機動戦艦ナデシコTV版再構成

≪Bell of fate ≫

〜運命の鐘が鳴る時〜

第1話 『スカウトされてみませんか?』



火星会戦から1年が経った。


ここは地球――――――――――――



「いらっしゃい!」
「ラーメンお待ち!」
「兄ちゃん、いつものやつちょーだい!」
「はい。サイゾウさん、ねぎラーメン一丁、ねぎ大盛りで!」
「あいよ!」


サセボシティにある一軒の食堂屋。 ただ今昼過ぎにつき、店の中は客でごった返している。。

『雪谷食堂』 近所じゃなかなか評判のある店だ。

特に特製チャーハンがなんともいえないらしい。



「おい、兄ちゃん。チャーハン一つ!大盛り!」

「はい、で、どっちです?」

「お前さんの、アキト特製の方だよ。」

「了解!」


この食堂には2つの特製チャーハンがある。

この食堂の主人のがサイゾウ特製で、兄ちゃんと呼ばれた男のほうのはアキト特製といわれている。

もともとはこの店にはチャーハンというのは一つしかなかったのだが、

一年程前、兄ちゃんことテンカワアキトを雇ってから2つになった。

サイゾウが試しにアキトのチャーハンを客に食べさせたところ サイゾウとは微妙に違った味付けが客に受け、そのまま料理の名に連なってしまったのである。

注文の数はほぼ五分五分であるといっていいだろう。





「チャーシュー三つ、餃子二つ、味噌一つ入りました!」
「お勘定ここおいとくよ。」
「今日は何が釣れるかな?」
「おい、アキト。はやくしろ!」
「やば、早く帰んないと上司に怒られちゃう!」


いつもと変わらない店内。

ま、そんなこんなで雪谷食堂は賑わっていた。







「ふぅ・・・・・・・・・」

サイゾウが一息つく。

昼過ぎのあの賑わいが嘘のように今店内は静かになっていた。

ピークを過ぎたというところだろう。


「さて、ちょっくら休憩でもすっか、アキト。」

「そうですね。じゃ、店の札裏返してきますね。」

アキトは入り口の方へと向かっていった。

そしてあけようとしたそのとき、


「お、ここ。ここですな。」
「うむ。」

「すみません、昼の営業はおわったんで・・・・・・・・・・・?!」


「おひさしぶりです、テンカワさん。」




入ってきたのは、 眼鏡をかけ、赤いチョッキをはおったサラリーマン風の男と、妙にがたいのしっかりしたごつい男。


「プロスさん!?・・・ゴートさんも!」


アキトは驚きの声をあげる。


「何だ、アキト。知り合いか?」

「え、ええ、ちょっと。」


「お前の知り合いが来るなんて初めてだな・・・・・・・・・・・

まぁ、ちょうど休憩しようと思ってたところだ。

ここで、ゆっくりと話でもしな.俺はあがるからよ。」

「ありがとうございます。」

アキトの礼を聞きつつ、 サイゾウはのらりくらりと2階へとあがっていった。


「じゃ、まぁ立ち話もなんだからとりあえず座ってください。」

プロスとゴートを席へと促す。

ちょうど2人と対面する形でアキトは座った。


「お久しぶりです、プロスさん。ゴートさん。」

ニッコリと微笑む。


「よくここが分かりましたね。」

「ええ、これを見ましてね・・・・・・・・・・・・・ほら、ここ。」


そう言って、雑誌の写真を指す。

そこには、厨房で鍋をふるサイゾウとチャーハンを運んでいるアキトの姿があった。


(そういえば、おいしい食堂屋とか何とかで、取材にきたことがあったっけ・・・・)

