機動戦艦ナデシコ





A Story after the Movie...





“E”s from Venus






第12話 騎燐の長










火星。
もうすぐナデシコが来る。
オレは、やっとここまで辿り着いた・・・
長かった復讐の成就が今なされるのだと。
だが、それだけではない。
高揚感とともに、何とも言い知れない感覚に包まれる。
この感覚は何だ?

武者震い?

自責の念?

喪失感?



いや、そんなものではない。
今まで幾度となく感じてきた感覚・・・





・・・逡巡?



逡巡・・・なのだろうか?





そうなのか・・・?



本当にオレは復讐を望んでいるのか・・・?








望んでいる、それは確かだろう。
だが・・・
オレは・・・



オレは・・・







・・・オレは何のために戦っている・・・?








兄さんは復讐とその誇りのため。

従っている部下達は誇りだけでなく金星の独立、自治のためもあるだろう。

火星の後継者どもはその理想と理念をかなえるため。

地球連合のものどもは平和のためや、その権益を守るためか。




・・・
・・・・・・



ではオレは?
オレは何のために戦っている?



・・・誇りもなく

兄さんに従って・・・

・・・理想もなく

部下達を従えて・・・

・・・戦うことを

仕事だと割り切って・・・







全ての・・・もの。

何かしら守るものがあって・・・

掴みたいものがあって・・・

それのために戦っているのだろうか?





本当にこれでいいのか?

これで・・・

・・・この戦いで


・・・


オレは・・・



・・・何をしたいんだ・・・?











オレは火星で生まれた。
両親はナノマシンの研究者だった。火星の研究所でナノマシンの研究を日夜行っていた。
あるとき、そこに地球連合の宇宙開拓局のお偉いさんから極秘裏に打診があった。

「ナノマシンの研究を金星でしてみないか?」



地球連合が主体となった事業で、極秘のうちに金星の植民を進めようというものだった。
すでに小さなコロニーが作られ始め、研究するのに十分な施設はあったらしい。
両親も喜んでそれに参加した。植民の為のテラフォーミング用のナノマシンの研究は両親の宿願だったからだ。

そして、多くの研究者や火星・地球から極秘に採用された住民=研究者が金星に移住した。
オレは3歳、兄さんは6歳の時だった。



金星での生活は決して楽ではなかった。
物資の殆どを援助物資に頼っていた為だ。金星は自給自足するにはほど遠い状態だった。それでもみんな未来の為に働いた。
特に父さんと母さんはテラフォーミング用のナノマシンの開発を急いでいた。
失敗の連続で、苦しい生活だったが、両親と多くの人たちの生きる姿は美しく、輝いていた。
そんな人たちに囲まれて、オレと兄さんも育っていった。





しかし、その研究の半ばに通達があった。非情な通達だった。
出所は地球連合。
その内容は酷いものだった。

「金星の植民計画をなかったものにする」

オレ達はもちろん何がなんだか分からなかった。特にオレと兄さんはまだ小さかった。
しかしオレでなくとも、大人であってもこの状況を飲み込めなかった。
捨てられたなどということは考えもつかなかった。
金星の開発は、人類に大きな恩恵をもたらす。そう夢を持って今までやってきたのだから。
見捨てられるなど、まさか夢にも、露ほどにも思わなかった。



しかし、地球の責任者は全ての宇宙船を破壊して帰っていった。金星の開拓者が出られないようにして。
金星植民の存在の全ての隠蔽だった。
おそらくスキャンダルや使い込みなどの疑惑と共に闇から闇へ葬られたのだろう。





オレたちは金星に取り残された。
そこから苦難というのも甘すぎる日々が続いた。
みんな、それこそ血を吐く思いをして働き続けた。
父さんと母さんは、それこそ不眠不休でナノマシンの開発を続けた。
テラフォーミングが行われれば、ここの生活も少しは楽になる。そう信じていた。

しかしできるのは、テラフォーミングとは違う、副産物というべきナノマシンばかりだった。

機械作業をはかどらせるIFSナノマシン。

コンピューター操作のIFSナノマシン。

記憶媒体となるナノマシン。

副産物とはいえ、利用価値は高かった。
オレと兄さんはそういったナノマシンの被検体として実験に参加した。
ほんの子供にできることは、実験に参加することくらいしかなかった。
少しでも、両親の役に立ちたかった。



それらは確かに、金星の生活で非常に役立った。
しかし、物資難のコロニーにおいてはコントロール系のナノマシンよりもテラフォーミング系統のナノマシンが早急に必要だった。物資が、特に食料はギリギリの生活の日々が続いた。

そんな生活を打開するため、父さんと母さんは死に物狂いの日々を続けた。





そしてあの日が来た。

実験中の事故。

機械の暴走で父さんと母さんは帰らぬ人になった。

オレが11歳、兄さんは14歳だった。

悲しかった。

辛かった。

でも・・・

何故か涙は出なかった・・・



そして兄さんは、父さんの遺志を継いでナノマシンの研究と、金星の開発に取り組んだ。
父さんは金星のコロニーの代表的存在だったが、兄さんもそのナノマシンとコンピューターの知識と実績で若くして金星の代表者にまでなった。
『絶望的な状況において望まれるのは、いびつなまでに強い者である』
とは誰の言葉だったか。



