時ナデ・if
<逆行の艦隊>

第10話 だけど、あなたと「歌う詩」・その2






「敵艦隊接近! 艦首に高エネルギー反応!

 反撃、来ます!」



「フィールド最大出力!

 両舷全速! 面舵一杯!」



300m近いナデシコの船体が大気を裂いて回避運動を開始する。

ディストーションフィールドによって空気抵抗を大幅に減少させているナデシコは駆逐艦並の駿足性能を発揮する。

大気を震わせ、焼き尽くすような多収束インパクトレーザーの奔流がDFを掠めて虚空へ消えた。



「VLS、1から8番、対艦ミサイルスタンバイ!」



「VLS、1から8番、SSM−90<ドラッケン>装填」



基本的にナデシコもそうだが、無人艦艇も砲は前面に向けて固定されている。

それは敵を正面に捉えていないと主砲による攻撃はできないことを意味する。



ユートピアコロニーでの経験からレーザーならやろうと思えば真下に向かっても撃てるようだとは知っていたが、

あの時のように動けないならともかく、高速で動き回る艦に対して照準するのは難しいはずだ。

それに、ナデシコのDFなら多少のレーザー攻撃は完全に無効化できる。

それよりも、警戒すべきはリニアカノンと戦艦のグラビティブラストだった。



「敵艦の頭を押さえます! 戦艦A、Bの艦首に向けてミサイル斉射!」



艦首ブレードに内蔵されたVLSから対艦ミサイルが垂直に打ち上げられる。

両舷から放たれた計8本の機械仕掛けの火矢は一定高度まで打ち上げられると、安定翼を展開、低空飛行に入る。

所定のプログラムに従って高度20mを維持しつつ標的に接近。



最新のビジュアルシーカーを作動させ、目標を選別する。

これは目標をレーダー波の反射や、赤外線で捉えるのではなく、

映像として捉えて内臓のコンピュータがフレアやチャフと目標とを識別する。

そしてナデシコ以上に巨大な双胴戦艦を完全に捉えた。

ドラッケンは直前でポップアップすると急角度で敵艦へ突入した。



いわゆるトップアタックの形だ。

これは大抵の戦艦が水平防御より垂直防御を重視して設計されているためだった。

基本的に地球側の戦艦の主砲であった荷電粒子ビームは直進しかせず、

同じXY平面上で戦闘する限り、最も被弾しやすいのは艦の横腹だからだ。

逆に水平方向の防御は垂直ほど重視されていないのは、そこに攻撃を受けるとしたら、

敵に真上(もしくは真下)をとられたと言うことであり、戦術的な失敗を意味する。

そこまで考えていたら、逆に重装甲過ぎて艦が重くなり、速度や火力、航続距離が犠牲になってしまう。



ちなみに、一番装甲が薄いのは艦首の主砲の砲口付近と艦尾の推進器付近だ。

どうしても機構上、装甲を施せない。

ナデシコから放たれたドラッケン対艦ミサイルが狙ったのは、まさにそこだった。

突入角87度の急角度で艦首の主砲に突っ込む。

直撃すれば、いかに巨大な戦艦でもただではすまないはずだった。



「敵艦フィールド反応増大!

 ミサイル、着弾します!」



弾頭部に搭載された炸薬が信管によって爆発的な破壊力を生む化学反応を励起され、

瞬間的に数千度のジェットブラストが荒れ狂った。

が、それを打ち消すように空間に波紋が走る。



「……敵艦、依然として健在」



あからさまに落胆した声でメグミが報告する。

確かにミサイルは8発とも命中したが、強力なDFによって防がれた。

ナデシコも地球を脱出するときは地上からのミサイルをDFで防いでいたのだから、敵艦に出来てもおかしくはない。

実体弾に弱い性質のDFでも戦艦クラスのそれともなればミサイルの数発くらいはわずかに衝撃で揺れるくらいのものだ。



だが、その衝撃で行き足が止まり、爆炎と爆煙で無人艦のセンサーはナデシコをロストした。

第2斉射目もナデシコの左舷を掠めただけで終わる。



「両舷全速! 艦首、敵駆逐艦へ!」



「つっこむつもり!?」



「はい! 思いっきりぶつけちゃいます!」



発言者がユリカでなければ気でも触れたのかと思うところだ。

さらに口を開きかけたミナトに、ユリカは静かに付け加える。



「信じてますよ、ミナトさん」



「………負けたわ、艦長」



どうにも、この笑顔を見ていると力が抜ける。

大丈夫と言われれば、本当にそう思えてくる。



「みんな、ちょっと揺れるわよ!」



しなやかな指がコンソール上を走る。

ピアノでも弾くかのような動きだが、

そこから奏でられるのは優美な音楽ではなく、力強いエンジンの咆哮だった。

補助の核パルスエンジンまで点火され、弾かれたようにナデシコが加速する。



「敵艦との距離1200!

