地球から巣立った人類は、宇宙コロニーでの生活に新たな希望を求めていた。
しかし、地球連合政府は、正義と平和の名の下に圧倒的な軍事力を持って各コロニーを制圧した・・・
隔壁を破壊し、コロニー内に侵入するＭＳリィオー
搭載可能なだけの爆弾を抱え飛ぶＭＳエアリーズ
倒れるビル・・・
爆発する民家・・・
逃げまどう人々・・・
全てを踏み潰していくＭＳ・・・
アフターネルガル（Ａ・Ｎ） １９５年
作戦名 『オペレーション・メテオ』
連合に反目する一部のコロニー居住者達は流星に偽装した新兵器を送り込む行動にでた。
各コロニーから地球へと打ち出される流星
だが、これは既に連合本部に察知されていた。
新機動戦記
ナデシコ Ｗ
第０１話 「少年が見た流星」
衛星軌道上 監視衛星
ピー、ピー、ピー、ピー・・・
「？ 准尉、ラグランジュ・ポイント ＡＸからＴ１に掛けて質量の移動を確認」
珍しく警報音を鳴らす、監視システムを操作しながら兵の１人が報告する。
「地球大気圏突入迄あと ６００秒」
「１つでわないな・・・」
「はい、レーダーには５つの金属反応があります」
「うむ・・・」
少し考えるように、天井を見た、
【この時期に流星か？ いや多分昔の人工衛星の破片だろう・・・
もしかしたら、本部で噂になっていた”あれ”か？ フンッ まさかな、腰抜けのコロニー連中にそんなこと出来る筈がない、あれはただの破片だ】
”あの”噂を思い出して少々苦笑してから、
「放っておいても問題あるまい、どうせ大昔の人工衛星の破片だろうがな・・・
一応、大気圏上層のラピスに報せてやれ」
「はっ！」
「ラピス特尉、監視衛星は隕石落下と報告してきてます」
カズシ特尉がコ・パイロットシートで、監視衛星からの通信を後方の補助席でファイルを読んでいた少女、顔に
アンバランスなほど大きなバイザーをしたラピスに報告する。
「クスッ 監視衛星の目は節穴かしら、ただの隕石が大気圏突入回廊を通ると思う？」
それまで読んでいたファイルを脇のテーブルに置くと、カズシを見る。
「・・・やはり、クリムゾン本部の情報どうり？」
その言葉に軽く頷くと、
「コロニーのＭ作戦にまちがいない・・・シュン特尉、この輸送機で幾つ捕捉できる？」
「そうですね、ユーラシア東部に落下すると思われる、１つですか・・・」
すまなそうに、シュン特尉が報告する、
「１つだけ？ 仕方ない１つでも良しとしましょう、前線の雇われ軍人は功を焦ったらだめだモノ」
「？ 随分と表向きな発言ですね」
ラピスの言葉にカズシが反応する、
「言ったでしょ、私は軍人なのよ」
ピッ、ピピッ・・・
「各部、異常なし・・・２０秒後に大気圏突入、作戦開始まであと４２０秒・・・・・・」
大気圏突入用輸送カプセルの内で１人の少女が、静かにつぶやいた、
ピピピピピピピピピピピピピッ
と、少女の注意を促すようにモニターのある物が表示される。
「？ 民間のシャトル？ この時間に定期航路の便は無いはずなのに」
少女の乗るカプセルと同じ軌道を先行して飛ぶ民間シャトル、少女が顔を少し曇らせた。
『外務次官、これより当シャトルは大気圏に突入します、安全のため座席にお座りになりシートベルトをお締め
ください』
機内アナウンスが流れ、乗客に注意を促す、と言ってもこの機は連合政府の貸し切りになっているので乗客は
外務次官他数名しかいない。
「どうしたアキト？ 不景気な面しやがって」
「何言ってんですか、コロニーに連れていってやるって言うんで喜んで来たらずぅ〜っと
才蔵さんの手伝いばかりだったんですよ？ こ〜云う顔にもなります」
「ハハハッ それは悪かったな、だが俺は遊びに行くとは一言も言ってないぞ」
「そうですけど・・・せめて１日ぐらいは」
「次の時に考えておくよ」
「お願いしますよ・・・でも、よかったんですか？」
「ん？ 何がだ？」
「オレなんかが外務次官の秘書なんて・・・」
「何言ってやがんだ、俺はお前だから秘書にしたんだぞ、何せ自慢の養子だからな」
「そうですけど」
「かぁぁ、いいかアキト！ 外交官に必要なモノは何かわかるか？」
「え？え〜っと 相手の心を読む洞察力、それと判断力・・・あとは〜」
「正解だが、ハズレだ」
「？」
「外交官に一番大切なのは相手に対して何の偏見も持っていないことだ、その点においては今の地球じゃぁ、
お前よりいいヤツはいないんだよ」
「はぁ・・・」
「なに気の抜けた返事してんだ、俺が大丈夫って言ってるんだから大丈夫なんだよ！ それとも何だ、俺の言葉
が信じられないのかぁぁ！」
「うぁっ！ ちょ、ちょっと待ってください、首！首絞めないで〜・・・ん？！」
才蔵の攻撃から逃れようと体をのけ反らせた時、シャトルの窓の外に炎の塊が見えた。
「あれは・・・？」
「！！」
もっとよく見ようと窓に顔を近づけると、大気圏突入時の高温から窓を保護する為のシャッターが降り、視界を
遮った。
アキトは窓の外が気になって気づかなかったが、炎の塊を見た時才蔵の表情は一瞬固くなっていた。
「目標相対速度・・・０１５４５ オートロック、オン」
カプセルの先端の一部が開き、そこからビーム砲が現れる・・・
