――もしも自分の進むべき先に避ける事が難しい困難があるとしたら、人はどんな選択をするのだろうか。
 ユリカは朦朧とした意識の中で思い返す。

 あの時、ヤマトの導きで知った愛の星――イスカンダルの救済。それに賭けた一か八かの大勝負。
 ボソンジャンプでイスカンダルに直接乗り込めないかと考え、実行したあの日の事。
 我ながら無茶苦茶だったと思う。如何にA級ジャンパー、演算ユニットとのリンクが確立しているとはいえ、脳が崩壊してもおかしくないくらいの負荷が掛かりそうな前代未聞の大ジャンプ。
 結果は――成功とも言えるし失敗とも言える。
 ユリカは肉体毎跳躍する事は叶わず、向こうに現存していたガンダムのフレーム――そこに残されていたフラッシュシステムにリンクした事で意識だけを辛うじて飛ばす事が出来たに過ぎない。

 突然の来訪者に驚きはしたが、スターシアは常に理性的でユリカを無下にはしなかった。
 勿論、コスモリバースシステムを――波動砲の技術を地球に提供する事には難色を示した。
 ユリカ自身、地球がつい最近まで内乱に荒れていた事を正直に話した事もあるが――イスカンダルはその威力故に波動砲を封印していた。
 勿論それに連なる技術も一切封印して、星から出ない事で守り抜いていた。

 それでも縋るユリカにスターシアは語った。

 「我々は元々、貴方方と同じ銀河で生まれた文明の末裔なのです。貴方がヤマトと呼ぶ船を内包してこの宇宙に出現した水は、並行宇宙の回遊水惑星――アクエリアスのものだと思われます。アクエリアスは、その水の中に生命の種子とでもいうべきものを内包した惑星で、接近する星々に水と命の芽を撒き、それらが成長して文明を持った後に接近すれば洪水で文明を押し流す――それは、アクエリアスが文明に――生命にもたらす試練であり、強い生命に育って欲しいという厳しさからくる愛なのです。私共の祖先も、その試練を乗り越えながら発展していった文明です」

 極端にスケールの大きな話に、日頃の振る舞いに反して聡明なユリカですらもすぐには呑み込めなかったが、ヤマトの記憶でも似たような事を聞いた気がしたので、納得する。

 「私共の最も遠い祖先の星の名は――シャルバートと申します。かつてはその優れた科学文明が生み出す超兵器を駆使して銀河全体を支配していた民族でした……しかし、彼らはやがて力による支配では真の平和が訪れないことに気付き、その行いを恥じて銀河の支配を放棄して歴史からも姿を消し、母なる星ごとを異次元空間の内に隠遁しました。私達イスカンダルとガミラス星の祖先は、貴方が古代火星文明と呼ぶものから分岐した種族。それも元を正せば全てはシャルバートから……アクエリアスの生命の種子から分岐した文明なのです。勿論、貴方方地球人を含んだ生態系も、歴史に残っていないだけで全ては水惑星アクエリアスの命の種子から生まれた存在なのです」

 スターシアの告白に、ユリカは頭がくらりと揺れるのを感じた。途方もないスケールの物語だ。しかし、地球で自然発生したと思われた生態系が外部からもたらされたものだったとは――。

 「私たちの祖先はシャルバートが戦いを放棄する前に、貴方方の銀河のすぐ傍を通過しようとしていた大マゼラン雲に移り住んだ移民でした。当初はかつてのシャルバート同様、武力による支配で大マゼランを統治しようとしていましたが……シャルバートの決断を知り、武力による支配の愚かさを悟った我々もまた、その力を放棄したのです――長い年月が過ぎ、やがてイスカンダルとガミラスを狙う星間国家による侵略を受けた時、私共は決断の時を迫られたのです。座して滅びを待つか、それとも反撃をするか」

 スターシアは1度そこで言葉を区切り、気持ちを落ち着かせてから続ける。

 「結局選んだのは、徹底抗戦でした。確かに争いで真の平和は得られない、本当の意味での共存には至らないとわかっていても、我々も生きとし生けるもの――生きたかったのです。そこで1度は封印した技術を紐解き――独自の発展を遂げました。それが、相転移エンジンの改良を推し進め、タキオン粒子を源とする波動エネルギーを生成する波動エンジン。それによって実現したワープ航法システム――そして波動エネルギーの時間歪曲作用を応用して、戦争で荒廃した惑星環境の復元を試みた研究が進められ、その成果である時間流制御技術とボソンジャンプシステムを組み合わせて生まれたのが、時空間制御によって惑星環境を回復させる装置――コスモリバースシステム。しかしその研究過程で生まれた波動エネルギーの制御技術によって、高圧縮・高出力化した波動エネルギー……タキオン波動バースト流を一方口に撃ち出す超兵器も生まれてしまったのです。それが――貴方が波動砲と呼ぶ、タキオン波動収束砲なのです……タキオン波動収束砲とコスモリバースシステムは本来同一システムの裏と表。破壊と再生両方の面を持つ、イスカンダルの遺物なのです」



 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 第三章 自分らしくある為に!

 第十九話 明かされる真実! 新たな決意と共に!



 「……これが、私達がユリカさんから教えて貰ったスターシア女王陛下とのやり取り。つまり、コスモリバースシステムの真実にして、ヤマトのこの歪な改装の意味よ」

 緊急入院したユリカに代わり、こういった説明となれば自分がやるべきだろうと、何時もに比べて重苦しい雰囲気を漂わせながら、イネスはクルー全員に告げる。
 中央作戦室に陣取ったイネスは、この日の為に用意していた資料を高解像度モニターやウィンドウに表示して説明する。

 「その歪な改装の代表格、6連波動相転移エンジンに関する説明をするわよ……波動エンジンの増幅装置として相転移エンジンが機能したのは、“この宇宙の波動エンジンの原形が相転移エンジン”であったから。だから、改装の際ヤマトの波動エンジンは従来の“宇宙エネルギーを圧縮してタキオン粒子に変換”から“真空の相転移で生じたエネルギーをタキオン粒子に変換”という具合に変貌しているの。つまり波動相転移エンジンっていうのは、本来波動エンジンの動作に含まれる工程の一部を相転移エンジンに委ね、波動エンジンは波動エネルギーへの変換効率に特化する様に改造した複合機関。波動エンジン単体では稼働出来ないのもそのため。当然よね、システムの一部を外部に出してしまったのだもの――そして、相転移エンジンに技術を逆輸入出来たのも波動エンジンが発展型の機関だから、と言う訳よ。これらの相乗効果のおかげで、旧ヤマトの6倍、つまり波動炉心6基分の出力を得られたって事」

 全く関連の無さそうなエンジンを繋げただけでこのパワーアップはおかしいと思っていたら、そう言う事だったのか。
 機関部門のクルーは大いに納得した。波動エンジンの技術で相転移エンジンがパワーアップ出来たのは、波動エンジンが相転移エンジンの進化系でありながら、大雑把に言えば“波動エネルギー生成機能の有無”の違いしかなかったから、という訳か。
 尤も、生成するエネルギーの質に雲泥の差があるから、絶対的な出力以上の差が生じてしまっているのだが。

 「とはいえ、ヤマトのそれは不完全で、本来は波動エネルギーの作用を利用して相転移エンジンの効率強化も可能で、それで生成量が増えたエネルギーで波動エンジンも生成量も上がって――てな具合に相互補完して行くのが本来の形。その場合は旧ヤマトの8倍相当の大出力を得られるんだけど、私達の技術だとそこまで負荷に耐えられる強度を持たせるのが困難だったから、意図的に封印されてるの。一部のパーツを交換して制御プログラムの封印を解けば、今のヤマトのエンジンでも自爆覚悟で出来るっちゃ出来るけどね」

 6倍の今ですら持て余し気味なのに8倍とか……制御出来るわけが無い。少なくとも、今のヤマトでは無理だ。

 「それじゃある意味本命、コスモリバースシステムについてさらに細かく話すわ……これは時間制御技術にボソンジャンプ、ってところから勘の良い人は察してるかもしれないけど、いわば一種のタイムマシンなの。その惑星の過去のデータをタイムトラベルを活用して収集し、任意の時間データの情報を呼び出して過去の姿に再構築させる――それが、コスモリバースの環境回復の種明かしってわけ」

 「まさか――本当に時間操作技術だったなんて……」

 ユリカと初めて会った時、“時間でも戻さない限り地球は救われない”と考えた事が正解だったとは、流石のラピスも驚きだった。

 「ただね、そのデータ取集を実行するためには――時間と空間の概念が無いボソンジャンプの演算ユニットが必要なの。これは私達が火星で発見した物が使えるらしいから、あれと接続を確立する必要がある」

 「まさか……ここに来て演算ユニットが絡んでくるなんて」

 青褪めた表情のルリが歯を噛みしめる。
 思い出すのはユリカを抱えて花の様に変形した演算ユニットの忌々しい姿。そして否応なく連想される――ルリ達家族の幸せを1度は壊した火星の後継者の影。
 ――気分が悪くなった。

 「でもね、肝心のアクセス端末をイスカンダルもすでに失っているのよ。そして私達はあの遺跡を活用する術を持っていない――ただ1つを除いて」

 「まさか!? ユリカ姉さんをまた繋げるって言うんですか!?」

 今度はラピスが絶叫する。ここまで言われたら嫌でもその答えに行き着く。
 イネスも頷く。
 これで理解した、ユリカがヤマトに乗った裏の事情が。
 そして、ルリ達家族が乗艦する事を渋ったのも、それに加担させたくなかったからだろう。

 「繋げる対象はコスモリバースシステムそのものだけどね。彼女は不幸にも、火星の後継者の人体実験の後遺症で体内に演算ユニットのナノマシンが残留している。そして、時間が経つほどに……ボソンジャンプを行使する度に浸食が進み、彼女自身が演算ユニットの端末に変貌していった。彼女自身の“慣れ”と“経験値”も重要よ。だから、彼女はヤマトの再建にあれほど熱心だった。あれはヤマト再建は勿論、彼女が端末になる為に必要な経験値を蓄え、自身を“最適化”するためのものでもあったのよ。この状態の彼女をコスモリバースシステムに接続すれば、演算ユニットにアクセスする事が出来る。さらに時空制御によって環境を回復させる際、惑星に残された生物の保護も重要になる。知っての通りボソンジャンプは、人類は勿論地球上の生物はそのままでは耐えらる事が出来ない。その欠点を補うためには、彼女に人間翻訳機になってもらってフォローしてもらうしかないのよ……それ以外に救済の道も無い。もしも、彼女がシステムに組み込まれる前に死亡してしまった場合は……私に彼女のナノマシンを移植してコアになるつもりだったわ――尤も、昨日今日入れた程度じゃ、成功率はかなり下がるのだけど」

 イネスの言葉を聞いて、真田はヤマトのドックに初めて案内された時の事を思い出す。
 あの時ユリカは、ジャンプ体質になっていない真田を含めたネルガルの面々を1人も死なせず、異常すら起こすことなく運搬して見せた。
 元々、地球の生命がジャンプに耐えられないのは、演算ユニットが地球の生命体をそうだと認識していないから、という説を聞いたことがあるが……なるほど、だから彼女を補正パーツとして組み込む必要があるというのか。
 その残酷な事実に拳を握り締める。

 何という事だ……自分が最も唾棄する行為無しでは地球は救えないというのか!!

