ここは夜のナデシコの通路。
その通路を、黒ずくめでサングラスしている男性が歩いていた。
その名前は、ヤガミ・ナオといった。
そして、そのナオは、一人の男性を背負っていた。
「まったく、隊長、しっかりしてくださいよ。
まったく、こんなになるまで飲んで!!」
夜、夫が酔っ払って帰って来た時の妻のように言うナオ。
そして、その夫はこういうときは大抵・・・
「ば〜〜ろ〜〜、俺はまだ全然酔っちゃいないつ〜〜の。」(←ろれつは回っていない)
自分ひとりでは歩けないクセに酔ってはいないと言うシュン。
典型的な酔っ払いだ。
「あ〜、はいはい、わかりましたよ。
わかりましたからイネスさんとこ行って、酔い覚ましもらいましょうね。」
今度はだだっこに何かを諭すような口調でいうナオ。
子供の方がまだ良かったかもしれない。
「だ〜か〜ら〜、俺は酔っちゃいな―――」
「あ〜、もう、うっさいおっさんだな!!」
ドガッ
「はうっ」
首筋に手刀を打ち、シュンを気絶させる。
「は〜、初めからこうすればよかった。」
そう言って、シュンを運んでいった。
プシュ
「こんばんは〜、イネスさん居ますか〜?」
姿が見えないので声をかけてみる。
しかし返事はない。
「あらら、イネスさん居ないのか。
でもこのおっさんを運ぶのにも疲れたし、置いていこう。」
そう言って、近くのベッドに投げ捨てる。
「ふう、それにしても少し喉が渇いたな。
なんか冷蔵庫に入ってないかな?」
冷蔵庫を開けてみる。
「おっ、うまそうなジュースだな。」
そう言って、そのジュースを取り出して飲むナオ。
やはり、ナオもシュンの酒盛りに付き合って酔っていたようだ。
この医務室にあるものに手をつけるなんて・・・
「あれ?なんか力が抜けていくような・・・」
そう言いながら、ナオは意識を失っていった。
「う、う〜〜ん」
その声とともにナオは意識を取り戻した。
「あれ?俺、どうしてこんなところに居るんだっけ?」
少し混乱する。
「あっ、そうだ。酔っ払った隊長をここに運んできたんだ。
それでそのあと、喉が渇いたからって・・・」
そこまで言って、自分がいかに恐ろしいことをしたか思い出す。
「ところでなんか、声が高いような・・・
それになんかいつもと視界の高さも違うし・・・」
そこで自分の姿を見てみる。
下を見ようとしたが、何かでよく見えない。
「何でこんなもんあるんだ?」
次は、デスクの上にある鏡で自分の顔を見ようとする。
・・・
とても美人だが、見慣れない顔が映っている。
少し笑ってみると、鏡の中の顔も笑った。
「どういうことだ?」
最後の確認として、自分のまたにあるものを確認しようとする。
「・・・・ない。」
頬をつねってみる。
「うん、痛い。」
これで夢でないことがわかった。
「あ、あ、あ、あ、あ」
悲鳴をあげたいが、うまく声が出ない。
そんな時、後ろから声がかかった。
「う〜〜ん、どうして俺はこんな危険な所に居るんだ。」
どうやらシュンが目覚めたようだ。
「隊長!!助けてください。」
そう言って、ナオはシュンに泣きついた。
当のシュンは、何があったのかわからないでいる。
「どういうことだ?それになんで俺のことを隊長と呼ぶんだ?」
今、ナデシコの提督をやっているので、西欧から来た人を除き、全ての人が自分を提督と呼ぶ。
それなのに、目の前の美女は自分の事を隊長と呼ぶ。
その疑問には、相手のほうから答えてくれた。
「わからないんですか?俺です、ナオですよ。」
「何〜〜〜〜〜?」
「如何しましょう〜〜」
「まず落ち着け。」
「はい。」
「そして、深呼吸をしろ。」
「はい。」
「スーハ― スーハ―。」
言われた通りに深呼吸をする。
「そしたら――――」
「そしたら?」
「俺と結婚しよう!!」
「あんたが一番、取り乱し取るわ〜〜〜!!」
とりあえず、思いっきり殴る。
シュンは、やたら派手に飛んでって、壁にぶつかった。
その後、すぐに復活する。
「すまない、少し気が動転していたみたいだ。
しかし、世の中は広いな。こんな不思議な現象が起こるなんて。」
「こんなことが起こるのはナデシコだけです!!」
突っ込むナオ。
だが、元気だったのもそこまでだった。
「でも、本当にどうしましょう?」
「しかし、何でそんなことになったんだ?」
「うっ」
あまり気は進まなかったが、自分の愚行を話す。
「そりゃ、お前が悪いわ。
いくら酔っ払ってたからって、ここにあるものを飲むなんて、ヤマダやハーリー君でもなけりゃ死んでるぞ?
