリナさんが乗艦するとは思いもしませんでした。てっきり月でアキトさんの世話をしているのかと」

 とはルリの言い分だ。ルリもこの一月の間にエリナが公私に渡って深くアキトと関わりがあった事実を掴んでいた。ラピスの話で納得するまではエリナが自分から、ユリカからアキトを奪おうとしているのかと思って敵意を持っていたものだが、どうやらそれは思い過ごしだと考え直して多少マイルドにはなった。
 が、元々ネルガルの上層部に良い印象のないルリとしてはどうしても対応がキツくなる。

 「――引っかかる言い方ね。何時までもあんな朴念仁の相手をしててもしょうがないでしょ。この航海が失敗したら地球は終わりなんだから。それに、私がいなくてもアキト君なら会長が面倒見てくれるわよ」

 と軽く流す。ルリの危惧をエリナが考えていなかったわけではないが、すでに心の整理はついている。そもそもアキトを本気で奪いたいならユリカを殺す以外に道は無い。彼女がいる限りは絶対に振り向いてくれないのは痛感している。最も、共犯者になる以前からそんなつもりは無いのだが。

 「ふむ、シミュレーターよりも操作しやすいな。火器管制制御の補佐は任せてくれて構わないぞ、戦闘班長」

 とは火器管制席に座るゴートだ。彼は砲術科長として武器運用の責任者に選ばれた。目の前には主砲や副砲用の専用照準モニターに各種誘導兵器用のモニター、さらには武装管理や切り替えを行うための入力キーが備わっている。煩雑さを避けるためかキー入力が主体となっているので仕事量の割にすっきりしたパネル設計だ。
 ついでにその立派過ぎる体格はヤマトの座席では少々きつそうに見える。この席と通信席は左舷側の壁面に設けられていて、艦首側にこの火器管制席がある。

 余談ではあるが、ゴートにはヤマトの艦内服があまり似合わない。元々新しいデザインの艦内服は体にフィットするデザインなので、筋骨隆々の大男が着ると目のやり場に少々困る。事実女性陣は特に気にした事の無いラピスを除いて極力直視を避けている。

 さらなる余談ではあるが、旧ヤマトの女性隊員服は、厳密にはヤマトの隊員服を着ていないユリカ含めて、満場一致で否決され男女共用となった。女性用も体のラインが出やすい服なので相応に不満の声が大きかったが、戦闘服やら簡易宇宙服などを兼任する都合上我慢して貰う他なかったのである。それでも旧デザインの錨の装飾が“パンツ”の様に見えるモノよりはかなりマシなのも事実。ズボンだし。

 これが、隊員服改訂騒動の中で、最も激しかった論争である。勿論、一部の男性クルーが旧隊員服での勤務を求めたことも、それに反発して血で血を洗う様な騒動に発展しかけたことも、改めて追記する必要は無いだろう。

 ――ただしこっそり旧女性用艦内服(しかも健康だった時の寸法の物)をユリカが入手していたりするのだが、その目的はひ・み・つだそうだ。ちなみに色は白に黒ラインの、ディンギル戦役時の雪と同じもの。

 「古代でいいですよゴートさん。頼りにさせてもらいます」

 と戦闘指揮席の進が返す。

 「古代、波動砲のテストモードを起動してみてくれ。問題ないとは思うが、操作手順の確認だけは怠るなよ」

 艦内管理席に座るヤマトの工作班(科学分析・修理・製造)の総責任者の真田が指示を出す。
 真田は古代進の兄である守の親友であったため、その弟である進を気にかけていた。民間人の真田は冥王星海戦には同行していないが、ユリカを通じて守が勇敢に戦い散って逝ったことを聞いていた。
 進とはそれまで接点が無かったが、こうしてヤマトで一緒になった。
 だが、真田の希望もあり守との関係はユリカも伝えてはいない。

 「了解。波動砲、テストモード開始します」

 古代が所定のスイッチを順に押していくと安全装置が外れ、戦闘指揮席のコンソールパネルの正面部分が裏返り、拳銃型の発射トリガーが顔を覗かせる。トリガーはそのまま回転したパネル毎進の目線の高さまで上昇する。
 そしてそのトリガーの先にポップアップタイプのターゲットスコープが出現し、「TEST MODE」の文字と共に波動砲の照準が表示される。

 進は両手でしっかりとトリガーユニットを握りしめると、横に前後に軽く力を入れてみる。遊びの無いサイドスティック操縦桿でもあるトリガーユニットは圧力を検知、それが反映されてターゲットスコープの仮想ターゲットマーカー動く。
 マーカーの動きは機敏とは言えずゆったりとしたものだがそれも当然だ。

 波動砲はヤマト艦首に固定装備された艦隊決戦兵器。それ故に照準動作は艦の旋回と連動している。この状態では操縦席からの操作はほぼ無効化され、このトリガーユニットを使用して艦の姿勢制御を行う。
 圧力センサーだけでは出来ない微調整を行う場合は別途入力装置を使用する。

 最後に計器が表示する情報が発射準備の完了を告げる。進は標的を照準に収めると引き金を引く。するとトリガーユニットのボルトが前進してターゲットスコープに映し出された仮想標的が粉砕される。
 動作は良好だ。次に複数回の連続発射モードを試す。

 新生したヤマトのトランジッション波動砲は、6連発が可能になっている。

 これはヤマトのエンジンが6連相転移エンジンを増設した、“6連波動相転移エンジン”と呼称される新型機関に換装された事に由来している。
 従来のヤマトでは1発でエンジンを空にしていた波動砲だが、新生したヤマトでは6発に分けて発射出来るようになった。
 無論、相応のリスクもあり気軽に撃てるような武器出ない事は変わっていないが、劇的なパワーアップを果たしている。

 それに伴い完成システムは一新されていて、複数のターゲットに対してピンポイントで撃ち込むことが可能になっている。
 ターゲットを事前にロックしてそれぞれ微調整をすれば、ある程度の艦の制御は自動化される。だが、やはり砲手の腕が多大な影響を及ぼす点は、従来のヤマトから変わっていない。
 後はトリガーを引く毎に、微調整を重ねて連続して標的を撃つ事が出来れば合格だ。ヤマトはこういう部分でかなりアナクロな艦だが、人の手で動かしているという実感が持てて進は好きだった。

 「ルリさん、仮想標的のデータ処理、お願いします」

 「了解。波動砲のターゲット出します。数は6、正確な位置データを転送。発射どうぞ」

 「受け取りました。発射します」

 ルリが表示したターゲットの位置情報を火器管制システムに組み込みロックオン。進はそれに向かって仮想の波動砲を撃つ。一射毎にトリガーユニットのボルトが前進しては戻り、6つの標的を見事に粉砕する。

 「波動砲テストモード終了。真田さん、問題ありません」

 「うむ。後はどこかで試射だな。使ってみなければ、どの程度の反動がヤマトに襲い掛かるかわからんからな。何しろ我々にとっては未知の兵器だ。
 かつてのヤマトは使いこなせていたのだろうが、何しろ基礎技術の足りない状態での再建、しかも強化改造だ。
 正直背伸びをし過ぎていて不安が残る」

 ヤマトの再建に1から取り組んでいる真田は、その発射システムや要求されるエネルギーと合わせて波動砲の破壊力をほぼ正確にはじき出していた。
 恐らく、小規模な天体なら消滅、地球規模の惑星であっても、数発で粉砕してしまう破壊力を有しているだろう。故に出来る事なら使わずに済ませたいと考えているのだが、状況が許してはくれないだろうと、その聡明な頭脳は言っていた。

 「でも強力な兵器なんですよね? 下手に使ってガミラスを刺激するって結末は、嫌ですよね」

 と、心配が口を吐いたのは航法補佐席に座るハリで、彼は大介の副官として、ヤマトの操縦に必要な航路データの割り出しや周辺宙域の解析等を一手に引き受けることになっている。
 こちらも通信席や艦内管理席、砲術補佐席と同じ壁面に備わったパネルで、目の前のパネルには各種環境データを表示するモニターが幾つも連なっている。
 小柄なハリでは元々成人を想定して作られた計器を操作しきれないため、突貫工事で取り付けたIFSコンソールを併用して操作する。

 「確かにな。とは言え地球は遊星爆弾のせいであのざまだ。戦時条約の類もない以上、使うべき時には使って危機を乗り越えなければ、地球を救う事なんて出来ないさ」

 と大介は波動砲の使用に対して賛成の姿勢を見せる。

 「俺も同感だ。だがハーリーの懸念も最もだ。威力の底が知れない以上、扱いには慎重であるべきだろうな。こいつは、あの相転移砲すら上回る怪物だと、艦長が言っていた」

 進は深刻な顔でそう語っていたユリカの姿を思い出して身震いする。あれは冗談とか誇張ではない。掛け値なしの事実を語る顔だった。

 と、空気が暗くなりかけていたところに副艦長のジュンが第一艦橋に飛び込んできた。

 「発進準備は進んでいるか?」

 と開口一番に尋ねる。ヤマトの副艦長を任命されたジュンは、凄まじいやる気と共に乗り込んできた。ジュンとて散々ガミラスに煮え湯を飲まされてきたのだから悔しくもあるし、ここまで追い込まれてしまったのは、自分達軍人が情けなかったからだと後悔の念もある。
 それに、アキトを失ってどう考えても無理をしているユリカを助けるためなら、ジュンは例え甲板掃除であったとしてもヤマトに乗り込んだだろう。すでに自分の気持ちにはケリをつけているが、今のユリカの姿は痛々しくて見るに堪えない。

 「はい、まもなく完了します」

 すでに艦橋に集まっていた責任者たちを代表して真田が返答する。

 「よし。古代君、艦長の様子を見て来てくれ。地球からの通信で、ガミラスの艦隊が接近中だ。流石に感づかれたらしい」

 「わかりました、艦長を呼んできます」

 進は逆らわずに従う。戦闘指揮席の波動砲テストモードを完了、通常モードに戻してから席を立ち、そのまま第一艦橋の後ろ、左側のエレベーターに乗る。
 ヤマトの艦長室は旧戦艦大和で言う所の主砲射撃指揮所に相当する場所にある。つまり、艦橋の一番上と言う地味に危険極まりない場所にあるのだ。

