Ben様 作 『<時の流れに>』
The Another Edition
T O K I N A D E P L U
S
〜All’s fair in love and war〜
第三話 「早すぎる『ネタ切れ』」
――全治2ヶ月半。
それが、ガイの状況だった。
エステから飛び降りてこともあろうか足を折り、そしてまだ治りきっていない足を含めて、ナデシコクルーの大半に踏みつけれた結果だった。
しかもガイは、パイロットとしてナデシコに乗艦するも、一度も戦っていないという熱血ヤロウである。
つまりは『バカ』なんだ。
ジュンは影は薄いが、バカではない。
ガイはキャラは濃いが、バカなんだ。
・・・・どっちがいいのか。俺には分からない。それは人それぞれ考えるものがあるだろうしな。
ともかく、俺はせっかくなのでガイの見舞いに行く事にした。
ルリちゃんも誘ったんだが、「嫌です」の一言に終わった。
――医務室内にての会話(オモイカネ記録:音声のみ)。
「こんちわ、ガイ・・・います?」
「おお!!『心の友』とかいて『しんゆう』とよむ親友よ」
「まんまじゃないか。しかも妙に意味不明だぞ」
「まあ、いいじゃねぇか。・・・それよりよ。だれも見舞いに来なくてな〜、暇だったんだよ!!」
「これ持って来たぞ」
「おお、その縦30センチ、横42センチ、高さ12センチの白い箱。・・・・まさか、それは俺の部屋にあった『ゲキガンガープレミアムボックス(限定生産500個:ナナコさんフィギュア付き)』の、見る用、保存用、何かトラブッた時用の三個の内の一個で、しかも見る用じゃないかっ!!」
「なんかえらい説明的だけど、そうだよ、これで暇でも潰してくれ」
「おおう!!ありがとよ『心友』よっ!!これで暇を潰せるぜっ!!!」
「全治2ヶ月半だけど、安静にしてろよ」
「大丈夫、おれの兄貴なんかダンプに跳ね飛ばされて、六日後には高校の入試にいったことあるからな!!しかも受かったし!!・・・骨折なんて2〜3日で治るって!!」
「・・・・・・・・そ、そうか。悪いけど、俺仕事あるから戻るな」
「残念だ。一緒に見ようと思っていたのによ〜!!!」
「悪いな、また来るよ。じゃあな」
どーんという微かな音ともに、軽い振動がナデシコ艦内を揺らしている。
・・・・・まあ、有体に言えばミサイルがナデシコを包み込んでいるディスト―ションフィールドにどかんどかん当たっているというわけなのだが。
現在ナデシコは大気圏脱出を目指し、目下上昇中である。
その障害となるのが、地球を木星蜥蜴から守る六つの防衛ラインである。
上から順に言うと・・・・。
一、ビッグバリア。
二、外宇宙迎撃用ミサイル衛星。
三、宇宙ステーションからの無重力専用機動兵器デルフィニウム部隊。
四、地上からのミサイル迎撃。
五、地上発進の各方面軍艦隊。
六、地上からのラムジェット戦闘機部隊。
である。
そして、今は、第四防衛ライン――つまり地上発射によるミサイル攻撃の真っ只中というわけだ。
といっても、もう終わるころである。問題は次だ――。
「第四防衛ライン突破しました。・・・・・第三防衛ラインに入ります」
ルリちゃんがブリッジ全体に響くような声で言った。
そう、第三防衛ライン――デルフィニウム部隊がナデシコを待ち構えているだろう。ジュンを隊長として。・・・それにしてもせっかくの隊長機なんだから、ツノ付けて、本来の30パーセント増の機体性能ぐらい持ってほしいものである。もちろんカラーリングは赤だ。
あと、仮面でも被ってきて、階級が大佐だったりしたら、もうジュンは影が薄く、セリフも少ない、なんてことなくなるだろうに。ある意味、ガイ以上のキャラとなるだろう。・・・・多分。
俺がブリッジでそんなことをぼんやりと考えていると、ユリカがルリちゃんに聞いた。
「確か、・・・・デルフィニウムだったよね。・・・・フィールドで防げる?」
ユリカの問いにルリちゃんはきっぱりと言う。
「無理です。先ほどのミサイル攻撃でエネルギーを使いすぎました。フィールドの出力が持ちません」
「そっか」
ユリカは別に落胆した様子もない、予想通りだったんだろう。
