機動戦艦ナデシコ

 

〜ILLEGAL REQUEST〜

 

 

 

 

 

 

プロローグ    俺を呼ぶ「声」

 

 

〜 2183年 火星 ユートピアコロニー 〜

 

 

 

「ねえアキトー。アキトってばー!」

 

俺の横を通過して、前方を歩く少年に何度も声をかけ続ける少女。

 

「よくもまあ飽きないもんだな・・・・」

 

男性にしてはやや高い方だと思える声が口からすべり出る。

 

「ユリカちゃんも元気だな〜。アキトも少しは構ってやればいいのに」

 

初々しいカップルに忠告するつもりはさらさら無かったけど。
前方で少女がこけるのを視界の端で見止める。

 

「う〜〜っ!アキトのばかー!」

 

立ち止まりすらしない少年に少女が罵声を浴びせる。

 

「ほらほら。転んだままだとアキトを追えないよ?」

 

少女に手を貸す。

 

「あ、はい・・・。」

 

「アキトももう少し素直になればいいのにね」

 

ユリカの服の汚れを払いながらそう告げる。まだ泣き止みそうに無かった。

 

「そうだ!ユリカちゃん。恋愛成就の秘訣教えてあげよっか?」

 

目線を合わせてそう尋ねる。

 

「ひけつって何ですか?」

 

「そうだな〜・・。ユリカちゃんがアキトのお嫁さんになる方法かな?」

 

他にいい言葉が浮かなかった・・・。まあともかく成功したようだ。目を輝かせてる。

 

「自分と相手を信じる事。忘れないでね?」

 

そう言って頭をやや乱暴に撫でる。

 

「さ、行こうか?」

 

かなり先でこちらをちらちら覗うようにしている少年に口元を綻ばせながら少女を促した。

 

「はい!トウヤさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トウヤ君・・・・・。本当にいいのかね?」

 

口髭をたくわえたカイゼル髪の男性・・・・。

 

「ええ。俺はここが気に入ってます。地球に帰るなんて今更ですよ。
 親父にもそう言っておいてください」

 

「君のお父上・・・。クサナギ中将も君が帰ってくるのを待っていらっしゃるんだぞ?」

 

「それでも、ですよ。
 ここには忘れてはいけない物がありすぎるんです。離れるわけにはいきませんよ」

 

そう苦笑する。

 

「泣き付いてもユリカちゃんを出汁に使っても俺の決意は変わりません・・・・・」

 

そう言って席を立つ。

 

「トウヤ君!」

 

立ち止まり、背中を向けたまま言葉を続ける。

 

「軍人は命令に従う。でも俺には縛られるモノがありません。
 俺を動かすのは俺自身の意思だけです」

 

今度は止まらなかった。そして無常にもミスマル家のリビングのドアは閉じる。

 

 

 

 

 

「さて、今日も行きますか・・・・」

 

目の前に見える‘火星極冠遺跡’、それが今の俺の秘密・・・。
現在ネルガルが調査に乗り出しているんだがまだあまり芳しい成果は挙げていないらしい。

 

・・・何でそんな事がわかるかって?決まっている。彼らより詳しいからそう言える。

 

「一応これも犯罪行為になるのかな?・・・もしかしてネルガルに訴えられるのか?」

 

「さあどうかしら?一企業が古代遺跡を独占したら色々と問題があるんじゃない?
 軍も出てくるわよ、きっと・・・・・・」

 

岩場の影から人影が現れる。

 

「カスミ・・・・。脅かすなよ・・・・。危うく殺しかけたぞ?」

 

そう言って懐の銃にかけていた手を下ろす。

 

「大丈夫よ。貴方は絶対にそれができないから」

 

「どういうことかな?」

 

「貴方は私が殺せる?」

 

「無理だ(即答且きっぱり)」

 

「だからよ」

 

そう言って綺麗に笑う。

 

(駄目だ。こいつには一生掛かっても勝てない)

 

彼女は俺にしかこういう所を見せない。複雑なものがあるがそれでも嬉しいという気持ちもある。
腰まで真っ直ぐに伸ばした金髪にスミレ色の瞳。職人に作らせたかのような顔の造り。
詳しい数字は知らないが、かなりスタイルが良い事も服の上からでも判る。
まるで宝石かなにか鉱物のような美しさを称えている。
全体的にどこか作り物めいた美しさを顕す、そんな少女がカスミだ。

 

「まあいいけどな。で、お前も行くのか?」

 

「もちろん!こんな面白い事トウヤにだけやらせるなんて不公平だもの」

 

