機動戦艦ナデシコ

〜ILLEGAL REQUEST〜








>キャシアス

「ええ。そちらにはもう映像データは届いているのでしょう?ですから詳細なサンプルと関連技術を提供しますわ?」

女狐が冷笑を浮かべながらそう提案する。

「その代わり、認めろというのかね?地球連合の干渉を受けない、私設部隊の創設を?」

古狸が不機嫌そうに問うが役者が違うと思うよなぁ。

「あら、別に認めてくださらなくても結構ですわ。ですが、そちらに利は多いと思いますけれど?」

そりゃそうだ。個人の私有物、しかもその本人にしか動かせない物を法的に徴発しても意味ないしなぁ。徴兵に関しては拘束力なんてありはしないし。敵に回さなくて良かったよ、ホント・・・・。

「ああ、わかった。認めよう。それで、何時頃届くのかね?その、ディストーション・フィールド収束装置とやらは?」

背に腹は変えられないとばかりに。実に忌々しそうに吐き捨てた。

「30分後になりますわ」

そんな男の態度に顔色一つ変えずににこやかに笑っているカスミ。

目の前でされる冷え切った会談に俺は世界はこの女狐の掌で踊ってるような錯覚を受けた。








つくづく思うのだがこの人は何考えているのだろうか?自分たちの腹を明かさず、人に恐喝紛いの要求押し付けて、今じゃイタリアマフィアのボスの総元締めらしきものもしてるんだよなぁ・・・・・。

「キャス。それ以上は止めておけ。今度は軟体物の水槽に落とされるぞ?」

っ!もしかして声に出しているのかっ!!

「ああ。気付くのが遅かったようだが。」

「隊長っ!今度は俺を見捨てませんよねっ!?」

アレス隊長は小さく首を横に振る。

「・・・・すまん。力になれない私を許してくれ。地獄へなら一緒に行っても良いが蛇の水槽や薔薇の部屋には悪いが行きたくない」

確かにあれは嫌だ。特に薔薇の部屋。俺には未知への探求をするような趣味はない。そういえばこの研究所に足を踏み入れたスパイ君が精神崩壊起こしたと聞いたことはあったが・・・・・ナイツの情報通のレイラがあれは薔薇の部屋に24時間放置された所為だとかなんとか言ってたような・・・・・。

「中身が何かわからないって言うのがめちゃめちゃ気味悪いっすよね?」

「まぁな。カスミ女史はご飯が美味しく食べられるわよ、とか言っていたがあれは危険の兆候が見え隠れしていたから、行かないで済めばそれに越したことはない」

「アレさえなければいい女なんですけどね〜」

「違いないな」



「「あっはっはっはっはっはっは」」



「そう。二人が私のことをどう見ていたか良くわかりました」





ぴしっ!





この世の全てを凍らせる氷の声がその場に響く。

「そうね?アレスさん。貴方には生活区で子供向けのちょっとしたイベントに参加してもらいましょう。頑丈そうで回復力の高い人の手が足りないとの報告を受けていましたから」

隊長・・・・・子供、苦手でしたよね、そういえば。

「キャシアスさん。貴方にはゲキガンルームで一週間分のレポートお願いします。」

っっ!!!確かアレ、先任者が胃潰瘍と錯乱で医療区に移されたんじゃなかったっけ・・・・・?

「ちょっ!っちょっと!!ちょ〜っと待って下さいっ!!!俺にはそんな大役勤まりません!!!!」

きょとんと首を傾げる絶世の美少女。この人物が一児の母と聞いたらパニックを起こすこと請け合いなのだが、出産後だというのに抱きしめたら折れそうなくらい細い腰より非常識なのがこの強さだ。言質を取られ良いように使われた下心ありの男達は正直数えるのもメンドイだろう。だが、どんな女だろうが、ここで退く訳には行かない!!

「ですから他の・・・」

「薔薇の部屋に行きますか?」

言い終わる前にカスミ女史がにっこり笑いながら代案を出した。だが、それはもっと嫌だ!なんか得体が知れんし。

「今週はサムソンさんの担当だったかしら・・・・・・」

ぼそっとカスミ女史がもらしたその台詞に俺たちは驚愕した。人が担当するらしい。24時間の放置で精神崩壊。薔薇の部屋。何かが纏まっていく気がしたが、それを無理やり拡散させる。連想しちゃだめだっ!

