反射衛星砲の攻撃で、ヤマトは冥王星の海へと没した。
 しかし、当然ながらこの程度の事で死に絶える事は無い。
 ヤマトは地球を救えず、人類を護りきらずに死に絶える事など無いのだ。

 「水深300m。海底に到達した模様です」

 計器を読み上げながら、平常心を取り戻した大介が報告する。
 あの後制御を失ったヤマトではあるが、原因が重力制御装置のトラブルであったことが判明。
 ヤマト以前の艦からある重力発生装置が、反射衛星砲の直撃で暴走。艦の外部に強力な重力場を形成してしまったため、ヤマトは制御を失ったのだ。

 その問題が判明した直後、ルリの判断で艦内の重力制御を一時遮断した事でヤマトの沈降は食い止められたのだが、すぐにユリカの「このまま死んだふりして」と言う命令に合わせ、潜水用のバラストタンクを注水、そのまま潜水艦行動に移行して現在海底に達したところだ。

 ヤマトは海底の岩を幾つか砕きながら着底し、右に傾いだ状態で固定される。
 艦内の重力制御が正常に戻ったため、クルーは艦の姿勢とは関係無く、床と水平の感覚を保つ事が出来ていた。

 「着底完了。ラピスさん、エンジンの具合はどうですか?」

 島がヤマトの姿勢が安定したことを確認してから、エンジンの具合をラピスに尋ねる。

 「損傷はありません。現在は死んだふりの為停止していますが、再始動はすぐに出来ます――ですが、出力制御系の修復がまだ終わっていません。それに、3度の被弾であちこちのエネルギーラインにエラーが生じていて、全力運転してもヤマトの各部に十分な出力が行き渡らない状態にあります」

 大介の質問にラピスが答える。
 こちらもようやく落ち着いたようで、先程の取り乱しを思い出してかほんのり頬が赤い。やはり恥ずかしいらしい。

 「真田さん、修理状況は?」

 戦闘指揮席で唸っているユリカに変わって、ジュンが損傷個所で修復作業にかかりきりになった真田に尋ねる。
 沈降時の衝撃もあってか、現在ユリカは満足に指揮が採れない。

 「何とも言えません。浸水による被害も各所に及んでいて、すぐに手を付けられない部分が多過ぎます。最低限の応急処置も、あと8時間は掛かる見込みです」

 汗と油で汚れた真田がコミュニケに向かって報告する。



 反射衛星砲による被害は想像以上に大きい。

 最初の1発は機関部に近い場所を破壊され、そこからエネルギーラインの一部に浸水が発生して、ヤマトの機能の一部が麻痺状態に陥っている。
 特に問題なのはやはり推進系で、現状ではメインノズルの最大噴射は勿論、各姿勢制御スラスターへの供給が安定せず、機動力がガタ落ちした状態と言えた。

 2発目は丁度艦内工場のすぐ傍に損傷が達しているため、こちらも浸水で工場区の一部が被害を被っている。
 また、居住区、それも右舷医務室付近にも被害が発生しているため、一部の医療機器が現在使用不能になった。
 ……不幸中の幸い無いのは、左舷側が無傷な事と、右舷側も手術などの大規模な治療が出来ないだけで、軽症者の治療には支障をきたしていない事か。

 3発目は元々空間の広い物資搬入口に被弾した事もあって、ある意味では最も浸水が深刻だ。
 第二副砲の回転機構にもダメージが及び、エネルギー伝導管までもが破損している。
 現在第二副砲は使用不能で、近くに装備されていた連装対空砲は1つが消滅、1つが半壊している。

 他にもそれまでの戦闘による被害の累計も大きい。
 左舷展望室は、防御シャッター越しに被弾したにも拘らず、窓である硬化テクタイトにひびが入って軽度の浸水が発生し、艦橋トップにあるコスモレーダーのアンテナも、右舷側は1/3程欠けている状態だ。
 煙突ミサイル後方のマストアンテナも、反射衛星砲の被弾で損傷し、右側の回転機構が破損して大きく跳ね上がった状態にあり、T字(Y字)型のマストも右側が少し欠けている。
 アンテナマストはコスモレーダーと並んでヤマトのセンサーや電子妨害の要であり、ここが傷ついた今、ヤマトの探知能力と電子戦能力は相応に衰えている。

 各武装の被害も決して軽微ではない。
 艦首ミサイル発射管も左中央が開閉不能になり、右舷の8連装ミサイル発射管もハッチ開閉不能、艦尾ミサイル発射管は左舷側ハッチが全部開閉不能、煙突ミサイルが辛うじて無傷だが、ミサイルは全部撃ち尽くしている。

 第一主砲も被弾して左砲が機能障害、第二主砲は反射衛星砲被弾の衝撃と合わせて回転不能、第三主砲は左測距儀が破損、パルスブラスト対空砲群も半数以上が何らかの損害を被っている。
 第一副砲は無傷だが、これだけで対艦戦闘を行うのは少々心許ない。

 装甲も至る所に弾痕が残り、反射衛星砲を除いて貫通が無いとはいえ防御力には少々不安が残る。

 これらの損害を纏めると、ヤマトは中破状態に等しく戦闘力がガタ落ちしているのが現状だ。
 乗組員もかなりの人数が負傷しているし、数名の死者も出した。旗色が悪いのは疑いようもない。
 とは言え、並の戦艦なら最初の超大型ミサイルの時点で宇宙の藻屑になるので、この物量さに加え、相手のホームグラウンドで対等に渡り合った、ヤマトとそのクルーの底力の凄まじさもまた、疑いようが無いのだ。

 事実、冥王星前線基地はその戦闘能力に半分怯えていたのだから。



 「うぅっ……状況はぁ……?」

 戦闘指揮席でダウン寸前のユリカが呻きに近い声で尋ねる。
 今はエリナの手で後ろに倒されたシートにもたれて右腕を額に当てている。
 顔色は相変わらず悪いままで、目を閉じて苦しそうに息をしている。

 時折「吐きそう……」とか聞こえるのが凄く気になる。

 「あの大砲の被害で、第二副砲が使用不能で対空砲1基が全損、1基が半壊。被弾個所からの浸水はようやく止まったみたいだけど、浸水による被害も多数。他にもエネルギーラインの断絶が数か所――辛うじて戦闘は可能だけど、またあれに直撃されたら流石に不味いよ」

 ジュンは第一艦橋後方、左右の壁にあるダメージコントロールパネルを見ながら報告する。
 再建に当たって新設された第一艦橋の設備で、ヤマトのコンディション管理を容易にする目的で取り付けられている。
 その画面にはヤマトのフレーム画像が表示されているのだが、至る所が赤く色づけされ、そこから細かく文字と線で損傷の程度を表示している。
 その画面だけで足らない部分の注釈は周辺に展開されたウィンドウが補う形だ。

 「指揮は僕が引き継ぐから、ユリカは少し休んでて。その状態じゃあ指揮は無理でしょ?」

 ジュンは極力優しい声で休息を促す。
 ユリカもコンディションの悪さを自覚しているからか「うん」と力無く応えてそれ以上の被害報告を求めない。
 こういう時、ジュンは本当に頼りになる。
 本当、“バックアップ要員としてなら”ヤマトに欠かせない存在だと、ユリカは改めてジュンが乗艦してくれて良かったと胸を撫で下ろす。

 隣の操舵席に座る大介もユリカの様子が気が気でない様で、計器類をチェックしながらもしきりに視線を隣に向ける。

 少し前までの大ボケは如何ともし難いが、やはり天才と称された頭脳は本物だった。

 冥王星空域での戦闘指揮は見事なもので、その力が無ければヤマトはあの場でハチの巣にされていたことだろう。
 それくらい凄まじい攻撃で、それを退けたのはヤマトのタフネスもそうだが、ユリカの采配のおかげで敵の攻撃を的確に裁く事が出来たから、という点を無視出来ない。

 実際に指示通りに操舵した大介だからこそ分かる。
 敵の攻撃を読み切り最小の被害で済ませられるような、針の穴を通すような精密操舵を要求された。ジュンの提案したプランだけではなく、口頭指示でヤマトの進路を細かく指示され、大介は死に物狂いでヤマトを操ってみせたものだ。
 正直、引き出しを全部出し切ったと思う。

 そうだ、ユリカの指揮能力を十全に引き出し、応える事が出来るヤマトのクルーは、経験値にバラつきがあれど凄腕揃い。
 そのクルーを纏め上げてその力を引き出せるだけの器が、彼女にはある。

 普段の軽いノリやボケは、彼女への親しみ(または呆れと不安)になり、戦闘中の凛とした姿が指揮官としての頼もしさになる。
 その両方を極端に備える彼女だからこそ、クルーは日頃は肩の力を抜く事が出来、いざと言う時には彼女の采配に命を懸けられる。
 彼女を信頼出来るのだ。

 ――ギャップが大き過ぎて時折唖然とさせられるのが玉に瑕だが。

 それが彼女の魅力だと頭では理解しているが、もう少し真面目に、と言うか常日頃から落ち着けないのかと、普段冷静沈着を心掛ける大介は考えてしまう。

 ……親友の進はすでに慣れ切ってしまったのか、彼女が突然ボケようが、そこから急にシリアスを決めようが動じなくなってきたが。

 だからこそ、急に不安になってしまった。
 確かにユリカは凄い。
 だがその体調は火星の後継者の人体実験と、ヤマト再建のための度重なる無茶で極端に悪くなっている。
 これから先どのような苦難が待ち受けているかわからないが、彼女の指揮の下なら大丈夫だろうという信頼を持ってしまったがために、それが呆気無く失われてしまうかもしれない現状に、どうしても不安を煽られる。

 多分それは、自分だけではない。誰しもが抱えつつある不安であると、大介は漠然と考える。

 「雪ちゃんもイネスも、今は負傷者の治療で手が離せないみたいね……よし、ハーリー君、悪いけど艦長をよろしく。私は医務室に薬を取りに行ってくるわ。ルリちゃんもこっちに戻ってくれないかしら? 代わりに通信の番を頼みたいの」

 エリナがハリとルリにそう頼むと、「わかりました」と共に快く応じてくれる。
 すぐにハリは航法補佐席から立ってエリナの代わりにユリカの傍らに陣取る。エリナからハンカチを受け取ると、ユリカの顔に浮かんだ汗を代わりにふき取る。

 「ありがとうハーリー君。ホントに良い子だねぇ、よしよし」

 薄っすらと目を開けて礼と共に左手でハリの頭を撫でるユリカの姿に、大介はますます胸が苦しくなる。
 少しでも心配を掛けまいと気丈に振舞っているが、撫でている手が微かに震えているのに気が付いてしまった。
 ハリもそうなのだろう。ユリカの状態があまり良くないことを察してぎこちない笑みを浮かべているではないか。

 「や、止めて下さいよ艦長。僕だって一人前のクルーなんですよ?」

 やんわり不本意だ、と主張する。
 ユリカは「そう?」と応じて頭を撫でるのは止めた。
 空いた左手は今度は自分の腹部に当てられる。安全ベルトが締め付けた部分だ。
 痛むのだろう。嘔吐したくらいだし。

 大介の不安は増すばかりだが、この状況でもユリカが諦めていない事や、艦長であり続けようとしている姿に、わずかばかりの勇気を貰った気がする。

 この諦めない心こそが、挫けぬ心こそが、かつてのヤマトが苦難を乗り越えてきた、本当の秘訣に思えてきた。



 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 第一章 遥かなる星へ

 第八話 決死のヤマト! 冥王星基地を攻略せよ!