アキトの記憶がかすかによみがえる。


「偶然この雑誌を見たときは驚きましたよ。まさか、生きておられたとは。

――――――――あの火星からどうやって地球へ?」


眼鏡の端がきらりと光った。


「さぁ、それがよく覚えてないんですよ。気がついたら地球にいた。

説明になってないかもしれないですが、ほんとにそうなんです。」

下で組んだ手に視線を落とすアキト。

「そうですか・・・・・・」


「でもプロスさん。今日はそんなことを聞きにきたわけじゃないでしょう?」


すっと顔を上げ、プロスを見た。

「ええ。さすがテンカワさん。よく分かってますね。

そうです。今日は折り入って話があってきたんです。」



プロスの顔が真剣なものへかわった。

「私どもはあなたをスカウトしにまいりました。」


「・・・・・・・・・ナデシコ・・・・・・・・ですね?」


「!?」

プロス、ゴート両名とも目を見開いた。

「どこでそれを?」


多少なりとも圧力のかかった声で、プロスが訊いた。

たいていの人はこの声に圧倒されるのだが、目の前の男は違った。


「風のうわさで聞いた・・・・・・・なんて・・・・・・・・ハハハ」


頭をぽりぽりかき苦笑しながらそんなことを言ってきた。


(一応ナデシコというのはネルガルのトップシークレットに入っていて、

まず風のうわさで流れてくるなんて事はないんですけど。)


そんなことを思いつつ、プロスはジト目でアキトを見た。


やっぱりまだ、アキトは笑っていた。


(変わりませんな、この人は。)