 憤る真田の姿にイネスは顔を顰めるが、それでも説明を続けなければならない。
 これは――今後のヤマトの航海を左右する、避けて通れない道なのだ。

 「勿論これには、スターシア女王陛下も反対したと聞いているわ」

 「その事に相違はない。俺も、スターシアから全て聞かされたよ。そうする事でしか救いの手を差し伸べられない、命を危険に晒してまで救いを求めてきた彼女を冒涜するような手段しか取れないと……気に病んでいた」

 守の独白にイネスとエリナは少しだけホッとしたような表情を浮かべる。
 良かった、スターシアもまた血の通った人間だったのだと、ようやく確証を持てた。

 「――それが聞けただけでも、貴方が来てくれて良かったと思えるわ。最初ユリカから聞いた時は、もっと他に手段が無いのかって心底腹が立ったから……」

 「――続けるわね。このコスモリバースシステムは、波動エネルギーを触媒とした時間制御システムなわけだけど、“効果があるのは波動エネルギーで覆えた範囲のみ”という制約があるの。ヤマトの波動砲が6連発可能なトランジッション波動砲になったのは、惑星規模――それもイスカンダルや地球くらいの大きさの惑星を覆いつくすエネルギーを発生させるには、波動エンジン6基分相当の出力が必要とされた事と、それを分散して効率的にエネルギーを放射するシステムが必要だったから……要するに、波動砲の連射機能はおまけに近い代物なのよ。イスカンダルに到達次第、艦長の組み込んだコアモジュールの搭載やシステムの組み換えを行う事で波動砲は――いえ、ヤマトはコスモリバースシステムへと変貌する」

 「なんてこった――ヤマトは“最初からコスモリバースシステムになるべく改装された”。って事ですか……」

 ジュンが予想だにしなかった真相に唸る。
 ヤマトの改装が歪だとか、確かな威力を見せつけてはくれたがもっと信頼性の高いシステムとして構築出来なかったのかとか、無理に6倍出力とか6連射とかいらないし過剰だろうとは常々思っていたが、これで全て納得出来るし、ユリカが搭載を主張したのも頷ける。

 彼女らしくない主張もこの危機では止むを得ないかと解釈していたが、実際はコスモリバースシステムを完成させるために不可欠な代物だったのか。
 そして、まだ明かすに明かせない隠された機能があるとは……なるほど渋られたというのも頷けなくはない。

 「そうよ。真相を知らないネルガル内部でもこの改装には反対意見が飛び出したけど、ガミラスの侵略が想像以上に悪辣だったこともあって、将来的な報復なんかも視野に入れた場合は価値がある、って納得させたのよ。勿論、波動砲の威力によってヤマトの航海の安全保障に少しでも繋がれば、という思惑もあったけどね。実際、ヤマトに対して敵が艦隊決戦を挑んでこないのは、波動砲で一気に壊滅する事を恐れているからよ。ユリカの受け売りだけどね……それだけの力が、今のヤマトにはある……正直こんな極限状態でもなければ、こんな装備の搭載なんて許可されなかったわよ。一応私達の政府はどんな思惑があったにせよ、これより格下の相転移砲を封じる程度の分別は出来るんだから」

 とは、ヤマト再建の責任者の1人であるエリナの言葉だ。
 確かに、言われてみればこんな極限状態でもなければこれほど常軌を逸した大量破壊兵器が制式化されるなど、易々と起こりえる事ではない。
 勿論それは――

 「気になった人も居ると思うからついでに説明しておくとね、サテライトキャノンもコスモリバースシステムに“ある細工”をするためのテストベッドも兼ねてのものであり、波動砲の全力を出した後の、ヤマト護衛の為に開発された装備よ」

 「――波動砲を全力と言う事は、もしかしてあの全弾発射システムの事ですか? 確かにプログラムの構築はされていますし、システムの構造上実行は可能ですけど……そんな事をしたら、保護システムがあってもヤマトは負荷に耐えきれずに自壊してしまいます」

 機関部門の――必然的に波動砲の管理も担う事になる機関部門の長であるラピスが疑問を挟む。
 ヤマトの波動砲は従来とは異なる発射システムを構築していて、エンジンルームの先端から砲口までの間を2つの収束装置とライフリングチューブと呼ばれる砲身で繋げている。
 そのライフリングチューブの内側には、発射口と同じストレートライフリングと呼ばれる溝が存在していて(円筒の内側に誘導レールを嵌め込んでいる)、その溝がエネルギーの整流効果を与えていた。
 また、短時間の間に複数回のタキオン波動バースト流が通過する負荷を考え、構造材や防御コートに混入されているのと同じ反射材が張り付けられていて、エネルギーを強制的に発射口方向に押し流す作用を与えられている。
 これによって装置全体が保護されているのだが、オリジナルの空間磁力メッキに比べると格段に能力が劣るそれでは、連射はともかく6倍の負荷に耐える事は到底出来ない。
 一応、反射衛星の解析データからオリジナルの復元も工作班の間で検討されている様だが、他にもやる事が多く進展が乏しいと、工作班の知り合いから聞いたことがある。

 「正解よ、ラピスちゃん……そして、これからの説明を聞けば嫌でも実行しなければならない事がわかるわ――それはね、イスカンダルと二重惑星を形成しているガミラス星諸共、カスケードブラックホールと呼ばれる時空転移装置の脅威にさらされ、数か月以内に消滅する定めを背負っているからよ」

 一気に2つの秘密が明かされた。
 イスカンダルとガミラスが、事実上の隣国である事も驚きだが、その2つの国家がまさか滅亡の危機に晒されていたとは!

 「ガミラスが性急に地球侵略を行ったのは、彼ら自身が滅亡の危機に立たされているから。恐らくガミラスに比べて文明の程度が低い事から見下されていたのも関係しているでしょうけど、もしかしたら木連との戦争から火星の後継者に至るまでの内紛の過程を調べ上げた結果、例え紳士的に接触したとしてもすぐに回答が出ない、またはこちらが付け上がって何かしらの要求をしてくる事を嫌ったとも推測出来るわ……ある意味では地球を上回る超大国のプライドがそうさせたとも言えるかもしれないけれど、確実に言えることは、ガミラスが早急に地球侵略を決定したそもそもの原因は、カスケードブラックホールにあると言っても過言ではないという事よ」

 思いもよらぬ真実にクルー全員が言葉を失う。
 確かにガミラスの取り付く島もない一方的な降伏要請や情け容赦ない猛攻と、祖国のために命を捨ててヤマトに立ち塞がった冥王星艦隊の振る舞い。これらの行動にはそういう裏があったのか。
 侵略者である事に変わりなく、その怨恨は深いが、まさか彼らも滅亡に瀕していたなんて……。
 滅亡の危機に晒された文明が他の文明を滅亡寸前に導き、その文明の反撃で首を絞められる。
 ――何という、負の連鎖だろうか。

 「それで彼らの行動が正当化されるわけでもないけれど、言い換えればヤマトがカスケードブラックホールを何とかする事が出来れば……それで恩を着せる事で地球侵攻に待ったをかけて貰える可能性が生まれるの。勿論、救いの手を差し伸べてくれたイスカンダルの存亡も掛かってるから、やらない訳にもいかないのだけれども……予定では、イスカンダル到着後に波動砲の改修を行って何とかヤマトが自壊せずに済むようにして、文字通り全身全霊の力を込めた波動砲でカスケードブラックホールを消滅させるってのが、艦長の考えてたプランの1つ」

 「1つ? という事は、他のプランもあったという事ですか?」

 今度は大介が口を挟んでくる。しかし、これは種明かしの場なのだからイネスは特に気分を害することなく出来る限り応えていく。

 「ええ。もう1つはガミラスを滅ぼし、イスカンダルのみを救って地球に戻るプランよ。これは推測を含むのだけども、ガミラスの目的が全宇宙の支配、つまり国や民族の究極の発展にあるとするのなら、いずれにせよ地球は標的になっていた可能性が高いと言えるわ。つまり、移民計画が上がる以前から地球に目を付けていた可能性は十分に考えられる……となれば、カスケードブラックホールを消滅させたところで地球を諦めてはくれない、同盟とかも関係なく支配下に置こうとする可能性は否定出来ない――だったら、私達が殺戮者の汚名を着てでもガミラスを滅ぼさなければ、地球に明日は無くなる。コスモリバースシステムで地球を救っても、ガミラスの軍勢をヤマト1隻で食い止めるのは物理的に不可能。特にコスモリバースシステムに改造した波動砲を再改造するには時間が掛かるし、それ以前に全力射撃したヤマトは大ダメージを被る事は必至――恐らく戦闘能力は失う。イスカンダルで完全修理をする時間的余裕は、恐らくない。万が一カスケードブラックホールを消滅させてもガミラスとの講和が望めないのなら、波動砲を失った後の安全保障として開発されたサテライトキャノンの乱用も辞さず、迫りくるガミラスを片っ端から消滅させて、地球に帰る――それが、彼女が考えた言わばプランBって奴よ。とは言え、本星を滅ぼしただけで星間国家であるガミラスが真に滅びる事は無く、残存勢力による報復で戦争継続の危険性が極めて高い手段だけどね……それに、ガミラスの植民星の中には自ら恭順して安全を得た国が無いとも言えない。ガミラスを滅ぼすという事は――そういった星々の安全すら脅かす事にもなるって、彼女は言ってたわ」

 能天気に振舞っているように見えて、ユリカが心の内で悲壮な――いや、ある意味ではそんな表現すら生ぬるい覚悟を抱えていた事を突き付けられ、クルー一同気分が悪くなった。

 ――全く何も考えていなかったわけじゃない。どうすればこの戦争を終わらせられるのか、コスモリバースシステムで地球を救っても、ガミラスをどうにかしなければならないとは考えていた。
 しかし、本拠も解らぬ侵略者相手にはどうにもならないと思考停止していた……ユリカが隠してきた意図も解る。
 侵略者と隣り合った関係にある国の援助など、信用に値するのか必ず論争になる。スターシアがメッセージで言っていたように、“迷っている時間は無かった”。
 危険を承知で赴かなければ待っているのは揺るがない破滅だけ。だからこそユリカは、そしてイネス達はそれを黙ってここまで来たのだ。

 迷いを抱えてヤマトの航海に不必要な影を落とさぬように、ギリギリまで。

 「今まで黙っていてごめんなさい。私が言えた義理じゃないけど、イスカンダルに不信を抱えたまま航海を続けるって事は、イスカンダルに接触して支援を求めたユリカへの疑いにも発展しかねなかった……だから、イスカンダルが私達の味方なんだって実感を得られるまでは、秘密にしておきたかったのよ」

 「――守さんにイスカンダルについて話して貰う前に、コスモリバースに対する細工について、少し触れさせてもらうわ。さっきも話した通り、コスモリバースの恩恵に与れるのは波動エネルギーの放射された範囲内だけ。艦長が元通りの体に戻るには――コスモリバースに掛けるしかない。彼女はコスモリバースのコアとなる為に、そしてヤマトを再建するためにナノマシンの除去をせず、今まで耐えてきた。もう医学では救えない。コスモリバースの時間制御能力で彼女の体を最低でも火星の後継者からの救出当時にまで戻して、イスカンダルから提供された医学で体を蝕むナノマシンを取り除く。それしかなかった……でも、コスモリバースの恩恵に与るには波動エネルギーを“ヤマトに向かって少し分流する必要があった”。そのために考案されたのが――」

 「――モード・ゲキガンフレア。サテライトキャノンのタキオン粒子を外部から制御するため、という名目で開発されたのがタキオンフィールド発生装置なんだ――つまり、モード・ゲキガンフレアはコスモリバースの恩恵をヤマトの艦内――ユリカに向けるための実験でもあり、真の搭載目的を隠す擬態でもあったってわけだ」

 イネスの言葉を引き継いだのは、ユリカの傍らには行かずこの場に残ったアキトだった。イネスも少し口を休めたいと思ったのか、アキトの行動をむしろ有難がって近くに用意しておいた飲料水のボトルに口を付ける。
 それを引き継ぎと判断したアキトは説明を続ける事にした。

 「ユリカによると、この問題はスターシアさんと協議している時にもう上がっていて、上手い解決法を導き出せなかったらしいんだ。けど転機になったのは、ヤマトがこの世界に出現した際にユリカと精神的な接触を果たし、その記憶の一部を覗いたこと。そこで触れた記憶の中に、機関部の故障でエネルギー漏れを起こした状態のヤマトがあって、その時は漏れた波動エネルギーが敵のビームを遮断する防御スクリーンとして機能したらしいんだ。で、前艦長の沖田さんはそれを利用して波動砲口からエネルギーを敢えてリークさせて方向転換。同じビームで形成された敵の防御幕を突破して強行着陸、敵の心臓部を攻撃する作戦を取ったらしい。モード・ゲキガンフレアはその時の行動に着想を得て、コスモリバースの恩恵をヤマトに少しだけ向ける実験として、同時に過剰威力な波動砲をより限定的に使用するために考案された装備なんだ」

 「――道理で搭載を強固に主張されたわけだ……そんな裏があったとは、流石に気付けなかった」

 開発に協力していた真田も思わぬ裏事情に渋い顔をする。
 単に攻撃バリエーションを増やす思惑だとしか考えていなかったが、こういう裏があるのなら納得出来る。
 実際、モード・ゲキガンフレアは戦場でその威力を示しているのだから誰も気付かない。
 ただ、変わり者のユリカだから生まれた妙な新兵器としか、考えない。

