和平への道を模索するためには、白鳥さんと秋山さんが頼りです。

秋山さんは、物事をしっかり考える人ですから大丈夫でしょう。

白鳥さんは・・・ま、ミナトさんのために頑張ってくれるでしょうから大丈夫でしょうけど・・・

ヤマダさんと同じような顔つきの人が増えるのって、ちょっとだな・・・

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ Re Try 第22話 『来訪者』を守りぬけ

 

 

 

 

 

 

私達がそれを見つけたのは必然だったのでしょうか・・・

例によってユキナさんの乗ったシャトルです。

今回はミサキさんが回収に向かっています。

『シャトルを発見、これより回収します。』

「了解、メグちゃん、イネスさんに連絡して下さい。」

「はい。」

「ルリちゃんは付近に敵影がないか確認。

ジュン君はエステバリス隊に哨戒をさせて。」

「了解です。」

「判った。」

私は、レーダーを確認します。

「付近に敵影なし。」

「スバル機とイズミ機はアルファ1方面の索敵、ヒカル機とヤマダ機はベータ1方面を索敵。」

4機のエステバリスが発進していきます。

「ミサキ機、着艦します。」

プルセルさんの報告と同時にシャトルとミサキさんのエステバリスはナデシコに回収されました。

「艦内警戒態勢パターンBへ移行。エステバリス隊の索敵終了後

予定通り地球へ向けて発進。」

ユリカさんの命令を受けて、私たちはそれぞれの職務を果たします。

「はてさて、何が出るやら・・・」

プロスさんは心配のようです。

 

 

私たちがシャトルを回収して地球に向かう頃になると、休憩時間になりました。

「ルビィ、私は休憩に入ります。後は頼みます。」

『はい、ごゆっくり。』

「ミナトさん、休憩に行きましょう。」

「判ったわ。じゃぁ、後はよろしく〜。」

「はい、はい。」

ミナトさんはエリナさんと交代します。

「食堂に行こうか?」

ミナトさんがそう言ったときに、イネスさんから通信が入りました。

『ルリちゃん、ミナトさんはそこに居るの?』

「はい、居ますけれど・・・」

『じゃぁ、医務室に一緒に来てちょうだい。』

そう言うと、イネスさんは通信を切りました。

「何だろうね?」

ミナトさんは首を傾げています。

「行ってみれば判りますよ。」

「そうね。」

この軽いノリこそがナデシコのナデシコたる所以でしょう。

私たちは医務室に向かいました。

 

 

 

医務室には、イネスさんとアキトさん、アカツキさん、ユリカさん、プロスさんが居ました。

ユキナさんは・・・ベッドで寝ています。

「来たわね。」

イネスさんが私たちの姿を見て言います。

「どうしたの?」

「これを見てくれないか?」

アカツキさんがユキナさんの身分証明をミナトさんに渡します。

「白鳥ユキナ・・・白鳥?まさか・・・」

「ええ、ミナトさんの話にあった木連軍の士官の名前が白鳥九十九・・・

関係していると思うのですが・・・」

ユリカさんが言います。

「問題は、どうしてあんな所に居たかだ。」

「それに、ユキナさんの荷物の中にこんな物が・・・」

一つは爆弾、そしてもう一つがミナトさん宛の手紙です。

「手紙?」

「一応、検閲する権利が私にはあるのですが、他人の手紙をのぞき見るなんて事

私には出来ませんから。」

「だから、僕達が立会いで呼ばれたのさ。」

ユリカさんとアカツキさんが言います。

「爆発物や薬物などの反応は出ていない。と言うよりこれは・・・」

ラブレター・・・ですね。」

アキトさんの言葉を私が受け継ぎます。

「別に声に出して読まなくてもいいから、開けてみてください。」

プロスさんに促されてミナトさんは手紙の封をきります。

中には2枚の紙があり、1枚目をミナトさんが目で読みます。

その紙を読み終わると、2枚目に続きます。

ミナトさんの顔が赤いものから段々と青ざめていきます。

「そ、そんな・・・」

ミナトさんは黙って私にその手紙を渡しました。

アキトさんは目で私に合図しました。読んでくれ・・・と言う事でしょうね。

私は手紙に目を向けます。白鳥さん・・・中々達筆ですね。

私は白鳥さんからの手紙を読み始めました。

 

 