「・・・降下障害物を破壊します」
少女がビームを放とうとした時、再び警告音が響いた。
「後方より接近する機影・・・あれは、連合の攻撃用ＭＳ輸送機？！」
モニターに出されたデータを見て、少女は目を見張る。
「ラピス特尉、捉えました、モニターに出します」
モニターに拡大されたそれを見て、ラピスは笑みを浮かべた。
「やっぱり、あれが新たないくさのたまご・・・」
「フッ、Ｍ作戦か・・・」
カズシが口元をほころばす、【コロニーも馬鹿な事を考える】と。
「民間シャトルが前にいるから、減速するしか無い」
「ですが、シャトルを撃墜して加速する事も考えれますが？」
大気圏突入の準備をしながらシュンが可能性の１つを挙げるが、
「大丈夫、向こうはあれでも隠密行動だから、私達の見ている前でそんなこと出来ない」
「連合にはもう感づかれてしまっている・・・当然ですね」
少女はそうつぶやくとビーム砲を収納した、あの輸送機が見ている以上、派手な事は出来ない、だがこのまま
減速してしまえば捕らえられる、
ならば・・・
「民間機、カプセル共に大気圏に突入しました」
「こちらも、突入します」
輸送機の窓もシャッターで保護され、窓越しに見えなくなった替わりに外部モニターで外が映し出される。
カズシの頭にこのままカプセルを追撃し地上なり海上なりに強制的に降ろして逮捕拘束、それで終わるだろう、
そんな考えが浮かんだ時、信じられないデータが表示された。
「！！ ラピス特尉、カプセルが軌道を変更してます！」
大気圏突入回廊の幅は恐ろしく狭い、その回廊を逸れれば摩擦熱で燃え尽きるか、大気層に弾かれて宇宙に
逆戻りだ。
「？ あのカプセルパイロットは自殺でもしたいの？」
ラピスも信じられないと身を乗り出して、モニターを見る。
「逃げられない以上、搭載しているモノを我々に奪われる、ならば奪われる前に燃やしてしまえば秘密は守れ
る・・・そんなとこでしょう」
カズシがそう言い切ったが、シュンが遮る、
「だが、更に加速してる・・・逃げ切るつもりじゃ？」
「馬鹿な！ あんな高温に耐えられるモノがあるモノか」
「・・・そうでも無い」
軌道変更後のカプセルの軌道を見てラピスは確信した。
【確かに大気圏突入回廊を多少はずれてはいる、が燃え尽きるつもりならもっと深い角度で落ちていく筈
けどあのカプセルは突入姿勢のままで加速している・・・】
「・・・私達の敵は私達よりも高い技術を持っている」
ラピスはそうつぶやいた。
ウィィィィ・・・
「あれは・・・大気圏突入用カプセル？」
ようやく開いた窓からアキトが、先ほどの炎の塊を見ようと身を乗り出す。
シャッターが降りる前にはシャトルの後方にいた筈のが、前方に居るのに驚きながらもそれが大気圏突入用
カプセルだと気ずく。
「・・・『オペレーション・メテオ』、か」
「？・・・」
窓の外を見ようとせず、前方を凝視している才蔵の口から漏れた言葉にアキトは気づいたが、それがなんなのか
聞かない方がいいような気がして黙った。
もう一度外を見ると、カプセルは既に見えなくなっていた。
「空力限界高到達、外部耐熱ユニット着脱」
少女はパネルを操作すると、カプセルが弾け飛び中から翼を広げた鳥の姿をした戦闘機が飛び出した。
「・・・これが、地球」
コロニーの人工的な重力とは何かが違う本当の重力を感じながら少女は、眼下に広がる蒼き星を見た。
「ラピス特尉！ あれはいったい？！」
「Ｍ作戦で送り込まれる新兵器って、戦闘機の事だったんだぁ」
モニターに映し出されている敵戦闘機を凝視しながらつぶやく、今までに見たこともない形状だ。
「まるで、鳥だな」
素直な感想をシュンが口にする、確かにその形は戦闘機らしからぬ形だ、軍人の目から見ればまるでオモチャ。
だが、そのオモチャのような戦闘機が連合の持つ兵器では出来ない無茶な大気圏突入をやってのけたのも
事実だ。
「・・・飛行可能な高度に到達しました、攻撃可能です」
耐熱シャッターが開き、肉眼で敵戦闘機を確認する、
「よし、機銃で威嚇してみるか」
「威嚇は無駄、攻撃して！」
「で、ですが・・・」
ラピスの命令にカズシが戸惑いの色を浮かべる。
「新兵器の輸送が目的かと思ってたけど・・・
アレのパイロットは輸送要員ではなく戦闘要員よ！ 撃墜して！！」
「了、了解！」
ガガガガガッ
機銃が唸り、銃弾が雨のごとく襲いかかるが、
「大丈夫、余裕で振りきれる」
攻撃用輸送機と言えど、所詮は戦闘機の機動性に敵うはずなく見る間に離れていく。
「作戦開始まで・・・２４７秒」
ピピピピッ
「・・・え？ 任務変更？ 追撃しているのは、クリムゾンの攻撃用ＭＳ輸送機」
突然送られてきた指令に素早く目を走らせる。
「スピードから見て・・・モビルスーツは３機ほど搭載している、
任務変更了解しました、これより敵輸送機を撃墜します」
機体を反転させ、輸送機に向けて加速する、
「？ 敵戦闘機、反転してこちらに向かってくる？！」
レーダーを見ていたカズシが目を剥く。
「！ 格納庫のリィオーは使える？」
「は？ はい、いつでも出られますが・・・モビルスーツであの戦闘機と戦うのですか？」