 普段の言動が“あれ”だからなおさらだ。

 「ついでに、フラッシュシステムがエンジンについているのもコスモリバースの事実上の心臓部だからって理由。ユリカを……部品として組み込む制御装置は、突入ボルト付近に置く事になってる。システム起動後、タキオンフィールドがエネルギーを誘引してコスモリバースの効果をヤマト内部に及ぼせるようになったら、俺達は“ユリカを元通りにしたい”って強く願う。その思念をフラッシュシステムが拾ってくれることでコスモリバースに干渉、地球の回復に全力を注ぐしかないユリカの回復処理を代行するって考えだったんだ。これらの情報処理を補佐させる目的で、地球に残してきたナデシコCの改装も進められているはずだ」

 「じゃあ、艦長が重病なのに艦長職に就いた理由は――」

 「島君の推測通り。フラッシュシステムはわかり易く説明するとワイヤレスのIFSに近い代物なんだ。その性質上、皆が想ってくれないと何の意味も無いシステムでもある。だから、単なる戦術アドバイザーとか、体の治療のためにイスカンダルに同行する――って形だと、皆がユリカに強い関心を持つわけが無い。そういった理由もあったし、ナノマシンと“馴染み”が進むほどにシステムの完成度が高まるって理由もあって、冷凍睡眠で運ぶわけにもいかなかった……勿論、出航当時はヤマトの艦長を務められるのがユリカしかいなかったってのも理由だけどね……」

 アキトはユリカが艦長としてヤマトに乗らなければならなかった理由を淡々と語る。
 それは全て、ヤマトの成功の為――地球は勿論自身が生き残る希望を繋ぐためだったと。

 「実際正しかった。今回だって皆が想ってくれなかったらあいつは助からなかった……ありがとう。夫として感謝の言葉しか出ないよ。本来の計画だと、あいつは内容が内容だけに、俺達家族の事を気遣ってヤマトには乗せないつもりだったんだ。どうしてもクルーだけで不安が残るのなら、地球に戻ってからお義父さんも含めて乗せれば良いって判断してた。システムの起動は地球に戻ってからになるからそれで間に合うだろうって……ああ、そうそう。ついでに補足しておくと、進君が行動に移れたのはベテルギウスの時の実績があったからなんだ」

 ベテルギウスの時、と言われてラピス達機関士の面々が気付いた。

 「テンカワさん! それってもしかして、エンジンの損傷が異様に少なかったっていうあれですか!?」

 太助の声に答えたのは、コスモリバースを使用した影響で再び意思疎通が可能になったヤマトだった。

 ――その通りです、徳川機関士。私は貴方達の意志を反映する事で“耐える事”には少々自信があります。ですから普段以上に耐えられるようにしようと“気合いでフラッシュシステムを起動”して“皆さんの意志”を拾い、無理なエンジンの動作を行おうとしたら、何故か不完全なコスモリバースシステムが起動したので、これ幸いとエンジン内部の損傷を時間制御で強引に復元しながら作動する事で、あの異常動作を実現出来たのです。エネルギーさえ確保出来れば、それくらいの措置は何とかなったので――

 ヤマトの回答にラピス達はもう驚いて良いのやら感心すべきなのかがわからなくなった。
 まさか、あの不可思議な現象の裏がそうだったとは。

 ……しかし今更だが、戦艦が“気合いで”システムを動かすな。しかも秘匿システムを2つとも。

 「そう、進君が今回の手段を思いついて躊躇いなく行動出来たのも、ヤマトが不可能を可能にした実績を知っているから。この2度の奇跡は、何でもユリカさんとヤマトの間に精神的な繋がりがある事が原因らしいわ。彼女は薬で抑えられてるけど、日常的に演算ユニットにアクセスしてるに等しい状況よ、物理的に接続されていなくても、フラッシュシステムを搭載されているヤマトだからこそ、不完全な形ではあってもシステムを起動させるための要件を揃える事が出来て奇跡を起こせた。って事らしいわ……それと進君だけど。彼は次元断層を突破してユリカさんが倒れた時、ヤマトの判断で彼女が万が一を考えて残してた資料で全てを知らされてるわ。彼があれから奮起して頑張ってるのは、それが理由よ」

 とイネスが補足する。
 そうか、ヤマトという艦の特異性だけではなく、ユリカというイレギュラー要素の相乗効果があの結果を生んでいたのか。
 皮肉な話だが、ユリカが生体部品として使われて障害を抱えたからこその奇跡だと思うと、あの火星の後継者の存在もまた、未来への希望を繋ぐという意味では一定の成果を上げていたという事なのだろう。

 それに進だ。てっきりあの奮起は新しい家族の命を明日に繋ぐための奮起だとばかり思っていたが……いや、それも当たらずとも遠からずだったのだが、真相はもっと闇が深かった。

 「正直最初にアカツキから聞かされた時は頭が真っ白になって――世界を呪ったよ……!」

 血が滲むほどに強く拳を握るアキトの姿に、掛ける言葉は見つからなかった。

 「結果的にではあるけれど、艦長の推測は当たっていたって事ね。完成した後のコスモリバースでも通用するかは――ぶっつけ本番にはなるけど、希望は繋がったわ……ヤマトの秘密の暴露はとりあえずこんなものね。イスカンダルについては――お願いするわ。直接見た、貴方の方が詳しいものね」

 「引き受けました。それじゃあ、ざっと説明させてもらうが、実はイスカンダルはカスケードブラックホールとは別の意味で滅亡寸前なんだ」

 「なっ!?」

 代わって説明を始めた守の言葉に一同絶句。地球に救いの手を差し伸べてくれたイスカンダルが――滅亡寸前とは……。

 「イスカンダルは過去にとても大きな事故を経験しているんだ。イスカンダル星の中心にはイスカンダリウムと呼ばれる放射性物質があり、それは非常にエネルギー変換率の高いエネルギー資源と聞いている。過去にイスカンダルも、そして構成素材が同じガミラスもそれが原因で狙われていた。それで何度も戦争を経験した事もあり、イスカンダルもガミラスも環境破壊が深刻化していたからコスモリバースシステムが作られ、1度はその問題を回避したはずだったんだ――しかし、コスモリバースによる復元は完璧ではなかった。いや、ある欠陥があったんだ。時間制御によってイスカンダル星の中に時間の歪み――時間断層が生まれてしまった。その断層内では時間の流れが外よりも何百倍も速く進む。そのせいで、星の中心だけが急速に寿命をすり減らしてしまい、歪になった事で大規模な地殻変動を起こした。それにより大陸の沈没が起こり、地殻に亀裂が生じた事でイスカンダリウムから発する大量の放射線がイスカンダルの大気を汚染してしまったんだ。放射線の影響で人々は次々と倒れて、一気に人口が激減した。イスカンダルは、こういった事故を想定して開発していたコスモクリーナーと呼ばれる放射線除去装置を使って除染し、穴を塞いで対処したが、一部を除いた人々は生殖能力を喪失。新しい人達が生まれる事が無くなり……今は、生殖能力を喪失しなかったイスカンダル王家の人間、その生き残りであるスターシアと使者として地球に送られた妹のサーシア以外、イスカンダル人は……」

 「じゃあ、コスモリバースを届ける力が無いって言うのは……」

 「想像通りだよ。今のイスカンダルには技術者が残っていない。装置の部品は残されていても、新造は出来ず組み上げも出来ない。つまりヤマトが自ら取りに行き、同乗している技術者に残された図面を頼りに組み上げてもらうしかないんだ……ヤマトは状況的に単艦でイスカンダルに行くしかない。当然ヤマト自身も自給自足でやり取りしなければならない都合上、ベテランの技術者が何人も必要になる。そういった事情も考慮して技術者の人選がされたはずだ。真田が乗ってるくらいだしな――後は、イスカンダル到達までに技術者が生き残れるかどうかだ」

 ハリの疑問に丁寧に答える。
 なるほど、最終的に自ら希望したとはいえ真田が乗艦出来たのも、ウリバタケが乗る事を許可されたのも、そう言う事だったのか。
 となれば、真相を知るイネスはユリカの担当医兼技術補佐を目的として乗り込んだわけか。

 「尤も、仮に自力で渡せるだけの余力があったとしてもスターシアは渡さなかっただろう。彼女は俺達が本当に“コスモリバースシステムに付随する波動砲の力に溺れないか”は勿論、“自らの責任を投げ出さずに困難に立ち向かえるか”を試さなければならない立場にある――それでも条件付きとはいえ供与してくれたのは、カスケードブラックホール破壊の為に技術提供を求めてきたガミラスを拒んだ過去があるからだ――それが地球侵攻した遠因になっているのではないかと気にしていたし、ミスマル艦長が接触して援助を求めた行為自体、妹以外の人間と接する事自体が久しぶりだった彼女にとっては得難い他者との交流であって、艦長の人柄に面食らいながらも徐々に親しみを覚え、友人になった……それがスターシアに禁を冒す覚悟を決めさせたんだ。それはサーシアにとっても同じだった……だから彼女達は俺達に託してくれた。サーシアも命の危険を顧みず地球に希望を運ぶ大任を、自ら背負ってくれたんだよ……」

 「――彼女の行動に、そんな裏があったなんて」

 ルリの脳裏に蘇るのは、生きて合流を果たせず命を落としてしまったサーシアの亡骸。
 彼女達は決して上から目線で地球に手を差し伸べてくれたわけではなかった。
 自らの行動の影響を気にかけ、ユリカの行動に心動かされ、かけがえのない友となって……。
 きっと断腸の思いだったろうに。
 それでも、彼女らは地球の為、友の為に重い腰を上げてくれた。

 ガミラスと二重惑星という関係にあっても、イスカンダルは間違いなく地球の味方だった……。

 「それじゃあ、イスカンダル人はもうスターシアさん以外に残っていなくて、ガミラスも星としての寿命が?」

 震える声で指摘するハリに、守は首を振った。

 「確かにイスカンダルで生きているイスカンダル人はスターシアだけだ。ただ、イスカンダルはかつて経験した大戦争の教訓から、仮に滅亡寸前に追い込まれたとしても民族の復興を可能とする“胚”を残されたと聞いた。それを使えば、今のイスカンダルであっても再建は可能だ……だが自らが生み出した負の遺産の完全な抹消を考えた王家の人々は、自らの失態から始まった滅びを受け入れる考えに至ったらしい――イスカンダルが滅べば、負の技術が継承されることも無くなる、と。これは徹底していて、王家の人間が全てマザータウンから居なくなるか、王家の人間が任意で操作する事で即座に星諸共消滅する仕掛けも残している。だからスターシアはイスカンダルに縛られ離れられず、双子星であるにも拘らずガミラスは手が出せなかったんだ……それとガミラス星の状況だが、あちらは起動時の状況の違いもあってか、イスカンダルよりも時間断層の規模が小さく早くに自然消滅したそうだ。だから、ガミラス星はまだ大丈夫だ。カスケードブラックホールが無ければ、少なくとも移民目的で地球を侵略する事も無かったろう」

 「ということは、地球に時間断層が生じる可能性があると?」

 「十分にある。そもそもシステム自体改良がなされていないからな。だが、当時のデータを基に調整を加えれば、ガミラスの様に被害を最小限に抑えることは出来るはずだ。それに、過去のガミラスがやったように時間断層を積極的に活用すれば、地表で暮らす人々の時間はそのままに、早く進む時間の中で作られた物資で急速に復興する事も可能だろう――勿論、瓦解した防衛艦隊の整備も可能だ」

 「つまり、地球は別の爆弾を抱える事になる。時間断層の事が外部に知れるようなことがあれば、その有用性を狙った異星人の侵略もあり得る、と」

 「そう言う事になる」

 ゴートの指摘に守は頷くしかなかった。

 「“……恐らく我々人類は、もう波動砲を捨てる事が出来ないでしょうから”、か。艦長のあの言葉は、これを予期しての事だったのか……確かに、侵略者にとって価値のある星に住まうのなら防衛力が必要になる。ヤマトがここまで航海を続けられたのは、波動砲の威力故にガミラスが慎重になっているからだとすればなおさらだ! もう人類は波動砲を捨てられん……! 波動砲の存在が安全保障に繋がる可能性が示唆されてしまえば……!」