 冥王星前線基地の司令室では、海底に沈んだヤマトの捜索が始まっていた。

 「お見事ですシュルツ司令。さしものヤマトも、司令の采配の前では打つ手無しでしたね」

 ガンツが嬉しそうにシュルツを褒め称える。被害は決して小さくは無いが、それに見合うだけの大戦果と言っても良いだろう。
 敵はタキオン波動収束砲すら備えた超戦艦なのだ。
 このような大物は過去に例がない。この強敵の撃破は、デスラー十字勲章ものだと、ガンツは敬愛する司令の手腕を称賛して止まない。

 「まだ油断するなガンツ。確実に息の根を止めるまでは安心してはならん。敵はヤマトだ、たった1隻で我らにここまでさせる強敵なのだ。油断して足元を掬われては、デスラー総統に顔向け出来ん」

 シュルツはここまで追い込めたことに喜びを抱きながらも、司令官として毅然とした態度を崩さぬまま次の手を指示する。
 まだ手を緩めるわけにはいかない。
 その艦体を真っ二つに引き裂き、2度と再び飛べぬようにしてからでなければ安心して勝利の美酒を煽ることは出来ないのだ。

 「潜水艇を発進させろ、ヤマトの沈没地点を捜査して、発見次第魚雷を叩き込んで粉々に粉砕しろ。妥協はするな、油断もするな。2度と浮上出来ぬよう鉄屑に変えるまで、攻撃の手を緩めるな!」

 シュルツの指令を受けて、水中に設けられた発進口から次々と小型の潜水艇が発進していく。

 目標はヤマト。

 現況最大最強の敵を確実に葬り去るべく、ガミラス冥王星前線基地はありったけの武力をつぎ込む覚悟だった。






 その頃、単独行動中のGファルコンDXはようやく冥王星に到着した所だった。
 流石に慣性飛行だけでは相応に時間がかかってしまうのは仕方が無い。

 「ヤマト、結構派手にやられてましたね……ユリカさん達は大丈夫だろうか?」

 得体の知れない砲撃を受けて、煙を噴いたヤマトが右往左往する様を見ることになった進の気分は暗い。
 そう簡単にやられるとは考えていないが、ただ黙ってみているしかない現状も重なって不安と心配が募る。

 「あいつがそう簡単にやられるもんか。あれくらいで終わってるんなら、木星との戦争の時、ナデシコは火星で終わってるさ――それに、ヤマトもこんな旅の序盤で終われないよ。冥王星前線基地って言ったって、イスカンダルへの旅路の序盤の序盤、初めてのボスキャラみたいなもんだ。ヤマトが負けて良い相手じゃない」

 アキトは進を不安にさせないように極力普通に振舞う。
 勿論胸の内ではユリカ達の安否が気になって仕方が無い。
 だが、復讐者として数多くの修羅場を潜り抜けてきた経験を持つアキトだ、ここで焦っても出来る事は無く、むしろ自分達が基地を叩く事さえ出来ればそれだけでヤマトが救われると理解していた。
 それに、自慢の妻はこの程度の苦難で音を上げる程柔じゃない。

 「――信じているんですね。やっぱり、奥さんだからですか?」

 「それを抜きにしても、ナデシコが戦争で沈まずに戦い抜けて、大戦果を挙げられたのはユリカの采配による所が大きいからね……失敗も多かったけど。後は、否定しても意味が無いから言っちゃうけど、進君の言う通りだ。ユリカは俺の妻だからってのは勿論ある。あいつは俺に絶対の信頼を抱いてるんだ。俺が応えてやらなきゃ誰が応えるんだよ――俺、あいつの夫で王子様だから」

 笑みを浮かべながら断言するアキトに、進は「ごちそうさまです」としか言えなかった。
 だが、少し気持ちが楽になる。

 「さて、雑談も良いけど仕事だ仕事。超大型ミサイルと例の大砲の最初の発射地点は、大体この辺だったか……」

 アキトはコンソールを操作して冥王星の簡単な地図を表示し、超大型ミサイルと大砲が放たれた位置を書き込んでみる。
 大砲の発射地点と超大型ミサイルの発射地点はそれなりに離れているが、それでも半径30qの範囲内に収まっている。惑星全体を比較として考えれば、隣接していると考えて問題無いだろう。

 「はい。流石にダブルエックスのセンサーでは詳細な位置はわかりませんが、大凡の地点はそこで間違いないと思います。しかし、衛星軌道から見る限りでは地上に建造物が見当たりません。海洋の下に隠されているか、何らかの遮蔽フィールドの類を展開していると考えて良いかもしれませんね」

 進はデータを参照しながらそう推測する。後者ならまだありがたいが、前者の場合は少々問題だと、進はデータを睨みながら考える。

 「だろうね。このまま衛星軌道に陣取ってても仕方ない。地表付近を飛んで調べてみよう」

 アキトの提案に進も頷き、GファルコンDXは慎重に冥王星の地表付近に降りて行った。

 元々が「全部乗せラーメン」を指標に開発された機体なので、GファルコンDXは単独で地球の大気圏の離脱と再突入が容易に実行出来る機体だ。
 相転移エンジン搭載で重力波スラスターを採用したGファルコンDXは、所謂燃料切れの心配が無いし、その既存機を上回る推進力から生み出される機動力とボソンジャンプ能力のおかげで、ヤマトの元居た世界の名機――コスモタイガーに匹敵する活動範囲と哨戒能力すら持つのだ。
 今はその能力を最大限に活用して冥王星前線基地の所在を探り当て、機動兵器としては異例の戦略級火力を使って、基地殲滅を目論んでいる。
 この機体の詳細を把握出来なかった(機会に恵まれなかった)のが、冥王星前線基地の不幸だったのかもしれない。






 「それじゃあ、あの大砲は例のデブリを使用して射線を屈曲させている、と?」

 第一艦橋に上がってきたルリの報告にジュンが驚く。偶然の一致だろうが、サテライトキャノンの初期案と本当に良く似ている。
 尤も、サテライトキャノンの場合は中継衛星を介してエネルギーを送信して貰い、衛星軌道上の大砲を発射するシステムなので、順序が逆と言えば逆だが。

 「はい。恐らく、あのデブリは何らかの反射装置を内蔵した大砲のシステムの一部だと思われます。地上で発射した砲撃を衛星で屈曲させることで、理論上の死角が無い。惑星全体の防空用装備として考えればかなり強力な武器だと思われます。現在までに判明しているデータでは、砲撃の間隔などから考えて大砲は1門だけで、衛星自体に攻撃能力も無い……もしかすると、ガミラスにとってもまだ試作段階の装備なのかもしれませんね」

 ルリは通信席のパネルを操作して、オモイカネに繋ぐとデータの表示を頼む。

 「オモイカネ、観測データに基づいた、砲撃予想地点を表示して下さい」

 ルリの指示にオモイカネはすぐに作成したCGデータをマスターパネルに送る。冥王星を基準に、ヤマトの移動経路と被弾地点、最初の砲撃予想地点を基準にデブリで屈曲されたビームがヤマトに届くまでの経路など、様々なパターンを表示した。
 本当に網の目の様に描かれたビームの予想経路に、第一艦橋の面々が舌を巻く。これでは正確な発射地点を特定出来ない。

 「なるほど。これなら確かに死角が無い――本当に俺がフラグ立てたのか?」

 島がぼそりと呟くと、全員があからさまにそっぽを向く。地味にユリカの発言に傷ついた大介だった。

 「ともかく、この仮称・反射衛星砲は厄介だ。移動目標に対する脅威度がわからない以上、迂闊に飛び出せない。対策を考えないと」

 ゴートも難しい顔で対策を吟味する。流石にもう1発あれを食らうとヤマトがどうなるかわからない。今度こそ致命傷を負う可能性もある。
 単発とは言え死角が無く、ヤマトの防御を1撃で貫通する脅威の大砲。やみくもに飛び立てば狙い撃ちにされ、今度こそヤマトは海の藻屑と終わる。
 そこに、医務室から薬の入った無針注射器と医療キットを手にエリナが戻ってきた。

 「留守番ありがとう、ルリちゃん。はい、この薬を艦長に打って。無針注射器だから簡単よ」

 ルリに持ってきた注射器を渡して、通信席から追立て代わりに自分が座る。自分で打ちに行っても良いのにわざわざルリに譲るのは、エリナなりの気遣いだ。

 「わかりました――ありがとう、エリナさん」

 ルリは公然とした理由でユリカの下に駆け寄る。その姿を誰もが微笑ましく見送りながら、邪魔をしないようにデータを睨みつけて反射衛星砲攻略の糸口を探る。
 今の所攻撃が無いとはいえ、この包囲網を抜け出して基地に対して反撃するのは困難極まりないと、ジュンもゴートも難しい顔で黙り込んでしまった。

 「ユリカさん、お薬です。これで気分が良くなりますよ」

 ルリはハリに付き添われているユリカに、それはもう満面の笑みを浮かべて注射器を見せる。しかし、台詞と笑顔の組み合わせが非常にアブナイものになっているとは、全く気付いていない。

 「うぅ〜ん……その言い方だと、危ない方のお薬みたいだよぉ」

 グロッキーなユリカがルリの言い回しを指摘する。確かにルリの言い回しにも問題があるのも事実だと、隣で聞いていたハリと大介は思う。

 「〜〜っ!」

 言われて気が付いたルリは羞恥で頬を染める。そんな照れ顔を至近距離で拝めたハリは、ルリには悪いが眼福眼福と、密に脳内フォルダーにその表情を保存した。
 ユリカと絡んだルリは、こういう無防備な表情をたくさん見せてくれるのでハリは本当にありがたく思っている。多分アキトと一緒の時もそうなのだろうが、如何せんアキトはヤマトに乗ってからルリとあまり絡んでいない。
 正直気に入らないところはあるが、ルリの為にもアキトと一緒に居られるように謀ってみるか、と考えるハリであった。

 「そ、そんなボケかましてないで、左手出して下さい」

 赤面したままのルリに言われるまま左腕を差し出すユリカ。
 ルリは袖口に隠されたファスナーを下ろしてから袖口を捲る。ユリカの艦内服は旧ナデシコの制服デザインだが、隊員服同様簡易宇宙服として使えるように改造されているため、袖は肌にぴったりと着くようになっている。なので、こういう手間が必要なのだ。
 剥き出しになった腕に注射器を押し当ててボタンを押すと、浸透圧で薬液がユリカの体内に送り込まれる。
 特に痛みは無いはずだが、体内に何かを送り込まれる感覚にユリカが軽く呻く。

 「えへへ、本当に薬漬けみたいだね、私」

 そう笑われると釣られて笑いそうになるが、本当に薬漬けの日々を送っているユリカに言われると、可哀想に思えて泣き顔と笑い顔がごっちゃになったような変な顔になってしまう。

 「お、ルリちゃん睨めっこがしたいんだね。あっぷっぷぅ〜」

 何か盛大に勘違いしたのか、それとも場を和ませるためなのかは判断が付かないが、ユリカも変な顔を作ってルリと向き合う。
 ……そのまましばし互いに変な顔を突き付けたままでいたが、双方の顔を近くで見ていたハリが噴き出すのを切っ掛けに、ルリも「参りました」と今度こそ笑い出して「私の勝ちぃ!」とユリカが拳を天に突き上げて、第一艦橋全体に笑いが響く。

 先程までのやや重かった空気が霧散していくのを感じながら、それでも大介の心境は晴れ渡る事が無い。
 こんな細やかなやり取りで過度な緊張を取り除くのは流石だが、果たして本当に、彼女は持つのだろうか。彼女が倒れた後、誰がそれを引き継げるのだろうか。
 この時点で副長のジュンが引き継ぐのが妥当だろうと考えない当たり、彼がどれほど影が薄く、縁の下の力持ちに徹しているのかが伺えるというものだ。
 言い換えれば、ユリカが強過ぎてジュンが霞んでいるとも言える。

 「ん?」

 微笑ましい光景に頬を緩めながらもレーダーパネルを見ていたジュンは、ヤマトに接近中の物体に気付いた。潜水艦行動を想定しているヤマトには当然水中用のセンサーが備わっている。
 そのセンサーが、ヤマトに急速に接近している物体を捉えた。

 「未確認物体接近中だ! 持ち場に戻れ!」

 ジュンの声にルリとハリも慌てて自分の席に戻る。ルリは電探士席のパネルを操作してセンサーが捉えた物体の正体を探る。

 「未確認物体の正体は、恐らく潜水艇です。数は40。沈没したヤマトの捜索と、トドメが目的だと思います」

 音響センサーが捕らえた推進音が、確実に近づいてきている。敵は恐らくヤマトを発見しているはず。一直線に近づいてくる。
 戦闘を回避する事は、出来そうにない。速やかに判断したユリカとゴートの反応は速かった。

 「艦首発射管に魚雷の装填急がせて。多弾頭弾で」

 シートを起こしたユリカがすぐにゴートやミサイル発射室のクルーに指示を出す。
 薬で多少持ち直しているが、やはり顔は青褪めたままで声に力も無い。それでも気丈に指揮を執ろうとする姿にゴート達は何も言わずに従う。

 「多弾頭魚雷、艦首発射管にセット完了」

 ゴートは砲術補佐席から艦首ミサイル制御室に指示を出し、接近中の潜水艇の位置情報と進路、速度などの情報を入力していく。
 艦首のミサイル発射管扉が解放され、多弾頭魚雷の発射準備が全て整う。

 一応水中でも主砲と副砲は機能するにはする。出力が凄まじいし、重力衝撃波も水中で極端に減衰したりはしない。
 だが、死んだふりの一環でエンジンを停止しているし(そもそも母体が相転移エンジンなので、大気中や水中では出力が低下する欠点は解消されていない)、エネルギーラインに損傷がある状況下で迂闊に砲撃するのは、傷を深める危険性が高く推奨されない。
 こうなると、環境に合わせて用意された専用の装備が物を言う。
 何世紀も掛けて進化を続けてきた魚雷の営みは、宇宙戦艦となったヤマトにも脈々と受け継がれているのである。

