ポプラ 道を誤ったものたち
始まり
黒い王子は復讐の清算の為、
幼き妖精は、自分を観てくれる人を助け続ける為の
新たな旅を始める
「アキト、コレカラドウスルノ」
<ラピスが、こっちを観て聞いてくる。同時に心、隠すことを知らないのでリンクから不安な気持ちが伝わってくる。
俺は、ラピスの頭を撫でながら、虚無感にその身を任せていた。
これから、俺は何をすべるべきなのだろう?
唯、復讐にこの身を捧げて、アカツキや、エリナ、月臣、幼いラピスまでも巻き込み、数多の関係ない者達を殺し、挙句の果てに、巻き込まないと決めていた、ルリちゃんの力を借りてまで取り戻したアイツ…
…もうこれ以上生きてする事など有るのだろうか?
俺はもう戻れない、………………………………あの頃には。…………二度と
「…アキト」
<不安げなラピスの声で現実へと意識が戻る
リンクから感情がもれてしまったようだ
「戻るぞ。これからの事はそれからだ。」
「…ワカッタ」
幼き妖精の表情は、王子の心を映した様な晴れないものであった。
だが、王子の意思を感じ取り、それを戦乙女の心とも言うべき
制御AIポプラへと伝え、実行する
<リンクにより俺の感情が漏れてしまうが、仕方がない。
今はまだ、何も考える事が出来ないのだから。
俺は何を手に入れたのだろうか。
虚しい。ただその想いしか湧いてこない。
ウィンドウが次々と浮かび、進路の確保と、敵対勢力有無の確認を伝える。
果て無き、暗い宙は、彼の心映した様に、寂しく、空虚な風景であった。
<アキト。クライ、フカイイロ。
ライピスハ、モウイラナイノ?
ルリノトコロニ、モドルノ?
ラピスハステラレル?
目的を果たし凱旋となるものだが、それとは逆に、不安と虚無感を乗せ
戦乙女の名を持つ戦艦は、本来なら月の廃棄されているドックへと戻った。
ネルガルの会長室
「やっとお姫様を取り戻せたんだねぇ。イヤー長かった。……あの時から、三年だもんね。」
道化師と呼ばれし男が相槌を取る。
「ええ、彼にとっては、本当に長かったんじゃないでしょうか。…ところで会長、最近社長側に妙な動きがある様なのですが如何いたしますか?」
「うーん、政府筋のほうが今回のテロについて家との関係を疑ってるからね、警戒を強めるだけにしとくしかないでしょ。」
「そうするのが無難な所でしょうな。外部とは連絡を取っていない様ですし。」
「ところでラピス君について気になることがあると聞いたけど…なんだい?」
「其の事については、ドクターから説明会が有るそうですが…」
「説明会?」
嫌そうにオウム返しをするアカツキ
「はい、説明会とのことです。ちなみに、おやつは三百円以内とのことです。」
額に汗を浮かべて肯定するちょび髭
「………………………」
「………………………」
その場を沈黙が支配する
ネルガル秘密ドッグ
警報が鳴り響き何かが、ジャンプアウトしてくることを知らせる
いや、ここにジャンプアウトしてくるのは戦乙女の名を持つ戦艦しかいない
復讐を成し遂げた男が乗るその船しかいない
祝福、いや、やった事のに対する善悪を除いて、目的を果たしたものに対する畏敬と自分らが作った物に対する成果のために、普段とは違い熱気に満ちていた
ただ、彼らの体とこれからの将来を危惧する者等とある決意、或る者と、同じ決意を持つ者を除いては…………
月ドック・第二食堂
「手筈は?」
「無駄に一年もの間、あの船を整備していたわけじゃない。それよりも…」
第一食堂とは異なり完全自動化されたここを、使うものは少ないらしく、作業員風の男が二人居るのみである。
「分かってる。事が終わり次第入金する。例のものは、第四廃棄コンテナの中にある。」
<金など、どうでも良い。もう必要ないから…
「コードRB0707でセキュリティーが五分間止まる。D−2ブロックの排気口から、システム管轄外の部屋に出れる。」
<設計課が冗談で造っていた物がこんなところで役立つとわな
鍵を置いて男は立ち去った、残った男は独り暗い海へと思考を落としている
<しかも、、、アイツの護りたい者と同じものだなんて…皮肉だな……
ネルガル本社
「彼女らの所には、もどらなくて良いのかい?」
「ああ、俺の手は血を求めている。あいつ等の所には戻らない。」