 真田が感情のままに右の拳を左手に叩きつける。
 一度侵略によって滅亡寸前にまで追い詰められた文明が、まだ狙われる要因を残した状態で強大な武力を捨てられるわけが無い。
 身を守る手段を捨てるという事は、他国から見れば侵略して下さいと言っている様なもの。
 結局のところ、戦っても得をするなら戦争という手段を選択するのは不自然な話ではない。戦っても得をしない、損をするという考えに誘導するためにも、一定以上の軍事力は必要だ。
 ――必要なのだが……。

 「それどころか、波動砲があれば最悪“やられる前にやれ!”って過激路線に傾向しかねないんですよね? だって、その気になれば相手の母星そのものを破壊出来るんですよ?」

 今更ながら突き付けられた波動砲の真の脅威に、ハリの声も震える。
 波動砲は“波動エンジンさえあれば幾らでも増産出来る”。
 宇宙戦艦に容易に搭載可能で大量生産も問題無い。実際ヤマト出生世界では……。
 そして、最悪現場の判断で使用出来てしまう……。

 「――そういった懸念もあったから、スターシアは渋ったんだ。あの威力は、人の心を容易く惑わす。だからカスケードブラックホールの脅威を認識していてもガミラスには渡せなかったし、その力でミスマル艦長が歪んでしまわないか、仮に彼女が大丈夫でも他のクルーがその力に溺れてしまわないか、地球が今後ガミラスの様にならないかを常に案じていた。前者二つはどうやら避けられたようだが、後は地球か……」

 「――ええ、その懸念があったからこそ、ユリカはミスマル司令にも出航直前に全てを打ち明けて調停を頼んでるわ。ヤマトが太陽系を飛び出した後、全ての情報を開示して判断を迫っているはずよ。とはいえ、今後の安全保障の問題もあるから封印には至らないだろうって判断して、その後の防衛艦隊構想についても草案程度なら作って、ね。波動砲の脅威に関してはヤマトの記憶からも理解していたから、出来るだけの事はしてったのよ、彼女」

 「――まさか、シミュレーターで使ったアンドロメダと主力戦艦って艦艇のデータも?」

 太陽系さよならパーティーの時、ユリカが進との戦いで使った戦艦群のデータを思い出した島が声に出すと、エリナは頷いた。

 「その通り。あれはヤマトの初航海が成功した後、地球の復興の過程で作られた新しい宇宙艦艇。その最初期のものを回収出来たデータから復元した代物よ。外見だけだけどね。あのデータを基にネルガルで新造艦を造って、それを売り込む――ユリカがヤマトの再建と並行して考えてた地球の防衛艦隊再建構想の一端よ。うちとしても、戦後のスキャンダルで失ったシェアを取り戻して再起するにはこの上なく魅力的なプランであったし、私と会長はユリカから全てを聞かされている立場にもあったから、ヤマト再建を含めて承諾して、今に至るってわけ。何しろヤマトは出生世界で数度に渡って侵略者と渡り合った経験があるのよ? この世界でも同じ事が起きない保証は無い。ヤマト再建だけでも余裕が無くてヒーヒー言ってる状況だったけど、ヤマト成功以後のことを考えるとおざなりにも出来ない……転ばぬ先の杖として、プランだけは今も地球で進展しているはずよ」

 つくづく驚かされる。能天気そうに見えて、ヤマト再建から始まって戦後の状況を見据えて出来る限りの準備を整えさせていたとは。

 「何しろ今後どうなるかなんて誰にもわからない……だから“ヤマトの戦いを知る者”として出来る限りの保険を残して、万が一生き残れなかった時でも今後の侵略者に対する備えを残すべく準備してたの。この世界で唯一、過去のヤマトの戦いを知る者として――いくらコスモリバースと言えども、想定外の動作になるユリカの再生は成功率が低くて確実性に欠けている。それにさっき話した時間断層も、今のヤマトでは検出されていないけど、ユリカを再生するためにシステムを内向きに作動させるって事は、ヤマトもその影響を受けるって事だから――」

 「――ヤマトが急激に劣化して死ぬって事ですか!?」

 「可能性は極めて高いわ。これから、色々と無茶も重なるしね……ユリカさんが地球艦隊の再建の準備を整えるべく用意を進めたのも、このヤマト自身が果たしてこれからも存続出来るかどうか読めないからよ。万が一ヤマトが時間断層を生じる反動――リバースシンドロームの影響で老いてしまったら、私達は実績のある守り手を失う事になる……私たち自身の能力を、絆を疑うわけではないけれど、今までの戦いだって“ヤマトだから切り抜けられた”。結局向こうの世界だって、いろんな事情があったのだろうけれど、ヤマト以外に地球の防衛で実績を残せた艦は殆ど無いって聞いたわ……」

 驚愕するジュンにイネスはその可能性が十分ある事を、そして如何に自分達がヤマトに頼っていたのかを伝える。
 実際、ヤマトは今までの地球艦とは桁違いの能力を持ってガミラスに抗ってきた。そしてそれが、何時しか当たり前に……。
 そのヤマトが居なくなったらと考えるだけで、こんなにも不安になるなんて……。

 「――だから、私はヤマトに縋ったの」

 医務室で入院中のユリカが、コミュニケを起動して語りかけてきた。

 「バラバラになって、一見再起が無理そうな状態にも拘らず私達の為に……使命を果たす為にこの世界に来てくれたヤマト……私は応えたかった。ヤマトはね、出航前にも話した通り、地球を救う為、人類の未来を拓く為、坊の岬沖の海底から蘇ってきた艦なの。だから、最後の最後までその使命を果たさせてあげる事が、ヤマトにとっての幸せであり、ヤマトに縋る私達が出来る恩返しだと思った。だから――私は選んだの。ヤマトの技術から新しい艦を作るのではなく、ヤマトを復活させるって道を。この世界で没した大和の残骸も混ぜて、この世界の大和と一緒に改めて抗おうって――それに、ヤマトは260年もの間海底で地球の自然と同化して眠っていた艦だもの。意思を持っていることも含めて、システムの器としては最適だろう、私の負担がそれで減れば、自身の回復に回せるリソースも増えるかもしれないって、スターシアも言ってたし」

 と、ユリカは語る。
 彼女は決して伊達や酔狂でヤマトを蘇らせたわけではなかった。必然だったのだ。
 宇宙戦艦ヤマトの特異性こそが、この状況を覆せる最後にして最大の――鍵。
 ――そして皆、ヤマトに勇気付けられてここまで来た。来る事が出来た。
 もしもヤマトではなくアンドロメダがやって来たとしたら、果たしてここまで勇気づけられただろうか。
 否。
 ヤマトには実績がある。歴史がある。
 それが勇気の源だったのだ。

 ――宇宙戦艦ヤマトでなければ――駄目だった。

 「それにね、仮にヤマトから生まれた“別のヤマト”を造るにしても、私達は本家本元のヤマトをちゃんと知らない。それじゃあ、ちゃんと魂を受け継ぐ事が出来ないって思ったのも理由かな。私でさえ、記憶の中に生きる沖田艦長の姿を見て感銘を受けただけで、直接教えを受けられたわけじゃない。だから、せめてオリジナルのヤマトに乗って学びたかった。それが出来れば、仮に“今のヤマト”が今後駄目になるとしても、私達が理解した本物の魂を次に繋げる事が出来れば、姿形が異なる“次の世代のヤマト”を生み出す事だって、出来るんじゃないかと思ったの」

 言いたい事は理解出来る。
 確かにデータだけを見てわかったような気になった所で、それは継承ではない。模倣だ。
 継承するには、やはり本物に触れるのが一番確実で効果的だ。ユリカがあくまで新造ではなく在りし日のヤマトの姿を極力保ったまま復活を願ったのも、やはり今なら――クルーとなった今だからこそ理解出来る。

 「――私、今ふと思いました」

 ルリがユリカに対して静かに語り始める。

 「アクエリアスは、生命の種子を運ぶ愛の星。その愛は、時に試練という形で厳しく現れるけれど、その本質は命を強く育てるためのもの……アクエリアスの――命の種子を宿す海に沈んだヤマトがこの世界に現れた事に、今更ですが運命的なものを感じます……アクエリアスから生まれた生命同士の生存競争――これも形を変えたアクエリアスの試練なのかもしれませんね……」

 「そうかもしれないね……ねえ皆、真実を話す前に私聞いたよね? 前に進むことを止めないでくれるか? 最後の最後まで諦めないでくれるか? って」

 ユリカの言葉に、クルー全員が頷く。
 正直膝を折ってしまいたいと思えるような衝撃を受けた。
 ここまで希望を繋いでくれたユリカを“部品”として使う事に対する抵抗もそうだが、そこまでしながらも救える確たる保証が無い事。

 そして、このヤマトをも失うかもしれない事。

 しかし、ユリカに関しては不完全な状態とは言えその命を繋ぐという形で、コスモリバースの効果が得られる事が示された。万全とは言い難いが全く先が見えないよりは幾分気分がマシだ。
 それに……仮にヤマトが2度と飛べなくなったとしても、その魂を自分達が継いで第二、第三の“ヤマト”に繋いでいく事が出来る。
 そう、自分に言い聞かせて頷く。

 それが、ここまで希望を繋いでくれたユリカとヤマトに対する、最大限の礼だと信じて。

 「じゃあ皆、お願いだから悲しまないで。例え可能性が0に近くても、0じゃない。今回上手くいったみたいに、本番でも上手くいって。私が元気になれる可能性は――希望の灯は残ってる。それ、ヤマトが駄目になるって決まったわけでもない。でも、ここで立ち止まったら全部お終いになっちゃう。だから、歩みを止めないで…………うぅっ……ごめん、一旦切るね。少ししたら重大な発表があるから、そのまましばらく待機してて」

 ユリカはそう言うと、1度コミュニケをオフにしてクルーの前から姿を消した。



 「――悪いね、進。折角補装具も用意して貰ったけど、ヤマトの指揮――任せるしかないや……」

 「はい。後の事は、俺に任せて下さい」

 皆の前には姿を現さず、ユリカの傍でイネス達の説明を聞きながら、進は最後の打ち合わせを済ませていた。

 「艦長室のクローゼットの奥に、赤い錨マークの掛かれたトランクがある。その中身を使ってくれると嬉しいな……やっぱりさ、格好付けた方が良いと思うから」

 「はい」

 「――大丈夫、貴方なら出来る。私の自慢の――古代進なら」

 とびっきりの笑顔でユリカは送り出す。髪の色が落ち、肌荒れも酷くなった痛々しい姿でも、その笑顔は確かに太陽の輝きを宿していた。
 最後の勇気を受け取った進は、彼女が自分に託した“願い”を叶えるべく、そしてそれ以上にヤマトと共に戦うものとしての使命を果たす為、行動を開始した。

 艦長室で目当てのトランクを開け、中に入っていた衣服を身に付ける。
 ついでにファイルを見つけた引き出しからある物を取り出すと、大事に脇に抱えながら第一艦橋に降りる。
 そして、持ってきたそれを壁に掛けると、大きく息を吸ってから艦内通話のスイッチを震える指で押し、腹の底から声を出した。



 「ヤマトの戦士諸君! 本日只今をもって艦長代理に就任した、古代進だ! 皆の命、今この瞬間から母ユリカに代わって俺が預かる! 一気に様々な情報を与えられて困惑しているだろうが、俺達のすべき事は変わらない! ヤマト共に……地球と人類の未来を護るぞ!」



 突然の宣言に驚いた各部署の責任者と副責任者は、大慌てで主幹エレベーターに搭乗、2基のエレベーターにぎゅうぎゅう詰めになって第一艦橋に転がり込んだ。

 転がり込んだ先で見たのは、旧デザインの戦闘班の艦内服に身を包み、ユリカと同じデザインの真新しいコートを羽織り、艦長帽を被った進の姿。
 そして、艦長席のエレベーターレールに掛けられた、初老の男性のレリーフ。

 「こ、古代! その格好――いや、艦長代理って」

 会話が筒抜けなのも忘れて大介が問い質す。第一艦橋のあちこちにクルー全員分のフライウィンドウが開いて、言葉を求めている。
 急展開に困惑している大介の表情に「ドッキリ大成功」と冗談が頭を過りながらも、進は言った。

 「艦長の意向だ。残念だが、先程の負傷の影響もあって艦長はその職務を果たす事が難しくなった。よって、艦長の後継者として教育を受けた俺が艦長代理として全権を任される事になった。以後、よろしく頼む」