 何故このような場所に設置されたのかはわからないが、ユリカ自身が在りし日のまま復活させることを望んだためそのままになっている。



 後に本人自ら「変えときゃ良かったかも。――こわいよぉ〜。何で沖田艦長大丈夫だったの〜?」等と泣き言が飛び出すのはまた別のお話。



 ともかく艦長室に行く方法は2つある。1つは艦長席の昇降機能を使う事。艦長席は専用のエレベーターも兼ねていて、艦長室の間を座席毎速やかに移動する事が出来る。
 もう1つは主幹エレベーターの左舷側を使う事。このエレベーターは艦長室の1つ下の階層で止まり、そこから狭い階段を上ることで艦長席のドアの前に付く。
 部屋の手前右舷側のスペースは、洗面所とユニットバスのスペースだ。
 一応個室としての広さはヤマト最大で見晴らしも良いのだが、言い換えれば外から丸見えだ。
 それでもヤマトの窓は例外無く防御シャッターを備えているため、何らかの理由で遮蔽が必要な時はシャッターを下ろせば最低限のプライベートは確保される作りにはなっている。

 忘れた状態で船外作業中の乗員に室内を覗かれたとしても、不可抗力と許して貰う他ないが。

 進はドアの前に立つとノックしてから「古代です」と声をかける。すぐに「入って良いよ」と応答があったので「失礼します」とドアを開ける。
 目の前には一部の隙も無く制服を着こなし、椅子毎こちらを振り向いて座っているユリカの姿があった。

 「艦長。地球から通信です。ガミラスの艦隊が、アクエリアスに接近中とのことです」

 「わかった。じゃあすぐに発進して迎撃だね。ヤマトの初陣だ、気合入れて行こうね、進君」

 とってもフレンドリーに応対するユリカ。これだけだととても艦長と部下の会話には聞こえない。しかも交流を重ねた結果、ユリカは進を名前で呼ぶようになっただけでなく、すっかり我が子のように可愛がり始めている。

 正直嬉しいような恥ずかしいような。進はその度に黙り込んだり赤面したりしているが、ユリカは一向に意に介してくれない。でも流石に最近慣れてきた。むしろこの関係が心地良い。

 「はい! 気合マシマシで行きます!」

 ユリカ相手に、しかも周りに人のいない状況では堅苦しくしているだけ無駄と諦めている進は、冗談交じりに返事をしながら敬礼をする。
 ユリカも椅子に座ったまま笑顔で答礼して、第一艦橋に戻るようにと指示する。進もすぐに応じて艦長室を後にして第一艦橋の自分の席に戻る。

 「立派になるんだよ進。貴方が、これからこのヤマトを背負っていくんだからね――かつてのヤマトを導いた、並行世界の貴方の様に」

 進が部屋を出た後ユリカは独白する。自分の今後を考えればどうしてもヤマトの指揮を継ぐ人間が必要になる。
 残念だがジュンでは駄目だ。ヤマトを指揮するために必要なのは型にハマった強さじゃない。状況に応じての柔軟性だ。ジュンは教本通りにやらせたら自分に引けを取らない、いや経験値の分だけ勝るかもしれないが、ヤマトのような(この世界の基準からすると)特殊な艦艇を扱うには少々頭が固い。
 これはルリにも言える。

 だから、若い進のような存在が必要だ。交流を重ねた1か月半の間に、ユリカは進が自分の後継者足りえると確信を持った。

 足りない経験はこれから積めばいい。ジュンやルリと言った経験者もフォロー出来るだろう。今最も必要なのは諦めない心。挫けない心。そして、目的のためにひた走る情熱なのだ。
 並行世界の彼の姿とダブらせずにはいられないが、彼は彼だと思い直す。ヤマトが見せた“記憶”の中の進が無くても、ユリカは間違いなく進を後継者に選んだだろう。

 それだけの素質が、彼にはあるのだ。



 何より、「古代進はユリカ自慢の子供なんだぞ! エッヘン!」てな考えがすっかり染み付いてしまっているのである。

 「さて、私も降りるかな――ヤマト、行くよ!」



 第一艦橋に降りたユリカに全員が席から立って敬礼をする。艦長室では緩い態度を取った進とユリカも、ここではきちんとした態度で接する。

 「地球からの報告は?」

 答礼したユリカがエリナに尋ねると、

 「現在月軌道上にガミラスの駆逐艦5隻を確認。アクエリアスに接近中、到達まで後10分を想定」

 うむ、と頷くとユリカはすぐに指示を出す。

 「全艦発進準備。発進と同時に主砲と副砲で敵艦を砲撃する」

 「了解! 相転移エンジン、波動エンジン、起動開始!」

 艦長の指示を受けて副長のジュンが指示を出す。

 「い、ECIに移動。準備に入ります」

 一瞬の躊躇いの後、ルリが本格的な準備のために第三艦橋の電算室に移動する。電算室の主オペレーター席と第一艦橋の電探士席は、座席自体が直通のエレベーターを兼ねる構造になっている。
 ――そう、これからほぼヤマトの最上層に近い第一艦橋から最下層の第三艦橋まで“急降下フリーフォール”を体験することになるため、一口で言えばビビってるのである。

 ルリがシートのスイッチを操作すると座席がわずかに後退した後、そのまま床毎ピューッと降下する。床の穴はスライドハッチによって塞がれるが、その直前に引きつった悲鳴のようなものが聞こえた。

 一瞬発進の緊張感に包まれかけた第一艦橋の空気が霧散する。ユリカもラピスもエリナもハリも、果ては設計した真田ですらも何と言って良いかわからない、むず痒いような顔をする。

 そして瞬く間に第三艦橋のECIに到着したルリは、エレベーターシャフトから座席毎飛び出して制御パネルの前までスライドレールに沿って移動する。

 (し、心臓に悪い……!)

 急降下でちょっと乱れた髪を手櫛で直し、青褪めた表情のまま目の前のIFSコンソール両手を置く。こちらも設計段階では想定していなかったため急造の物だが、性能的にはナデシコCに遜色ない。
 今ルリ達オペレーターが座っているのは、全天球型スクリーンの中央に浮かんだ、古墳のような形をした制御台だ。二段高い位置にあるルリの主オペレーター席とその隣で一段下がった所に副オペレーター席(普段は空席)、最下段の先端の丸い部分に沿うような形で計4名、最大5名のオペレーター達がルリのサポートを担当する。

 ルリは弾む心臓を宥めながらシステムを次々と起動していく。

 「ECI、準備完了」

 ルリの言葉と共に「STAND BY」の文字が躍っていた全天球スクリーンにヤマトの外部カメラや各種センサーが拾った情報が表示される。当然映し出されるのは現在ヤマトが収まっているドックの内壁だ。

 同時刻。ヤマトの機関室でも慌ただしく機関士達が動き回ってエンジンの起動準備を整えていく。新生ヤマトのエンジン制御は従来のエンジン本体に直付されたコンソールではなく、機関室の壁面や天井を移動する専用の機関制御室内のコンソールで操作する。
 その内の1つに飛び込んだやや小太り気味の徳川太助と、中年に差し掛かろうと言うベテラン機関士の山崎奨と共に次々と計器類を起動して行く。起動終了後、通信マイクに向かって叫ぶ。

 「機関室、システム準備完了!」

 その報告を受け取った第一艦橋のラピスは、機関制御席のモニターが全て正常に稼働し、機関士が全て所定の場所に付いたことを確認するとユリカに報告する。

 「機関部門、配置完了――機関部の皆さん、よろしくお願いします」

 と、見えてもいないのに律儀に頭を下げて一言激励する。機関室から「うおおおおおおっぉぉぉ」と歓声のようなものが聞こえた気がするが、ラピスは気合に溢れて吠えているのだと勘違いする。

 「ぜ、全通信回線オープン。送受信状態……良好です」

 ラピスの様子に多少呆気に取られながらも自分の役割を果たすエリナは流れるような手付きで通信回線を覚醒させる。元々秘書として多種多様な連絡を受け取っては裁いてきたエリナなので、作業に淀みが無い。

 「レーダーシステム、異常無し。長距離用コスモレーダー起動完了!」

 操縦補佐席のハリがパネルを操作し、ヤマトの艦橋部分、測距儀に取り付けられた4枚のレーダーアンテナからなる長距離探査用のタキオン粒子レーダー、コスモレーダーを起動する。アンテナがモーターの駆動音と共に左右に動き、動作が問題無い事を告げる。

 「火器管制システム、異常無し」

 ゴートが黙々と全ての兵装システムを点検し、異常が無い事を口頭報告する。

 「艦内全機構、全て異常無し。出航に差し支えありません」

 艦内管理席で艦全体のチェック作業を終えた真田も報告した。ヤマトの状態は良好、何時でも発進出来ることを示している。

 「航法システム、異常無し」

 操舵席でモニターと計器を確認した大介も、ユリカにシステムが正常であることを告げ、改めて操縦桿を握る手に力を籠める。緊張で体が震えるが、計器類に見落としは無い。全てのスイッチが所定の位置に入っているのを確認する。
 ナデシコCでの操舵経験が生きている。初めてナデシコCの操舵を任された時は、スイッチの入れ忘れなどで少々ミスをしてしまったのが軽いトラウマになっていたが、今度は大丈夫だ。

 「発進準備、全て完了。ドック上昇へ」

 副長席のジュンは、モニターに発進準備が完了したことを示すメッセージ表示されたことを受けドックの管制室に指示を出す。
 指示を受けたドックの管制官は天井のハッチを解放し、巨大なエレベーターを兼ねる船台上昇を開始する。7万トンを超えるヤマトの巨体が持ち上がり、そのまま事前に掘られていた氷のトンネルの中を上昇していく。

 「補助エンジン、始動」

 「補助エンジン、動力接続」

 「補助エンジン、動力接続、スイッチオン」

 ユリカの指示を島が、ラピスが復唱して実行する。ヤマトの艦尾、喫水の下に備わった2基の補助エンジンから煌々と光が噴き出る。
 まだアイドリング状態だが、その噴射炎の圧力と熱量でヤマトや船台に張り付いていた氷が、エレベーターシャフトの内壁溶けて水蒸気を発生させる。

 「相転移エンジン起動。フライホイール接続」

 「フライホイール接続!」

 ラピスの指示が飛び、波動エンジンの前方に増設された相転移エンジンが起動を開始する。小相転移炉心の小フライホイールが、回転を始めると同時にエンジンの回転を円滑にするためのエネルギーを蓄えて、赤く発光する。
 小炉心が生み出したエネルギーは収束を目的として一体化している大炉心内部に誘導され、そこでも回転する大フライホイールが力を蓄える。相転移エンジンは起動に成功し、蓄えたエネルギーを波動エンジンに伝えはじめ、波動エンジンが唸りを上げて莫大なエネルギーを生成し始める。

 「続けて波動エンジン、第一フライホイール、第二フライホイール始動、10秒前」

 「波動エンジン、第一フライホイール、第二フライホイール接続。起動!」

 更なる指示が機関室に届き、太助と山崎が一緒に機関室内のコンソールを操作、波動エンジンに備えられた2枚並んだフライホイールが、重々しい音と共に回転を始める。2枚のフライホイールは回転が高まると同時に赤く発光し始める。
 その事を確認した太助が思わず「よしっ!」と言うと山崎がぐっと親指を立てて応える。

 相転移エンジンが、波動エンジンが、唸りを上げる。ヤマトの艦体が、強力無比なエンジンが生み出す莫大なエネルギーを受け止めて、震える。

 各乗組員がそれぞれの場所で己の役割を果たす中、ついにその時が来た。

 「ガントリーロック、解除」

 ジュンの指示でヤマトの艦体を固定してた拘束アームが次々と解放される。アームが解放されるわずかな振動を体に感じながら、ユリカは万感の思いを乗せて叫ぶ。



 「ヤマト、発進!!」



 大介が復唱して操縦桿を思い切り引く。同時にメインノズル内部のスラストコーンが後退して噴射口を広げ、僅かな溜めの後煌々とタキオン粒子の奔流が噴き出し、ヤマトの体が一瞬激しく震える!