親愛なるハルカ=ミナト様

突然このような手紙を差し上げた非礼をお許しください。

ミナトさんと別れた後、一人で色々と考えてみました。

木連のこと、地球の事、ミナトさんの事。それぞれが私にどのように影響しているか。

私は、木連の軍人です。軍人は職務に忠実であるべきだと信じています。

ですが、一人の人間として考えたら、私にとってミナトさんは大きな存在になっています。

あなた方と戦いたくありません。それが私の気持ちであります。

特に、ミナトさん。あなたとは、敵同士であっても戦えないのです。

軍人としては失格であるのかもしれませんが、一人の人間として考えた時

あなたが一番大切な人だと気付きました。何時の間にかあなたの事を想いうかべています。

平和になった世界であなたと共に暮らす事が出来たらどんなに幸せかと思っています。

 

一枚目はここで終わっています。と言うより、いきなりプロポーズですか?白鳥さん。

皆、ミナトさんを見ていますが、ミナトさんはまだ青い顔をしたままです。

私は続けて2枚目を読み始めました。

 

『先日、ルリさんが三朗太に渡した資料は、我々にとって衝撃的でも有りました。

草壁閣下の下で働いてきた我々は俄かに信じがたく、元一朗に調べてもらったところ、

事実である事が判明しました。

調べた元一朗は最初、草壁閣下の疑いを晴らすために調べたようですが、

調べれば調べるほど、閣下の疑いが疑惑から確信に移りました。

元一朗も源八郎も和平へ向けて動き出そうとしています。

ですが、閣下の下には暗殺に長けた人物が居るので、

私たちだけならともかく、妹のユキナは守り通したいのです。

個人的な申し出で大変恐縮ではありますが、ユキナをナデシコで保護していただきたいと思います。

源八郎の話で、あなた方は信頼に足る人たちだと信じています。

和平は、私たちの命に代えても実現したいと思っています。

その為には決起する事もやむを得ないと考えてる次第です。

どうかユキナの事をよろしくお願いします。

ミナトさんに再び会える日を信じて。

                       白鳥 九十九』

 

私がその手紙を読み終えると、皆黙っていました。

「クーデターを起こすつもりですな。」

プロスさんが冷静に言います。

ユリカさんは何事か思案しています。やがて、

「ミナトさん、白鳥ユキナちゃんをミナトさんに監視してもらいます。

それから、もう一人はミサキさんが適任でしょう。」

「そうですなぁ。一応スパイと言う以上、その程度は必要でしょうな。」

ユリカさんの言葉を受けてプロスさんが言います。

「話はまとまったかしら?」

イネスさんが言います。

「ええ、この子が目覚めるまでここに居ても良いかしら?」

ミナトさんがイネスさんに頼んでいます。

「ええ、良いわよ。でも、その必要は無いみたいだけれど。」

そうイネスさんが言うとユキナさんは目を覚ましました。

「う、う〜ん・・・ここは・・・」

「機動戦艦ナデシコの医務室よ。どうしてあんな所に居たの?」

イネスさん・・・演技しすぎですよ。

「どうして・・・う〜、頭が痛い・・・」

「ひょっとして、記憶喪失ですか?」

私はユキナさんに言います。

「そうみたい。」

ユキナさん、自分で記憶喪失なんて事を知っている事自体が怪しいんですけれど・・・

他の皆さんも呆れ顔をしていますけれどね。

「え〜っと、白鳥ユキナさん。ああ、規則だから一応持ち物検査はさせてもらったわ。」

イネスさんは身分証明書とポシェットを振り回しています。

ユキナさんはその姿を見て露骨に反応します。

「ダ、ダメ〜!」

「あら、どうして?」

イネスさん・・・意地悪ですね・・・

「あ、あの〜・・・お姉さんも、判って欲しいな〜なんて・・・」

「ふぅん。」

いきなりダッシュして隅のほうに逃げるユキナさん。

「ひょっとして、バレバレ?」

ユキナさん・・・ここはきちんと指摘しておいたほうがいいのかな?