 「……わかっちゃいたけど、ちょっとは相談して欲しかったなぁ……そんなに僕って頼りない?」

 副長なのに蚊帳の外だったジュンが嘆き、偶々傍に居たラピスが背伸びして肩を叩き「そんな事ないですよ」と慰める。――本当に良い子です。

 「さて、今後のヤマトの航路についてだが、ガミラスの目的とマグネトロンウェーブ発生装置から得られた情報を加味した場合、我々がイスカンダルと地球を結ぶ中間目標として考えていた自由浮遊惑星バランにも、ガミラスの大規模な中間補給基地の類が存在する可能性が高い事がわかっている」

 ガミラスの大規模な基地施設の存在を示唆する言葉に、呆けた頭を振って意識を切り替える。

 「これが地球への侵略拠点である事は明白であるが、彼らの真の目的を考えれば――地球の凍結を何らかの方法で解除し、入植可能になるまでの間移民船団を待機させる寄港地となっている可能性が考えられる。事実、マグネトロンウェーブ発生装置は民間の解体業者が所有する設備である事が解析から伺え、そのような装備を前線基地が備えている事自体が不自然だ。つまり――」

 「まさか、バラン星の基地施設に民間の居住エリアが併設されている可能性があるという事か!?」

 進の言わんとすることを察したゴートが声を荒らげる。

 「その通りだ。もしそうなった場合、民間施設を避けながらの基地施設の破壊工作は、ヤマトの戦力では不可能に近い。中間地点にある施設ともなれば、冥王星前線基地とは桁違いの規模を有している可能性が高いはずだ。それにバラン星の位置関係を考えれば、地球攻略に失敗した場合の一時避難先に指定されている可能性は十分にある」

 「……そうか、ここからなら俺達が補給したビーメラ星系ともかなり近い。水と食料の心配が少なくて済む。原生林が生い茂るビーメラ星を開拓するのには時間が掛かるが、すでに文明が生まれた地球なら、開発された都市部への被害を抑えて攻略すれば我々が造った施設も利用してインフラの整備が早く出来る。遊星爆弾が地表に対しての爆撃ではなく、寒冷化による人類の凍死を狙うものだったのは、ガミラスに1から惑星開発をする余裕が無かったからなのか……!」

 「恐らくその通りだと思います、真田さん。そうでなければ、文明を持った地球を手に入れるよりも、文明の無いビーメラ星系に入植した方が楽だったはずです。恐らく、カスケードブラックホール対策が検討された時には、もう開拓するには手遅れだったのだと考えるのが妥当でしょう。実際、ここまでのヤマトの航海で地球人型の異星人が入植するのに適した恒星系は、太陽系とビーメラ星系以外ありませんでしたからね。大マゼラン内で入植先を見つけられなかった理由は不明ですが、何かしら入植出来ない理由があったと解釈せざるを得ません。地球に目を付けたのは、将来的に天の川銀河に手を伸ばすための拠点として目を付けていたのを、そのまま移民先として選定したのではないかと、艦長は推測していました」

 進が今までユリカ達と検討してきた情報を打ち明けると、皆揃って難しい表情になる。

 「さて、我々が採るべき道が2つある事は、先程イネス先生からの説明で皆理解してくれたと思う。艦長代理としての俺の方針はすでに決まっている。艦長も同じ考えだ。だがそれを発表して命令する前に皆に問いたい――ガミラスとどうしたいのかを」

 進に言われ、事情を知らなかった全員が考え出す。
 ガミラスの行動は到底許せるものではない。滅亡寸前まで追い込まれた地球人類としては当然の感情だ。
 しかし、だからと言って滅ぼす道を選ぶべきなのだろうか。
 地球が――ヤマトがガミラスに勝てるとしたら本星接近時に波動砲で国を亡ぼす以外に道が無い。
 それも――報復を考慮するのなら民族そのものを、という事になってしまう。
 報復が来る事を覚悟したとしても、都度退ける余力が地球にあるのかどうかわからない。ガミラス本星を滅ぼしたとしても、各地に拠点を有している可能性は十分にあるのだから。

 「……俺は、出来るなら和解の道を模索したい」

 木星出身のクルーの1人が言った。

 「俺達、ずっと地球は悪だと教えられて育って、それを疑いもせず成長して、戦争して……結局戦争が終わってもそうそう価値観を変えられなくていがみ合って、火星の後継者が出て来た時も内心草壁閣下に期待してる自分が居て……でもガミラスに木星を滅ぼされて、行き場を失った俺達を受け入れてくれたのは地球人だった」

 その言葉に、他の木星出身のクルーが呼応する。

 「――そうだったな。散々罵り合って血を流して……仲良く出来るなんて全然考えられなかったのに、国を亡くした俺達を受け入れて、一緒に戦おうって言ってくれたの、地球人だったんだよな」

 「――ああ。嬉しかったよなぁ……あの時これ以上無く実感したんだよな。過去の怨恨を超えて仲良くなれるんだって……」

 「――俺達だって、戦争中は民間にも散々被害を出した木星が許せなかったなぁ。あれだけ血を流しておきながら、やれ悪の地球人がだの、100年前の恨みだのとか言われても納得なんて出来なかったし、事実上の報復をしておきながら俺達の報復を認めないって……本当に自己中な連中だって、心底嫌ってたっけ」

 「何時からだったんだろうな。一緒に腹の底から笑いあって、飯食って風呂入って、仕事して、その日の成果に一喜一憂して……何時の間にか昔の恨みなんて流れちまって、一緒にいるのが当たり前になっちまった」

 木星出身のクルーの言葉に刺激され、地球出身のクルーも口々に当時を思い返しては今と比較する。

 考えてみれば本当に愚かしい戦争だった。
 過去の怨恨があったにせよ、互いを理解しようとせず自己主張ばかりで暴力を振るいあって……ガミラスだって、そんな連中を対等には扱えるわけが無い。
 だけども、ガミラスの侵略があったからとはいえ……今は互いにわかり合えている。

 最早過去ではない、現在の怨恨を乗り越えて手を取り合う事が出来た。
 その結果を噛みしめたクルー達は、自然と言葉を発していた。

 「艦長代理。俺達は、ギリギリまでガミラスとの和平を模索したいと思います。もう、恨みや憎しみを糧に血を流し続けるのは御免です。ガミラスと解り合えないのなら、心を鬼にして滅する覚悟を持ちます。でも、今はもうこれ以上は無理だ、っていうところまで頑張ってみたいと思います!」

 「艦長代理、それがここまで希望の灯を繋いでくれた艦長に報いる事だと考えます。彼女だって、俺達木星人が中心になった火星の後継者のせいで人生を滅茶苦茶にされて、あんなに仲の良い旦那さんと引き剥がされて、命に関わる病に侵されたにも拘らず、俺達の為に本気で悲しんでくれた。俺達の無念を理解してくれたんです――そんな彼女の部下として、最後の瞬間まで抗いたいです!」

 口々に、クルーが訴えてくる。
 内容は個々に微妙に違っていたが共通している事は1つ。

 ガミラスと共存する道を模索したい、憎しみを糧に戦いたくない。そして、いざと言う時には躊躇わない、と。

 クルーの総意を受け取った進は、1度後ろのレリーフを振り返りクルーに語りかける。

 「皆、見てくれ。このレリーフの人物は、初代宇宙戦艦ヤマト艦長――沖田十三のレリーフだ。アクエリアスの海に没したヤマトから艦長が個人的に回収し、保管していたものだ」

 進に促されて第一艦橋に所狭しと浮かんでいたウィンドウの、艦橋に上がっていたクルーの視線がレリーフに注がれる。

 「残念な事に、俺達は直接沖田艦長に会うことは叶わなかった。だが、ヤマトの記憶を垣間見た艦長を通じて、その精神は確かに俺達にも受け継がれた……最後の最後まで諦めるな、例え最後の1人になっても絶望はしないと…………だから俺達も、どんな苦難に遭遇しようと決して諦めず、その先にある微かな光を……本物の希望に変えるぞ! それがこのヤマトという艦に乗る者の宿命だ! 帰りを待ってくれる人々の為にも、最後の希望を繋ぐ!――今まで俺達を導き育ててくれた、艦長の為にも!」

 進の言葉に、自然と全員の背筋が伸び、姿勢が正される。

 「修理とワープシステムの改良が済み次第、ヤマトはバラン星に向けて発進する! 探査プローブによる探査が可能なギリギリの距離から情報を収集した後、素通りして大マゼランを目指す。和平への道を模索するためにも、彼らが未来を繋ぐための重要拠点と考えられるバラン星は、1度捨て置く。例え後方からの攻撃に晒される事になったとしても、これから先ヤマトが越えねばならぬ宙域で罠を張られる事になったとしても、俺達はそれを潜り抜けてイスカンダル星並びにガミラス星に接近し、講和を訴える!」

 進の言葉に誰もがこれからの苦難を思いながらも、自分達が選んだ道が正しい事を願っている。
 これ以上、不必要な血を流す事が無いようにと。育ちは違えど、同じアクエリアスの命の種子から生まれた――遠き兄弟達とわかり合える事を。

 「八方手を尽くしても駄目なら、俺達は涙を呑み、心を殺してでもガミラスを討ち、イスカンダルを救って地球に戻る事になる。願わくば、そうならない事を俺も願ってやまない。しかし――」

 1度言葉を区切ってから、大事な事を告げる。これを忘れてしまっては、ユリカ達がかつて失敗した、木星との和平交渉の決裂を繰り返しかねない。

 「残念ながら、俺達は地球政府の代表という立場にはない。俺達が独断で和平を実現したとしても、政府がそれに納得してくれる保証はないんだ。幸いな事に、ミスマル司令が行動してくれているはずなので、ある程度の理解は得られているとは思いたいが、それでも俺達が何でもかんでも決めることは出来ない。万事上手く事が運んだとしても、ガミラスの使者を地球に連れ帰るなりして政府間で話し合って貰う必要がある。その場合、使者の安全を守り、無事にガミラスに送り返すのも俺達の役目になる……間違っても、個人の感情に基づく報復の被害者にさせるわけにはいかない」

 「責任重大って事ですね……」

 ラピスも改めて自分達が選んだ道の険しさを知る。しかし、だからこそ乗り越え甲斐がある!

 「そうだ……これから先は、こちらの覚悟を示すためにも不用意に波動砲を使う事が出来なくなる。故に、辛く険しい道程になるが、俺達は地球を救い、人類の未来を拓く為にもこの苦難を乗り越えなければならない!――改めて言うぞ……全員、信念をもって戦えと! 俺達の行動の結果が、全てを決するぞ!」

 進の宣言にクルー全員が敬礼を持って応える。しかし、その敬礼は宇宙軍で使用されている型ではなかった。
 補装具を身に着けたユリカが「旧ヤマト式の敬礼」と行ったのと同じ、拳を握った右腕を胸の前に横に掲げる、ヤマト式の敬礼だった。
 自然とその敬礼をしていた。その事を知らない守は普通の敬礼だったが、周りに合わせてすぐに敬礼をやり直す。
 進はその事に軽く驚きながらも同じ敬礼を返す。そして思った。

 今この瞬間、俺達は“本当の意味でヤマトのクルーとなった”。
 ユリカを通して沖田艦長の教えを受け継いだ、“沖田の子供となった”のだと。



 進が艦長代理を宣言してからすぐに医療室のユリカの元に戻ったアキトは、ウィンドウに映し出される艦長服姿の進の姿を眩しそうに見ていた。一緒に見ているユリカの表情も同じだ。

 「大きくなったなぁ。最初に会った頃は、年相応って感じだったのに」

 「だよねぇ〜。正直、間に合ってほっとしてる」

 2人揃って進の言葉を聞き、それに応じたクルーの反応を聞く。

 「憎しみを糧に戦うのはもう終わり、か……なあユリカ、もしかして俺達ってさ、ナデシコの時に出来なかった事をしようとしてるのかもな」

 「かもね。あの時は何としてでも戦争終わらせたいって気持ちばかり先走っちゃって。今思い返すと無茶苦茶だったよね、あの時の私達」

 やはり思い出すのはナデシコを奪い、地球政府の意向を無視して勝手に和平を成立させるという、詐欺じみた行動。
 あの時はそれが正しいと思っていたが、今思い返してみると却って泥沼化を招きかねい手段だった。
 そして理想が先走った結果……木星の内情を読み切れず、白鳥九十九という犠牲を出してしまった。