その程度で済んでよかったと思わなきゃ。」
「ふ〜〜〜ん、随分と好き勝手言ってくれるわね。」
「「出た〜〜〜」」
「人をお化け扱いしないで。
それにしても、ヤガミ君、困ったことをしてくれたわね。」
「困ったこと?」
「ええ、まだそれは臨床実験がすんでいなかったのに・・・実験する手間が省けてよかったかもしれないけど。」
「そんな〜〜(泣)」
涙するナオ。
そのナオを見てシュンは顔を赤らめていたりする。
「そんなに心配しないで。ちゃんと治す方法を見つけるから。」
「本当ですか!」
「ええ、だから実験データを取らせなさい。」
「え・・・」
「元に戻りたくないの!!」
「いや・・でも・・・・」
「もう、はっきりしないわね。
オオサキ提督、彼を捕まえて!!」
「わかった!!」
やたら嬉しそうにナオににじり寄るシュン。
目が血走っている。
「ちょ、ちょっと隊長、落ち着いて、まず深呼吸をして、ね?」
「おとなしくしろ〜〜!!」
「うわ〜〜〜」
「うっ、うっ、うっ、ミリア、俺は汚されちゃったよ・・・」
「人聞きが悪いわね。あなたが勝手に実験薬を飲んだのよ。
それを治してあげるって言うのに。」
「そんなこと言われたって・・・」
「あ〜、もう、ぐだぐだ言わない!!」
「そうだぞ、ナオ。
イネスさんがせっかく治してくれるって言ってるのに。」
「・・・わかりましたよ。」
「よしっ、それじゃ、食堂に行って朝飯でも食うか。」
「はい・・」
「あっ、隊長おはようございます。
・・・その隣にいる女性は誰ですか?」
そう言ったのは、コック兼パイロットのアキト。
「お前・・・また落とす気か?」
据わった目で睨むシュン。
その目にアキトは何かを感じ後ずさる。
「や、やだな〜。そんなことするわけないじゃないですか?
で?結局その人は誰なんです?初めて見たような気がしますけど・・・」
「アキト〜〜!!お前、それはないだろう〜〜
いくら姿が変わったからって、親友のことを忘れるなよ〜〜!!」
「し、親友!?親友って言うということは・・・ガイかっ!!」
「違うっ、俺をあんな熱血馬鹿と一緒にするな!!
俺だよ、ナオだよ。ヤガミ・ナオ!!」
「は?な、ナオさん・・・?」
「そうだ。」
「でも、またなんでそんな格好に・・・」
「何でヤマダのときは聞かないで俺のときは聞くんだ?」
「だって、ガイだったら、イネスさんの薬とかで・・・
まさか・・・ナオさんも・・・」
「・・・ああ。」
「何でまたそんなことしたんです!?」
「話せば長くなるんだが・・・」
「それはナオさんが悪いですよ。
あの医務室にあるものを勝手に飲むなんて、五体満足でいられるだけでもありがたいと思わないと。」
「それはそうなんだが・・・」
「で?注文は?」
「お前・・・結構冷たいのな。」
「そんなこと言われたって、俺には何もできませんから。
それで、注文は?」
「・・・炒飯大盛りで。」
この朝の食堂での話で、ナオが女性化したことは、瞬く間に艦内に広まった。
そして・・・
「ナオ〜〜、俺と一緒に風呂に入ろう!!」
そう言ったのは、ウリバタケだ。
なにやら邪念が実体化しているんじゃないかと思うぐらい、考えてることが顔に出ている。
「ヤガミさん、ウリバタケさんなんかと一緒に入ったら襲われますよ?
