機動戦艦ナデシコ
〜ILLEGAL REQUEST〜
第1話 彼らの「事情」
「俺をメカニックに?」
「ええ。」
ちなみに既に事情は目の前のちょび髭の男に説明されている。
「一つ、聞いて良いですか?」
「はい。よろしいですよ」
「給料どれぐらい出るんですか?」
「はい、こんなものです」
そう言うと懐から出した電卓を猛烈な勢いで叩き始める。
「こんなに・・・。良いんですか?」
想像した額より桁が幾つか多い。
「はい。むしろ貴方を雇うのには少ないくらいかと思うんですが。クサナギ・トウヤ博士?」
「俺は博士なんかじゃないんですけど。
ガキの頃に感想文と間違えて出した論文が学会で取り上げられただ
けでしょう。」
そう言うと苦笑する。
「ご謙遜を。それにしても・・・・」
「とても成人しているように見えない、ですか?童顔なんですよ俺」
「いやぁ、これは失礼。で、これが契約書です。」
「俺、まだ承諾すると入ってませんでしたよね?」
「はい。でもそうなると思ってましたから。」
ニコニコと笑っている男に半ば賞賛の意をこめて微笑む。
「やりましょう」
ナデシコ出航半年前の事だった。
「でも良かったの?」
「まあ平気でしょう」
「何でそんなにはっきり言えるのよ!」
「落ち付けカスミ。
アキトは俺の事なんざ覚えてないだろうしユリカちゃんも覚えてないだろうしな。
他の人達には面識も無いだろうし。」
「でも覚えてないっていう保証は無いわ!」
居間のテーブルを両手で思いっきり叩く。
「そりゃそうだけど・・・。まあ覚えていても何の問題もないし。」
「でも疑問に思われるんじゃない?」
「平気平気。さっきも言っただろ?俺達は童顔なんだよ」
時折トウヤの見せる底の見えない笑みにカスミの背中に戦慄が走る。
(未来を変えようとしている人達をペテンにかけようって言うの?)
「一応戸籍上は29歳なんだよ、私達?」
「アジアの男性は比較的童顔が多いという」
「私は一応だけどアメリカ国籍だけど」
「・・・・・ナデシコに乗り込むのは俺だけだし」
「ええ〜〜〜っ!!!じゃあ私はどうするのよ?」
「・・・・・昼の奥様ドラマでも見てれば?」
バキャ!
カスミの右ストレートがトウヤの下顎にまともに入る。
「私にそんな退屈な毎日を過ごせって言うの!?だったら私も乗るわ!」
「どうやって?」
「あう・・・・」
方法が思い浮かばない。
「じゃ、じゃあ前言ってた魔法の出番じゃない!」
すごい名案を思い付いたようにしているカスミを溜息と一緒に眺める。
「な、何?」
「・・・ひ・く・・」
「よく聞こえなかったんだけど?」
ぼそぼそっと呟くようにしていたトウヤに聞くカスミ。
「皮肉だアホ!!」
「・・・・皮肉?って言う事は騙してたの!?」
「皮肉だって言ってるだろ!!」
結構お似合いの二人かもしれない・・・・・。
「いい機会だから言っとくけど俺が学んだのは厭くまで知識と経験なんだよ。」
とても疲れたように話し出すトウヤと真剣な顔で聞いているカスミ。
「俺達火星の住民は大抵生活を便利にするためにIFSをつけてる。
まあ言ってしまえばナノマシンによる機械操作とかまあ色々・・・・。
まあいろんな用途はあるわな。
俺の体内のナノマシンは時の流れか経験の所為か一種の自己進化って奴を起していて、
妙な事になっている」
「妙な事?」
「ああ。
可逆性の恣意的なファージ変換っていうのかな?
ナノマシンが補助脳を形成するんじゃなくて。
俺の遺伝子情報をその時々によって書き換えてるんだ。」
「それって・・・」
カスミの呟きに合わせてかトウヤが容貌を変化させる。
「厳密には俺は人間じゃない」
「そんな・・・」
「俺はナノマシンの制御と操作に長けている。マシンチャイルドなんか及びもしない領域で。」
「トウヤ・・・」
「その気になれば銃弾を打ち込まれてもぴんぴんしてるだろう」
「それこそ出任せで言った素手でチューリップだって落せるかもしれない」
「多分、ジャンプだけならC・Cを使う事すら必要としない。
エネルギーの消費はあるだろうけど」
「俺は・・・・・」
「トウヤ・・・・・・・」
カスミは一つ大きく深呼吸すると右腕に力をこめる。
「自分に酔ってるんじゃないわよ!このバカぁ〜〜!!!」
渾身の力をこめた拳が顔面に吸い込まれる。
「ぐはぁ!!」
5メートルほど吹き飛び壁に後頭部を打ち付けてトウヤは完璧に沈黙。
「だいたいねぇ。
アンタ勝手なのよ!自分のことだけ決めて私にどうしろって言うの?
