北辰




!!!
いきなり後ろから見えない力が働いたように僕は吹き飛ばされた。
目の前にいる人物からどんどんと遠ざかっていく。


ドン!!ドン!!ドドン!!


受身も取れず、初めにいた位置からかなり離れたところまで吹き飛ばされてようやく止まった。
背中が痛い
いや、背中だけではない。
受身が取れなかったせいで体中が痛い。
呼吸すらまともにできない。


「北辰!!立ちなさい!!」


遠くから僕を吹き飛ばした張本人の母上から叱責がかかる。


「無理です・・・」


苦しみながらようやく言った言葉も母上にはただの泣き言にしか聞こえなかった。


「無理とは何事です!!
 この程度で根をあげるとは情けない!!
 まだ、あなたは口が動くではありませんか。
 体がまともに動かなくても、這ってでも相手に近づいて喉笛を喰いちぎってやりなさい。
 そうして一人でも多くの敵を殺してから死ぬのです。」


母上からまるで人とは思えないような言葉がかかってくる。
いつもこうだ。優しい言葉など何一つかけてくれない。
組み手の際にどれだけ頑張っても褒めてもらったことなど一度もない。
かけてくるのは厳しい言葉だけ、
一日中吹き飛ばされ続け、そしてその次の日も同じことの繰り返しの日々・・・
そのような生活をもう十二年も続けているが、いまだに慣れない。
日々新しい鍛錬、そして苦痛をもたらしてくるからだ。




結局その日はもう立てずに今日の組み手は終わった。
だが、それだけで終わるはずがなかった。




暗い我が家の地下室。
そこにはありとあらゆる拷問器具がおいてあった。
ここは誰にもその存在を知られてはいない。
そして、ここではどれほど悲鳴を上げても誰にも聞こえはしない。
そこで拷問を受けているのは・・・僕だった。

 

 

「ぎぃゃああああああ」


あまりの苦痛に悲鳴をあげる。


「この程度でそのような悲鳴をあげてどうするのです。
 それでは敵から拷問を受けた時は機密を喋ってしまいますよ!!」


やはり、母上からの叱責が飛ぶ。
これも母上に言わせれば訓練らしい。
例え敵に捕まったとしても安易に死を選ばず、その責苦に耐えぬき、
隙を見つけ敵を殺す為らしい。
その際に敵に機密を漏らさないようにする為だそうだ。
だが、今受けている拷問は死を選んだ方が数倍ましに思える。
しかし、そのように思っていても母上は手を緩めずに拷問を続けていった。
その日は声が出なくなり、意識がなくなるまでずっと苦痛を受け続けていた。

 

 

 

 

 

そのような日々をまた三年送った。
その間に弟の妙見が生まれた。ちなみに父親が誰かはわからない。
そのようなことは教えてくれなかった。
だが、そのような疑問もさして長くは続かなかった。
その間も母上は鍛錬を欠かす日はなかった為、そのようなことなど思う暇がなかったのだ。



そして、僕が十五歳を迎えた日、初めて母上が鍛錬を休みにした。
そしてその夜・・・


「北辰、これまで良くぞ厳しい鍛錬を耐えぬいてきました。
 母はこのことを誇りに思います。」


初めは耳を疑った。誇りに思う?
今まで一度も優しい言葉をかけられた記憶がないためしばらく混乱した。
そして、しばらくすると今度は嬉しさがこみ上げてきた。


母上が認めてくれた!!