 最大噴射!!



 厚さ数十pはある氷の天井を力付くでぶち破ってヤマトが浮上する。その体に張り付いた氷のかけらを振るい落としながら浮上する姿は、赤錆びた以前の体を振るい落として発進した、誕生時の姿を彷彿とさせる。

 全ては愛が故に。

 アクエリアスの海に没したヤマトは、1年の歳月を経て、再び地球と人類を護るため、
戦う艦として新生したのだ。

 メインノズルが生み出す莫大な推力の余波で、アクエリアスの氷が砕け散りヤマトの後方に巨大な煙を生み出し宇宙へと消えていく。氷上を水平に猛スピードで飛翔するヤマト。その力強さは従来の地球艦艇の比ではない。
 その姿を捉えたガミラス艦は速やかに攻撃体制に移行、ヤマトとの距離を詰めつつ照準に捉えようと身を捩る。ターレット室で巨大なギアが回転し、巨大な砲塔を旋回させる。

 「主砲、発射準備!」

 「了解! 主砲発射準備! 目標、右舷のガミラス駆逐艦隊」

 ユリカの号令と共に進が復唱してヤマトの主砲と副砲を起動を指示する。指示を受け取った各砲座の砲手達がパネルを操作して主砲と副砲を起動する。
 まるで拳銃の撃鉄が倒れるように、主砲の尾栓にある安全装置が外れる。

 「ショックカノン、エネルギー伝導終了。自動追尾装置セット。標的誤差修正」

 ゴートが火器管制席から第一から第三主砲、第一・第二副砲の作動を確認して計器を読み上げ、月軌道上で待ち構えているガミラス艦に照準を指示する。指示に合わせて砲手はコンソールを操作、狙いを定める。
 ヤマト自慢の三連装46p重力衝撃波砲――グラビティショックカノン――が首をもたげ、波打つように砲身を動かしながら回転し、その砲口の先に標的を捉える。同時に三連装20p重力衝撃波砲も標的を補足する。ヤマトの右舷方向に火力を集中する形だ。
 ガミラス艦との距離はまだ遠い、従来の地球艦艇は勿論敵の射程距離よりもまだ外側だ。
 ――しかし!

 「主砲、発射ぁ!!」

 「主砲、発射ぁ!!」

 発射準備完了の報告から間髪入れずに気合の籠ったユリカの指示が飛ぶ。
 進が同じく気合を乗せて復唱する。
 指示を受けて各砲の砲手がトリガーを引くと、強力な重力衝撃波が砲口から飛び出す。右・中央・左の砲と時間差を置いて発射され、反動を吸収するために砲身が後退、砲室内部では後退機が伸びきる。

 発射された青白く発光して見える重力衝撃波は狙い違わず各々の標的に命中。あれほど地球艦隊を苦戦させていたガミラスの艦艇を紙切れの様に撃ち抜ぬき、その内部で強烈な重力衝撃波をまき散らし、内側から徹底的に破壊して撃破する。

 その威力、射程距離は今までの地球艦隊のそれとは桁違いのものだった。



 それは地球にとって、誰もが見たがっていた光景。誰もが望んだ光景。

 そう、ついに、ついに地球はガミラスと対等に戦える力を得たのだ。

 宇宙戦艦ヤマトと言う、強大な力を。絶対の守護者を手に入れたのだ!






 その光景を目に焼き付けているのはヤマトの出向を見守るため、危険を承知でナデシコCに乗船して宇宙に上がったミスマル・コウイチロウら、軍や政府の高官達だ。
 全能力をヤマトの最終調整に割いたため、ナデシコCは制御コンピューターも仮設の物で飛ぶのが精一杯、襲われたら一溜りもない状態だが、彼らはその目で直接見届けたかったのだ。
 全員が直立した姿勢で敬礼し、ヤマトに最大限の敬意を表する。全員がその光景に涙を流していた。

 ついにやった。今まで一矢報いる事にすら多大な犠牲を払っていたガミラスをついにこちらが一方的に打ち勝った! これほど嬉しい事は無い! 

 その光景は、さながら6年前の佐世保で産声を上げた、機動戦艦ナデシコの再来の様にも思えた。奇しくも艦長は共通して、ミスマル・ユリカ。

 「これが、これが宇宙戦艦ヤマトか!!」

 誰かが感嘆の叫びを上げる。だがそれはこの場にいる全員の心境だ。そして、その渦中にあってコウイチロウは別の意味でも涙を流していた。
 ネルガルから水面下で接触を受け、今日までヤマトの再建とその後の運用について様々な便宜を図ってきた彼は、事実上ヤマトに関わる計画の責任者と言えた。

 「頼んだぞ、ヤマト。任せたぞ、子供達」

 氷塊から離れ、宇宙空間を進むヤマトの姿を見届けながら、コウイチロウは敬礼と共に言葉を贈る。

 (――必ず生きて帰ってくるんだぞ、ユリカ。パパも、アキト君も待っているんだ……。アキト君、君が何をしたとしても、今君が何をしていようと、帰って来てくれさえすれば咎めたりはせん。だから、ユリカの無事を、君の妻の帰りを信じてやって欲しい)

 愛娘が命を削って復活させたヤマト。その胸中の全てを出航前夜に打ち明けられたコウイチロウは涙が止まらなかった。
 それ以前からヤマトの再建に娘が関わっている事は知っていたが、その無謀と言える行動の裏にそのような理由があったとは、決意があったとは露と知らなかった。

 すっかり弱り切った愛娘をしっかりと抱きしめて「必ず生きて……帰ってくるんだぞ……!」と激励する事しか出来ない。旅立つ事を、止められない。

 今コウイチロウに出来る事はただただ娘が、ヤマトが無事に帰還することを願う事。ヤマトが帰ってくるまでの間、絶望に飲まれたこの地球を維持するために力を尽くす事。そしてコスモリバースが想定された機能を発揮してくれることを、願う事のみ。

 そこまで考えてふと思った。

 凍てついた氷の中で眠っていたヤマト。凍てつき氷に閉ざされた地球。
 凍てついた氷の中で生まれ変わり雄々しく浮上したヤマト。凍てついた地球の上で懸命に誇りを捨てずに生きている人々の姿。

 コウイチロウにはこの2つの事象が関連付けられて脳裏をかすめる。
 あのヤマトの目覚めは、今の地球がまだ死に絶えてはおらず、最善を尽くせばヤマト同様、再びあの青く美しい姿を、多くの命を湛えた素晴らしい生命の都として生まれ変わる事を暗示している様にも思えた。



 だとすれば、ユリカもきっと――。



 この映像は速やかに地上にも届けられた。
 今まで難攻不落を誇ったガミラスに、とうとう決定的な威力を見せつけたヤマトの勇士は人々を勇気付けた。

 ヤマトなら、やってくれるかもしれない!

 今までは漠然とその名前のみを伝えられていたヤマトが、ついに実感となって人々の胸に刻み込まれる。

 その名はすでに忘れさられた過去のものではない。

 人類最後の砦を指す名前。



 そうだ、ヤマトは再び人類の夢と希望を背負い、前人未到の長旅へ、ヤマトにとっては3度目となるイスカンダルへの長き旅路に挑むのだ。



 愛する地球と人類が救われる、奇跡を起こすために!






 「こ、これはどうした事だ……」

 その光景を目の当たりにした冥王星前線基地司令、シュルツは我が目を疑った。あの得体の知れない氷塊に怪しい動きがあると報告を受けたのは数時間前。懲りずに地球が何らかの反抗を企てていると考えたシュルツは、デストロイヤー級5隻、内1隻は高性能の観測装置を装備した艦で、偵察と必要ならば妨害を指示していた。

 この間の冥王星近海での戦いも、シュルツからすれば無駄な足掻きとしてしか映らなかった。降伏すれば屈辱に塗れてでも生きるチャンスはあると言うのに、勝てもしない戦に幾度となく挑み無駄に命を散らす様はとても痛々しく、僅かな同情の念をシュルツの心に刻んでいた。
 シュルツとて軍人だ。国の命令に従い地球を攻撃しているわけだがそこに地球への憎しみや嗜虐心があるわけではない。ただ淡々と命令に従っている。
 軍人としての誇りを持ち、部下たちを大切にしてきたシュルツにとって、祖国を救う為に命懸けで向かってくる地球艦隊は、例え武力で劣り幾度となく敗走を重ねようとも向かってくるその姿は、同じ軍人として敬意をもって迎え撃ってきた。

 だからこそシュルツは決して手を抜かず、全力をもって叩き潰した。ガミラスの為にも、ここで手心を加えるわけにはいかない、歯向かう力を完全に奪い去り支配下に置くか、そうでないのなら滅ぼす必要がある。

 そう固く誓って地球を追い込んできたシュルツの前に現れたあの未確認の宇宙戦艦。

 今までの地球の艦艇ならデストロイヤー艦1隻だけでお釣りが来るほどだったのに、今度は逆に自分達の方が容易く撃破されるとは。
 送られてきた映像は数十秒程度と短い物であるが、シュルツは何度も映像を戻しては可能な限りのデータを集めるように指示を出した。まさか、あの氷塊にあのような秘密が隠されていたとは。敵ながら完璧な防諜だったとシュルツは賞賛する。

 「シュルツ指令。地球の放送を傍受したところによると、あの戦艦の名前はヤマト、宇宙戦艦ヤマトと言うそうです。また、ヤマトはイスカンダルに向かう、と言う内容も含まれていました」

 「何イスカンダルだと? そうか、やはりこの間の宇宙船は……」

 シュルツは歯噛みする。ヤマトとかいう宇宙戦艦の戦闘能力は決して軽視出来ない。わずかな映像ではあったが、あの距離から、しかも副砲クラスの武装で我が軍のデストロイヤー艦の破壊する威力を有しているとは、桁違いの性能だ。

