B パート
ゲシゲシッ ドゴォォォ!! バキャッ!! メキョッ!!
タギリ内の士官室の一室から、その場に似つかわしくない音が鳴り響いている、
「 ・ ・ ・ 」
「 ・ ・ ・ 」
その音の発生源であるミノリ少佐の部屋の中では、アキトとメイが脂汗を滲ませながらソレを見ていた。
「いつもの事ですから気にしないでください」
そんな2人に、まるでなんでもないかのように振舞っているのは、ミノリの副官のテン・ミユ少尉、
北辰やヤマサキなどと合った後はいつもこうなので、すでに馴れているのだ、
で、音の元であるミノリが何をしてるかと言うと、
ゴスッゴスッゴスッ ごばきょ!!! ぐきゃっ!
サンドバックをどつきまわしていた ・ ・ ・
「はい、ミノリさん」
そう言って、ティーポットからティカップに注いだアプリコットティをミノリに差し出す。
「はぁはぁはぁは〜〜〜〜 ふぅ、 ありがとうミユ」
ようやく落ち着いてきたのか、どつきまくっていたサンドバックを押しとどめると、軽く礼を言ってからティカップを受け取る。
しかし、士官室(と言うよりミノリ少佐の執務室)に無造作に吊るされているサンドバック ・ ・ ・ 本人はそれで当然なのだろうが、違和感が
まだミノリが体育会系ならそれほどでもないのだろうが、まったくの正反対でファッションモデルでも通用しそうな容姿の持ち主、
違和感の二乗倍、
まぁ ・ ・ ・ あの2人と会った後ではそうしたくなるのもわかる気がするが。
「さて と」
ふわっと、乱れた髪をかきあげてそれまでの雰囲気を振り払う、
「取り敢えずアキト 今日はご苦労様、貴方のおかげで作戦は成功よ。
おまけに、『お土産』のおかげでサクラさんが、大喜びしてるわ」
「そ、そうですか、オレは指示された事をしただけですよ」
その切り替わりの早さについて行けずにどもる、もっとも馴れていないと当然だが、
「それだけ出来れば上出来よ、ろくに仕事も出来ないのに威張り散らしてるのがゴロゴロしてるんだから」
「(コクッ)」
「そうですね、アキトさんはもう少し自分に自信を持たないと駄目ですよ」
ミノリの言葉を肯定するようにメイが頷き、ミユもアキト用に炒れたコーヒーを渡しながら言うが、ちなみにメイはホットミルク。
「”自分が誰かもわからないのに自信を”?」
差し出されたマグカップを受け取りながらアキトが少し悲しそうな笑みで答える、
「あ ・ ・ ・ すみません、私 」
それに気づいたミユがハッとして謝る、
アキトには過去の記憶が、少なくとも3年前以前の記憶が、無い。
いや、アキトだけではない、メイもそして此処には居ないがラピスラズリもまた記憶を失っている。
「いいよ、それにいつまでも戻らないまま じゃないんだから」
気落ちしているミユにそう答えると、受け取ったコーヒーを口に運んだ、
その横でメイはいつもと同じように無表情のままでいるが、別に怒っているような感じはしない。
「スミマセン」
そう言われても、やはり気になるのかミユは肩を落としてしまっている。
「ミユ、アキトもああ言っているんだから」
「 ・ ・ ・ はい」
しかし、そう声をかけるミノリの表情も曇っていた、ただ”それ”はミユのとは幾分か違うモノであった、
「とにかく作戦は成功したんだし、アキト 今日これからはもう休んでいなさい」
沈んだその雰囲気を払うように言うとミノリは立ち上がった、がアキトは軽く首を振って、
「いえ、これから夜天光の調整をしないと」
「駄目よ、今日ぐらいは休みなさい」
間を置かずにミノリが言うが、
「わかりました、 じゃあ調整が終わってから休みます」
「 ・ ・ ・ はぁ
無理はしないようにしなさいね」
言っても無駄だと判断したのか軽いため息をつき、目配せをする。
「わかってます」
残りのコーヒーを一気に飲み干すと、アキトは部屋から出て行った。
「 ・ ・ ・ 私も付き合う」
メイが慌ててホットミルクを飲みきるとアキトを追っていった、無理しないように見張るために、
「アキトさん ・ ・ ・ 何かあったんでしょうか?」
その後ろ姿を見送りながらミユが誰に聞くことなく呟く、二言三言しか会話を交わしていないが、何かいつもと違うモノを感じていた。
「戦闘の後だから少し気が高ぶってるだけよ。
それより、これからの事だけど ・ ・ ・ 」
そんなミユを無視するかのようにそのまま仕事の話に切り替える、
「は、はい 今日は ・ ・ ・ 」