「(どういう判断基準だ!)じゃあ行きましょうかお姫様・・」

 

「エスコートよろしくね」

 

「(いつもは俺を引きずって行くくせに)お任せ下さい」

 

心の内だけで毒づくのはせめてもの反抗だ。でも最近どうも卑屈だとも思う。

 

 

 

 

 

「でもよくあんな抜け道知ってたわね?」

 

すでに俺たち二人は遺跡の中を歩いている。
カスミが言っているのは遺跡の中に入るのに使った隠し通路の事だ。

 

「知ってたって訳じゃない。呼ばれたんだよ」

 

「呼ばれた?誰によ?」

 

「それを探しにここに来てるんだが・・・・」

 

半眼で告げてやる。

 

「あ、あははは・・・・」

 

「まあいいけどな。せいぜい迷子にだけはなるなよ?」

 

「私はそんなに信用ないのですか?」

 

「あるわけない」

 

「ひ、ひどい・・・・」

 

「泣きまねしても周りには誰もいないぞ・・・」

 

忠告してから泣きまねをしているカスミを放って先に進む。

 

「なにこれ?」

 

まあ当然の疑問だろう。俺も最初に見たときはよくわからなかったし。

 

「箱?」

 

「なんかよくわからんが時々金色に光るんだ。
 理屈はわからんけど機械みたいなものなんだろうな」

 

後に遺跡の中枢ユニットと呼ばれるモノをそう評価する。

 

「でも、なんか嫌な感じ・・・」

 

両手で肩を抱いて震えるカスミ。

 

キィン

 

「(耳鳴り?)おいカスミって・・・」

 

カスミは・・・・倒れている。
慌てて駆け寄り、抱き起こしてぴたぴたと頬を叩いて起そうとする。

 

「ちょ、おい!起きろ!ここには布団も無いし、家でもないんだぞ!?」

 

半ば混乱しているので言っている事が滅茶苦茶だったのも判ってる。

 

(助けて・・・・・)

 

「空耳か?っておいカスミ!いいかげんに起きろ!
 起きないと18歳未満にはしてはいけない行為にはしるぞ!」

 

起すための嘘である。いや、ホントに・・・。

 

(助けて・・・・・)

 

「さっきからうるせーんだよ!!!こっちは今取込んで・ん・だ?」

 

怒鳴ろうとした方向には声の元となるものは一切ない。

 

「助けて・・・」

 

「うううわああああーーー!!!!!」

 

先ほどの声がより鮮明に近くで聞こえた。正確にはカスミの口から。
瞬間カスミを抱いていた手が滑った。

 

ゴン!

 

破壊的な音とともに遺跡に沈黙が訪れる。

 

「(死んだか?)死体処理の方法も考えなければいけなくなったか・・・・・」

 

「た、すけて・・」

 

「うむ。いっそここに放置して俺としては全てが無かった事にするのがモアベターかと思うんだが。
 でそこで倒れている貴方はどう思う?」

 

「助けてください」

 

「カスミならともかく、見ず知らずで未発掘の遺跡にいるような怪しい物体を無条件で助けてやれる
 ほど俺は人格者じゃないんだけど」

 

「それは貴方をここに呼んだ時から解っています。」

 

「!!・・・・あんたがここに俺を呼んだのか」

 

「そうです。都合よくこの人が身体を貸してくれて貴方に説明する事が出来るわけですが・・・・」

 

「じゃなるべく短くコンパクトに説明してくれ」

 

知り合いに一人、説明し始めたら止まらないのを知っている。そのための処世術、先手を封じる。

 

「・・・・・わかりました」

 

かなり残念そうだがこの手の輩を甘やかしてはいけない。

 

・・・・・・過去何度も痛い目を見ているから、だ!

 

「まず、私は貴方達で言う‘古代火星人’です。」

 

まあ疑わしくはあるが最後まで聞いてやるか・・・・。
体がカスミなだけにかなりギャップがあるけど。

 

「正確には肉体を失った意識体といったところですけど」

 

「幽霊みたいなもんか?」

 

「ちょっと違いますけど大方似たようなものです。
 ここに呼んだのは貴方だけ、と言うわけではありませんでした。
 ただ貴方だけが‘適格者’なので結果的には貴方だけを呼ぶ形にはなりましたけど」

 

「‘適格者’ってのは?」

 

「オペレートって言うのは解りますか?」

 

「ああ」

 

「それが出来る人達のことを指すんです。そして対象は全銀河に存在する遺跡・・。」

 

「全銀河?スケールがでかすぎる。そもそも何でこんな物が火星に存在するんだ?」

 

「最初からお話します。」

 