こっちが心配すれば茶化すくせに私には人一倍気を使って!
街に行けば無意識の内に他の女性口説いてるし!
冷たいかと思えば妙に優しくて偶に凄く無邪気で普段は大人ぶってて!
人間じゃない?そんなのどうでもいいのよ。
貴方は貴方でしょ?それだけは今も昔も変わらないわ。
もしそれでも不安なら私達が認めてあげる」
自分に酔っているのはお互い様で。
せっかくの御高説を、トウヤが聞いていないことに気付いたのは15分後だった。
「クサナギ・トウヤです。これからよろしくおねがいします!」
メカニック要員の乗り込みは早い。
相転移エンジンの調整もあるしエステバリスの搬入、荷解きもあるので当然と言えば当然でもあるが。
ウリバタケメカニックチーフを筆頭になんとも個性的な性格の人達が多かった。
トウヤはネルガルのスカウトの方針が‘人格に問題があっても能力は一流’というのを知らなかった。
もし知っていればナデシコに乗艦せずにゲリラ戦に徹したろう。
「諸君にお見せしよう!
ガァイ!!スウパー・アッパーー!!!」
片足立ちして拳を振り上げるエステ。
「何やってんだテメー!!」
「ヤマダさん!貴方は一週間後の着任予定でしょう!」
「違ーうっ!俺様の本当の名前、魂の名前はダイゴウジ・ガイだ!」
(魂の名前って、何?前世の記憶ってヤツ?)
そうこうしている間に会話?は続く。
「いやぁ、ロボットに乗れるって聞いたら居ても立ってもいられなくなっちまってさぁ」
(それなら何で民間船に乗ろうとするんだ?軍に行きゃ良いのに・・・・)
鼻息も荒く熱く語る青年にそんな感想を抱く。
「ん?」
12,3歳ぐらいの少女が視界の端を通り過ぎた。
幻聴かもしれないが、バカと聞こえたような・・・。
「オタク折れてるよ、これ」
「なんだとー!?いてててて」
「バカ、ばっかだ・・・・・」
これから先どうなるのか不安でしょうがない。
「そういえばヤマダがさっき人形を頼むって言ってたな・・・・・
まあ、ハッチは勝手に開くから勝手に持ってきな」
オレンジ色のシャツを着た青年にそう言い渡す。
(もう好きにしてくれ・・・・)
俺は先ほどの騒動でだいぶ精神的ダメージを受けていたので随分投げやりに答えた。
「解りました」
エステに向かう青年の後姿を見て漸くさっき話したのがテンカワ・アキトだと気付いた。
(忘れてるみたいだな。シナリオどおり、か・・・)
暫くするとエマジェンシーコールが鳴る。
艦橋内は騒然となり、エステがエレベーターに乗って外に出ようとしているのに気付くものがいても
止められはしなかった。
(頑張れよ、アキト・・・。オマエが何とかすれば俺の出番は無いんだから・・・
カスミにどうやって謝ろう?)
彼にとって前途は果てしなく遠く、怖かった・・・・・・・。
〜あとがき〜
ども!久遠の月です。拙い作品ですけど御付き合いくださいね。
基本的にこれは〜時の流れに〜の裏を行く物語です。
途中分岐するだろうけど・・・・・。
ともかく頑張りたいと思いますので良ければ応援してください。
管理人の感想
久遠の月さんからの投稿第二話です!!
いおお、あれから十年以上が経ったんですか。
しかも、<時の流れに>の裏バージョン?
と言う事は、あのアキトはスーパーアキトなんですね?(笑)
どおりで隣を歩いていたルリちゃんが、ガイを冷静に馬鹿呼ばわりするわけだ(苦笑)
う〜ん今後の話も気になりますが・・・今、一番気になる事!!
それはカスミちゃんのナデシコの乗船方法だ!!
さて、どうやってナデシコに乗り込むのでしょうね〜〜?
それでは、久遠の月さん投稿有難うございました!!
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