機動戦艦ナデシコ
A Story after the Movie...
“E”s from Venus
第8話 Dogfight&Stratagem
<ウズウズしてたってんだ!まずは俺から行かせてもらうぜ!!>
リョーコ機が夜天光に向かって突撃し、手持ちのレールカノンを連続して撃つ。2発、3発、4発・・・。
しかし夜天光のスピードは尋常でなく、命中してはいない。
<くっ!なんてえ速さだよ!>
<1対1でオレに勝とうというのか?面白い!>
ヒロアキはそう言い放ってリョーコに向かってきた。
リョーコはレールカノンを続けざまに撃ち続けるが、上下左右にかわされ続けるばかりでいっこうに当たらなかった。リョーコの放つレールカノンの弾道は、普通ならば狙いが外れることはないと思われる軌跡を描いている。
しかし、夜天光はその肩部のノズルを生かした不規則な動き、傀儡舞を行ってそれらをかわしていた。
<ったくそ!>
<そんなことを言っている暇があるのか?>
一瞬のうちに間合いを詰めた夜天光は錫杖でリョーコ機をなぎ払う。
リョーコは間一髪でそれをかわすも、右手に抱えたレールカノンは真っ二つにされていた。
<コイツ、つええぞ!>
<油断できないわね・・・>
シリアスモードのイズミが参戦する。リョーコを狙う夜天光に対し、ラピッドライフルで牽制しつつ後ろに回り込む。
それをみたリョーコはフィールドランサーを構えて、イズミと巧みな連携をとりつつ攻撃を加えている。イズミがラピッドライフルで牽制をかけ、リョーコがフェイントを交えた切り込みを行った。
しかし、夜天光はイズミのラピッドライフルの牽制攻撃を気にかけずに、リョーコのフィールドランサーの攻撃を錫杖で受け止める。イズミの牽制攻撃であるラピッドライフルは、半分ほどがかわされ、残りはフィールドにさえぎられていた。
<オメェ、やるじゃねえか・・・!>
<栄えあるナデシコクルーに称えられるとは、光栄だね>
リョーコは素早く後上方に飛び去り、間髪入れずにイズミの放ったミサイルランチャーが夜天光を襲う。
だが夜天光はミサイルランチャーを肩部ノズルを噴かせ傀儡舞でかわす。
いや、かわしきれずに一発かすった。機体の損傷は免れているようだが。
<いっただき〜>
いつの間にか参戦して、夜天光の下方に回り込んだヒカルがレールカノンを構えていた。
<いっけ〜!>
放ったレールカノンは夜天光に命中しはしたものの、腕のミサイルユニットを少し破壊しただけであった。
瞬時に機体を捻って、腕部の一部だけに被害を押さえた腕は驚異といえるだろう。
<うっそ〜!何であれがかわされるの?>
<腕だな・・・>
そう苦笑していいつつ、目標をイズミに変えて襲いかかる。遠距離攻撃主体のサポートの立場であると判断したのだ。
<まずいっ!イズミは接近戦用じゃねえ!!>
リョーコがラピッドライフルを乱射しつつ、夜天光を追いかける。
しかし、エステと夜天光では機動性能的には変わらないので、距離はなかなか縮まらない。ラピッドライフルも、ほとんど効果はないようであった。
イズミはラピッドライフルとミサイルランチャーを立て続けに放ち、夜天光を牽制しようとする。
ヒカルもレールカノンを立て続けに撃って、撃墜しようとする。
夜天光はそれらのミサイルとレールカノンを上下左右に見事にかわしてイズミへと近づいていった。
だがしかし、夜天光はイズミ機の目前で突然上方に進路を変える。
イズミの目の前を通り過ぎ、夜天光の後ろを追いかけていったのは、サブロウタの放ったミサイルランチャーであった。
<危機一髪、ってとこかな?>
そう軽口を叩きながら、さらに追撃に当たる。
<ふぅ・・・よかった〜>
<おせーぞ、サブ!>
<ホント・・・危なかったわ・・・助かった>
ヒカル・リョーコはイズミが無事だったことにほっと胸をなで下ろし、イズミはサブロウタに助けてもらったことに礼をいう。
夜天光はミサイル群を錫杖で叩き落としながらかわしていく。
だが、やはり何発かは機体にもらっているようであった。
肩、足、腕・・・。夜天光の赤い機体がだんだんと損傷していく。