 あの後演算ユニットを投棄して戦争の目的を失わせなかったら、もしかしたら殲滅戦に移行していたかもしれない。
 あの時は無責任と言われても反論しようが無い、あんな手段に出なければ流れを変える事すら出来なかった。
 そもそも、ボソンジャンプの価値があまりにも大き過ぎてすぐに解決出来ない以上、あの場においては最良の選択だったと、今でも思う。

 失敗だったのは、演算ユニットを回収する手段としてもボソンジャンプが使えてしまう事を失念し、ナデシコ毎廃棄した事だろう。ナデシコさえイメージ出来れば、比較的簡単に回収出来てしまう事を考えていなかった。
 そのせいで、火星の後継者の暗躍を加速させてしまった節がある。

 とはいえ、それも結果的にはアキトの必死の抵抗と、ルリのナデシコの活躍で鎮圧出来たのだから、ある意味自分の後始末は出来たと取るべきか……。
 いや、過ぎ去った過去をどうこう言っても今は変わらない。
 全て受け止めて進むしかないのだ。

 「今度は成功させたいな。このまま戦争が続いたとしても、俺達に未来はない」

 「うん。でも出来ると思うよ。このヤマトなら……ナデシコでちゃんと出来なかった事も出来る。そんな気がするの」

 ユリカの脳裏にヤマトの記憶の断片が蘇る。
 アクエリアスを発進したヤマトを包囲する異星人の艦隊。そんなヤマトの危機を救ってくれたのは――ガミラスの艦隊だった。
 だとすれば、少なくともガミラスとは和解の可能性があるという事を意味している。
 勿論、ユリカの知る進達とかつてヤマトに乗り込んだ進達が事実上の別人であるように、この世界のガミラスに和解の可能性がある保証はどこにもない。

 だが、冥王星艦隊の行動を思えば、同じような精神構造を持っていて、共通する価値観を持っているのではないかと思えてならない。

 ユリカはあの瞬間、共存を目指すプランの方を主軸に切ってきた。
 だから、せめて波動砲に溺れていないと示す意味合いもあって、次元断層内では極力波動砲で巻き込まないようにと指示も出した(勿論下手に狙うとタイミングを外す危険があったからでもあるが)。
 その事をあの時の指揮官がわかってくれていたら、希望が繋がっていると信じたい。
 その意図を汲んだアキトは勿論、虐殺を嫌ったリョーコが意図してサテライトキャノンを外してくれたことも、もしかしたらプラスになっているかもしれない。

 「ある意味、ここからが本番だな――ユリカ、万事上手く進めるには一体何が必要なんだろうな?」

 「決まってるじゃない……ヤマトが今まで起こしてきた奇跡の立役者、その最後のピースは――愛だよ」

 2人はしっかりを互いの手を握り締めて、立派に育った子供の晴れ姿を見詰めていた。



 進の宣言の後、守の乗ってきたツギハギの連絡艇を曳航しながら全速で戦闘があった宙域を離脱。
 偶然見つけた自由浮遊惑星の陰に隠れつつ解体して部品を取り出し、提供されたデータと照らし合わせてワープエンジンの再改装を始めた。
 幸いにも連絡艇はあの暗黒星団帝国とやらの攻撃に晒されず、無事だったのだ。
 作業にかかる時間を考えると、ユリカの体を案じたインターバルにも丁度良く、作業終了後の動作確認を兼ねた小ワープが立案され、早速大介はハリを伴って第二艦橋で航海日程の調整を始めることにした。

 「全く、完璧に追い抜かされるとは思ってもみなかったぜ。だが調子に乗るなよ古代。すぐに追いついて追い越してやるからな!」

 去り際に大介は清々しい笑みを浮かべながら進に宣言した。そこ声には最大限の賛辞と、学生時代からのライバルに対する心地よい対抗心が伺えた。だから進も、

 「待ってるぞ島。何てったって、お前は俺のライバルだからな」

 と返して親友の奮起を促す。そうやってエレベーターの前で拳を打ち合わせた後、大介は去っていった。

 「さて……兄さん。俺の代わりに戦闘指揮席に座ってくれないか? 勿論、戦闘班長として」

 進は都合が良いタイミングでヤマトに合流してくれた守に、戦闘班長の職務を押し付ける事にした。
 これから起こりえる激戦を考慮すると、各部署に攻撃指示を出しながらヤマトの操艦をするのは、今の進の手には余る。
 自分はユリカの様に天才と称される頭脳は無い。
 ついでに誘拐されていた期間のブランクがあれどナデシコでの実戦経験があり、ヤマトの全てを理解して力を引き出していたユリカの真似も出来ない。
 相談無く後輩に一気に立場を抜かれたジュンではあるが、素早く気持ちを入れ替えて「まあ、古代君の方がヤマトの指揮官には向いてるよね……」と納得して、副長として至らぬ所を補佐してくれることになった。
 でも、背中が煤けてたのが凄く気になる。

 本当にごめんなさい、生意気な後輩で。

 「……そうだな。ミスマル艦長に扱かれたと言ってもまだまだ新米のお前だ。両方の役職を兼任するのは辛いだろう。俺も遊んでいるわけにはいかないからな。大分回復したとは言っても、パイロットを出来る程ではないし、願ったり叶ったりだ。それじゃあ早速戦闘班の部署を回って挨拶をしてくる」

 「頼むよ、兄さん」

 「……しかし、仮にも艦長代理の立場でその呼び方は無いんじゃないか?」

 真っ当な軍人として教育を受けている守には、進の振る舞いが立場ある者としては少々フランク過ぎるのではないかと指摘をするが……。

 「え? ユリカさんは大体何時もこんな感じだけど……」

 「え?」

 「え?」

 思わず問い返してしまう。

 「……」

 「……」

 そして沈黙が流れた。
 そこに至って、守は思い出した。
 そうだった、色々と同期から言われていたが“あのキワモノで有名なナデシコの艦長”だったのだ。軍人らしからぬ振る舞いも、伝染してしまったようだ。

 ミスマル艦長、弟の教育を微妙に失敗している気がします。

 守は心の中で苦言を呈しながら「なら、いいさ」と矯正を諦める。
 今までもそうだったのなら、変に空気を変えるよりはそのままの方がクルーも動きやすいだろう。
 そういう意味では、進は確かにユリカの後継者なのかもしれない、と守は何となく思った。

 第一艦橋を去る守の背中を見送って、「やっぱり、ユリカさんは普通じゃないのか」と妙な納得をしている進に、「軍人としての態度は見習うべきではないと思います」と、ナデシコ時代から付き合いの長いルリが指摘する。その後で、

 「古代さん、これからは私に対して敬語とかいらないです。私もフランクに接しますから」

 突然宣言した。

 「正直少し悔しいですが、貴方は私よりも上に行ったと判断します。長い事決めかねていましたが、これからは年齢通り私が妹で貴方がお兄さんです――と言う訳で、以後よろしく。それじゃあ、私はECIに移動します」

 言うだけ言ってルリはフリーフォールで第三艦橋に降りていく。
 進は何も言い返す間も無かった。

 「――ああいった所は、ルリさんもユリカさんの影響受けてるんだな」

 またしても妙に納得した。

 「――ああ、これで貴方は名実共にユリカ2号になったのね……喜ばしいんだか悲しいんだか」

 とはエリナの弁で、進は正直何と言って良いのかわからない。彼女も色々と振り回されてきたのだろうし。

 「でもまあ、正直重荷を背負わせる事になって申し訳ないと思ってるわ。本当なら、年上の私達がもっとしっかりしないといけないのにね」

 「いえ、もう十分お世話になっています」

 それ以上は上手い言葉も浮かばなかったが、それでもエリナには伝わった様だ。

 「通信アンテナの再調整もしておくわ。マグネトロンウェーブ発生装置の解体で、相手の通信の周波数の解析も進んだ事だし、もしかしたら何かしら通信を拾えるようになるかもしれないしね」

 エリナも本格的な調整作業の為、通信室に去っていく。

 「進兄さん、とっても格好良かったです! 私もユリカ姉さんと地球を救う為に全力を尽くします! それでは、山崎さん、太助さん、機関部の改修を超特急で済ませてしまいましょう!」

 「了解」

 「はい、機関長」

 一緒に第一艦橋に上がっていた仲良し2人を引き連れ、ラピスは足取りも軽く機関室に向かう。
 ……必要な作業のためとはいえ、一気に第一艦橋から人が居なくなっていく。

 ――緊急対応大丈夫なのだろうか。

 「古代君」

 皆に釣られて第一艦橋に上がっていた雪が話しかけてくる。

 「艦長代理就任おめでとう。頑張ってね」

 真実を知った時は大層辛かったろうに。折角出来た新しい家族を贄としなければならないなんて。
 しかし、それすらも乗り越えた進の心の強さに雪は感激し、自分なりにこれからも支えていくと固く誓った。

 「ああ、わかってるよ雪」

 満面の笑みで祝福する雪に、進も笑顔で応える。

 「これからも、ユリカさんを頼む。状態が前より悪化してるから」

 「任せて。それはそうと、古代君部屋はどうするの? 一応主幹エレベーターには近い位置にあったと思うけど、艦長代理になったんだし、艦長室にお引越しとか?」

 「――ああ。ユリカさんとも話し合ったけど、艦長室は俺が使う事になったんだ。ユリカさんは医療室に入院する事が決まっているし、服装までわざわざ仕立てたんだから格好つける為にもそっちを使えってごり押しされて……ああ、そうだ。雪、悪いんだけど艦長室の荷物の整理をお願い出来るか? 流石に女性の荷物を勝手に動かすのは……」

 「わかったわ。すぐに着替えは纏めて医療室の方に持って行くわね。あと、シーツとかお風呂場のアメニティも交換しておくわ。その方が落ち着くでしょ?」

 雪に言われて「頼むよ」と進もお願いする。
 最初は引っ越す事に抵抗を示したのだが、結局「最高責任者になるんだからわがまま言わない」と押し切られてしまった。
 正直気は進まないが致し方ない。あそこは緊急対応し易く個室としてはヤマトで最も立派なのだが、如何せん場所が場所だ。
 眺めが良い=怖いでもあるし、スペースデブリの類が接触したり敵弾が命中したらあっさり無くなってしまいそうな場所。

 ――沖田艦長には悪いと思うが、全然住みたいと思わないのだ。

 しかしながら、女性の押しに勝てるほど進は強くなかった。後で自分の部屋の荷物を纏めて持ち込まないと。
 そうだ、大切な事を忘れていた。

 「真田さん、手間をかけて申し訳ないんですが――」

 「あのレリーフが昇降の邪魔にならないようにして欲しい、だろ? 丁度のあの近辺は修理しなけりゃならないからな、ついでにやっておくよ。お前は自分の荷物を纏めてこい」

 真田は進の肩を叩いて微笑んだ後、艦内管理席に座って部下を呼び出して壊れた第一艦橋の壁面の修理作業の準備を始めた。
 進はそんな真田の背中を1度見た後、隣にいたジュンに「それじゃあ、しばらくお願いします」と声をかけ、了承を得た後荷物を纏めに自分の部屋に戻った。



 そうやって時が過ぎる中、艦長室で引継ぎ作業を進めていた進はウリバタケに呼び出され、機械工作室に足を運ぶ事になった。

 「艦長代理、守さんが持ってきてくれたこの物資なんだがよ。これを活用すれば新型機のアイデアを形に出来そうだぜ」

 ウリバタケはかねてより考えていたダブルエックスとエックスの直援機のプランを進に提出する。
 プランの記されたタブレットを受け取った進は、表示されている2機のガンダムタイプのデータを見てその意図を察した。

 表示されていた機体は機動力特化型と火力特化型のガンダム2機、名前は機動特化型が「ガンダムエアマスターバースト」、重武装型が「ガンダムレオパルドデストロイ」となっている。

 「エアマスターは可変機構――トランスシステムを持つ機動力特化の機体で、人型と戦闘機形態を任意で使い分けて戦う近・中距離での射撃戦に特化した機体だ」

 言いながら口頭で捕捉するウリバタケ。
 それによれば、徹底して軽量化を図りながら、シンプルな“寝そべり変形”によって、戦闘機形態に変形する事でGファルコンDX等が行っている、小回りと安定感重視の人型と、速度と一撃離脱戦法重視の戦闘機型をプレキシブルに切り替える事で、近・中距離での高機動戦闘に特化したプランらしい。