今までの鍛錬は決して楽なものではなかった。
だが、それも報われたような気がした。
そうして喜びにあふれる胸を隠し、母に一言だけの謝辞を言う。


「ありがとうございます。」


これが精一杯だった。
これ以上はもう何も言えなかった。


その僕に向かって母上は言葉を続ける。


「これであなたも元服を向かえもう一人前です。
 よって、我が家に代々伝わる試験を受けてもらいます。
 そして、その後、我が家の忌まわしき過去を伝えましょう。」


代々伝わる試験?忌まわしき過去?
今まで聞いたことのない言葉に混乱する。
だが、母上はそんなことは無視して言ってくる。


「ついてきなさい。」


そう言い残しさっさと先に行ってしまう。
それに続き慌てて僕もそれを追う。

 

 

 

 

「ここです。」


母上が立ち止まる。
目の前にあるのは頑丈そうな金属製の扉だ。
その扉を開けながら母上が言ってくる。


「この中で試練はあります。
 北辰、中に入りなさい。」


ぎぃぃいいいいいい


重そうな音を立ててその扉が開く。
先は真っ暗だ。
ゴクッ
つばを飲み込みながら恐る恐る中に入っていく。
数歩中に入るといきなり明かりが少なくなっていく。
驚いて後ろを振り返ってみると扉が段々と閉まっていく!!
急いで戻ろうとするが、目の前で扉は閉じてしまった。
あたりには何も見えない。
完全な暗闇だ。


「母上!!どういうことですか!!
 ここから出してください!!!」


そう言ってみるが反応はない。
何度か叫んでみるが、段々と気配は遠ざかってしまった。


何故だ?何故母上はこのようなことをしたのだ?
僕を認めてくれたのではなかったのか!!

そこまで考えた時、一つの考えに思いついた。

・・・これが代々伝わる試験なのか?


そう思うと後は早かった。
これが試練ならば落ち着いて迎えを待とう。
いくらなんでもこんな食料も水も何もないところでそう長い間おいておく訳がない。
せいぜい長くても三日、四日程度だろう。
その程度なら今までに何度も経験してきた。
あとはこの暗闇にさえ気をつければどうにかなる。
そう思ったことを後で後悔することになった。

 

 

 

 

・・・これでもう何日目だろう?
そう思うもそれを確認する術はない。
だが、確実に一週間は過ぎていただろう。

もうこの暗闇の中でいるのにも発狂しそうだった。
初めは出口がある筈がないと思い、何も行動しなかった。
だが、時がたつにつれてだんだんと焦りが生まれ、この部屋を動き回ってしまった。
もちろん出口はなかった。
無駄な行動をしてしまった。




初めは何もないと思っていたが鼠が一匹だけいた。
何もない状態でだったら絶望していただろうが食べ物があったのだ。
それを捕まえた時はどうしようと思ったが、念のためにとっておいた。
だが、それももう食べてしまい、もうここには何も残っていない。
早く食べなかったせいで水分も幾分か飛んでしまいそのことが悔やまれる。

それでもしばらくは大丈夫だった。
尿をすすり、糞を食らい何とか少しは餓えと渇きを潤すことができた。
だがそれももう尽きた。


しかし、それからもう随分とたっている。
今は立つ力すら残っていない。
正気を保つのにも限界が近づいている。
もはやこの思考だけが残っている理性の全てだ。
だが、その理性がもはやつきかけようとしたとき明かりを感じた。
眩しい!!
この暗闇に長く居た為に目が慣れてしまっていたのだ。
あまりの眩しさに蹲ることもできずに苦しんでいると懐かしい声が聞こえてくる。


「北辰、生きていますね?
 良くぞ我が家に伝わる試験を克服しました。
 約束どおり、回復したら我が家の歴史を話しましょう。」


その言葉を聞きながら僕は意識を失っていった。

 

 

 

 

回復してから聞いたことはあまりにも信じられないことだった。

我が家の先祖が同胞を売った裏切り者?
たった一人の男のために仲間を見捨て、そして地球の男に捨てられた女?
それを、草壁家に助けてもらい、そして血が繋がっているだと?


だが、それだけでは終わらなかった。


「あなた達の父親は、故草壁閣下です。」


信じられなかった。
去年まで木蓮を率いていた故草壁閣下が僕と弟の父親?
ということは!!


