ここはナデシコクルーの部屋の一つである。

そして、この部屋の持ち主は、テンカワ・アキトといった。

 

 

ドンドンドン

 

「は〜〜い、何方ですか?ちょっと待ってくださいね。」

 

プシュ

 

本人が開ける前にドアが開く。

本人の許可もなくこのようなことが出来る人間は限られてくる。

それが出来るのは、マシンチャイルドの子供達と、艦長のミスマル・ユリカだけだ。

そして、今ここにいる人間は、そのユリカであった。

 

「なんなんだ、いきなり。何か用か?」

 

「・・・できちゃった。」

 

「はい?」

 

アキトの目が点になる。

 

「何ガデキタンデショウカ?」

 

ぎこちなく、聞き返す。

 

「赤ちゃん・・・」

 

「誰の?」

 

「私とアキトのに決まってるじゃない♪」

 

とても嬉しそうに言うユリカ。

アキトの様子はというと、身に覚えがあるのだろう。脂汗がにじんでいる。

 

「ど、ど、ど、どうやって確認したんだ。」

 

もしかしたら嘘かもしれない。

 

わずかな可能性にかけてみる。

 

「へ?自動販売機で売ってたのでだよ。」

 

もはや逃げ道はないらしい。

 

「わかった・・・とりあえずイネスさんのところに行ってみよう。」

 

「うんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキトさん♪♪」

 

ツインテールの女の子が、喜びを隠しきれない様子でこちらに向かってきた。

アキトは、その様子にどこか嫌な予感がしながらも聞いてみる。

 

「どうしたんだい、ルリちゃん。なんだかすごい嬉しそうだね。」

 

その質問を待っていたのか、すぐさまルリは答える。

 

「はい、とても良いことがあったんです。」

 

「ふ、ふ〜〜ん、それは何かな?」

 

「できちゃいました♪」

 

「何ができたんでせう?」

 

「もちろん、私とアキトさんの赤ちゃんです。」

 

「ふえ?」

 

その言葉にアキトは涙し、横にいたユリカは凍りついた。

 

「アキト・・・それ、どういうこと?」

 

あまりの出来事に、ユリカはルリが何を言ったのか理解できないらしく、アキトに聞く。

 

「ルリちゃんに、赤ちゃんができたって。」

 

「誰の?」

 

「俺の・・・」

 

先程自分が聞かれた問いを繰り返すユリカ。

その様子を見てルリは全てを理解したらしい。

 

「なるほど、ユリカさんにも手を出したんですね。」

 

「え〜〜!!『も』ってことはルリちゃんにまで手を出してたの!!

 酷いよアキト!!アキトはユリカの王子様だったのに・・・」

 

「・・・とりあえずルリちゃんも一緒にイネスさんのところに行こう。」

 

「はい、わかりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テンカワ〜〜〜〜」

 

向こうからリョーコが走ってくる。

その表情は先程のルリたちと同じだ。

それにアキトは固まり、ルリたちは冷たい視線を送る。

 

「テンカワ、聞いてくれ!!

 俺にお前との赤ちゃんができたんだ!!」

 

「あはははは、リョーコちゃん、冗談うまいなあ。」

 

乾いた笑い声とともに声を出すアキト。

 

「ばっきゃろ〜!!冗談なわけあるか。

 本当にお前との赤ちゃんができたんだよ。」

 

「リョーコさんにまで手を出してたんですね。」

 

「プンプン、ユリカというものがありながらルリちゃんだけでも酷いっていうのに、リョーコちゃんにまで手を出すなんて酷いぞ!!」

 

「何!!ってことはそっちの二人も・・・」

 

その問に頷く二人。

その答えに唖然としながらも、アキトに事情の説明を求める。

まあ、説明といっても今日起こったことを言うぐらいのことしかできないが。

 

「とりあえず、やっぱりリョーコちゃんも一緒にイネスさんのところに行こう。」

 

「わかった。」

 

というわけでまた一人、仲間を増やしたアキトは、イネスがいる医務室へと急いで行ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキト〜〜〜」