<夜天光ではこれが限界か・・・?>
ヒロアキはそうひとりごちる。
ナデシコクルーの激しい攻撃はその間も絶え間なく続く。
ラピッドライフルとミサイルによる牽制。
その隙をついたフィールドランサーによる打撃。
さらに追い打ちをかけるレールカノンとミサイルランチャー。
すでに夜天光の肩部のスラスターはまともに稼働しなくなっていた。こうなってしまってはもはや傀儡舞のような不規則な動きは使えない。
リョーコ達のそんな猛攻を受けてなお、夜天光の攻撃能力は未だに健在だった。
ドガァァン
しかし、ついに大きな音ともに夜天光の脚部が爆発する。
<やっり〜!あったり〜♪>
ヒカルの放ったレールカノンが命中したのだ。
<なっ!そろそろヤバイか?>
<4対1でここまでやるたぁ、なかなかやるじゃねえか!>
<もう少しで艦長がシステム掌握するからさ、そろそろ降伏しないかい?>
リョーコたちのエステは、攻撃の手を少し緩めて降伏を勧告した。
<そうはいかない・・・こんな所で計画を破綻させるわけにはいかないからな。・・・だが、もはやここまでか?>
思ったよりも早い限界に、ヒロアキは戸惑いを隠せなかった。
ナデシコクルーの腕がこれほどまでに高いものであるとは予測していなかったようである。
<残り5分弱。少々早いが、撤退といこうか・・・>
タカアキがそういうと夜天光の機体が輝きはじめる。
<ぼ、ボソンジャンプかよ!?>
<行かせるかってんだよ!>
リョーコ達はいきなりボソンの光芒を放ちはじめた夜天光に驚く。
サブロウタがミサイルランチャーで追い打ちをかけようとするが、ヒロアキのジャンプが一足早かった。
サブロウタの放ったミサイルは、夜天光のいた方向に向かって一直線に進んでいくが、もはやそこには目標物である夜天光はなかった。
戦闘区域からボソンジャンプした夜天光は、アンジャベルのフィールド内にジャンプアウトした。
「敵、夜天光ボソンアウト。ナデシコDのフィールド内です!」
<おい、ルリ!逃げてしまうぞ!>
エステで追うには夜天光は遠くに跳びすぎていた。ナデシコの艦砲射撃もグラビティーブラストもダメージが期待できない。
リョーコが焦ってルリに通信を入れるも、プロテクト解除は現在70%といったところであった。
「ダメです。プロテクト解除は現在70%ほどです。どうやら追いつきませんね」
「艦長!敵艦が動きます。どうやらタケルに入るみたいです」
ハーリーの言う通りに、アンジャベルはタケルのチューリップに向かって動いていた。
そこにヒロアキからの通信が入る。
<今日はなかなか楽しませてもらったぞ、ナデシコ。だが、我々もここでやられるわけにはいかん>
「今日は?ということはまた会えるんですか?」
ギリギリまで時間を稼ごうと、ルリはプロテクトを解除しながらヒロアキと会話を行う。
<策士だな、ホシノ・ルリよ。まだこうなっても時間を稼いでシステムを掌握しようとしている。だが、その手にはのらんよ>
「そうですよね。バカではないですもんね。ルリちゃん、もういいからIFSを解除して」
システムの掌握を諦めたユリカは、ルリに命令をする。
「それもそうですね・・・。分かりました、ユリカさん」
ルリはシステムの掌握を解除し、IFSシートを元に戻して通常モードへと移行する。
<ほう、なかなか物わかりがいいのか?>
「いいえ、諦めは悪い方ですよ。これでも」
言葉遊びを楽しむヒロアキとユリカであるが、その心の奥ではまごうことなく違うことを考えているのであろう。少なくとも、ヒロアキはそのようであった。
<ふ、なかなかいい提督だな。立場が違えばもしかしたらな・・・>
感心すると同時に何事かを洩らす。ナデシコクルーには小さい声であった為に聞こえなかった。
ヒロアキはくくッと小さな笑いを洩らすと、すぐに真剣な顔になって話を続けた。
<本日は挨拶をしたまでだ。オレを捕まえたければ、火星に来い!>
「火星・・・?」
火星・・・。
全ての元凶が生まれ、全ての物事が終わってきた地・・・。
またもその火星が舞台となるのか?