「その通りです。あなた達は草壁春樹様とは異母弟になります。」


母上が・・・あの草壁閣下の愛人だったのか。


「ですが、だからといって我らが日の目を見ることなどあってはなりません。
 あくまであなたは春樹様の影となって生きるのです。」


「何故です!!
 何故僕達だけが影として生きなければならないのです。
 母親が違うだけなのに!!
 今まで苦しい思いをしてきたのも全てはこのためだったのですか?
 あのような死ぬ思いまでしてきたのに影になって生きろと?
 それではあまりに酷過ぎる!!
 我が家はこれからもずっと先祖が犯した罪に囚われ続けるのですか?
 そのような道はいやだ!!」


僕の言葉にも耳を母上は耳を傾けず、さらにこう言ってくる。


「そうです!! 我らはこれからもすっと草壁家に仕えていくのです。
 それが我らにできる唯一の恩返し!!
 このことに逆らうことは許しません!!!」


何も言えなかった。
母上の顔は常軌を逸していた。
あまりの形相に何もいえないでいる僕に向かって母上はさらに言葉を続ける。


「明後日、裏の一族が集まり、あなたに裏を束ねる力があるかどうかの試験があります。
もしその試験に合格できなければあなたは死にます。わかりましたね。」


そう言い残し去っていく。
後には呆然とした僕だけが残されていた。






そして当日・・・

今、僕は闘技場のようなところにいる。
周りは高い塀に囲まれ、その上から何人もの人が覗いていた。
そして、この僕の前には一人の男がいる。
裏では五本の指に入るといわれている男だ。
二丁の鎌で確実に相手を殺すことで知られている。
このような男と戦うのか!!


「母上、僕ではこの人には勝てません!!」


無駄と悟りつつも叫んでみる。


「勝てなければ死ぬまでです。
 死にたくなかったら勝ちなさい。」


頭上から予想通りの言葉が返ってくる。
母上は何故このような男と戦わせることにしたのだろう?
いくら元服、成人として数えられるとはいえ僕はまだ十五だ。
このような百戦錬磨の相手と戦うにはまだ早すぎる。
今、裏を束ねる為の試験を受けなくても、母上だってまだ現役だ。
このような無茶をする必要があるとは思えない。

そのようなことを考えていたのだが、目の前の男はそれを許してはくれなかった。


いきなり間合いを詰めてきたかと思うと、持っている鎌で首に切りかかってくる!!


「くっ」


それを横に逃げつつギリギリで回避する。
そのまま下がり距離をとる。


首筋に何か暖かなものを感じる。
手をやってみると赤い液体がついてきた。
血だ。
回避できたと思ったのだが・・・やはりこの男、強い!!


かわされたことが以外だったのか、一瞬驚いた表情を見せていた男だったが、
気を取り直し、すぐにこちらに向かってくる。
目にとめることさえ難しい連続攻撃をほとんど感で何とか回避していく。


その攻撃を避けながらしばらくがたつと、偶然相手の隙を見つけた。
鎌を下から首を狙って振り上げてくるのを皮一枚で避け、開いた脇腹に掌底を放つ。

ミシッ!!

骨がきしむ音を立てながら相手が後退する。

いけるかもしれない。このままいけば勝てるかも!!

そう思った矢先、男がこの場に来て初めて言葉を発する。


「ほう、まだ坊やかと思っていたがなかなかどうして・・・
 これならば本気を出してもよいか。」


嘘ではないだろう。
その証拠にそう言った男の空気が先ほどとは比べ物にならないくらい鋭いものになった。


しまった、さっきに追撃をかけて終わらせておくべきだった。
そう思ったがもう遅い。
その頃にはもう男はこちらに詰め寄ってきていた。
そして鎌を振りかぶる。だがまだ少し遠いはずだ。
あの鎌ではあそこからは届かない。


ゾクリ!!


