火星全域に渡って展開していた火星の後継者の無人兵器群は、統合軍艦隊の前にさしたる時間も経たずに全滅した。
統合軍も流石に3回目の火星の後継者に頭に血が上っているのだろう。その総力を出しきって無人兵器群を壊滅させている。その時の全力をもって敵に当たるのは、兵法の基本である。
しかし、何重にも張られた無人兵器群を突破するのには多少の時間がかかっていた。
その間にいつの間にかナデシコは統合軍艦隊に近いところまで来ていた。
機動戦艦ナデシコ
A Story after the Movie...
“E”s from Venus
第13話 イワト上空
ホログラム表示される3D地図を見てヒロアキは独りごちる。
「そろそろか。まさか統合軍相手にオレ達が出しゃばるわけにはいかないからな。さすがの草壁達も統合軍程度に負けるって事はないだろう」
ふと隣を見ると、サヤがニカッと笑いを浮かべていた。彼女はこの状況を楽しんでいるみたいである。
「おいおい、それじゃヒロアキ、それじゃあまるで悪役のセリフじゃないか」
サヤはさっきのヒロアキの独り言を聞いていたようで、そういった後に自嘲気味にアハハと笑った。
「地球側から見れば我々は悪以外の何者でもない。だが、後世の者は勝った者を正義と見なすからな」
ミツヒコが冷静にそんなことを言う。
勝てば官軍。いつ誰が作った言葉かは知らないが、実に如実に歴史の不条理を表現している。歴史は『できる』ものではなく『つくる』ものである。いや、もっと正確に言えば『つくられる』ものなのである。
ミツヒコの言葉に、ヒロアキは勝たなければいけない、という念をさらに強める。
「ん?そういえばタクミはどうした?」
ヒロアキは戦闘前だというのにタクミの姿が見えないのに気付いた。
「ああ、アイツはまたいつもの用意だよ」
サヤの答えたように、トミヤマ・タクミの戦闘準備と言えるのが飯であった。極貧の頃の反動か、彼は食料の安定が確立すると、大食漢へと変化したのであった。その癖は、騎燐のクルーの頭痛の種とはなっていたが、食事が終わると彼は四神衆・朱雀のタクミへと変化する。
「やれやれ、困ったもんだ・・・」
半分以上諦めの声とともにヒロアキが吐き出す言葉には、毒気がない。もう気にしていないのと、それ以上に火星の後継者が、統合軍艦隊に対してどう出るかが気になっている。
そんな考えを内に秘めて、助け出した人物に対して呟きを洩らす。
「草壁・・・抜かるなよ・・・いくら貴様等でも統合軍に負けるはずはないだろうがな」
しかし、流石に今回は統合軍程度になら負けないだろう、と思いを巡らせる。極冠周辺にはジャミングシステムを設置してあるのである。統合軍はまともに攻撃できないであろう。
草壁は生かしておくと危険ではあるが、火星の後継者をまとめるには必要な神輿なのだ。
それに、いつでも始末できる。まさか小早川が埋伏の毒とは気付かないだろうと考えていた。
『始末するのはいつでもできる。そうだよね?』
兄・タカアキの言葉が浮かんできた。
「兄さんがそういっているのだから、間違いない。それに、俺だって少しは腕に自信がある」
自分自身に呟いて、モヤモヤとした不安感を振り払う。
「草壁、救い出してやっただけの働きを見せてくれよ?」
懸念を吹き飛ばすように、草壁に通信を入れた。通信を受けた草壁は多少興奮しながら言う。
<我々とてそうそう何度も過ちを繰り返す訳はない!>
「そうだな、ジャミングシステムもあることだ、期待している。統合軍艦隊をしばらく遊んでやってくれ」
草壁の発言にヒロアキは素っ気なく返答した。
最初から火星の後継者という存在に何の期待もしていないのである。
いや、兵力に期待していないというのが正しいだろう。火星も古代火星人の遺産も、太白にとってはどうでも良かった。
ただ『火星の後継者』という地球の目を逸らすのに絶好の隠れ蓑が欲しいだけなのである。