「ゲキガンルームに行かさせて下さい」

「じゃあお願いしますね」

俺は・・・・・こっそり泣いた。








>カスミ

「・・・・・・ちょっといじめすぎたかしら?」

元々トウヤの発案なのよね、ゲキガンルーム。まぁ、先行投資と考えれば確かにそうだけど。一回ぐらい会談の席が設けられるだろう、とか言っていて、その時に完膚なきまでに相手の土俵で言い負かそうって言うんだから性格悪いわよね、絶対。

「あ、ナイツの隊員に連絡します。B装備でクンルン山脈で格闘訓練です。二ヶ月分の食料を自分で背負って登ってください。レーション等は体の作り方に良くないので不許可です。季節的にヤバメなので遭難しないように。その後タクラマカン砂漠を縦断、サマルカンドシティを目指してください。以上」

ま、世界征服しようって気分で戦うんだから、必要最低限よね。

「さ、仕事、仕事♪」

ピッ!

「何ですか?」

「研究棟ですけど緊急事態です。侵入者が7人。いかにも怪しげな格好をした男達です。」

「そう。ま、いいわ、放っといて」

「え・・・?良いんですか?」

「構わないわ。そうそう。アレを開放して置いてください」

「アレ・・・ですか?」

「ええ。爬虫類面と爬虫類の王様の殺し合いなんてそうそう見られた物じゃないでしょうしね」

「・・・・・・・・本当に良いんですか?血の洗浄とか、めんどくさい後始末が盛り沢山ですけど」

「大丈夫よ。逃げ出したキャシアスさんがやってくれる予定だから」

「・・・・・彼も災難ですね。」

「自業自得と言って欲しいんですけど・・・・・。死体が残らないだけましです。それと、トウヤの検査結果出ました?」

「8割ほどは。」

「これからそちらに向かいます。データを纏めて置いてください」

「了解です。・・・・・ポチッとな」








>アキ

「む〜〜〜〜っ。わから〜〜〜んっ!!!!」

どうやっても、この暗号が解けない。もう、3時間もやってるのにぃ・・・・。

「ホントにあいつが知覚障害なんかあるのかなぁ。こんな暗号作った奴がそうだったら・・・」

世にいる人は全て失敗作だと、まぁ、そういうことではないか。知りうる限り最高の知性を備えた存在であり、この研究所の創設者。手負いの獣を手なずける彼の姿に憧憬の眼差しを向けたのは一回や二回ではない。パラディンの連中の機体を設計、武装のデータを残していったのも彼だし。

「こんなプロテクト、このアキ様にかかればちょちょいのちょーで終わるはずなのに、このクソプテクトが〜〜〜〜〜っ!!!」

「はぁ・・・・またかしら。」

「ホタル様。どうします?」

「鎮静剤投与して。その後念のためSPECTとPETで測定。許容範囲なら放置しても構わないから」

「はっ!」

「お守りも大変ね」

「はい。まったく。げふんげふん。」

何を失礼な。



フィン!



いつもの軽いエアの抜ける音。カスミが入って来るのを目の端で確認すると電子変換(リアクト)の割合を下げる。

「カスミ。なんか用?」

「貴女に用はとりあえずないわ。先生は何処?」

ん?いつもより顔色が良くない・・・・かな?

「奥だよ。ねぇ、カスミ。トウヤ、どんな思考回路してるの?こんなの人の思考じゃ追いつかないよ」

「それはまた後。今はこっちのほうが優先よ」

変に・・・・・焦ってる?

「もしかしなくてもトウヤ絡み?」

「イエス」








>侵入者A

「どぅぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!」

落とし穴。地雷ゾーン。針付き天井。増圧室。鰐池。ふふふふふ。面白いっ!実に面白いっ!これは我らに対する挑戦だなっ!?

ジャコン!

今度は機関銃かっ!?

「烈風っ!逝けっ!」

「・・・・・・・はっ!」

ズドドドドドドドドッ!!!!

我らは烈風の体を盾に直進する。烈風は銃弾を体に食い込ませながらも辛うじてだが生きてはいた。流石に防弾着程度では防ぎきれなかったか。

「烈風。ここで待て。この先はお前は邪魔だ」

「・・・はい。」

「・・・・・行くぞ」

この任務。閣下の大儀の為とはいえ、無謀だったかも知れんな。





我は幻を見ているのか?否。断じて否っ!ならばこの目の前の生物は何だ?

「け、獣風情が。我らの大儀を阻むか?」

見る分には全く聞いていないが。我の知識に一つだけ該当する生物がいる。そう、恐竜。地球最古にして獰猛を極めた爬虫類の王。生きて帰れるかというより肉片が残るかという心配のほうが寧ろ正しいのだろう。

「・・・・・・め、滅」

貴殿がやればいいでしょう、北辰っ!!!!!