 

「アキトさ〜〜〜ん。」

 

向こうの方から金髪と銀髪の良く似た二人の女性がこちらに向かってくる。

 

「は、は、は。」

 

アキトはもう真っ白だ。

一緒にいる女性達はある程度予想できていたのか、大してショックを受けた様子はない。

 

「アキトさん、聞いてください。」

 

「なんと私達。」

 

「「赤ちゃんできたんです〜〜〜」」

 

二人でハモル。

 

「やっぱり俺の赤ちゃんだったりするのかな?」

 

決まりきったことを訊く。

 

「「はいっ♪♪」」

 

これまた綺麗にハモル。

アキトはこの答えにやはり涙し、後ろにいる女性達はやはりという感じで溜息をはく。

 

「どうしたんですか?喜んでくれないんですか?」

 

不安そうに聞くサラ。

横にいるアリサも同じ様に不安そうにしている。

その二人に同じ様に事情を説明する。

初めは怒っていた二人だが、次第に落ち着き、この二人もパーティーに加え、医務室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキトさ〜〜ん。」

 

向こうから、髪を三つ編みにした女性がやってくる。

もうそろそろ慣れてきたアキトは今度は自分から聞いてみる。

 

「やあ、メグミちゃん、嬉しそうだね。何かあったのかな?」

 

「はい、アキトさんとの赤ちゃんができたんです。」

 

「そうなんだ。あは、あはははははは。」

 

実は、その日は安全日だとメグミは言っていたのだが、それは真っ赤な嘘で、危険日だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テンカワさ〜〜ん。」

 

「聞いて下さい。」

 

「私達に。」

 

「赤ちゃんが」

 

「「「できたんです〜〜」」」

 

今度はホウメイガールズ。

ちなみに全員の見分けがつかないので飛ばさせていただく。

ちなみに、こいつらは、夜、誰もいない厨房で料理を習うという理由でアキトを呼び出し

アキトに無理矢理酒を飲ませ、野獣にしたという手段を選んだことだけを述べさせていただく。

ちなみに五人同時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、とうとう魔王イネスの城、医務室に辿り着いた。

 

スーハー  スーハー

 

深呼吸をしてからアキトは中に入る。

しかしもう既に先客がいた。

エリナだ。

 

「アキト君、いいタイミングだわ。いい知らせがあるの♪

 ちなみにドクターも同じ知らせがあるわ。」

 

その言葉は、ここまで来たのならもういないだろうと思っていたアキトの緩んだ心の隙間に深く突き刺さった。

他の女性達はこれまた予想していたらしく、全くショックを受けていない。

 

「あの〜〜、それでいい知らせというのは・・・」

 

「「赤ちゃんができたの」」

 

「「「やっぱり」」」

 

固まっているアキトをよそに、一緒についてきた女性達が言う。

 

「やっぱりと言うということは、あなた達も同じというわけね。」

 

イネスが最後の確認をする。

それに頷く一同。

それに満足したのか、イネスはアキトに向かって声をかける。

 

「これからどうするの、お兄ちゃん♪」

 

もはや逃げ道は無いというように言うイネス。

他の皆もアキトの周りを囲んでいる。

 

「私達に任せて、アキト君。ちゃんと責任は取らせて上げるから。」

 

「はい、アキトさんの子供を誰も堕ろさないですむようにしますから、アキトさんは何も心配することありませんよ。」

 

そう言って、エリナはルリと一緒ににやりと笑いあう。

それに観念したのか、アキトは

 

「はい、お願いします。」

 

というのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで、ブリッジにいるハーリーから通信が入る。

 

「シャクヤクから連絡艇が来ています。艦長どうしますか?」

 

シャクヤクと聞いて、アキトがびくっとする。

その様子を見たユリカが、全てを察し、その連絡艇を受け入れることにする。

 

 

 

 

「ようこそナデシコへ。」

 

ユリカが連絡艇に乗っている人物を迎える。

その人物とは、シャクヤクの艦長、東舞歌だった。

 