背中に言いようのない悪寒を感じその場からすぐに離れる。
鎌がいきなり飛んできて先程までいた空間を通り過ぎていった。
おそらく極細のワイヤーでもくくりつけて鎖鎌に近い使い方をしたのだろう。
勿論、あのままでいたらくらっていた。
避けられたことが意外だったのか男から声がかかる。


「ほう、よく避けたな。
 いい感をしている。あのままでいたままだったらお前はまず間違いなく死んでいた。
 だが、これからも避けれるかな?」


そう言って鎌をヌンチャクのように振り回す。
とてつもなく速い。
そしてその勢いを殺さずに鎌を投げつけてくる。
それを何とかしゃがんで避ける。
いくら速いといっても結局は紐をくくりつけてあるだけだ。
使用者の相手の腕にさえ気をつけていればそこまで怖いものではない。


「ふむ、一応相手の手に注目する程度のことはできるか。」


そう言いながら間合いを詰めながら先程と同じように鎌を投げつけてくる。


僕もそれに合わせて先程と同じように避けようとする。
だが男は、鎌の紐の軌道上に自分の腕をいれ、鎌の軌道と間合いを変化させる。
その変化に先程と同じように動いていた僕は反応できず、肩を袈裟切りのように切られてしまった。


くそっ、油断した。
これほどの使い手があのような単調な攻撃を仕掛けてくるはずがないのに。
だがもう後悔しても遅い。
そのまま男は今度は鎌を最初と同じ二刀流に持って追撃をかけてくる。
軽いものは無視して何とか致命傷となりそうな攻撃だけを回避していく。
とてつもなく痛いが今まで拷問の訓練を受けていたおかげで何とか耐えることができた。
このまま耐えていけばいつかは勝機が見つかるはずだ。
そう思いながら回避を続けていった。

 

 

 

そうして回避をしていくうちに、男の息が段々とあがってきた。
自然と攻撃も何とか体力が残っているうちにこちらを倒そうと焦り、荒くなってきた。


今だ!!


大ぶりに狙ってくる相手の腕をすり抜けそのまま肩から当身を食らわせる。


ドゴォッ


派手な音を立てて男が吹っ飛ぶ。


ズザザザザ!!


少し離れた場所に男は足から着地をする。
その男を追いかけて追撃をかけようとする。
追撃をかけるこちらに男が気付く。
そして僕が打とうとしている突きに対して手首を狙って鎌を振り下ろそうとする。


「腕の一本くらいくれてやる!!」


そう言いながら突きを進めていく。
男がにやりと笑い、そのまま手首を切ろうとする。

その直前で僕はぴたりと突きを止める。
当然男の鎌は通り過ぎ、隙ができる。
男の顔に驚愕が浮かぶ。


「ぜやぁああああああああああ」


その隙に全力をこめた突きを胸骨の中央に入れる。
骨が砕ける感触を拳に感じる。
男は血をはきながら倒れていった。
起き上がる気配はない。

・・・勝ったのか?
初めは自分の勝利を疑っていた。
だが・・・


「おめでとう、北辰。」


上にいたはずの母上が後ろにまで来ていて僕の勝利を祝福してくれた。
そうだ!!
僕は勝ったんだ!!
この試験に受かったんだ!!
喜びたかったが、流石に上に裏の一族が全て集まっている中でそのようなことはできない。


「これで、試験は合格なのですか?」


一応母上に聞いてみる。
だが、聞きたかった肯定の言葉は返ってこなかった。


「いえ、まだ一つ残っています。」


「まだ残っているのですか!!
 しかし、もう僕は闘う体力はありません。」


そう、もはや僕に体力は残っていない。


「大丈夫です。
 体力などほとんど要りません。」


そう言いながら母上は背後にいる人に何かを持ってくるように言った。
しばらくしてその人が持ってきたものは僕の弟だった。


「どういうことです?弟と試験が関係あるのですか?」


母上に聞いてみる。
だが、返ってきたのは信じられないような言葉だった。


「関係あります。
 あなたの弟を殺すことで試験は無事終了するのですから。」


「どういうことです!!」


「これからあなたは裏を束ねていく立場になります。 
 その当主が情に流されるようなことがあってはなりません。
 あなたにはまだ甘さが残っています。
 そのために甘さを消す為にその手で実の弟を殺すのです!!」