>カスミ

「これは・・・・」

「ええ。驚嘆に値します。人類史上初と言って良いのでしょうね。まだ幾分か謎は残っていますが彼の出生についてある程度の指針にはなるでしょう。それが彼にとって幸せに繋がるかということについては別問題でしょうけど」

「あの馬鹿は遺伝子情報の書き換えと言ってはいたけど、これって、在り得る事なの?」

「地球の科学力、地球人のサバイバヴィリティでは一般的には不可能です。一応、‘現在’はと言っておきますが。」

あいつ・・・・・また嘘ついたわね。

「カスミ。これは貴女にも言えることです。肉体情報の変質こそ認められませんが精神性はカウンセリング程度では判断がし難いのが現状です。肉体とは違って」

そう、ね。権力を得ることで善人が悪人に代わってしまうことがあるように、当然私にも‘雫’の衝動から影響を受けてない可能性はないものね。

「そういう意味では貴方達こそ真に火星の後継者に相応しい人種はいないのでしょうけど」

「それはどうでもいいわ。ただ皮肉を込めてその名前にしただけだから」

「ともかく、宣言しましょう。彼は自分を取り戻している。人という器に無理に自分を押し込めておきながらあれほどの力の発露が可能なのを考えると・・・・・・・・・・・・彼ほど人を好きな存在はいないのでしょう」

「ええ。知ってるわ」

「おや?もっと驚くと思ったのですが・・・・・・・・・・」

「でなければとっくに人類の粛清ぐらいやってますよ?それも、彼の覚醒と同時にね。」

「まぁ、可能でしょうね。その時は貴女が止めればいいんですか?」

「止める必要はないわ。たとえ彼を傷付けても、絶望させるより多少マシよ」

「惚気は他所でやってくださいよ」

「振ったのは貴方。答えたのは私」








>トウヤ

「あふぅ・・・・暇だねぇ〜〜」

手頃な研究対象はないし、対薬品実験は趣味じゃないし、俺は泳げないし、肌が弱いから日光浴も出来ないし、俺今回ホントに暇なんだよねぇ〜。

「この辺の植物ってのはどうしてこう、落ち着く色をしてるかなぁ〜」

そういえば、全部終わったらあいつらも野性に返すべきなんだろうか?狼に、虎に、獅子に、大蛇に、剣歯虎。ラプトル。豹もいたっけ。
・・・だめだ。生態系が変わっちまう。生物の基本は対生成だから片割れがいないとどうにもならんか。

「あ〜。暇だねぇ〜」



パンッ!パンッ!



銃声=厄介事=絶好の暇つぶし。当然俺は首を突っ込むことにした。

「っしゃあ!」

楽しいイベントだと良いなぁ。








>北辰

部下を何人か失ったが、何とか中心部らしき場所に辿り着いた。閣下。我らは確かに影なれど、やはり人間だった。もし帰れたらそう上申しよう。如何に人を外れた外道とは言え、畜生には勝てないのだ、と。

フィン!

自動扉が開くと随分開いた場所にでた。今度は何が来る!?


「ようこそ。侵入者さん。警備保障会社ネメシスの中枢へ。貴方達は創立以来始めてここに辿り着いた人間です」

ずらっと我等を囲むように研究者達が囲む。

「そして、汝らの命の火はこれから消える」

「ええ。ここにいるのがホログラフィでなければ。」

まだ奥があるのか?その疑問に答えるかのように研究者らしき女が一人我の前に出てくる。あくまで、立体映像だが。







「・・・・・・・・美しい」

呆然と我はこの言葉を吐くよりなかった。阿呆だ。

「・・・・・・は?」

いかにも面食らったようにその女は告げた。

「今なら偶像に心酔する我が国の阿呆どもの気も解る。国分寺ナナコの姿など貴女の前では鯛を前にした金魚。」

「・・・・・・・・はぁ」

この世の者とは思えぬ均整の取れた顔。艶めく金色の髪。切なげに問い掛けてくるその瞳。ああぁ・・・・素晴らしい。

「なんか口説かれてますね」

「中身を知ればその印象は540度変わるだろうけどな」

「わ、我と結婚を前提とした交際をしてくれまいか?っ!?我としたことが実に浅ましい!いや、皆まで言うな!我とて解っている!そうっ、お友達!お友達から始められまいか!?」

「ほ、北辰様?そんな事やってる場合では・・・・」

「ええい、うるさいっ!!我の邪魔をするかっ!?」

「出過ぎた真似をしましたっ!猛省しますっ!」

「あははは・・・・。どうしよっか?」

やはり美しい女性は身持ちも固い。木連軍人の教本にあった通りだ。後姿も、物憂げな横顔もまたそそる。

「と、とりあえず。敵と味方と別れてはいますが自己紹介だけはしておきましょう。私はツキシマ・カスミ。ここの社長よ。貴方は?」

「我は北辰。理想の実現のため、影として動くもの」

「それでは北辰さん。生きていたらまたお会いしましょう」

そして、我の足元の床が消え、我は落ちた。それがの奈落か、不幸の谷底か判断は出来なかったが。








>トウヤ

この辺だろうけど・・・・。

ダァン!ダンダン!