その後、金星で生活していくのにどうにかできるくらいまでにはなった。

だがコンピューターの演算で弾き出される回答は、いつも同じだった。

『持って10年』

このコロニーだけでは生活を営むことは困難、いや不可能だった。





そんなある日、兄さんが地球連合のコンピューターにハッキングした。
兄さんは地球連合が金星から手を引いた理由を探っていたらしい。
そこで驚くべき事実が発覚した。

地球の奴等が金星の開発を中止した直接の理由。

それは火星にあった。

火星で古代遺跡が発見され、ボソンジャンプだけでなく様々なロストテクノロジーが発見された為だ。
奴等は金星が金にならないと判断した。
ロストテクノロジーの方に利益があると踏んだのだ。
目先の利益につられ、金に群がる政府高官。
奴らの歓心を買ったのは、火星のロストテクノロジーだった。

さらに木連の存在が発覚していた。
地球の連中は木連の存在を知るやいなや、もう金星開発に金はかけられないと判断した。
こういったときによく使われる手段。

・・・トカゲのしっぽ切りが行われた。



開発事業は廃棄されたのだ・・・




・・
・・・

人の尊厳よりも保身。

人の夢よりも利益。

人の命よりも保身。

何よりも利益と保身。



利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身利益保身!!!!!





その事実を知った兄さんは部屋に閉じこもった。
そしてオレの前に顔を見せた兄さんは、やつれながらも笑顔でこういった。

「ヒロアキ、僕たちのやるべきことが分かったよ・・・。それは、地球への復讐だったんだ」

兄さんの中に鬼が生まれた瞬間だった。





それからの兄さんは全てを復讐の為に行った。
軍事用に特化したナノマシンの開発。
極秘裏に地球企業に打診し、明日香インダストリーの協力を受けた。
父さんと母さん、兄さんの開発したナノマシンや技術の提供と、地球圏制圧後の優遇を条件に。
物資は極秘裏にマスドライバーで打ち出されて届いた。主として生活物資、軍需物資などだ。その物資のお陰で、何とか金星での生活を続けることができた。

そして、その物資の中に火星の技術もあった。

「金星を見捨てて、古代火星の技術に奔った奴等がその技術で復讐されるなんて考えただけでゾクゾクしてくるよ」

今までとは目の色が違った。
その銀色の瞳の中に映るのは、復讐の、怨念の炎だった。
狂気をはらんだ天才を止めることは、もはや誰にもできなかった。



そんな間に木連と地球との戦争が起きた。
それが終結すると、今度は火星の後継者という輩が反乱を起こした。
その間、オレ達は金星軍事機構・太白を作り上げ、木連のプラントを手に入れることもできた。よくオレ達に格好のいざこざを行ってくれたものだ。
そして兄さんは今回の計画を作り上げた。
火星の後継者を隠れ蓑に使うことを。
火星の後継者を使って地球のヤツらの目を向けさせ、オレ達がその隙に地球に侵攻する。
それにあたって、オレには最重要の任務があてがわれた。

ナデシコCの足止め。

ネルガルが建造中のナデシコDを強奪し、ナデシコCをどこかに釘付けにする。

統合軍艦隊と併せて足止めをする効果を考え、目標地点は火星になった。
オレたちが助け出し、援助している火星の後継者も火星に集結させる。
目的のためにこの作戦は非常に有効だった。
しかも、火星という舞台は目くらましには最適だ。
いわば、オレ達は囮だ。



そして、今の今までこの作戦は上手くいっている。
オレ達にこの作戦はかかっている。





そうだ。
失敗は許されない。

ヒサゴプランは兄さんがシステムを乗っ取っているだろう。
統合軍艦隊の殲滅は成功する。

問題がナデシコだ。
必ずナデシコの足止めをしなければ。

このナデシコD、いやアンジャベルを使って。

オレの最大限の能力を使って。

この少女、サンゴとカグヤを使って。





復讐だとかそういうことは今は考えないでいい。

何のために戦っているのかなんてのも、考えなくていい。

今ある任務をこなすだけだ、いままでのように。

戦って、壊して、

遊んでいればいいだけだよな。







・・・そう、今までのように・・・












〜2回続けての作者のあとがき〜

第12話をお送りしました。いかがでしたでしょうか?

