一人の男がいた。
目でも悪いのか黒いバイザーをつけており、
一般人がいたら遠ざかっていくだろうに、全ての服装を黒一色で統一していた。
悪の科学者に必須の黒マントもしっかりと羽織っている。
真夜中、一面に広がる草原の中に一人、点として存在していた。
その男は自分の体の調子を確かめるように軽く腕を振り、
両手を握り締め、身体の各部を触り、黒いバイザーを取り外した。
体の調子に違和感でもあるのか、男は地面に近づき足元に生えている草を口に入れる。
警察官がいたら生暖かい視線を向けられ捕獲されるような行動をした男はなぜか感極まった声を出した。
自分の真上にある満月を見上げ、しばし空にちりばめられた星を見つめる。
そして、周りを見渡し男のすぐ横にある多くの荷物を無理やり積み込んだかのような自転車を見つける。
その自転車を数分見ていると何故かため息をつきつつ、それに乗ろうと足を進めた。
しかし、自分の足元にある石版のかけらのようなものを発見して、突然何かに気づいたように顔を歪める。
その後、男は今度こそ自転車へと歩み寄り、それに乗りベルを鳴らしながらどこかへといってしまった。
今日何度目のため息だろうか。
数えるのが嫌になるほどしたのは覚えてる。
僕は今、とある理由で猛烈に急いでいた。
とある理由……
時間という決してとまらない物との追いかけっこ。
鬼は時間で逃げているのは僕。
それに追いつかれると待っているのは減給という罰。
遅刻だ。
完璧なる遅刻。
そもそも、遅れのは僕が遅れたのではなく、
僕自身はきっちりとある意味神経質なほどに今日のことに対して準備をしていたわけであり、なので……
「ねえ、ジュン君、さっきから何ぶつぶつつぶやいているの?」
いや、別に愚痴を言ったり文句を言っているわけではないんだよ。ユリカ。
「じゃあ、遅刻しそうだから急いでね。」
にっこり笑いながらそういってくる彼女に対して、
僕は自分でもわかるくらい引きつった表情をしながら素直に頷いといた。
八つ当たり気味に車のアクセルを踏み込む。
急激な加速にタイヤが悲鳴を上げながら、走る。
周りの景色が流れるように消えていき、前を走っていた車達も後ろへと消えていく。
この状況の中、
助手席に座る先ほどの女性が速〜いと、嬉しそうに笑いながら声を出していた。
知らないうちに軽くため息が出ていた。
ユリカには逆らえないのを自覚している。
それでもため息が出るのはとめられない。
僕とユリカが出会ったのは軍の養成所に入ったときのことだ。
軍でのシミュレーションの訓練のときに、
女性ながらに天才と呼ばれるほどに強い人がいるとのうわさを聞いた。
その時は、自分でもシミュレーションをしたら、
養成所ではTOP5には入るとの自信を持っていた。
だから、噂の半分くらいの実力だろうと思っていた。
しかし、結果は惨敗。
あの時にああしとけばと、試合をした後に思ったが実際の戦闘ではこれで僕はお陀仏。
IFの話をしていても仕方ないと未練を首を振ることで消し去り、
その女性に話でもしようかと反対側のシミュレーションに歩み。
出てきた女性の美しさに驚いた。
凛々しい顔をしながら出てきたときには僕はもう恋に落ちていた。
それから後は、ユリカと親しくなるように話しかけたりしてみたが、
今度は平常の生活の中の良く言えばおおらかな。天真爛漫さ。
悪く言えば、天然。子供。
それを発見した。
その平常な時と戦闘の時のギャップにもハマル。
それから、ずっとユリカとの関係は続いている。
……しかし、ユリカが僕のことを友達としてしか見ていないのも気づいている。
最初のころは、なんとか男としてみてもらおうと思っていたが……
今ではもうあきらめている。
それでも好きなのは好きなのだから仕方ない。
せめて、傍にいてユリカのやることの手助けをしたいと思っている。
まあ、そのうちユリカに対するこの気持ちもすっぱり終わりを告げるだろう、と思う。
隣でユリカが歓声を上げていた。
前を見ると僕達の目的地である佐世保ドッグが姿を現していた。
周りを見てみると先ほどまでは、僕達のほかにも車が走っていたが、
もう他には一台も車はなくなっていた。
いつのまにだろう。
考え事をしていたら時間がかなり経っていたらしい。
よく事故がおきなかったなと感心しながら、
意識を運転に戻す。
チラリと時計を見ると、やばい。
今日何度目かのため息をつく。
プロスさんに怒られるなあ。
僕達の財布を握っている恐ろしい人を思い、
車を佐世保ドッグへと走らせた。
今日何度目のため息だろうか。
