勝手に「時の流れに」第1部アフター それぞれの現在(いま)未来(あした)


ミスマル家の場合 


 「ふーっ、さすがに長かったなあ……。」

 『END』の文字が大きくモニター画面に映ったことを確認して、自称テンカワ・ユリカ、戸籍上では
ミスマル・ユリカである女性はモニターの電源をカットした。
 
 「ヤマダさんが『終盤が難しいから、何とかしてくれーっ!』って言ってたけど、私にかかればこの位はよゆーだよ、よゆー。」

ユリカの傍らに置かれたケースを見ると、どうやらシミュレーションゲームのようだ。ゲキ・ガンガーを始め、様々なロボットの絵が描かれている。

 「……でも、私達までゲームになってるとは驚いたなあ……。ルリちゃんやラピちゃん、それに私の声なんていつ録音したんだろうね?」

ユリカは自分の華麗なプレイを堪能してくれた二人(ユリカ視点)に声をかけてみた。
だがへんじがない。

「ほえ?」

 慌てて周りを見てみるとルリの姿は無く、ラピスは敷いていたはずのクッションを抱えていつのまにか眠っている。規則的な寝息を立てているので、ただのしかばねではないようだ。

 「あららら、一番はしゃいで見ていたのに……。」

ユリカは苦笑すると、とりあえずラピスに毛布を掛けた。ベッドに運ぶのはルリを見つけた後に父に任せようと考える。

「こーゆーことはお父様に任せないと。最近のお父様は世話焼きさんだから……。」

 ルリとラピスがミスマル家に引き取られてからというもの、ユリカの父であるミスマル・コウイチロウの
軍内部での評価は改まりつつあった。元々極めて有能であるとの評価は得ていたのだが、
『娘が話題になるとところかまわず娘馬鹿な父親ぶりを発揮する』という『唯一にして最大の欠点』が
彼の軍内部での問題視される点であった。

 先の木星連合との戦いにおいてもその欠点は本来の有能さと併せてはいかんなく発揮され、戦況以上に
変化する上官の言動に翻弄された彼の幕僚達は胃薬や精神安定剤を欠かさず常備・服用するのが常識であり、
ミスマル提督幕僚専用の医務室や薬局が設置されていたのだが、和平締結後は幕僚達の薬や
医者に頼る局面も大幅に減少し、彼らを安堵させている。

 『和平締結後に娘を自分の近くに置くことができたので、彼も落ち着くことができたのだろう』と、軍首脳部は考えている。……それもあるが、木星連合との和平に少なからず貢献した二人の少女の犠牲?があることを知るのは、連合軍内部でもごく少数である。

 「まあ、それを考えるとやっぱり二人を引き取ってよかったんだろうなあ。お父様の家でのはしゃぎようは見ていて嬉しいし、私にも妹ができた感じがするし……。」

 軍内部で自分と会っても人前では滅多に壊れなくなった父のことを考えながらも、ユリカはルリを探す。
ルリの部屋、居間、和室、同盟日本支部・会議室と順番に探すが、ルリの姿はどこにも見当たらない。

 「うーん、庭にでもいるのかな?」

会議室に来たついでに端末でT・Aチェックを終えたユリカは、庭に向かって歩き出した。
T・Aに関する情報の更新が無いことを残念に思いつつも……

 ユリカが庭に向かって歩いている頃、自称『アキトの正妻候補』、世間一般ではホシノ・ルリと呼ばれている少女は、ユリカの予想通り庭にいた。
 
 満月が穏やかにルリを照らす下で手を顔に当て、何やら頻繁に手を顔の上で動かしている。ルリの口からは
ヒッ、ヒッ、フーッ……ヒッ、ヒッ、フーッ……と何やら女性がとある状況で行うような息遣いも聞こえる。

 ルリを見つけ声を掛けようとしたユリカだったが、その光景に思わず自分を制御するシステムがフリーズした。
ユリカが再起動に成功したのと、ルリがユリカに気づいたのはほぼ同時のことであった。

 「ル……るリちャン?」

再起動したにも関わらず、正常な言語機能が作動していない所を見るとよほどショックだったようである。

 「あ……ユリカさん。」

左手を硬く握ったまま後頭部に当て、右手の親指を鼻に当てたまま、ルリはユリカの方に
向き直った。

 「ル、ルリちゃん、ホ、ホラもう夜中だし、風邪引いちゃうから中に入ろうよ。」

辛うじてユリカはルリに言葉を発することが出来た。

 「……そうですね。」

ユリカの言葉を聞いてようやくルリは両手を下ろし、ユリカの方へ歩き出す。

 「で、今のは何かのおまじないなの?」

ようやく落ち着いたユリカはルリと一緒に家に向かって歩きながら、
今のユリカにとって極めて重要な質問をルリに投げかける。

「あ、今のはピースランドの母が『学んでおくように』と送ってきた、ピースランド流・美人活法の基礎鍛錬です。」
「…………ふ、ふーん。そうなんだ……。」

ユリカはそれだけようやく言葉を発した。

「……『アキトさんが戻ってくるまでに送ったマニュアル通りに修行して、一子相伝のこの流派の奥義を会得するように』と母から言われました。」

一子相伝の流派になんでマニュアル本があるんだろうとユリカは疑問に思ったが、
寂しげな表情を浮かべながら話すルリの姿を見て、その疑問はひとまず置いておくことにした。