ナデシコクルーはそう思ったに違いないだろう。
<そうだ、火星だ。極冠遺跡で待っているぞ。その時はオレも本気でお相手しよう!!>
「敵艦、チューリップに完全に入ります。追いつけません」
<・・・では・・らばだ、ナデ・・コよ・・・ンプ・・・>
ヒロアキからの最後の通信はチューリップの中からの為、ノイズが多く入っていた。
「通信途絶えました・・・」
「ハーリー君、木星宙域の敵反応を調べて。リョーコさんたちはしばらくはそのまま警戒に当たってください」
ハーリーに周囲の作的を命じるルリ。アンジャベルしか敵がいないというのは考えにくいからだ。普通に考えるなら、ここで敵の追加攻撃があってもいいはずだ。
<わかった・・・といっても、なんだかすっきりしねえよな>
<あれで本気じゃないってのは、一体どういうことなの・・・?>
ナデシコのエステバリスパイロットを相手に、4対1であそこまで持ちこたえる技量は並大抵のものではない。それくらいのことは素人目にも十分に分かるほどの戦いだった。
周囲の反応を確認していたハーリーが結果を報告する。
「・・・出ました。この木星宙域には敵反応ありません」
「わかりました、リョーコさんたちのエステバリスの回収を急いでください」
周囲に敵反応がないので、エステが帰還してくる。
「しかし、敵反応がないというのは・・・」
「どう考えたっておかしいやんな」
ブリッジクルー全員が声のした方向を思わず振り返る。クルーの予想に違わず、ブリッジの入り口に立っていたのはアユムだった。
「アユムちゃん?どうしてここに?」
ユリカが尋ねたように、パイロット要員であるアユムは、エステに乗って出撃しているはずである。誰もがそう思っていたのだ。
「どうもこうもあらへん。ウチは出られへんだんや・・・あ〜ムカツクゥ〜〜〜〜!!!」
整備班の話では、初めての換装に手間取ったために出撃機会を逸したとのことだった。
「はぁ・・・。それより敵さんがこの辺におらん、っちゅうんはどういうことや?」
敵がこの宙域にいないというのは明らかに不自然であった。
ヒサゴプランの乗っ取りに敵の目的が入っているなればこそ、各ターミナルコロニーで戦端が開かれたのである。
現在ではコロニーの戦闘はほぼ鎮圧され、統合軍の大艦隊は火星へ向かっていた。
「火星に残存勢力を集結させてるんやろか?」
「計略?罠?まんまと嵌められた、ということですかね・・・それとも」
アユムやルリの言うような可能性はあった。あまりに不確定な予測ではあったが。
しかし、ユリカの次の一言でブリッジの雰囲気は一気に冷たくなった。
「計略、罠・・・そうかもしれないね。ナデシコDにはナデシコCよりも強力にしたIFSシステムが装備されているって聞いたから・・・もちろんルリちゃんみたいな人が必要なんだろうけど・・・」
最悪の予測を口にしたユリカ。その言葉にほとんどのクルーが口を閉ざし凍り付いた。
「うん、絶対にいるよ。そうじゃないと、わざわざナデシコDを強奪するわけないよ!」
ユリカが言葉を続け、敵にルリのようなオペレーターがいると断言する。その最悪の可能性にリョーコが思わず口を開く。
<それはまずいぜ!もしそれが可能なら、統合軍の大艦隊は・・・>
最悪の事態を想定したユリカの言に、リョーコは焦燥を見せた。
「まさに飛んで火にいる夏の虫。統合軍は待ちかまえとった火星の後継者にシステムを掌握されて全滅するやろな・・・」
そのリョーコに相槌を打つようにアユムがそれに答える。こちらは至って平静としている様子である。流石に練習艦ながらも艦長を勤め上げた人間、というべきだろうか。
<なら、早いとこ火星に向かわねえといけねえじゃねえか!>
<そうそう、原稿だって締め切り前に書き上がったら楽だもんね。早いに越したことはないよ>
<火星に行きマース・・・>
パイロット達も先程の戦闘で闘志に火を付けられたようであった。
燃焼不足だったエンジンに火が点ったような活気を見せている。
「よっしゃ!ほんならはやいとこ火星に行きましょや、ユリカさん、ルリさん!!」
「分かった!よ〜し、ルリちゃん。火星に向かって全速前進〜!!」
ユリカの掛け声がナデシコのブリッジに響き渡るのだった。
〜あとがき座談会〜
こーそんおう「ども。第8話をお送りしました」
ユリカ「『ども』じゃな〜い!」
こ「なんすかユリカさん?眠いんで寝たいんやけど・・・」
ユ「私の出番が何でこんなにないの〜!ついでにあとがきに登場するのも遅いし〜!!」
こ「あなたはまだいい方ですって・・・。ジュンなんか・・・」
ユ「そういえばジュン君居ないよね?どこいったの?」
こ「・・・3話以降登場してへんで、彼・・・」
ユ「え〜、どうして〜?」
こ「決して忘れていたわけではない・・・彼は艦長の仕事に励んでいますから」
ユ「そっか〜。ユリカはナデシコの提督さんなんだけど、ジュン君はアマリリスの艦長さんだもんね」
こ「・・・彼には後でまた登場してもらうし。そう、決して忘れてたんやないで?」
ユ「あと、敵の・・・なんて言ったかな?」
こ「ウエスギ・ヒロアキね」
ユ「そうそう、その人。ほんとにすぐに帰っていっちゃったし。それにボソンジャンプ適合者?」
こ「ノーコメント。軍機や、それは」
ユ「火星はどうなっちゃうのかな?アキトはいつ出てくるの〜!?」
こ「それらは続きを御覧あれ、ッてなとこです。感想、誤字・脱字・誤植、批判等意見はお気軽に出して下さい〜。それでは〜」
ユ「アキトアキトアキトアキトアキトぉ〜〜〜〜ッ!!!私ももっと出してよ〜〜」
代理人の感想
そーいやアキトって全然出てこないですねぇ(爆)。
今頃どこで何をしてるんでしょう。
まさか、ルリたちのピンチに颯爽と登場する為、
タイミングを見計らってるとか(核爆)?
追伸
アトミックバズーカはついてませんでしたが、それに代わる物はついてたようですね。
このままだと統合軍艦隊は地球連邦軍宇宙艦隊の二の舞ですな(笑)。
アズマ准将、本当にバーミンガムになってしまうのか(爆)?