時ナデ・if
<逆行の艦隊>

第13話 第四次月攻略戦・その1




ナデシコが消息を絶ってから8ヶ月経過。


宇宙要塞ルナU




壮観だった。

これほどの大艦隊が集結するなど、観閲式でもない限り滅多に見られる光景ではない。

主力を勤める戦艦隊だけでも40隻。

ゆうがお級と名付けられた改リアトリス級戦艦がその中核だ。

それと独立艦隊として組まれた2隻のドレッドノート級戦艦。

軽くヤンマ級を凌駕するといわれている最新鋭戦艦だった。



補助艦艇も負けていない。

第1機動艦隊が稼動可能艦の7割を投入して圧倒的な機動部隊を編成していた。

シレネ級は実働可能な全艦が投入されていた。

しかし、そこに5番艦アルバの姿はない。



「………勇者、帰らずか」



新たに改装をうけて艦種すら変わった戦闘機動母艦<コスモス>の艦橋でタカマチ・シロウ少将は呟いた。



アルバの未帰還はほぼ確実となっていた。

彼らは軍人だ。

死ぬことまで職務のうちに含まれる。

とは言え、無常感はどうしようもなかった。



しかし、シロウは上官で友人でもあるファルアス・クロフォード中将に懇願して、

撃沈の確認ができるまでアルバの除籍は待ってもらっていた。

だから書類上はアルバは今も『作戦行動中』と表記されている。



「なんや浮かん顔して。 奥さんが恋しゅうなったか?」



「……そうじゃない」



話しかけてきたのは同僚のカミオ・ハルコ准将。

今回の作戦では巡洋艦戦隊を指揮することになっている。



「アンタはええよなー、美人の奥さんに息子までおって。

 うちは寂しい独り者、酒で自分を慰める毎日や」



「酒はいつもの事だろう。

 それと、独り身なのは酒癖が悪いからだ」



ハルコの酒癖の悪さは半端ではない。

酔ってからむわ、親父ギャグは飛ばすわ、ついでにセクハラは働くわで、

職務中の飲酒で宇宙軍を首になりかかったこともある。

なんとか首はつながったものの、第3艦隊を追い出されて第2艦隊には異動を断られ、

辿りついたのが何の因果か第1機動艦隊。



だんだんイロモノが揃ってきている気がするのは気のせいだろうか?

特にこの艦は呪われているとしか思えない。



「提督、不倫はいけませんよ。

 でも安心してください。 美人の奥さんは俺がちゃんと面倒を……」



「艦長、それは冗談として受け止めておこう」



目にも留まらぬ速度でブレードを抜刀して首筋に押し当てる。

いちおう峰のほうを使っているが、彼がその気になればこちらでも斬れる。

古流剣術御神二刀流の免許皆伝は伊達ではない。



「オミくんっっっ! 本当にすいません提督。

 私からちゃんっっっと言って聞かせておきますから」



20代前半の副長はぺこぺこと頭を下げた。

その度に長い髪がふわふわと揺れる。



「まあ、今のは冗談と受け止めておく。

 副長は女房役と言うが、姉か保護者だな、サクラバシ中佐」



「ええ、本当に手のかかる弟なんです」



「すずねえ、俺のほうが上官なんだけど」



「それならちゃんと艦長さんらしくしてよっっっ!」



この二人は幼馴染だった。

コスモス艦長のニイザワ・ヤスオミ大佐は同期の中ではTOPの成績ながら奇行癖で知られた変人。

副長のサクラバシ・スズカ中佐はその一期上。

優秀で知られた人材だったが、こちらも極度の赤面症という問題あり。

お互いに姉弟のような関係で、『オミくん』『すずねえ』と呼び合う仲だ。



「仲がいいのはけっこうだが、作戦中になったら階級か役職で呼ぶように」



「はい、すいません」



「ういーっす」



「オミくん!」



「すずねえだって今『オミくん』って呼んだろ?」



「そうじゃなくって、提督に失礼だぞっっっ!」



本当に、どこかの戦艦を彷彿とさせてくれる。

戦争がはじまったおかげで予備役から招集されただけにそこまで厳しくしようとは思わない。

もともと宇宙軍はそれほど上下関係に厳しいところでなない。

まあ、ニイザワ大佐のようなのはさすがにいき過ぎだが。



「ヤスオミくん、ヤスオミくん」



「2回言うな、カナ坊」



さっきからだれも階級で呼ばないのはなぜだろう?