「できれば、このまま一気に行きたかったんだけど、やっぱ無理か。ねぇーアキト?アキトはどうすればいいと思う?」
突如俺に話を振るユリカ。
――おいおい。
みんなの視線が俺に集中した。確かに、食堂所属のコックがブリッジにいて、しかも、艦長から意見を求められるなんて滅多にない事だろうからな。
しかたない、と俺は思い、考えていることを口に出した。
「エステバリスでナデシコを護衛するしかないんじゃないか?」
「やっぱりそう思う?・・・や〜ん、私と同じ考えだね〜、ユリカ嬉しいっ!!」
「ぐえっ!?」
抱きつかれ俺は目を白黒させた。
・・・・く、くるしい。
「ユリカさん、アキトさんを離してあげて下さい」
そのルリちゃんの声はとても暗かった気がした。しかも、ルリちゃんの顔を覗き込んだ、ミナトさんが顔を思い切り引き攣らせているのを、俺は見逃していない。
「えー、なんでぇ〜?私とアキトはラブラブなのよ〜?離れる必要なんてない、ないっ!!」
ユリカはそう叫んで、さらに俺を締めた。
・・・・・ああ、花畑が見える。
俺は意識を失いかけた・・・・その時。
『――敵機確認』
「オモイカネ。ありがとう・・・・、宇宙ステーションより九機のデルフィニウム部隊が接近中です。・・・交戦領域まで約10分です」
ルリちゃんはここでようやく俺と、俺の首を締めるように抱きついているユリカを見た。
――顔は無表情なのだが、目が怖い。なんか、・・・・・とにかく、恐怖なのだ。
ユリカもそれを見て、しぶしぶと俺を離す。
「エステバリスによるナデシコの護衛っていうのがいいと思うんだけど・・・・」
「だけど?・・・・なんですかな、艦長?」
プロスさんが問う。
「一機しかないってのがネックですね。せめて、もう一機あれば・・・・」
と、ここまでユリカがここまで言って、腕を組んで考え込んだ。
「あれ?確かパイロットってもう一人いなかったけ?」
ミナトさんが自分の席に座ったまま、顔だけをこちらに向けて言う。
つーか、何時の間にかパイロット扱いされてる俺。・・・・一応、コックなんすけど。
・・・しかたないか。
「そうそう、ヤマダ・ジロウさん!」
『ダイゴウジ・ガイだっ!!』
――お約束?
誰かが呟いたような気がしたが、とりあえずは気にしないでおこう。
俺はうんうんと一人で頷いた。
「なんでそのヤマダ・ジロウことダイゴウジ・ガイ(仮名)さんがエステバリスのコクピット内にいるの?」
ユリカが顔を傾げると、そのコミュニケの向こう側にいたガイはふっと笑う。
『愚問だぜっ!!研究所を襲う悪の集団っ!!それを救うのはこのナデシコ研究所の勇者であるオレ様しかいな〜〜〜〜いっ!!』
「いつからナデシコって研究所になったの?」
ユリカが俺を見て、いぶかしげに問う。
「はははは・・・・さあ?」
俺は乾いた笑い声を上げ答えつつも、立ちくらみを起こさんばかりの眩暈を感じ、こめかみを押さえる。
「・・・・・・・バカ」
その通りです。ルリちゃん。
『っしゃああああ!!!ゲキガンガーっ!!!!発進〜〜〜〜〜ん!!!!』
「・・・・・・・・・行っちゃいました。出撃許可まだ出していないのに」
メグミちゃんが呆れながらそう言うと、ブリッジ全体ですさまじいため息が起こった。
「・・・・・・アキト」
「分かったよ。俺も行くよ」
ユリカの言葉に、俺はもう一度盛大なため息をついて答えた。
それを見て、プロスさんが苦笑をしながら言った。
「すいませんなぁ〜、もちろん臨時報酬は出させて頂きますので」
俺はそれに力なく頷くと、デッキへと走った。
そして、ガイの発進から遅れること10分、俺はナデシコから発進した。
で、ガイはどうしていたかと言うと、一応回避行動はしていたらしく、よろよろと危なっかしい動きではあるがデルフィニウムの攻撃を避けていた。
それを見て、俺は今日何回目かのため息をつくと、もうこのまま放っとこうか?などいう危ない考えを思いついた。
しかし、その危険な考えも次の瞬間にガイ本人が映りこむウィンドウが現れたことにより、彼方へと追いやられた。
「何してるんだ!心の友と書いてしんゆうと読む親友ではない『心友』よ!!早く助けてくれぇー!!」
何か余裕があるように見えるのは気のせいだろうか?