「このたびは極めて個人的な目的で来たのに、艦内に入れてもらい感謝しています。」

 

ほとんどの予想はつくが、確認の為、ユリカが目的を訊く。

 

「差し支えがなければ、その個人的な目的というのをお教えできませんでしょうか?」

 

「ええ、私に赤ちゃんができてしまって・・・」

 

「その父親がこの艦に?」

 

「ええ、テンカワ殿です。」

 

その予想していた答えに、アキトの彼女達が一瞬殺気を出す。

だが、その殺気を受け流し、舞歌はさらに言葉を続ける。

 

「私の個人的な目的の為だけに来たのではありません。」

 

今度は予想しなかった答えに、彼女達が一瞬ぽかんとする。

それすらも予想済みのように舞歌が連絡艇に向かって声をかける。

 

「千沙、ユキナちゃん、出てきなさい!!」

 

その言葉とともに、千沙とユキナが出てくる。

そしてそのままアキトに向かって一直線に走っていき、そのまま抱きつく。

 

ピシッ

 

舞歌を含む、その場にいた女性が全員凍りつく。

ちなみにアキトはもう既に放心状態だ。

 

「アキトさん聞いてください、私にも赤ちゃんができたんです♪」

 

「アキト、聞いて聞いて、私、赤ちゃんができたんだよ♪」

「は、は、は、」

 

アキトは乾いた笑いをしている。

もう既に何かを諦めた表情だ。

 

「ええい、離れなさい!!」

 

舞歌は二人に近づき、アキトから引き離す。

二人は文句を言っているが、それを無視して舞歌はユリカたちに向かって言う。

 

「このままでは、おなかの中の子供は、父親がいなくなってしまいます。

 しかし、木連では、そのようなことはあまり歓迎されておりません。

 ということで、私達は亡命することにしちゃいました♪」

 

思い切ったことをあっさり言う舞歌。

これにはさすがにナデシコクルーも驚きだ。

 

「し、しかし亡命と言われてもそんな簡単に・・・」

 

何とかユリカが言葉を返そうとするも

 

「いえ、もう引き返せません。

 もう既に、私達は、悪の地球人の子を宿している売国奴として、もう既に木連を追われました。

 何とか、ここまで逃げ延びてきたところなんです。」

 

その言葉に、アキトは絶句する。

自分がしたことで、このようなことになってしまったことを悔いているのだろう。

 

「すいません、舞歌さん、千沙ちゃん、ユキナちゃん。

 俺がもっと気をつけていれば・・・」

 

「謝らないでください。私達は後悔なんてしてません。

 北斗のことが気になりますが、零夜もいますし、この艦に乗っていればまた会うこともできるでしょう。

 それに、愛する人の傍にいれるんです。これ以上の幸福はありません。」

 

「私もそうです。それにこれでもう超過労働に追われることもなくなるでしょうし。」

 

そう言って、舞歌の方を見る千沙。

舞歌は明後日の方向を向いていている。

 

「私も。それにアキトだったら地球と木連の間に和平を持ちかけることだってできるよ。

 その後にお兄ちゃんにいくらでも会えるよ。」

 

舞歌の言葉に、ユキナも賛同する。

その言葉に感動したアキトは

 

「わかった、皆の責任も取るよ。

 それに、いつか皆きちんと木星に帰ることもできるようにすることも約束する。」

 

ということで、アキト君は、地球、木星、両方から考えられない人数の妻をもらうことになったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはナデシコクルーの部屋を改造して作ったテンカワ家特別室。

ここでみんな仲良く暮らしているのだが、ここに来訪者が現れた。

 

ドンドンドン

 

「アキトさん(怒)」

 

ルリが怒ってアキトを睨む。

しかし、

 

「し、知らないよ。もうこれ以上手を出した人はいないよ。」

 

あまりに真剣なので、嘘では無いとわかる。

ということは、今来ている人は、本当に関係のない人なのだろう。

そう思って、ルリはアキトにドアを開けることを許す。

 

プシュ

 

ドアの前にいたのは、アカツキ、ジュン、ハーリー、の組織の幹部達だった。

 

