_では、お名前とご職業を…

 咲倉(さくら)トモエ、機動戦艦コスモスオペレーター、IFS強化体質の…君達の言葉を借りるなら「電子の妖精」だよ。

 

「漆黒の戦神」アナザー
咲倉トモエの場合

 

_コスモスと言えば、たしかナデシコ級戦艦の2番艦でしたよね?
ご身分を聞いた限りでは「彼」との接点はあまり無いように思われるのですが…

そっちの質問に答える前に、僕の方から1つ聞いても良いかな?

_えっ、ハイどうぞ、私に答えられるものでしたら。

「彼」…テンカワアキトのナデシコにおける正式な地位はなにか知ってる?

_えっ? えーと…確か…ナデシコの副提督でしたっけ?

ぶー、ハズレ。

_そっ、それじゃあエステバリス部隊の隊長?

それもハズレ。

_なっ、なら思いきってナデシコの艦長!

それはミスマルユリカ、まったく…正解はナデシコの社員食堂の副料理長だよ。

_食堂のコックですか!? えっ? えっ? でもあのテンカワアキトですよ!?

そうだよ、あんまり知られてないけど、アキトのあの活躍は実は副業にすぎないんだ。
アキトが自分でそう言ってたもん、その証拠に僕がアキトと出会ったのもその食堂がらみの事だったんだから…

コスモスはドック艦としての役割も持ってるから、長期作戦中のナデシコに補給を届けるのも大切な役目なんだ。
あの日も、コスモスはナデシコに補給物資を届けに来ててね。

アキトはナデシコ食堂で唯一の男手だから、食料品の資材搬入の管理を任されてたんだけど、
その運んできた食料品に不足が出たんだ、それで書類のチェックのためにコスモスのブリッチに上がってきたのが、
僕とアキトの出会いだったんだ。
もちろん僕もスクナビコもそんな失敗するはずが無いよね、
…って、スクナビコって言うのはコスモスに搭載されてるコンピュータのAIで僕の大切な友達なんだけど、
と、それで、調べて見たら、業者側の書類の不備、
今時アナクロに紙の書類なんか使ってたからスクナビコのデータにもなくて苦労したよ。

_はぁ、なんかえらく平和的な出会いですね…

そうかな? まぁその時はそれで終わったんだけど…
それからかな、急にナデシコへの補給の回数が増えていったのは、
で、その補給のたびにアキトが僕のところを尋ねてくるようになったんだ、
当時の僕は自分で言うのもなんだけど、可愛げのない子供でね、
折角アキトが来てくれてたのに、知らん振りしたり、仕事があるからって無視したりしてたんだ、
…自己弁護させてもらえば、生まれたときから研究所で実験動物扱いされて育って、
コスモスに乗ってからも、お堅い軍人に囲まれて、船の部品扱いされてたら多少人間不信に陥ってもおかしくは無いよね?

それなのにアキトはこりもせずに僕の事かまってくれて、時々ゴハンまで作ってくれたりして…
あのね、コスモスの食堂はオートメーション化されてるから、ものすごく味気ないんだ、
僕もいつも販売機のジャンクフードで済ませてたし、だからアキトの手作りの料理が凄くあったかく感じたんだ。
こういうのも餌付けっていうのかな?
いまじゃ、アキトのつくってくれたゴハンじゃなきゃ食べた気がしないくらいになっちゃったんだ、
あーあ、アキト、コスモスのクルーにならないかな…

_電子の妖精と言えば、ナデシコにも星野ルリと言う方がいますが…

僕あいつ嫌い! だってあいつ僕とアキトが一緒にいるといつもジャマしようとするんだもん、
このあいだもナデシコのオモイカネを使って、スクナビコをハッキングしようとするし…
むかついたんでお返ししようとしたらラピス・ラズリって子と二人がかりで反撃してくるし…卑怯だよ!

_はっ、はぁ…大変ですね…(近親憎悪ってやつかな?)

いま何か考えた?

_いっいいいいえいえ、とんでもありませんよ、ハイ!

…まぁいいけど、僕を怒らせると後が怖いよ? 僕は”電子の妖精”なんだってこと忘れないでね?
今の身分、大切でしょ?

_ハハハハ、ハイィ〜〜!! ほっ、本日は大変ありがとうございました!!!

民明書房刊「漆黒の戦神、その軌跡」より抜粋

 

「よっ、アキトいるか? 資材の搬入手伝うぜ」

コスモスとのドッキングが済み、補給物資が運び込まれ始めた頃、手伝いの為にアキトを探していたヤガミナオは、
ブリッジを訪れた、が、

ギンッ!!

そのブリッジは物理的な圧力を持つほどの殺気に満ちていた。

「うをっ! なにごとだ!?」
「(ヒソヒソ)駄目よヤガミ君、今日迂闊にアキト君の名前だしちゃ」
「(ヒソヒソ)なにごとっすかミナトさん、この殺気ただ事じゃないっすよ」
「(ヒソヒソ)今アキト君、コスモスのオペレーター、トモエちゃんって言うんだけど、
 その娘のところにいってるからみんな気が立っちゃってて」
「(ヒソヒソ)あいつの浮気症なんざ珍しいもんでもないでしょうに、 
 それより、居場所までわかってるのにどうしてみんなこんな所で固まってるんです?」
「(ヒソヒソ)ほら、アキト君って年下の女の子に対する保護欲求が大きいところない? 
 みんなそれが判ってるからアキト君に嫌われたくなくて迂闊に動けないのよ、
 ルリルリとラピスちゃんはトモエちゃんに自分の過去を投影しちゃって自縄自縛って状態だし…」
「(ヒソヒソ)はぁ…そうっすか…」
「ミナトさん! ヤガミさん! 任務中の私語は慎んでください、仮にもナデシコは軍艦です、
 一瞬の気の緩みが即、死に繋がるんですよ!」