少々混乱気味のカズシを尻目に格納庫に行こうとするラピスにシュンが答える。
敵戦闘機との距離はもうかなりのものとなっており、そう簡単には接近出来ない、対応策を立てるぐらいの余裕
はあった。
「私に向かってくるんだもの」
そう言うと軽く口元をほころばせる、敵の新兵器と戦えるのが嬉しいのだ。
「でしたら、陸戦用のリィオーより空中戦用のエアリーズの方がいいのでは？」
高々度戦闘なのだから陸戦用のリィオーでは動きがとれない、そう考えシュンは言ったのだが、
「エアリーズは形が嫌い、リィオーもあまり好きじゃないけど・・・」
「・・・そ、そうですか・・・」
あまりの答えに一瞬間、思考回路が停止する・・・
「それに私にはリィオーで十分だよ、『ヴァルキリー（戦乙女）』の字は伊達じゃない」
そう言うと後部格納庫に入っていった。
「気をつけて・・・」
【ラピス特尉・・・今まで好き嫌いでどのモビルスーツに乗るか決めていたのか？】
そんなことを考えながらシュンはラピスの後ろ姿を見送った。
「ラピスラズリ、リィオー 出ます」
後部ＭＳハッチから対ＭＳ用バズーカを装備したリィオーが輸送機から飛び出した。
『ラピス特尉、準備が完了次第エアリーズを発進させます』
「了解・・・戦闘機は？」
モニターに視線を走らせると、
「上？！」
空中戦のセオリー通り、輸送機の上方から回り込んで来る敵戦闘機が見えた、確実に輸送機を狙っている。
【スピードから考えて、輸送機は避けきれない】
「そこっ！」
そう判断するとほとんど反射的に照準をつけてトリガーを引く、
ドガガガッ！
「避けた？」
だが至近弾、戦闘機の軌道は輸送機の攻撃コースから外れた、が
「来る！」
輸送機からラピスのリィオーに狙いを変え、翼をビームで包んだ戦闘機が突っ込んでくる、体当たりする気だ、
クォォォ・・・
「くっ！」
その攻撃を寸前でかわす、やはりリィオーでの空中戦は分が悪い。
「でも・・・後ろががら空き！！」
振り返り後ろを見せている戦闘機にもう一発バズーカを放つ、
ドガァ！！
「きゃっ 直撃！？ 左推進システムにトラブル、推力低下・・・落ちる」
ダメージコントロールの為の操作をしながら、少女は相手を甘く見すぎていた自分に気づいた、
【流石はクリムゾン・・・一筋縄ではいかない】
「あっけない・・・これで終わり？」
左エンジン部あたりから煙を出しながら落ちていく戦闘機を見つつ、ラピスはあまりの手応えの無さに驚いていた、
『流石です、ラピス特尉』
後続のエアリーズ２機がラピスのリィオーを挟むように飛んできた、
『特尉、リィオーは回収しますがエアリーズで追いますか？』
エアリーズの１機がＭＳ用の大型パラシュートをリィオーに取り付ける、陸戦用のリィオーは飛行出来ない為、これが無いとそのまま地上に激突してしまう。
「・・・地上で抑える、輸送機に戻ろう」
少し考えてラピスは判断した、エンジンが破壊された以上もうなにも出来ないだろうと、
『ですが、自爆の可能性は？』
その言葉にラピスは軽く首を振り、
「コロニーの人間がここまで来たのよ、大地を踏まずに死ぬ事なんて出来ない・・・そんなものよ」
落下していく戦闘機の中で敵ＭＳが追撃してこないのを見て、少女は軽く笑みを浮かべる、
「追ってこない？ クスッ・・・ こちらをただの戦闘機としか見ていませんね」
少女の手がコクピットの上部に有るレバーを押し込む。
ウィィィィィィ・・・
「え？！ 変形した？」
落ちるしかないと思っていた敵戦闘機はラピスの見ている前で、戦闘機からＭＳにへと変形した。
それは翼を持った人、白を基調としたまるで天使のようなＭＳ。
『ラピス特尉！ あれはいったい？！』
同じく変形を目撃したエアリーズのパイロットが驚嘆の声をあげる、少なくとも連合にはまだ可変型のＭＳは存在
していない。
「・・・知らない、初めて見るモビルスーツ」
【まさか、クリムゾンと連合以外でモビルスーツを造れるトコロがあるなんて】
しかし敵が損傷している事に違いはない、それに引き替えこちらには無傷のエアリーズが２機も有る、
『ラピス特尉 あとはお任せください』
「うん、お願い」
装着したＭＳ用パラシュートを開きラピスは戦闘空域から離脱、後の戦闘はエアリーズにまかせた、
キュィィィィ・・・
クォォォォォ・・・
２機のエアリーズがバーニアを噴かし落ちていく敵ＭＳを追撃する。
『ターゲット、ロック！ 撃て！！』
ガガガガガガッ・・・ ドドドドドドッ ダララララァァァァ・・・
ありったけのロケット弾と機銃弾が降り注ぐ、が
「・・・？！」
損傷らしい損傷が付いていない、ラピスの脳裏に嫌な予感が走る。
【あの装甲強度・・・もしかして？】
ドンッ ドンッ ズガガガガッ ダダダダダダダダダ・・・
ヴィン・・・
されるがまま、攻撃を受けていた敵ＭＳのカメラ・アイに光が灯る。
『う、動いた？！』
『構わん！！ 撃ちまくれ！！』
だが、２機のエアリーズはそれ以上撃つ事は出来なかった。
キュィィィィ・・・
ＭＳが振り向き、手にしていた大型のビーム砲らしきものを構え、