「わかったわ、これは返してあげる。」

「あ、ありがとう・・・」

「でも、爆弾は処分させてもらったから。」

イネスさんがそう言うとユキナさんの体がピシリと固まります。

「あ、言い忘れていたけれど・・・ここにいるのはハルカ=ミナト。

将来はあなたのお義姉様よ。」

イネスさんがそう言うと、ミナトさんは頬を紅くさせています。

「それじゃ、軽く紹介するわ。私はイネス=フレサンジュ。

ナデシコに置いて医療班並びに科学班担当よ。」

「私は、ミスマル=ユリカ。ナデシコの艦長さんです。」

「私、プロスペクタ―と申します。あ、これ名刺です。」

あくまでも営業スマイルを浮かべるプロスさん。

プロスさんの本名って一体どんな名前なんでしょうね?

意外にも普通の名前だったりして・・・ヤマダとかサトウとか・・・

「僕は、アカツキ=ナガレ。パイロットをやっている。」

アカツキさん・・・意味も無く歯を光らせるのは止めてください。

ほら・・・ユキナさんが胡散臭そうな目で見ているじゃないですか。

「テンカワ=アキトだ。」

「ホシノ=ルリ、オペレーターです。将来はテンカワ=ルリになります。」

「ちょっとルリちゃん!何よそれ!私がテンカワ=ユリカになるんだから!」

「いいえ、艦長はミスマル=ユリカのままです。それに、アオイさんの気持ちを考えた事あるんですか!」

「ジュン君?ジュン君は大切なお友達だよ?」

どこかでジュンさんの叫びが聞こえてきそうです。

「ま、まぁまぁ・・・ここで言い合うことは無いでしょう。」

プロスさんが私とユリカさんを止めに入ります。

「私は、愛人で良いのに・・・」

イネスさん・・・混ぜ返さないで下さい・・・

「イネスさん、まだそんなこと言っているんですか?

アキトさんにそんな甲斐性はありません!

「ルリちゃん・・・」

「ルリルリ・・・」

あ・・・アキトさんが隅での字を書いています。

「そ、そう言う意味じゃなくて・・・その・・・浮気性・・・じゃなくて・・・」

私は慌ててアキトさんの側に行きます。

ああ、どういったら良いんでしょう?

「あ、あの〜・・・イマイチ状況がつかめないんだけどな〜。」

ユキナさんがようやく復活します。

「駄目だよ、自爆覚悟で来るなんて。」

ミナトさんがユキナさんに優しく言います。

「さ、触らないで!」

ユキナさんの頭をなでようとしたミナトさんの手が振り払われます。

「だ、大体・・・お兄ちゃんの何処が好きになったのよ!」

「くすっ、やっぱり記憶喪失はウソだったんだ。」

「う・・・」

ミナトさんの指摘に言葉を詰まらせるユキナさん。

ミナトさんは少し考える振りをして、

「う〜ん・・・あなたみたいな妹さんが居るところ・・・かな?」

「そんなのふざけてる!」

ユキナさんが立ち上がって言います。

「ふざけてない、ふざけてない。お兄ちゃんの為なんでしょう?

こんなところまで一人で来たのは。」

ミナトさんがそう言うとユキナさんはうつむきました。

プシュ・・・

ミサキさんですね。長い髪をポニーテールにしていますね。

「お呼びですか?艦長?」

「ミサキさんにはミナトさんと一緒に、この白鳥ユキナちゃんの護衛・・・じゃなくて監視をお願いします。」

「監視・・・ですか?」

ユリカさんの言葉を疑問に思うミサキさん。

「監視するからには監視対象の命を最優先で守る必要がありますよ。」

プロスさんが言います。

「ああ、そう言うことですか。不詳ナグモ=ミサキ、ハルカ=ミナトと白鳥ユキナの監視をします。」

わざとらしい敬礼ですが、頼もしく感じます。

「じゃあ、ここはミサキ君たちに任せて、僕らは行こうか。」

「そうですね。」

私たちは医務室を後にしました。

ユキナさん、ミナトさん、ミサキさん、イネスさんを残して・・・

 

 

 

地球に降りたら何をしましょうか・・・アキトさんとショッピングに行くのも良いですね。

私がそんな事を考えていた時の事でした。

不意にアカツキさんから呼び出しを受けました。

珍しい事もあるものです。

私は、アカツキさんの部屋まで行きました。部屋の中にはアカツキさんとアキトさんがいます。

「アキトさんもアカツキさんに呼ばれたんですか?」

「ああ、さっきの話を二人で話してたんだ。」

「木連の事ですね・・・白鳥さん達は本当に和平をするつもりがあるのでしょうか?」

多分、白鳥さんはそのつもりでしょうが、月臣さんはよくわかりません。

「そこで、俺が直接白鳥達の所に行こうと思うんだ。」

え?アキトさん・・・今何て言いましたか?