「短くしてくれって言ったよな?」

 

「簡単に言うと遺跡は時空間に関与する一種の演算機・・・。
 私達は数多くの遺跡をプラントとともに全銀河に送り出しました。
 私達は頃合を見計らって遺跡から遺跡にに向かって跳ぶ。
 そしてここは目標までのただの中継地点になる予定です。」

 

「時と一緒に距離を飛ぶのか?」

 

「理論上は遥に簡単な事です。」

 

「まあそんな突拍子も無い事に理論なんて言ってもしっくりこないんだが。
 で、俺はこの遺跡を扱えると」

 

「はい。私達の中にも適格者の存在は少ないので協力して欲しいのです。」

 

「・・・・・拒否権はあるのか?」

 

「あります。これは只のお願いですから。多分、貴方の人柄から協力してくれるんでしょうけど」

 

「持って回った言い方だな」

 

「そうせざるを得ないからですよ。ともかくユニット、その箱に触れてください。
 未来でありえる事象が記憶されています。
 適格者の貴方なら意識を集中させさえすれば精神的に遺跡と同化もできるはずです」

 

「危険性は?」

 

「ありません。最も適格者に限り、ですけど。
 適格者には命綱のようなものがあるので自分を見失う事はありえません。
 それに普通の人達には接続すら出来ないでしょう。
 肉体的にも融合すれば1割くらい引き出せるでしょうけどね。」

 

「じゃやってみますか・・・・」

 

右の掌をユニットにつけ目を閉じ意識を集中する。イメージが次々頭に入り込んでくる。

 

 

 

親父・・・

 

 

 

ミスマル叔父さん・・・・

 

 

 

ユリカちゃん・・・

 

 

 

天河夫妻・・・

 

 

 

アキト・・・・

 

 

 

 

「っく!!!何だアレは!!!」

 

「起こりうるかもしれない未来です」

 

「あんな事が許されるのか!?人の道を外れてる・・・・」

 

「私達は好きで不幸な人間を作り出したいわけではありません。だから貴方に頼んでいるのです。」

 

「・・・・俺は何をすればいい?」

 

「未来へ・・・。未来より過去へ跳んだ人達を貴方の眼で見、判断してください。
 もし過ちを繰り返すようなら・・・・・」

 

「・・・・わかった。」

 

「貴方には精神世界で彼らを止める事の出来る能力を身につけてもらいます。
 今の貴方にはあのテンカワ・アキトを止める事は出来ないでしょうから・・。
 こちらへ・・・・」

 

遺跡の奥へ招く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ?」

 

「はい?」

 

「なんか、むか〜し使われていたらしい電気椅子ってのに似てないか?(と言うかそのまんま)」

 

「・・・・・気のせいです」

 

「一応、カスミの知識も持ってるんだろ?」

 

「はい。」

 

「俺はこの知識をカスミから聞いたんだが?」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

俺は流れ落ちる汗に気付く。

 

「俺的発想なんだけど、電気椅子ってゆうのは何らかの強烈な刺激を受けても抵抗できなくする
 ためのものだと思うんだけど?」

 

心なしか発汗量が増したようだ。

 

「・・・・・がんばってくださいね」

 

それは婉曲な答えなのか?綺麗な笑顔だが悪魔の笑みに見える。

 

ああ、もうこうなったらヤケだ!

 

「・・・・・がんばるよ」

 

人生最後の笑みにならないようにと気をつけたが案の定笑顔は引き攣っていたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じ、地獄だ・・・・・」

 

時間にすれば約数秒・・・・。何十年分、いや何百、何千年分過ごしたのなんか数えたくもない。

 

「身体は17歳。心はお爺さん。短い青春だった・・・・」

 

「何、黄昏てるんですか・・・・」

 

「たわけ!ああ!?こんなところにまで影響が!?」

 

「混乱しないで下さい!」

 

「若さを取り戻すにはどうすれば・・・・・・?」

 

ぶつぶつ呟きつづける。

 

「まあいいです。その様子だとしっかり学んでくれたようですね」

 

「阿呆!あんな人間外を超えるような修行させられたんだぞ!?
 アキトどころかチューリップでも気合だけで壊せるぞ!」

 

「もしかして・・・・よりにもよって老師に当たっちゃったんですか?」

 

「そうみたいだな・・・・。御かげさんで格闘から魔法まで使えるようになりました・・・・・」

 

「そ、それはしりませんよ?」

 

「あの爺、滅茶苦茶だ・・・・。人を銀河系中連れまわしやがって・・・。
 何が、自分より強い奴に会いに行く、だ!!格ゲーの宣伝じゃねーんだよ!!!」

 