 「通常戦闘の火力はダブルエックスにも勝るくらい重武装だが、射角を自由に取れるのはライフルだけなのと、コンセプト上アルストロメリアよりは固いがガンダムの中では一番柔いのが欠点だな。機動力を叩き出すために徹底的に軽量化してるし、シンプルとはいえ可変機で構造が複雑だしな。だからこいつは、ダブルエックス達みたいに白兵戦用の装備は装備してない。Gファルコンとの合体は、ダブルエックスみたいな形態変化はオミットして戦闘機形態での機能の強化に的を絞るようにしてる。特徴の可変による戦術の切り替えに分離の工程を足す事になってピーキーになるが、圧倒的な機動力が生み出す一撃離脱戦法は心強い戦力になると思う」

 ウリバタケのセールスに進も頷く。
 元来がダブルエックスとエックスに随伴し、その安全を確保するために開発された機体だ。極端な性能もガンダム同士の連携のためであるのなら文句はない。
 画面に表示された機体は、白を基調に濃淡異なる青で彩られた機体で、機体の各所に航空機に似た意匠が見受けられる。
 ダブルエックスよりも一回り太い脚部は大規模なスラスターユニットを内蔵していることが伺えるし、肩の上にはこれまた巨大なスラスターユニットが乗っかっていて、背中には戦闘機の機首を思わせるパーツが付けてある。
 別ページの可変後の姿――ファイターモードも、胸部の装甲一部開いて上に回転させて後方にスライドした頭部の正面を覆い、腰を180度回転させて膝関節をクランク状に折り曲げて固定し、つま先を折り畳んでメインスラスターとする構造の様だ。
 肩のスラスターユニットも、格納されていたスラスター一体型連装ビーム砲――ブースタービームキャノンが外側に回転、格納されていた主翼の端に乗る形で側面に展開、肩の外側に折り畳まれていたスタビライザーも正面に展開して翼を形成している。
 機首を形成するノーズユニットも移動して、胸部と一緒になって頭部を完全に格納し、機首の大口径ノーズビームキャノンを見せつける。
 おまけに2挺の軽量型バスターライフルは、腕の側面にあるコネクターに機首の方を向いた状態で接続される。
 見るからに重戦闘機だ。機動力を優先するため、威力で勝るが燃費が悪いグラビティブラストの搭載は、エンジン出力との兼ね合いもあって見合わせたらしい。

 Gファルコンと合体する時は、腰と足は人型=ノーマルモードのまま、ブースタービームキャノンを展開せず、ノーズユニットの尾部にあるドッキングコネクターを開き、Aパーツの代わりとなってBパーツに接続されるような姿だ。
 戦闘機としてはGファルコンDXの収納形態の上位互換に相当し、ブースタービームキャノンが使えなくなるが、Gファルコンの追加火器や出力の増大もあって、総火力で単独のファイターモードを凌ぐ重戦闘機に変貌する。
 特にグラビティブラストの追加は心強い限りだ。

 「んで、次のレオパルドは胴体が前後左右に既存のガンダム・フレームよりも一回り大きくて、比較的規模の大きな武装を内蔵出来るフレームを採用した重火力・重装甲に重きを置いた、エアマスターの対極の機体だな」

 言われて次の機体の資料を出すと、全身にこれでもかと武装を搭載した機体の図が表示されている。

 「見ての通り全身武器庫も同然の機体でな。胸部には砲身8門のブレストガトリングを両胸に内蔵。両肩の上には短砲身だが至近距離ならかなりの威力を発揮するショルダーランチャー。右肩には精密射撃用の連装ビームキャノンに、左肩には2段構造の11連セパレートミサイルポッド。右腕にはリストビーム砲に頭部にはヘッドビームキャノン。両膝には長射程・高火力のホーネットミサイルに、右足側面には護身用のビームナイフ! 普段は短縮してバックパックに懸架しているツインビームシリンダー! 左右で異なる性質を持つが、本質的には機動兵器用の高火力ビーム機関砲で、単独時には少々きついが、Gファルコンとの合体で出力を増強すれば、対艦攻撃にも威力を発揮する! ただ、重武装と重装甲を両立したせいで、ガンダムでは機動力が最も低いのと、単独での長時間飛行が出来ない、水中航行も出来ねえと、地形適応に難がある。つーても飛ぶだけならGファルコンくっ付ければ解消するからあまり問題にはならんだろ。地表ではエステと同じ発想のキャタピラとローラーダッシュのおかげで、ダブルエックスやノーマルモードのエアマスターにも追従出来るはずだ。平地なら」

 全身真っ赤で手足の一部と顔が白い、武器庫同然の機体を見て進は思わず「多過ぎる……」と内心辟易する。
 可変機構よりもロマンをくすぐられたのか、語気も荒くプレゼンするウリバタケの態度も鬱陶しいが。

 しかし本当に良くここまで武装を施したと感心する次第だ。
 何でもツインビームシリンダーとやらは、本来左腕を丸ごと格納してビームガトリングにするインナーアームガトリングというウリバタケの案を、真田が改良した代物らしい。補給物資の中にあった様々な部品から見繕ったビーム兵器をベースに、右腕は4砲身のガトリングとその下に配された3連装砲、左腕は砲身断面が四角と円の大口径砲2つとその脇に小口径連装と単装砲の複合となっている。
 腕全体ではなく下腕部のみを覆う事で射界を広く取って、集中射撃による対艦戦闘から左右に分けて弾幕を張る等、臨機応変に使えるのだとか。
 右手は単発威力よりも連射性重視で、左は連射性よりも単発火力重視らしい。
 ただ、単位時間当たりの総火力はどちらも変わりなく、反動も極端な差は無いらしい。だったら統一しろよと言いたいが、「対艦攻撃には小口径のガトリングは不向き」らしく、右でフィールドを削り左で突破して装甲を抜く、という運用の為に分けたのだとか。

 そして、普段は燃費の事もあってどちらも対空戦闘重視の低出力モードに抑えられているらしいが、対艦攻撃時には高出力モードに切り替える事も可能で、装着時には外されるマウントアームを再接続して腰だめに構える事で、自由度を引き換えに高出力化に伴う反動増大も抑えられるとか。
 この改良にはウリバタケも納得し、問題なく採用したと言っている。

 他にもビーム兵器オンリーでは弾持ちに問題があると、胸部のブレストガトリングやミサイル等、実弾兵器も多数装備しているのも特徴で、とにかく手数が多い。
 実弾兵器を撃ち切っても、エネルギーが残っていればビーム兵器が使えるのでまだ半分の火力は残っていると、とにかく桁違いだ。
 これに飛行ユニットも兼ねてGファルコンと合体すると、地形適応の問題もかなり改善される。
 長時間飛行出来ない機体の推力補助の為か、エステバリスと同じような可変をして合体するのも特徴らしい。
 一応、Aパーツを使わない収納形態にもなれる様子。
 合体で出力問題から解放される事もあって、ツインビームシリンダーの火力も上がるし何よりグラビティブラストの追加は大きい。
 宇宙空間の場合、ミサイルを含めれば360度死角無いこの大火力は、確かに使い物になるのなら頼もしい限りだ。

 「アイデア自体はあの戦いの前から少しづつ温めてたんだ、エステの強化案としてな。前にテンカワが使ってたあのブラックサレナだったか? ネルガルのデータベースに入ってたあれのバリエーションや高機動ユニットなんかも参考にしてる。ただ、今まではGXの開発とディバイダーとかの生産で大分資材も使っちまって余裕も無かったから、アイデアを纏めて部分部分の設計をするのがやっとだったが……今回は物資に余裕が出来たおかげで何とかなった。守さんも良い部品を持ってきてくれたぜ、おかげで当初の案よりも良い物が造れそうだし、部品をそのまま転用する事で時短も出来るぜ!」

 と、ウリバタケなりにこの短期間でここまで形に出来た理由を明かしてくれた。
 相転移エンジンはGファルコンの予備をベースに手を加えた物で、出力的には2機ともGX以下Gファルコン以上という程度らしく、さらにエネルギーの貯蔵機能が優れるGXやDXに比べると、長期的なエネルギー消費効率が劣るらしい。
 それを効果的に補填するため、そして機体毎の長所を伸ばすべくGファルコンと合体も漏らさず盛り込んだのだとか。
 幸いGファルコン合体形態の運用データはたんまりとあるから、設計が完成すればある程度目安も設けられるだろう。

 「前に艦長にも話したが、こいつらはダブルエックスとサテライト装備のエックスの随伴として開発した機体だ。エアマスターは先行して敵部隊に接触して戦線の構築は勿論、早期警戒機としても使えるポテンシャルがあるし、レオパルドもエアマスターに続いて戦場に到着したら、大量の火器で敵機を殲滅するって使い方が出来る。こいつはサテライトキャノンを効率的に運用する上で不可欠な要素になる。ダブルエックスの安全を確保する意味でも、敵機を近づけない弾幕形勢のレオパルド、レオパルドの弾幕の外の敵機を牽制するエアマスターと、役割がはっきりしてるしな。勿論、サテライトを使わないにしても両者の中間を埋めるダブルエックスやエックス、って使い方が出来るから、ガンダム4機の連携を前提にすれば、今までよりも強力な少数先鋭の機動部隊を構成出来る可能性がある」

 「まあ、たった4機じゃ必ずしも物量には勝てねぇけどな」と付け足しつつも、ウリバタケなりの運用論を展開して細かく仕様を伝えてくれる。
 これは本当にありがたい。
 かねてより必要とされていた、あの2機に追従出来て万能型であるが故に尖った強みが無いという弱点を補ってくれる僚機の存在は心強い。
 特に今は波動砲に頼れない。という事は、必然的にサテライトキャノンの使用もこれまで以上に自重しなければならないという事を意味する。
 高機動で戦線を撹乱出来るであろうエアマスターも、単機とは思えない圧倒的な弾薬投射量を持つレオパルドも、これからを考えると必要な機体だろう。
 とはいえ、機体だけ造っても意味がないので確認しておかなければならないのは、

 「……機体のプランはこれで確定しても良いですが、パイロットの都合は付いているんですか? コックピットシステムは既存のガンダムタイプのものをほぼ丸ごと転用するって記載されていますが、肝心のガンダムを操縦出来るのは、俺と月臣さんくらいしか確認していませんよ?」

 「心配ないぜ艦長代理よ! サブロウタの奴が乗り気でな! さっき話したら「ちょっとシミュレーター籠ってきます!」とか言って意気揚々と出てったぞ。あの調子ならバラン星通過までの間には乗れるようになるんじゃねえか?」

 ……ああ、言われてみればサブロウタもジャンパー処理を受けた木連の軍人だったこともあって、ダブルエックスの交代要員を務めて貰うかも、と多少訓練していたか。すっかり忘れてた。
 GXは「隊長にこそ相応しい」と月臣が辞退したのでリョーコの機体になったが、月臣の方が恐らく技量は上だろうし、ガンダムに今度こそ乗って貰えれば戦力的にありがたい。

 「わかりました。それでは、念の為副長にも確認して貰った後で“全力で”組み立て作業に入って下さい。俺達の今後を決める、とても重要な一手になりそうです」

 念のため、“真っ当な感性の”ジュンにも確認して貰った方が良いだろう。
 守とのやり取りで、変わり者に師事した結果、自身も変わり者になりつつあると実感した以上、そういう意見が欲しい。

 「おう、わかったぜ!」

 ウリバタケも不満は無いらしく、意気揚々とジュンを呼び出している。

 結局、呼び出されたジュンも新型の有用性は感じたらしく「これなら不足は無いと思う。それに、ウリバタケさん達の腕前なら信用に足る」と太鼓判を押してくれた。

 「じゃあ、早速かかるとするか。何、基礎設計は出来てるし部品も調達済みだ。数日もあれば形になる。上手くいけば、バラン星通過ぐらいには組み上がってるぞ」

 と嬉しそうに語るウリバタケにこの上ない頼もしさを感じる。暴発は大丈夫そうだ。
 後でサブロウタと月臣には先行してシミュレーション訓練を受けて貰おう。



 そして、守と合流してから丁度20時間。機関部の調整を終えたヤマトは、待望の連続ワープのテストには行った。

 「波動エンジン出力上昇。連続ワープ可能領域に到達」

 「ワープ航路のプリセット完了。多目的安定翼展開。タキオンフィールド形成終了」

 「時間曲線同調。空間歪曲装置作動開始。ワープ15秒前」

 着々とワープ準備が進められ、ついにカウントダウンを開始する。

 「10……9……8……」

 カウントが進むにつれ、緊張が高まっていく。
 これが上手くいけば遅れに遅れた日程のロスはほぼ解消され、今後の航海に余裕が出来るかもしれない。
 今後のヤマトが受ける損害やその回復日程確保もそうだが、ユリカの具合がかなり悪い。このままでは後1ヵ月現状維持出来れば上出来と言った具合だ。連続ワープで日程短縮が出来ないと不味い。
 ――この連続ワープの成功に、全てが掛かっている。

 大介もワープスイッチレバーを握る手に汗が滲み力が籠る。

 「3……2……1……ワープ!」

 カウント0と同時にレバーを押し込みワープイン。
 ヤマトは青白い閃光に包まれながら、艦首から空間に溶け込む様に宇宙から1度消失、約1000光年の距離を跳んだ後閃光と共に通常空間に復帰、間髪入れずに再度閃光に包まれて空間に溶け込み、また1000光年跳んでは出現、また閃光に包まれて……といった流れを計5回繰り返し、合計5000光年もの距離を1日で走破する事に成功した。

 ビーメラで改修した時に叩き出した最高記録の倍近い跳躍距離だ。
 おまけにクルーへの負担も、検査結果や各員の報告書を見る限りでは今までと変わらないか、少し軽くなっている様だ。
 ユリカも、体調の悪化が見られない。これなら……使える!