 ガミラスの潜水艇が近づいてくる。そして、

 「センサーに感! 魚雷を発射した模様です!」

 ルリの報告を受けてユリカも魚雷の発射指示を出す。命令は速やかに復唱され、艦首の発射管から魚雷が放出される。放たれた魚雷は一定距離を進んだ後、先端のカバーを解放して中から9発の小型爆弾を放出して散らばらせる。

 そしてその爆弾の網の中にガミラス潜水艇が突っ込むと、近接信管が作動して爆発する。水中は空気中よりも衝撃波の伝播が速い。それに水圧かかかる関係でディストーションフィールドのような歪曲場を纏う事が難しい。
 そのため、爆圧に晒されたガミラス潜水艇はそのまま衝撃波に砕かれ、押し潰されて鉄屑に変貌する。

 しかし6発の多弾頭魚雷だけでは全部を仕留めきれるはずもない。最初に放たれた魚雷も含めて数十にも及ぶ魚雷がヤマトの艦体に突き刺さる。
 被弾の衝撃でヤマトが震える。潜水艇は1人乗りの小型な物なので魚雷も相応に小さいが、フィールドも無く自前の装甲で耐えるしかない今のヤマトにとっては塵も積もれば何とやら。
 装甲は無傷でも衝撃で内部メカに被害が生じる危険性は十分にある。

 ヤマトはもう一度多弾頭魚雷を発射して応戦するが、魚雷もこれで品切れだ。元々宇宙空間での運用がメインのヤマトに、水中攻撃用の魚雷を多くストックする余裕は無い。通常のミサイルでは、誘導方式の関係もあって水中では役に立たないので、実質対抗手段を失ったに等しい。

 その後、潜水艇とヤマトの死闘はその後も数十分に渡って続いた。
 魚雷を使い果たしてヤマトは止むを得ず、まだ弾薬が残っていたアンテナマストの根元に装備された中距離迎撃ミサイル――通称ピンポイントミサイルとパルスブラストを数基使用して何とか迎撃に成功したが、思いの外長期化した戦闘でその傷を深めてしまった。

 「きゃあっ!」

 運悪く第一艦橋に被弾した魚雷のダメージで戦闘指揮席のパネルが火を噴き、飛び散った破片がユリカに襲い掛かる。だが装甲シャッターで守られた第一艦橋の窓が割れたり浸水が始まったりはしない。
 ただ衝撃で計器の方が耐えられなかっただけだ。

 「ユリカ!」

 すぐにエリナが先程持ってきた医療キットを携えて駆け寄る。一応第一艦橋にも備え付けの医療キットはあるのだが、こちらは強いて言うならユリカ用にと、備え付けのキットには備わっていない薬品が収まっているのだ。
 戦闘が長期化するのは避けられないと踏んだエリナが、イネスに少々無理を言って用意して貰ったものである。

 「さ、刺さった……!」

 咄嗟に顔を庇ったため艦内服が破片を防いでくれたのだが、剥き出しだった手首には容赦なく破片が襲った。左掌に深々と5p程になろうかという尖った破片が刺さっている。
 見てるだけで痛いのがわかる。

 「抜くわよユリカ。我慢なさい」

 エリナは断ってから掌に刺さった破片を力一杯引き抜く。激痛にユリカが悲鳴を上げるが構わず医療キットから取り出した消毒液を、容赦なく傷口に浴びせる。
 そこに一切の慈悲は無い。

 「アっーーー!」

 ユリカはそりゃもう耳に刺す甲高い悲鳴を発したが、構わず薬を塗ってガーゼで覆ってから手早く包帯を巻く。
 でも少々耳がキーンと耳鳴りを起こしている。親子そろって、地声が大きいと思考が脱線しかけるくらいには効いた。

 「え、エリナぁ。もっと優しくしてぇ〜」

 泣き言を漏らすユリカに「ちゃんと処置しないと大変でしょう?」と取り合わない。処置を終えると涙目のユリカに、

 「戦闘が終わったらちゃんと見てもらいなさいよ。感染症を起こしたら大変だから」

 と念を押す。ユリカも「はぁ〜い」と涙声で応じて手当された掌に「ふぅー! ふぅー!」と息を吹きかけている。

 そんな姿を見て、大介は先程から抱いている不安がますます強くなる。今はこの程度で済んだから良いが、もしも指揮を執れない程の怪我をしたら、どうなる。確かにバックアップ要因としての副長や、ナデシコCで艦長経験のあるルリがいるが、この2人にユリカ程の信頼がおけるかと言われたら答えはノーだ。
 この2人にはこの人に付いていけば、と思わせるようなカリスマは感じられない。

 平時の軍ならともかく、今のヤマトは軍の指揮系統から逸脱し、実質艦長が全権を握った状態にある。それこそ一国一城の主とまで言われた、大昔の艦長そのものが要求される。
 あの2人には、それに至る為の器が足りないと、大介は半ば確信していた。というよりも、ヤマトが特殊過ぎるのだ。
 現代の戦争において、単独で長期に及ぶ作戦行動自体、余程特殊な艦艇でもない限りはあり得ないし、それでも必要に応じてバックアップを受ける事が不可能なわけでない。
 しかしヤマトは一切のバックアップを受ける事が出来ない。
 さらには、戦闘だけでなく未知の宙域を定められた時間内に全て乗り越える事を要求されているのだ――正気の沙汰ではない。

 それ故にヤマトの艦長には、容易に乗組員を追い詰めるこの過酷極まる任務の精神的負荷を取り除く絶対的な支柱になる事が求められる。
 ジュンもルリも、実務能力はともかく精神的支柱とするに大介の目から見ても力不足としか見えない。

 だからこそ不安なのだ。今のヤマトに、ユリカの代わりにクルーの精神的支柱足りえる人間が、この大役を継げる人間が、果たして居るのだろうか。

 大介の不安は、徐々に積み重なっていった。






 潜水艇の攻撃を凌ぎ切ったヤマトの様子にシュルツは険しい表情を浮かべる。

 「何と言う奴だ。これほどの攻撃を受けながらまだこれほどの余力があるとは……」

 司令室全体の空気が重い。シュルツも含めた全員が先程までの余裕を失い、常識外れの能力を見せるヤマトにはっきりと恐怖を抱き始めていた。

 「爆雷を投下しろ! 何としても浮上させて、反射衛星砲で止めを刺す!」

 シュルツの指令に全員が浮足立ちながらヤマトへの攻撃準備を進める。
 必殺兵器をもってしても決めきれないと言う事実は、冥王星基地から完全に余裕を奪い去っている。
 作戦は完璧だったはずなのに。予想通りヤマトは波動砲を封じられ、冥王星基地の全戦力による猛攻撃を受けて深手を負った。

 だが、それだけだ。

 戦艦1隻など1秒で宇宙の塵と消えるはずの猛攻を耐え凌ぎ、今もまだ生きている。これを恐怖と言わずして何と言うのか。
 何時の間にかヤマトと冥王星基地の戦いは、互いの根競べ、即ち持久戦に突入していた。
 それだけにその意識はヤマトにだけ集中してしまい、少数兵力の別動隊をヤマトが放出していたかもしれないという警戒意識を完全に削がれてしまっている。
 それが勝敗を分けるとは、この時のシュルツは知る由もない。






 冥王星の地表すれすれを飛行するGファルコンDXは展開形態に変形、パッシブセンサーを駆使して冥王星前線基地の所在を懸命に捜索していた。
 ダブルエックスを露出した戦闘形態と言うべき展開形態では、ダブルエックスの推力を上下に、Gファルコンの推力を前後に向けている状態にある為、宇宙空間や空中での運動性能が戦闘機状態の収納形態よりも高いし、ホバリングによる滞空もこちらの方が容易である。
 バランス的に不得手ではあるが足を使った歩行も出来るため、戦闘以外にもこういった探索任務にも向いた姿だ。

 「……駄目だ。痕跡を発見出来ない。この辺りのはずなのに」

 ダブルエックスのコックピットの中で呻く進。ヤマトが冥王星に不時着してからすでに2時間近くが経過している。
 アクティブセンサーを使えば発見出来るかもしれないが、隠密作戦を求められる現状には適していない。仮に基地を発見出来ても、サテライトキャノンを撃つ事が出来なければ負けてしまう。

 「くそっ。もしも本当に基地が海中にあるのなら、ダブルエックスのセンサー類じゃ時間がかかり過ぎる。それに、サテライトキャノンも水中基地に対する直接攻撃のテストなんてしてないし……せめて、地上に露出した部分か、地表近くに施設があれば……!」

 焦りから唇を噛む進。だが彼の心配も尤もだ。

 タキオン粒子砲であるサテライトキャノンは、波動砲同様一種の時空間歪曲作用を主とした(副次効果で膨大な熱量破壊も含めた)破壊兵器だ。出力も極めて高いため大気中での減衰は殆ど無視出来る。
 これは、ガミラスの目を掻い潜って地表で行われたテスト(皮肉にも、太陽の光を遮った粉塵が地表の様子を遮蔽した)で判明している。
 とは言え、水中の標的となると話は違ってくる。
 密度の高い水中では、ビームの減衰が強烈になる可能性は十分に高い。幾ら波動砲の亜種であっても、テストも無しでは無視出来るとは保証しきれない。原理的にも出力的にも、大きく劣っているので単純比較が難しいのである。
 原理的には400mくらいまでは無視出来ると真田とイネスが保証したが、本当にその範囲内に基地があるかは不明だ。
 二次被害をもたらす周辺への破壊作用の拡散や、粒子の飛散がどの程度になるかも予想が出来ないのも不安の種だ。
 それに、水中に基地が敷設されていた場合、上空からその所在を把握する事がそもそも不可能だ。
 ダブルエックスは汎用型なので水中でも活動出来るが、一番苦手な地形だ。静粛性は期待出来ないしセンサー感度も最低。地表を飛び回る以上に発見され易く、迎撃される危険性が高まる。
 さらに水中ではサテライトキャノン自体が発砲出来ない。余剰エネルギーや膨大な熱を排出するシステムは、それ自体が水蒸気爆発を誘発し、自滅してしまう。
 ダブルエックスがサテライトキャノンを水中の目標に使うとすれば、その所在を確認した上で空中から発砲する必要があるのだが……。

 「あの大砲が地表に露出していないのなら、どこかに排気塔みたいなものがあるはずなんだ。それさえわかれば、ある程度基地の位置も判明するんだけど」

 アキトも計器と睨めっこしながらこの状況を打開するための知恵を絞る。

 「排気塔。目立つようには置いてないでしょうね」

 「だろうな。でも大砲を撃てば確実に排気する――ヤマトが撃たれない事には探しようが無いのか?」

 流石のアキトも焦燥感に支配されつつある。如何にヤマトでもあんな大砲を何発も食らって無事でいられるわけが無い。
 ヤマトがやられない内に発見しないといけない。
 焦りだけが募る中、GファルコンDXは凍てついた冥王星の大地の上を右往左往していた。






 その頃ヤマトは大量の爆雷の雨に晒されていた。1発1発は“ヤマトにとっては”そう強力ではないが、如何せん数が多い。海面ギリギリを航行する潜水艇が次々と爆雷を落としていく。
 反撃手段の無いヤマトは甘んじてそれを受けるしかない。

 爆発による激しい振動がヤマトを襲い、クルー達に不安を与える。

 「くそっ。このままでは傷が深まるだけだ……!」

 「テンカワと古代は、まだ基地を発見出来ていないのか……?」

 大介とゴートが険しい表情で不安を口にする。

 「……う〜ん。もしかすると、基地が見つからなくて右往左往してるのかも」

 薬を口に放り込みながらユリカがズバリ正解を言い当てる。こういう時の勘がやたらと鋭いのも、ユリカの特徴である。

 「やはり、基地が地表に露出していないと?」

 電探士席のルリが今までの解析データを洗い直して、冥王星前線基地の在処を探ろうとしているが成果は上がっていない。
 そもそもデータ不足であるし、戦闘の合間に収集したデータだけで発見出来るほど、杜撰な偽装はしていないだろう。

 「まあそうだろうね。わざわざ海洋を作ったってことは、そこに隠してると考えるのが妥当だろうし。流石のダブルエックスも、水中の基地をサテライトで叩くのは難しいよねぇ」