 「……アキトさんは必ず帰ってくる。そう信じてはいても、時々どうしようもなく不安になります。
『前回』は運良く同じ世界に来ることができました。でも、今回もちゃんと私達の所に戻ってきてくれるんでしょうか……?」

 普段表に出さない想いが、ふとした隙にルリの口から漏れ出したかのようにルリは話し続ける。
「どこか本当に私の手の届かない世界に行ったかも知れません。……それとも私を置いて『元の』時間軸に戻ってしまったのかも……。
 無論私が考えてもアキトさんがすぐ帰ってくる訳ではないです。でもこうやってアキトさんのために自分を磨いても、結局無駄になってしまうんじゃないか……って暗い考えしか今は浮かばないんです。」

 発言の端々に看過できないものを少し感じつつも、ユリカもルリの発言と同様の事を感じてはいた。もちろん今まで他人に話したことはない。
 
 (もしここでルリの発言に同意して一緒に悲しむことができたら楽だろうな)

ユリカの心は一瞬だがそんな誘惑に駆られた。
 
 だが、それでは駄目だろうとユリカは思う。自分達がここで泣こうが悲しもうがアキトが帰ってくる訳ではない。
ならば、彼が帰ってきた時に心からの笑顔で迎えることができるよう、皆で一緒に平和な暮らしができるよう
自分達は今を頑張る必要があるのではないか。そう考えてユリカは自分の心を覆い尽くそうとする弱気を追い払う。

 自分の家に来てくれた大切な『妹』のため、一緒に弱気になりそうな自分を叱咤するため、3週間前の父のような姿を見たくないため、ユリカは考えた結果、ルリに対して言葉を発した。

 「なら……私の勝ちだね! ルリちゃん!」

突然、勝ち誇った態度でユリカはルリ対してに宣言する。
「な、何故ですか? ユリカさんは寂しくないのですか? アキトさんのことが心配じゃないんですか?」


突然のユリカの勝利宣言に驚きながらも、ルリは必死にユリカに対して質問をする。


「だって私はアキトのことを信じてるもん。私達のアプローチには鈍感だし、天然で女の子ばっかり惹きつけるし、甲斐性もないけど、私に、ううん、私達にウソをついたことはないもん。『帰る』って言った以上ぜーったいに帰って来るよ!ユリカの方がルリちゃんよりアキトの事を信じてるから、この勝負、ユリカの勝ちだね!」

 「……い、今の私の発言は無効ですっ! 私だってアキトさんへの想いでユリカさんには負けません!」

負けじとルリも反撃に移る。

 「ふふーん。ノーカンなんて無しだよー、ルリちゃん。さーて、皆に早速報告しないとねー」

勝ち誇ったユリカはゆっくりとした足取りで会議室に向かおうとする。

 「ま……待ってくださいっ!」

流石に狼狽するルリ。例え些細なミスであっても、同盟メンバーに知られるのは非常に拙い事になる。わずかな隙でもダムが決壊することもある。ましてやメンバー全員に知られることは
自分のアキト争奪戦ランキングからの後退、最悪の場合には脱落を意味しているといっても過言ではない。
 
 この非常事態の解決策を求め、ルリの頭脳は通常の3倍のスピードで計算を行う。
話し合いによる解決を放棄、
ユリカに対する実力行使の決議案が決定される瞬間、前を歩いていたユリカがルリの方へ振り返った。

 「ふふふ、嘘だよ、ルリちゃん。今の発言はノーカンでいいよ。」

突然発言を翻すユリカ。
ルリはその変貌ぶりに困惑し、「ゆ、ユリカさん……?」としか尋ねることができない。

 「ほんとはね。私もルリちゃんみたいに不安にもなるよ。ほんとにアキトは私の所に帰ってきてくれるのか、
アキトが頑張って作ってくれたこの和平をアキト抜きで守り続ける事ができるのか……。考えたらきりが無くなる時もあるよ。」

 それはアキトがいなくなってから後、誰にも話す事のなかったユリカの思いであった。
自らの秘めた気持ちを話すことが出来て内心でユリカは少しほっとする。だがすぐに気持ちを切り替えて、ルリと自分自身に話し掛ける。

 「でも、アキトは本当に頑張ってこの和平を成し遂げた。そして『帰ってくる』って約束してくれた。なら私はアキトが帰ってきたときに、笑ってアキトに報告するの。『頑張ったよ』ってね。その為に今は一生懸命頑張るしかない。
ちょっと帰ってこない位でへこんでいるようじゃ、アキトの隣にいる資格はないんじゃないかなって私は思う。」

 「ユリカさん……。」

ユリカの突然の告白に驚いていたルリは、それだけしか口に出来なかった。
 
 「えへへ、私もちょっと不安だった事を白状しちゃったね。だからお互いおあいこってことで引き分けっ! もちろん今の話はお互い皆には内緒だよ! 嘘ついたら針千本だからね! 約束だよ! ゆーびーきーりげーんまーん……。」