 皆さん、衝撃に備えてください!」



艦内にメグミの警告が響く。

衝突はそれからきっかり12秒後だった。





○ ● ○ ● ○ ●





アルバは微妙な立場にあった。

ナデシコが敵艦隊と交戦に入ったのはレーダーの反応からも知れた。

ただ、そこに支援に向かうかどうかはまた別問題だった。

アルバは艦載機を消耗しつくし、実質的に戦闘能力を喪失したに等しい。



「ここで突っ込んでも無駄死です。

 幸い、こちらは敵戦艦より高速で逃走できます」



ムネタケに少佐の階級章を付けた士官が進言する。

彼はアルバの航海長を勤めているだけに、シレネ級機動母艦の駿足性能は熟知していた。



「だから、ナデシコを見捨てて逃げると?」



「ナデシコは戦艦だ。

 こちらは艦載機すらろくにない空母だぞ。

 そこの戦闘に飛び込んだところで、何の役に立つ」



分かっているのか、そう言いたげな視線をアキトに向ける。

確かに、それは正論ではある。

だが、アキトにも言い分はあった。



「俺のエステがある。

 ナデシコで空戦フレームに換装できれば、戦艦だって相手に出来る」



「機動兵器で戦艦を?」



馬鹿げている。

そう言って一笑にふす。



「いいえ、可能よ」



アキトがそれに反論するより早く、

知性を感じさせる落ち着いた声が響いた。



「ドクター? いくら貴女でも無断で艦橋に……」



「アタシが呼んだのよ」



ムネタケが航海長を制する。

イネスの後ろにはライザもいた。

ナデシコで軍艦のブリッジに慣れているイネスと違い

彼女の方はどことなく、所在なさげな感じではあった。



「時間がないから、必要な事だけ訊くわ。

 アレを使いたいの。 彼に可能かしら?」



酷く抽象的な表現だったが、イネスにはそれで通じたらしい。

ひょっとしたら、呼ばれた段階で既に何の用かくらいは推測できていたのかもしれない。



「可能です」



彼女にしては極端に短く、それ故にまったく誤解の余地のない返事を返す。



「と言うか、現状でアレを使えるパイロットは、そこのアキト君だけでしょうけど」



「なら話早いわ」



「……ムネタケ大佐」



呻くように言ったのはライザだった。

珍しく発言を躊躇っているのは、正体の露見を恐れるゆえだが、それ以上にこの一件は重い。

覚悟を決めた。



「アレは軍の機密です。 それを民間人のパイロットに渡すなど……」



「返すのよ」



「はい?」



「そう言うことよ」



怪訝な表情のライザにそれ以上説明することなく、

ムネタケはアキトの方へ向き直った。



「もう一度、『黒の王子様』になる気はあるかしら?」





○ ● ○ ● ○ ●





地球側ではカトンボ級と呼称されるレーザー駆逐艦の細長い艦影が間近に迫っていた。

大型艦艇の宇宙戦闘ではまず遠距離での砲撃戦が主体であり、敵艦を目視できる距離まで近付く事はほとんどない。

それが、今はミサイル発射管の数も数えられそうな至近まで接近していた。



「……取り舵、用意」



「はいはい、取り舵用意」



ユリカの目の前には敵艦との距離を示すウインドウが表示されていた。

その数字は秒間数メートル単位で刻一刻とカウントダウンされていく。



その間にも駆逐艦や戦艦から容赦のない攻撃が襲い掛かり、

レーザーが船体を焼き、リニアカノンが装甲を砕く。

それでもナデシコの突撃は止まらなかった。



「3……2……1、取り舵一杯発動!」



「取り舵一杯!」



駆逐艦がそれと気付いて回避行動に入ろうとしたが、それは手遅れだった。

撃沈するにしても、この至近では艦の旋回が間に合わず、主砲は使えないし、

副砲のリニアカノンも軸線砲なので同じく使用不可。

唯一の誘導兵器であるミサイルも、距離が近すぎて爆発に巻き込まれない安全距離を確保できず、

信管が動作しない。



これが有人艦であれば、艦長は回避を最優先として接触は避けられただろう。