「そうかい。でこれから如何するの?いくら君の頼みでもネルガルは何時までも爆弾を抱えるほど甘くはないよ。」
「奴等を消し去る。いや、再起不能まで追い込むまでだ。…奴等の持つデータは、ネルガルの利益に繋がるだろう。」
「確かにね、でもそのな不透明な期限じゃ、納得できないね。
政府筋にも目をつけられ始めているしそう長い間は……」
「安心しろ。一週間以内には片をつける。その後の事だが。」
一旦言葉を止めた黒尽くめの男は、膝の上で可愛い寝息を立てている少女の頭をなでながら続けた。
「ラピスの記憶から、俺に関することを消して、人間らしい暮らしをさせてやってくれないか」
「それがその児の為って訳かい?勝手に利用して、勝手に捨てるのかい?」
嫌悪感を丸出しにした目線を送るアカツキ
「ああ。大切な人だからこそ、俺なんかとは係わっちゃいけない。
この児は、幸せになる資格があるのだから…………」
ワザとらしい溜め息を吐いたアカツキは、女の子1人位なら、如何とでもなるよ。といいたした。
うなずくアキト
寝ているラピスを抱き上げて「すまないな」とつぶやき、立ち去った。
<まったくもって変わらないな彼は。
自分の考えが、正しいと思い込んでいる。
そのくせ、絶対であるとは、思っちゃいない
だからこその優しさなのかね?………
………………その優しさは、相手にとってこれ以上ない仕打ちになることもあるというのにねぇ
それにしても、大切な人か……………
ロリコンってうわさは、そんな態度からなのかな?
まぁ。彼の我侭には、戦友として付き合ってやるか…
長い間、深い思考の海に漂っていたが、ふと現実の丘に上がり
インターホンのスイッチを入れ、エリナ君を呼んでくれと、命じる
<さて、うちのお姫様には、なんて説明したら良いのやら…
まったく、面倒なことを押し付けてくれたな。
黒い王子にとって最早、敵である火星の後継者らは、敵ではないと思っているのだろうか
恐らく推察の通りであろう。
最大の敵である北辰は倒し、首謀者である草壁も牢の中。
彼にとっては恐れるに足りぬ者達でしかないのだ
それから四日後、彼は最後の戦いの場へとその纏いし物と同じ色が支配する空へと向かう
総て、終わらすために・安心して、死ぬ為の戦いへと
しかし……死を望むものに、道は見えるのものであろうか………………………
始まり 終
補足:コードRB0707でセキュリティーが五分間止まる
:何故このようなコードが存在するのかといえば、ナデシコAの経験からである。
あの時制御AIであるオモイカネが、度重なるストレスにさらされた結果、暴走状態に陥り共同戦線をひいていた軍に対して攻撃を加えたことがあった。
ユーチャリスに搭載されている制御AIは、たった二人で、戦艦を運用するというコンセプトのために、ナデシコ系や、他の次世代制御AI、に比べてその権限に制約が、ないといって良いほどの自由度を持たされていた。
例えるならば、自爆決議の作動権などは、その艦の艦長の指示の元で行われるのであって、AIに拒絶権や決定権などは持っていない。
しかし、ユーチャリスの制御AIは必要に応じてその決定及び実行権や拒絶権を認められているのである。
これは、何らかの事故により、マスターである人物が、行動不可になった場合、他の企業及び政府筋に拿捕される危険性を無くすためである。
しかし、ネルガルは、AIが暴走した場合の被害の大きさを其の経験上知っており、又、オモイカネの後続AIであるポプラも似たようなトラブルが起きると考えたために、作り出されたもの詰り、保険である。
因みに、ナデシコCの制御AIオモイカネにはネルガルや、軍によるコードは存在しない。
そのオペレーターであり、艦長でもある『電子の妖精』であるホシノルリの手により、削除または、変更されている。
ネルガルや、軍にあるコードを入力すると偽装反応として、あたかも、実行しているように見せるが、オモイカネの基準に反する場合は、拒絶または、ホシノルリ特製ウィルスや、武力による報復措置も行うことが出来る。
真の意味で、最も自由度の高い制御AIはオモイカネであるといえるかもしれない。
このように設定もしくは変更した人物から『私少女ですから』というメッセージを受け取った。
RB0707は思い当たる人が大勢いると思われるので深くは触れない