「ちゃんと狙えよな」

背後から誰かに撃たれたらしき男を蹴り押す。押さえてた所を見ると胃の辺りか・・・・。銃の腕がそんなに良い奴じゃないな。完全に無力化するなら額に打ち込むだろうし、弾数に余裕があるなら両手を打ち抜くもんなぁ。

「タイミング的にはナデシコのクルーと、現地住人の対立って所だけど・・・・・・こんな所でコロンブスごっこはしたくないなぁ」

覗き屋さんがこちらを見てるし、ね。

「そんなにヤバイもんがあるのかね、ここは?」







漸く辿り着いた人が住んでそうな場所にはどこか見覚えのある紋章が見え隠れしている。すなわち・・・・・・。

「クリムゾンね・・・・・どうしてこう縁があるんだろうね、ナデシコと」

見ると家具などは結構良い品だ。こんなところに金かける位なんだからVIPだよな。ということは、俺は今不法侵入しているということになる。マッチョなお兄さん方が大勢向かってくるのは避けたいんだけど・・・・・・・・・。

ドンッ!

「おわっ!」

余所見してたら曲がり角で人にぶつかってしまった。救い難い事に女性だ。いくら危険の匂いがしないからって気を抜きすぎたかな?

「だ、大丈夫ですか?」

俺は床に倒れてしまった女性に手を貸しながら尋ねる。

「・・・・・・・・・・・見つけた」

「・・・・・・へっ?」

白いドレスに見慣れた金色の髪。

「・・・・・・・私の王子様」

なんていうか、痛い人?まず真っ先に浮かんだ単語がそれだった。

「あ、そうそう。不法侵入した件については謝罪します。人の気配がしなかったので、中に入らせてもらったんですけど」

唯一の救いは俺がナデシコの制服を着ておらず、私服を着ていることぐらいだろう。

「というわけで私は帰・・・・・・・」

「私はアクアといいます」

最後まで言えなかった。

「ああ、そうですか。てな訳で私はここで帰・・・」

「よければ食事を一緒にどうですか?」

貴女、俺に最後まで言わせるつもりはおろか、帰らせるつもりもないようですね?

「そういえば、今困っているんです。人の話をちっとも聞いてくれない人が屋敷の中に居座ってしまって・・・」

俺から見ればあなたもそう変わりません。ここで言わなかった俺の理性に盛大に拍手したかった。

「はぁ・・・・。では、身辺警護の真似事をすれば良いんでしょうか?見知らぬ他人なのに?」

「貴方・・・・・・お名前は?」

「あ・・・・ク、テンカワアキトといいます」

無論偽名だ。別に行きずりの男女がお互い偽名を名乗って一度の逢瀬で別れるなんて良くあることだ。そう、週刊誌に載ってたし。アキト・・・・・後でなんか奢るから許してくれ。