何よりも、特攻まがいに突貫してくるナデシコの姿に恐怖しただろうから。



だが、これは無人艦。

ナデシコが突っ込んできたところで、無人艦のAIは戦術的整合性を考え、

次に戦術パターンを選択しようとして、想定外の事態に対応が遅れてしまった。

恐怖を感じないと言うのも、いささか問題はある。

臆病なくらいでないと生き残れないのも戦場の一つの心理であるからだ。



その結果、駆逐艦はナデシコに思いっきり跳ね飛ばされた。

寸前でナデシコが取り舵をとったために正面衝突だけは回避されたが、

DFで保護された巨大な質量がぶつかった衝撃は凄まじかった。



艦首は完全に崩壊し、多収束インパクトレーザーはこの時点で完全に使用不能になった。

同時に、へし折れた艦首の装甲板が直撃してリニアカノンも半壊。

ミサイル発射管内のミサイルが誘爆しなかったのは幸運だった。



だが、その幸運もそこまでだった。

弾き飛ばされた駆逐艦は密集陣形をとっていた戦艦の1隻にモロに突っ込むことになった。

ナデシコのグラビティブラストにも耐えたヤンマ級戦艦のDFは抵抗空しく突破された。

しかも、最悪な事に駆逐艦は中枢のグラビティブラストに突き刺さっている。

辛うじて浮いてはいるが、事実上撃沈されたに等しい損害だった。



これがルリとオモイカネの計算した結果だと知ったら、

この戦闘を俯瞰している者たちはどう思っただろう?



対するナデシコも完全に無事とは言いがたかった。



「被害報告!」



「右舷第7ブロック破損。 第9ブロック気密破壊!

 衝撃でブレードに負荷がかかった模様。

 VLS7,8番、それに22番が使用不能!」



ユリカの言葉に間髪入れずにルリが答える。



「ダメコン班は?」



<もう応急処置を開始してるよ。

 VLSは10分で使えるようにしてみせる>



「5分でお願い」



<わかったよ、ユリカ>



苦笑しつつ、通信を切るジュン。

普段目立たないだの、昼行灯だの言われてはいるが、

こういう時に何も言わずに自分の仕事を的確にこなしてくれる。

「ひらめき」型の天才であるユリカに対し、

「秀才」型の天才であるジュンは、副官として理想だった。



「他に損害は?」



「あとは……食堂でお皿が5枚ほど割れたとホウメイさんから」



「うっ……プロスさんにお任せします」



後ろでプロスが苦笑する。



……その程度ならいくらでも。



そう言うような苦笑だった。



「艦長、いったん離脱する?」



ミナトの質問に首を振った。

今、離脱したところでまだ戦艦は2隻残っている。

駆逐艦もあわせれば、ナデシコを損傷せしめるには十分だ。



「再度突入します。

 同じ手は通じないでしょうけど」



「了解。 それにしても、宇宙戦艦で衝角戦とはね」



旋回し、再度の突入体勢をつくるナデシコ。

応じるように残存の戦艦も艦首をこちらに向けようとする。



「ミナトさん、敵戦艦の間をくぐります。

 コース選定を」



「曲芸飛行でも見られないわよ、そんなの」



そう言いながらも、ミナトの指はコンソールを走っている。

そして異議を唱える事もない。



「ルリちゃん、VLSに再度対艦ミサイル装填。

 何基使える?」



「ブレード上部の16基ならすべて使用可能です。

 損傷したものもダメコン班が修理してくれましたから」



改めてナデシコの整備班の優秀さを知る思いだった。

それといざと言う時の勇敢さも。

下手をすれば中のミサイルごと誘爆を起こしかねないVLSを本当に5分で修理してしまった。



「それじゃあ、その全部に対艦ミサイルを。

 すれ違いざまに打ち上げて」



「それでは誘導が出来ませんが?」



「タイミングを計って、真上に打ち上げて真下に落せばオッケー!」



「……了解」



恐らく開発者の誰もが想定していなかったであろう飛行パターン

(打ち上げて真下に落すをそう呼べればであるが)