「どうやって戻ってきたんです?アレは一分間機能するはずなんですけど・・・・・」

 

「15秒未満で数千年分、か・・。
 あんたは俺を何万年っもあんなところに置いとくつもりだったのか。
 爺をしばき倒して強引に戻ってきたんだよ」

 

「す、すごい・・・」

 

「でもこんな事が出来るようになっても、ね・・」

 

黒い髪が金色に輝き、同じく黒曜の瞳が森を想わせる深い緑色に変わる。

 

「じゃ、行こうか?」

 

髪も瞳も元の色に戻る。

 

「い、行く?」

 

「俺にこんな無理難題吹っ掛けたんだ。あんたも来るんだよ・・・・」

 

「はぁ・・・・。わかりました。行きます。行けば良いんでしょ?」

 

「じゃこれからよろしく!所であんたの名前は?」

 

「発音しにくいので貴方が付けてくれませんか?」

 

「そういうのは俺の領分じゃないんだがな。そういやカスミはどうなってるんだ?」

 

「カスミさんは今寝ています。
 起きたら私達の事をどうすれば良いか話し合います。
 出られなくなっちゃったんで・・・・」

 

「じゃシズクってのはどうだ?ツキシマ・シズク」

 

「シズク・・・・。良いヒビキですね。私はこれからツキシマ・シズクです。
 よろしくお願いします。
 クサナギ・トウヤさん?」

 

「ああ。じゃ行こうか?便利なもの持ってさ・・・」

 

「まさか・・・。持っていくつもりですか?この遺跡のガーディアンを?」

 

「もったいないだろ?使えるものは親でも使えってね・・・」

 

すたすたとユニットのある方へ歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか・・・・・」

 

右手を遺跡の外周に触れさせると音もなく通路が現れる。

 

「こいつが遺跡のガーディアン」

 

一目見て・・・・・・呆れた。

 

「これは・・・・・・」

 

「趣味なの?趣味なの!?」

 

横で半ばパニクっているシズク。それを妙に醒めた瞳で見ている俺・・・・。

 

「何でポーズとってるんだろうな?」

 

人型のガーディアンは左手は腰部、右腕と頭部を上方へちはみに指は天高く
(と言っても空は見えないが)向いている。それ以外の部分は遺跡に埋まっている。

 

「まあいいけど。使えるのかな」

 

ガーディアンの前に立つ。

 

「俺にはやらなければいけない事があって、それを為すためにお前の力が必要なんだ。
 力を貸してくれないか?」

 

両目に光が灯る。

 

「ありがとう・・・・」

 

ふんわり笑う。おや、シズクが顔を赤くしている。カスミと正反対だな。

 

遺跡から抜け落ちるようにそれは姿を現した。

 

張り出した肩部。
背部バーニアの横には翼のようなモノが生えている。
太い足は陸戦仕様だからか?
白と赤の絶妙なカラーリング。
足元に転がるやたらでかいライフル。

 

そして、その身に纏う蒼銀の光・・・・。

 

「遺跡と同じ材質で出来ているのか・・・・」

 

「そのようですね。私も見るのは始めてです。」

 

「エステの一回り上ってところかな・・・」

 

 

 

内部ではさして広いわけではないのでトウヤの膝の上にシズクが座っている。

 

「アームターミナルと内部コンピュータ接続。」

 

「操作系は問題ないか・・・・」

 

「アームターミナルと搭乗パイロットのIFS接続。」

 

ちなみにアームターミナルとは片腕に装着する小型端末の事である。

 

「内部の模様替えしないといけませんね・・・・」

 

「そう言う問題か・・・」

 

「この子なんて名前にします?」

 

「ゼラニウム、だ。」

 

「ゼラニウム・・・」

 

「ジャンプフィールド形成」

 

「空間障壁出力上昇」

 

「イメージ・・・。2195年地球日本・・・・」

 

そしてゼラニウムは再び光を纏い掻き消える。

 

 

 

真紅のゼラニウム・・・・・。その花言葉は、「決意」

 

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

久遠の月さんからの初投稿です!!

う〜ん、どうやらシリーズ物のようですね。

しかし、トウヤ君・・・いきなり最強キャラですね(笑)

しかも、金髪に緑の瞳?

・・・君は、某格闘馬鹿戦闘宇宙種族の一人か?(爆)

でも気合でチューリップが破壊できるんだったら、それも案外本当かも・・・

まあ、今後の話の展開に期待大ですね!!

 

それでは、久遠の月さん投稿有難うございました!!

 

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