「素敵なお名前ですね?」

お手軽に笑みを浮かべながら俺は言い放った。

「・・・・・よく言われます」

「これで他人なんかではないでしょう?」

どこか狡猾な色合いが瞳に滲んでいた。








「で、居座って迷惑してるってのはこれですか?」

「ええ、そうです。」

案内された場所で目にしたのは、目の前の自分の世界に入ったまま、なんか知らんが涙を流しながら、天に向けて吼えるヤマダジロウの姿だった。

「・・・・・・・もう家に帰りたい」

不本意だ。不条理だ。床に平伏した俺が思ったのは概ねそんな所だった。

「アクアマリン!そいつがキョアック星人か!?」

もう、何も言うことはない。言っても解らない連中に意思を伝えるには・・・・・・・・・もうこれしかない♪

「このダイゴウジ・ガイ様が・・・・・げふっ!?」

レバーに右の拳が沈んだ。

「すまない・・・・・・・・死んでくれ♪アクアの為って言うか、むしろ俺の為に♪」

ヤマダジロウと一時的接触・・・・・・・・

ヤマダジロウと一時的・・・・・・・・

ヤマダジロウと・・・・・・・・

ヤマダ・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・

・・・









「キジも鳴かなけりゃ撃たれることもあるまいに・・・・・・」

「は、入っていいですか?」

実に都合よくヤマダの処理が終わった頃にアクアが部屋に入ってきた。

「元々この屋敷は貴女の物でしょう?」

「ええ。それはそうですけど・・・・・・・」

怯えてるような気がするけど、まぁ、無理もないか・・・・・。

「大丈夫ですよ?俺は基本的に平和主義者です。尤も、何かしら危害を加えられたらその限りじゃありませんけど」

「そ、そうですか」

テーブルの上に見たこともない料理が並んでいくのを椅子に座りながら眺めていると、なんとなく思いついた。

「俺、宗教のこととか話しましたっけ?」

「・・・・・え゛っ!?」

「一応、言っておいたほうが良かったですかね?」

宗教によって食べられる食材に制限が出来てしまう以上その辺はエチケットなんだけど、拘らないってのは・・・・これこの人が作ったんだろうか?それとも、コックは宗教関連に疎い日本人か?

「え、ええ。もし食べられないものがあれば言ってくださればどの料理にその食材が入ってるか教えられますし・・・・・」

「ほぉ・・・ではこの料理は貴女が?」

「ええ。趣味なんですよ・・・・・・・料理。家族と食事する時はいつも外食ばかりで・・・・・・イタリア料理やフランス料理ばかりでは飽きてしまいますので・・・」

「それで、ご自分で作るようになったと・・・・・・」

「はい。それに、ここだけの話ですけど・・・・・・」

アクアはどこか楽しげにこちらに瞳を向けると・・・

「フランス料理はどうも舌に合わないんですよね・・・」





「でも、良いんですか、避難しなくて?」

「あれのことでしょうか?」

視線の先には小型だが紛れもなくチューリップが地面に突き刺さっている。

「はぁ・・・・・・・・いいです。もう、お互い化かし合いは止めませんか?いいかげんこのまんまの状況での会話って疲れますし」

「ど、どういう意味でしょう?」

「ここからは多分に俺の推測を含みます。間違ってるようなら訂正してくれて構いません。でも、とりあえず最後まで聞いて欲しい」

アクアの硬い表情に微笑みかけると俺は言葉を続ける。

「本名アクア・クリムゾン。公式記録では某企業複合体の会長ロバート・クリムゾンの二人目の孫娘であり、父親であるリチャードに溺愛されて育つが当然ながら異母姉であるシャロンは面白くない。何度か暗殺されかかったことがあるでしょう、お姉さんに?かといってそれを責めるには父親を奪ったという罪悪感があるからそうもいきませんよね。」

「けれど頭の良かった貴女は一族の汚点という蔑みを向けられ、且つ父親の意に外れぬよう適度に人形のふりをするという状況に自分を追い込むことでそれを回避した。それと実は貴女の事は良く知っています。これまでの経歴、主義、トラウマや性的趣向まで調べてあるんです。その上で、貴女に言っています。」

ちょっと、展開がダッシュだったかな?暫くすると、ダンダンこちらを見る目つきが変わってきている。

「随分面白い空想ね?」

俺が見たかったのはこの顔だ。苛烈さと自信が混在した風格のようなもの。

「更に言うなら貴女がクリムゾン・コングロマリットの実質的な総帥ですね?最近のクリムゾンの動きはやけに人道的でしたから」

そして俺は‘予言’を残す。

「ですが、あと少しでそれも変わります。ネルガルの急進が人情を捨てた亡霊を引き上げるでしょう。その際貴女は追われます」

血の繋がりこそ薄いものの、この娘は確かにカスミの姪であるのだから。

「出来れば一緒に来ませんか?人を道具と信じきった老人に抗う為に・・・・・・・・」

「貴方は私を守ってくれて?」

アクアは笑いながら。俺も笑いながら。

「そうだね。俺の名・・・・・・・・クサナギ・トウヤの名にかけてね」









〜あとがき〜

半年以上空いてしまった。あ、どーも。久遠の月です。言い辛いならくーで構いません。何故なら掲示板とかではこう名乗ってることが多いからです。

ま、それはともかく。何故ここまで遅れに遅れたか?単純に私の筆不精です。構想、展開は既にもう完結する勢いなんですが書いてないのです。ええ、そりゃあもうっ清々しいまでに!

えーこんな怠け者ですが、どうか見捨てないで欲しかったりします。

それでは、また〜。

 

代理人の感想

お久しぶりでごじゃりまする。

って、実を言うと私が久遠の月さんから作品を頂くのは初めてなんですが(笑)。

 

さて、トウヤくんは順調に女を落としてるようで(爆)。

一応妻帯者(みたいなもの)じゃなかったかな〜と思う今日この頃(笑)