俺の前には器用にも大きくなったり小さくなったりするガイの顔が映ったウィンドウがある。
「・・・・はあ、援護するからさっさとナデシコに戻れよ」
『おう!!俺の囮役としての任務はまっとうした!!後は頼むぜっ!!!』
そう言ってガイの操るスカイブルーのエステバリスはまるで泥酔のサラリーマンのようにふらふらとナデシコへと向かっていく。
・・・・・実に危なっかしい操縦だ。まあ、全治二ヵ月半の大怪我ではあんなものなんだろうな。、それ以上にあんな怪我でエステを動かせるという方が凄い。
「はいはい」
俺がそう言い、ガイのエステバリスから九機のデルフィニウムに視線を移した時だった。
ガイの千鳥足エステバリスに向かって、デルフィニウムから数発のミサイルが発射されたのだ。そのミサイルは明らかに、ガイのエステ以上のスピードを持ち、本調子のガイでは余裕で回避できるだろうが、今のガイの状態では避けきれないことは明白だった。
「――ちっ!!」
俺はあまりにも唐突だった為か、実力を隠す事を忘れた。
俺のエステバリスの右手に握られたラピッドライフルで、ガイへと迫るミサイルを正確に撃ち落とす。爆発音と共に、ガイの機体をミサイルの残光が照らし出した。
『・・・・・・・・す、すげえな。お前・・・・』
ガイの唖然とする声が聞こえる。俺は、そんなガイを見向きもせずに怒鳴った。
「早くいけっ!!俺が牽制するからっ!!」
俺はそう叫びながら、右に持つラピッドライフルで、円を描く機動を見せながら弾丸を放つ。
弾丸は漆黒の宇宙に溶け込み見えないが、確実にデルフィニウムにぶち当たり、爆発こそしないものの、その機動力を奪われ、ゆっくりと重力に引かれ降下していく。
「分かった!!」
ガイはナデシコに向かっていく。
残りのジュンを含めたデルフィニウム部隊は、俺の射撃を警戒してか迂闊には近づいて来なかった。
俺はぐっと歯噛みをした。
(確かに、俺はガイを助けるつもりだった。でもそれは、ムネタケの銃からだ!!くそっ!こんなに早くバレるとは・・・・医務室のベッドに縛っときゃよかった!!)
俺がそう悔やんでいると、ルリちゃんから通信が入った。
『フラグ、立っちゃいましたね。・・・・でも、仕方ないと思いますよ。あの状況でアキトさんが熱血バ・・・・ヤマダさんを見捨てるとは思えませんし』
「・・・・ありがと。そうだな、もう過ぎたことは仕方ない。で、後は説得か」
『・・・・ジュンさんが仲間にならない展開っていうのもありかな、とか私は思ってます・・・・ジュンさんをどうするかはアキトさんに任せます、好きに決めちゃってください。どーでもいいことですから』
「・・・・・が、頑張るよ」
ルリちゃんのその投げやりな言い草に、俺は顔を引き攣らせながら答える。
『はい、頑張って下さい。でも、仲間に出来なかったからって大丈夫ですよ。だって、彼は――』
「『いてもいなくても変わらないから』――だろ?」
俺とルリちゃんの声がハモった。
ルリちゃんは「はい!」と笑みを浮かべた。それを見て、俺は思う。
(・・・・俺も、ルリちゃんも結構ひどいこと言ってるよな)
まあ、自分で分かってるだけマシな方か、と俺はとりあえずの自己弁護を自分自身に言い聞かせた。
『というわけなので、一応、説得頑張って下さい』
「了解」
そこで、ルリちゃんとの通信を切る。
直後、今度はジュンからの通信が入った。
『テンカワ・アキト!!・・・・敢えて言おう、僕は君に憎しみを募らせているとっ!!!』
ジュンのどこか回りくどい言い草に俺は苦笑する。
「・・・・・変化球だな」
『お前の何がユリカの心を捕らえたと言うんだ!!・・・確かに、サセボでの戦闘は素人にしては良かったと思うが!!』
ジュンから見ても、サセボでの戦闘は良く出来たものだったらしい。・・・それにしては、プロスさんから、正式にパイロット登録してくれ、という話はきてないんだよな。
考え込んでいた俺を尻目に、ジュンはさらに叫びつづける。
『ナデシコのコック!、諸君らの食事を作るテンカワ・アキトはなんであんな操縦ができてしまうんだ!!何故だっ!?』
なんで木連ならぬ義連・・・じゃなくてギレン化してんだよ。