慌ててウインドウを開いて予定表を取り出そうとしているミユを横目にしながら、ミノリは一瞬複雑な表情を浮かべた。
【”いつまでも戻らないまま じゃない”か ・ ・ ・ 】
『タギリ』内の機動兵器用格納庫では数機の機体が整備を受けていた、
もともと、ヒサゴプランのターミナルコロニーである『タギリ』にはその重要性から、統合軍よりステルンクーゲルを中心にした警備部隊が配備されており、整備作業が行われている事自体何の問題も無い、
問題なのはこの格納庫には統合軍の機体は1機も存在していないことだ。
ターミナルコロニー『タギリ』のいや、ヒサゴプランのもうひとつの顔『火星の後継者』の前線基地の部分がそこには現れていた、
「? あーっ! アキトさんもう大丈夫なんですか!?」
並んでいる機体の中でも一回り大型な機体に取り付いていたサクラが、格納庫に入ってきたアキトを見つけて驚きの声を上げる。
それもそうだろう、瀕死の状態のアキトをサレナから下ろしたのは彼女なのだから、
「ああ、もう大丈夫だよサクラさん
それより、これから夜天光の調整をする予定のはずだけど?」
駆け寄ってくるサクラに軽く笑顔を浮かべて答える、
「夜天光の方は問題有りませんから予定どうり始められますけど ・ ・ ・
ですけどアキトさん! 倒れられてからまだ半日ぐらいしか経っていませんよ」
「大丈夫だって、パイロットって人種は頑丈だから」
「は〜そうなんですか。 と言うと思っているんですか? いくらなんでも無茶ですっ!!」
普段からほえほえっとしているサクラとしては珍しく、眉間にしわを寄せて言い寄ってくる。
「大丈夫だよ無理はしないから、何せお目付け役もついているんだしね」
そう言ってアキトが振り向くと、そこには追いかけてきたメイが立っていた、
「はわ、メイ」
「? ・ ・ ・ どうかした、サクラ」
「お目付け役ってメイの事?」
「ミノリの命令 ・ ・ ・ 無茶しないように見張る」
「ふぇ ・ ・ ・ うむむむっ」
苦笑に近い笑みを浮かべているアキトと、いつもどうりの無表情のメイを交互に見ながら考え込む、が
「わかりました」
答えは意外とあっさり出た。
「これ以上言っても聞いてくれそうにないですし」
「ひどいなぁ、俺ってそんなに強情?」
「はい、それはもう」
「(コクコク)」
満面の笑みを浮かべて断言するサクラと、無言のまま肯定するメイ、
「う゛」
アキト撃沈。
「ですけど、テスト中に少しでも妙な事があったら力ずくでも中止させますからね」
そう言うと、サクラは腕まくりをするような仕草をする、
「 ・ ・ ・ お願いします」
仕草こそおどけているが真剣そのものの眼差しに、アキトは素直に頭を下げた、
「はい、それでは始めましょうか?」
その返事に満足したように微笑むと、サクラは先ほどまで整備に取り付いていた機体にアキトを引っ張って行く、
「 ・ ・ ・ 【ひょっとして 私が監視する必要 無い?】」
とか考えながらメイも2人の後を追って行く、
「さてと、皆さ〜ん アキトさんが来てくれたので予定どうり今日中に終わらせちゃいますよ〜」
「「「「「おお−!」」」」」
サクラの声に機体に取り付いていた整備員達が反応する、
「なんか、一回り大きくなってる?」
自分の愛機を見上げてアキトがつぶやく、どことなく以前よりガッシリしたように思える、いや ガッシリし過ぎている、
「はい、ジャンプフィールド発生装置とCC(チューリップクリスタル)と同じ組成の装甲を取り付けましたから」
言われてみると、確かに装甲の色が角度によって本来の黒からダークブルーに変化して見える、
「どうですかアキトさん 新しくなった夜天光は?」
少し誇らしげにするサクラだが、
「 ・ ・ ・ 悪役っぽさが増した?」
「(コク) ・ ・ ・ 」
「あらら〜 ひ、ひどいですよ2人とも」
アキト&メイの問答無用の意見にコケる、もっとも夜天光に取り付いていた整備員の何人かは同意の声を上げたが、
「せめてダークヒーローと言ってください〜」
「 ・ ・ ・ どっちも同じ」
もともとステルンクーゲルやエステバリスより凄みのある夜天光に、アキトのパーソナルカラーである黒が凄みに拍車をかけていたのだが ・ ・ ・
バックパックに追加されたフィールド発生装置とCC装甲によって、ローブを纏った邪神官といった雰囲気になっていた。
ちなみに、そう見えるようにフィールド発生装置とCC装甲をデザインしたのはサクラだったりするのだが、こう言うのが好みなのだろうか?