をミサイルの誘導コンピュータに打ち込んでいくルリ。

信管の調整も近接ではなく着発に設定。



その間にもナデシコは騎兵のごとく突撃を敢行していた。

この距離では船体に固定された軸線砲は使えない。

船体ごと旋回して狙いをつける軸線砲では敵艦の速度に照準が追いつかないからだ。

ナデシコも一直線に突っ込むわけではなく、狙いを外すためにジグザグの航路をとっていたから、

お互いに主砲が封じられた形だ。



「VLS、発射用意!」



「進路交差まであと27秒。

 VLS、1から16番、SSM−90<ドラッケン>装填。

 発射準備よし」



不意にナデシコが回避運動を止めた。

これ以上はないくらいに敵艦との距離が接近したためだ。



「すれ違うわよ!」



「総員対衝撃姿勢!

 ルリちゃん、VLSオープン!

 全弾発射!!」



300m近い船体の戦艦同士がすれ違うにしては近すぎる距離と言えなくもなかった。

しかし、ナデシコもヤンマ級戦艦も自艦の周囲を包み込むようにDFを展開しているのだ。

大昔の洋上戦艦の様な重装甲はないが、ナデシコがまとった不可視の防壁はそれ以上の性能を約束している。

DF同士が接触し、斥力場同士の対消滅による衝撃が船体を軋ませる。



そしてナデシコのブレードに爆発が生じた。

それとほぼ同時にDFも消失する。



メグミは一瞬、ナデシコのフィールドジェネレーターが過負荷で爆発でもしたのかと思ったが、それはすぐに間違いだと気付く。

ミサイルを発射するためにDFをわざと切ったのだ。

DFの中でミサイルが炸裂したら、爆風の逃げ場がなく、その破壊力がモロにナデシコに来てしまう。

それを避けるための処置だった。



そして、爆発したかのように見えたのもVLSから16発の対艦ミサイルが一斉に発射されたためだ。



「緊急制動をかけます。 右舷アンカーの用意を」



「無茶です、艦長!

 この速度でそんな事をしたらナデシコのブレードがもげますよ!?」



思わずプロスが悲鳴を上げる。



ユリカが言ったのは、艦艇の推進器が破損して慣性を自力で殺せない場合に使う緊急制動用のアンカーの事だ。

自力で止まれない時はこれを港の壁に撃ち込んで止まるのだ。 他にも小惑星などに撃ちこんで投錨する時にも使えるが、

『アンカー』を『撃ち込む』ことからも分かるようにこれはあくまで非常手段。

最悪、衝撃に船体が耐えられなければ継ぎ目などの弱い部分からバラバラになりかねない危険性もある。

ナデシコの場合、一番危ないのはフィールドジェネレーターの部分、つまりはブレードの付け根だった。



「普通に回頭していたんじゃ間に合いません。

 よくて正面からの撃ち合いになってナデシコもダメージ受けちゃいますから」



「しかし……」



なおも言い募ろうとするプロスだったが、

ユリカの表情を見て口をつむぐ。



「西部劇みたい。

 素早く振り返って撃つわけね」



「西部劇と違うのは、何歩歩いてからなんて決まりはないことですね」



「つまり早い者勝ちってことですか?」



上から順にユリカ、ミナト、ルリ、メグミである。



「と言うわけで、仕掛けます」



最後にユリカが宣言した。





○ ● ○ ● ○ ●





偵察用のバッタから送られてきた情報はどれも予想したものだった。

だからと言って、愉快であろうはずもないが。



「見事、としか言いようがありませんねー。

 教本でもここまで一方的な展開はありませんよ」



琥珀の言葉はそのまま舞歌の心情でもあった。

確かに、ここまで一方的な展開など、戦術レベルでは演習でも見たことがない。



撫子は無人戦艦とすれ違いざまに垂直にミサイルを発射。

これはミサイルを放つ瞬間は歪曲場を切らなければならず、

無防備になってしまう一瞬に反撃を喰らうのを防ぐためだろう。

ここまで接近されると戦艦は逆に為す術がない。



次にすれ違ったあとの回頭。

通常であれば駆逐艦のほうが早い。

(元々、駆逐艦は駿足性能こそがウリなのだからそうでなくては困るのだが)