「アキトだからさ・・・・・ってそれは置いといて。じゃあ、お前はユリカの隣に立つ男は何を持っていればいいと思うんだ?」
『そんなこと、僕が聞きたいくらいだ!!、昔から、嫌いなものは食べてあげて、変わりに好きなデザートをあげて、宿題やってあげて、レポートも写させてあげて、・・・・とにかくいろんなことをやってあげたのに、ユリカはまったく振り向いてくれなかったんだぁ〜〜!!』
「そりゃそうだろ」
俺は言った。
ユリカが普通の女性と同じような感性を持っていたら、ナデシコなんかに乗りはしなかったろう。だって、ナデシコだし。それ以前にユリカにそんなことすること自体が間違ってるんだよな。はっきりいって。
「・・・・とりあえず聞いとくが、お前はなんでIFSつけてまで、火星にナデシコを行かせないようにするんだ?」
『・・・・それは』
口を濁すジュン。俺はその先を引き出そうとして、ユリカのの名を使う事にした。
「ユリカのためか?」
俺が言ったその名を聞いて、ジュンは大声で否定した。
『違うっ!!確かにそれも理由の一つだが、僕は成りたかった。二つ名で呼ばれる存在に!!その為に連合軍に入ったんだ!!』
「はあ?」
『例えば『赤い彗星のジュン』とか『連合の白い悪魔』とか。・・・・後、僕の名字からとってまんまだけど『青いジュン』・・・奥さん(ユリカだったらいいな、とジュンは考えていた)と一緒に戦場に出たり。それで青色のエステ乗って「デルフィ(デルフィニウムの略:ジュンの造語)とは違うのだよ、デルフィとは!!」って言いたかったんだ!!第三次防衛ラインで!!』
「・・・・・・・」
ジュンの告白に俺は絶句していた。
『でも、ユリカに置き去りにされた結果、僕がデルフィニウムに乗って、君がエステに乗っている!!!』
「・・・・・・ジュン。ナデシコに戻れ」
俺は呟くように言った。
今、はっきりと分かった。ジュンが何故ナデシコに選ばれたのか。ほとんどがユリカの付き添いと思っているのではないだろうか?・・・・・それは、違う。違うのだ!!そう、ジュンはナデシコに乗るべくして乗り込んだ人材だったのだ!!
俺は確信していた。
『・・・・・』
「お前が、軍では出来なかったことを。ナデシコなら・・・・・ウリバタケさんなら分かってくれる!!」
そこまで言った時、今まで、聞いていて感動していたのか、ウリバタケさんが涙をだらだら流すコミュニケが俺とジュンの間に浮かんできた。
『そうだ!!!分かる、分かるともぉ〜〜!!』
「!?」
思わず引く俺。
しかし、ウリバタケさんにはそんなことなどお構いなしのようだ。
『よし!!今すぐ戻って来い!!俺が、あのヤマダのエステを白く染めて・・・『連合の白い悪魔』は無理だが、『ナデシコの白い悪魔』を名乗らせてやるっ!!』
『ちょっと待てえーーい!!俺様のゲキガンガーになにするつもりだ!?』
今度はガイのコミュニケが割り込んできた。・・・・すでにコクピット内は混乱の渦中にあった。
『お前のエステを副長のエステにすんだよっ!!いい案だろ、どうせお前は、まともに戦ってすらないし、それに足折れてるし』
『だからって俺のゲキガンガーに・・・・・』
二人の言い争いをバックにジュンはまだ答えを出していなかった。
まだ、連合軍所属の軍人としてのプライドがあるんだろう。
そんなジュンの硬直し続けるデルフィニウムを、俺は自分のエステバリスのスラスターを噴かせ、一気に近づいた。そして右手を振りかざし、デルフィニウムを叩き飛ばす。
開かれていたウィンドウが消え、デルフィニウムはくるくると回転しながら遠ざかっていく。その回転運動がピタリと止まると、パイロットであるジュンは、ヘルメットの割れたバイザー越しに裸眼を覗かせながら、再び現れたウィンドウの中でヘルメットに包まれた頬部分に手をあてていた。
『殴ったね!親父にも殴られたことないのに!!』
「・・・・そのセリフがでてくるようならお前はもう十分ナデシコ系だよ・・・・」
『・・・・・・・・僕には帰れるところがあるんだ。こんな嬉しいことはない。わかってるよね。ユリカにいつでも会いにいけるから』
「そのセリフで決定的だ」
俺はそう言いきると、ジュンの反応を待った。