 あんな真似は、我が軍の最新鋭戦艦、ドメラーズ級ですら出来ない。

 「ガンツ」

 シュルツは片腕とでも言うべき副官を呼び出した。

 「はっ」

 右手を掲げるガミラス式の敬礼を持って敬愛する司令官に答える小太りの男。

 「すぐにこの事を本国に伝えろ。それと、駆逐艦と高速十字空母をすぐに派遣しろ。航空戦力と連動して即刻ヤマトを攻撃するのだ。だが無理はさせるな、まずは戦力分析が先決だ」






 一方その頃。

 アクエリアス秘密ドックを出航した宇宙戦艦ヤマトは、その勢いで撃墜した5隻の駆逐艦の残骸を尻目に湧き上がっていた。

 「やったな古代! 初めてにしちゃ上出来じゃないか!」

 「お前もだよ島! 見事な発進だったじゃないか!」

 親友同士仲良く互いを称え合う姿を、艦長席でユリカはほっこりとした顔で見つめている。
 仲良き事は美しき哉。こういう友情と言うものは見ているだけでも心が温まるものなのだ。

 「そうそう、2人ともよくやったよ。艦長直々に褒めてあげる。いい子いい子!」

 と言って頭を撫でるジェスチャーをする。本当に撫でてあげたかったがそこまで移動するのに時間がかかって台無しになりそうだったので、ジェスチャーで我慢する。
 それを見た進と大介の反応は異なっていた。最近良くからかわれる進は赤面して視線を逸らし、逆に大介は「ありがとうございます」と社交辞令的に会釈する。

 「素晴らしい艦だ……これならガミラス相手でも不足無い。余程の大部隊でなければ対処のしようがあるだろう」

 ゴートも興奮を隠せずヤマトを褒める。かつてナデシコで慢心し、火星で大失敗をした苦々しい記憶も思い起こされるが、それでも興奮せずにはいられない。

 「全くだわ――ユリカが頑張った甲斐があったというわけね」

 エリナも感慨深げに上を仰ぐ。その目にはわずかながら涙が浮かんでいた。この1年余りのユリカの死に物狂いの行動の結果が、このヤマトに集約されている。その戦いを追い続けた1人として、ヤマトの力は殊更胸に響く。
 そして、ヤマト乗船以降は昔のような笑顔とイマイチ締まらない振る舞いを見ると胸が熱くなる。
 それはもう演技でも気遣いでもない。かつての彼女の姿なのだから。

 ラピスも胸が高鳴るのを感じる。かつて所詮脱出船と侮った艦は、ガミラスすら退ける強力な宇宙戦艦だった。これが、私達の希望――!

 「機関部の皆さん、発進は成功しました。一先ずはご苦労様です。引き続きエンジンの管理をお願いします」

 と再び機関室に向かって激励を放つ。再び機関士達の「うおおおおおぉぉぉ!」という雄たけびが響く中、「静かにしろ!」と山崎が叱り飛ばし唯一通信に向かった太助が、

 「あ、ありがとうございます機関長! 引き続きエンジンを管理します!」

 と声を張り上げて応対する。ラピスも「頑張ってください」と笑顔で締めて通信を切る。その様を見た真田が思わず「妖精パワーとは恐ろしいな……」と呻いていた。

 その真田もまたヤマトには驚かされていた。発進の時、フィールドも無く力尽くで分厚い氷を突き破ったにも関わらず艦橋上部のアンテナの類は全くと言って良い程破損していない。無傷と言って差し支えない。
 再建に関わっていた自分自身でも少々信じられない耐久力だった。

 「ユリカの努力が報われた。この艦ならガミラスの妨害があっても何とか出来る。あとは、イスカンダルまでの道程か……」

 副長席でジュンも感慨深げに目を閉じて余韻に浸る。今まで散々辛酸を舐めさせられてきたガミラスに一矢報いた。思い起こされるのはやはりあのナデシコの初陣の事だ。メンバーは一部入れ替わったり足されたりしたが、何となくあの頃に戻ったような気分になる。

 そうやって湧いていた第一艦橋に電算室からルリが戻ってきた。何となくその姿を認めると同時に静まり返る第一艦橋。

 「……真田さん」

 地獄の底から響くような声に思わず真田も背筋を伸ばす。

 「な、何かなホシノ君」

 「なぜ、第三艦橋行きの手段がフリーフォールなんですか?」

 「いやぁ、戦闘中の行き来も考慮すると直通のエレベーターが便利だと思って。重力制御であまり加速度を感じないように調整してあるはずだが……」

 「だとしても、目の前で物凄い速度で壁が流れてたら良い気分はしません! 狭いから手を伸ばせば届くんですよ! さっきだって髪が壁に当たりそうで凄く怖かったんですからね!」

 ルリの絶叫に艦橋の全員がびくりと体を揺らす。すごくこわい。

 「る、ルリちゃん。今更改造なんてしてる余裕無いから、その、我慢してくれないかなぁ、なんて、ははは……」

 と一応艦長としてフォローしようと声をかけるが、ギギギという効果音が聞こえてきそうな動きでルリの首がこちらを向くとユリカがぎくりと硬直する。

 「……そう言えば、ヤマトの再建にがっつり絡んでいるんでしたよね、ユリカさんは」

 「は、はいぃ〜」

 すっかり逃げ腰のユリカだが艦長としてここで引けないと踏ん張る。

 「もしかして、真犯人はユリカさんですか?」

 ルリの瞳が怖い。

 じっとこちらを鋭く睨んでくる。

 ユリカは艦長の威厳を奮い立たせて視線を受け止める。

 ルリの瞳が怖い。

 じっとこちらを鋭く睨んでくる。

 ユリカはルリの視線の圧力に敗退した。

 「うううぅっ。そのぉ、第三艦橋に電算室を置こう、って言ったのは……わ、私ですぅ」

 観念して白状する。機関部と波動砲の改造で艦内に大規模なコンピューター室を置けなくなったので、以前のヤマトではあまり有効活用されていなかったらしい第三艦橋を有効利用しよう、という安易な考えで要望を出したのはユリカだ。

 なお、断片的なイメージしか知らないためユリカはヤマトの第三艦橋が「割と悲惨な部署」であることを知らない。

 何しろ“3回も完全に破壊され跡形もなくなり”、被弾して外観は残ったが内部が壊滅したり、果ては地上への着陸を強行して潰されかけたりと、ヤマトではひそかに配属されたくない部署ナンバーワンと言われていた場所だという事を、全く知らない。

 まあ電算室を設置したこともあって基礎構造やら装甲等が大幅に強化され、ちょっとやそっとでは壊れなくなったはず――はずだ。

 「なるほど、よくわかりました」

 「で、でも直通エレベーターを考えたのは真田さんだからぁ! 私じゃないからぁ〜!」

 ついに視線の圧力に負けて部下を売る。艦長として有るまじきその発言に「あ、ずるい」と真田も慌てる。

 「まあどうするかは今後の課題として考えておくとして……艦長、この後の予定は?」

 ルリは自分から話題を逸らしてくれた。正直思った以上に怖かったので文句を言いたかっただけなので、別に何かしらの報復をするつもりはない。それにユリカに飛び火したのは想定外だ。
 あまり追いつめて体に障ってはそれこそルリ自身が自分を許せない。

 「よ、予定、予定ね! え〜ゴホンッ! ヤマトは月軌道に到着後小ワープのテストを行います。ワープ航法が成功しない事には、ヤマトはイスカンダルまで辿り着く事が出来ません。ルリちゃんはハーリー君と協力してワープ航路の算出をお願いね。場所は結果が分かりやすい場所ならどこでも良いから。重力干渉の影響が大きいから、進路上に天体とかの重力源があるとワープ航路の湾曲は勿論だけど、最悪ワープ空間から弾き出されて激突する危険性があります――今回は最初という事で入念な計算をお願いします。ただし、ガミラスの増援が来る可能性があるため出来るだけ早くしてね」

 と、最後は艦長らしく凛々しい態度に戻って指示を出す。言ってから思い立ったが、その手の計算を確実にするためには、ルリは電算室にトンボ帰りする必要がある。要するに、フリーフォール第二弾だ。

 「了解しました――大丈夫、目を瞑れば怖くない、怖くない」

 自分に言い聞かせながらルリはシートのスイッチを操作、髪の毛を両手で抑えて再びフリーフォールで電算室に移動する。やっぱりハッチが閉じる瞬間に悲鳴のような声が聞こえた。

 トラウマにならなければ良いのだが。

 ユリカと真田はつーっと頬を汗が流れるのを感じた。



 ルリを見送った後「ちょっと休憩」とジュンに第一艦橋を任せて艦長室に上がったユリカは座席をリクライニングさせて体を伸ばす。やはり体力がナデシコCの時よりもさらに落ちている。
 ちょっと気張っただけで疲労感が半端ない。
 流行る心臓を抑えるかのように痩せた胸元に手を当てて息を吐く。立ち上がるのも億劫なのでこのままシートで軽く休もうと目を瞑る。

 どちらにせよそれほど間を置かずにワープだ――果たしてワープの負荷に体が持つだろうか。少し心配だ。

 瞼の裏に思い浮かぶのは先程のルリの様子で、くすりと笑ってしまう。怖かったのは本当だが、ユリカはルリの行動に内心感謝していた。やはり自分は、“記憶”で断片的に垣間見た、沖田艦長の様に厳格な指導者には成れそうにない。どうしてもナデシコの様になってしまう。
 それが良い事なのか悪い事なのかはわからないが、きっとこれが「私らしく」なのだろうと思うと、それを改めてわからせてくれたルリに感謝したくなる。後でこっそり抱きしめてあげようかな。そこまで考えて不意に涙が流れたのを感じた。

 なぜ泣いたのかすぐにはわからなかった。だが気づいてしまった。今まで必死だったから考えずに済んだ、目を逸らしていられた事実にユリカは気づいてしまった。

 空虚感だ。

 あの時の第一艦橋の雰囲気はまさにナデシコのものだった。明確な上下関係があるはずなのに緩くて、艦長だろうと平気で睨まれて萎縮して、変なバカ騒ぎをして……でも、そこに居たはずの、何時もユリカの心を支えてくれていた王子様の姿は、ここに無い。

 そう実感すると止めどなく涙が溢れてくる。

 いけない、持ち直さないと、旅は始まったばかりなのにこんなんじゃあ、最後までとても持たない。

 でも、

 気が付くとユリカは声を出して泣いていた。溢れだす感情を抑える事が出来ない。



 アキト……ずっと我慢して我慢してここまで来た。イスカンダルからの薬で体は少し楽になった、ヤマトの完成で、さあこれからだって気合も入れたけど。けど……



 やっぱり、寂しいよ。ナデシコの雰囲気に近づくと、どうしても貴方の事を思い出して、寂しいよ……心細いよ……自分から離れることを選んだはずなのに……再会は最後の楽しみに取っておくつもりなのに……。