私はアキトさんを見ます。アキトさんは何時もと同じ優しい笑顔で私を見ています。

「ルリ、済まないが一ヶ月間向こうに行って来るつもりだ。」

「出張・・・ですね。すると、アキトさんは単身赴任ですか。」

「お、上手い事言うねぇ。確かに、木連まで一人で出張だから単身赴任だ。」

アカツキさんが笑っています。

「でも良いんですか?ネルガルは遺跡の独占が目的だったのでは?」

「ドクターに遺跡に関する調査報告を受け取ったんだ。」

アカツキさんは調査報告書を渡してくれます。

調査報告書には、遺跡に関する基本的な事から遺跡にイメージを送るために必要なナビゲーターやナビゲーターのイメージを

遺跡に正確に伝える人間翻訳機の事まで書かれていました。もちろん、遺跡に取り込まれる事を前提としている事も・・・

「ああ、その報告書はすぐに焼却処分するから。」

アカツキさんは遺伝子操作によるマシンチャイルドの実験も中止しているそうですから

遺跡の事も完全にあきらめたと言うより固執する必要が無くなった・・・と言う事でしょうか。

「何時・・・出発するんですか?」

「2時間後・・・ナデシコが地球に着いてからだ。」

アキトさんが言います。

「・・・判りました・・・気を付けて・・・」

私の頬を涙が流れます。

アキトさんはそっと涙を拭いてくれます。

「ルリ、これからアカツキは芝居をする。上手くフォローしてやってくれ。」

「芝居?」

「ああ、地球のゴミをあぶりだすんだ。」

私は、アキトさんから話を聞き出します。そして・・・

「考えたのはアキトさんですか?それともアカツキさん?」

私が呆れ顔で問い掛けます。

「二人で考えたんだ。こんな事をすると、エリナ君にまた仕事を押し付けられそうだけどね。」

「でも、随分と徹底するんですね。」

「奴らの目を誤魔化すためだ。この事を知っているのは他にプロスさんだけだ。」

アキトさんが言います。そう言えば、ミナトさんにミサキさんをつけた理由がこれでわかりました。

「その為の一ヶ月・・・そう言うことですか。」

「ああ、必ず奴らは動くだろうからな。」

「それにしても、悪人・・・ですね。」

二人を見て言います。

こんな事を平気で容認しているから私も策士などと呼ばれているんでしょうか?

 

 

 

 

地球まで後少し・・・

アキトさんと一緒に居られるのも後少し・・・

地球に到着するとアキトさんは行ってしまう・・・

私は、アキトさんの荷物を整理しています。

アキトさんは、自分でやるから良いよと言っていたのですが

私が無理にお願いしてアキトさんの手伝いをしています。

こうでもしていないと・・・私・・・

「ルリ・・・寂しい思いをさせるかもしれないが・・・我慢してくれ。」

突然、アキトさんが後ろから私を抱きしめてくれます。

「アキト・・・さん・・・」

駄目・・・私の目から涙がこぼれ落ちそうになっています・・・

アキトさんを笑顔で送らなくては・・・

「アキトさん・・・気を付けて下さいね・・・」

「ああ、ひょっとしたら奴らは木連に戻っているかもしれないからな。」

北辰・・・あの人だけは私たちは許せません。

アキトさんに心の傷を負わせた張本人・・・

私たちは時間が来るまでお互いの温もりを感じていました。

何時までも・・・

 

 

 

ミナトさんとユキナさんって何だか姉妹って感じですよね。

そう言えば以前は私を含めて美人3姉妹って言っていましたが、まんざらでも有りませんね。

ユキナさんはその明るい性格で皆を元気付けていましたし、ジュンさんとの関係も気になります。

ジュンさんとユキナさんの関係って親友同士みたいな感じがありますね。

ユキナさんは何度もジュンさんに電話をかけてきていましたし、ジュンさんも嫌がっているわりには

ちゃんと相手をしていましたよね。まぁ、ジュンさんの性格がそうさせているのでしょうけれどね。

ひょっとして、ジュンさんってM属性?