「ど、どうしたんです?いきなり皆揃って来て。」

 

自分のお嫁さん達を奪いに来たのかと警戒しながらアキトが訊くと

 

「テンカワ君」

 

「俺達」

 

「赤ちゃんができたんです!!」

 

「「「責任とってね♪」」」

 

「死ねええええええええ!!」

 

悲鳴をあげながら、蒼銀色の昂気を纏った拳でまとめて殴る。

 

ドギャアア

 

派手な音を立てて吹っ飛んだものの、すぐに全員立ち上がりこちらに向かってくる。

 

「「「せぇえきにぃいいいんとぉおおってぇえええええ」」」

 

「う、うわああああああああああああ」

 

そのあまりの恐怖にアキトは思わず悲鳴を上げ、逃げ出した。

 

 

 

 

ハア、ハア、ハア、ハア

 

何処に逃げたらよいのだろう

 

それがわからないままアキトは艦内を走っていった。

運悪く、誰も見かけない。

このまま恐怖に押しつぶされそうになったとき、目の前に人影を見つけた。

神の戦士、ゴート・ホーリーだ。

 

「ゴートさん、助けてください!!

 今追われてるんです。」

 

「む、追われている?」

 

「はい、そうなんです。」

 

「わかった、神の戦士としての力だけでなく、夫を追われた妻、そして母としての力も見せてやろう。」

 

「はい?今なんて言いました?」

 

今ゴートが何を言ったのか理解できなかった。

神とかどうとか言うのはいつものことなのだが、そのあとにとてつもなく不吉な言葉が・・・

 

「夫を追われた妻、母としての力を見せてやると言ったのだ。」

 

「誰の妻で、誰の子供の母親なんでしょう?」

 

「む、変なことを訊くな。もちろんテンカワの妻であり、テンカワの子供の母親だ。」

 

ピシッ

 

ガラガラガラ

 

アキトは固まり、崩れて、意識を失っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガバッ

 

「ハア、ハア、ハア、ゆ、夢か・・・」

 

目が覚めたアキトは、息を荒くしながら呟いた。

目覚めは最悪だった。

 

「畜生、なんだってあんな夢を見たん・・・」

 

毒づいていたアキトが凍る。

隣には、同じパイロットであるイツキが裸で眠っていたのだ。

丁度そのときにイツキが目を覚ます。

 

「う〜〜ん、よく寝た。ってきゃあ。」

 

すこし伸びをしたあと、隣にアキトがいるのに気が付いて、シーツで体を隠す。

アキトもイツキも真っ赤になっている。

 

「お、おはよう。」

 

「あ、ああ、おはよう。」

 

朝の挨拶をしあう二人。

沈黙が流れる。

少し気まずく、イツキの顔を見れなかったアキトだが、ちらりと見ると、夢で見た女性達と同じ表情をしているのに気付く。

背筋に悪寒を感じながら何のために聞いてみる。

 

「あ、あのさ、イツキちゃん。」

 

「もう、アキト。いつもみたいにイツキって呼んでくれなきゃダメよ!!」

 

少し拗ねた声を出すイツキ。

普段なら可愛いのだろうが、今のアキトには不安を増大させるものだった。

 

 

「そ、それじゃ、イツキ。」

 

「な〜〜に?アキト♪」

 

「もしかして、何か俺にいい知らせを持ってたりする?」

 

「わ、すご〜〜い。よくわかったね。

 やっぱり、愛し合う二人には言葉は必要ないのね。」

 

さらに追い詰められるアキト。

 

「そ、それでさ、そのいい知らせってのは何なのかな?」

 

「ふふ、それはね。」

 

「それは?」

 

「あなたとの赤ちゃんができたの♪♪」

 

 

おしまい、まる

 

後書き

 

ゴートを壊しきれなかった。

ちなみに北斗はいません。

 

 

 

 

代理人の感想

 

ダメだこりゃ(爆)。

 

 

 

ま、こういう時に言う言葉は一つしかないでしょう。

あ〜、笑った笑った(笑)。