ドゥォォォォォォォ・・・
凄まじいビームの奔流が２機のエアリーズを包み込む、そう貫くのではなく包み込む程のビーム、
『グァァァ・・・』
『わぁぁ・・・』
一瞬で跡形もなく蒸発する２機のエアリーズ。
「・・・後、１機」
少女の瞳が残ったラピスのリィオーに向けられる。
「たった１撃で２機のエアリーズを！？ やるわね」
敵ＭＳの戦闘力に驚愕しながらも、ラピスの瞳は光を増していた、
パシュッ・・・
パラシュートとバズーカを切り離し、敵ＭＳに向かって加速する。
ドゥォォォォォォ・・・
２撃目のビームの奔流が放たれるが、ラピスは寸前でかわしビームサーベルを抜き放つ。
「ハァッ！」
その勢いのまま斬りかかる。
ガッ！
リィオーの全重量をかけた１撃が腕１本で難なく受け止められる。
「！！」
しかしそれを予想していたのかラピスは慌てる事なく、リィオーの機体を敵ＭＳに絡ませ動きを封じると、コクピット
から飛び出しパラシュートを開く。
『ラピス特尉！ ラピス特尉！ 』
携帯無線から心配そうなシュンの声が響く、
「大丈夫、脱出したから 心配かけてゴメン」
『はぁ〜、いつも無茶をなさる・・・たまにはこちらの身にもなってください』
心底安心したシュンの声、
「・・・戦闘分析、どう？」
少し悪かったかな、と思いつつもあえてなにも言わない。
『あ、はい・・・時間が無いので本格的な分析は出来ていませんが、敵モビルスーツのあの装甲強度
・・・ナデシニウム合金製としか考えられません』
「・・・そう、やっぱりアレが、”ナデシコ”！」
強風に煽られながら、ラピスは小さくなっていく２機ＭＳを見下ろした・・・
バシャァァァ・・・
凄まじい水柱を上げて、敵ＭＳとラピスの乗り捨てたリィオーが海に墜落した。
「機体は無事だろうけど、これでパイロットは即死ね」
リィオーが組み付いていた為身動きが取れないまま沈んでいく敵ＭＳ、あの衝撃でバラバラにならないのは流石
だが、中のパイロットは生身の人間、あの衝撃には耐えられないだろう。
『特尉』
「？ なに」
『連合の太平洋第３艦隊の空母が『未登録モビルスーツの捜索を任せろ』と言ってきていますが』
「・・・捜し物はアジアエリアＪ．Ａ．Ｐ．ポイントに沈んでるって伝えて」
カズシの口調が妙に事務的だった理由を知って、ラピスは苦笑を浮かべた。
こちらは敵ＭＳを沈めるのに３機のＭＳと２人の部下を失ったのだ、それなのに横から出てきた空母に持って
いかれるのは、カズシでなくともおもしろくない。
「捜索を任せろ・・・か、手柄を焦る軍はもう終わりかな」
敵ＭＳが沈んだ海域を見つめながらラピスは呟いた・・・
「それより、シュン！」
『は、はい、何ですか特尉？』
「早く回収しに来て！！ ものすごく寒い！」
『了解です・・・』
普通の軍服で海上強風の中、スカイダイビングをしているのだから当たり前だ。
「はぁ〜、やっぱり送ってもらえばよかったかな？」
スペースポートから市街地へと続く道を１人歩きながらアキトは、先程自分が言ったことを後悔し始めていた。
「せっかく迎えの車来てたのに・・・」
・・・・・・・・・・・・・・
『雪谷外務次官、お待ちしておりました外に軍の車を用意しています・・・ムネタケ将軍がお待ちです』
『そいつは困ったな、息子を家まで送らなきゃならんのだが』
『心配ございません、ご子息をお送りする車も準備しております・・・』
『それには及びません、俺・・・じゃない、自分は１人でも大丈夫ですから』
・・・・・・・・・・・・・・
「何であんな事言ったんだろ、軍は嫌いだけど
・・・って、よく考えたら何で歩いてるんだ？ タクシーでも拾えば・・・はぁ」
自分の間抜けさに肩を落としながらもアキトは歩き続けた、ここからならスペースポートに戻るよりも街に向かった
方が近い。
グォォォォォ・・・
「！」
背後からの突き飛ばされるような轟音に振り返ってみると、
「・・・軍用の輸送シャトル、連合軍基地なんかなかったら、ここはもっと良い宇宙港になったのに」
噴射炎を引きながら空を目指して昇っていく、おそらく静止軌道上の軍用衛星への補給物資を運んでいるのだ
ろう。
「ふぅ・・・」
しばらくシャトルを見ていたがやがて、歩き出す。
『地球の人間はコロニーが攻撃してくるなんて、どうして考えるんだ？』
・・・・・・・・・。
今の地球ではごく一般的な考え方、だがアキトには信じられない考え方。
それはアキトが外務次官の養子と言う特殊な環境だからかもしれない、他の人と違ってコロニーの人達と面識が
あるからかもしれない。
今は、一部の例外を除いて（物資の輸送など）コロニー、月、地球の行き来は連合によって禁止されていてお互
いの連絡は取れない。
こんな状況では考えられない噂が流れるのも無理も無い事だろう。
「やめた、やめたっ 俺１人がいくら考えてもどうしようもない、みんなが考えてくれないと」
どうしても暗い方向にしか進まない考えを振り払おうとしたとき、視界の隅で瑠璃色の何かが動いた。
「・・・ん？」
アキトが歩いている歩道の反対側を１人の人が歩いていた、ひどくおぼつかない足取りで。
「女の子？・・・」