そう言えば、ミナトさんにくっついているユキナさんはちょっと不満気な様子です。

まぁ、自分の肉親を取られるんですから複雑なんでしょうね。

「まもなく、目的地のサセボドックに到着します。」

メグミさんの報告で皆の表情に安堵感が生まれます。

そろそろですね・・・

びぃー!びぃー!

オモイカネの警報音で、ブリッジは一瞬で緊張感あふれる空気に変ります。

「地球連合所属の艦隊が本艦を取り囲んでいます。」

「お仲間かぁ。」

私の報告にメグミさんがホッとしたように言います。

「いえ、戦闘態勢を取っています。」

艦隊は全てクリムゾン製の戦艦ですね。全部で18隻・・・

「如何して私たちを攻撃するの?」

『それは、秩序を守るためだ!』

いきなりスクリーンに、むさくるしい男が現れます。

「どう言うことです?」

ユリカさんが尋ねています。

『我々は、木星蜥蜴の奴らを許せない!』

「でも、相手は同じ人類ですよ!」

プルセルさんが言います。

『知っている。我々の戦っている相手が同じ人類だと言う事もな!

だが、奴らは侵略者だ!和平などもってのほかだ!』

「ユリカ、まずい事になっている。軍のトップが、それも和平推進派の全てが軟禁、若しくは投獄されている。」

ジュンさんが言います。ウィンドウの片隅にはクーデターを伝えるニュースが流れています。

「え、じゃぁお父様は?」

『ミスマル提督は我々の言う事を聞いてくれなかったのでな。少々手荒なマネをせざるを得なかった。』

私は黙って成り行きを聞いています。

『もちろん、提督は生きていらっしゃる。その代わりと言っては何だが、木星の娘をこちらに引き渡して欲しい。』

「そんな事出来ません!」

ユリカさんが叫んでいます。ユキナさんはミナトさんに抱かれています。

『では、どうするね?あくまでも抵抗すると言うのであれば、ミスマル提督も残念な事になると思うのだが・・・』

嫌な男ですね・・・人質をとって交渉するなんて・・・

ユリカさんは意を決したように

「ルリちゃん!グラビティブラスト発射準備!」

『ち、父親がどうなっても良いのか!』

「お父様も軍人です。判ってくれます!」

ユリカさんは毅然とした態度で言います。

「グラビティブラスト発射準備完了。いつでも撃てます。」

「撃てぇ!」

ユリカさんが言ったその直後に・・・相転移エンジンが停止してしまいました。

「え?何?どうしたの?」

「大丈夫、相転移エンジンが停止したからと言ってすぐに落ちるわけじゃない。そう言う設計になっているのだからね。」

アカツキさんがマスターキーを持って言います。

「どう言うこと?何故アカツキさんがマスターキーを抜けるの?」

ユリカさんが言います。

「マスターキーを抜けるのは、ナデシコの艦長とネルガルの会長のみ・・・そう言うことさ。」

「え?でも・・・」

ユリカさんはまだ頭が混乱しているようです。

「僕がそのネルガルの会長と言う事さ。」

ええ〜!