しかし、撫子は右舷のアンカーを地面に撃ち込むことで強引に右の行足を止め、

最小の円を描く形で一気に回頭を済ませてしまった。

この時点では駆逐艦とほぼ互角。

(当然ながら戦艦は間に合わないので舞歌は思考から除外した)



が、撫子の艦長は凄まじく用意周到だった。

ここですれ違いざまに真上に放ったミサイルが、重力の腕に絡めとられて落ちてくる。

それらは艦の歪曲場に触れると大爆発を起こし……結果としてその衝撃で排水量の小さな駆逐艦は翻弄され、回頭は遅れた。

密集陣形が仇となって接触する艦すらある始末。



そこに駄目押しの重力波砲。

ミサイルの着弾によって負荷がかかっていた歪曲場は、

撫子の大口径の重力波砲によってあっさりと消滅。



阻むモノがなくなった重力波の濁流は、駆逐艦と戦艦を翻弄し、

360度全周囲から襲い掛かるすさまじい圧力に装甲が耐えられなくなった瞬間、

接合部から崩壊を起こして200mのあるいは300mの船体が等しく微塵に引き裂かれて爆発した。



戦艦は辛うじて……本当に浮いているだけと言う意味で辛うじて直撃に耐えたが、

それも数秒、破局を遅らせる程度の事だった。



直後に時間差で(打ち上げる高度で調整した)対艦ミサイルが8発降り注いだ。

既にフィールドジェネレーターも破損してスクラップの一歩手前のような惨状をていしていた戦艦に

それを防ぐ手立てなど残されてはいなかった。

今度こそ完璧なスクラップへと変じる。



「これで何隻目?」



「通算49隻目の撃沈です」



「………そう」



「やっぱり、無人艦ではこんなものですね」



大して面白くもないと言うような舞歌とは対照的に、

いつも通りの微笑を浮かべている琥珀。



「翡翠ちゃん」



「はい、姉さん」



こちらもいつもの無表情の翡翠。

ある意味、対照的ではあるがこの姉妹はいつもポーカーフェイスと言えなくもない。



「艦の方は準備できていますか?」



「はい」



返答は短いが、すぐに手前のディスプレイに状況が表示された。

それは一般的に『艦』と称されるもののどれとも違う特異な艦型をしていた。

艦艇の設計に携わったものならその特異性をすぐに理解しただろう。



まず船体構造の基本となるキールがない。

どちらかと言うと箱の前後に艦橋と機関がついていると言った方がしっくりくる。

表面ものっぺりとして凹凸は極端に少なく、全体的に押し潰されたような印象を受ける。



輸送艦のようにも見えるが、それにしてはコンテナ部全体から受ける印象が禍々しい。

蜂の巣のように、しかし相違点は区切り方が三角形と言うことだが、

とにかくびっしりと船体の大半はその三角で埋め尽くされていた。



「ステルス駆逐艦<朝霧>。

 名前の割には無骨ですね」



横から覗き込んでいた千沙が眉をひそめた。

それほどこの艦は異様な雰囲気を持っている。



「だけど、この艦でなければ出来ない作戦よ」



「はい。 それでは……」



「優華部隊、出撃します」





<続く>






あとがき:


次回はついにナデシコvs優華部隊です。
ムネタケの言葉にもあるようにあの機体も出ますので。

余談ですが、『朝霧』は旧海軍の駆逐艦より名前を拝借。
海軍での駆逐艦の命名基準は自然現象や植物だそうで、
なかなかに風流な名前が多いので好きです。
(漣とか夕凪とか叢雲とか有名な雪風も)

それでは、次回でまたお会いしましょう。

 

 

代理人の個人的な感想

うむ、ワクワクしますね。

戦艦での体当たり、アンカーを打ちこんでの無理矢理の回頭、

やはり対艦戦、それも宇宙戦艦での海賊戦法と言うのは男のロマンです(爆)。

 

後、ベタではありますがこのシーンでの「アレ」の登場と言うのはゾクゾクきますね。

やはり秘密兵器はピンチの時に登場してこそ秘密兵器。

主役は常に遅れてやってくる、というのはこう言う意味なのでしょう。