アキトがそれを１０代半ばほどの少女だと、視界に入った瑠璃色がその少女の長い髪だとわかったとき、
「え・・・」
少女はゆっくりと倒れ込んだ。
「え・・・・・・、わぁぁぁぁぁ！！」
しばらく硬直した後、アキトは大声を上げて少女のもとに走っていった。
「・・・３機もモビルスーツを墜とされたなんて・・・ラピスらしくないね」
書類を整理しながらマキビ・ハリ特佐はラピスから先程の戦闘報告を受けていた。
『ハーリー、煩い』
「そんな〜、心配して言ってるのに」
ラピスに一蹴され涙目になるハーリー、
『ラピス特尉、それでは報告になりませんよ(^.^;』
見かねた、シュンが横からハーリーに助け舟を出す。
『じゃぁシュン、後お願い』
『あ、ラピス特尉・・・はぁ』
あくびをしつつフレームアウトするラピスをやれやれと言った面もちで見送るシュン、
『大変ですね、ハーリー特佐』
「アハハハ・・・もう馴れました」
力無く笑い、テーブルに倒れ込む。
「じゃぁ、シュン特尉・・・」
『ハッ、戦闘分析から我々が戦ったモビルスーツはナデシニウム合金製でした』
「ナデシニウム・・・って、確か・・・」
『はい、宇宙でしか精製出来ない特殊金属です』
「・・・」
先程とはうって変わって考える顔のハーリー、
『もし、あれがコロニーで造られたものなら・・・』
「１０年前に、ラピスとボクがこのクリムゾンに居たら、こんな事にはならなかったのに・・・」
しばらく考えてから、ハーリーは重い溜息をついた。
『では、あのモビルスーツが”ナデシコ”ですか？』
「それ以外に他には考えられませんから、
連合の宇宙に対してのチェックが甘すぎたんですよ」
『連合の第３艦隊の空母が、あの機体を回収しようとしてますが？』
「それはこちらに任せてもらいましょう、海中探査の特別チームを送るから、ラピスに指揮を取ってもらってくだ
さい」
『ハッ』
「わかっていると思いますけど、今は大事な時ですから余り連合を刺激しないでくださいね」
『はぁ・・・ それはラピス特尉に直接言ってもらわないと、自分にはどうにも』
申し訳なさそうに、シュンが答える。
「そこを何とかしてくださいよ〜、お願いしますシュン特尉」
『善処します・・・では』
複雑な表情でシュンは敬礼すると、通信を切った、上官であるはずのハーリーに泣きつかれているのだ、妙な
気分にもなる。
「はぁ〜 ラピス相変わらずだなぁ・・・」
疲れたようにハーリーが伸びをする。
「マキビ特佐」
秘書らしい兵が時間を告げる、そろそろ連合軍幹部会議が始まる、っと
「わかってます」
溜息を１つ、
【ラピスが墜とされたＭＳの事をお偉方に言われるんだろうな、気が重いよ】
シュンッ・・・
「遅くなりました」
ハーリーが会議室に入った時、既に他の幹部達はそろっておりその中の１人がハーリーが席に着くや否や
嫌味たっぷりに口を開いた。
「マキビ特佐、君の部下が大気圏突入の際にモビルスーツを３機も失ったそうだが」
「はい、それが何か」
しかしハーリーは相手にしない。
「貴様は反乱分子の制圧にモビルスーツを３機も無駄にしたんだぞ！」
その態度が気に入らなかったのか、別の幹部が語尾を荒げる、
「その結果、反乱分子の活動を未然に防ぐことが出来ました」
が、それも相手にしない。
「私はそんなことを言っているのではない！！ 貴様は連合軍の貴重な戦力をなんだと思ってるんだ！！」
「貴重な？」
それまで無表情だったハーリーがその言葉に反応した、正確には言葉に含まれていたニュアンスに、
「貴重な戦力、それは兵士に対してですか？ それともモビルスーツに対してですか？」
「なっ・・・貴様！ 私を愚弄する気か！！」
瞬間湯沸かし器のごとく真っ赤になった幹部が詰め寄る勢いで席を立った、が
「まあまあ、その辺にしておけ、
マキビ特佐、今後もあることだ注意してくれ」
隣に座っていた幹部の１人が、２人の間に入りこの場を収める。
「はい、わかりました」
ハーリーも素直に返事をする。
「さて、本日の議題である『コロニーの連帯阻止』についてだが・・・」
頃合いと見た議長が正面の大型スクリーンに画像を映し会議を始めた、
【連合軍は平和に馴れすぎてしまっている、
これからの時代はボク達が創りましょう、ボクの組織『クリムゾン』が】
会議の様子を眺めながら、ハーリーは心の中でつぶやいた。
「まだ、こんな子供なのに・・・」
アキトは、ベットで穏やかな寝息を立てている少女を見ながらつぶやいた、
あれから慌てて公衆電話まで走って行き、家の車を呼んで少女を家まで運び、医者に来てもらい見てもらったのだ。
「医者の話だと、精密検査の必要があるって事だから、明日にでもちゃんとした病院に連れていって上げよう」
そんなことをつぶやきながら、少女を起こさないように部屋から出ようとした時、壁際に置いてあった少女の荷物
が目に付いた。
【サバイバルキットに高性能通信機、それに光ディスクが数枚・・・
どういう子なんだろう？】
少女の身元を記したものが無いかと、持っていた荷物を調べた時の事を思い出した。
【それにあの髪、地球だとあんなにきれいには伸びない