とにかくニイザワ大佐に報告したのはオペレーターのクスノキ・ワカナ少佐。

ニイザワ大佐によれば『カナ坊』とのことだ。



初めて会ったときはテスタロッサ大佐のように特殊な人材だから配置されたと思ったのだが、

実はニイザワ大佐と同期と聞いたときはマジマジと彼女を観察してしまった。

どう見ても小学生か、よくても中学生程度にしか見えない。

それはそれで特殊な趣味人が喜びそうだ。



「作戦中は艦長かご主人様と呼べといったろ?」



「それじゃあ、ご主人様、ご主人様」



「あえてそっちを選ぶのか!?」



そのうちメイド服を着てこないか心配だ。

そうなったらさすがに服飾規定に引っかかることだし。



「エリナさんが来てるよ、来てるよ」



「げっ、俺あの人苦手なんだよなぁ……」



それに関しては同感だった。

あの手の女は苦手だ。

いや、男でも苦手だが。



「どうするのカナ、どうするのカナ?」



「よし、追い返そう!

 まずはカナ坊、黒板消しを扉にはさんでおくんだ!

 すずねえは足元に水の入ったバケツを配置!」



本気でやりかねない。

しかし、黒板消しなんてどこから調達するつもりなのか?



「オミくんっっっ!

 いい加減にしないとお姉ちゃんパンチだぞっっっ!」



「うわぁーんお姉ちゃんが怒ったー!」



「あっあっ、お姉ちゃん怒ってないよ〜」



……ここは本当に軍艦のブリッジだろうか?