 例によって24時間のインターバルを置いた後、ヤマトはまた連続ワープで5000光年の距離を消化、それを繰り返して、改修地点から僅か5日でバラン星まであと1000光年の距離にまで達していた。

 「ワープ終了! 通常空間への復帰を確認」

 「艦内全機構、全て異常無し」

 「波動相転移エンジン、異常無し。正常に稼働中。出力回復まで、あと8時間を要します」

 それぞれの責任者からの報告に、進も満足気だ。
 連続ワープの威力は凄まじいがその分出力の低下も激しいのが難点か。

 「わかった。出力の回復を待ってから、1000光年のワープを実行、バラン星から1auの地点で探査プローブを発射してから停泊、バラン星の調査活動を行う。バラン星は自由浮遊惑星で、光源となる恒星を持たないからプローブの探査に邪魔は入らないはずだ。プローブの飛行速度とバラン星の動きの観察を考えると、この程度の距離が最適だろう。各員、探査終了後はすぐにワープでバラン星を跳び越えて大マゼランに向かう。準備を怠るな」

 出来るだけ威厳ある様に指示しながら、進はすぐにガミラスがこちらに仕掛けてこない事を願った。
 バラン星がヤマトに潰されたくない重要拠点というなら対処は2つ。接近される前に叩き潰すか、息を潜めてやり過ごすか。
 前者は恐らく超新星を利用した罠(マグネトロンウェーブ発生装置は罠の皮を被った援助なので除外する)だろう。これは切り抜けた。
 もしこのタイミングで艦隊を出撃させれば、ヤマトに存在を察知されて攻略する口実を与えかねないはず。
 わざわざ遠回りに、かつ露骨に示唆して揺さぶりをかけたのだから、ヤマトがバラン星を通過しても即座に反撃出来る距離にある間は恐らく見過ごすはずだ。

 もしかしたら、保有戦力を全て叩きつけて物量で潰す方法に出る可能性もあるが……波動砲を警戒しているのなら可能性は低いはず。
 それが出来るのならとっくの昔にやっているだろう。ガミラスだって百戦錬磨の強者なのだから。

 さて、どう動くガミラス。



 その後、何事も無く1000光年のワープを終えたヤマトは予定通り探査プローブを発射、ロケットモーターで加速したプローブはアンテナを展開しながらバラン星目指して宇宙を駆けて行く。
 しばらくして、展開したプローブの天体観測レンズが映し出したバラン星の姿、がマスターパネルに表示された。

 「バラン星を確認しました。質量が0.9木星質量、直径が地球の約10倍の巨大ガス惑星だと推測されます。環も保有しているようですが衛星の存在は確認出来ません」

 ハリが分析結果を合わせて口頭説明する。自由浮遊惑星に遭遇するのは2度目だし、その存在自体は2世紀前から示唆されていたので然程驚きはしない。

 「ふむ。あり触れた巨大ガス惑星にしか見えんな。ガミラスの技術力の限界がわからんから推測でしかないが、衛星がないのだとしたら軌道上――それも赤道の上辺りに自力移動可能な宇宙要塞という形で基地を構えているのかもしれんな」

 「――なるほど。という事は、あの環の中に艦隊を隠してヤマトがガミラスの痕跡に気付いたと確信を持った場合に限り仕掛けてくる、と考えるのが自然でしょうか」

 「恐らくな。ヤマトもカイパーベルト内で取った戦術だ。彼らも、そうする可能性が高い」

 議論しながらも、貴重な時間を割いて調査を続ける。徐々にプローブもバラン星に近づくのでより情報が精度を増していく。
 そしてついに、環の近くに基地施設と思われる巨大な建造物が確認された。わかる限りでも最も長い所で全長30qにも達する巨大なものだ。アステロイド・シップ計画の模倣か、岩石を纏って隠蔽しようとしているのが伺える。後数時間もあれば環に溶け込む事が出来るだろう。
 ……本当に波動砲無しでは攻略すらままならない規模だ。
 その基地の一角に巨大なグラスドームを有する区画があり、その内部には街並みが再現されているのが伺える。

 「やはり、民間施設があると考えた方が妥当だな。攻略は見合わせるべきだと進言する、艦長代理」

 真田の言葉に進も頷く。この構造では、被害を避けて基地を無力化するのは――。

 「っ! 艦長代理! バラン星の軌道上で別の光を確認!――これは、戦闘と思われます!」

 ハリの報告に一気に第一艦橋の緊張が高まる。想定外の事態だ。

 「ハーリー、詳細を頼む」

 努めて冷静に問う進にハリはわかる限りの報告をする。

 重力振を検知したと思ったら、突如として出現した宇宙戦闘機らしき編隊の空襲に晒された事、それに合わせて付近に先日ヤマトを襲った暗黒星団帝国と名乗る集団と同じタイプの艦隊が出現して、急遽発進したガミラス艦隊と戦闘状態に突入した、という事だ。
 しかも、辛うじて得られた映像データによれば、民間施設と推測した区画にも容赦なく攻撃が降り注ぎ被害を出している、と。
 最重要拠点であろうあの基地の対応が後手に回っているとは……少々信じがたい事実だ。このままでは、陥落するかもしれない。

 「艦載機単位でのワープだと? そんな技術まで持ち合わせているというのか、あの艦隊は……」

 敵の超技術に真田が歯噛みする。
 艦載機単位でも“跳べる”技術なのか、それとも“跳ばす”技術なのかは、流石にまだ見当が付かない。
 あの戦術がヤマトに向けられたら――。

 「どうする? このまま見過ごした方がヤマトにとっては得かもしれないけど……」

 ジュンの語尾が濁るのも当然だ。このままガミラスと暗黒星団帝国と名乗る集団が潰し合ってくれれば、ヤマトは手を汚すことなく、バラン星基地が打撃を受けガミラスは無視出来ない打撃を受ける。
 だが……。

 「艦長代理……通信を傍受出来たわ。暗号解読……成功。流石ねルリちゃん。内容は……すぐにドメル司令に戻って来てほしい、民間人居住区に被害が出ている、だそうよ」

 エリナの報告に進は覚悟を決めた。
 もう、後戻りは出来ない。

 「……例え敵国であったとしても、民間人に出る被害を――虐殺にも等しい行為を黙って見過ごす事は出来ない……それは、“俺達らしい”決断じゃない!」

 進の言葉に問いかけたジュンも、第一艦橋の全員も頷く。
 もしかしたらヤマトの早合点かもしれない。ここで乱入したとして、挟み撃ちにされる事になる可能性は高い。
 共闘したとしても、暗黒星団帝国を退けた後に消耗したヤマトがそのまま叩かれる可能性も十分にある。
 しかし決めたのだ。道を模索すると。

 「全艦戦闘配置! 緊急ワープを敢行する! バラン星の基地付近にワープアウトしてハッキングプローブを発射、ハッキングを併用して基地施設の様子を確認しながら、必要ならば民間人の救助活動を行う。ガミラスに対しての反撃は禁ずるが、暗黒星団帝国が仕掛けてきたのなら反撃を許可する! 連中はこのヤマトを狙っている。自己防衛として十分に言い分が立つ。繰り返すが、ガミラスにだけは攻撃するな! 俺達の覚悟が試される時だ!」

 進の指示を受けてヤマトの艦内が騒がしくなる。
 下手すれば三つ巴、もし本当に救助活動が必要となれば医薬品や衣料品の準備も怠れない。
 それに、収容するためのスペースの確保も大切だ。ヤマトのキャパをオーバーしない程度で済めば良いが、と生活班も不安を訴え始める。

 どう転ぶかもわからない行き当たりばったりな作戦。この行動が吉と出るか凶と出るかはくじを引かなければわからない。

 しかし、今こそ覚悟を示す時が来たのだ!



 明かされた真実に困惑を隠せなったヤマトクルー。

 しかし、全ての真実を背負って前へと進む事を決意した。

 艦長代理に就いた古代進の下、ヤマトはバラン星救援のために戦闘体制に移行した。

 果たして、その行動の果てに待つものとは何だ。

 人類滅亡と言われるその日まで、

 あと、248日しかないのだ!



 第十九話 完

 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

    第三章 自分らしくある為に!

    第二十話 三つ巴? バラン星の攻防!

    ヤマトよ、覚悟を示せ!



 あとがき

 十九話終了。

 今回完璧なネタバレ篇。第一話から少しづつ伏線張ったりしたけど、少なくともヤマトとイスカンダルの状況辺りは大体明かしました。
 タイムパラドックスとか因果律云々とかも案にはあったんですが、収集つかなくなると思ってオミット。多分これが正解。

 本当はこれ、バランでの激戦でユリカが瀕死になり、コスモリバースで一命を取り留め、古代含めた全員にネタばらしをして決意した古代が自ら志願して艦長代理に。って展開を時系列の入れ替え含めて調整しまくったものです。
 いや面倒だった。
 一部の設定は書きながら再構築したりね(エンジンのエネルギー増幅云々が該当)。

 前回のあとがきの通り、復活篇ヤマトを使いたい=トランジッション波動砲と6連波動エンジンをガミラス戦役時に、技術力もガミラス戦役時と大差無いかそれ以下のナデシコの劇場版直後のアフターで登場させるための苦肉の策でもありましたが、考えてみたら思ったよりも素直に筆が躍り、ナデシコっぽい要素もプラス、さらにフラッシュシステムが思いつきで登場する事になった事と合わせて本作のコスモリバースが最終決定になりました。

 で、古代は復活篇の服装にチェンジ。これがやりたかったから新コスチューム採用してたりしました。

 ガミラス星とイスカンダルの関係、さらにはその後の展望も視野に入れたネタばらしだったこともあり、ヤマトはガミラスを滅ぼして進むか共存を模索するかの二択を突き付けられることに。結果、共存を模索する道を選びました。まあ最初から決まっていた事ですし、このためにシュルツの死で得たものがある、と描写したのでそうしないと彼は無駄死にです。

 新要素の追加機体はある意味自然なものになりました。
 結局本作の世界観では「Gファルコンと合体してエンジン2つ積んで初めて一人前」的な設定があるので、合体出来ない機体は殆どオミット。
 ちなみに8話で伏線張ったのはνかHi-ν(新デザ)。

 次回、物語がさらに大きく動いていく予定。

 お楽しみに。



 >はっ、もしやウサギユリカのままならギャグ補正でユリカは負傷せずに済んだ・・・?(ぉ
 ……感の良い――(以下削除)

 >フォールドブースター
 イメージは2202に登場した、コスモタイガー用のワープエンジンユニットなんですけどね。

 

 







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代理人の感想 
圧巻のネタばらしでした。
そして前回からの投下感覚が圧倒的に短くて最初は驚いたけど、読んでみて納得。
設定って書き始めると何時間でも書き続けられるよね(真顔)

そしてバラン星系、単純に迂回するかと思いきやイベント発生!

燃えですよこれは。


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