時ナデ・if <逆行の艦隊> 第5話 『緑の地球』の大作戦!・その2 2195年 10月15日 第1機動艦隊司令部 それは見事な『絵』だった。 ローアングルから捉えたエステバリス。 砲戦フレーム(正式には重機動フレーム)が猛然と対空砲火を撃ち続ける。 その横ではオプションの地対空ミサイルと30ミリガトリング砲で武装した サマースノーが相互に支援しながらバッタと呼ばれる無人兵器を迎撃している。 また、一方では1機のエステが舞うような見事な機動で敵機を落としていく。 そこに更に4機が合流し、彼らはますます勢いに乗る。 そして場面は変わり、敵戦艦に果敢に突撃する駆逐艦が映る。 4発のミサイルが放たれ、内2発が命中すると歓声が上がった。 しかし、敵艦は傷付きながらも艦首を空母の方に向ける。 友軍の収容の為に着陸している空母に回避の術はない。 クライマックス。 味方のピンチに白き波濤を切り裂くように白亜の船体が浮上する。 そしてナデシコのグラビティブラストが放たれる。 それはまさに神の雷。 漆黒の光の奔流に飲まれて、バッタが、ジョロが、そして戦艦が爆発する。 最後は夕陽に映えるナデシコの勇姿で幕を閉じた。 よくできた『絵』だった。 よく作られた、とも言い換えることができる。 この映像は約2週間前に行われたサセボ基地防衛戦を映したものだ。 しかし、これには現実感というものが感じられない。 良くできた映画を見ているような印象を受ける。 実際、あの戦闘では駆逐艦1隻が爆沈、1隻が機関大破。 基地側は基地司令と幕僚が戦死。 累計では500人以上の人間が命を落とした。 その凄惨さ、悲惨さがこの画像からはすっぽりと抜け落ちている。 繰り返すが、良くできた『絵』だろう。 これはネルガルが宣伝用に用意したものだった。 実際、1週間前からほとんど連日バラエティー番組の合間などに 日本中のお茶の間をわかせていた。 それこそ、どちらがメインか分からないほど。 それは一種の麻薬のようなものだ。 人を酔わせ、惑わし、そして堕落させる。 『希望』という名の麻薬。 しかし、そんな偶像であろうとも民衆は必要としていた。 未知のエイリアンの侵攻を跳ね除ける雄々しくも美しい戦女神。 だからこの作戦が可決された。 ナデシコ拿捕作戦。 作戦名『ジャンヌ・ダルク』 民衆を導くための偶像としてのナデシコを手放すわけにはいかない。 ネルガルのスキャパレリプロジェクトはそういう意味では 軍にとって看過できるものではなかった。 他にも即戦力となる戦艦を手元に置いておきたいと言う思惑もある。 何しろ、既存の艦でグラビティーブラストを装備した艦はナデシコのみだ。 シレネ級もDFや相転移エンジンは搭載しているものの、 あれは機動母艦であって、攻撃力の要は艦載機だ。 ナデシコが見せたような圧倒的火力は存在しない。 大局から見れば焼け石に水かもしれない。 それでも木星蜥蜴と戦える戦力を少しでも欲していることは確かだ。 「……だから、反対はしなかったと言う事か」 タカマチ・シロウ少将は言葉に押し殺した怒りを込めて言った。 彼が指揮を執った第32任務部隊はサセボ防衛戦で傷付き、修理と補給の為に帰還していた。 シロウは共に戦ったナデシコに対しては親近感を感じている。 その矢先にこの話であった。 「説得にはミスマル提督があたるそうだ」 「はっ! 『説得』とはよく言ったものだな」 この作戦の為に編成されたのは第35任務部隊。 戦艦<トビウメ>、護衛艦<クロッカス><パンジー>、 そして、機動母艦<アルバ>。 特に<アルバ>はシロウが旗艦として使用していた<アコーリス>と同じシレネ級。 第1機動艦隊の擁する貴重な最新鋭艦だ。 それが配備されているということは、 司令であるファルアス・クロフォード中将がそれを承認したということだ。 「誰がどう見ても武力恫喝による強制徴発だろうが!」 