まぁ、禍々しさから言えば深紅に染まった北辰の夜天光・改の方が勝っているだろう、
「はは、それで俺は何をすれば」
「はい? あ そうでしたえっと、 ・ ・ ・ 」
ピッピピピ・・・
暗く閉鎖された空間に、ゆっくりと光が灯っていく。
各種コンソールのインジケーターに灯った淡い光が、徐々にその空間を夜天光のコクピット内を照らし出す、
ヴウゥゥウウウゥヴヴゥゥゥゥヴゥゥゥウゥゥ ・ ・ ・
続いてジェネレーターが始動し発生する駆動音と軽い振動がコクピットとシートに身を沈めているアキトに伝わってくる、
そして、それに合わせるようにアキトの顔や手、髪に銀の閃がはしり始める、
ピッ、 パッパッパパッ
それまで、ただの暗い壁であったモニター部に一斉に光が入り、機体各部の状態を示すチェックリストが流れそれが終了するとモニターに外部の様子が全方位で映し出される、
『夜天光・時空跳躍特化型 起動します』
最後に正面ウインドウが開きそう表示される、これが統合軍や宇宙軍の機体ならピンクの丸文字で『起動かんりょ〜』とか出るのだろうか?
「夜天光起動を確認、サクラさんいいですよ」
『了解です、それではIFSの調整から始めますから、アキトさんはそのまま楽にしていてください』
モニターの向こうでサクラが忙しそうに答える、いや実際に忙しいのだが、数人の整備員と共に夜天光と繋がっている装置のコンソールに取り付いている。
『すみませ〜ん、以前のデータ送ってください』
『どれです? 班長』
『A−053から213までの補正データを』
『了ー解っす、
え〜と、これとこれ ・ ・ ・ どうっすか』
『はい、確かに〜』
そんな様子をボ〜っと眺める、サクラに楽にしていろと言われたが実際する事が無い、せいぜいIFSのリンクが切れないように注意するぐらいだ。
メイも同じようにボーっとサクラ達の作業の様子を眺めている、お目付け役と言っても今は何もする事が無い、
「ふぅ ・ ・ ・ 」
軽く息をつく、疲れていないと言ったら嘘になるがそれは気になる程のものではない。
息をつくには別に理由があった、
【 ・ ・ ・ ホシノ ルリ か】
『アメノムラクモ』で出会った少女を思い浮かべる、
ズキッ
【何故 ・ ・ ・ あの娘は俺を知っていたんだろう?】
少なくとも今の”アキト”には面識は無かった、が向こうは”アキト”の事を知っていた。
【 ・ ・ ・ こっちの人間なら別に俺を知っていてもおかしくは無いけど】
いろいろな意味で、アキトの事は『火星の後継者』内で有名だ、いや正確には”ミノリが率いている部隊が”なのだが、
しかし、彼女がこちら側に来たなんて話を聞いた事は無い、何より先の戦争で草壁と真っ向から敵対したナデシコのメンバーが、こちら側に来ること無いだろう。
【なら、何故俺の名前を知っていたんだ?】
ズキッ
今の”アキト”と言う名は3年前ミノリがつけたもの、
ヤマサキの実験動物として記号と番号のみで呼ばれていた彼を、自分の部下として迎えた時、ミノリがそう呼んだ、それ以降彼は”アキト”となった。
と言う事は、少なくとも彼が”アキト”と呼ばれるようになったこの3年間の内に出会っている筈。
【この3年間で会ってるなら ・ ・ ・ 覚えてるはずだが】
この3年間、アキトは『火星の後継者』で『ヤマサキの実験体』と言う立場上、ほとんど外部と接触していない、
もしその僅かな時にホシノ ルリと会っているのなら、彼女の容姿とその立場から忘れるはずがない。
『 ・ ・ ・ さん、 ア ・ ・ さん、 アキトさ〜ん、 聞こえていませんか〜』