「ま、いいでしょう。そのことは。で、乗っていただけるのですか?」


「・・・・・・・・いいですよ。」

前々から、知ってたからか、アキトの返事は意外に早いものだった。


「そうですか、それはよかった。では早速契約の方を・・・・・」

うれしそうに、手を叩き、黒い営業用のバックから、一枚の紙切れを出した。


契約の説明を、凄まじいスピードでしていく。


「と、こんなもんです。

それで、ここにサインしていただければ、オッケーですので。」


アキトはエプロンにつけているペンを出し、契約書にサインをした。


「っと、これで。」

「はいはい、これでよし・・・・・・・・・・・・・ん?」


契約書を見ると、職業の欄のところが斜線がひかれ、別のものが書かれていた。


パイロット→コック



「テンカワさんこれは?」

思いっきりその部分を指差して、アキトにつめよるプロス。


「ああ、気づいちゃいました?」

「気づくも何も・・・・・・・・・・いったいどういうつもりです?」


「俺は乗るといっただけで、何もパイロットとして、とはいったつもりなかったんで、

ちょっとその辺直させてもらっただけですけど。」


当然といった表情のアキト。対してプロスのほうは頭の後ろに大きな汗をかいていた。



「どうしてもダメですか?」

「ええ。」


「お給料の方は減りますよ。」

「かまいません。」


「考え直すということは・・・・・・・」

「ありません。」


プロスの言葉をことごとく否定していくアキト。


2人は無言のまま互いの目を見つめあった。








「・・・・・ふぅ、まぁいいでしょう。」

「ミスター!?」


今まで黙って話を聞いていたゴートがいきなり声をあげた。


「ゴートさん、別にいいじゃないですか。コックでもパイロットでも。

さて、あんまり長居してもなんですし、そろそろ私達は帰るとしましょうか。」


「し、しかし・・・・・・」

ゴートはまだ納得できていないようだ。


「じゃ、また詳しいことは後日連絡するとして。」

「はい、ではまた。」

だが、二人はまるっきり無視をしていた。


アキトが2人を見送ろうとしたそのときだった。


「最後に一つだけ。

理由。パイロットになるのを断った理由をよろしければお聞かせ願えますか?」


くいっとプロスは眼鏡をあげた。ゆっくりとアキトのほうを見ながら。


「別に理由だなんて大そうなものじゃありませんよ。


ただ―――――――――」




















その日の晩。

夜の営業も終わり2人は夜食を食べていた。


「サイゾウさん。」

「お、なんだ?」


「昼間はすみません。なんか迷惑かけてしまって。」

「あんなの迷惑のうちにはいんね〜よ。気にすんじゃねー。」

「はい。」

サイゾウはあたりまえのように言ったのに、アキトはすごいうれしそうに返事をした。


「それであの・・・・・・」

「お前、近いうちにここをでてくんだろ?」

「ええ。・・・・・・え?」

アキトの言いたいことをずばりとサイゾウは言い当てた。

さすがのアキトもすこしおどろいている。


「なに、昼間はなしているのが聞こえてな。別に聞く気はなかったんだが。」


悪気がないとはいえ、人の話を盗み聞きしてしまったことに罪悪感を感じているのか、語尾が小さくなる。


「いいですよ。どうせ話すつもりでしたから。」

アキトのほうはまったく気にしていないようだ。


「それで、突然ですみません。サイゾウさんにはいろいろとお世話になったのに。

でも、どうしても行かないとならないんです。」


真剣なまなざしがサイゾウの目を捉えた。

サイゾウが返事するのにそう時間はかからなかった。


「いいよ。行ってきな。」

「ありがとうございます!」

アキトはいすから立ち上がり、頭を深々と下げた。


「お前がいなくなったら客達は寂しがるだろうが。

まだ、行くまで時間あんだろ?それまでは精一杯働いてもらうからな。」

薄い笑いを浮かべ、サイゾウは言った。


「はい!」


アキトも満面の笑みと元気のある返事でそれを返した。















時は少し戻って――――――――――


雪谷食堂の帰り道。

「しかし、ミスターほんとによかったのか?」


未だに納得のいかないといった様子のゴート。


「いいんですよ。あなたもあの方の目を見たでしょう?」

深く暗い黒い眼。だが、その眼の中には譲れないものがある。そんな眼だった。


「それに、あの言葉。」


「ああ、あれか。」











―――――――ただ、戦いが嫌いなだけです――――――






そっとつぶやく、儚くて今にも壊れそうなアキトの言葉。何よりもアキトの存在自体が消えてなくなりそうな。そんな感じだった。―――――――











「戦いが嫌い、か。」

「ハイ。」

「確かに、アイツには戦いは似合わないのかもしれないな。」

ゴートは、何か考えるように言った。


「そうですね。

テンカワさんは、優しいですから。」

「うむ。」


2人は視線を空へと向け、先ほどの青年のことを思った。

















「それじゃ、サイゾウさん。お世話になりました。」

「おう。そうだ。・・・・・・・・・・これ持ってけ!」

サイゾウの手から一通の封筒が手渡された。


「これは?」

「いいから、見てみろ。」

封筒を開けるとカードと、1枚の写真が入っていた。


「これって昨日の・・・・・・」


そこには、アキトとサイゾウを中心に漁師のかっこをしたおっさんや女子高生、その辺のおばちゃんに、そのおばちゃんの子と思われる小さな男の子と女の子、とにかくいろんな人が写っていた。

そして、その顔は皆笑顔だった。



『おい兄ちゃん、お前のチャーハンが食べられんようになるなんて、おれぁ悲しいぜ、ちくしょう!』

『あんた、泣くんじゃないよ。でも、アキト君がいなくなると寂しくなるねぇ。』

『お兄ちゃん、ずっとここにいてよ。』

『アキトさん、絶対に帰って来てくださいね。』




昨日の風景が頭に浮かんでくる。

アキトがここを離れると知り、常連のお客さんや近所の人たちがお別れ会をしよういってきたのが始まりだった。

酔ったいきおいでおっさんには泣きつかれるわ。女の子にはずっと服のすそをつかんだまま話してくれないわ。女子高生なんか、目をウルウルさせて擦り寄ってくるわ。

とにかく大変な騒ぎだった。


「ホント、いい人たちですよね。」

「そうだな。」


「これは?」

写真のほかにカードが一枚入っていた。


「それは、俺とみんなからの気持ちだ。」

給料と書かれたカードには、それなりの金額が入っていた。


「俺、もらえま・・「とっときな、みんながお前にってくれたもんだからよ。」

つきかえそうとした瞬間、サイゾウに言葉をさえぎられた。

サイゾウは優しい微笑みをたたえている。


「はい。」


素直に返事をした。


「では、そろそろ行きます。」

「おう。」

「では、また。」


深々とお辞儀をし、サイゾウに別れを告げた。


「アキト。」

「はい?」

「あんま無理すんじゃねーぞ。」

「・・・・・・・・・・・はい。」


短くそう返事をし、アキトは雪谷食堂を後にした。








向かうはサセボ基地。アキトは自転車をこいでいく。


その先に待ち構えるものに導かれるように。








あとがき

ども、紅トンボです。
アキトはパイロットを拒みました。
というより、戦いそのものを拒んでいます。
これにはいろいろと理由があるんですが、ま、それはまたの機会ということで。

では、また次回。

 

 

 

代理人の感想

ふ〜む?

ああ言う目に遭って戦う力を求める、ならわかるんですが戦いを嫌うと言うのは・・・・

TVのサイゾウさんの言う「逃げてる」状態にも思えますね?

 

後、プロスさんが職種変更をあっさり認めたのはちょっと。

「あなたの能力じゃなくてあなた自身に用があります」と言ってるようなもんで、

交渉のプロらしからぬ行動じゃないでしょうか?