数えるのもめんどくさくなる。
せっかくの出航記念なのに、自分はなぜここにいるのだろうか自問してみる。
答え、怖いお姉さんがこちらをにらみながら、判子を催促しているから。
催促しているといっても、仕事をこなしながら目で催促してくるのである。
さっさとしなさいと、目がジャブを繰り返し打ってくる。
しかし、それくらいではこの僕は気にもしない。
その視線をついとかわし、ナデシコの出航のことを話し始める。
怖いお姉さんことエリナ女史もその話には興味があったらしく、
話に乗ってくる。
餌に魚が食いついてくるのを感じるが、まだ引くのには早い、
慎重にナデシコのことで言葉を選びながら会話を続ける。
ミスターの減給攻撃を誰かが食らうだろう。
ゴート君には何人怯えるだろうか、そしてそのことでゴート君は傷つくだろうか。
などなど、当たり障りのないことを喋る。
しかし、仕事が滞っているのに気づいたのか。
仕事をしろと直接口でいってくる。
魚がぱくついていたのに逃げていく事に気づき、
内心あわてながら、でもねえと話を続ける。
しかし僕の言葉をさえぎるように、
「ナデシコに行きたいって言っても無駄よ。」
笑顔を張り付かせた表情のまま、
僕の机に今まで処理した五倍以上の書類を机のきしむ音とともに積み上げてくれる。
こちらは引きつった笑顔を顔にくっつかせたまま、内心驚く。
書類の量とこちらの思惑を悟られていたことに。
そして、それについてくる、さっさとやれとのありがたい言葉。
魚が逃げただけではなく竿も持っていったことを心に思い、
自分の顔に泣き笑いの表情を浮かべる。
まあ、まだ策はある。
顔で泣いて心で笑って、屋上のヘリのことを考える。
「あっ、屋上にある会長のヘリ売り払いましたから。」
……なんだって?
「ですから、ヘリをボーナス代わりに貰って売りました。」
結構な額でしたけど、まあいいですよね。
このごろ、給料少なくなったじゃないですか。
さっきとは打って変わって本当の笑顔を浮かべて、言った。
こちらがジャブをも仕掛ける前に、渾身の右ストレートをくらったのを感じ、
こちらもさっきとは違って本当に泣き泣き仕事を始めました。
ああ、ナデシコに乗りたかったなあ。
「愚痴を言わない!!」
は〜い。
今日何度目のため息だろうか。
本名ヤマダジロウ、自称ダイゴウジガイはまたひとつため息をついた。
早く乗りたいのに見つめるしかできないの事態に対してである。
目の前にはガイを正義の味方に変身させてくれる頼もしい姿。
それを彼は格納庫の中で見ている。
ただ見ているだけしか出来ていなかった。
もちろん、ガイは先ほど当たり前のごとくエステバリスに乗ろうとして整備員の長に邪魔をされた。
その時の事を思い出しガイはまた腹が立ってくるのを感じていた。
ここにいる整備員達は何もわかっていない。
出発する時が一番敵に襲われやすいのだというのに。
ガイはそれらのことを実際の経験からではなく、アニメから理解していた。
しかし、そんなことを言ってもアホ呼ばわりされて足で追い返されるだけである。
どうにかして乗れねえかな。
邪魔なのは目の前にいるメガネのおっさんだけだ。
こいつがどっかにいってくれればいいのによお。
一度失敗したとしても彼は不屈の精神の持ち主であった。
それがいい意味に働くかどうかは別として。
そんなガイの祈りが天に届いたのか、
整備員の長ことウリバタケは遠くにいる整備員に呼ばれてそちらの方に行ってしまった。
その隙を見逃さない高いパイロットスキルを持つガイは、
抜き足差し足で彼のこれからの相棒に乗り込んだのである。
乗り込んだ彼が、いの一番にしたことは彼の大好きなゲキガンガーのOPの曲を流すことであった。
エステバリスに乗ったガイは上機嫌であった。
なにせ、長年夢見ていた正義の味方になれるのだから。
そのテンションは最高潮に達していた。
レッツゴー!!
ゲェキガンガァ!!
くうっ、やっぱりいいぜ、ゲキガンガーはよ!!
もはや誰も止められないハイテンションのガイ。
この叫び声は内部スピーカーを通して周りに丸聞こえなのだが、誰も止めようと行動できなかった。
誰だってキチ○イに近づくのは嫌なのである。
そんな中その地位の責任から止めるしかないウリバタケは、
まだ整備中なのに中に入られたことに半分怒りを。
止めたのに入っていったバカに対して半分呆れを含ませて声を出す。
「ゲキガンガーじゃなくて、エステバリスだろうがよぉ…」
止めはぁ!!
必殺ぅゲキガンブレード!!
くうっ!!
いいぜ、いいぜ!!
早く戦いてえ!!
