機動戦艦ナデシコ

 

〜ILLEGAL REQUEST〜

 

 

 

 

 

 

第3話      つかのまの「さよなら」

 

 

 

 

 

「やれる事はやっとかないとね。もし変えても今はたぶん変わらない」

 

「バカよ、あなたは」

 

「誉め言葉と受け取っておくよ」

 

「神様にでもなるつもり?」

 

「そんなつもりはさらさらないよ。俺がやろうとしてるのは皮肉好きの神様に戦いを挑む事だ」

 

「無茶よ?」

 

「知ってる。けどね。俺はやりもせずに諦める事の方が嫌なんだよ。」

 

「わかってるわよ」

 

「今、現代においてあの人達が死んだという情報はアキトが死んだ二人を目撃したこと、殺したヤツが報告した

 ことの二つだけ。

 アキトにいたっては殺害したのを見たのでは無く動かない二人を見ただけ。

 後は殺したやつを催眠術にでも掛けるか、記憶操作しちまえば過去は変わらない」

 

「詐欺ね、まるで」

 

「何言ってる。こっちは神様のルールでやってるんだぜ?まだ良心的さ」

 

「そうね。人を助けるため。でももう少し穏やかな方法は無かったの?(泣)」

 

「あればとっくにそっちをしてるよ」

 

 

 

液晶モニターにはナデシコの姿が絶えず映されている。

 

「まったくあの男は〜!」

 

密航してでもナデシコに乗ろうとしていたカスミだが、トオヤに気付かれ簀巻きにされてその企みは潰えている。

 

「定時メール送ってきたって許さないんだから!」

 

「まあまあ、落ち着きなさい」

 

ぶつぶつ端末の前で呟きつづけるカスミにやんわりとたしなめる声が掛けられる。

 

カスミに声を掛けた女性、彼らにも歴史にも縁ある人物、テンカワ・アヤナ。

アキトの母親である。   

 

「アヤナさん!あいつは私を置いていったんですよ?パートナーの私を!」

 

「それは貴方にこのスケジュールをこなして欲しかったからでしょ?」

 

左手に持つレポート用紙をひらひらさせる。

 

「そうですけど!でも・・・」

 

「やっぱり好きな人の傍にいたいのかしら?」

 

「ア、アヤナさん!」

 

真っ赤になってアヤナに反論するカスミ。

 

「でもそうかもしれません。

 あいつは風みたいに自由気ままで、雲みたいに空から見下ろしているみたいに広く物事を見て、掴むと消えて

 しまうみたいに捉えどころのない人ですから・・・」

 

「だから一緒にいないと不安なの?」

 

「たぶん、そうなんだと思います・・・・」

 

少し項垂れてアヤナの言葉を受け入れる。

 

「アヤナ。またカスミさんをからかっているのか?」

 

まだ30代前半らしい細身の男性が声を掛けた。

 

「あらあなた。からかってなんかいませんよ。ただ、ね?」

 

「う〜〜〜っ。」

 

呻き声を上げるカスミ。まだ歳若いカスミには彼女には敵わなかった。

 

「それにしても始めて君に会った時は驚いたな・・・・」

 

 

アキトの父、テンカワ・ハヤトがカスミと会ったのはぎりぎりの状態だ。

火星ユートピアコロニーの宇宙港で起きたクーデター騒ぎの時だった。

その当時の隣人であるミスマル一家が火星を離れる時にそれは起きた。

銃口に狙われ咄嗟に隣にいた妻を庇い、死を覚悟した時になにやら鈍い音が鳴り響き、そちらの方を向くと

テンカワ家とミスマル家を繋いでいた一番大きな原因であったクサナギトオヤが暴徒を足蹴にしていた。

 

「ト、トオヤ君。助かったよ」

 

「ハヤトさん、お久しぶりです。とりあえず忙しいのでちょっと黙っててください。カスミ?」

 

「わかったわよ!女の子に力仕事させて自分は見物?」

 

ハヤトは思わず大口を開けて固まった。アヤナも同様に。

カスミが運んできたのは自分と妻にうりふたつだったからだ。

 

「わ、わたし?」

 

「そ、それはなんだね?」

 

「後でまとめて順を追って話します。あまり時間はありません。」

 

そう言ってグロックでカスミの持っているハヤトとアヤナにそっくりな物の胸部を撃ち抜く。

 

「これで良し!ゼラニウム・・・・」

 

彼の背後にゼラニウムが蒼銀の輝きを放ちながら出現する。

 

「なっ!」

 

「ふふふふ・・・。この時点で3桁近い法に触れているわね。これで私達は立派な重犯罪者だわ」

 

驚くハヤトを他所にカスミはひとり闇を纏っていた。

 