 のほほんと語るユリカにジュンが自分の意見を述べる。

 「だとすると、特別攻撃隊を編成して破壊工作を考えた方が良いかな?」

 意見してみたが、ジュンはそれが適切な作戦だとは思えなかった。
 ヤマトの動きは敵に監視されているだろうし、油断もしていないだろう。この執拗な攻撃でわかる。
 特別攻撃隊を乗せた揚陸艇の類は、爆雷の雨を潜り抜けて氷上に出る事が難しいし、そこから改めて基地の探査となると、途方もない時間がかかる。
 ヤマトが持つとは考え難い。

 「必要無いよ――大介君、浮上して。敵に撃たせてあげましょう、必殺兵器」

 あっけらかんと言ったユリカに全員が驚愕する。

 「しょ、正気ですか!? 今度ヤマトに命中したら……!」

 「大丈夫。アレを海面上のヤマトに命中させたかったら、衛星で反射しないと当たらないでしょ? 要するに反射板の開閉タイミングに合わせて急速潜航すれば当たらないってこと――それに、潜ったヤマトに撃ってこないところからすると、水中では威力が極端に減衰しちゃうか、水に入った瞬間に屈折しちゃうか……どっちかだと思うから、潜っちゃえば安心安心。この爆雷の雨がそれを証明してくれてる。要するに、とっとと浮上して来い、そうすれば反射衛星砲で決めてやる、って言ってるようなものよ。敵さん、あんまりにもヤマトがタフなんで、焦って余裕を無くしてるみたい――問題は反射板のどれを使うか、ってところかな?……ルリちゃん、ヤマトの上空に反射衛星ってある?」

 「あります。頭上に1基、他にもヤマトを狙えそうな衛星が4つほど確認出来ます」

 ユリカの読みに感心したルリは聞かれる前から情報を検索し、事前に把握していたデブリ――反射衛星の位置情報を再度確認していた。
 この手の情報管理はお手の物、かつてアララギから言われた「電子の妖精」の異名に恥じないよう、常日頃心掛けている。
 彼らが命懸けで守ってくれたこの命。それが間違いでなかったと証明するためにも。

 「さっすがルリちゃん! 打てば響くってやつだね! ルリちゃんは私の自慢だよ! んじゃ、浮上して撃ってもらいましょうか――私達の反撃の狼煙を」

 思わず背筋がぞっとする程含みを持たせた最後の一言に、全員が頼もしい笑みを浮かべる。
 ルリだけはそれに合わせて「ユリカの自慢」と言われた事を嬉しがっていた。
 そして、ラピスだけは「褒められて羨ましい」とルリに羨望と嫉妬の眼差しを送って軽く頬を膨らませていた。

 (やっぱりこの人は凄い。依存しているのかもしれないが、今は考えるのはよそう。この人に従って、この場を切り抜けるのが先決だ)

 大介も先程まで胸中に渦巻いていた不安を振り払い、速やかに準備を整える。

 「両舷バラストタンク排水」

 「メインタンクブロー」

 大介とハリが共同してヤマトの浮上準備を終わらせる。バラストタンクを排水したヤマトは、爆雷の雨の中ゆっくりと浮上を開始する。






 「ヤマト、浮上しました!」

 ヤマトの動向を伺っていたオペレーターが喜色に満ちた声を上げる。ヤマトは海面の氷を叩き割ってその姿を露にする。

 「よし、このチャンスを逃すな。攻撃機を撤退させろ、反射衛星砲発射用意!」

 「反射衛星砲、エネルギー充填150%!」

 「3号衛星、角度調整右30度」

 「8号衛星反射板、オープン!」

 オペレーター達が次々と準備を整えていき、その照準がヤマトを捉えた!

 「反射衛星砲、発射!」

 シュルツが渾身の思いを込めて発射装置を押し込む――これで決まってくれ。
 切実な思いを乗せた反射衛星砲のビームが凍てついた海面を割り、反射衛星を中継してヤマトに向かう。






 「ヤマト頭上の反射板が開きました!」

 第三艦橋に降りたルリの報告を受けてすぐに大介はヤマトを潜航させる。

 「急速潜航!」

 操縦桿を思い切り押し込みバラストタンク全部に注水開始。姿勢制御スラスターも使って強引にヤマトを海中に押し込んでいく。凄まじい水の抵抗を力尽くで押しのけて、ヤマトは海中へと没していく。
 第一艦橋を冷やりとした感覚が包み込む。ヤマトが潜るのが先か、ビームが命中するのが先か、さながら気分はチキンレースだ。
 ヤマトが完全に海中に没してから2テンポは遅れてビームが海面に突き刺さった。
 ユリカの予想通り、ビームは海面に激突した瞬間急激に威力を減衰させ、ヤマトの防御コートと装甲の反射材でも十分に無力化出来る程度の弱々しい威力に終わった。ほんの少し揺れた程度で、ダメージは無い。
 今回の賭けは、ヤマトが勝った。

 「っ!?……ふぅ〜、間一髪だ」

 「艦長の予想通り、海の中には通用しないみたいですね」

 「だから言ったじゃない。大丈夫だって」

 大介が潜航が間に合った事に安堵し、ハリがユリカの読みの正しさを褒め、ユリカが明るい声で「ほれ見た事か」と自信満々で胸を張る。
 海に潜ってから薬を摂取しまくっているおかげか、幾分体調が回復した様子だ。
 爆雷の雨は鬱陶しかったが、常に敵艦の動きとヤマトの位置取りを考えて指揮するのに比べれば、随分と負担も小さいのだろう。
 ピンチであることに変わりは無いはずなのだが……と言うか本当に薬漬けだ。その内禁断症状が出るんじゃないかと、不謹慎な妄想が頭を過るくらい。

 「今の砲撃を捉えてくれていると良いんですが」

 上手く行ったことに安堵しながらも、少しだけ不安そうな顔でルリが言うと、

 「大丈夫だよ。だって、アキトと進君だもん。私の自慢の夫と息子だから、きっと意地でも成功させてくれるよ」

 とユリカは余裕たっぷりだ。何気に進をはっきり“息子”と断言しているのが彼女らしいと言うかなんというか。
 今更だが、もう確定事項なんですね、とルリは心の中で突っ込む。

 「……ある意味古代さん、外堀を埋められましたね」

 ルリが小さな声で呟く。
 はっきりと断言された事もそうだが、密かに艦内でそういう認識が広まりつつあることを知ったら、きっと顔から火を噴いて恥ずかしがるに違いない。
 何しろ狭い宇宙戦艦の中だ。ちょっとでも面白い話題があるとすぐに伝播する。何しろ軍艦の中は娯楽が少ないので、格好のネタにされるに決まっている。

 ユリカが進を我が子同然に可愛がっている事はすでに周知の事実。そこに至るまでの過程もどこでどう漏れたのか、案外知れているのだ。

 むしろユリカが率先して広めている気がする。

 ある意味艦長が特定の乗組員と過度に親しいと言うのは大問題な気がするが、それで統率が全く乱れないこの艦は一体どうなっているのやら。

 ああ、そう言えば自分もラピスもユリカの家族と公言しているし、追加要員とは言え夫のアキトも乗ってるから今更なのか。ルリは納得納得と頷いて仕事に戻る。
 それで納得する辺りルリもユリカに、と言うかナデシコに毒されているのが伺える。

 (アキトさん、古代さん。頼みます)

 ルリは別行動中の2人に自分達の命運を改めて託す。

 (あ、でも古代さんがユリカさんの息子の立場を受け入れたとして、その場合私はお姉ちゃん? それとも妹? 年齢的には古代さんの方が上だけど子供になったのは私の方が……まあ、後で考えればいいか)

 ちょっぴり思考が脱線したルリである。






 ヤマトに向けて反射衛星砲が放たれた直後、GファルコンDXはそのビームの奔流を直接視認する事が出来ていた。

 「大砲が発射された!?」

 進が天に向かって伸びるビームに驚愕していると、アキトの叱責が飛ぶ。

 「早く排気塔を探すんだ!」

 叱責されて我に返った進はすぐに機体を上昇させて周囲360度を探査する。サテライトキャノンのために搭載された高感度センサーを最大活用しての捜査。高感度センサーはすぐに目的のものを見つけ出す。

 「ありました! あれが恐らく排気塔です!」

 海中から放たれたビームの丁度反対側、小さな崖に埋もれるようにして排気塔があった。放出された凄まじい熱がまるでオーロラの様に暗い冥王星の空を照らす。
 すぐさま機体を翻して排気塔に直行する。
 ここからサテライトキャノンを撃ち込めば基地は一巻の終わりだ!
 逸る気持ちのままにサテライトキャノンを用意しようとした進をアキトが留める。

 「駄目だ進君!――あの大砲までかなりの距離がある。基地施設と併設された砲台じゃないかもしれない以上、基地が加害半径に含まれてる保障が無い。ここに撃ち込んだだけじゃ仕損じるかもしれない……」

 アキトが冷静に分析する。
 排気塔からビームが発射された地点までの距離は約8q。
 数値だけならサテライトキャノンが命中した時の加害半径には含まれているが、それは地表に露出していて、かつ大砲が基地に併設されている場合の話。
 大砲が基地から離れているかもしれないし、構造次第では上手く威力が伝わらず、基地に影響を及ぼせるかどうかはまだわからない。
 それ以前に、敵基地の全貌もわからないのに1発限りの切り札を使うのは早計だ。
 実戦投入も初めてなのだから、慎重を重ねて困る事は無いはず。
 無論、慎重になり過ぎて仕損じても本末転倒だが。

 「あ……すみません。気が急いてしまって。まずは調査分析、ですね」

 「その通り。焦る気持ちはわかるけど、こういう時は落ち着かなきゃ。折角ユリカが作ってくれた機会だ」

 アキトは先程の砲撃がユリカの差し金だと瞬時に察していた。
 恐らく自分達が未だに動けていない事から、基地の捜索に手間取っていると見抜いてその所在を把握する為に行動したのだろう。
 おかげでビーム発射の正確な位置と、排気塔を見つけられた。
 進もアキトの言葉でそれに気が付き、要らぬ心配をかけてしまったと少し後悔しながらも、ユリカの気遣いに感謝して機体を操る。
 ダブルエックスを排気塔に寄せて、内部を覗いてみる。暗視カメラを使用して覗いた排気塔は、やはりと言うか途中で屈曲してビーム砲の方向に向かっているようだ。

 「これだと、ただ撃ち込んだだけじゃ駄目そうですね。排気塔の周りにエネルギー源でもあれば、誘爆を期待出来そうですけど――くそっ、ここからじゃそこまではわからないか」

 進は何とか突破口が無いか周りを調べてみる。これほどの建造物なら、必ず人の出入りする場所や、手入れをするための何かがあるはずだ。
 排気口のサイズさえ合っていればダブルエックスで直接入り込んでも良いのだが――。

 「この排気塔のサイズだと、ダブルエックスで直接入るのは無理か――ん? アキトさん、メンテナンスハッチがあります!」

 排気塔の端にメンテナンスハッチを見つける。やはりあった。ここから施設内部に入り込めるはず。
 上手くすれば基地の全容を掴めるだろうし、内部から破壊工作も出来る。

 「よし、ここから内部に潜入してみよう」

 アキトはすぐに決断した。潜入して情報を集め、適切な場所にサテライトキャノンを撃ち込む。それ以外に冥王星前線基地を破壊する手段は無い。
 一応破壊工作用の爆弾は持ち込んでいるが、持ち込める程度の爆弾では焼け石に水だろう。
 動力炉や動力パイプ、または発射直前のあの大砲にでも仕掛けて爆破すれば誘爆で吹き飛ばせるかもしれないが、流石にそれは高望みだ。

 「わかりました。アキトさん、頼りにさせてもらいます」

 「任せろ。褒められた経験じゃないけど、今は出来る事をやりきる」

 進の操縦でGファルコンDXが排気塔近くの物陰に着陸する。追加されたエネルギーパックを補助脚として、4本足でその場に立つと、慎重に足を曲げて片膝立ちの姿勢を取る。エネルギーパックもそれに連動する形で基部で回転して背中に合体したままのGファルコンBパーツを支える。
 進がハッチ開閉レバーを捻ると、胸部に合体したAパーツが前方にスライドしてからダブルエックスのハッチが解放される。
 同時にアキトもGファルコンBパーツのコックピットハッチを解放する。中央ノーズ部分の、赤いドーム状のパーツが左右に割れて、さらに内側のハッチが上に開いてコックピットが露出する。
 機体から這い出した2人は、ちゃんとハッチを閉め直してからGファルコンのカーゴユニットの内側、ダブルエックスを格納しても邪魔にならないところに固定していたコンテナを開封する。