ジュンはしばし沈黙していたが、顔を上げると、周囲のデルフィニウム部隊に通信をつないだようだった。それはオープン回線のために、俺やナデシコにも届いていた。
『デルフィニウム部隊は全機、宇宙ステーションに戻れっ!』
『隊長はどうするんです!?』
『早くするんだ、まもなく第二次防衛ライン。このままだとミサイルの嵐に巻き込まれるぞ』
『・・・・・・・分かりました。・・・・ナデシコに行くんですね』
『ああ』
『御武運を。・・・・・・・・全機、宇宙ステーションに向けて帰還する』
その通信の後に、すべてのデルフィニウムが俺たちに背を向けて、遠ざかっていった。
『・・・・・ありがとう。寿限無・寿限無・5劫のすりきれ・海砂利水魚・水行末・雲行末・風行末食う寝るところに住むところ・やぶら小路ぶら小路・パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン・シューリンガンのグーリンダイ・グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助軍曹・・・はぁ、はぁ』
(名前、長っ!!)
思わず心の中で叫ぶ俺。
その長ったらしい名前をジュンが、見事に一息で言い終えた時、俺のエステバリスにオモイカネからの警告画面が表示された。
『第二次防衛ライン侵入。・・・・・ミサイル発射確認』
(やはり間に合わなかったか・・・・・長い名前を言っているからだっ!!)
俺はそう目の前の画面表示を睨みつけた。
どうやら、ガイはナデシコに着いたらしい。・・・・後はジュンか。
「ジュン、ナデシコに戻れ」
『はっ?・・・・うわっ!!』
俺は有無言わせないために、ジュンが駆るデルフィニウムをナデシコへと向けて蹴飛ばす。デルフィニウムは慣性により結構なスピードでナデシコへと向かっていた。
ジュンとの通信を問答無用に切った俺は、すぐさまナデシコのルリちゃんへと通信をつなげた。
「ルリちゃん、俺はこれからナデシコへのミサイルを迎撃しつつ、回避行動を行う。・・・・エネルギーフィールド範囲内のみだからかなり厳しいものになるだろう。でも、絶対にディストーションフィールドは解くなよ?」
俺がそこまで言い終わった後、ルリちゃんが口を開く前に、もう一つのウィンドウを出したユリカが口を挟んできた。
『そんな!無理だよ、アキト死んじゃうよ!?、フィールド解除するから早く帰艦して!!』
ユリカはほとんど涙目だった。
俺はそんなユリカを見つめて、微笑んだ。
「今からでは間に合わない。・・・・・大丈夫さ、絶対帰るから」
『ほんとだね?・・・・・もし帰ってこなかったら、私このナデシコを自爆させて、クルーごと心中しちゃうからね!!!』
『『『ええ〜〜〜!!??』』』
ユリカのバックでブリッジクルーの悲鳴があがった。
俺はその発言を聞いて、顔を引き攣らせた。
(こ、こいつは・・・・・マジでやる気だ)
『・・・・・・・・私も、同じ意見です』
ル、ルリちゃんまで・・・・・。これは、絶対に帰らなくてはな。
「わ、分かったよ」
俺はそう言って二人のウィンドウを消した。
そして、頭上から飛来するミサイルの嵐を見つめる。
「さて、・・・いっちょやりますか」
俺のその言葉が戦いの皮切りになった。
といっても、俺一人ですべてのミサイルが迎撃できるわけではない。
ナデシコの動力源である相転移エンジンは、周りが真空であればあるほど効率よくエネルギーを取り出せる代物だ。
つまり、上に行けば行くほどナデシコの相転移エンジンのパワーは上がる。そうなれば、速度も上がり、なおかつナデシコの鎧であるディストーションフィールドに回せるエネルギーも多くなるというわけだ。
ならば、俺は適当なところで、ミサイルの包囲網を抜け、ビッグバリアの手前辺りで待っていればいい。
・・・・・さすがに、エステバリスでビッグバリアを抜けられるとは思えないからな。
「・・・・・ターゲットロックオン、ファイアー!!・・・・なんちて」
俺はミサイルの弾頭目掛けて、ライフルを撃つ。撃つといってももちろん一発のみだ。これは、俺の駆るエステバリスがラピッドライフル一丁のみで、なおかつ、替えの弾装をもっていないからだった。
