機動戦艦ナデシコif・・・
これは彼女の願望だったのかもしれない。彼を信じていたいって言うね。」
ここで一旦言葉を切るアカツキ。三郎太の反応は・・・ない。黙ってアカツキから視線を逸らさず話を聞いている。
「そして彼は彼女の願望に応えた・・・彼女の元に帰って来たんだ。つまりは行動してみせたって事。
でも、そんな彼を信じる事が出来ないって事は、ルリ君を信じていないって事になるよ。さっきの論法からいくとね」
アカツキの言葉に今度こそ激昂する三郎太。
「そんな事はない!!」
椅子を蹴飛ばし立ち上がりアカツキに向う。元・・・とは言え木連の軍人であった彼は信頼を疑われると言った事は自分を侮辱されたに等しいのだ。
しかしアカツキは落ち着いたもの。先程の言葉を続けようとした時にアキトが口を挟んだ。
「高杉君」
アキトの言葉に気付き、アカツキに詰め寄るのを止めた三郎太。
「今は俺の事を信じてくれなくてもいい。ただ・・・ルリちゃんを信じているのなら、ルリちゃんを通してでもいい。
ルリちゃんが 信じてくれている限り・・・俺を信じてくれないかな?頼む・・・」
三郎太に向って頭を下げるアキト。そんなアキトを見て興奮が鎮まったのかまず謝る三郎太。
「取り乱して済みませんでした」
その言葉に顔を上げるアキト。そして三郎太はアキトと視線を絡ませ一息つくと
「分かりました。今は貴方を信じますよ、テンカワさん。ただ・・・もしもの事があったら・・・」
言外に許さない事を匂わせる三郎太。アキトは微笑して『ああ・・・』と言うだけ。
その言葉に蹴飛ばした椅子を直しハーリーに話を振る。
「俺はこれでいいっス。さ、次はハーリーの番だぞ」
「初めまして、テンカワさん。宇宙軍所属、戦艦ナデシコBオペレーターのマキビ=ハリです」
自己紹介をするハーリー。
「僕が訊きたいのは・・・テンカワさんは艦長を・・・ルリさんの事を好きんなんですか!?」
憎憎しいとさえ言える視線をアキトに向けるハーリー。
それに対してアキトは先程の微笑を崩さずに答える。
「好きだよ、女性としてね」
その言葉に泣き出して部屋をダッシュで出てゆくハーリー。
「アイツ・・・艦長の事が好きでしてね・・・」
ハーリーの出て行ったドアを見ながら苦笑して言う三郎太。
「俺も・・・まさかあそこまでストレートに訊かれるとは思っても居なかったよ」
同じく苦笑のアキト。
「俺はハーリーを慰めに行ってきます」
「宜しく頼むよ」
「ええ。じゃ、失礼します」
ハーリーを追って部屋を出て行った三郎太を見送るアカツキとアキト。
「すまないな、アカツキ。慣れない事をさせて」
「いいっていいって」
苦笑まじりに謝辞を述べるアキトに応えるアカツキの表情は明るい。
「ルリ君も・・・いい仲間をもったね・・・」
「そうだな・・・彼らが居たからルリちゃんも・・・」
続けて言うアカツキ。それに同意するアキト。少々の沈黙の後、プロスペクターから連絡が入る。
『会長、テンカワさん。準備が出来ましたので式場の方へどうぞ』
ウィンドウが開くと蝶ネクタイ姿のプロスペクターが言った。
「わかった。ありがとうプロス君」
『女性陣がお待ちかねですぞ』
「ああ、今行くよ」
ウィンドウを閉じるとベッドから起きて上着を着ているアキトが居た。
「テンカワ君、行こうじゃないか」
「そうだな・・・ところで・・・式場ってどこなんだ?」
アキトの問いも尤もである。
この施設内にはそんなものはどこにも無かったはずだ。
「ん〜・・・着いてからのお楽しみってやつだね」
アカツキの答えになってない答えに多少の疑問を覚えたアキトだが、この施設内なら歩いているうちに分かるだろうと考え、素直に着いていく事にした。
廊下を歩く二人。そして二人が向った先は・・・
「なぁ、こっちってドックじゃないか?」
「さぁ〜ね〜」
問うアキトにあくまでとぼけるアカツキ。
そしてドアを開くと・・・そこはやはりドックであった。
『新郎の入場です』
プロスペクターの声がスピーカーから聞こえると全員がドアの方を注目する。
クラッカーでも鳴るかと思いきや意外と静かなお出迎えである。
アキトは入場して祭壇の手前の階段まで進むとそこで立ち止まる。
『続いて・・・新婦の入場です』
ドアが開くとルリが入ってきた。隣を歩くのは・・・ウリバタケである。
賛美歌を歌うのはメグミ&ホウメイガールズ。オルガンはホウメイが弾いている。
歌声が響く中をアキトの前まで来るとウリバタケから離れたルリはアキトに手を引かれて階段を昇ると祭壇の手前で立ち止まる。
アキトとルリが所定の位置まで来たのを確かめると神父姿のゴートがプロスペクターの後ろからやってくる。
神父の口上が続き賛美歌の斉唱。そしていよいよクライマックスとなった時・・・突如ゴートが自分の服を引きちぎる。
そして現れた格好に唖然とする一同。感動も何のその。
その服装とは・・・ティアラとセーラー服。そして何故か三日月の付いたロッド(杖)を持ち金髪のツインテールのお下げのヅラをつけてい
る。その格好の異様さにアキトは思わず周りを見回した・・・そして彼は見てしまう・・・祭壇の十字架が蒲鉾でできている事を!