 「よし。最低限これだけあればどうとでもなるな」

 アキトは中身を取り出して手早く身に付ける。
 白兵戦用に用意されていたプロテクターは忘れずに装着する。
 デザインは極々シンプルなもので、肩当ての付いた胴体を包む構造のプロテクター(背中に酸素パック内蔵)を着込み、手足につけるプロテクターは肘と膝から下を包み込む形状のものだ。色は光沢の無い黒。
 対レーザーコーティングの他にも、対弾・耐衝撃仕様の軽量型。可能な限り装着者の動きを阻害しないように工夫を凝らされているため、身に付けてもそれほど違和感が無く防御力は十分。
 最初から着込んでいないのは、特に胴体のプロテクターが操縦の邪魔になるからだ。

 腰には常時下げているコスモガンの他に、ショットガンアタッチメントとカプセル型のH-4爆弾2つにコスモ手榴弾を2つ、予備のエネルギーパック1つを吊るす。
 今回は施設内部での隠密行動を予定しているので、かさばり易いレーザーアサルトライフルは置いてきた。ショットガンアタッチメントなら分解すれば20p程の箱状の部品にしかならないし、接近戦ではアサルトライフルよりも使い易くて良い。
 外せば普通のコスモガンになるから、近接戦闘での取り回しにも問題が無い。
 また、アキトだけは万能探知機、小型カメラ、マッピング用の目印と、念のためとしてCCを持ち込んだ。

 屋内戦ならこれで十分なはずだ。それに2人という少人数での潜入作戦になるし、これ以上の重装備は運用出来ない。

 「目的は敵の施設の全貌を掴む事。出来れば大砲くらいは潰したいけど、欲張って失敗しないように。どっちにしろ、基地の全貌を確認したら戻ってサテライトキャノンで決める」

 「はい!」

 アキトは進を引き連れる形でメンテナンスハッチを慎重に開ける。この場合、単独での破壊工作の経験が豊富なアキトが指示を取るべきと、事前の打ち合わせで決まっている。

 (ボソンジャンプが出来れば楽だろうけど、そう上手くは行かないかもな)

 アキトは事前にユリカに聞かされていたことを思い出す。



 「良いアキト? ガミラスは自分でボソンジャンプを使うことは出来ないみたいだけど、ボソンジャンプの出現座標を狂わせるジャミング手段を保有しているの。何でも波動エンジン誕生後に盛大に事故ったらしくって、タイムパラドックス的な危険性も考慮して永久封印したみたい。対策は残したみたいだけど」

 攻略作戦前、呼び出しを受けたアキトは艦長服をビシッと着込んだ真面目な表情のユリカから、ボソンジャンプに関する注意を受ける事になった。

 「スターシアの助言が正しければ、ガミラスもイスカンダルも、阻害の方法は波動エネルギーとワープシステムで得られた、時空間歪曲作用を利用してジャンプアウトのタイミングと場所を狂わすって方法だよ」

 ユリカはかつてスターシアから聞いた、研究が停止する前のボソンジャンプ対策についてアキトに伝える。
 これに関してはイネスも承知しているのだが、時間が無かった事からアキトはレクチャーを受けていない可能性を考慮して、改めて自分の口から伝える事にしたのだ。
 案の定、アキトはそこまでの説明を受けていなかったようだ。

 「入力そのものを妨害する手段は、機械類へのジャミングで防いでたから研究されてないって。私達みたいなA級ジャンパー自体が相当なイレギュラーらしくて、少なくともイスカンダルでは前例がないってスターシアが言ってたし。肉体はジャンプに耐えられるけど、行き先の指定は専用の入力装置で行ってたって言ってたから、敵にA級ジャンパーの知識は無いと思って良い。研究も何世紀も前に終了してから再開している節が無いって聞いたから、多分ガミラスも対策は出来ないよ。火星の後継者の実験内容を回収してるとも思えないしね」

 ユリカは断言する。ガミラスはA級ジャンパーを知らない。そしてその妨害も出来ないと。しかし――

 「ジャミング圏内でのジャンプは、もしかするとかなり危険かもしれない。ジャンプアウトに影響する時空間の歪みが、ジャンプインの時にどう作用するのか、検証してる時間は無かったから……今の私だから言えるけど、本来ボソンジャンプと波動エネルギーはね、相性が最悪なの。波動エネルギーは超光速粒子のタキオンの塊で、光速を突破した物体は時間が遡るって聞いたことあるでしょ?」

 「いや無い。SFにそこまで詳しくないから」

 素直に答えたら黙ってしまった。勉強不足でごめんなさい。

 「ゴホンッ……ともかく、時間移動を利用しているボソンジャンプにとって、波動エネルギーが持つ時空間歪曲作用と、このタキオンの時間遡行作用が組み合わさると、位置座標も時間座標に盛大な誤差が生じる可能性が高いのよ。何しろボソンジャンプの実用化段階では波動エンジンも波動エネルギー理論も無かったからね――ダブルエックスがタキオン粒子砲を装備してるのに、何で発射する時しかタキオン粒子を生成しないのかって言うと、ボソンジャンプシステムに悪影響が出る可能性が否定出来ないからよ」

 なるほど、とアキトは頷く。確かに疑問だったが、それが理由だったのか。

 「勿論ヤマトも例外じゃない。というか波動エネルギーな分もっと質が悪い。一応炉心内部で生成してエネルギーに変換してる分には外部に影響しないように遮蔽されてるから、艦内でジャンプするのは大丈夫。艦自体がジャンプするのは影響受ける可能性が高いけど。ただ、今のヤマトは敵と同じジャミングシステムを搭載してるから、艦内でのジャンプはご法度だよ。時間がずれるだけならまだしも、位置座標が狂ったら最悪宇宙にポイだから」

 ユリカの言葉に、アカツキがダブルエックスをわざわざ残していた理由を知った。ボソンジャンプで乗り込もうとしたら、最悪そうなってた可能性があったのか。

 「じゃあ、冥王星基地内部からの脱出にボソンジャンプを使うのは、リスクが高いんだな?」

 「うん。でも、基地施設の動力源が波動エンジンかどうかによる。勿論、停泊中の軍艦から波動エネルギーを融通してもらって、ジャミングしてる可能性もあるけどね――だから、あまり頼らないで。慎重にね。アキトが居なくなったら私、私……」

 最後は泣きそうになりながら訴えるユリカの顔を思い出して、アキトは気を引き締める。
 絶対に死ねない。ユリカを遺しては!






 同時刻、シュルツはヤマトの動きを見て違和感を感じていた。

 「ガンツ。ヤマトの動きに違和感を感じんか?」

 「違和感、ですか?」

 ガンツは真意を掴めない、と言う顔で聞き返す。

 「う〜む。ヤマトはもしかして、わざと反射衛星砲を撃たせたのかもしれん。何らかの狙いがあるのか、それとも……」

 何ともむず痒い感覚が続く。
 仮にわざと撃たせたとして、ヤマトの現在位置からでは反射衛星砲を直接確認することは出来ない。
 衛星の反射にしても、ヤマトの探知装置を警戒して惑星の影を利用する形で屈曲している。それに、ヤマトから別動隊が出現したと言う情報も入っていない。
 先程の一撃を回避したのは頭上の反射板の動きを見てだろうが、そう何度も同じ手で回避される程、反射衛星砲は甘くない。

 「仕方ない。爆雷攻撃を続けろ。もう一度燻り出すのだ。そして、今度はヤマトの死角から反射衛星砲を叩き込んで、今度こそ決着をつける」

 あまり時間を掛けてはいられない。ヤマトが何らかの対策を講じる前に決定打を与えなければ。
 シュルツは焦り、少しずつではあるが判断力を低下させていた。
 そのため、現在のヤマトの動きには細心の注意を払っていたが、それ以前に放たれた別動隊がすでに基地内部に潜入していた事には、気づけないでいた。






 アキトと進は慎重に施設内部を進む。万が一にも発見されないように身を低くして物陰を辿りながら、監視カメラ等を警戒しつつ進む。
 アキトの持つ万能探知機は真田とウリバタケの渾身の作品で、アクティブセンサーとパッシブセンサー双方の機能を持ちながら、少々大型で厚めの携帯端末と変わらないサイズで運用出来る、地味にどうやって纏めたのか気になる逸品だ。
 アキトはそのセンサーを左手に持ち、センサーが捕らえるトラップやエネルギー反応を目安に進路を定め、角に遭遇する度に小型カメラで覗き込んで、それを探知機の画面に映してカメラや敵兵を警戒しながら進む。そして来た道を戻れるように、そっと印を残すのも忘れない。
 後に続く進も緊張に口の中を乾かせ、何度も唾液を飲み込みながらアキトの足を引っ張るまいと神経を張り巡らせながら周囲を警戒する。

 施設に侵入してすでに1時間が経過している。
 緑を基調に生物的な意匠を持つガミラスの施設内部は、アキトにとっても進にとってもどこか不気味さを感じる。
 驚く事に、大気組成も地球人の呼吸に適したもので、仮にヘルメットを取っても施設内なら問題無いだろう。
 この大気組成と施設の形や操作盤から、2人はガミラス人が間違いなく地球人型の宇宙人であると結論付けていた。
 一応小型カメラで撮影しておく。貴重な資料になる。
 最低限の人数で運用しているのか、施設内部は思いの外静かだ。
 見かけるようになった兵士達も、必死な様でどこか怯えた表情であちこちを駆けまわっている。推測通り、地球人と変わらない外見だ。
 ただ、肌の色が青い事を除いて。

 「――ヤマトが予想以上にしぶとくて浮足立ってるみたいだな」

 「ええ。つまり、まだヤマトは無事ってことですね」

 2人は顔を突き合わせて接触通信で会話する。電波を飛ばして傍受される危険性を下げるためだ。
 今はガミラスの正体が地球人型の異星人であることは詮索しない。下手に動揺して失敗したらヤマトが危ないのだ。
 慎重に慎重を重ねて、息の詰まる時間を過ごしながら2人は着々と施設の奥へと侵入していく。
 幾度か扉を潜った先で、2人は窓のある長い廊下に出た。慎重に廊下に出た2人は窓の外の景色を確認する。

 「なるほど、やっぱり水中に施設があったか」

 アキトはようやく全容が掴めたと、満足げに頷く。

 「これほどの規模、あそこでサテライトキャノンを撃たなくて正解だった」

 進も呆然とした表情でアキトの判断の正しさに改めて尊敬の念を抱く。
 眼下に広がる基地施設は、幾つもの対水圧ドームに覆われながら連なった、大規模なものだ。
 サテライトキャノンで十分致命的なダメージを与えられる規模だが、水上から闇雲に撃っても効果は薄いだろうと、アキトは分析する。
 それに、ドームと案外透明度の低い水が邪魔になって細かい形がわからない。これではどこが基地の中枢なのかはっきりしない。やるなら確実に中枢を破壊したい。
 ――この規模と深度なら、サテライトキャノンは通用するはずだ。ただ実戦経験の無い兵器だから、もう少し何かしらの“保険”が欲しい。
 何か無いだろうか。

 「アキトさん、あの海底に走っているパイプは何でしょうか?」

 進に促されて視線を向けると、透明なパイプかチューブと形容出来る何かが一点に向かって走っている。その先を確認すべく、カメラを構えてズームアップしてみる。
 そこまで望遠出来るわけではないが、肉眼よりはマシだ。

 「これは……もしかして、あのチューリップみたいなのがあの大砲なのか?」

 カメラにぼんやりと映るのはチューリップの様な細長い物体で、海底に透明なドームに包まれる形で保護されている。

 「とすれば、この海底を走っているパイプは、エネルギーラインの可能性が高いですね――アキトさん、俺今良い事を思いつきましたよ」

 「奇遇だな進君。俺も良い事を思いついたばかりだよ」

 2人は顔を見合わせてニヤリと笑う。

 「サテライトキャノンと大砲の発射を合わせて誘爆も含めて基地を葬り去る!」

 全く同じ内容を同時に口にしてさらに笑みを深くする。やることは決まった。

 「よし、やることが決まった。もう少し基地を探索して、保険を仕掛けておこう。その後は脱出してヤマトに連絡、あの大砲を誘って貰えばばっちりだ」

 「はい!」

 「やるぞ。今日が冥王星基地の最終回だ」






 反射衛星砲を撃たせてから2時間、ヤマトへの爆雷攻撃は続いていた。流石に在庫が乏しくなってきたのか、幾分散発的にはなっていたが、止まることは無い。
 破損個所付近に命中した爆雷のダメージは、確実にヤマトの内部機構を破壊し浸水による被害を広げている。
 このままではいずれ致命傷に繋がりかねないと、クルー達の危機感が煽られる。

 「む〜。流石に被害もシャレになら無くなって来たなぁ――アキトと進君がここまでてこずってる当たり、相当規模が大きいか、効果的にサテライトキャノンを撃ち込める場所の選定に手間取ってるのかな?」