「そんな・・・できません!!」


「そうですか・・・でも、あなたにはできなくても弟の方にはできますよ?」


「なっ!!」


その言葉どおりに弟が短刀で襲い掛かってくる。
不意打ちだった上に、本気で殺気が乗っていたのでつい体が反応してしまう。
突いてくる腕を捌き、そのまま腕の勢いを殺さずに自分に向かうように仕向ける。

しまった!!

そう思ったときにはもう弟の体には短刀が刺さり、倒れていった。
倒れた弟の体から血が流れ出す。


「うわぁぁああああああああ」

あまりのことに悲鳴を上げつつ弟に駆け寄り、体を抱き寄せる。


「すまない、すまない・・・」


涙を流しながら謝っていると弟の顔が僕の顔に近づいてきた。
口をパクパクさせている。


「何だ!!何が言いたいんだ!!」


そう言って弟の口に顔を近づける。
その時、ふと、昔、母の言っていた言葉が頭に浮かんだ。


『体がまともに動かなくても、這ってでも相手に近づいて喉笛を喰いちぎってやりなさい。』


そのことを証明するかのように弟の口は僕に耳ではなく首に向かってきていた。



「ふふふ、はははは。」


笑いながら弟の首に手をかけ骨を折る。


ボキィイイ!!


今度はもう確実にもう動かない。

ふふふ、実の弟に殺されそうになるとはな・・・
だが、これでもう吹っ切れた。
今までの自分がいかに甘かったか思い知らされた。
そのことを母上に詫びる。


「母上、これまでの失態、お許しください。
 このことで息に自分が甘かったかを痛感しました。
 つきましてはこれからもご指導のほどをよろしくお願いします。」


この覚悟が今まで母上が僕に望んできたものだろう。
だが、その言葉に対しての母上の言葉はまたも予想もしないものだった。


「いえ、北辰、
 今の悟ったあなたにもう私が教えることがありません。
 私はもう引退し、その後はあなたに任せましょう。」



「そんな・・・母上!!
 まだまだ母上に教わっていないことはたくさんあります。
 それにまだ母上は元気ではないですか。
 引退などといわないでください!!」


「ふふっ、それは買いかぶりというものですよ。
 あなたはもうすでに私を越えています。
 後あなたに必要だったのは気構えだけだったのです。
 もう母ができることは・・・一つだけありました。
 私に対する甘えを捨てさせなければなりませんね・・・」


「なんです!!」


「よく見ておきなさい。
 これが私があなたに教えられる最後のことです。」


そう言って母上は弟の死体によって行き、短刀を引き抜く。


何をするつもりだ?
・・・まさか!!


「母上!!」


「北辰、母の死を乗り越えていきなさい。
 さようなら、あの人とのかわいい私の子・・・」


「ははうえぇぇぇえええええええ」


そばに駆け寄ろうとするがもう時すでに遅し。
母上は自分の腹を短刀で貫いていた。


「母上・・・・」


「やっと、あの人に会える・・・・」


そう言って母上は死んでいった。

 

 

 

 

 

「ふんっ、くだらない。
 貴様ごときがあの世で草壁閣下に会えるものか!!」


いきなり後ろから男の声が聞こえる。



「・・・何と言った?」


「ふんっ、くだらないと言ったんだ。
 もしあの世というものがあったとしてもあのような下賎な女が草壁閣下に会えるものか。
 ん、どうした?その顔は。
 母上を侮辱されて怒ったのか?
 全く、甘いな。母親が母親なら子も子だ。」