・・・・弾薬が切れても、ミサイルを破壊することは可能だ。イミディエットナイフもあるし、その気になればディストーションフィールドを拳に纏って、一気に突っ切るという荒技も可能である。
・・・やらないけどな。
なぜ、やらないかというと、多分大丈夫だろうが、破壊した途端そのミサイルの爆風に巻き込まれてはたまらんからだ。同じフィールドを張っていても、ナデシコ並にエステバリスがでかけりゃいいが、実際は遥かに小さいエステバリスである。伝わる衝撃は遥かに大きい――つーか直撃したら宇宙の藻屑となるだろう。ディストーションフィールドは、光学系兵器やグラビティブラストなどは防ぐが、ミサイルなどの実体弾の着弾時の衝撃までは防げないのだ。
「・・・・・・ちっ、そんなこと考えている時に弾切れか」
俺の目の前に『残念!残弾数ゼロ!!』という丸字が書かれたウィンドウが表示された。
こうなったら、もう一気に突っ切るか。ナデシコの方も大丈夫だろ。
とはいえ、突っ切ると言うもののなるべくの回避行動はせねばならない。ナデシコのフィールドはミサイルを完全にガードできるとはいっても、エステバリスのそれは簡単に破られてしまうかもしれないからな。
「・・・・・・・・行くぜ、相棒!!・・・って、なんか俺のキャラ変わってない?」
俺は自分の愛機であるピンクカラーのエステバリスにそう言って、背に付くスラスターを全開にした。
「・・・・第二次防衛ライン突破しました・・・・」
ミナトさんがそう呟きます。
ブリッジは暗い何かに支配されていました。
ユリカさんが抑揚の欠けた声で私に尋ねました。
「ルリちゃん、アキトは」
「テンカワ機、テンカワ機!!応答願います!!!」
メグミさんが必死でアキトさんへの通信をつなごうとしていました。
ユリカさんが何か言う前に、プロスさんが出てきて口を開きました。
「残念ですが、艦長。ミサイルとディストーションフィールドの板挟み。これを抜けられるのは、連合軍のエースでも無理でしょう。恐らく、生存は・・・・」
「・・・・・・・・・・自爆します!!!」
ユリカさんが顔を上げて、そう言いました。
ブリッジクルーはみな絶句しています。
やがて、というかかろうじて声を出せたのはプロスさんでした。
「か、艦長!?この艦作るのにいくらかかってると?それ以前にクルーを巻き添えにするつもりですかっ!!」
「アキトがいないなら私も死にますっ!!・・・・・負けられません、勝つまではっ!!」
「ええっ!?理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能!!」
重ちー?ハーヴェスト?
私はプロスさんから放たれる言葉を耳にしながらそんなことを考えていました。
それを聞いているのかいないのか、ユリカさんはにこりと笑いました。
「私は、恋する乙女なんですっ!!」
「あっ、心情的に理解『可』能」
やっぱり重ちーですね、プロスさん。
私はそんなことを思っていました。
そのプロスさんの隣にいたゴートさんが相変わらずの野太い声でぽつりと呟きます。
「理由になってないな」
「再び、理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能!!」
プロスさんの叫びがブリッジに木霊します。
私は、それがかなりウザかったので、止めようとオペレーターシートを離れました。そして、『理解不能!!』と言い続けているプロスさんに近づきます。
そして、背後に忍び寄った私は、右手に握られている極厚辞書を振りかぶって、角が当たるようにプロスさんへ振り下ろしました。
「うるさいです」
「理解不能理解不能理解・・・ぎゃっ!!」
グシャ!!という小気味いい音がします。ああ、ハーリー君だったらもっといい音が出せるのに、手加減しなくていいから。
私はにやりと笑ってそんなことを思い出しながら、横たわるプロスさんを見下ろしていました。
何故か周りのクルーが私を恐れるような目つきで見ています。そういえば、ナデシコBにいた時もこんな目で見られたこともありましたね。主にハーリー君(サブロウタさんにもやったことありますよ♪)をシバいた後とかに。
「自爆しませう!!・・・・今さら命を惜しむ者もいないでしょう!!」
――大勢います!!