シロウは軍人生活ではじめてそんな根本的疑問に直面したりしていた。

けっきょく、エリナへの対応はシロウとハルコの2人が行うことになった。





○ ● ○ ● ○ ●





「お待たせして申し訳ない。

 第12独立艦隊提督のタカマチ・シロウです」



「ええ、本当に。

 事情は察しますが」



相手が不機嫌なのは良くわかった。

特に拳を打ち込んだようなクッションがアクセントだ。

あと、その横で『いつものエリナ君じゃない……』とか呟いている男も。



「作戦前でこれで色々と多忙でして。

 それで、緊急のご用件との事ですが?」



言外に『こっちは忙しいんだから、ろくでもない用事ならとっとと帰れ』というニュアンスを含めておく。



忙しいのは本当だった。

これから各任務部隊やもう一つの独立艦隊と作戦の調整を行わなければならない。

それこそこれからは寝る暇もないほどに忙しくなる。



それと、癖のありすぎる部下の把握。

今回はコスモスも独立艦隊として運用される。

もちろん理由はある。



まず第一にコスモスの速力。

(設計は全然違うとは言え)さすがナデシコ級。

速すぎて並の戦艦では随伴できなかった。



何しろあまり知られてはいないが、相転移エンジンは4基搭載している。

他の艦にあわせると言うのも手ではあるが、それでは戦闘力を存分に発揮できない。

そこで護衛の巡洋艦戦隊と駆逐戦隊をつけて独立艦隊とした。



それともう一つ。

コスモスの尋常ならざる火力の高さ。

中口径5連装GB2基10門と小口径3連装4基12門。

単艦でも小規模な艦隊なら正面から撃破できそうな火力だった。

それを聞いたファルアス・クロフォード中将が普段は冷静な彼らしくもなく

『どこがドック艦だ莫迦野郎』と吐き捨てたと言うのは有名な話だ。



今は軍によって大改装を受け、ドック艦から戦闘機動母艦へと変じていた。

ダイアンサス級がコスモスの2/3程度の大きさで100機近く搭載できる事を考えれば、コスモスの搭載機数は80機程度と

大きさの割に少ないのは艦載機が大型化したのと、武装ユニットがかさばっているからだ。

もとが機動母艦として設計されたわけではないから仕方ないといえばそれまでだが。



それでもシレネ級より多いし、カタパルトも4基装備している。

単艦の戦闘力ならドレッドノート級すら凌駕するかもしれない。

恐らくナデシコを除けば現時点で最強の艦だろう。



それを任されたのだからプレッシャーを感じなくもないが、同時に闘志も湧いてくる。

そんな時に面会を申し込まれれば『この時期にネルガルの連中が何の用だ?』と思っても仕方ない事だろう。



それでもシロウは同僚のカシワギ少将や上官のクロフォード中将よりは温厚な人物である。

これが他の2人だったら、『この忙しいのにかまってられるか!』とにべもなく断ったことだろう。

しかし、同時にそれが厄介ごとを抱え込む原因となった。



「単刀直入に用件だけ言わせていただきます。

 私とパイロット1名をコスモスに同乗させていただきたいのです」



「………は?」



「もちろん、統合作戦司令部と第1機動艦隊司令部の許可はとってあります。

 コスモスは元はわが社の製品ですから、この目でその真価を確認しておきたいんです」



礼を失することは知りながら、シロウは思わず目の前の女性をまじまじと見てしまった。

とても正気の沙汰とは思えない。



「ウォンさん、この艦は軍艦です。 例え元が民間船だったとしても。

 それに今が平時で宇宙軍の観閲式の真っ最中なら艦内の見学も良しとしましょう。

 しかし、今は戦時で、この艦は作戦で戦地へ赴こうとしている。

 この意味がお分かりですか?」



「ええ、もちろん」



『どこが?』と言い返したくなるのをグッと堪える。

この女性は戦場を甘く見すぎていないか?

そんな疑問が過ぎった。



火星で地獄を見てきた第1機動艦隊の将兵たちが聞いたら本気で正気を疑っただろう。

彼らの大半は第1艦隊と実験機動艦隊の出身だった。



昨日まで談笑していた友人たちが今日はいない。

次の瞬間には自分も原子レベルで分解されているかもしれない。

灼熱地獄となった艦内で逃げ場もなく生きながら焼かれる恐怖。

壁を隔てた向こうは真空の宇宙。

放り出されれば、気圧差によって眼球が飛び出し、血液が沸騰し……あとは想像するに恐ろしい結末が待ち構えている。



宇宙軍の兵士はそう言った恐怖と闘っている。

彼らはまず自己に打ち勝たねばならないのだ。



そこに物見遊山の気分でこられたら……誰だっていい気はしない。

シロウはそれを遠まわしに伝えることにした。



「戦場では往々にして不測の事態が生じます。

 それに、何事も100パーセント確実と言う保障はありえない。

 自分の身ですら守れるとは言い切れないのですから」



「ずいぶんと弱気なのですね」



「部下の安全を完璧に保障してくれるものがあれば喜んで買いますよ。

 戦死者の家族に手紙を書いたり、葬式に参列しなくてすむなら安いものだ」



エリナの挑発に痛烈な皮肉を返す。



「ええやん、乗せたれば」



「カミオ准将、それは……」



「うちらの大将が許可してるなら問題ないやん。

 それとも、あんた死ぬん?