少なくとも、１年の大半を無重力空間で過ごしていたいと・・・】
幾度か宇宙に出て、コロニー等に知り合いの居るアキトだから気づくことだ。
「！」
と、幾つかのパーツがアキトの中で組み上がった。
コロニーで聞いた、噂
大気圏突入の時に見た、流星
そして、この少女・・・
「フゥ・・・」
軽く頭を振り、その考えをうち消す。
「変な考えはやめておこう、あの子が起きたらわかることだし・・・」
改めて部屋から出ていこうとしたとき、
「ぅ・・・ ぁ？」
気づいたのか少女が声を出した、そして今自分の置かれている状況を確認しようと辺りを見る。
「あっ まだ動いたら駄目だ」
起きあがろうとしている少女を慌てて止める、
「！！」
が、少女は警戒するように身構えた、
「うっ！・・・」
「怪我しているんだから、無茶したら駄目だよ！ ほら、横になって」
しかし痛みでベットの上にうずくまる少女を、アキトは横にした。
「大丈夫、ここには・・・って俺の家なんだけど、ここには君を傷つけようとする人間は居ないから、今はゆっくり
休んで、ね」
そう言って、アキトは優しい笑みを少女に向ける。
「・・・・・・」
ジッとアキトの顔を見ていたが、不意に顔をそむけるとフトンに潜り込んだ、動けないのだから今はどうしようも
無い、そう考えたのだろうか？
顔を背けたとき、赤くなっていたのが気になるが・・・
「俺の名前は雪谷アキト、隣の部屋にいるから何かあったら呼んで・・・？ 寝たの？」
少女はもう寝息を立てていた、怪我をしているのだから仕方ない、そう思ってアキトは静かに部屋から出て
いった。
「・・・・・・」
アキトの足音が聞こえなくなったのを確認してから少女はゆっくりと起きあがる・・・
同日、連合軍直轄ＭＳ工場
「さ〜て、もうすぐ今日のお仕事終了か」
リィオーで見回り警備に就いていた兵士が時計を見てつぶやいた。
「いつもながら無駄に大げさな警備だな」
周りを見ると彼と同じように警備の任に就いているリィオーが数機見える。
しかし、これらが役に立っているかと考えるなら甚だ疑問である、もしこの工場を襲撃するのなら、相手は戦車や
装甲車ではなく人であろう、そうなればＭＳ対人と云う事になり、ＭＳには甚だやりにくい事になる。
もっとも、こんなに大袈裟までに警備しているところを侵入するヤツはいないだろう。
それに、いったい誰が連合の工場を攻撃すると言うのだろうか？ 今の地球でそんなことを考えるヤツはいない。
そんなことを思っていた時、
ドォォォォォォッ！！
「なぁ！！」
工場が轟音と共に爆発した。
グァァァッ！！
次々と爆発する工場群、
「て、敵襲か！？」
先程まであるはず無いと思っていた事が起こり、頭の中が真っ白になる。
ブゥンッ
「！？」
不意に視界の端に細い緑光が見え、
ズシャァ！
彼の乗るリィオーは次の瞬間上下に切り裂かれていた。
その爆炎に照らされ１機のＭＳが現れる、ビームサイズを手にした漆黒の機体が。
「ヘヘッ、こちらリョウコ！ ＭＳ工場メインモータ破壊任務完了！少しやりすぎたけどな」
少しどころか工場はもう壊滅状態だ・・・
「後は、撤収時邪魔するヤツを斬って斬って！ 斬りまくるっ！！」
ドバババババババッ ガガガガガガガッ
グアァンッ！！ バラララララララ・・・
ドンッドンッドンッ バガァァァァン！！
「こ、こちら！ ドーバー基地！！敵の襲撃を受けています！！ 至急応援を！！」
『襲撃だと！？ どこの攻撃だ！！』
「わかりません！！ 敵は・・・ ブッ」
通信室に直撃を受け、通信士官は消滅した。
ガガッガガガガガガガガガッ
リィオーや戦車部隊が反撃しているが、圧倒的な攻撃の前に次々と破壊されていく。
白いＭＳが砲撃の中、ゆっくりと歩いてくる。
「はぁ〜、スペースポートの破壊が目的だったんだけど」
上空から接近してくる戦闘機をマシンキャノンで撃ち墜としながら、パイロットが仕方ないと言った面もちでつぶやく。
「発見された以上、見逃せないわ！ 増援が出てくる前に全てを消してあげる」
次の瞬間、両肩、両足のカバーが開き一斉にマイクロミサイルが放出される、
ズガガガガガッ！！
基地施設がその一撃でほとんど砕け散った、
「戦闘記録００１ 記録者名 エリナ・キンジョウ・ウォン・・・」
記録を取りながらも、生き残ったＭＳや戦闘車両を殲滅していった。
「おい、本当にこの辺りなんだろうな？ 反乱分子のカプセルが落下したと言うのは」
「はッ 間違いありません」
「と言っても、何もないぞ」
辺り一面の砂漠を見渡して、捜索部隊長はリィオーの中で溜息をついた。
「こんな中から、カプセルを捜すなんてなぁ」
「ですね」
隊長のぼやきに部下の１人も同調する。
「やれやれ、とんだ指令を請けたものだ・・・」
だが、そんな彼等を見る無数の目があった。
「取り敢えず虱潰しだ、やるぞ！」
「「「了解」」」
彼等が捜索を開始しようとした時、
ズガガガガガガガガガガガッ
いきなり横合いから無数のビームが襲いかかってきた。
「な、何事だ！！」
「敵襲！！ 敵襲っ ガッ」
瞬時にして２機のリィオーが破壊される。