 アキト、胸が痛いよ、苦しいよ――



 会いたいよ―――



 傍に、いて欲しいよ――



 アキト、助けて。苦しいよぉ――



 アキトぉ――










 ヤマトの発進の少し前、ユリカが壇上で部下たちを激励していた頃、アキトは自分の部屋で拳を震わせていた。

 「何なんだよ、これは……!」

 アカツキに「今から面白い物が放送されるから見てみたら」と言われて特にすることも無いからとモニターを点けた。そこにはある意味アキトが一番恐れていた物が映し出されている。

 現在アキトは月の施設の自分の部屋で燻っていた。話し相手と言えたイネスもエリナもラピスも月臣も、皆ヤマトに乗ってしまった。新型機のテストも終わり、ヤマトに搬入されただろうし、イネスは乗船前にきっちりと自分の体を治していった。
 エリナとラピスからは「ヤマトで頑張ってくるから留守をよろしく」とビデオメッセージで別れを告げられただけで、結局この一月ほど顔も見ていない。月臣に至ってはそもそも何も言ってこない。

 イスカンダルの技術のおかげで五感が回復したのは素直に嬉しいと、今は思っている。失ったはずの嗅覚が、味覚がアキトの脳を刺激して、あれだけ無意味だと言っていたのに思わず涙が零れた。

 しかしアキトに残されたのはそれだけ、回復した五感だけだった。それまで接触していた人間の殆どが傍を離れて1人になった。
 あれほど構って欲しくない、1人になりたいと思っていたのに、実際になってみるとこれ以上ない孤独感に苛まれ、落ち着かない。
 我ながら現金なものだと自嘲するが、それで心が晴れるわけもない。

 だからアカツキからの言葉に釣られた。食事もレーションの類を部屋で食べるアキトは食堂に出向かないので、イネスと別れたここ1週間は誰とも会話をしていない。そもそも食堂に行きたくてもアキトのIDではその区画に入れないし、給料を貰っているわけでもないので食べることも出来ない。
 そんな寂しさを感じたので構ってもらえたことが内心嬉しくて何も考えずにモニターを点けた。



 そこに移っていたのは艦長服と思わしき制服を着て壇上で語るユリカの姿だった。久方ぶりに見る妻の姿につい胸が熱くなったのは一瞬だけだ。高感度カメラで撮影されたであろうそれは彼女の姿を鮮明に映し出していた。だからこそ気づいてしまった。

 彼女の体の異変に。

 化粧で誤魔化しているようだが顔色が優れないように見えるし、どこか体の動きが緩慢で億劫そうに見える。それに杖を突いて歩いてる……。全体的に以前のユリカの溢れんばかりの活力が無い。
 アキトが何時の間にか惹かれ、愛するようになった周囲すらも明るく励ます、あの活力が殆ど感じられない。

 映像中のユリカはアキトの印象とは裏腹に、力強い言葉で目の前に整列している人々にヤマトとは何か、これから自分達が何をするのかを説いているが、そんなものは頭に入ってこない。

 明らかにユリカは異常だ。あそこまで極端な衰弱が普通なわけない。考えられる可能性は1つ。人体実験の後遺症だ。それも、自分よりも遥かに悪い。

 「アカツキ!」

 アキトは映像を最後まで見届けることなくインターフォンに飛びつき、アカツキを呼び出して問い詰める。

 「これは一体なんだ、どういう事だ! 何でユリカがヤマトに乗るんだよ! どう見たって重症じゃないか!」

 そんなアキトの様子を冷ややかな目で見るアカツキ。その態度にアキトは無性に腹が立った。

 「何故って……そもそもヤマトを再建しようって言いだしたのはユリカ君なんだけど?」

 アカツキの言葉にアキトの心臓がキュッと縮まる。

 「いやあ彼女は凄いねぇ。余命5年を宣告されてボソンジャンプしちゃ駄目って散々念押しされたのに、『ヤマトを再建しないと終わりだから私が頑張ります!』って我が身を鑑みずにヤマトの再建に必要な下準備とか物資の輸送とかでとにかく跳び回って、八面六臂の大活躍ってやつ? それで余命半年を宣告されたのに今度は『私がヤマトをイスカンダルまで導きます。絶対に地球を救って見せます』って艦長に就任しちゃうんだもん。艦長のストレスで半年持たずに死にかねないってのに――本当に凄いよ彼女は。もうさ、死んだって良いからとにかく世界を救いたくて仕方ないみたいだね」

 茶化した言い回しにギリッと奥歯を噛みしめたアキトが激怒する。

 「ふざけるな! 何故止めなかった! 実験の後遺症なんだろあの弱り方は!」

 「止めたって聞き入れなかったんだよ。彼女は自分の命と引き換えにしてでも、君が生きるこの世界を護ることを決意したんだ」

 「ッ!?」

 アカツキの切り替えしにアキトは絶句する。



 ――俺の、ため?



 「彼女は君が何をしたのか全て知っているよ。コロニー襲撃は勿論の事、エリナ君とのこともね」

 「なっ!?」

 「まあゲロッたの僕だけどね。聞きたがってたから」

 「お前……!」

 「おやおや、別に僕は秘密にしてくれって頼まれたわけじゃないし、美女の頼みは断らないんだよ」

 やれやれと首を振るアカツキの態度にアキトは居てもたってもいられなくなって、非常用のCCを使ってアカツキの所に跳ぶ。
 ジャンプしてきたアキトの姿を認めたアカツキは「あ、やっぱり来た」と呆れたような喜んでるようなよくわからない顔をする。

 「まあ掛けたまえテンカワ君。話をしようじゃないか。それほど時間は無いと思うから手早く行こう」









 「艦長、ワープテストのプランが完成しましたので、第一艦橋に降りて来て下さい」

 何とか泣き止んで気持ちを持ち直したユリカは、エリナからの呼び出しを受けて艦長席を第一艦橋に降ろす。流石に第三艦橋直通程ではないが、これも少しだけ怖いシステムだ。でも便利なので好き。

 艦橋に降りたユリカは少し涙目のルリを見つけて口の端が引きつる。やっぱり怖い物は怖いらしい。真田も気づいているのだろう、物凄く居心地が悪そうだ。

 「ハーリー君と協議した結果、月―火星間なら障害物も無く、重力場の影響も少なく最適だと判断しました。どう思いますか?」

 とルリがユリカの前にウィンドウを流して意見を求める。データを見る限りでは特に問題がなさそうだと判断したユリカはすぐに決断した。

 「このプランで行こう。準備にどれぐらいかかりそう?」

 「機関部門は準備に2時間程必要と判断します。エネルギーの充填はともかく、ワープエンジンの操作手順を改めて確認しておきたいと考えます」

 と機関制御席のラピスが計器類を見ながら報告する。

 「そっか。わかった。でも出来るだけ急いでね。何時ガミラスに邪魔されるかわからないから」

 「わかりました、艦長――少し席を外しても構いませんか?」

 「? 別に良いけどどうしたの? トイレならエレベーターの横にあるよ?」

 「違います……!」

 ユリカのボケにラピスが顔を赤くして否定する。幾らなんでもデリカシーが足りないと、心の中で非難するが言葉に出すのは控える。
 これでも一応機関部門の統括者なのだから。

 「手順確認ついでに、部下達を激励してきます」

 「ああ成程。それなら問題無いよ、行って来てあげて」

 「ありがとうございます。それでは行ってきます」

 と言って座席を後退させて立ち上がると、軽く会釈をして第一艦橋を後にする。

 「あの子も変わったわね。昔はあまり感情を表に出さなかったのに」

 と感慨深く語るのは最も関わりの深いエリナだ。言葉は必要最低限で歯に衣を着せぬ発言が多かったのに、最近では教育の成果が出たのはお淑やかで丁寧な対応が目立つ。ただし、やはり実社会での経験値が少ないためか割と天然な気もしないでもない。

 少なくともあんなことを頻発しているとラピスを巡った修羅場が展開しそうな気がする。

 ラピスには、まだ恋愛は早いと思う。

 と、保護者視点から不安を覚えたエリナだった。

 「人って、変わるものですから」

 何気なく言ったユリカだが、旧ナデシコ組の面々は表情が曇る。全員が、ナデシコの空気を思い出したことで、今はここにいないテンカワ・アキトの事を思い出していた。だから、その言葉が思いの外胸に刺さった。
 敢えて触れないだけで、ユリカの目が充血気味で瞼も腫れぼったいことに誰もが気が付いている。きっと思い出して泣いていたのだろうと見当はつくが、だからと言ってしてあげられることなど何もないと、全員が見て見ぬ振りをした。
 彼女もきっと、触れて欲しくないだろう。

 「真田さん、艦内のチェックを急がせて下さいね。それと、ワープ明けしたら再チェックも怠らないように。一応昔のヤマトのデータを基に復元したと言っても、あちこちに手を加えていますから、どんなトラブルが起こるかわかりません」

 「わかっています、艦長。ウリバタケさんにも言っておきますよ。もっとも、言わなくても今頃あちこち艦内を駆けずり回ってるでしょうがね」

 冗談めかした真田にウリバタケの所業を知る全員が苦笑いを浮かべる。実際集会の時は抑えめだったが、いざヤマトに乗り込んだウリバタケはテンションも高く、あちこちで騒いでは壁に頬擦りしたり未知の技術に目を輝かせて涎を垂らしたり、とにかく周りがドン引きする程盛り上がっていた。

 そりゃもう出航の緊張感とかヤマトの使命感とかが銀河の彼方に吹っ飛びそうなくらい。

 どうもヤマトの再建計画に関われなかったことも悔しいらしく色々とデータも漁っているようだ。
 それでも新型機動兵器の開発に関われただけマシだとは思うのだが、やはり技術者魂とやらが納得しないのだろう。
 そもそもその新型を、あのような怪物に仕上げた張本人のくせに。
 ある意味、あの機体は「機動兵器版ヤマト」に他ならない。そうとしか形容出来ない程のスペックを秘めている。

 つくづく配備が間に合わなかった事が悔やまれるが、肝心のウリバタケがあまり騒がないのは何故だろうか。気になるが、単にヤマトに注意が言っているだけかもしれないと追及は止めておく。
 これからワープテストで忙しいし。

 「相変わらずですよねあの人は。奥さんとお子さん、心配しているでしょうに」

 とはジュンの言葉。そもそもユリカがウリバタケに声を掛けなかったのは奥さんと子供の傍にいてあげて欲しいという個人的な要望による。あの夫婦の仲はユリカには図れない部分も多いのだが、それでもこの一大事に夫が離れるのは心細いだろうと、現在進行形で離れ離れのユリカが巻き込まないように頼み込んだ。
 故に、新型機の開発にしても実際にテストを行っていた月面ではなく、地球に滞在したまま携われるように様々な配慮がされた。