とても普段の姿からは想像できないほどの迫力に満ちたユリカの声、そのギャップに彼女の行き場のない怒りが伺える。

「あーもう限界です!! オモイカネ、コスモスにアクセス! アキトさんが今何をしてるか調べてください」
『駄目だよルリ、コスモスの側が回線を開いてくれないんだ』
「いまは物理的に繋がっているんでしょう? なら無理矢理にでも回線を…」

ルリの言葉と同時に、蛾の羽を意匠化した模様が描かれたウィンドが開く、コスモスのAIスクナビコのウィンドだ。

『ごめんねルリ、トモエがルリには見せるなって言ってるんだ、だから僕の中は見せられない』
「くっ、スクナビコ、あなたもオモイカネから株分けしたAIのはずです、なら私のことを覚えてるはずです、
 お願いします、せめてアキトさんの姿だけでも…」
『ゴメンね…僕の今のパートナーはトモエなんだ、だからルリの願いは聞けないんだ…それと、これトモエからのメッセージ』

新たに開かれたウィンドにはルリやラピスによく似た、短く刈り揃えた銀の髪に金の瞳の少女の姿。

「僕とアキトの二人だけの時間をジャマするな、恋人と畳は新しい方が良いんだって昔の人もいってる、
 昔の女は用済みだよ、アッカンベー」

ご丁寧にあっかんべの絵まで映し出している(あのときのルリのポーズとほぼ同じポーズだ)

「(プチン)…オモイカネ、グラヴィティーブラストスタンバイ、目標コスモス」
「艦長権限で許可します」
「オペレーター権限で…以下略」
「ネルガル会長秘書として…略」
「オペレータ権限って…ってそうじゃない! みんな落ちつけ、アキトまで巻きこむんだぞ!!」
「アキトさんなら大丈夫です、て言うかむしろ他の女に奪われるくらいならいっそ、アキトさん殺してわたしも死にます!」
「だー、駄目だって、あんなやつでも世界の為に必要な奴なんだ、ってあんた等も見てないで止めろよ!!」

「我が神は争いごとを好まん」
「申し訳ありませんなぁ、わたしもサラリーマンなので、会長秘書の言葉にはさからえんのです…」
「すまんナオ、俺は普通の人間なんだ、ああなってから蘇生出来る自信がないんだ…」

明後日の方を向きつつ答えるゴート、プロス、そしてシュンが指す先には、ピクピクとうごめく謎の物体それも複数、
それが何かは言うまでもない。

『ちょっとまて〜〜!! イネスさんそれはさすがの俺でもきつ過ぎ…(ぷツん)』

刹那、開かれたウィンドから悲鳴が聞こえた気がしたが、認識するよりも早く、それは消えた…

「…ミナトさん、もしかしてコスモスが来るたびにいつもこうなんすか?」

キリキリと痛む頭と胃を押さえながらの問い。

「…うん、ヤガミ君は始めてだっけ? みんなこの日は八つ当たりを恐れて、
 誰とも目をあわさずに仕事に没入するから作業効率だけは良いのよ、
 上の人達ってそれで勘違いしてるからこんなに頻繁にコスモスをよこすのかしらね?」

真実はアキトが裏から手を回したせいだったりする、そしてナオの洞察力はそれを見抜いていた。

「アキト…怨むぞ…」

とりあえずアキトが帰ってきたら、たっぷりと愚痴ってやろうと心に誓うナオであった。


おわり

 

 

 

 

あとがき
えと…リスティ(マテ)もしくはレニ(さらにマテ)

…ナデシコをTVで見てた頃から疑問に思ってたんですが、コスモス、シャクヤク、カキツバタもナデシコ級である以上、
オモイカネ級のAIと電子の妖精クラスのオペレータはいたはずなんですよね。
で、こんな話。

シャクヤクに搭載されるはずだったYユニットのコンピュータの名前がサルタヒコなら、シャクヤクのAIはアマノウズメかな?
とか、なら残りの2隻のうちどっちかはスクナビコか? とか…(プラスとかダッシュとかを素直につかえない捻くれ物なんで(^^;)
ちなみに、トモエの名前は、
ルリ、ラピス→護符→本棚見まわす、ロードス島戦記が目に入る→額冠(サークレット)→サクラ・T→咲倉トモエ
と言う頭の悪い連想ゲームでつけてみました(苦笑)
よって、巴サクラ(土萌ニ在ラズ)でも可(爆)

それでは、このような駄文にお付き合いいただきどうもありがとうございました。

 

 

代理人の感想

 

うわ、性格悪っ(爆)。

「あの頃のぼくは」とか言ってるけど今でも充分性格悪いぞ(笑)。

「人間らしくなること」と「人間として立派に成長すること」はやはり別物なのだなぁ、と

あちこちの壊れルリやラピスを見ていると本当にそう思いますです、はい。

 

 

 

 

 

 

・・・・・ちなみに壊れの筆頭は某氏のルリだがどこぞの大魔王が書くルリもなかなか・・・・・・・・・(笑)