ウリバタケに対し完全に無視をぶちかましたガイ。
それに対し軽く頬を引くつかせながらも再度問いかけるウリバタケ。
周りの整備員はその勇気溢れる行動に尊敬の目をウリバタケに向けた。
「ちょっと、ちょっと、あんた。なんなんだよ。パイロットは三日後に到着じゃなかったのか」
ん、いやあ、ロボットに乗れるって聞いていても立ってもいられなくってよお。
ロボットはいいぜ!!
しかも二足歩行できるなんてよぉ。
か〜、早く戦いてえなあ。
あん、まだ宇宙にも言ってないのに戦うかって?
わかっちゃいねえなあ、さっきも言ったけど、こういう発進の時にこそ敵が来るんだろうが、
いや、まあ、俺も敵を望むのはちょっと不謹慎かな〜
と、ちょっと思うんだが。
どうも血が騒ぐっていうのか。
熱くなっちまうんだよ。
わかるだろ、あんたも?
わかんねえか、まあ……いいけどよ。
ん、ほーらほら、この音を聞けよ。
敵のほうがわかってるじゃないか。
お約束をよお!!
今日何度目のため息だろうか。
男は焦っていた。
別に遅刻するとかではない。
その男は時間通りにきっちりと、姿を現していた。
しかし、ブリッジにいるメンバーを見て焦る。
女子供が三人の操縦陣に、
ちょび髭めがねとマッチョの男。
その男が火星にいたときはこんなものではなかったからだ。
まず数の割合がこのようなものではなかった。
しかし、それ以上に、雰囲気が違うのである。
こんな、ハイキングに行くような雰囲気ではない。
それを男は感じ焦っていた。
このままでは、自分は火星のときの二の舞にあうのではないかと思い、自分の上司を見上げた。
それは決して縋るような目つきでもなく、また頼るような目つきでもない。
いってしまえば、よくもこんなとこにつれてきたわねえ、という意味の目つき。
自分の上司である老人。
その老人は火星大戦での加害者でもあり、また同時に被害者でもあるといえた。
この人も変わったわねぇ。
男、ムネタケ・サダアキはそう考え、頭を振って、それもそうかと思う。
自分も変わったのだから。
なんにせよ、今、ムネタケは死にたくはないのだ。
そのためナデシコの危機を退けなければならない。
ムネタケ自身の出世のため、ではなく。
ただ、ムネタケ自身が生き残るために。
だが、希望はそのナデシコを導く艦長自身の登場により、
淡くも崩れた。
ついでに警報の音でも。
警報の鳴り響くナデシコの中。
ムネタケは、心の中で一人つぶやく。
へえ、なかなかやるわね。
ムネタケの第一印象より、艦長であるユリカが有能であったからだ。
警報が鳴り響いた後、変わる表情。
そして、続く適確な指示。
そのどれもが、彼女をお飾りの艦長としてではなく実力を伴ったものだと教える。
そのことに、ムネタケは安心とともに艦長への評価を上方修正した。
とりあえずムネタケの出番はないようだ。
といっても、逃げるための戦術しか教えることはないけどね。
ムネタケの上司であるフクベ提督も、艦長の言葉にうなずくだけだ。
とりあえず危機は去ったと見ていいようだ。
囮であるヤマダというパイロットも、
自分が危険な役目を引き受けたのをわかっていないのか大声で歌を歌っていた。
勿論ゲキガンガーのOPの曲である。
ムネタケ自身はその緊張感のなさに、少々の不安……いや、かなりの不安を抱いていたが。
そのとき、オペレーターであるルリから信じられない言葉が走る。
「一機のエステバリスが地上へのエレベーターを上ってます。」
この言葉に一同、驚く。
ちょっといったい誰だよ!!
ヒーローは俺の役だろう!!
せっかく怪我も何にもしてない万全な状態なのによ!!
ある者は怒っているようだ。
その後は、原作どおりに、
君の所属は?
怖くないですか?
俺の出番はとるななど。
etc.etc.
逃げ回って海に突撃したり。
突撃したら戦艦が登場し、その上に乗っかったり。
その後、バッタたちを一撃で消し去ったり。
と、原作と同じである。
本名ヤマダ・ジロウ、魂の名前ダイゴウジ・ガイの出番がなかったのも原作と同じである。
続く
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あとがき
初めての方もそうでない方もはじめまして、硬磁と申します。
二、三回掲示板で書き込みなどをしただけで、これがACTIONでの小説初投稿となります。
原作を見ておられる方なら話の流れとかわかると思います。
原作見たけど話の流れがわからないという方は、メールか感想掲示板の方にお書きください。
話の流れがわかるように次回から頑張りますので、それでお許しを。
拙い点もあると思いますが、
そこら辺を掲載していくごとに技術を上げていこうと思っております。
というわけで、代理人様、厳しい突込みをお待ちしております。(笑
多分一ヶ月に一回程度の投稿だと思いますが途切れないようにがんばるので、
生暖かい目で見守っていてください。
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