 

 

それから今の状況、彼らの事情、これからの事とたくさんの事を話し、二人はトオヤに協力する事となる。

 

「まあ命も助けてもらったし興味深い体験もしている。至れり尽せりだな」

 

「はははは・・・。でも自由だけは保障できません。

 お話したとおりあなた方は死んだ事になっているのでここにいてもらわないと・・・・」

 

「わかっています。全てが終わったらその事も何とかしてくれるという事も。」

 

「今すぐ出来なくてすいません。」

 

「そんなに気を落さないで下さい。私達は感謝しているんです。ね、あなた?」

 

無言で頷く。

 

「そう言ってくれると救われます。さすがに人間のクローニングは問題ありかな?って思ってましたから」

 

「まあ非常時だったからな。そっちはどうだい?」

 

「経済状況ですか?ネルガルとクリムゾンの株価が凄い勢いで上下してます。

 トオヤの読みどおり、経済方面で圧力を掛けてるみたいですけど?」

 

「今の私には息子が何をしようとしているか解りません。

 情けない話ですがお任せします。ゼラニウムの方は私と妻で強化武装の方に着手します。」

 

「お願いします。それとガレージの端末にトオヤが送ってきたデータを送っておきました。

 確か、フィールド・ブレードとか言うディストーション・フィールド(以下D・F)を消失させる装置を組み込んだ

 剣だったような?」

 

「わかりました。半年以上あるんです。ちゃんと作りますよ」

 

「お願いしますね。」

 

その時浮かべたカスミの微笑みに思わず顔を赤くし、妻に抓られるハヤト。

 

「ふふっ。私も負けていられないわね。経済基盤は固めておかないとね〜♪」

 

なにやら楽しそうに株の取引を始めたカスミ。トオヤは言ったものだ。

 

「あの女を金がらみで敵に回すことほど愚かな事はない。

 そんな事をするくらいなら素手で戦艦に喧嘩を売ったほうがましだ!」、と。

 

ハヤトはモニターの中で小さくなっていくナデシコの機影を見ながら呟いた。

 

「私達の息子達が行く・・・」

 

そりゃそうだ。

 

「はっっっくしょん!

 ・・・誰か噂してんのかな?」

 

ナデシコは現在第四防衛ライン突破中。

ミサイルが雨のように飛んできていて整備がやりにくくてしょうがない。

 

「クドウ。三番の箱とって」

 

「はいどうぞ」

 

現在アキトエステを改造中。

地上ならともかく宇宙で無茶して止まってしまって狙い撃ち、などという死亡確定の見たくもない未来予想図を

現実のものとする訳にはいかなかったからだ。

重工の人には知らせていないがメカニッククルーは承知済みである。

 

「ウリバタケ班長〜。ヤマダ機はどうですか〜?」

 

「もうちょっとだぞ〜!」

 

アサルトピットのみの改造なのでそんなに時間は必要無かった。

フレームの改造は調整が微妙なのでパイロット無しじゃしたくないし。

 

「こっちは上がり。それじゃ通常業務に戻って!夜勤の連中ぐっすり休めよ〜」

 

「「「「わかりました!」」」」

 

「B班に負けんな〜!」

 

「「「「「う〜っす!」」」」

 

いやいや活気があってよろしい。野郎ばっかりっていうのが少し嫌だが。

 

「?ミサイル攻撃が止んだ?もう第三防衛ラインか?」

 

時間的に少し早い気もするんだが。そんな事を考えているとミイラ男に出くわす。

 

「おい!妖怪の分際でハイテクの塊であるナデシコに現れるとは・・・。解剖してやろうか?」

 

「俺は妖怪じゃない!ダイゴウジ・ガイだ!!」

 

「あ、そういえば赤い制服。いやすまん。ところでお前そっちは格納庫だぞ?」

 

「わかってる!」

 

歩き方こそぎこちないがのしのしと言う擬音が聞こえそうな勢いで歩いていく。

 

「何しに行くんだ?」

 

ヤマダを追って再び格納庫に足を踏み入れた。 

 

「こら〜ヤマダ〜!お前怪我してるんだろーが!とっとと医務室に戻れ〜!」

 

「何度言ったら解る!