 うちはそんな予定はないで」



「もちろん、俺にもない」



「ならそっちの2人も死なせなければいいやん。

 あっ、念のため遺書と誓約書は書いとき。

 死んでも自己責任やて」



つまり、『死んでも自己責任だから軍へ賠償を請求したりしない』と書かせるのだ。

そのための正式な書類もある。

大体は無茶なジャーナリストを追い返す時に使う脅しみたいなものなのだが、時々それでも同行する奴はいる。

ちなみにちゃんと法的にも有効な代物である。



「それでは……」



「許可する。 ただし!」



ぴっと3本指を立てる。



「第一に艦内での行動は制限させてもらう。

 第二にそのことに関して反論は許さない。

 第三にそれで死んでも知ったことか。 以上!」



「あとで案内をよこすから、それまでそこで待っときー」



それだけ言うと2人は部屋を出て行った。









「それで、どうするのさエリナ君?」



大人しく言われたとおりに書類に記載しつつアカツキは傍らの秘書に話しかけた。

今の立場はネルガルからの派遣パイロット(いわゆる義勇兵)となっていた。



「決まってるじゃない。 このままじゃ終われないもの」



「そうだよねー。 僕もまだ落ち目の女たらしなんて言われたくないし。

 でも良く間に合ったね、あのスーパーエステバリス」



それはアカツキカスタムを元に出力系統と武装を徹底的に強化した専用機だった。

現時点で75mmレールカノンを標準装備できる機体はこれしかない。



補助兵装も20mm可動式マシンキャノンや六連装ミサイルポッドと、

エステバリスとしては尋常ならざる火力を持っている。

エステであるから足が短いと言う欠点はそのままだったが。



「月面フレームの計画が潰れてその分の予算を回せたし、最優先事項って通達しておいたわ」



「それにしても3ヶ月だよ?」



「設計自体は出来上がってたらしいわ。 それに試作機も。

 レールカノンは月面フレームの方で開発していたし。

 ああ、ろくに試験もしてないから注意しろとは言ってたかも」



その一言にアカツキの表情が引きつった。



「エリナ君、ひょっとして僕を亡き者にしてネルガルを乗っ取ろうとか考えてない?」



それに対してエリナは唇の端に笑みを浮かべてこう答えただけだった。



「それも面白いかもね」





○ ● ○ ● ○ ●





史上空前の規模の艦隊を任されながら、ジョージ・ミゲル中将は不機嫌だった。



騙された、はめられた、謀られた。

言い方は様々だろうが、ようするにこういうことがあった。









その日、ミゲル中将はルナUに集結する艦隊を見ていた。

これなら木星蜥蜴にも勝てると確信させるような雄大な光景に彼も満足していた。

そこにゆうがお級よりさらに一回りほど大きな艦が入港してきた。

その奇抜な艦影は一度見たら忘れる事はない。



「……ドレッドノート級か」



「艦番号から見ると2番艦のダンテ・アリギエリの方ですな」



後ろから唐突に声をかけられてミゲルは振り返った。

長身の男はすかさず宇宙軍式の敬礼をする。



「クロフォード中将」



「ええ、ご無沙汰しておりました」



正直なところあまり会いたい相手ではない。

軍人としての資質はともかく、時として非情そのものの判断を下すこの男の評価は軍内部でも分かれるところだった。

少なくとも世間で騒がれるほどの聖人君子でもなければ悪魔の奸智を持つ予言者でもない。

有能な軍人。

それ以上でもそれ以下でもないはずだ。



「ドレッドノート級は貴官の指揮下に入るのでしたな」



「第1機動艦隊は戦艦が少ないですからね。

 よほど嫌われているらしい」



「艦隊の性質ゆえでしょう」



第1機動艦隊は新設された艦隊だ。

それ故に従来の編成や管轄(もっと言えば縄張り)に左右されないフットワークの軽さが特徴だった。

その役割は敵機動兵器に対する艦隊防空。

また地上ではこれに対地支援も加わる。



ようするに機動母艦とは、どこまでいっても移動機動兵器基地に過ぎない。

基地と違って簡単に戦力を集中できるのは大きな強みだが、遠距離砲戦が主体の宇宙戦では艦隊防空がいいところだ。

戦艦を必要とするのは脆弱な機動母艦の護衛のためであり、

ミゲル中将としては主力艦をそんなことに裂きたくはないと言うのが本音だ。



「ええ、まあそれはわかっているのですが……」



ファルアスはこの男にしては珍しく歯切れの悪い言い方をした。