 アキト達が失敗したとは露とも考えないユリカは、すっかり気が抜けているのか、欠伸を1つしてからぐっと体を伸ばして「待つしかないか」とだらけきっている。
 気を抜き過ぎだと誰しもが思ったが、咎めても無駄だろうと無視する。
 それに、最高責任者が力を抜いているので各班のチーフ達も過度に部下達を締め付けるわけにはいかず、ピンチが継続中にも関わらず艦内の空気は思いの外重くなかった。

 「艦長。このままで大丈夫ですかね?」

 大介は不安げな顔で操縦桿を握っている。かれこれ4時間はこうして潜ったままだ。

 「他に手段無いしね――ラピスちゃん、各エネルギーラインの方はどうなってる?」

 「浸水個所は手が付けられていないので、進展はあまりありません。この爆雷の中では、水中で作業させるわけにもいきませんし」

 ラピスは悔しそうだ。爆雷の雨の中、迂闊に船外作業をさせれば爆圧で作業員が死ぬ。小バッタとてバラバラだ。
 かと言って内部の補修が完了しても、水中にあるラインを修復しなければ、ヤマトの機能が完全に回復する事は無い。

 「だよねぇ〜。真田さんも似たような感じですか?」

 「はい。申し訳ありません艦長。やはり、この攻撃の中では修理作業を進めることは出来ません」

 第一艦橋に戻って来ていた真田も、苦虫を噛み潰したような顔で報告する。出来るだけの処置はしているが、破損個所を直接触れない限り、根本的な解決が出来るはずもない。
 「自己再生とか出来ない?」と心の中でヤマトに問いかけてみるが、「出来たら苦労しません!」と反論されたイメージが浮かぶ。
 ですよね〜。

 「じゃ、とりあえず待機で。医療科はどうなってるのかな?」

 「軽症者の手当は終わったそうよ。でも、重傷者の手術はまだ継続中。医務室からも医療室からも、爆雷をどうにかしろって苦情が来てるわ」

 通信席で艦内通話を色々と聞いているエリナが、医務室と医療室からの苦情を繋げる。確かに重病人の治療をするのに、手元を狂わす振動はノーサンキューだ。

 「どうにかしろって言われてもねぇ〜」

 と頭の後ろで手を組んだユリカが悩んでいる時、待ち望んでいた一報が飛び込んで来た。

 「――流石だよ2人とも……これでこの戦いはフィナーレ、私達の勝ちだ」

 先程までの無邪気さが消えた冷たい声に、艦橋の全員が思わず姿勢を正す。
 そしてようやく気が付いた。
 のほほんとしているようでこの状況に苛立っていたのは彼女も同じ。そして冥王星前線基地に対して、一切の慈悲を持っていなかったという事を。






 アキト達は基地の中を必死に逃げていた。

 あの後さらに基地の奥に足を踏み込んだアキト達は、基地の動力施設と思われる場所に到達した。ここを見逃す手は無いと、持ち込んでいたH-4爆弾セットする――これは囮だ。
 わざと見つからなそうで見つかりそうな場所にセットする。こちらの本当の狙いを悟られないようにするためにも必要な事だ。
 無論、ここで爆弾が起爆してくれた方がありがたいのでそれも狙って設置はする。
 本当はあの大砲に設置したかったが、距離があるし何よりガードが堅い。2名だけではどうしようもないとすっぱり諦めた。
 何とか爆弾を設置してダブルエックスの所まで戻ろうとしたところで、とうとう敵兵に発見された。2人は発見した敵兵を素早く射殺して、持っていた携帯端末をちゃっかり拝借しつつ、脱兎の如く駆けだした。こうなったら時間が大事だと、速やかに来た道を駆けだす。

 予めセットして置いた印を頼りに全速力で駆けて行く。追いかけてくる敵兵にはショットガンアタッチメントを付けたコスモガンで威嚇する。
 ショットガンアタッチメントは、コスモガンのレーザーを増幅して銃口のプリズムで拡散し、円錐状の範囲に撃ち出すオプションだ。一射毎に銃口のプリズムが回転することで散弾のパターンは発射毎に変わるようになっている。
 そのレーザーの散弾を適度にばら撒きながらアキトと進は基地内部を駆けて行く。

 アキトは腰に下げていたコスモ手榴弾を1つ掴むと、角を曲がる時にグリップの底にある安全装置を壁に叩き付けて解除し、後方に放り投げる。
 起爆。爆音に交じってガミラス兵士の悲鳴が聞こえる。何とか足止めで来たらしい。
 アキトがコスモ手榴弾を使い切ると、今度は進がそれにならって要所要所で手榴弾を使い、何とか半分ほど戻った所で挟まれた。
 前後から飛び交う銃撃を物陰に隠れてやり過ごすが、このままではやられるだけだ。

 「仕方ない。駄目元でジャンプしてみる」

 「だ、大丈夫なんですか? 艦長が――」

 「聞いてるけど他に手段が無い。一か八かだ!」

 アキトは進の肩を掴んで身を寄せると、CCを取り出してダブルエックスの足元をイメージする。

 (頼む、跳べてくれ!)

 アキトは神に祈る気持ちでボソンジャンプを決行する。失敗するかと思われたボソンジャンプは、成功した。
 どうやら懸念していた座標の乱れは回避出来た様だ。
 ジャミングが弱かったのか、それともA級ジャンパーのイメージがジャミングよりも強いのかは不明だが。
 しかし、どちらにせよツイているのは確か。
 邪魔になる胴体のプロテクターだけはその場で脱ぎ捨てて、すぐさま眼前のダブルエックスに乗り込んでこの場を離れる。
 幸いなことに、ダブルエックスは発見されていなかったらしく、アキト達は安全にその場を離れる事が出来た。後は、

 「よし、ヤマトに連絡だ。あの大砲を撃ってもらうぞ!」

 アキトはすぐに積み込んでいたボソンジャンプ通信機を起動してヤマトにメッセージを送る。

 『冥王星基地に対してサテライトキャノンを使う。誘爆を狙うため敵の大砲を撃たせてほしい』

 と。






 「何? 基地内部に侵入者だと!?」

 ヤマトに対して神経を集中していた司令部は軽いパニックを起こしかけた。一体いつの間に別動隊を出撃させていたというのだろうか。
 いや、最初から別動隊を出していたのだろう。とは言え、それらしい機影をヤマトが放った痕跡は見つかっていない。
 いや、1度だけあった。ヤマトが艦載機を放出した、戦闘開始直前だけならその隙がある。
 まさか、貴重な航空戦力を割いてまで別動隊を出したのだろうか。

 しかし、ヤマトの艦載機の総数は最初の威力偵察で空母航空部隊とやり合った数とほぼ一致している。
 ヤマトのサイズと今までに判明している装備から推測される格納庫容積を考えても、恐らく搭載総数に近い数が出撃したはず。
 別動隊と言っても、艦載機1〜2機程度の戦力と言うには心許ない数しか出せなかったはずだ。

 「はっ! 数は2名、ボソンジャンプを使用して逃走した模様です」

 部下の報告にシュルツは顔しかめる。

 (一体どうやって潜入した。ヤマトから艦載機の発進の兆候は無かった。まさか最初から別動隊が? だとしても2名では少な過ぎる。しかし、弱いとはいえジャミング下でボソンジャンプを成功させるとは……余程強力な入力装置を持っているのか? 時間歪曲すら補正する程の?)

 何とか自体を把握しようと思考を巡らせるが情報が少な過ぎて答えに辿り着けない。
 ともかく確認せねばならないことは他にもある。

 「何か仕掛けられたか捜索したか?」

 「はっ! 侵入者を発見した反射衛星砲の機関部の一角から、時限爆弾らしいものを発見。現在処理班が向かっております」

 部下の報告にとりあえずは一安心。別動隊を使って侵入したようだが、人数を絞り過ぎた挙句、爆弾の設置も洗練されていなかったようだ。
 ここまで別動隊を気付かせずに行動した割には、杜撰な結末だ。
 そもそもたった2名で攻略出来るほど、冥王星前線基地は無防備ではない。
 気付かれずに別動隊を出したことは褒めてやるが、見込みが甘い。

 「そうか、先程のヤマトの行動はこれが狙いか」

 シュルツは得心が言ったと唸る。
 わざと反射衛星砲を撃たせて、恐らくは地上に露出している排気塔を頼りに侵入したに違いない。

 「シュルツ司令、排気塔付近にヤマトの所属と思われる艦載機の反応を発見しました!」

 ガンツの報告にモニターを向くと、そこには戦闘機と人型が垂直に交わったようなアンバランスな機体が空を飛んでいる。
 見慣れ無い機体だ。
 確か、ヤマトが最初のワープをした時にボソンジャンプで出現して傷ついた駆逐艦1隻を屠った機体が、あのような形をしていたと思うが、それ以外に交戦記録も無いし、その時も他に比べれば強力なビーム兵器を所有していた以外は目立った動きをしていない。
 れ以上にヤマトの性能が驚異的過ぎて完全に失念していた機体だ。
 そう言えば、先の艦隊戦では姿を見かけなかった気がする。

 それにしても、まさか艦載機1機程度の別動隊を用意し、破壊工作を仕掛けてくるとは思わなかった。無謀を通り越して馬鹿だと断じる。
 たった2名、それも戦闘機に搭載出来る程度の装備で基地を破壊出来ると本気で考えていたのだろうか。

 「!? 司令、ヤマトが浮上しました! 海面を飛び出してこちらに飛んできます!」

 重なる報告にシュルツは一瞬迷ったが、すぐに「よし! 反射衛星砲でヤマトを狙え! あの艦載機は戦闘機に任せろ!」とヤマトを優先して叩くことを決める。
 所詮は艦載機、母艦さえ沈めてしまえば袋の鼠だ。
 同時に残された艦隊戦力も使って徹底的に叩く事を決意し、自らも乗艦してヤマトと雌雄を決する準備を進める。



 結果から言えば、シュルツは見事ヤマトの狙いに乗せられたことになる。
 だが、ガミラスの戦略兵器は惑星間弾道ミサイルとでも言うべき超大型ミサイルや遊星爆弾といった物が主流であり、艦載機の運用もしているが基本戦術が大艦巨砲主義で軍艦が主戦力。
 これは恒星間に及ぶ広大な空間を移動出来て十分な戦力を得られるのが艦艇のみという、ガミラス以外も含めた恒星間戦争の事情によるところが大きい。
 そのため地球の様にあくまで惑星間、それも極めて狭い範囲における防空・攻撃を目的とした艦載機を主軸にした戦闘自体が、ガミラスからすれば時代遅れの戦術に過ぎない。
 よって、ガミラスは人型機動兵器の存在に驚き、その威力をある程度評価しながらも「所詮は恒星間戦争に適さない人形遊び」と意に介していなかった。
 なので、まさか全高8mにも満たない艦載機が恒星間戦争に対応可能なスペックを有し、それどころか地上の基地施設を1発で消滅させることの出来る大砲を備えているなど、考えもしなかったのだ。






 その頃ヤマトはアキト達の要望に応じる形で海面から飛び出し、翼を開いて緩やかに飛んでいた。

 「艦長。反射板が開きました。敵の砲撃体勢が整ったようです」

 緊張の滲んだルリの声が、第一艦橋に届く。

 「さて、お膳立てはしたからね。頼んだよ、アキト、進」

 ユリカは静かな面持ちで離れた所にいる夫と息子(?)に全てを託す。



 そして、ヤマトの右前方約100qの地点で巨大な爆発が起こった。
 全員が緊張を顔に張り付けてマスターパネルを見詰める中、ユリカだけは窓の外、その視線の先に居るであろうダブルエックスに優しい眼差しを送っていた。

 「よくやったね、進。ありがとう、アキト」






 「シュルツ司令、例の艦載機が反射衛星砲の上空で停止しました」

 部下の報告に戦艦に乗艦していたシュルツはすぐに応じる。

 「構うな! 射線上で停止してくれるのならむしろ有難い。ヤマト諸共葬ってやれ! 反射衛星砲発射用意!」






 進とアキトはすぐに大砲のある海上にダブルエックスを停止させる。
 ここからサテライトキャノンで水中の標的を狙撃する。自分達に出来る正真正銘最後の攻撃だ。

 進は一度唾液を飲み込んでから右操縦桿の赤いスライドスイッチを左に押し込む。スイッチが入ると、操縦桿前方と上のカバーが開いて、専用の管制モニターが出現する。
 同時にダブルエックスも姿を変える。
 砲身は伸びたまま前方に倒れこみ、肩から出現したマウント兼スコープユニットにがっちりと挟まれて固定される。
 Gファルコンの拡散グラビティブラストの砲門が一度上を向き、背中のリフレクターユニットが起き上がって展開、6枚3対の羽のようなシルエットを構成する。その形はまるで横向きのWの様。
 リフレクターユニットが展開されると、上がっていた拡散グラビティブラストの砲身も下がって正面に向き直る。
 手足に装備されている紺色のカバーが展開、中からそれぞれ2枚ずつの放熱フィンが出現する。

 この姿が、ダブルエックスのサテライトキャノン発射形態。言うなればダブルエックスの真の姿と言うべきものだ。

 変形が完了するとGファルコンのコンテナユニットの下部から突き出たエネルギーパックからの供給が始まる。
 同時にリフレクターユニットの内側の面が金色に輝く。
 膨大なエネルギーをタキオン粒子に変換し、砲に供給すると同時にタキオンフィールドを形成、外部からタキオンバースト流の制御を行うシステム。
 変換しきれなかった余剰エネルギーと機体の発熱を、手足の冷却フィン――エネルギーラジエータープレートが効率的に排出することで、ダブルエックスはその身に蓄えられる膨大なエネルギーに負けることなく粛々と発射準備を進める事が出来る。
 右の操縦桿の管制モニターに表示されたX字のエネルギーメーターが最大値を示し、青く発光する。

 「エネルギー充填120%。最終安全装置解除!」

 進の操作で砲身内部のストライカーボルトと遊底を固定していたロックが外れる。発射機構は旧ヤマトの波動砲を模したものだ。
 眼前のターゲットスコープは、海中にある大砲を正確に捉えているはずだ。
 ビーム発射時の観測データと基地内部で得た情報を基に、かなり正確な位置を割り出す事が出来た。
 右操縦桿の後方に突き出ているアナログスティックを使って微調整、これで決める!