「おいっ、やめろ!!」


別の方からその男の対しての制止の声がかかる。
しかし男は耳を貸さない。


「ふん、本当のことを言ったまでだ。
 大体俺は昔から裏を束ねる宗家としてはこいつらには相応しくないと思っていたんだ。
 裏切者の子孫が何故そのような重要な位置にいるのだ!!
 我らにこそそのような重要な位置は相応しい!!」


うるさい・・・

周りから「そうだ、そうだ」といくつかの賛同の声が聞こえる。


黙れ・・・
母上を侮辱するな・・・


「大体このようなガキに我らを束ねられる力があるはずがない!!
 どうせこいつに負けたあいつも堕落していただけに決まっている。
 裏切り者の子孫の上に、あのような女から生まれてきた子供とは我らでは出来が違うのだ!!
 いまこそ我らを束ねる者に誰が相応しいかを今一度考え直すべき時なのだ!!」


もういいよ・・・
死ね・・・


先程からからずっとうるさい男の背後に一瞬で回りこみそのまま殺す。



ドサッ


そのまま男は倒れこむ。
今まで騒いでいたやつらも一瞬で黙る。

その隙に先の男に賛成をしていた人間を殺しにかかる。

一人・・・

二人・・・

三人・・・四人・・・

これで五人目・・・・・・・・


ここまできてようやく向こうも気を取り戻し、こちらに反撃をしようとする。
だが、そこで思わぬ声がかかった。




「やめろ!!!」


大きな声が背後から聞こえる。
皆がそちらの方に注目する。


「草壁・・・春樹様・・・」


そのうちの誰かが呟くのが聞こえる。


そう、なぜかは知らないが、次期木連の指導者に一番有力な候補と呼ばれる人がこの場に来ていた。
草壁はこちらの方に歩いてきていきなり頭を下げた。


「このようなことになってすまない。」


「何故貴様が謝る。」


「お前!!草壁閣下になんと言う口の聞き方を!!」


「いい。それよりも私がお前に謝らねばならぬことはわが父のことだ。
 父は妻がいたにもかかわらず、お前達の母と深い仲にあった。
 それが愛情によるものだったらまだ良かっただろう。
 だが、父はただお前達の母の愛情と信頼を利用していたに過ぎなかったのだ。
 そのためにお前達の母は役に立てばきっと父は振り向いてくれると思い
 お前達に辛い鍛錬をつませたのだ。
 だが、その結果がこれだ。
 あの時私にもっと力があればこのようなことは避けられたかもしれない・・・
 本当にすまない。」


そう言って頭を下げる草壁。


「それで、お前はこれから何をしたいのだ?
私に謝ってそれからどうするのだ?」


「絶対の正義をつくる!!
 地球のやつらに負けない正義を!!
 お前達の母親のような者を二度と出さぬ正義を!
 ・・・そのためには力が必要だ。
 その正義をつくるために裏としてのお前の力を貸してくれ。」


「ほう、面白い。絶対の正義か・・・
 だが、その言葉を違えた時はどうする?
 その言葉に偽りがあったらどうする?」


「その時の為にもお前は必要なのだ。」


「どういうことだ?」


「もし、私が言葉を違えた時、
 その時はお前が私を止めるのだ・・・例え殺したとしても。」


「くふふ、ははは、はーはっはっはっはっは。
 いいだろう、お前に力を貸してやる。
 だが今言ったことを忘れるな!!
 今言ったことを少しでも違えればその時は・・・殺すぞ。」


「ああ、わかっている。」


この後、北辰は草壁の影として裏で働き、外道と呼ばれるようになる。



後書き 最後の補足以外ほとんど変わってない。 補足

母親の名前は、北曜。
そして弟の妙見は薬で強化されていた。

 

 

代理人の感想

 

普通・・・・・ねぇ(笑)。

つくづく「普通でない事」が普通の男なのか、コイツは。

壊れたら壊れたでやっぱり普通ではないし(核爆)。