まずは前回のあとがきの訂正から。
「盤古」とは混沌のことである、みたいなことを書きましたがちょっと違いました。渾沌(混沌)から生じたものが盤古であって、混沌そのものではないです。ま、似たようなもんなのですが、間違ったことを書いてしまって申し訳ないです。

さて、ようやく敵の正体と目的を大方明らかにしました。長かったですね〜、私自身振り返っても。流石にここまで引っ張ることになるとは、思いも寄りませんでした。
あ、作中の言葉はもちろん私の創作です。信じないように(爆)。

今回で大体の背景は明らかになったのではないかと思いますが、どうでしょう。
それでも穴だらけな事は否めません。
つうか穴ばっか。
日々精進に励みます・・・

さて、今後のために太白の主要人物の簡単な説明をします。

ウエスギ・タカアキ
金星軍事機構・太白の最高司令官。太白には金星に植民したほぼ全ての人間が参加してます。
マシンチャイルドは先天的に遺伝子からいじらないといけないが、彼の場合は後天性IFS強化体質化ナノマシンを打ち込んでます。これは偶然の産物で、自分の身体を研究して模倣したものを地球の明日香インダストリーにサンプルとして送っています。その結果がカグヤ嬢です。
はっきし言って天才で、ルリと比してもほとんど差のない能力を有します。ただし、これは彼が色々な軍事用・強化ナノマシンをぶち込んでいるため。そのため、このままだと寿命が近いです。はっきし言って、ボロボロ。もうすぐ死にそうです(爆)。
金星破棄の事実を知ったときに壊れてます。それ以降、地球への復讐心をたぎらせて今回の計画に到ってます。

ウエスギ・ヒロアキ
タカアキの弟。太白の特殊部隊・騎燐の長でアンジャベルの艦長。
ちなみに騎燐は麒麟の当て字。騎は麒の当て字、機動兵器にのる(騎乗)という意味を込めてます。燐は麟と同義字でもあり鬼火という意味。
兄とは違いマシンチャイルドではなく、機動兵器乗り。ただそのために、色々なナノマシンをぶち込まれています。ナデシコDを強奪した(第1話)のは彼。
以下、太白の構成員は大抵タカアキの開発したナノマシンを身体に打っています。

トライ・サンゴ
今回の太白の作戦の要となる存在です。名前は瑠璃玻璃の設定より、七宝の珊瑚から。ちなみに七宝は金、銀、瑠璃、玻璃、シャコ、珊瑚、瑪瑙(メノウ)。シャコと名付けるよりはいいでしょう?
純マシンチャイルドで明日香インダストリーが総力を上げて作り上げた、ただ一人の存在。その後、太白との契約と計画のために譲り渡す。もちろん事後処理はほぼ完璧である。四神衆の白虎。性格的にはかなり明るいが、子供故の無邪気な残酷さを持ってます。

リンドウ・サヤ
特戦部隊・四神衆の長で青龍。騎燐=アンジャベルの副長(直接戦闘担当)も兼ねます。某A社の某ゲームから名前そのまんまの拝借で、剣使いです(爆)。

アサミ・ミツヒコ
某探偵ではない。漢字をあてるなら「朝巳光比古」。四神衆の玄武。ゲリラ戦のプロ。相手の死角死角を取る戦法が得意。冷静沈着で、性格は至って真面目。でもって暗い。

トミヤマ・タクミ
四神衆の朱雀。スナイパーで、生身なら1km先の的を打ち抜けます。まるで某13並(爆)。エグザバイトでなら数十km先からでも狙撃可能。でも某デュークと違って、性格はかなり軽い。シミュレーターでは敵と同時に味方もロックオンして撃墜することから「味方殺し」とまで呼ばれたことも。本人はその軽い性格のために全く気にしていないが。

オニキリマル・カグヤ
特戦部隊・騎燐の副長(非直接戦闘担当)。明日香インダストリーの令嬢です。前に書いたとおりに、IFS強化体質ですが、太白のナノマシンを投与することで造られた、後天的なマシンチャイルド。
あとは・・・しみつ♪





さて、話は変わりますが現在次の13話で悩んでいます。一旦書き上げたのですが、論理的に考えて、うまくいっていないのです・・・
もうグッチャグチャになっていて、どうしたらいいのか分からない状態です(泣)

そこで読者のみなさまのお力を拝借したいと思います。
ご希望の方にはその相談に乗っていただきたいのですが、どうでしょうか?
ぜひ、論理的に「ここはおかしい」とか「ここはいいんじゃねえの?」とか指摘して頂いて、相談に乗っていただければ、と思います。

相談に乗っていただける方は、私宛にメールを送る、もしくは掲示板にメアドを載せてその旨をお伝え下さい。その際、メールの件名に「13話草稿希望」とか分かるように書いて送って下さい。「Re」だけとかでは絶対に送りませんので(というか即デリします)注意して下さい。あと、そのまま本文に貼り付け希望か、テキストファイル添付にするか(圧縮するかどうか)も書いてください。

もちろん、読了後に指摘をお願いしますね。



それでは電波と電波の交錯する所で、またお会いしましょう。


 

代理人の感想

うわ〜、地球連合って全く変わっていませんね〜。

土星トカゲならぬ金星トカゲが既にいたとは。

・・・・・・まさか、まだ他にもいたりして・・・・・・

まぁ、木連のことも金星のことも氷山の一角には違いないんでしょうが。