ユリカさんにブリッジクルーの大半がそう心の中でツッコミを入れたことでしょう。
・・・・・まったくアキトさんがあの程度で死ぬわけないでしょう。
「ユリカさんは、アキトさんが死んだと思っているのですか?」
私はプロスさんの踏みつけるようにして、ユリカさんへと近づきました。足元で、うめき声が聞こえたような気がしましたが、なんとなくシカトしました。
「・・・・・・・分からない」
ユリカさんは俯いて顔を左右に振りました。
その顔はとても不安そうです。
私はそんなユリカさんを見つめて言いました。
「アキトさんは強い人です、あの程度で死ぬような人ではありません」
私がそこまで言うと、私の足元にいたプロスさんが這いつくばった格好でずれたメガネを直しながら言いました。
「で、ですが、あのミサイルの包囲網からは・・・・・」
「うるさいです。・・・・・・覇気脚!!」
「ぎゃっ!!」
私はなんとなく最近このみの格ゲーの某キャラ風に、声を出してプロスさんの背を攻撃しました。
次第にプロスさんは動かなくなり、それを見ていたゴートさんが手で十字を切って目を瞑りました。なんか冥福を祈っているみたいです。
メグミさん、ミナトさんの両名は、何故か泡を吹くプロスさんから目を逸らしています。
ジュンさんは・・・・・・まあ、いいでしょう。知りたい人がいるとも思えませんし。
「・・・・・・ともかく。実際、通信がないからって死んだと決め付けるのは早計だと思います」
私はユリカさんを見つめて、そう言いきりました。
ユリカさんは私を真っ向から見返して、満面の笑顔を浮かべました。
「そうだよね!!あのアキトが私を置いて死ぬわけないもんね!!」
「そうです!!『私の』アキトさんが死ぬわけありません!!」
「・・・・・・・アキトは私の王子様だから」
「・・・・・・・アキトさんは私にとっても王子様です」
私とユリカさんは真っ向から睨みあいをしました。
バチバチ!と私とユリカさんの視線がぶつかり合い、火花が散っています。
なんか周りから『ヒィイイイ!!』という声が聞こえてるような気もしますが、そんなことに構ってる暇はありません。
「・・・・・・・あ、テンカワ機発見」
メグミさんがそう呟きました。
私とユリカさんは音速の速さでそちらに振り向きます。
その時、私とユリカさんの視線を浴びたメグミさんが『ヒッ!』という微かな悲鳴をあげたような気がしないでもないですが、まあ、いいでしょう。
ともかく、テンカワさんが見つかったのですから。
「オモイカネ、どこ?」
『・・・・・・ナデシコの更に上空』
「なるほど、あのミサイル群を抜け出したのですね」
オモイカネの表示に私はぽつりと呟きます。
「なんですと!!信じられん腕前ですなっ!!」
私に背を踏み付けられているうつ伏せのプロスさんが、メガネをきらりんと光らせてそう言います。
「・・・・・ナデシコを待ちきれずに上空に逃げ出したってこと?」
「そうです、ミナトさん。アキトさんはエネルギー供給フィールドを突破して、先にミサイル包囲網を脱出していたんです」
「良かったアキト。やっぱり『私』の元に帰ってきてくれたね!!」
ユリカさんの言葉に私はぴくりと右眉を動かします。
そして、右足をぐりぐりと、まるで地面を削るようにドリルの如く動かしながら私は言いました。
「ええ、・・・・・『私』の元に」
足元でなんか某ちょび髭おじさんが悲鳴をあげているような気がしますが、それは恐らく悪夢でも見ているのでしょう。・・・・・・・ってそんなことはどうでもいいんです。
私から発せられたその言葉に、ユリカさんは笑顔――しかし、こめかみはぴくぴくと脈動し、瞳は一応はにこやかですが、その奥に輝く一筋の光はまぎれもなく妖怪のような恐ろしさを秘めたものでした――で答えます。
「違うでしょう?ルリちゃん・・・・・・。『私』の元にでしょう?・・・・・・うふふふふふ」
「ユリカさんも勘違いが甚だしいですね・・・・・。まったく・・・・・うふふふふふふ」
私とユリカさんはしばらく見つめあいました。・・・・もちろん、笑顔ですよ?