「え、あ なんです?」
サクラからの呼びかけに、思考から抜け出したアキトが慌てて答える、
『なんですか?じゃないですよ、なかなか気づいてくれないんですからぁ
アキトさん、もしかして調子が悪くなったんですか?』
心配そうにサクラのウインドウがアキトの顔に寄ってくる、
「いや、ちょっと考え事してただけだから、何ともないって」
『ホントですか? ホントですね? 無理してませんよね?』
「本当だってっ 俺だって下手に嘘ついてサクラさんに嫌われたくないからね」
心配させないように、サクラににこりと笑いかける。
『 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 』
一瞬『ほぇ?』っとした表情を浮かべてほのかに顔を赤め、なぜか動きも止まる、
【? おろ、俺なんか変な事言ったか】
いつもと違うサクラの反応に、マジマジとサクラの顔を見るアキト、
『あ、あのぉ〜』
更に顔を赤くさせるサクラ、
ピッ
『アキト、サクラ困らせたらダメ』
「おわっ!!」
『きゃぁっ』
見詰め合う2人(アキトに自覚なし)の間に、メイのどアップ&拡大ウインドウが開く、
『ふあぁぁメイ、びっくりするじゃないですか』
ある意味、そのおかげで硬直状態から抜け出せたサクラだが、まだ少し頬を朱に染めたままだ、
『サクラの手が止まってたから』
『 ・ ・ ・ えっと【そう言えばそうですけど】』
『だから、アキトが悪い』
「ちょっとまて――――――――――――いっ 俺か?俺が悪いのか!?」
『アキトが悪い』
「だから、何で ・ ・ ・ 」
『悪いから悪い!』
「はい スミマセン」
再び巨大化&どアップウインドウに押され小さくなるアキト、余談だが無表情でこれをやられると結構怖い、
『はは〜【確かにアキトさんの所為には違いないですねぇ】』
メイに責められ小さくなっているアキトを横目に心で苦笑する、まさかアキトさんに見惚れていましたとは言えない。
口ではああ言っているが実際のところメイは、見詰め合っていた(アキトに自覚なし)事に対して怒っているのだから、
『【それにしても、メイも変わってきました】』
3年前、ヤマサキの下からミノリが引き取った頃のメイを知っているだけに、最近のメイの様子にはホッとするものがある。
『メイ、そのくらいでいいじゃない?』
『 ・ ・ ・ サクラがそう言うなら』
渋々と言った感じで、メイのウインドウが通常の大きさに戻る、
「何がなんだか ・ ・ ・ 」
納得いかない表情でつぶやくアキト、確かに納得はいかないだろうが、それが彼の定め仕方ないだろう。
『でアキトさん、いいですか?』
「え? 何が?」
『あは、やっぱり聞いてなかったんですね』
「え〜っと、
・ ・ ・ すみません 考え事してたから」
何か言い訳を言おうとしたが、メイの視線を感じておとなしく謝る。
『かまいませんよ〜、上の空だったのはわかってましたから』
ニコニコといつもの笑顔を浮かべて、メイとアキトを見ている、
『それじゃもう一度言いますね、IFSの高レベルリンクでの状態をチェックしたいので、アキトの出来るだけレベルを上げてください』
「出来るだけ?」
『はい ”アキトさんが”大丈夫と思うレベルまで、です』
「了解、出来るだけ上げる」
そう答えると意識を集中させる。
フィィィィィィ ・ ・ ・
アキトにウインドウボールを展開したルリに匹敵するほどの銀光が走る、
「 ・ ・ ・ 」
サクラの指示どうりにリンクレベルを上げ、一気にそれまでの数倍にまで持っていく、が最大までは上げない。
それは何故か?
