遺跡
あるところにある目的の為に造られたものがあった
それは古代火星人と呼ばれるものによって造られた
それに最初は感情は無かった
しかし、それは長い時がたつうちにいつしか感情を持つようになった
だが・・・それが災いした
古代火星人が消えてしまった
それは感情を持ってしまったことで孤独を感じてしまった
それは永い永い時を独りぼっちですごした
気が狂いそうだった
誰かと話をしたかった
誰かに傍にいてほしかった
自分を独りにしてほしくなかった
もう諦めかけていた
希望をもつのに疲れてしまった
何で感情などを持ってしまったのだろう
こんなものさえなければ辛くないのに・・・
感情が凍り始めた頃、ヒトと呼ばれるものが火星にやってきた
それは喜んだ
自分の孤独が癒されるかもしれないと
だが・・・ヒトの考えることはそれには理解できなかった
寂しかった
せっかく傍にあれほど待ち望んでいたものがあるというのに・・・
だからそれは火星にいるヒトが考えていることを自分にもわかるよう遺伝子を改造した
はじめに感じた意思は少年のものだった
だがそれはあやふやなものではっきりとはわからなかった
そのうちに段々とはっきりとした意思が届くようになってきた
孤独は少しずつ癒されていった
それは喜んで送られてくる意思に応えていった
自分のせいで戦争が起こっているらしいがそんなことはかまわなかった
いや、それどころか嬉しかった
自分の為に争いがおこる
自分を求めてヒトが殺しあう
自分が物事の中心にいる
そのことが今までずっと孤独だったそれの心を満たしていった
しかし、その平穏も長くは続かなかった
それはナデシコと呼ばれる戦艦に乗っていたヒト達によってどこか遠くに飛ばされた
それにはまた孤独になるのではないかと恐怖した
もうあのような孤独はたくさんだった
だが、その恐怖を救ったのもまたヒトだった
それは救ってもらったヒトたちによって一人の女性と融合させられた
それは狂喜した
もうこれでずっと独りになることは無いと
その女性は自分を独りにすることは無いと
その女性と一緒にいられるならもう孤独におびえることは無いと
この女性がいてくれるのならどんなことでもしようと・・・
その女性はアキト、アキトと言ってくる
その思いに応えていくうちにそれは段々自分のことを『アキト』だと思うようになった
『アキト』はその女性と共にあるためにその女性が伝えてくる願いを全て叶えた
その女性は集団の中の孤独と、自分の他に誰もいない孤独という違いはあったが
アキトの孤独を癒したように、『アキト』に孤独も癒していった
だが『アキト』の平穏な日々はまた崩れてしまった
その女性を奪われてしまった
『アキト』はまた孤独になった
その女性がいないと『アキト』は『アキト』になれなかった
『アキト』は女性を奪い、二度も自分を平穏を奪ったヒト達を憎んだ
まるで本物のアキトが火星の後継者達を憎んだように・・・
憎しみに身をやつしているうちに一つの考えが浮かんだ
アキトを殺せば自分は本物の『アキト』になれ、連れ去られた女性も帰ってくると
だが、アキトもその女性ももう残りわずかな命だった
このままでは自分の望みはかなえられない
自分でアキトを殺さないと意味が無い
その女性を助けるにも自分にはその力が無い
いくら永い時を過ごしていても『アキト』は神でも何でもない
『アキト』ができることは決まっていた
残っている手段は一つだけだった
アキトを過去に送ることだ
送られてくるイメージが崩れる時を待つ
ついにその時がきた
明確なイメージは無くそれどころか過去に戻りたいとさえ思っていた
余分なものも一緒にくっ付いていたがかまわない
これで全て上手くいく
そう思いながら『アキト』はアキト達を過去に送った
その後に残ったのは淡い光だけだった
・・・全てを零に・・・
後書き
これを初めに読んだ方の一人から、この遺跡は子供だという指摘をいただきました。
その通りです。
俺は、この遺跡を子供として書き上げました。
いくら長い時を過ごしていても、直接に会ったのはユリカだけ。
しかも、普通の人とは全く話せない。古代火星人ももういない。
だから、自分の唯一のおもちゃを取り上げられた子供のように怒っているのです。
それでも、子供は子供なりに真剣に怒ってます。
しかし、この遺跡は、神の様な特別な力など何も持っていません。
それが、今回の作品の行動に繋がりました。
最後に、今回のSSは、俺一人では書けませんでした。
この作品は、初めに読んでくれた方々のアドバイスによって作られました。
その方々を、迷惑かもしれませんが、これの作者の一人だと思っています。
代理人の感想
おぉ(感嘆)。
実に斬新なアイディアを綺麗にまとめた佳作です。
短編と言うのはこうあるべきですよね。
「子供」という指摘があったそうですが、
そもそも遺跡に感情が生まれているとは言え人間とは思考形態も違えば感情も違う存在のはずです。
たとえて言うならば、人間の子供とアリの群れくらいも違うでしょう。
そう、アリンコです。
「遺跡」は家に閉じ込められた子供がアリンコを眺めて寂しさを紛らわせる様に、
人間と接触しようとしていたのかもしれません。
ここらへんを突き詰めるとSFの定番の一つである「人工知能」ネタに行きつくのですが・・・・
興味のある方はハヤカワから出ている神林長平さんの「戦闘妖精雪風」あたりでも読んで見てください。