 「サテライトキャノン、発射ぁっ!!」

 進は右操縦桿のトリガーを引き絞る。

 わずかな間をおいて、轟音と共に両肩の砲身から強力なタキオンバースト流が放出される。それはタキオンフィールドの作用もあって砲口から放たれた直後、絡み合うように1軸に合成され強力なビームへと変貌する。
 回転しながら直径200mにはなろうかと言う青白いビームはそのまま凍てついた海面に突き刺さる。その膨大な熱量で瞬時に海面が蒸発、殆ど減衰することなく海底の反射衛星砲に突き刺さって瞬時に消滅させた。

 そして、大爆発が起こる。






 「な、何事だ!?」

 突然の衝撃についにシュルツはパニックを起こした。
 彼にとって不幸だったのか、それとも幸福だったのか。
 サテライトキャノンは海底に到達するまで十分な威力を保つことに成功した。そしてその膨大な熱量と衝撃によって基地周辺の水をも瞬時に蒸発させ基地全体に致命的なダメージを与えていた。
 エネルギーラインを逆流するエネルギーも利用して基地全体に誘爆させるという、アキト達の思惑を超えてほぼ自力で基地を吹き飛ばす威力を見せつけたのだ。
 しかし、反射衛星砲の制御室を離れ、ドック施設の戦艦に移乗していたシュルツは、膨大な水と頑丈なドックのおかげで基地諸共消滅することを免れた。

 「シュルツ司令! 例の艦載機の砲撃です! 基地が一撃で壊滅的な打撃を受けてしまいました! 誘爆も続いていてドックも何時まで持つかわかりません! 逃げないと危険です!!」

 ガンツもパニックに陥りながらも状況を報告し、退避を促す。

 「ば、馬鹿な。艦載機に……8mにも満たないあんな人形に……これほどの火力を持たせるなんて……!」

 地球人は阿呆か。シュルツは心の中で叫ぶ。物騒なんてものじゃない。
 ある意味ではヤマトのタキオン波動収束砲よりも危険ではないか。
 シュルツはここで死する気はない。何としても逃げ延びてヤマトの脅威を伝えなければ。ヤマトは艦載戦力にすら戦略兵器を持たせていると、何としても知らせなければならない。
 シュルツは屈辱を噛みしめながらガンツに促されてヤマトとの交戦を諦め、艦隊毎退避することを決定する。
 反射衛星砲も無しにヤマトと直接対峙することは危険であるし、あの艦載機の大砲についても詳細がまるで分らない――このままでは戦えない。
 想定外の事態の連続で慎重になり過ぎていたシュルツは勝機を逃した。
 現在のヤマトの状態では冥王星の残存艦隊を相手取るのは難しく、またダブルエックスも戦闘能力を失っている――千載一遇のチャンスだったのだが、常識外れのヤマトとダブルエックスの威力に恐れを抱いたシュルツは、絶好の機会を逃してしまったのだ。







 進は眼下の光景が信じられなかった。

 サテライトキャノンの一撃は、予想以上の威力を持って進達の期待に応えて見せた。
 サテライトキャノンが起こした水蒸気爆発の衝撃波で上空に吹き飛ばされたGファルコンDXであったが、持ち前の頑丈さで殆ど傷らしい傷を負わずに持ちこたえ、アキトがGファルコン側から懸命にコントロールしたおかげで墜落も免れた。
 眼前では基地から脱出したと思われる艦隊と、ヤマトに蹴散らされた部隊の残存戦力が合流して一目散に冥王星を去っていく。
 どうやらヤマトやダブルエックスに攻撃する気持ちが萎えてしまったようだ。

 エネルギーを使い果たして浮いているのがやっとなので、この場では有難い。

 進は、自らの手で招いた惨状に言葉を失っていた。
 波動砲の時も感じたこの感覚。
 そうだ、これは後悔と……畏怖だ。

 確かにガミラスは憎い。木星やコロニー等の宇宙移民の国を滅ぼし、地球を荒廃させ、兄を殺し、そして新たな母と言うべきユリカを死に追いやろうとしている。

 憎くないはずがない。だが、だとしてもこれは、やりすぎではないか。
 進の胸に去来する大量破壊兵器への恐怖。そしてその引き金を引く自分自身への嫌悪。それの原動力となりえる憎しみの感情。
 それらが進の胸をかき乱し、痛みを発する。

 「――やったな、進君。これで冥王星基地は終わりだ。君の復讐も、終わったんだ」

 優しげな声でアキトに言われて、進はようやく現実に返ってきた。

 「はい……これで、俺の復讐は終わりました。いえ、終わらせます!」

 進は最初は力無く答え、最後は力を込めて断言した。

 2度と憎しみの感情で、波動砲もサテライトキャノンの引き金も引かない。
 引くとすれば、それはそうしなければ生き残れない状況下での最後の手段とする。
 例えその結果、多くの命を散らすことになったとしても、その現実から逃げずに受け止める。
 進は自然とその回答に、ユリカから示された答えに行き着いた。

 「ありがとうございます、アキトさん。おかげで俺、気持ちの整理がつきました」

 「そっか。良かった」

 アキトは嬉しそうだった。
 その表情には凄まじい威力を見せつけたサテライトキャノンへの恐怖が伺えるが、それ以上に進の成長を見届けられたことの方が大事の様だ。
 進はそんなアキトの様子に、自分が支えられているんだと実感する。
 だから自然と、言葉が発せられていた。

 「俺、ユリカさんの事、母親みたいに思ってます」

 「ん?」とアキトは唐突に切り出された話題に首を捻る。

 「不思議な気分です。歳だってそう離れてないのに、姉じゃなくて母なんですよ。普段の態度や言動は姉の方がぴったりのはずなのに――そうなると、アキトさんもユリカさんの夫だから……兄じゃなくて父、になるんですかね」

 照れ臭そうに心情を告げる進にアキトは赤面する。
 まさかの展開だ。
 ユリカがお母さんぶっていると聞かされた時からこういう展開は予想していたが、まさか本人から切り出されるとは……。

 「何か、大分ユリカに毒されたみたいだな」

 アキトはそうとしか言えなかった。

 「否定はしません――だから、これだけは言わせて下さい。貴方が復讐のために戦って、それを乗り越えた経験があって――同じ道に進みかけた俺を諭してくれたから。ユリカさんがそれを見守って、俺の心を癒してくれたから――俺はもう、復讐に生きる事が無い。どんな形であれ、俺は貴方達夫婦のおかげで救われたんだと思います」

 それは心からの感謝だった。
 もしもユリカに出会わなければ、アキトに出会わなければ。
 自分はガミラスを憎み続け、波動砲やサテライトキャノンと言った大量破壊兵器の使用に一切躊躇無い悪魔になっていたかもしれない――そう、憎んでるはずのガミラスの同類になったかもしれないのだ。

 「そう言って貰えると、俺も救われた気分だよ。どんな言い訳をしても、俺の罪は消えない。俺が無関係な人の命を、幸せを奪った事実は消せない――でも、そんな俺でも誰かの為になれたって言うんなら、嬉しいな」

 アキトは痛々しい笑みを浮かべて進に答える。自分のした事の重大さは自分が一番良く知っている。だから、

 「俺さ、取り返しのつかない事をしたって自覚はある。だから帰れなかった……俺は、もう昔の俺じゃない、あいつの王子様じゃないんだって、自分で決めつけてた。あいつの気持ちを無視してた――結婚する時にわかってたはずなのに。あいつの幸せを決めるのはあいつ自身だから、あいつを信じて一緒になろうって。なのに俺は、ユリカを捨てようと……」

 頬を涙が流れる。
 あの状況で戦わないという選択肢は無かった。
 ネルガルに全てを任せて、ユリカが帰ってくるのを待つなんて出来ない。

 自分の手で取り戻したかった。
 護れなかったから、本当に大切な人だから。
 大切な人が、あんな連中に蹂躙されている現実に我慢ならなかった。

 その結果、罪を重ねた挙句自分勝手に放り出そうとするなんて、ユリカにとって酷な仕打ちだと言う自覚はあった。
 だがアキト自身の気持ちの整理がつかなかった。
 だからヤマトでユリカが旅立つに至るまで戻れなかったのだ。

 「それを責める事は……恐らく誰でも出来るし、誰にも出来ないと、俺は思います」

 進はそんなアキトに思った事を投げかける。

 「確かに罪は罪、償いが必要だと思います。でも、貴方達が置かれた境遇と、あいつらの――火星の後継者の悪辣さを考えると、一方的に責めるわけにはいかないって思えるんです。貴方は、確かに罪を重ねたかもしれない。でも、人の心を捨て去ったわけではない、だから償いの機会を与えられるべきだって、そう思うんです――それに、愛する人に変貌した自分を見せたくない、失望させたくないって気持ちは、今の俺にはわかります」

 アキトは進の告白を黙って聞く。
 かつての自分と同じ道を進みかけ、踏み止まる事に成功した彼の言葉を。

 「俺は、ユリカさんを失望させたくない。尊敬してるから、心の底から尊敬してるから。だから、俺を導いてくれている彼女を裏切るようなことはしたくないって、彼女が自慢出来る俺でありたいって思うから――だから、俺はアキトさんの行動を非難出来ません。そんな資格も無い。でも、俺はアキトさんと出会えた事を嬉しく思うし、貴方に助けて貰ったと信じて疑わない――だから、ヤマトの旅の成功を持って罪滅ぼしにしましょう。そうしてユリカさんと……お母さんと幸せになるんです」

 それは進の本音。
 最初の出会いは決して良くなかった。
 でも、ユリカが居たから今の自分があると、進は疑わない。
 だからこそ、アキトの気持ちがわかる気がする。

 「ありがとう。理解者がいるって、良いもんだな」

 「……ええ。本当に……理解者がいるって、素晴らしいです」

 涙ぐんだ声で頷き合う2人。
 それ以上の会話は、もう必要なかった。

 「帰ろう、ヤマトに。俺達の、ユリカの所に」

 「帰りましょう。そして地球も……お母さんも、必ず救って見せます!」

 2人の想いを乗せて、GファルコンDXは冥王星の空を飛ぶ。

 その先に待つのは、人類最後の砦であり、ユリカが命を懸けて蘇らせた――宇宙戦艦ヤマト。

 2人にとって大事なユリカの艦――そして、地球と人類と、彼ら家族の未来を乗せる艦が待っているのだ。







 冥王星基地が陥落して少し時間の過ぎた頃、ガミラス本星では。
 巨大な姿見の前で身嗜みを整えていたデスラーは、鏡に映りこんだヒスの姿を認める。焦っているようだ。

 「デスラー総統……冥王星前線基地が、全滅しました……」

 力無く報告するヒスにデスラーは冷たい笑みを浮かべて聞き返す。

 「全滅、だと?」

 その様子にヒスは身を固くして続ける。

 「はっ、シュルツ司令とガンツ副指令は、辛うじて艦隊と共に脱出したようですが……」

 「脱出?」

 デスラーの冷たい声にヒスは当事者でないにも関わらず萎縮する。

 「戦闘を放棄したのか? 以ての外だ。ガミラス星への帰還は許さん――戦って死ねと……いや、ヤマトを屠る事が出来たのなら、帰還を許すと伝えろ」

 デスラーの冷酷な言葉にただただ萎縮するヒスだが、内心ではそれも仕方の無い事だろうと思う。
 冥王星前線基地には追加の艦隊を派遣し支援していたのだ。実験兵器とは言え反射衛星砲すらあるのに、戦艦1隻にシュルツは敗北して、おめおめと生き恥を晒している。
 この大失態に見合う償いは、死しかないだろう。
 それだけに、最後の温情とでも言うべき言葉には酷く驚いた。だが、そうでもして発破をかける必要があると言う事なのか。
 確かに、今はガミラスにも余裕が無いが……。

