「計らずも『間一髪』 ・ ・ ・ だったかな」
黒い日本刀を構えた青年が立っていた。
「アキト(くん)っ」
機動戦艦ナデシコ ファンタジーストーリー
『Welsh』
第10話『それから』
「 ・ ・ ・ という事で、【魔神窟】はもう動く事はありません」
「おおっそうですか、ありがとうございました」
オレの言葉に村長さんはホッとし、深々と頭を下げた。
「いえ、依頼された事をしただけですよ」
「ですが ・ ・ ・ 」
? なんだか村長さんがすまなさそうな顔してるなぁ
「アキトがボロボロだから気にしてるんじゃなの?」
・ ・ ・ あっ なるほどね。
バイザーは壊れたしマントは穴だらけ、ボディーアーマーに至っては使用不能になったから『異跡』に捨ててきたし。
「そう言うユキナちゃんもボロボロだよ」
「まぁねっ でも大きな怪我とか無かっただけでもよかったわよ」
確かに、よくエステバリス相手にしてこれだけで済んだものだ。
「気にしないでください、オレ達は冒険者 こういう事には慣れています。
それに、こういう事の為にオレ達が居るんですから」
「そうですか ・ ・ ・ 本当にありがとうございました」
まだ幾らかすまなそうにしているけど、それなりに納得してくれたか。
「それから ・ ・ ・
これが洞窟内で見つかった遺体の位置を書いた地図です、後で迎えに行ってあげてください」
懐から【魔神窟】内の地図を取り出して村長さんに手渡す。
「 ・ ・ ・ はい、そうさせてもらいます」
覚悟はしていたんだろうけど、やはり辛いんだろうな、
肩を落とすように地図を受け取った村長さんを見ながら、そう思った。
キィィ
「いらっしゃい ・ ・ ・ あっアキトさんお帰りなさいっ」
「アリアちゃん、ただいま」
『青い白波亭』の扉を開けるとアリアちゃんの元気な声が迎えてくれた。
『お帰り』といって迎えてくれる所が有ると言う事はいい事だなぁ
「あ、シラトリさんもお帰りなさい」
「は〜い、ただいまぁ〜」
お? ユキナちゃんも此処に泊まっていたのか、
「2人ともかなりボロボロですけど ・ ・ ・
アキトさんは依頼を受けていたから当然だけど、シラトリさんはどうして?」
「うん? ああっそれはアキトに付いて行っていたから」
「はあ ・ ・ ・ そうなんですか?」
どうしてオレの方に訊いてくるのかなアリアちゃん。
「えっと、どちらかと言うと勝手に付いて来た かな」
「ふぅぅん、じゃぁそう言うことにしておきますね」
・ ・ ・ なんでそんな目で見るのかな?
「クスクスクスッ アキトっまた後でね」
「ああ、じゃぁ」
軽く手を上げてユキナちゃんに答える。
「 ・ ・ ・ また後で なのかな?やっぱり」
「ずいぶん仲が良いんですね、シラトリさんと」
「そう ・ ・ ・ 見える?」
「はい」
「今日始めて会ったって言ったら信じてくれる?」
「いいえ、以前からの知り合いのようにしか見えません」
「だろうね」
思わず苦笑を浮かべる、今日始めて会ったのは本当だけど ・ ・ ・
彼女によく似た、いや同じって言ってもいい娘を知っていたからそうなるんだろうな。
・ ・ ・ でも、アリアちゃんが微妙に怒ってるような気がするのは何故だろう?
クイックイッ
「あ 」
「どうかしたんですか?」
「いや、オレも疲れたから休ませてもらうよ」
「あ、はい」
アリアちゃんにそう言って自分の部屋に戻った。
ガチャッ バタンッ
「 もういいですよ」
「ぷはっ はぁ〜〜窮屈だったわ」
マントの中からイネスさんが頭を出して息をつく、
「だったら隠れないでいたらいいんじゃないですか?」
「妖精と言うのは存在自体が珍しいのよ
うろうろ飛んでいたら捕まって見世物小屋行きなんてことになるわ」
それはまた、
「 ・ ・ ・ とまでは言わないけど注目の的になるのは間違いないわ、
あまり注目の的になるのは好きじゃないのよ」
確かにそれは出来るならオレも遠慮したいな。
「さてと、じゃ【黒百合】貸して」
「? 何するんです?」
貸してって言われてもイネスさんのサイズじゃ持てないんじゃ、
「決まってるでしょ、今まで動かした事の無かったモノを急に動かしたのよ、
ちゃんと整備しないと不具合が発生するかもしれないわ」
「はぁ、そうなんですか」
刀の整備って言われてもピンッとこないな、
「わかったなら早く貸しなさい」
「わかりました、どうぞ」
鞘ごとイネスさんに渡す ・ ・ ・ 持てるのか?
「はい、ありがとう」
ヒョイッ
「 ・ ・ ・ 」
要らぬ心配だったみたい、軽々持ってるよ ・ ・ ・ いや『浮かせてる』のか
「さて ・ ・ ・ 」
ヒュンッヒュンッ
「うをっ!?」
イネスさんの髪の中から触覚みたいなのが出てきた!?