 あと「ヤマト自爆スイッチ」とか「第三艦橋特攻爆弾」とかをヤマトに勝手に設置されても困ると考えたのも事実なので、ヤマトへのアクセスが可能な月面に彼を連れて行きたくなかったので、地球に留めたまま開発に協力して貰ったという事情がある。

 もっとも、その2つに関しては他ならぬ真田自身がこっそりつけようかな、とか考えていたりするので、ユリカの心配は物の見事に的中しているとも言えるのが何とも。

 堅物の様に見える真田志郎ではあるが、その実案外ノリが良いのである。

 「ああそうだそうだ。ちょっと嫌だけど、乗組員にワープについて説明しないといけないか。一応周知の事ではあるけど改めてってことで」

 と言いながらユリカはエリナに「医療室に繋いで」と指示を出す。エリナはその言葉の意味を悟って顔が歪む。

 「まさか、やるの?」

 エリナの様子に真田も感づく。同僚ではあるし自身も仕事の関係でやるにはやるし楽しいのだが、彼女のあれはもはや趣味の領域で無駄に凝っている。正直その内容はともかくあのノリにはあまり巻き込まれたくはない。

 ――まあ自分の話題についてこれる女性なので好ましくは思っているが。

 「やります――恥ずかしいけど乗組員に過度な緊張をさせるわけにはいかないので、ガス抜きも兼ねて。ルリちゃんも覚悟を決めてね!」

 「えっ……? まさか、ただ単に話すだけじゃなくてあれやるんですか?」

 ルリもその真意を察して羞恥に頬を染める。

 「うん。恥ずかしいけど恒例だしね。中央作戦室ならスペースは十分だよね。エリナ、悪いけど着替え手伝ってくれないかな? 1人じゃもう満足に着替え出来ないから」

 「ギャグ展開にしれっと深刻な話題を挟まないでよ!――ああもう仕方ないわね。ほら移動するわよ」

 呆れた顔で言いながらもエリナは通信席を立ち、杖を突いて歩くユリカの傍らに寄り添う。何だかんだ言いながら面倒見が良いのだ。

 中央作戦室はヤマトの艦橋(鐘楼)の土台部分にある。第二艦橋の2倍近い面積の巨大なブリーフィングルームで、床には高解像度のモニターに立体映像投影装置などが設置され、第三艦橋の電算室とも密接にリンクした、円滑に情報確認が出来るように考慮された部屋だ。

 本来今回の様な用途で使うような場所ではない、かも。



 「あ、ついでに真田さんも参加してね」

 「えぇっ!?」

 飛び火した。






 一方ラピスは宣言通り機関室に足を運び、電子と紙、双方のマニュアルを突き合わせて手の空いている機関士達と、システム操作手順と注意事項の確認を行っていた。何しろ完全に未知のエンジンであるため全員が一様に不安を顔に張り付けながらの作業となった。

 もちろんラピス自身、プログラム関係や計器を見ての制御はともかく、実際に工具を持ってエンジンに触れられる程の工学技術を持ち合わせていないため、不安はあった。
 が、上司として勤めて表に出さないように心掛け、部下たちの不安を和らげるべく、柔らかく微笑んで「貴方達ならきっと出来ます」と鼓舞する。
 笑顔が人の心を和らげるのだという事は、ユリカから学んだ。あの辛かった時期でも、ユリカは笑顔を完全には失わず、誰かに心配をかける度に懸命に笑って痛みを和らげようとしていた。

 だから、自分もそうやって部下達を支える。

 ラピスは自分なりの決意を固めヤマトに乗った。無論機関士と言うわけでもないラピスが長に収まることを嫌がった者もいたが、可憐な少女ににっこりと微笑まれて「これからよろしくお願いします。とても頼りにしてますから」と言われては面と向かって文句も言えない。
 エンジンを直接整備する事が出来ないものの、プログラム関連は天下一品、さらにコンソールを使ったエンジン制御のみならベテランにも引けを取らない適正と呑み込みの速さを見せた。
 結果、その容姿と相まって早くも「機関室の妖精」と揶揄され人気になっていた。再建に関わったためか、波動エンジンのメカニズムに関して一際詳しいのもグッド。

 ついでに体の線が出やすいヤマトの制服だと、別の意味でその可憐さが際立って早くも隠し撮りの写真が出回りそうな勢いだった。

 「この手順なら問題なさそうですね。後は本番で結果を出して、乗組員全員に我々の実力を見せつけましょう。皆さんの実力を発揮すれば大丈夫。頑張っていきましょう」

 と締め括り機関室での準備は終わった。解散した機関士一同は所定の配置に付き、ワープテストの為の準備を進めていく。
 「ふうっ」と軽く息を吐いて第一艦橋に戻ろうとするが、慣れない事の連続で疲れたのか少しよろめいてしまう。それを支えてくれたのは資料の片づけを手伝ってくれた太助だった。

 「大丈夫ですか、機関長?」

 「大丈夫。ちょっと足がもつれただけ――ありがとう徳川さん。徳川さんこそ気を付けてね。頼りにしてますから」

 と頭を下げて微笑をプレゼント。これは普通に感謝の気持ちだ。太助は赤くなってどもりながらも「大丈夫ならいいんです!」と送り出してくれた。
 ラピスはどことなく嬉しそうな太助の様子に「自分でもちゃんと人の上に立てるんだ。これからもこの調子で頑張ろう」と軽い足取りで機関室を後にしようとした。

 その時、独りでに艦内の至る所にフライウィンドウが立ち上がったり、使われていなかったモニターが起動して、軽快な音楽が流れだす。



 「なぜなにナデシコ〜〜!!」



 という、ユリカとルリの声が突如として艦内に響いた。開いたウィンドウとモニターは全て同じ画面を映している。

 映像にはウサギさんの着ぐるみを着た我らがミスマル・ユリカ艦長と、幼児向け番組の体操のお姉さんとでも言うべき格好をした、チーフオペレーターのホシノ・ルリの姿が映し出されていた。

 ついでに端っこの方には頬を羞恥で赤くした、トナカイの着ぐるみを着せられた工作班長真田志郎の姿もある。

 艦内の全員がいきなり始まった得体の知れない映像に硬直する。

 「おーいみんな、あつまれぇ〜。なぜなにナデシコの時間だよ〜!」

 「――あつまれぇ〜」

 とノリノリな様でやっぱり恥ずかしくて頬を赤くしたユリカと、同じく恥ずかしがって赤くなっているルリ。その横で「なぜこうなった」と己の不運を呪っている真田と、カオスな状況が映し出されている。

 背景には「なぜなにナデシコ!! ヤマト出張篇〜初めてのワープ〜」などと書かれた背景が置かれている。ご丁寧にクレヨンとか鉛筆で書いたような丸っこくて本当に幼児番組そのものの字体。
 ついでに役者たちの前には、これまた児童向け番組に在りそうなセットが置かれている。



 悲壮な覚悟と崇高な使命感を持って乗艦したはずの乗組員達は困惑を隠せないでいる。


 だが唐突に悟った。確かにあのユリカの演説は正しい。彼女も相応の覚悟と使命感を持っていることは疑う余地が無い。



 だが、彼女は、彼女は。



 色々な意味で著名な“あの”機動戦艦ナデシコの艦長さんだったのだ。



 「えっ……これ何?」

 ラピスのセリフは、恐らく初めてナデシコのノリに触れる全員の心情を代弁していた。
 ただしラピス自身は頬を染めて「ウサギなユリカ姉さん可愛い。モフモフしたい」とか少々見当外れな感想も抱いていたが。






 なお、解説自体は幼児向け番組の体制を取ったことから、非常に解りやすくかつ丁寧にワープについての説明を乗組員一同に伝えることに成功し、思いの外好評ではあった。



 ヤマトのワープの場合、波動エンジンの後部に取り付けられた「イスカンダル製ワープエンジン」を使用して機能する。

 このエンジンと、波動エンジンが生み出す波動エネルギーの時空間歪曲作用が無ければ、ワープ航法は成立しない。

 波動エンジンが生み出す波動エネルギーとは、言うなれば「波動エンジン内部で生成される、自然界には存在しない超高出力タキオン粒子の発する波動」だ。
 波動エンジンの内部でなければ生成出来ないと言うのがミソで、仮に自然界に存在するタキオン粒子を収集したとしても、ここまで効率的に時空間を捻じ曲げることは出来ない。
 ヤマトはこれを、ワープエンジンと一体になっている「空間歪曲装置」に利用し、効率的に時空間を歪曲する事で、ワープに必要なゲートを開いているのだ。

 エネルギー消費量自体は全てを使い切る波動砲よりはマシだが、かなり激しい。

 旧来のヤマトでは、エネルギー増幅装置であるスーパーチャージャーの搭載と合わせて、ワープを複数回連続で行う事で超長距離を一挙に移動する「連続ワープ」が可能であった。
 無論、新生したヤマトもスペック上は同じ事が出来るだけの出力を有している。これが使えれば、試算ではイスカンダルまで1ヵ月未満と言う凄まじい速度で到達が可能になる。

 しかし、新生したヤマトはデータの欠損などの影響で肝心の連続ワープ機関の復元がまるで行えなかっただけでなく、艦全体の完成度が旧来のヤマトに及んでいないのが実情だ。
 未熟な技術で背伸びにも程がある改修を受けて復元したのだから、無理もない話だ。特に、ワープに伴う人体への負担の問題が深刻で、今の段階で無理に実行しようものなら、ワープに伴う強烈な加速度と空間歪曲の負荷で命を落とすのが確実とされている。

 今後の航海でデータを収集し、可能であれば復元したい機能とされているが、実際に復元出来るのかどうかは未知数であり、基本的には無い物として考えられている。

 それでも、今のヤマトは単発のワープであっても最長2000光年は跳べるとされている。

 一応、エネルギーの充填自体は6連波動相転移エンジンのおかげですぐに終わると言っても良いのだが、艦の保全や人体への影響を考慮して、最低24時間の間を開ける事が推奨されている。
 また、最長距離はあくまで理論値である上、実際は天体の重力場だったり空間歪曲の具合などで変動する為、常にその距離を飛べると言うわけでもない。特に、天体が密集している銀河の中では、その距離を飛ぶのはかなり難しいだろう。