 一方でデスラーは表面上は落ち着いていたが、内心では憤っていた。
 戦力を増強してやったのに敗北したシュルツらに対する怒りもそうだが、新たなガミラス星として目星をつけた唯一の星の思わぬ反撃に対しても、焦りを感じている。

 (住む場所の違い程度で互いを滅ぼし合うような野蛮人如きが調子に乗りおって……! 宇宙戦艦ヤマト……その名前、忘れんぞ。必ずや葬り去り地球を手に入れて見せる。それこそが、我がガミラスの生き延びる道なのだ)

 デスラーは傍らにある端末に表示される映像を見て忌々し気に唇を歪める。
 モニターには赤いガスの渦が、悠然と宇宙を突き進む姿が映し出されている。
 それは、進路上にある星々を飲み込みながら、一路ガミラス星を目指して進んでいる。

 その渦は、ガミラスで“カスケードブラックホール”と名付けられた、世にも奇妙な移動性ブラックホールであった。






 女王スターシアはイスカンダルの首都、マザータウンと呼ばれる都市の中心にあるタワーの屋上から夜空を眺めていた。

 その視線の先には双子星であるガミラス星が映っている。
 隣人達の暴挙にはかねてから憤りを感じていたが、今回の謀略には殊更憤っていた。
 しかし、それでも隣星の隣人であり、生きたいと願う気持ちは理解出来ないでもない。
 それで彼らの暴虐が許されるわけでもないが……。

 「ユリカ。貴方は今頃、宇宙戦艦ヤマトと共に、このイスカンダルを目指した長き旅路についているのでしょうか?」

 スターシアは遥か彼方から救いを求めに意識を飛ばしてきた、地球の女性を想う。

 今はもう、接触する事も叶わぬ女性を。

 最初は彼女の要望に対してスターシアは難色を示した。ガミラスがどのように地球を侵略するのかは大凡予想が付いていた。
 それに対して、イスカンダルに遺された技術なら、確かに地球はガミラスに対抗出来るようになるだろうし、救うことも出来なくはない。
 だが、それが新たな争いの火種になることを懸念した。

 提供しなければならない技術の中には、超兵器であるタキオン波動収束砲が含まれている。
 そして、スターシアにとってそれ以上に許せない手段も取る必要がある。だから応じたいという気持ちを抱きながらも、イスカンダルの女王として難色を示さざるを得なかった。

 果たしてそれらの技術を渡して、かの星がガミラスと同じ道を歩んでしまわないかと。

 だからスターシアは問うた。

 ――強過ぎる力は、使い方を間違えれば他人だけでなく自分自身をも傷つけます――貴方達は大丈夫ですか?

 と。
 それに対するユリカの答えは簡潔だった。

 ――勿論です!

 その答えを受けてスターシアは決断した。地球を――ユリカと言う女性を信じて支援すると。
 それから数回、彼女の意識と何度も話をして、イスカンダルに伝わる技術を幾つも提供した。彼女の記憶力の高さと、ボソンジャンプを使ったデータ送信を駆使して。
 波動エンジンと波動砲だけは、送られてきたヤマトの仕様と今後に合わせ、こちらのマザーコンピューターを使った改設計が必要だった。
 だから、彼女の体が限界を迎える前に伝える事が出来ず、サーシアを使者として派遣し、合流出来る様にと日程を調整するのが精一杯だった。

 サーシアは、無事なのだろうか。
 ガミラスの動きから察するに、恐らくヤマトは発った。
 ユリカを乗せて。

 「初めて貴方と話した時は断ろうと思いましたが……今はただ、貴方方がイスカンダルを訪れる事を望んでいます――このイスカンダルが失われる前に」

 傍らにある端末のモニターには、デスラーの端末に映っていたのと同じカスケードブラックホールの姿が映し出されている。
 この脅威を払拭する手段は、ガミラスどころか今のイスカンダルにも――無い。
 かつてのイスカンダルなら恐らく対処出来ただろう。

 しかし、今は無理だ。

 だからこそ、最悪の事態が訪れる前にヤマトはイスカンダルに辿り着かねばならない。

 「ユリカ。私は忘れません。貴方のその一途で強い愛を。だからこそ、信じてみようと思ったのです」

 瞳を閉じるスターシアの脳裏にあの時のユリカの言葉が思い起こされる。

 ――大丈夫です! どんな苦難が待ち受けていたとしても、私は絶対にそれを乗り越えて見せます! 愛するアキトの為に! ヤマトとなら、それが出来ます!

 技術提供は勿論の事、地球の技術力では往復33万6000光年の旅は無理だろうと諭すスターシアに返した言葉だ。

 あのような強い感情は、ある意味ではスターシアが縁遠くなって久しいものだった。
 今度はちゃんと生身で顔を合わせて話してみたい。
 スターシアは視線を遥か彼方の宇宙に向ける。
 その先に、ユリカが乗る宇宙戦艦ヤマトがあることを信じて。

 スターシアはタワーの最下層にある格納庫に足を踏み入れる。
 その中にあるのだ。
 ユリカの意思を受け止めこの遠距離通信を可能としてしまった、封印された技術の塊が。
 それはボソンジャンプシステムを有した機動兵器。
 そして、精神感応システム――フラッシュシステムを搭載している。
 この2つが揃ったこの機体が封印されていたことが、遥か16万8000光年もの距離を繋いでユリカとイスカンダルを結んだ奇跡を生み出したのだ。

 本来破棄しなければならないはずのこの機体を、何故先人達が保存していたのかはわからない。
 しかし、その判断が今、地球を救う架け橋なった。

 「ガンダム……先人達が生み出した最強の機動兵器の雛型。貴方は、何を思っているのですか?」

 装甲や動力の全てを抜き取られ、フレームのみの状態でベッドに固定された“人型機動兵器”は、静かにスターシアを見下ろしていた。






 地球を始め、太陽系の人類居住区を制覇していたガミラスの前線基地は消えた。

 それはヤマトの前途に明るいものを感じさせはしたが、ガミラスの陰謀は深い。

 急げヤマトよイスカンダルへ!

 地球の人々は君の帰りを待っている。

 人類絶滅まで、

 あと356日。



 第八話 完

 次回 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

    第一章 遥かなる星へ

    第九話 回転防御? アステロイド・リング!



    戦え、愛する者の為に



 あとがき

 第八話終了。な、難産だった……。今回ほぼ全編戦闘パートで、合間合間にユリカに頑張ってギャグを挟んでもらわないとシリアスオンリー回だった。

 これ書いてる時は5月くらいだったけど、投稿の為の推敲とかは7月も末だから、あっちぃ〜……。
 頭のぼせそう。ミニ四駆、手が付かないよ、レースに参加出来ないよ……。

 それ以前に今年はジャパンカップ当選出来るのか!? 6月分は天気悪そうだったから行かなかったんだよ!

 ついでに予てから欲しかったので、寿のスーパーエステとアルストロメリアを中古で買っちゃたぜ♪
 でも、本当はTV版の新作も欲しいよ……。20周年とかやるんなら、映像作品とかの新作が無理でも、立体化されたこと無い月面Fとかの立体化も欲しいぜ。
 あ、YナデシコとCは予定されてますか? もう劇場版アフターはスパロボで我慢しますから、そちらを何卒お願いします。資料が乏しくてフルスクラッチは面倒くさいのです(懇願)。

 とにかくダブルエックスを殺すことなく、原作で好きな要素を全部ぶち込もうとしたらとにかく面倒なことに。多分お話し的には矛盾とかが目立つと思う。
 結局原作にゲーム版に2199と全部の要素が混じったからなぁ……。
 本当はダブルエックスと防衛機の戦闘も考えていた物の、話の流れを重視してオミット。
 そんで、白兵戦を少しでも盛り込みたいが為に慎重を重ねる、と言う名目で最初に施設潜入を経ています。
 ダブルエックス自体が実戦投入して間が無い機体なので、慎重に行動したり威力をやや過小評価するのはそれほど不自然ではないと思いますけど……。うーん。

 そしてヤマトの空気は相変わらずよ。やっぱりユリカ主体に書くとナデシコっぽくなって良いね。

 で、今まで書けなかった島とユリカの絡みもここで書きます。島はユリカに感化されつつも古代以上に内心不安を抱えている真面目君です。
 アキトが5話で心配していたように、ヤマトの精神的な柱であるユリカが不安定であることを隣で見せつけられて、万が一があったらどうしようと悩みまくってます。今後の壁ですね。

 で、ヤマトがある意味原作以上に化け物であることを強調している話になりましたとさ(まる)
 まあこのヤマト復活篇版だしね。
 原作では終始余裕たっぷりで、ヤマトが死んだふりをしてたのが分かった時(デスラーに勝利の報告をしてしまって焦った時)や、反射衛星砲を爆破されるまで優位に立っていたはずの冥王星基地がヤマト相手に恐れ戦く事に――どうしてこうなった。

 でもまあ、必殺兵器を3発(原作では4発)も食らって沈まないどころかまだ元気。
 120隻にも及ぶ艦艇で袋叩きにして、40発の超大型ミサイルを撃ち込んでも凌ぎ切ったんだから、恐れて当然っちゃ当然だけども――いやホントにヤマトが化け物だよこれ。

 設定上「ヤマトナデシコ」のものよりもかなり弱体化してるんだけどね。あっちだと出力が完結編ヤマトの8倍相当で、装甲もフィールドも本作よりも頑丈になってるからねぇ。

 んで、アキトと古代の絡みも。かつて復讐に走った者と、今まさに復讐を成さんとする者。
 これ自体は改定前の「時を超えた理想」での展開を継承する形になってしまいましたが、あっちでは古代がアキトが何をしたのかの詳細を知らないのに対して、こちらで知った上で接しているという違いがあります。
 そんで、話の流れで古代はとうとうユリカを母親と認めました。思ったよりも全然速い展開です。

 なお、プロテクターは実写版やらオミットしたカブトライダーやらのイメージが色々と混ざった結果です。
 流石に、本作ではライダーは無理。



 >「ヤマトがボケた?!」で大爆笑。

 お気に召していただけたのなら幸いですw
 書いてる時にスパロボAのデビルガンダム直撃、を思い出したので流れがコントになりました。
 あの頃の携帯機はD以外ナデシコ出ずっぱりだったなぁ〜。それだけ使い易かったのか、登場以降需要があったのか、果てはスタッフが好きで、投げっぱなしのまま終わってしまったナデシコにケリを付けたいとでも考えたのか。
 W以降はBXまで長らく登場してなかったから、飽きられてもう出ないのかと思ってたし。
 マンネリを防ぐために出なかったんだろうけど、続編制作中止発表が絡んで、スパロボですらナデシコ扱うのに支障をきたしたのかと邪推もしたっけか……。
 なついなぁ……。

 Vがすっごく良かったから、今は軽くスパロボロス状態ですw
 新作でナデシコがまた出てくれることを切に願ってます。
 据え置き(と言いつつVitaとのマルチ)で、IMPACT以来のテレビ版を。
 Vは劇ナデだったからお願い。
 あと2199も良いけど復活篇とかのオリジナルも忘れないで! 2202だったら歓迎だけど完結先だからさ!







感想代理人プロフィール

戻る 





代理人の感想 
ヤマトを囮にして単独行動した機動兵器(もしくは特殊部隊)が決める。
今回は王道でしたね。
それだけに「面白かった!」以上の感想が出ないというかw
まあ毎回ユリカが大ボケしてもあれなので、こういうシリアスな回もいいものです――たぶん(ぉ


> 地球人は阿呆か。
まったくだよwwww
シュルツ司令、あんたは正しいw


※この感想フォームは感想掲示板への直通投稿フォームです。メールフォームではありませんのでご注意下さい。 

おなまえ
Eメール
作者名
作品名(話数)  
コメント
URL