あ、【黒百合】の柄にくっ付いた ・ ・ ・ これが整備なのか?
よくわからないけど ・ ・ ・ 取り敢えずそっとしておこう。
ドサッ
「ふぅ ・ ・ ・ 」
ベットの上に大の字に倒れこむ。
「今日は ・ ・ ・ 疲れた」
【魔神窟】の探索から始まって ・ ・ ・
バッタの存在、ユキナちゃんと妖精なイネスさんと出合い、エステバリスとの戦闘、そして
魔神剣【黒百合】。
ただの日本刀じゃないとは思っていたが、エステバリスを一撃で消滅させるなんて ・ ・ ・
「計らずも『間一髪』 ・ ・ ・ だったかな」
「アキト(くん)っ」
2人とも無事か、無事と言うにはちょっと無理がありそうだけど、
「よかった、無事 だったんだぁ ・ ・ ・ 心配したんだ ぞ」
「ごめん」
心配かけちゃったみたいだね、ユキナちゃん。
オレが受けた筈の傷は目が覚めた時点で既に癒えていた、あれも【黒百合】の力の1つなんだろう。
「さぁ 【黒百合】お前の力 使わせてもらうぞっ」
エステバリスに正対し【黒百合】を構えなおす、
初めて扱う筈なのに、誂えたようにオレの手に馴染んでる。
くぅおおぉおぉぉぉっ
バッタを背負ったエステバリスか、デビルエステバリスを思い出すな。
いくぞっ
「正面から!? 無茶よアキトくん!!」
ブォォウ
やはり総重量が増えた分動きが遅いっ
オレの頭を狙った一撃を掻い潜り懐へっ 狙うは動力炉替わりのバッタかアサルトピットのサブAI。
ブォッ
クッやはり膝蹴りがきたか、が同じ手は通用しないっ
身を引いて膝蹴りをやり過ごし ・ ・ ・ !!
ヴァッ
「膝蹴りから爪先蹴り、か てことは次は踵落し ・ ・ ・ 」
グォッ!
「が、来たな」
ゴズゥンッ
と言うか、サブAIになってからの方が賢くなってないか?
が、動きに隙がありすぎるっ!!
振り下ろされたエステバリスの脚部を足場に跳躍っ
「ぬぁおおぉぉぉっ!」
木連式抜刀術
「星 流 閃」
「!!」
手応えが無い!?しくじったのかっ
身を翻し、再びエステバリスと正対する ・ ・ ・ なに!?
「こ、これは!?」
頭部に取り付いたバッタからアサルトピットの中ほどまでの鋭利な刃物で切裂かれたような斬撃痕、
多分あれをつけたのは【黒百合】での一撃だろう、斬った手応えすら無いなんて凄まじい切れ味だな、が
それよりも。
くぉおぉおぉぉぉ ・ ・ ・
「エステバリスが 崩れていく?」
虹色のオーロラのようなモノに包まれたエステバリスが、風化していくかのように崩れていく、
目で見てわかるほど早く。
ザザァァァ ・ ・ ・
「 ・ ・ ・ 」
数秒後、エステバリスは跡形も無く消え去っていた。
これが【黒百合】の力 ・ ・ ・ なのか
「すごい」
ユキナちゃんの声がやけに大きく聞こえた。
「斬ったモノを消滅させる刀、か」
『異跡』の中に長い間使い手も無く封印されていただけのことはあるか。
「そう簡単に使っていいモノじゃないな」
「そうでも無いわよ」
え?
「そうでも無いって言ったのよ」
「もう整備終わったんですか?」
「ええ、オールグリーンどこにも問題なかったわ
で、話の続きになるけど気にする必要は無いわよ」
「どうしてです? ・ ・ ・ あっ」
しまったぁぁ!!
「説明しましょうっ♪」
数時間後
「っと言う事よ、わかったかしら?」
・ ・ ・ う〜〜 ぴ〜〜 あ〜〜
「わかったかしら!」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・
ハッ はいっわかりました!!
つまり、普通に使っても問題無いって事ですね!!」
「 ・ ・ ・ まぁそれだけわかったら大丈夫ね」
た 助かったぁ、これ以上続いたら命の保証が ・ ・ ・
「う〜〜ん、久しぶりに説明したから疲れたわぁ
って事で、オヤスミ〜」
ポフッ
「スヤスヤ ・ ・ ・ スヤ ・ ・」
・ ・ ・ 清々しい顔で寝ちゃったよ。
「長い間1人きりで居たんだ、説明する機会なんて全然無かったんだろうな」
そう思ったら、あれぐらいいいかな。
でも、これから一緒にいるんだったら、こう言う事はよくある事だろ ・ ・ ・
「 ・ ・ ・ ハッ 意識が遠くなってた!?」
これからもつのかな ・ ・ ・ オレ?
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代理人の感想
・・・賢い?
人間サイズの目標にエステでカカト落としを掛けるようなAIが賢いと(爆)?