「その通りだ」 あっさりと、拍子抜けするほどあっさりとファルアスは認めた。 それが更にシロウの怒りを誘う。 「いつから、いつから軍は防衛の意味を履き違えるようになった! 民間人を犠牲にして何を守るというのか!」 「国家さ。 今の連合軍は地球連合を守るために存在している それが間接的に民間人を守ることになるからな」 そのまま睨みあう。 が、しばらくして肩の力を抜いたのはシロウが先だった。 「ファルアス、今度は何を企んでいるんだ?」 シロウは完全に階級を無視した口調で切り出した。 元々実戦部隊にいた時からの付き合いだ。 今さら公式の場以外で敬語を使う仲でもない。 「企む……とは、また人聞きが悪いな」 「なら、なぜこの時期に最新鋭艦を戦線から外すような真似を!? 第3艦隊の連中のように旧式艦でも構わないだろう」 「いや、なに……面子の問題さ」 「面子だと?」 思いっきり眉をしかめる。 そんなシロウの反応を見越したように軽く肩を竦めてファルアスは続けた。 「第3艦隊は戦艦を含めた3隻。 しかも、ミスマル提督は中将だ。 それに対してこちらの派遣は空母1隻。 最新鋭艦でも送らなければ釣り合わないだろう?」 「……そうか、面子か」 「そうだ、面子さ」 そのやり取りを横で聞いている司令部付補佐官、コニー・ハーネット中尉は 神経をカンナかノミで削られていく思いだった。 もしこの場で2人が殴りあいの喧嘩でもはじめたら…… そう思うと頭を抱えたくなる。 ファルアスもシロウも元特殊部隊(しかも不正規)の出身で、 将官となって艦隊指揮を執るようになっても、その実力に衰えは見られない。 シロウなど『永全不動八門一派・御神真刀流・小太刀二刀剣術』という実に長い名前の 超実戦派古流剣術の免許皆伝者であることだし、間違いなく血の雨が降る。 唯一、止められそうな人物で彼女の直接の上官でもある参謀長のササキ・タクナ大佐は 何やら昨日から作戦会議室にこもって、シミュレーションと情報収集に余念がない。 もし殴り合いの喧嘩になったら、即、逃げよう。 専門用語で言うところの戦略的撤退というやつだ。 「……そうか。 なら言うことはない」 しかし、そんな彼女の心配をよそに、シロウは引き下がった。 おかしい。 絶対におかしい。 普段なら面子などにこだわる人たちではない。 クロフォード中将は徹底した合理主義者だし、 タカマチ少将は武人と言えるある種の潔癖さを持つ人物だ。 その2人のやり取りにしては不自然すぎる。 しかし、シロウはそのまま踵を返して部屋から出て行き、 ファルアスも書類仕事に戻った。 結局、彼女の疑問が晴れることはないまま。 ファルアスの執務室を出たシロウはその足で作戦会議室へ向かった。 既に先ほどの怒りはない。 「相変わらず、見え透いた嘘を……」 あのファルアスが面子などという理由で最新鋭艦を送るわけがない。 それなのに彼は見え透いた嘘をついた。 理由は、少し考えればわかる。 言えないのだろう。 しかし、立場上それを面と向かって話すわけにはいかず、 本当の理由を隠しているからこそ、あんなことを言ったのだ。 その『本当の理由』まではさすがに分からない。 話さなかったということは聞かれたくないということか、それとも ―― 「余程の機密に属するか」 恐らく後者だ。 本当に誤魔化すならもっとうまく誤魔化すはずだ。 今回のこれは間違いなく裏がある。 ○ ● ○ ● ○ ●
|
代理人の感想
つまりこの話のミカヅチ君は火星出身の(ピー)で、
しかも(ブブーッ)である可能性もあると、そういうことですね?
う〜む、ちょっと気を緩めるとこういう展開があるから油断できん(笑)。
それにしても不可解なのは『アルバ』の艦長が「アレ」だということ。
何か意味はあるのでしょうが・・・・・一体なんなのだかさっぱりわかりませんねぇ。
まさか単なる厄介払いじゃあるまいし(爆)。