ゴートが首から提げているロザリオのネックレスも・・・蒲鉾をかたどっている事を!!
今までの十字架は蒲鉾の板の裏だった。それをゴートがスイッチで180度回転させて蒲鉾を表にしたのだ。
皆がフリーズした死にすら似た静寂の中ゴートが言った。
「汝テンカワアキト・・・健やかなり時も病める時も富める時も貧しき時も妻、テンカワルリを愛すると我が神に誓うか?」
その台詞に機械的に『イエス』と答えるアキト。
「汝テンカワルリ・・・健やかなり時も病める時も富める時も貧しき時も夫、テンカワアキトを愛すると我が神に誓うか?」
アキト同様『イエス』と答えるルリ。
二人ともフリーズしているためイエスと答えるしか出来ない。
もし、この瞬間を狙われたら・・・誰も防ぐ事は出来ないだろう。
「指輪の交換を・・・」
ゴートに言われて懐から指輪を取り出そうとするが、ゴートが二人の前に指輪を持ってくる・・・
それは・・・竹輪の薄切り・・・漸く再起動しかけた二人と会場の皆だったがその衝撃により再びのフリーズ。
二人が動かないためアキトとルリに竹輪をはめ、誓いのキスまで強引に済ませるゴート。
そしてゴートの宣誓・・・
「二人の結婚は我が神によって認められ、我が神の信徒となった!!」
ゴートが大声を張り上げた瞬間、全員が再起動に成功し、ゴートをボコボコにしたのは言うまでも無い・・・
多少のハプニングはあったが、夫婦の誓いからやり直し指輪の交換、そしてキスまでを滞りなく終えた二人。
そして会場は一気に披露宴へと雪崩れ込んでゆく。
アキトは女性陣から詰問され・・・もみくちゃにされる。
ホウメイが作った料理に舌鼓を打ち、自棄酒を飲んでいたハーリーは暴走し、ボコボコにされたはずのゴートは復活した途端にボコボコにされ、
今度はユーチャリスのグラビティブラストの発射口に吊り下げられる。もちろん、チタン製のワイヤーで縛られたあと・・・
そんなこんなで披露宴を終えた全員は各々のあてがわれた部屋へと戻って行く。
そして、アキト、ルリ、ラピスの三人はユーチャリスのブリッジへ戻るとこれからを話し合った。
「これから・・・アキトさん、どうします?」
ウェディングドレスから部屋着に着替えたルリがアキトに問いかける。
そしてアキトも部屋着である。
「ラピスはどうしたい?」
アキトはラピスに問いかけるがラピスはいつも通りの答えを返してくる。
「パパとママが居るところ・・・そこが私の居る所」
「そっか・・・」
ラピスの当然と言えば当然の答えにアキトは一つ頷きながら
「で・・・どうしようか?いつまでもアカツキ達に頼れないし・・・」
とルリを見ながら言う。
「火星なんかどうでしょう?」
「火星・・・か。いいかもね」
ルリの答えに同意するアキト。
火星に行って何をする訳でもない。ただ、行き先だけは決めておきたかった。
「じゃあ、行き先は火星で。出発はどうしますか?」
「出来るなら今日がいいかな」
アキトの答えに驚くルリとラピス。
「少し・・・急じゃありませんか?」
「エリナ達に何も言わないの?」
不意を付かれた形となったアキトの答えは、ルリとラピスに新たな疑問の提起と言う形で現れた。
「いや、急じゃない・・・これを見てよ」
アキトが言うとプライムにレーダーを表示させる。
そこにはこのドックを中心に半径1000kmの三次元宙域図が表示されている。
そして月軌道上の一点に向って集結する赤い点・・・
「これは?」
ラピスの問いにルリが答えた。
「恐らく・・・軍の艦隊。彼らも無能では無かった・・・という事ですね」
ルリの言葉に頷くアキト。そして言葉を続ける。
「ナデシコクルーは見張られていた・・・そう考えるのが妥当だろうな。相討ちとなったナデシコCの残骸は見つかってもユーチャリスの残骸どころか破片すら見つからないのはおかしいからね」
アキト達の読みは当たっていた。そこに集結していたのは統合軍の艦隊。その数およそ100。
その艦隊はユーチャリスの拿捕、それが不可能ならばそれの破壊という指令を受けて集まっていた。
戦争から月日の流れた今でも宇宙軍と統合軍の軋轢は消えていない。その軋轢に根差した不信感が今回の行動に表れたのだろう。
「消えるなら・・・今しかない。少なくともあいつらにはナデシコCやこの艦並みのレーダーレンジは無い。