「これにコスモスも加わりますから。

 それ自体は嬉しいことです。

 ですが、戦力の有効利用と言う面から見ると……」



「なるほど、強力な戦艦を護衛で後方に下げておくのはもったいないと」



「私は砲術に関しては素人ですが、それくらいはわかります。

 逆を言うなら、門外漢ですら気付くようなことだ。

 専門のあなたから見て、どうだろう?」



ふむ、とミゲル中将は唸った。

確かにいけ好かない男ではあるが、有能ではあるらしい。

同様の懸念は彼にもあった。



第1機動艦隊にまわされた戦艦は護衛用にドレッドノート級2隻とゆうがお級4隻とじょおん級ミサイル戦艦が2隻。

それと戦闘機動母艦という特異な艦種のコスモスが臨時に加わった。



戦艦隊が護衛すべき機動母艦はシレネ級10隻とダイアンサス級16隻。

それに電子作戦艦が3隻。



まったく足りない。 せめて機動母艦と同数は欲しい。

電子作戦艦の重要度を考えるなら、さらに電子作戦艦には1隻当たり戦艦4隻の護衛をつけたいくらいだ。

やはり八八八艦隊計画でドレッドノート級をもっと建造しておくべきだったか? 



いや、それでは逆にゆうがお級を削る羽目になる。

戦時で軍の予算は増大していたが、無限になったわけではない。

ドレッドノート級は高価だ。

それよりも数に融通の利くゆうがお級の量産を選択した艦政本部の判断は正しい。

しかし、やはりそれでも戦艦の数は不足していた。



が、本音を言うならドレッドノート級とコスモスは第2艦隊に……自分の指揮下にほしい。

ドレッドノートは高価な分強力な戦艦だ。

コスモスも同様。

あの火力を活かすには……



「あの火力を活かすのなら高速戦隊として独立運用するのが一番だと思う。

 護衛には例の新型巡洋艦と護衛艦、それに旧式でも駆逐艦なら随伴できる。

 問題は敵機動兵器からいかにして守るかだが……」



「巡洋艦の船体を利用した軽空母がある。

 搭載機数は30機程度だが、小規模艦隊の防空にはもってこいのはずだ」



すかさずファルアスがフォローを入れた。

得たりとばかりにミゲル中将も頷く。



「それなら軽空母の護衛は巡洋艦と護衛艦ですむ。

 ドレッドノートと組み合わせれば、その火力と機動力で敵を撹乱できる遊撃艦隊として使える!」



「陸戦における機動防御の概念に近いですな。

 火力と機動力を備えた駒でもって、味方の穴を埋め、敵の弱い側面を突く」



「素晴らしい。 やはりこの艦は独立艦隊として運用すべきだ、クロフォード中将!」



思えばこの時すでにミゲル中将はファルアスの術中にはまっていた。

ファルアスはこの言葉をこそ待っていたのだから。



「私もそうは思っているのです。

 しかし……」



そう言って伺うような視線をミゲル中将に向ける。

この時、彼は自身が罠に陥った事を自覚した。



「………なるほど、そうなると機動艦隊の護衛がなくなってしまう」



「ええ、そこが問題なのです」



そうだった。

ファルアスはドレッドノート級を機動艦隊の護衛として見せたのだ。

それを独立艦隊として運用してしまっては、肝心の護衛任務には就けない。



しかし、解決策はある。

ミゲル中将にはそれが可能だった。

かなり屈辱的ではあるが。



「そうなると………我々、第2艦隊が貴官らの護衛を務めなければなるまいな」



ドレッドノートらを独立艦隊として用いると言うのは自分が言い出したことだ。

解決策を提示するのは義務だ。

巧みに誘導されての事とはいえ、それは引っかかる方が悪い。



「ありがとう。 あなたの配慮に深く感謝する」



「作戦と編成を再度見直そうクロフォード中将」



「原案はある。 細かい調整はそちらと」



やはり、と言う思いがあった。

しかし、不思議と怒りは湧いてこなかった。



「こちらは鈍足なんだ。 あまり先行しないでくれ」



そして2人の将官は連れ立って作戦会議へ向かった。



ミゲル中将は思った。



主力はあくまで第2艦隊の戦艦隊であることに違いはない。

そしてその穴を第1機動艦隊が埋める。

どちらにしろ、月の木星蜥蜴を撃破できればいいのだ。



最終的には月周辺のチューリップを撃破して制宙権を奪還することに意義がある。

この戦争に勝つことこそが今、最優先で考えるべき事だった。

この際、各艦隊の縄張り意識を壊すいい機会かもしれない。









最終的に第四次月攻略部隊は4つの部隊編成を採ることとなった。

その概要を記す。



第21任務部隊(主力艦隊)