「囲まれている？ 何故だ？！」
隊長機と残った１機がなんとか砂丘の影に逃げ込む。
「奴等はいったい・・・」
「た、隊長！！」
「どうした！ 何！！」
部下の指さす方向を見ると、
『モビルスーツを降りて投降してください、命まで取ろうとは思いません』
十数機のＭＳとその先頭に立つ白いＭＳ、
「何を・・・ 撃て！！撃って！！」
部下を目の前で殺され黙っていられる筈がない、残った部下と共に一矢報おうと攻撃する。
ドウッ
攻撃を避けるようにＭＳ達は散開し、先頭にいたＭＳがバーニアを噴かし一気に間合いを詰めて、
バキャッ！
両手に構えたヒートショテルを振り下ろし、２機のリィオーを一瞬で破壊する。
「こちらユリカ、敵隊長機を破壊しました・・・
投降してって言ったのに」
リィオーの残骸を見ながら、ユリカは悲しそうにつぶやいた。
煙を上げ、ゆっくりと沈んでいく艦隊。
生き残った戦闘機が空母に向かって、正確には空母の飛行甲板上の敵に向かって攻撃をかける。
『化け物が！ これでも喰らえ！！』
両翼に吊された対地ミサイルが一斉に放たれた。
ドガァァン！ ドガガガッ！！
全弾狙い違わず敵ＭＳに命中し、パイロットが歓声を上げるが、
ウィン・・・ グゴォォォォォォォ
爆煙の中から凄まじい火炎が放たれ、この艦隊最後の戦闘機は爆発した。
「私の名前は 東 舞歌、逃げも隠れもしません、我と思うのならいつでもお相手します」
煙がおさまった後に、無傷の白いＭＳが現れる。
「連合とはこの程度ですか・・・この戦いすぐにケリをつけます」
燃え上がる甲板で彼女はつぶやいた。
アジアエリアＪ．Ａ．Ｐ．ポイント上空、ＭＳ輸送機
「海中探査隊はまだ来ないのか？！」
「後２時間で着くそうだ、カズシそんなに焦っても仕方ないぞ」
苛ついているカズシをシュンがなだめる、
「そうよ、あれはどこにも逃げない」
「ですが、空母の捜索隊が先に見つける可能性が・・・」
後部席から顔を出したラピスにカズシがもっともな心配事をあげるが、
「大丈夫、ここの海溝は深い、連合の空母もそう簡単にあの機体を見つけられないよ」
「そうですが・・・ ！ ラピス特尉まさかそこまで考えて、ここの海溝にあの機体を？」
「さあ・・・それより、おもしろいモノ見せてあげる」
そう言うと、手にしていた写真を２人に見せた。
「これは・・・？」
そこには、戦闘中であろう１機のＭＳが映されていた。
「クリムゾンの偵察機が撮影したもの、どう？ 私達が戦ったあの機体とよく似てるでしょう？」
「！ では、あの機体が２機も！？」
シュンが驚いたように見るが、ラピスは首を横に振る。
「クリムゾンが掌握していたＭＳ工場やスペースポート、私達と同じように落下したカプセルの調査に向かった
部隊が壊滅したそうよ」
「それでは？」
「海に沈んだのを併せて、全部で５機」
「５機！ ５機のナデシコが！？」
カズシの顔が青くなる、
「私達は運がいい、ナデシコを見て生き残っているんだから」
【そして、それを手に入れるチャンスも貰ったのだから】
心の中でつぶやきながら、ラピスは眼下に拡がる海、その底に沈むあのナデシコを観下ろした。
聖コスモス学園
「あ〜ぁ・・・」
学園の中庭で１人の女生徒が、上品そうな外見には似つかわしくない溜息をついた
「あら？ どうしました？」
「せっかく新学期が始まったというのに、ハーリー様がいらっしゃらないなんて、と思いまして」
「クスッ 仕方ありませんわ、ハーリー様は連合軍の幹部の１人なのですから、学園にはそうは、来られません
わ」
「そうだよ、あまり無理を言ってマキビ君を困らせては駄目だよ」
と、その女生徒達の中に１人の上級生が入った。
「まぁ、アキト様！」
女生徒達の顔がパァァっと明るくなる。
「そう言えば、そろそろマキビ君の誕生日だよね」
アキトが思い出したように、女生徒に聞く。
「ええ、そろそろどころか、明日誕生日パーティーですわ」
「私達は参加しますけど、アキト様も参加されのですか？」
「う〜ん、参加したいんだけどね・・・」
その日は都合がつかなくてね、と続けて苦笑いを浮かべた。
明日はちょうど外務次官の秘書としての仕事が入ってしまって抜けられなくなっていた。
「まぁ、それは残念ですわ」
本当に残念そうに女生徒がつぶやく、
「ははっ 仕方ないよ、変わりに君たちが俺の分まで祝ってあげて」
「「「はいっ」」」
女生徒達の元気な声を受けながら、アキトはその場から離れていった。
「ハァ〜、アキト様（ポッ）」
「まぁ、先程までハーリー様って言ってらっしゃったのに」
アキトの背中を熱い視線で見送っていた女生徒にもう１人が、からかい気味に声をかける。
「いいじゃないですか、アキト様もすてきなのですから」
怒ったように反論すると、
「そうですわよね〜、アキト様はステキですわ〜」
もう１人も同調する、そして
「「「アキト様（ポッ）」」」
結局こうなる・・・
ギンッ！
「な、何か今・・・」
「ものすごい殺気みたいなのが・・・」
「・・・気のせいでしょうか？」
３人が訳の判らない冷や汗をかいているとき、正門の方が少し騒がしくなってきた。
「あら？・・・ハーリー様！！」