ユリカは微笑みながらルリに手を差し出す。ルリも照れくさげにユリカに手を伸ばす。

 そして2人は約束を交わす。不安に思うのはこれを最後にしよう。明日からまた頑張ろう。お互い同盟には報告しない。……お互いの思いを繋ぐかのように2人は指きりを交わす。
(この指切りは約束を交わすだけでなくて、2人の心がつながった記念だね)ユリカは内心でそう思った。
(『前』のユリカさんには悪いですけど……何だか本当の家族が出来たような気がします)ルリは『前』のユリカに詫びつつも、胸の中が暖かくなるものを感じていた。

 「……ゆびきった。これでおあいこですね。」

ルリの顔に微笑が浮かぶ。今まで見た中で一番綺麗な笑顔……
思わずユリカはその笑顔に引き込まれる。

「そうだよ! だからほんとに内緒なんだからね!」

口ではルリに念を押しつつも、久しぶりに感じた『嬉しい』という感情がユリカの顔に笑顔を作り出す。

 「よし、これで一件落着っ!じゃあさ、早く家に入って寝ようよ。明日からもまた頑張らないといけないもんね!」

ユリカがとびっきりの笑顔と共にルリに語りかける。

 「はい。アキトさん争奪戦もお仕事でも、ユリカさんに負けていられませんからね」

ルリもわざと意地悪な笑顔を浮かべてユリカを挑発する。

 「ふーんだっ!私だってやればちゃーんとできる所をルリちゃんにも見せてあげるから!」

笑いながらユリカもルリにそうお返しの台詞を投げかける。

 そして二人は本当の姉妹のように笑いあいながら一緒に家の中で入っていく。その二人を2階の窓から見守る者が二人。

 「ユリカぁぁぁ、立派なお姉さんになったなあ……。父さんは嬉しいぞおぉぉぉっっ!」

1人は久しぶりともいえる滂沱の涙を滝のように流し、父親の喜びにどっぷり漬かりながら家に入ろうとしているユリカとルリを見つめている。

 「……これは皆に報告しないとね。ライバルは減らさないといけないし)

もう1人は隣で父としての喜びに浸っている人物が見たらその喜びも第1宇宙速度で吹き飛びそうな邪悪な笑顔を浮かべながら、ユリカとルリのアキト争奪戦からの脱落シナリオを木星連合との和平に生かした時以上に頭脳を駆使してシミュレートする……。

 ……誰の言葉・考えかは書くまでもないかと。

 様々な想い、陰謀、……そして戦いがが今日も明日もそれ以降もこの世界には存在するのだろう。
だがアキトが居なくても今日のミスマル家はおおむね平和といえるのであった。
アキトと共に勝ち取った『現在』を守り、『未来』に繋げていくために明日からもまた戦うのであろう……。






(おしまい)









(後書き)
 始めまして。ナイツと申します。
 という訳で?「勝手に『時の流れに』第1部アフター それぞれの現在と未来 ミスマル家の場合」をお送りさせて頂きました。各登場人物のファンの皆様、何卒お許しいただければ幸いです。
(特に最後の部分において)
 
 当初はとある長編?のプロローグとして投稿したのですが、ゴールドアーム様のアドバイスを頂戴し考え直した結果、このような短編として修正も施した上で再投稿させて頂きます。
 
 わざわざご指摘+激励のお言葉を下さったゴールドアーム様、お忙しい中(10月20日分の更新作品の数を見てびっくりしました)丁寧に対処くださった代理人様。本当に感謝しております。
 
 で次回以降からは、とあるプレステのゲーム世界を舞台にした長編?を始めます。……と思いましたが、
もう少しアキトとその作品との関わらせ方や構成等を考え直してからにしますのでちょっと(で済めばいいのですが……)遅れるかも知れないです。

 代わりといってはなんですが、長編の構成等の間の現実逃避からでたアイディアをまとめてみたいと考えています。勝手に「時の流れに」アフターシリーズ第2弾ってところでしょうか。

 ……長編に関してもあれもこれもといった書きたい話は色々とあるのですが、自分にその全てが書き切れるかどうかは別問題なので、もう少し考えようと思います。(汗)。

ツッコミ・批判・感想等頂けると幸いです。

 

 

代理人の感想

(「与作」の節で)

ラマーズ法で産む〜♪

ひっひっふ〜(ひっひっふ〜)♪

ひっひっふ〜(ひっひっふ〜)♪

 

ま、訳のわからんつかみは置いておいて。

 

思わず微笑を浮かべてしまうような、そんな爽やかでほのかに暖かい一篇でした。

妙かもしれませんが「暖かい」よりは「爽やか」と言うのが読後感としてありましたね。

まぁ、誰かさんはやっぱりアレですが(爆)。

 

 

>更新作品の数

考えてみると、半年くらい前はあれくらいの量が普通だったんだよなぁ・・・我ながら良くやってたもんだ(爆)。