主に第2艦隊から戦力を抽出して編成された戦艦隊中心の艦隊。

補助艦艇として巡洋艦や護衛艦、駆逐艦も多数随伴している。

旗艦はゆうがお級戦艦<グラジオラス>。

ジョージ・ミゲル第2艦隊司令長官が自ら指揮をとる。



第22任務部隊(機動艦隊)

主に第1機動艦隊から戦力を抽出して編成された機動母艦中心の艦隊。

補助艦艇もそれに合わせた護衛艦が多目の編成。

旗艦は改リクニス級電子作戦艦<アルビナ>。

こちらはファルアス・クロフォード第1機動艦隊司令長官が指揮をとる。



第11独立艦隊(遊撃艦隊)

ドレッドノート級2隻を中心に補助艦艇を追加。

直掩任務専門の軽空母も2隻配備された。

司令官は第1機動艦隊のカシワギ・ケンジ少将。



第12独立艦隊(遊撃艦隊)

コスモスを中心にダイアンサス級機動母艦も追加。

第11独立艦隊よりも機動部隊色が強い。

司令官は第1機動艦隊のタカマチ・シロウ少将。



以上が第四次月攻略部隊の概要だった。

特に第2艦隊と第1機動艦隊のほぼ全力に相当する戦力が投入されている史上空前の規模の艦隊だ。

蜥蜴戦争においてこれ以上の艦隊を動かすことになるのは後の1回だけとなる。



そして、“宇宙版ジュットランド沖海戦”と評されることとなる史上最大の艦隊決戦の幕が上がる。





<続く>






あとがき:

ようやっと第四次月攻略戦まで辿りつきました。

例えに使った“ジュットランド沖海戦”は第一次世界大戦のさなかに起こったイギリス海軍とドイツ海軍の大艦隊決戦です。
参加艦艇は戦艦と巡洋戦艦だけでも両軍合わせて50隻以上が参加した史上まれに見る大海戦でした。
結果はイギリスのほうが損害は多かったものの、ドイツは撤退し制海権を奪えなかったために負けと言われています。
(第一次大戦時のドイツ海軍は世界でも有数の海軍でした)

それと、いまいちマイナーゲームなので知っている人がいるか不安ですが、
コスモスの艦長とか副長、オペレーターの名前は『秋桜コスモスの空に』 と言うゲームの主人公とヒロインから拝借。

ものすごい勢いで黒サブレにお姉ちゃん属性を追加した偉大なゲームです。
(人によっては堕落したとも言う)

それでは、次回また。

 

 

代理人の感想

黒サブレさん、あなたは墜落しましたっ!(こーゆー字を書く・・・・)

 

 

・・・・いや、どうも期待されてるような気がして(爆)

それはさておき。

何のためにコスモスに乗り込んできたんでしょうかこの二人。

デモンストレーション・・・なのかなぁ?

まさか「僕の名はアカツキナガレ。コスモスから来た男さ」と歯を光らせるためではないでしょうが(爆)

 

 

ここから先は余談ですが、昔「レッドサン ブラッククロス」の登場人物を「ToHeart」の登場人物に置き換えた

「佐藤Heart」(だったかな?)なるものを友人に見せてもらった事があります。

(尤も赤丸黒×はゲームでしか知らないし、もう一方はそもそも知らないのでいまいちわかりませんでしたが)

仮想戦記と恋愛シミュレーションのファン層って結構かぶってるんでしょうか?