ヤマサキの実験によってアキトは通常の10倍近くのナノマシンを注入された、
結果として、アキトは通常では考えられない高いレベルでのリンクが可能となり ・ ・ ・
”彼”はそれまでの”彼”を失った。
本人が望もうが望まないが関係なく ・ ・ ・
それは”彼”に限った事ではなく、メイやラピスをはじめ、ヤマサキによって実験動物とされた者は何らかの後遺症を残している、
もっとも、ヤマサキに言わせるなら、
「いやいやいや、生きているだけ感謝してもらってもいいと思うんですけどね〜」
となるが ・ ・ ・
ではなぜ、そのような扱いを受けた”彼等”が『火星の後継者』の一員として戦っているのであろう?
話を戻そう、
なぜアキトは高レベルでリンクしないように制限をつけるのか?
より高いレベルでリンクした方が機体の反応速度は格段に上がる、それこそ自分の体以上に機体を操縦する事が可能だと言うのに、
その答えは簡単だ、レベルを上げ過ぎると自分自身で制御出来なくなり暴走を始める、某人型決戦兵器並に ・ ・ ・
だから、アキトはリンクレベルをある一定以上上がらないようにしている。
それでも、通常のパイロットより遥かに高いレベルでリンクしているのだが、
『う〜〜んと、データ受信っ アキトさんしばらくそのままでいてくださいね、
パパッと終わらせちゃいますから』
「あまり急いで、失敗しないでくださいよ」
『ははは〜 気をつけますね』
そう言うとサクラは整備員達と作業に戻り、アキトは再びする事が無くなる、
そして、またあの少女の事が浮かんでくる、
【 ・ ・ ・ ホシノ・ルリ、か】
リンクレベルを上げたと言ってもまだ他の事に気を向ける余裕はあった、裏を返せばそれだけ大量のナノマシンを注入されたと言う事だ。
【資料で見たのよりも可愛かったな】
『火星の後継者』にとって最大の敵になるであろう相手に送る言葉ではないが、アキトは素直にそう思った。
【 ・ ・ ・ だけど】
が、続けて思う。
ズキッ
【あの時のルリちゃんの表情は ・ ・ ・ 】
自分を見た時のルリの表情を思い出す、
驚愕と喜びそして途惑い、それらの感情が混ざり合った顔を ・ ・ ・
【何だったんだ?】
少なくとも、知り合いにあった時の顔ではなかった。
ズキッ
それに ・ ・ ・
『アキトさん ・ ・ ・ ですよね』
『アキトさんどうして ・ ・ ・ 』
『生きているなら、どうして連絡してくれなかったんですか?』
『会えないのなら、せめて ・ ・ ・ せめて、生きてるって教えてくれてもよかったじゃないですか!』
【 ・ ・ ・ あのセリフって】
ズキッ
【俺は、彼女と親しかったのか?】
でなければ、あんな事は言わないだろう、
ズキッ
【会ったことも無い相手の筈なのに】
アキトの表皮に浮いていた銀光がその輝きを強めてきている、
ズキッ
が、アキトの思いとは反対に”よく知っている娘だ”という声がどこからか聞こえてくる、
【俺は ・ ・ ・ ルリちゃんのことを知っている?】
ズキッ
と 次第に強くなってくる頭痛と共に、何かのイメージが浮かんでくる、
【なんだろ?】
浮かび上がってきたイメージを見ようと意識を集中させる、が
キィィィィィィィィィィィィィ
それまでにない痛みがイメージを霧散させようと沸き起こる。
【ぐぅぅぅ!!!】
激痛を押さえつけ何とかして消えていくイメージに意識を集めようとするが、痛みは更に強くなっていく。
浮かんでくるイメージを見ることを妨害するかのように、
【がぁぁぁぁ!!】
それでもアキトはイメージに意識を集中させる、何故か判らないがそうしなければならない、と何かが叫んでいた、
【も う 少し】
痛みで途絶えそうになる意識を辛うじて留めていたが、
ギィィギッギャギャッ
【 ・ ・ ・ ッ 】
アキトの意識は痛みに呑まれ、途切れていった
だが意識を失う最後の瞬間、1人の少女の微笑みが見えた気がした ・ ・ ・
『 アキトさん 』