だからボソン粒子反応も今なら観測される心配はないだろう・・・ラピス、アカツキに連絡を」
ラピスはアキトの言葉を受けアカツキへ通信を繋げる。
「何、どうしたんだい?」
急なアキトからの連絡に不審を抱いたアカツキが問い返す。
「アカツキ、急で悪いが俺たちはココを出る」
その言葉に愕然とした様子を隠せないアカツキ。
「それは本当に急だねぇ・・・理由は?」
「これを見てくれ」
アキトはアカツキに宙域の概況図を見せた。
「そういう事かい・・・分かった。行きたまえ。皆には僕から話しておくよ」
「済まない・・・何から何まで」
「いいって。物資は搬入済みだし、僕としてもその艦とその他諸々を見つかる前に持って行ってくれた方が助かるし・・・ね」
「重ね重ね礼を言う・・・ありがとう」
少々名残惜しげにアキトを見ていたアカツキだったが何かに気付いて部屋から消えた。
それをいぶかしんだアキトだが、コミュニケに映るアカツキの背景がドックの管制室のものだったので納得した。
「テンカワ君、ロックを解除するよ。準備は?」
「ルリちゃん、ラピス準備は?」
アキトの声にルリが答える。
「核パルスエンジン稼働率95%。相転移エンジンは60%です。ディストーションフィールド及びジャンプフィールドは展開可能」
「という事だ。いつでも解除してくれ」
ルリの言葉を受けてアキトは言った。
「OK。ロック解除するよ。どこに行っても構わないから・・・幸せになってくれ」
「言われなくてもなってやるさ、じゃあな」
「ああ・・・」
そう笑いあったのを最後にアキトとアカツキの通信は遮断される。
「ロックの解除を確認。ディストーションフィールド最大出力。ジャンプフィールドの展開も完了。いつでもジャンプできますよ、アキトさん」
ルリの言葉にアキトは口を開いた。
「目的地、火星・・・ジャンプ」
その言葉と共に虹色の光に包まれる船体。そしてそれが消えた後はガランとした空間が残されただけ。
管制室から一部始終を見ていたアカツキは誰に言うとも無く呟いた。
「これからが大変なんだよねぇ・・・彼女達への説明が・・・」
そして部屋を出て行こうとしてある事に気付き足を止めた。
「そういえば・・・ゴート君は?」
額からツツーッと流れる一筋の汗。
その頃ゴートは満足げな表情でドックの片隅に立っていた。
アキトとアカツキが話している時に気がついた彼は、チタン製の荒縄を『むん!!』と引き千切った後、ドックから退避しようとして
ユーチャリスがジャンプシークエンスに突入したのに気付く。そして彼は旅立った先に幸福があらん事を祈っていたのだ。
彼の神に。
「我が神よ・・・信徒二人の旅立ちに幸福があらん事を・・・むん!!」
そして付けていたネックレスを外すとフィールドの中のユーチャリスに向って力一杯投擲した。
どういう原理か・・・『それ』はフィールドを通り抜け、ユーチャリスの船体にめり込んだ。
それを見届け満足げなゴート。アカツキがそんなゴートを発見したのはそれから5分後の事である。
〜後書き〜
ども。町蔵です。
『旅人達の遁走曲』第四楽章をお送りします。
今まで読んで下さった方の中には甘甘な展開に辟易された方もいらっしゃる事と思いますが、
これからはちょっとばかり方向転換をいたします。
相も変わらずルリ×アキトで突っ走りますが・・・
ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました。
次回も読んでくださるとありがたいです。
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それでは代理人様、宜しくお願いします。
代理人の感想
・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー、脱力。
>でも、そんな彼を信じる事が出来ないって事は、ルリ君を信じていないって事になるよ。
ん〜、アカツキ君ちょいと(つーかかなり)強引。
「ルリの信じたアキトを信じる」は通しだけど、それを強制するのはなんか間違ってるでしょう。
故意にしても続くアキトが同じ論理で説得してることを考えると、ちとミスっぽいかなぁ。