草壁は草壁で、計画の成功の暁には、火星の自治権とボソンジャンプの技術を貰う約束を取り付けていた。救い出しただけで、義理や人情のみで、人間が、いや集団が動くということは滅多にない。そう考えると、双方の利益の一致という一種の契約関係が両者の間に成立したのである。
その契約の上で、残存勢力だった火星の後継者にタカアキ達が兵器を与えていた。
また、もし火星の後継者が反乱を起こしても、大した輩ではないと考えていた。殆どが無人兵器だからである。もしもの時のために小早川元昭が埋伏の毒として潜んでもいる。最新のナデシコ級戦艦であるアンジャベルがあればなおのことであった。
『狡兎死して走狗煮らるる』
この言葉のように、地球を潰した後で火星の後継者が邪魔になれば、これも潰すということが太白では決定していた。
「統合軍は流石に草壁達でどうにかするだろう。ナデシコだが、草壁達が適当にあしらわれたら、システム掌握で動きを止めてしまうからな。いいか、カグヤ、サンゴ?」
二人のマシンチャイルド、カグヤとサンゴに向かって確認の命令を下す。
「分かっていますわ。我等が金星のために、ナデシコに負けるわけには参りません!」
「は〜い。終わったらオモイカネ貰っていいんだよね〜?オオナムジと喧嘩しないといいけどな〜」
緊張し、戦意が高っていくカグヤに対し、サンゴはこれからの戦闘が嬉しくてしようがないようであった。・・・いや、ご褒美としてのオモイカネに御執心なのかもしれない。
統合軍もサンゴを使ってシステム掌握すれば、いとも簡単に制圧は可能である。しかし、それでは計画に破綻が生じる可能性があるため、タカアキはそうすることを認めなかった。
ヒロアキ自身も、それでは面白くない、と考えている。
突如、草壁の艦から通信が入る。ウィンドウに映し出されたのは南雲義政であった。
<ウエスギ殿!対ナデシコの先鋒には是非私に頼む!>
南雲がヒロアキに通信を入れてそう頼んできた。
「そういえばコイツはナデシコに深い因縁があったのだったな。いや、こいつに関わらず、火星の後継者はナデシコとは並々ならぬ因縁があったか」
ヒロアキの頭をデータとして残っているナデシコとの戦闘がよぎる。
<あのナデシコめに一泡吹かせねば、この南雲義政の名が泣く!>
やらせても良いだろう、とそんなことを考えていると、どこからか笑いを堪える気配がした。
側にいたサヤが笑いを堪えていたが、遂に吹き出した。
「やる気満々だねぇ?しっかしアイツの救い出したときの顔と言ったら・・・アハハ」
南雲を救出したときの顔を思い出して、笑いをこらえていたようであった。
<り、リンドウ殿!そ、それは・・・>
慌てた様子で南雲は弁解するが、サヤがしばらく笑い止む様子はなかった。
南雲も腕は悪くない。いや、一般的に考えればむしろ強いと言っていいであろう。パイロットとしての腕そのものは、暗部の北辰に勝るとも劣らないであろう。
しかしナデシコのパイロット達相手にどれほど持つものなのか。ヒロアキにとってもそれは疑問であった。
「で、どうするんだい、ヒロアキ?」
南雲の要請にサヤはヒロアキに呟いてくる。
「まあ遊びにはこれくらいの見せ場がないといけないだろう?」
サヤにだけ聞こえるように答えたヒロアキは、しばらくは火星の後継者に全てを任せることにして南雲の通信に答える。
「ああ、まかせた。落とせるものなら落としてもいいからな」
先日戦った感じでは無理だと判断していたのだが、ヒロアキはあえてそう言う。本音を言えば火星の後継者など、後々邪魔になるだけであるからだ。ナデシコが潰してくれるなら、手間が省けるというものであった。
戦闘状態に変化があったのか、通信士が報告をしてきた。
「敵艦隊を確認。現在無人兵器部隊の第三陣と交戦中」
地図を見ると、極冠のすぐ外に配置した無人兵器の第三陣と統合軍艦隊との戦闘が行われていた。この様子だと、統合軍はすぐに、ナデシコもじきにイワトに到達するであろう。