ここは、僕みたいな子供と一緒に入ったほうがいいんじゃないんですか?」
「いや、ここは、ぼくみたいに女性の扱いに長けた人と一緒に入るべきだね。
ブラのつけ方とはずし方を教えてあげれるのは僕くらいだと思うけど?」
この言い争いを聞けばわかるとおり、誰がナオと一緒にに風呂に入るのかでもめているのだ。
・・・本人そっちのけで。
「あの・・・」
ナオが声をかけるが、全く届かない。
このまま逃げようかと思った。しかし、
「ナオ、俺と一緒に風呂に入るよな!!」
「僕ですよね!!」
「無論、僕に決まってるよね。」
逃げ道をふさがれた。
如何しよう。
そうナオが悩んでいると、天の助けが。
「お前達!!何をしている。
ナオが困っているじゃないか!!」
シュンだ。
「提督、しかし・・」
「しかしも案山子もない!!さっさと風呂に入りに行け!!」
「「「わかりました!!」」」
シュンは、最前線で培ってきた大声を出した。
その声に、三人ともおとなしく従った。
「ふう、隊長、助かりましたよ。」
「いや、気にするな。
それより・・・あいつらが上がったら、俺らも一緒に風呂に入ろうじゃないか。」
ぞぞっ
やばい、この目はやばい!!
「俺のこと・・・忘れてください・・・」
「そのセリフは違うぞ!!」
「どうでもいいですから、俺の首に回した手を離してくださいよ。」
「一緒に風呂に入ると言え!!そうすれば離してやるぞ。ふふふふふ。」
「嫌ですよ!!今の隊長なんか変ですよ!!
落ち着いてくださいって!!」
「俺は落ち着いてるぞ〜〜、お前と結婚したいと思ってるだけだ!!」
「十分変ですって!!大体俺にはミリアがいるんですから――――」
「ナオさん・・・」
「その声はミリア!!良かった、君からもこのとち狂ったおっさんに何か言ってやってくれ。」
「まさか・・・女になって困ってるってアキトさんから連絡があって、きっと困ってるだろうと思ってきてみたんだけど・・・
オオサキさんとそんな仲になってたなんて・・・」
「お、おい、ミリア?」
「そうよね、私なんて魅力ないわよね。何度も浮気もされたし。」
「そ、そんな、誤解だ!!」
「さよなら、私のことは忘れて二人で幸せになってね!!
「お、おいっ、待ってくれ、待ってくれったら!!
ミ〜〜〜〜リ〜〜〜〜ア〜〜〜〜〜、カ〜〜〜〜〜〜ムバ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ック」
「ふたりで幸せになろうな、ナオ。
子供は何人ぐらいがいいかな。結婚式はどんなのにする?いっそのことナデシコであげちゃおうか?
でも、ここだと子供の教育に悪そうだし・・・
ちょっと、聞いてるのか?」
「は、は、は、は」
もう、終わりだ・・・
ガバッ
「ハア、ハア、ハア、ゆ、夢か・・・
ふう、助かった。
そうだよな、あんなことあるわけないよな。
はは、はははははは。」
今日見た夢をアキトに話すと・・・
「はは、馬鹿だな、ナオさん。
いくらナデシコでもそんなこと起こりませんって。たぶん・・・
それに、隊長だってそんなこともしませんよ。」
「はは、そうだよな。
それに、ミリアが俺を捨てるはずないよな!!」
「そうでもありませんよ?」
「・・・どういうことだ?」
「ミリアさ〜〜ん、出てきてくださ〜い。」
その声とともに、なぜかミリアが厨房から出てくる。
「ミ、ミリア!何でここに!?」
「ナオさん、あなたには愛想がつきました。」
「え?」
「私と婚約までしておきながら他の女性とキスをするなんて・・・」
「そ、それは誤解だってこの前言っただろ!?」
「他にも色々と浮気の証拠が送られてきていますよ?」
「ギクッ」
「あなたみたいな浮気をするような男性よりも、アキトさんのほうがよっぽどいい人だとわかりました。
あなたとはこれでお別れです。」
「そ、そんな、待ってくれ、ミリア!!」
「待ちません、それにミリアなんて気安く呼ばないでください。
あなたとは赤の他人なんですし・・・
それに、私をミリアと呼んでいいのはアキトさんだけです。」
「どちくしょ〜〜〜〜〜〜〜」
哀れナオは、そのまま走り去ってしまいましたとさ。
ちゃんちゃん。
後書き
大鋏を持った女装した北辰に追いかけられる夢を見ました。
それが今回の元です。
初めは、女装した北辰に草壁が惚れるというものだったんですよ。
しかし、書いてる際中に、これはやだなと思って、こんなのになりました。
俺は夢を見ているときは、ほとんど夢だと気付かないんで、あの夢の中では本気で逃げ回っておりました。
もう、二度とあんな夢は見たくないです。
代理人の感想
ナオがギャグキャラになるのは一向に構わないがシュン隊長が壊れるのは容認しがたいな(笑)。
まぁ、ナオさんの方は元からギャグ担当と言う話もありますが。
夢の話に付いては・・・ノーコメント(爆)。