あれから一週間過ぎた、
なのにオレはまだ仮想現実の中にいる。
まったく、イネスさんもいい加減に元に戻してくれてもいいだろうに
・ ・ ・ ・ ・ ・
機動戦艦ナデシコ ファンタジーストーリー
『Welsh』
第2話『此処は何処』
・ ・ ・ って、ちっがぁぁぁう!!
いい加減に現実を見ろ、オレ!
これはイネスさんのヴァーチャルシステムじゃぁない!
オレは本当に異世界に、それもファンタジー世界にいるんだ!!
そうじゃないと一週間経っても仮想現実から抜け出せないなんてことに説明がつかないじゃないかっ
現実世界とそっくりに体験できるヴァーチャルシステムにも体験できないものが、出来ないようにしているものが幾つかある。
激しい痛みなどがそうだ、たとえ体に傷がついていなくても精神が死んだと認識したら実際に死ぬ。
そして同じように食欲も満たされる事は無い、
つまりこれが仮想現実ならオレは此処一週間何も飲まず喰わずでいることになる、
・ ・ ・
流石にオレでも一週間も飲まず喰わずだと動けなくなる。
それにリミットを外せば仮想現実でも食欲を満たす事は可能だが、あのイネスさんがそんな非人道的な実験をするとは思えない。
ヤマサキ達の事あれだけ嫌っていたしなぁ ・ ・ ・
となれば、この状況が説明できるのは、
寝ているあいだにボソンジャンプして異世界に迷い込んだ
しかないだろう、理論上はジャンプで異世界に行くことも可能 ・ ・ ・ と、イネスさんも言ってたしな。
・ ・ ・ けど な
だぁぁ やっぱり納得できない!!
納得してるが、納得できないっ
いや、したくないぃぃぃ!!
「 ・ ・ ・ さん、 ・ ・ ・ キトさんっ、アキトさんってば」
グラグラグラ
「わっわっわわっじ地震!? ってアリアちゃんか、どうかしたのか?」
「どうかしたのか? じゃないですよ、呼んでも返事してくれないから」
それは ・ ・ ・ 気がつかなかった、
駄目だ、なぜか感覚が戻ってきてから全然鈍くなってる気がする、
五感が無かった時はいつも緊張してたからな、その反動か?
「だからアキトさんって」
「ああ、ゴメン ちょっと考え事してたから」
「もう、アキトさんって冒険者なのに少し鈍いですよ」
う゛っ 否定できない。
オレに話し掛けてきた娘は、アリア・イリューシュちゃん。
今お世話になっている宿屋『青い白波亭』の娘さんで、この前コボルトに襲われていた女の子だ、
『命の恩人』と言うことでタダで泊めてもらっている、この世界の貨幣を持ってなかったから助かった。
更に、此処は冒険者宿でもありアリアちゃんの、
「アキトさんは腕の立つ剣士」
と言う触込みの結果、いくつかの仕事(モンスター退治や護衛)を回してもらって、生活費程度なら賄えるようになった。
意外とこの生き方、オレに向いているのかもしれない、
「それで、どうしたんだい?」
「うん、アキトさんにお仕事の依頼だって」
「ん わかった」
カップに残っていた紅茶を一気に飲み干すと、テーブルの上に置いていたバイザーをかけて立ち上がる、
「 ・ ・ ・ 前から思ってるんだけど、アキトさん」
「?」
「店の中でバイザーかけてよく見えるよね?」
「 ・ ・ ・ 特別製だからね」
視覚が戻ってるから、視覚補正機能は使ってないけど他の暗視機能とかは充分すぎるほど役立ってる。
「ふぅ〜ん
あ、こっちだよ」
アリアちゃんが言った先には白いあごひげの老人が立っていた、
「えっと、アキトさんは初めてだよね?
こちらは、隣村の村長さんだよ」
「初めまして」
「あ、こちらこそ
それでどんな依頼ですか?」
「はぁ、実は ・ ・ ・ 」
村長の話を要約すると、
隣村の近くには『魔神窟』と呼ばれている古代遺跡がある。
普段は遺跡の入り口は堅く閉じており誰も入る事は出来ない。
が、一週間ほど前に突然入り口が開いた。
遺跡の名前が名前なので、魔法ギルドに調査を依頼したが調査団を派遣するのに半年かかると言われた。
そんなこんなしている間に好奇心の強い村の若者達が遺跡の中に入ってしまい、何人かがそのまま帰ってこなかった。
今度はその事もかさねて魔法ギルドと警務隊に調査団の派遣を依頼したが、それでも3ヶ月待ってくれと言われた。
で、そんなに待っていられないっ、と村が独自に調査をする事になり冒険者を探していた。
という事らしい、
「調査 ・ ・ ・ ですか?」
調査と言われても古代文明や魔法とかには詳しくないからな、たいしたこと出来ないぞ、
「いえ、とくに詳しく調べられなくてもかまいませんのじゃ」
オレの考えを察したのか、村長さんが口を開く。
「『魔神窟』の中の様子と行方不明になった村の若いモンを捜してきてくれれば ・ ・ ・ 」
なるほど、調査と言うより行方不明者の捜索ってことか、それと中に『在る』もしくは『居る』モノが遺跡の外に害をなすかどうかの確認と、
「わかりました、それなら大丈夫でしょう」
「おお、引き受けてくれますか」
「ね、だからアキトなら大丈夫だっていったでしょ♪」
・ ・ ・ はい?
『アキトなら大丈夫』って???
「アリアちゃんそれってどういう事?」
「うん、今までの人達みんな村長さんの依頼断ってたから」
「やはり『魔神窟』には近づきたがらないのでしょうな」
なんだかしみじみ語ってる、よほど断られ続けたんだなぁ
「仕方ないよ村長さん、こんな地方都市に遺跡に入ってくれるような冒険者は滅多にこないし」
「確かに、そうですのぉ」
・ ・ ・ もしかして、遺跡ってかなりヤバイところなんじゃないだろうか?
っく、まだこの世界の情報収集が足りなかったのか!?
アリアちゃんと村長さんには悪いけどここは、断ったほうが ・ ・ ・
「だけどもう大丈夫だよ、アキトさんがしっかり調べてきてくれるから。
っね アキトさん」
「う゛ ・ ・ ・ も、もちろんですよ、任せてくださいっ
あ」
アリアちゃんの満面の笑みに釣られた ・ ・ ・
もう断れないな、この依頼、まぁ 何とかなるだろう、きっと。
そのときオレは気づいていなかった、
オレ達の話に聞き耳を立てていた人物が居た事に。
第3話ヘ
代理人の感想
ありゃ、もうここが異世界なんだって納得しちゃいましたか・・・・・ちっ(爆)。