なんとか冷や汗状態から脱した女生徒の１人が、視線を向けるとハーリー特佐が、久しぶりに学園に登校して
きていた。
「ハーリー様、おはようございます」
「おはようございます、皆さん」
普段のハーリー特佐を知る者なら想像できない、年相応の笑顔でハーリーは挨拶に答えていた。
ワイワイ・・・ ガヤガヤ・・・
「あれ？ 転校生かな」
教室で授業の準備をしていたハーリーは、女教師が１人の少女を連れて入ってきたのを見てそう思った。
【 きれいな人だな 】
それが、その少女に対しての感想だった が同時に、
【どことなく、何かありそうに思える】
とも、思った。
「皆さんお静かに、皆さんに新しいお友達を紹介します、さぁ」
促されて、少女が口を開いた、
「ホシノ・ルリです、初めまして」
感情のこもっていない、そして冷たい印象を与える声。
「そうですね・・・ルリさんはマキビ君の隣に座ってください、何か解らないことがあればマキビ君に聞いてください」
「はい、わかりました」
そう答えると、ルリはハーリーの隣の席につく。
「初めまして、ルリさん」
「・・・」
笑顔を浮かべてハーリーは声をかけたが、ルリは返答の変わりに一瞬冷たい視線で答えた。
「・・・？」
カーン カーン カーン カーン・・・
授業終了の鐘が響き、生徒達が家路に着く中、中庭に面したバルコニーに生徒達が集まっていた。
その中心人物は２人、１人はマキビ・ハリ もう１人は今日１日中無愛想、無表情で過ごし、転校生なのに誰も
近づこうとしなかったホシノ・ルリ。
「ハーリー様、あの人は・・・」
ルリに明日の誕生日パーティーの招待状を渡そうとする、ハーリーをクラスメイトの１人が、
【やめた方がいいのでは？】
と言う視線で見つめた、彼女だけでなく集まったほとんどの生徒がそう言いたそうにハーリーを見ていたが、
それを気にする事なくハーリーはルリに近づいていった。
すぐ近くで、自分の事で生徒が騒いでいるのに全く気にすることなくルリは先程から、誰かを捜すように視線を
中庭に向けていた。
「ルリさん」
「？」
表情を変えることなく、ルリはハーリーに視線を向ける。
「明日、ボクの誕生日パーティーがあるんです、もちろん来てくれますよね」
にっこりと笑って招待状を差し出すと、ルリはそれを受け取った。
「「「「「おおぉぉ」」」」」
まさか受け取るとは思っていなかった生徒達が歓声と拍手をあげるが、
ビリッビリッビリッ・・・ グシャグシャッ
次の瞬間、ルリは受け取った招待状を破り捨てた。
ヒュウゥゥゥ・・・
一陣の風が吹き、破り捨てられた招待状を巻き上げていく。
「な・・・」
あまりの事に呆然とするハーリーの横をルリがすり抜けていく、
「マキビ・ハリ、貴方を殺す・・・」
「！？」
すれ違う瞬間、ハーリーに聞こえるかどうかの声でルリは言い放った。
「・・・彼女はいったい・・・・・・」
後には、更に呆然とするハーリーと生徒達が残された・・・
ｔｏ ｂｅ ｃｏｎｔｉｎｕｅｄ
次回予告
海中に沈んだナデシコを回収するため、連合軍は水中用ＭＳの大部隊を送り込んできた、
だが、クリムゾンのラピスは新型水中用ＭＳ”キャンサー”を送り込み確実にナデシコを捕捉していた。
ルリはその前にナデシコを破壊しなければならない、
しかし、深海の闇にもう一つのナデシコの影が・・・
次回 新機動戦記 ナデシコ Ｗ
第０２話 「死神と呼ばれるナデシコ」
おまけ
「待ってください、アキトさん」
「え？」
下校途中、後ろから呼び止められアキトが振り返ってみると、
「ああっ 君は！」
そこには、昨日道で倒れていたところを助け、今朝にはアキトの家から何も言わずに消えた少女がいた。
「確か・・・え〜と」
「自己紹介まだでしたね、ホシノ・ルリと言います」
「ホシノさんか、君もここの学園の生徒だったんだね」
「ええ、まぁ それからルリでいいですよ」
「そう・・・じゃぁ ルリちゃん、あれから心配したんだよ、いきなりいなくなったんだから」
「すみません・・・少し事情があって・・・」
「聞かない方がいいかな・・・帰り道同じ方向なら一緒に帰ろうか？」
「はい」
ルリはクラスでは見せなかった笑顔をアキトに向けた。
・・・続きませんよ、多分（＾。＾；
でも 続くんですね〜（笑）
管理人っす。
めるう゛ぃるさん！！ 投稿有難ぉぉぉぉ！！
何と、あのナデシコ Ｗの続編・・・じゃないよな（苦笑）
第一話に戻ってますね、はい。
・・・二話が読みたいんですけど〜
ねえ〜〜〜〜〜〜
・・・・さて、催促はこれくらいにしておいて。
いやはや、意外なキャスティングですよね。
前回の話で主人公クラスの配役は知ってましたが。
・・・おい、ハーリー君。
本当にその役で後悔しないんだな？
レディ・アンは一体誰でせう？
その配役によって、ハーリー君の今後が解るな。
・・・（ニヤリ）
でも、流石にルリにアキトの誕生パーティの招待状は破けないか。
・・・ハーリーには躊躇いは無かったけど（爆）
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