恐怖に満ち溢れるブリッジ。
俺は、エステバリスに映し出されるブリッジ内の映像を見て、愕然とした。
――表面上は笑顔で見つめ合うユリカとルリちゃん。
――数珠を持ち、ぶつぶつとお経らしきものを唱えるフクベ提督。
――『燃え上が〜〜れ、燃え上が〜〜れ、燃え上が〜〜れ、頑駄無ぅ〜〜』と虚ろな光を両目に湛えて、謳うジュン。
――ガタガタと自分の席で震えるメグミちゃん。
――ファッション雑誌を読んでいるミナトさん。・・・・だが、その雑誌はさかさまで、その表紙は微かに震えている。
――何故か立ったまま気絶(睡眠中?)のゴートさん。
――ルリちゃんに踏み付けられる形で、口から白いもやが出てきているうつ伏せに倒れているプロスさん。・・・・・・ってそりゃエクトプラズムだっ!!!
「あ、あのホシノ・ルリさん?」
俺はごくりと唾を飲み込み、緊張しながら声を出した。
『なんですか?アキトさん?』
満面の笑顔で俺に振り向くルリちゃん。
「あのさ、なんかプロスさんの口から白いもやがでているんだけど・・・・」
『・・・・・・・ああ、エクトプラズムですね。・・・・・・凄いですね、初めて見ました。恐怖新聞の愛読者としては、嬉しい限りです』
きょ、恐怖新聞って・・・・・。
そ、それはともかく。プロスさんのエクトプラズムを一瞥したルリちゃんは、俺に視線を向けた。
「嬉しいかぎりじゃなくて!!それはエクトプラズムじゃなくて、もしかして魂が抜けかけてるんじゃないのっ!?その白いもや・・・なんかプロスさんそっくりだよっ!?」
『・・・・・・・・・大丈夫ですよ・・・・・ほら、まだ体と霊体が繋がってる紐が・・・・・・・あ、切れかかってますね、これ』
「ルリちゃぁああああああん!!!!!!」
俺は絶叫した。
やっとの思いでナデシコに帰艦した俺だったが、やはり無理をしすぎたせいか、着艦した後に、すぐにコクピット内部で気を失ってしまったらしい。
そして、次に見た光景では、左にはぐーぐーと大鼾をかいて寝るガイの姿、そして右には魘されているプロスさんの姿だった。
プロスさんは、かなりの精神的ダメージを負ったらしい。でも、ニ〜三日寝ていれば良くはなるそうだ。ガイに関しては、出撃したにもかかわらず、全治二ヵ月半だった怪我が悪化もせずに、むしろ良くなっているという驚くべき結果を知った。
ガイの奴、ほんとに地球人なのか?あんがい、古代火星人の末裔だったりしてな。
まあ、いい。ともかく、ムネタケ集団――通称『ムネタケズ』もとっとといなくなり、バリアは無事に通り抜けたということだ。
しかし、最近気がかりなことがある。ルリちゃんの様子がどこか変なのだ。明らかに、俺の知らない二年間に何かあったに違いない!!
一体、何が彼女を変えてしまったんだろう?
俺はそんな疑問を思い浮かべながら、ベッドの上で、医務室の白い天井を眺めていた。
・・・・・・・・それにしても、ガイのいびきがうるさい。しゃーない、あれをやりますか。
ご、ごほん、と咳払いする俺。
「・・・・・・我が安眠をするためにっ!!、我が心地よい夢見成就の為にっ!!、ガイっ!貴様は静かに眠るべきなのだっ!!!!」
俺はそう叫んで、ガイのわき腹目掛けて拳を放った。
次回予告
ActionHPへの投稿のために愛機VAIOを駆るKOUYAっ!!
読者よっ!見てくれっ!!俺はやるぜっ!!!
だが、三次創作をやり始めた作者を待ち受けるは、ネタ切れ間近の貧困な脳みそっ!
おなじみパイロット三人娘と、作者のオリキャラである一人をナデシコに加え、寒すぎるダジャレ150%UP(当社比)でお送りするっ!
次回っ!TOKINADE PLUS、第四話。
「寒すぎダジャレに『ハリセン』」
をみんなで読もう!!!
(注:この予告とあくまで作者の実情であり、実際のお話はまったく違うものです。ちなみにActionHPとは投稿者数200人を超えるHPです)
代理人の感想
や〜、「三次創作」と開き直ってるのがいいですね(笑)。
少なくともこの作品の場合、その開き直りがプラスの方向に作用しています。
このままの路線でGOGO!
>乗るべくして乗り込んだ人材
ぶはははははははは(大爆笑)!