 俺の名前はダイゴウジガイだ!!ヤマダじゃない!!」

 

「どっちでもいいからとにかく戻れ〜!!」

 

どうやら作業が終わったところにヤマダが現れて強引に乗りこんだらしい。

メガホン片手にウリバタケ班長が叫んでる。無視して射出口に移動して行く。

 

暫く動きが止まるものの結局飛び出して行くヤマダエステ。

 

それから数分後アキトが慌ててエステに乗りこむ。

スムーズな起動を見ると改造をしたのが無駄でないと判り少し嬉しい。

 

戦闘中、ヤマダに向けられたミサイルを打ち落とすアキトの腕を見て(モニター越し)、格納庫が驚愕に包まれる。

その後の3機撃墜などおまけのようなものだろう。殺してないところを見ると流石だが。

 

(ヤマダが帰ってくるまで時間を稼ぐか。)

 

今の俺には静止衛星に干渉するなど容易いことだ。

思兼が見てみぬふりをしてくれているのでブリッジには知られていない筈だ。

 

ヤマダ機が帰ってくるとウリバタケ班長が怒り狂ってヤマダを張り倒す。

 

「命はもっとマシに使え!」

 

かけられた言葉はそれだけで気絶したヤマダを数人が運び、戦場に注目する。

 

無理な加速と急激な方向転換にエステバリスの安全域はとっくに越している。

 

「すげーなあいつ・・・」

 

誰が言ったかは分からない。ミサイルを相手にするその姿をどこか儚く思え、頭を左右に振る。

 

「バカだ、あいつも・・・・」

 

俺の弟も、俺に似て無茶をやらかすヤツだった。哀しいやら、嬉しいやらよくわからない。ただ・・・。

 

「長生きは出来そうもないタイプだな・・・・」

 

苦笑と一緒にそう漏らす自分の声を聞いてから、言ったのは自分だと気付いた。

 

「相転移回ってきたぞ〜!」

 

ウリバタケ班長の声をどこか遠くに置きながら、

 

「ハッチ明けろ!」

 

外から操作しハッチを開ける。

 

「テンカワ生きてるか?」

 

「いいから医務室に!」

 

二人にアキトを担架で運ばせ(何故格納庫にあるかは不明)エステバリスに向き直る。

 

「ありがとう。頑張ってくれて・・・」

 

ぽんと手を置き撫でるようにする。

 

「地球が見えなくなるぞ」

 

の一言でぞろぞろ消えて行く整備班の人達を横目で見ながら。

 

「行くわよ、あんた達!」

 

茸頭にそう命令され彼の目の前に現れる。

 

「ムネタケサダアキ。」

 

       パンッ!

 

問答無用で銃ぶっ放されれば俺じゃなければ殺されても文句言えないぞ?

 

「誰よ!?」

 

「撃ってから言う事か?ちなみに今のやり取りは録画されている。軍法会議を期待しているんだな」

 

「な、何の真似よ!」

 

「言いたい事があるだけだよ。かまっぽいキノコ、あんた何様?」

 

「よ、よくも・・・」

 

気にしていたらしい。

 

「軍人とはいえ、無抵抗の人間相手に撃ったんだ。殺人未遂だな。この犯罪者が」

 

「な、なによ!」

 

「むかつくんだよ!そう言うところが!」

 

10メートルの距離を瞬き一つしない時間で詰め、先の騒ぎで手に入れていた銃を口内にめり込ませる。

 

「あ、あがが・・」

 

「どうだい?踏み台に命を握られた気分は?」

 

「は、はふへ・・・」

 

いい加減付き合うのもうざくなったので膝をみぞおちにめり込ませる。

 

「ちょっとそこの・・・」

 

「な、なんだ!」

 

「こいつ連れて地球に帰れ。やな上司にうんざりだろ?連合の上層部のクサナギにこいつを渡しな」

 

手紙を気絶したムネタケに握らせて、放り投げる。

 

「あ、あなたは?」

 

「息子だよ。親父は融通は利かないけど情には厚い。何とかしてくれると思う。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「こいつみたいに腐った男になるなよ」

 

「「「はいっ」」」

 

「そこの怪我してる君。」

 

「な、何でしょう?」

 

「慰謝料思いっきりふんだくっても良いからな」

 

「は?」

 

こうしてナデシコは地球を離脱した。

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

〜堕作者のあとがき〜

 

いやいやとんでもない前例作った犯罪者、久遠の月です。

科学者が必要かな?とか思ってオリキャラ作るよりこっちの方が楽だったから・・・。

言い訳ですね。ネタは電撃文庫、高畠京一郎作「タイム・リープ」読んでて思い付いたんですけど。

自分なりの補完かな?

 

まあ矛盾と欺瞞に満ち満ちた作品になること請け合いですが愛想を尽かさないで読んでやってください。

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

久遠の月さんからの投稿第四話です!!

凄い話になってきましたね〜

Benも初めてですよ、テンカワ夫妻が存命しているSSは!!

う〜ん、こんな切り込み方もあったんですね。

いやはや、感服しましたよ。

今後はどんなストーリー展開になるんでしょうね?

実に楽しみにですね!!

 

それでは、久遠の月さん投稿有難うございました!!

 

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