 無論、宇宙船の規模からすれば間隙だらけなのだが、微妙に作用する重力場等は、意外と影響するのだ。
 そもそも、銀河自体その中心にある大質量ブラックホールの重力場のおかげで形成されているという説が立証されている今となっては、銀河の中に居る=大質量ブラックホールの影響を受けている、と言っても過言ではないのだし。
 連続ワープは、1度の跳躍距離を無理に引き延ばすのではなく、現実的なワープを連続して繰り返すことで移動時間を短縮するアイデアではあるが、6連波動相転移エンジンの完成によって、1度のワープ距離を延長出来る可能性も示唆されている。

 余談ではあるが、波動エンジンからエネルギーを取り出す際、波動エネルギーはそのエネルギーを電力等と言った形に変換される。
 エンジン内部のタービンやエネルギー変換装置等を使用して行われ、エネルギーを失った波動エネルギーはただのタキオン粒子になる。
 タキオン粒子と波動エネルギーは似て非なるものであり、タキオン粒子をグラビティブラストやディストーションフィールドに導入しても、波動砲ほどのパワーは出ない。
 勿論、このタキオン粒子を波動砲のような形で直接撃ち出しても、波動砲程のパワーは出せない。
 ヤマトの推進機関、特にメインノズルは、この搾りかすとでも言うべきタキオン粒子を反動推進剤にすることで莫大な推力を得ているのだ。

 ここからはなぜなにナデシコで解説されていないさらなる余談。

 ワープ航法が空間を歪めてワームホールを形成し、長距離を跳躍するシステムであること自体は、ガミラス出現からしばらく経った頃には周知の事だった。
 ぶっちゃけるとユリカがそう語ったのだ。ヤマトと言う裏付けもあり、事情を知るものがその事実を広めた。

 ユリカは演算ユニットと弱々しいながらもリンクを保っているため、意識していれば自分の周囲数十qの範囲で空間の歪みを知覚する事が出来る。
 無論、これ自体は決して彼女の体にとって良い物ではない。要するにユリカは今演算ユニットのアクセス端末に近い存在なのだ。なので、演算ユニットはユリカを通して宇宙を観測している、と言い換えても良い。その分、ナノマシンの浸食も進む。

 先の冥王星海戦でユリカがガミラスの小ワープ戦法を見抜けたのは、気張っていたからワープによって生じる時空間の歪みを知覚した事が原因だ。
 だからこそ、ユリカはワープとボソンジャンプのシステムの違いからくる得手不得手も、何となくだが把握する事が出来るのである。

 現在はイスカンダルの治療薬でナノマシンの活性化を強引に抑えているので知覚は出来なくなったが、そうでもしないとワープの度にナノマシンが(ジャンプ時程ではないが)活性化して早々に倒れてしまうかもしれない程、ユリカの体は不安定な状況にあった。



 ちなみに放送された後、ただでさえ高かったルリの人気はまた一段と跳ね上がり、戦後は知名度が低かったユリカも“いろんな意味で”乗組員の心を掴んで人気者となった(特に顔を赤らめ、普段の物と違って可愛い装飾のされた杖を使いながら、ヨタヨタと着ぐるみ姿で動く様が、なんか可愛いモフりたいと評されたことが原因)。
 惜しむらくは病気のせいでかつての美貌が損なわれていることと、人妻である事か、と言うのはメガネの技術者の談(なお「人妻がこんな格好で」と一部マニアックな層には受けたとか)。この映像は後に疲れた一部乗組員たちの心を癒す清涼剤になったとかならなかったとか。

 同時に付き合わされた真田には各所から同情の念が寄せられ、しばらくは誰もが無言で労を労ったものだ。

 ――笑いをこらえた顔で。

 さらに余談だが、撮影セットの横ではただでさえ筋力が低下して久しいユリカが、着ぐるみ姿でヨタヨタと動いているのをハラハラと見守るエリナが居たり、久しぶりのセットをぱっぱと用意したウリバタケが別カメラでこの映像を撮影して後に“転売”したり、脚本と演出を担当したイネスは感無量と満ち足りた顔をしていたり、万が一ユリカが倒れた時に備えて医療セットを抱えて見守る雪がいたり。
 中央作戦室も結構大変な状況になってた。

 ついでに撮影後に中央作戦室に突入したラピスは、着ぐるみを脱ぐ前のユリカに抱き着いて、思いの外毛並みの良い着ぐるみに頬擦りしたり抱きしめて貰ったりしてご満悦だったり。

 なお、ルリも便乗した模様。



 そんなバカみたいな展開を挟みつつも、第一艦橋でもワープの緊張感が徐々に支配し始め、特に運行責任者である大介は操作手順を繰り返し何度も確認し、額の汗を幾度も幾度も拭っていた。

 なぜなにナデシコを見た時は、隣の進と一緒に爆笑しながらも内容にしきりに感心していた大介だが、いざ本番が近づくと生来の生真面目さから徐々に余裕を失っていった。そんな大介に横からハンカチが差し出される。隅に花の刺繍がある白いハンカチ。女性が好みそうなデザインだ。

 「そんなに緊張していたら、体が持たないわよ」

 ハンカチを差し出したのは雪だった。生活班長の任についている雪は、緊張しているであろう友人・大介の様子を見に艦橋に上がっていた。本来艦橋とは無縁のはずの雪なのだが、ユリカの介護担当者でもあるため第一艦橋への入室自体は認められている。地味に艦長室にもフリーパスで入れるくらいだ。

 また、意外と才女なのでその気になればオペレーターとしても役に立つ技量を有するため、普段は空席になる副オペレーター席に着席してルリのアシストを行うことも想定されている。普段は艦の生活必需品の補充や清掃、調理部門やら医療部門やらの統括者として結構忙しい。むしろそれを軽々こなしてしまう容量の良さが、彼女の強みでもあるのだが。
 ――まあ、並行世界の彼女はさらにレーダー主まで勤めていたので、それに比べると少しは楽なのだろうと、ユリカは勝手に思っていた。
 今でも十分重労働だが。

 「そうだぞ島。今からそんなんじゃ、イスカンダルどころか太陽系を出る前に、石像になっちまうぞ」

 と雪に便乗して隣の進も島の緊張を和らげようと軽口を叩く。同じ時期に仲良くなり、ユリカを交えた輪の中に取り込まれた3人の絆は強い。まあ雪を狙っている間柄ではあるので牽制は多少飛び交うが、公私混同する程ではない。
 ついでにユリカとも打ち解けているからか、職務を離れれば彼女とは名前で呼び合う間柄でもある。

 「ありがとう2人とも。だがな、メカニズムが完璧に動作したとしても、俺が操縦ミスをしたらヤマトは終わりなんだ。緊張するなって方が無理だろ」

 と雪から渡されたハンカチで汗を拭う。そんな3人の様子に、なぜなにナデシコを終えて艦長席に戻ってきていたユリカが、

 「まあこの場合は両方とも正しいかな。でも大介君、肩の力を抜かないと却って失敗しちゃうってのは本当だよ。リラックスリラックス」

 とこれまた軽く笑い飛ばす。「しかし」と島が反論すると「しょうがないなぁ。よっこらせ」と艦長席を立ち、杖を突いて歩くと大介の隣に立ち、身を屈めて、

 「ふぅ……」

 と優しく耳に息を吹きかける。「わあっ」と飛び上がった島を見てケラケラと笑って、

 「だからリラックスだよ大介君。何なら私と進君で脇をくすぐってあげようかぁ?」

 杖から放した右手をワキワキさせる。進も便乗して両手を掲げて指先を動かしながらニヤニヤと笑う。
 この2人、本当に仲良くなったものだ、と思いながらも大介は「も、もう大丈夫です」と大きく息を吐いて椅子に体を預ける。

 多少強引であったが大介は肩の力が抜けるのを感じた。憮然とした表情をしながらも心の中で感謝の言葉を贈る。

 そんなやりとりを一歩引いた位置から見ていたエリナは、どうしても痛ましい気持ちを隠せない。急になぜなにナデシコを始めたことと言い、ユリカが郷愁に駆られて自分を抑えられなくなっているのは明白だった。

 念願のヤマトが完成して精神的に、イスカンダルの薬で体にわずかばかりの余裕が出来てしまったばかりに、今まで抑えてきた反動が来ている。

 このままでは、彼女は寂しさに押し潰されて致命的なことになる。イスカンダルの薬があったとしてもだ。今まで彼女を支えてきたのは間違いなく心の、意志の強さなのだ。それがぶれて弱まってしまえば、きっと崖から転がり落ちるように体を悪くして、死ぬ。

 エリナは落ち着かない。ずっと見てきたのだ、ユリカが血反吐を吐きながら全てはアキトのためにと必死になっていた様を。

 ――エリナさん。どうして、どうして私は、私達は、こんな目に遭わないといけないんですか? 火星に生まれたから? 私は、私はただ私らしくいられる場所が欲しかっただけ、アキトと一緒に、どこにでもあるような普通の家庭を持ちたかっただけなのに、何で何ですか? 火星に生まれただけで、何でこんな思いをしなきゃいけないんですか? 私は、私達は、実験素材にされるために生まれてきたわけじゃないのにぃ……! 助けてエリナさん、助けて、助けてよぉ。エリナぁ、苦しいよぉ――

 ふと、疲労と本人曰く全身がバラバラになりそうな激痛で倒れたユリカが、何時に無く弱気になって自分に縋り付いて来た時の事を思い出す。居たたまれなかった。かつては自分も彼女らを食い物にしようとしていた事を思い出す。その時はとにかく胸が痛かった。
 ナデシコに乗らなければ、例え火星の後継者が生まれなくても自分達が彼女達に同じような仕打ちをしていたかもしれないのだ。

 絶対に報われて欲しい、このまま悲劇的な末路を迎えて欲しくない。そうでなければ、本当の意味で自分はアキトを諦める事が出来ない。仮に彼女が死んでアキトを手に入れる機会が来たとしても、以前では考えられなかったユリカの存在に一生縛られる事になる。
 彼女の犠牲無くしてアキトと結ばれる事は無い、だが彼女を失うのは今の自分には辛い。

 絶対に死なせたくない。生きて、彼の所に送り返してやりたい。

 だが、彼女の生存は、それこそ奇跡が起こらない限り絶望的なのだ。その奇跡を起こせるのは、このヤマトとイスカンダルだけだとエリナも疑ってはいない。信じるに足る情報は、エリナもユリカを介して得ているのだ。

 ユリカの意向もそうだが、今の彼にヤマトに乗れと言うのは酷な話だろうから置いて来たし、下手に関わって感情を爆発させたくなかったので、月を離れてからの一月は連絡も取っていないが、まだ燻っているのだろうか。

 「ワープテスト30分前。各自は所定の位置にて待機ね」

 と島をからかい終えたユリカが艦内放送で指示を出す。

 (これでまた、アキトが遠くになる……駄目だなぁ、気が緩み過ぎだよ)