「なるほど、ゴマ粒のように拡がった大艦隊が確認できるな。統合軍の艦隊か・・・罠とも知らず、旧ヒサゴプランを使ってノコノコとやって来てくれたか」
アンジャベルはイワト上空の最後方で戦いを眺める構えである。あくまでナデシコの戦闘不能が目的だからである。
「さあて、おいでなすったぞ?軽く統合軍花火でも見てから、火星の後継者とナデシコのお手並み拝見といこうか?」
ヒロアキはそう呟くと同時に指令を下す。
「戦闘待機状態に移行だ!艦内第一種警戒体制を発令!!サンゴ、ステルスモードを起動して警戒!」
タカアキは艦長席に座ると艦内に指令を出す。
「りょ〜か〜い。ステルス、ステルス、テトリス〜っと♪ん〜と、プロテクトもかけていいよね〜?」
サンゴの声の方を向くと、タカアキはうなずいて許可を出す。
「そうだな、火星の後継者の広域ジャミングに対するプロテクトもかけないとな」
サンゴとカグヤはメインコンピュータのオオナムジにアクセスしてステルスとプロテクトをかけ始めた。
「艦内の乗員全てに連絡します。現在より本艦は第一種警戒体制に移行します。またステルスモードの起動とプロテクトがかけられます。繰り返します・・・・・・」
艦内放送がかかる。いくらアンジャベルがワンマンオペレーション艦でブリッジで殆どのことが出来るとはいえ、整備員や生活部といった乗員も乗艦しているのだ。彼等が準備・警戒をすることで戦闘態勢は整う。
<ヒロアキ!アンタもそろそろ準備してくれ>
ブリッジからデッキに移動したサヤがヒロアキのウインドウに表示された。パイロットスーツに着替えて、丁度エグザバイトに乗り込むところである。
<そうそう、ナデシコを「遊ぶ」んだろ?統合軍がもうすぐ来るから、いちおーさ>
続いて『戦闘準備』である大量の食事の終わったタクミが映し出される。
「そうだな、そろそろ用意しておこうか。分かった、デッキに向かう。お前達、オレが出ている間は頼んだぞ」
ヒロアキはブリッジクルーにそう告げると、足早にデッキに向かった。
喜びにわき返る所を、一気に絶望の底へと叩き込む。これほどまでに人の嗜虐心を駆り立てるものはない。ナデシコはどんな表情を見せてくれるのか・・・
「本気で戦えると思うと・・・フフッ、ハハハハハハハッ」
〜あとがき座談会〜
こーそんおう「やっと改訂終わった・・・長かった・・・」
ヒカル「ていうかさ〜、ほとんど書いてなかったでしょ?」
こ「まあ、そんな気張って急いで書いても、私の性分やとな」
ヒ「醒める?」
こ「そう。熱しやすく冷めやすい質やから」
ヒ「で、結局何してたの?」
こ「そ、それは・・・まあ色々と・・・」
ヒ「色々って?」
こ「なんだ、まあ・・・色々と・・・」
ヒ「そりゃ、最萌トーナメントに参加したりしてれば書かないよねー」
こ「え゛・・・?何でそれを・・・?」
ヒ「ふふふっ、私の情報力を甘く見ないでよね〜」
こ「ああ、盛大な祭りやったなぁ」
ヒ「もうこの世界から脱却できないよね〜」
こ「・・・できない?」
ヒ「うん。そりゃ決勝戦の萌えらじを朝の最後まで聞いてちゃね〜」
こ「・・・アカン?ダメ?」
ヒ「ダメダメだよ」
こ「・・・蒲鉾達よりも?」
ヒ「っていうかさ、君もヤバイんじゃないの?は・ん・ぺ・んさん♪」
こ「ぐぼぉっ!!!!!」(激しく吐血)
ヒ「やーいやーい、蒲鉾に踏み込みかけ〜」
こ「や、やめて・・・これ以上私を進化させないでくれ」
ヒ「黄金の腕輪あげようか〜ぁ♪」
こ「し、進化の秘法か!!!?やめろ!やめてくれ!!」
ヒ「うふふふふふふ〜。Benさん他、蒲鉾達が呼んでるよ〜」
こ「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」
代理人の感想
・・・・・・・・・・・「墜ちた」、な。(核爆)