 心の中で泣きながら、それでも艦長として立派であろうと表情には出さないように努める。だがその寂しげな後姿をエリナが見ていることに気づく余裕は、今の彼女には無かった。



 ユリカの指示を受けていよいよと緊張が高まる。各々がワープの手順や注意事項を思い出す……のだが、なぜなにナデシコが連想されて顔が緩む。緊張感を削ぐほどではないが、良い意味で肩の力が抜けてテキパキと作業を進める事が出来ている。

 最初は驚いたが、案外有効なブリーフィングなのかもしれない。そんな考えが浮かぶくらいには心に余裕を持てた。

 それを吹き飛ばしたのは案の定攻撃を仕掛けてきたガミラスだ。

 「艦長! レーダーに反応、ガミラスの艦艇が接近中! 数7、空母が2隻含まれています!」

 ワープテストのデータ収集のため第一艦橋に上がってきたルリの報告が第一艦橋に響く。雪はすぐに第一艦橋を飛び出して自分の担当部署に戻り、ユリカも杖を突いて可能な限り全速で艦長席に戻る。が、疲労が溜まったためかその歩みは遅い。

 「推定距離80万キロ。月の影になっていたため探知が遅れた模様です。接近してきます」

 「こちらを射程に捉えるにはまだかかるはずだ。古代君、ヤマトはワープテストの為に全てセッティングされていてどの武装も使えない。航空部隊の用意をするんだ」

 ジュンが対応の遅れているユリカの代わりに副長席のレーダーパネルで敵艦隊の動きを確認、指示を出す。

 「了解! コスモタイガー隊は直ちに出撃の準備を! 艦長、俺も出ます!」

 「気を付けてね進君。貴方達なら勝てる! それだけの力は用意出来たからね!」

 ユリカの激励を背に受けて、進は下部の艦載機格納庫に向かって走り出す。

 何が何でもヤマトを護って見せる。

 この艦が、ヤマトが人類最後の希望なのだ。

 ワープテストの邪魔はさせない。






 ついに出航した我らが宇宙戦艦ヤマト。

 人類は君に全てを託しているのだ。負けるなヤマト、決して折れてはいけない!

 再び奇跡を起こす時が来たのだ!

 地球生命滅亡と言われる日まで、

 あと365日



 第三話 完



 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

    第一章 遥かなる星へ

    第四話 再会! 光を超えたヤマト!



    全ては、愛の為に――






 あとがき(改訂前と同じ。2017/6/14改訂)

 と言うわけで第三話。ついにヤマト発進。長かった。リアル時間で10年とか掛け過ぎだよホントに……。

 発進シーンは基本的にアクエリアスから飛び立つため復活篇のものを流用。セリフは追加や変更が若干ありますがほぼ流用しているため、原作パート1よりも発進自体はかなりあっさりとした勢い重視のものになっています。ちなみに発進と同時に砲撃は復活篇の初期案の流用。話の都合で超大型ミサイルは出番無しになりました。
 発進シーンを読むときは是非とも「宇宙戦艦ヤマト2009」を聞きながらお願いします。

 特に考えていなかった部分ではありますが、原作での古代と島の緊張はそれぞれナデシコで消化した形になりました。古代は描いて貰えたけど回想で済まされる島は可哀想です。あと雪が殆ど出番が無い。まあしょうがない、ルリを乗せた時点で雪が第一艦橋に居場所が無いから。

 尺の都合でワープは次回に持ち越します。地味に1話当たりの尺を制限したら色々書きやすくなったぞ。ばっさりと要らないと思った展開切れるし、端折れるし。



 あと本作で地球が凍っている理由はコウイチロウの独白、みたいな形で本編に描いた通り。元々私は「赤錆びた大和と赤茶けた地球」「赤錆びを振り払った宇宙戦艦ヤマトと蘇った青い地球」が連動していると考えているので、原作通りだとヤマトの現況と合わないので変更しました。それだけ。

 ついでに旧作ベースなので艦内組織の名称などがそちら寄りです。これは私がそういう組織図に詳しくないのでアバウトな旧作の方が楽だからです。これに関しては2199が嫌いとかは理由じゃないです。



 本当ならユリカはもう少しだけシリアスで引っ張るつもりだったのに、勝手にナデシコの雰囲気に戻りやがったので色々と予定変更してお届けしております。と言うか発進シーンも本当は前後で真面目に通す予定だったのにこいつが暴走してギャグがちらほら入る場面も。ダメだこいつ制御出来ねぇ。

 合わせてヤマトの艦内の空気も原作から大変貌してナデシコな感じになりました。そして身近にいる分古代の汚染が酷いです(まあこいつも結構ノリのいい部分があったけどさ)。これはもう手遅れ。よってさらに雪の影が薄くなる。やっぱり極力ユリカをトレースしようとすると、どうしてもあの感じになるんだよなぁ。要するにテレビ版の魅力ってそのままユリカの魅力なのかも。ってこれは当時の先人さんが言ってたか。ナデシコの空気を作ったのはユリカだって。
 ある意味「書こうかな?」とか言ってたナデシコ篇のIF書かなくてもよくなったレベルだこれはw。まあ書いた所でヤマト原作再現に突入したらどうしても似たり寄ったりになるからねぇ。まあマンネリの美学もあるらしいけどさ。

 やる予定何て無かったなぜなにナデシコも挟んでやりたい放題。これも全部スパロボVのせい。巻き込まれた真田さんが不幸だw。――本当は良くないんでしょうけど、書いてる途中で自分も笑いを抑えられなかったw。

 ヤマト発進の熱さが台無しだよこの展開。話のあらすじこそヤマトに準じてるけど中身のノリは完璧にナデシコと化したw。

 でもユリカを艦長に据えるとどうしてもこうなる。もしもこれで沖田艦長や古代みたいに真面目に艦長しようとすると、ユリカである必要が無くなるジレンマ。そもそも真面目さだけを求めるなら原作見ればいいじゃん、ってことになるからねぇ。それこそ出来の悪いクロス作品の「ただキャラを当て嵌めただけ」「そのキャラである必要があるのか?」に思い切り接触するから難しい。まあ単純な二次創作とか再構成(逆行)に比べればそりゃ腕がいるよねって話。スパロボのライターさんの苦労もわかるわぁ。

 ちなみに第三艦橋直通のエレベーターは原作通り。本編には突っ込めなかったのですが実は「左右に分かれたスーパーチャージャーの間を通っている(ほぼ公式設定)」トンデモないエレベーターなのです。ルリは別の意味でも気が気じゃないw。

 そしてついに動き出したアキト。本当はこの後アカツキにネチネチ嫌味言われて説教される展開もあったんだけどくどいから辞めました。別に暗い話描きたいわけじゃないしそもそもアキトいぢめしたいわけじゃないし。

 3話投稿時点で7話も書き始めてるけど、オリジナルパートの割り当てが増える一方だからペースダウンだなぁ。流石にヤマト本編をもう少し見直さないと妄想が追い付かないや。



 それにしても、お師匠様に感想を頂くとあれこれ教えを乞うていた過去を思い出して懐かしいなぁ〜。



 私は結局ナデシコでしか書いてないからなぁ。と言うよりも、大好きな作品で二次創作に走るほど消化出来ないもやもやを残しているのがこれだけってことでもあるんですが。――相変わらず公式は音沙汰無いし。頭じゃ無理なのわかりきってるんだよ、でも感情が納得してくれないんだよ!

 僅かな希望へのお布施として、20周年記念プラモも買ったけど、果たして組み立てる日が来るのやら――。制作中止発表から12年も経ってるのに、自分の中で上手く消化出来ないままなんてねぇ。友人に勧められてスパロボで惚れ込んだ当初は考えもしなかったよ。今後もスパロボに参戦するのなら、救済には常に期待していますよ。と言うか、それもまたあの夢の祭典を支える魅力だと、私は信じてます。



 だから! オリジナルのヤマト(出来れば復活篇)を! ナデシコ(出来ればTV版)を! ガンダムXを! 新ゲッターロボを! 同時に参戦させる単発作品を!!(←超個人的な願望)








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ゴールドアームの感想

 これでよし!

 いきなりですが、まずこの一言を送らせていただきます。
 前回はあえて書いていなかったんですけど、少なくともユリカを艦長に据えて物語を展開する以上、このノリはどうしても必要なものになります。
 ずっと第2話の雰囲気だったら苦言を呈していたかもしれません。まさに作者様があとがきで自ら語っていたそのままの理由で。
 クロスオーバーというのは、二つの世界をどう組み合わせるかがある意味キモになるのですが、この物語の場合は『ヤマトの世界にナデシコのノリを持ち込む』というカタチに向かっていると思われます。
 だからこそナデシコ系の二次創作でもあるわけですし。

 ノリがよくなったせいか、キャラの造型もしっかりしてきましたし、古代が染まっている辺りはグッドです。
 本来いなかった人物の影響を受けてキャラが改変されるというのは、二次創作においては『あり』です。
 ポイントは改変の過程に違和感を持たせないこと。
 原作を考えると、割と適応が早そうな古代に対して、なかなか適応できない島という構図が見えます(笑)。
 意外かも知れませんが、ヤマト世界の人間は、実は若い人ほど頑固で適応が遅かったりします。
 徳川機関長なんかはむしろあっさり染まりながらも、根っこの部分だけは譲らないというポジが似合います。
 ハードルは高いが越えると染まりきる古代。
 なかなか染まらず、じわじわと染みてくる島。
 染まっているように見えて全然変わらない(なにげに元からそのままだったりする)真田。
 加藤とか南部とかは、ぶつかんないとダメかなあと思います。
 どうなるかは作者様の腕と思惑一つですけど。

 戦闘シーン? この辺は今の段階ではあっさりぶった切って正解かと。
 詳しく書くのは、クルーの人的成長が絡むものか、戦いに大きな意味のあるものだけでいいかと。
 ナデシコで言うなら火星までの間の戦闘(笑)。
 初代の2199ヤマトは、基本的にマジンガーZ以来のスーパーロボット系カテゴリーに所属するアニメであり、機械獣ならぬガミラスが襲ってくるのを撃退するのが基本パターンにありました。
 ガミラスという障害物をクリアする形ですね。だから復路はあんなにあっさりと流されたわけで(爆)。
 対してナデシコはガンダム系のヒューマンドラマに重きを置いたリアルロボット系の系譜です。
 哲学するというと固すぎですが、戦闘という行為に関する人の思いの方に重点が置かれます。
 かっこよく戦闘するよりも、何故か通じる敵との会話の方が重要っぽいあれです。
 両者の融合されたこの作品では、どうなることやら。



 続きは楽しみに待っています。頑張ってください。

 ゴールドアームでした。








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