ユリカさんは驚いています・・・が

「はいはい。」

「なんだ、やっぱりそうか。」

「見え見えよね〜。」

ジュンさん、メグミさん、ミナトさんが言います。

「ひょっとして・・・バレバレ?」

『バレバレですよ。元大関スケコマシのアカツキさん。』

セイヤさんまで・・・

「ま、ここはミスマル提督の命が掛かっているんだ。おとなしく従おうじゃないか。」

『アカツキ会長、私がそちらに伺います。』

結局、自分の名前も名乗らないまま、その男は通信を切りました。

「ユキナちゃんをどうするつもり?」

ミナトさんがアカツキさんを睨んでいます。

「しょうがないだろう、ああでもしないと奴らはナデシコを攻撃していたよ。

さすがに、あの数を相手するにはナデシコにとってちょっと辛いものがあるからねぇ。

それに、艦長の身内が人質にとられているんだ。恐らく、他の皆も親兄弟を人質にとられている可能性がある。」

その言葉でメグミさん達は、ようやく事の重大性に気が付いたようです。

厄介物とは言え、軍にとってナデシコは脅威そのものです。

たとえ人質をとってでも、クーデターを起こした人たちは

私たちを無力化しようとしているのでしょう。

「これからどうなるのかな?」

メグミさんは不安げに言います。

「ナデシコに乗っている人は全て下ろされるだろう。

特に、ブリッジ要員やパイロットは。」

アカツキさんが言います。

「我々も、失業ですか。」

プロスさんが言います。いつも通りの表情で・・・

クーデター派にとってネルガルは敵みたいなものでしょうから・・・

恐らく会社自体の存続は無理でしょうね。

「そうなるかな?すまないね、エリナ君・・・最後まで駄目な会長で。」

「いえ・・・そんな事は・・・」

「ミナトさん・・・逃げてください・・・」

ユリカさんが言います。

「そうね、そうした方が良いわ。」

「でも・・・」

ミナトさんが困った顔をしています。

「ミナトさん、私達なら大丈夫です。こう見えても私、結構しぶといんですよ。」

私はミナトさんに笑顔で言います。

「脱出路は私とルビィが作ります。ミナトさんとユキナさんは、ミサキさんと逃げてください。」

『俺達も手伝うぜ。』

いきなり通信にヤマダさんの顔が現れます。

「お、お兄ちゃん?」

「いえ、あれはパイロットのヤマダ=ジロウ君よ。そう言えばお兄さんにそっくりね。」

ユキナさんの言葉を受けて、ミナトさんが説明しています。

何処か遠くで、説明を取られて悔しがっている白衣の女性の存在を感じますが、放っておきましょう。

「そうと決まれば、」

「早く逃げるんだ。」

プロスさんとゴートさんも言います。

「早くして、こっちの準備は出来てるわ。」

ミサキさんがブリッジに入ってきます。

戦闘服を着込んでいますね。しかも、市街迷彩服です。

「セイヤさん、これからミナトさん達がそっちに向かいます。

ヒナギクの発進をお願いします。」

『マニュアルでか?』

ナデシコはオモイカネによる自動化が進んでいるため、必要最小限の人員で動かす事が出来ます。

ですが、オモイカネの機能がほとんど停止している状態ではエステバリスやヒナギクを発進させる事が出来ません。

「はい、お願いします。」

『班長、エステならともかくヒナギクをマニュアルで発進させるなんて無理ですよ。』

『馬鹿野郎!何時だってスパナ一本有れば、どうにかするってのが整備員魂だろうが!』

『班長・・・』

『俺達が必要とされているんだ!判ったらとっとと掛かる!』

『判りました!何とかして見せます!』

『おう!整備員魂見せてやろうぜ!』

ホント、頼もしいですね。

「じゃあ、僕らは時間を稼ぐよ。」

「頼みます、アカツキさん。」

アカツキさんやユリカさん達はブリッジを出て行きました。

「じゃぁ、ルリルリも気をつけてね。」

ミナトさんが言います。

「ええ、ミナトさんも。」

「行きますよ。」

ミサキさんがプルセルさんとメグミさんを誘導しながら言います。

ブリッジには私一人が残されました。ルビィはウリバタケさんの部屋に隠れてもらいました。

「ルビィ、これからアカツキさんの合図でハッキングを仕掛けます。

その後10分間ほどあの艦隊の目と耳を奪ってください。」

私はルビィと共にハッキング準備に入ります。

艦内の各所をチェック・・・軍の人たちは後部格納庫から入ってきますね。

ミサキさん達は・・・ヒナギクまでたどり着いたようです。

アカツキさんは・・・ユリカさんたちと一緒に貴賓室に居ます。

プロスさんが軍の人たちをエスコートしていますね。

さすがにプロスさんです。皆の脱出ルートを避けて案内しています。

時々監視カメラのほうをチラチラと見ています。

セイヤさん達は・・・さすがです。あの短い間に発進準備を整えちゃいました。

『ルリ、本当に大丈夫だな?』

「ええ、アキトさんも気を付けて・・・」

『ああ』

短い通信でしたが、私にはそれだけで十分です・・・

さて、貴賓室の様子は・・・

『会長・・・木星の娘は何処ですかな?』

『いやぁ、なにぶん女の子だからねぇ・・・準備に手間取ってるのかい?』

『そのようですね。』

ユリカさんがアカツキさんの軽口に付き合っています。

軍の人は明らかに不機嫌な顔をしています。

『無駄な事はしないほうが良いぞ。いかにナデシコと言えど、相転移エンジンを停止した状態では

我々に敵わないだろう。今ごろミスマル提督も、不自由な思いをしていなければ良いが・・・』

尊大な口調で言います。ホントに嫌な男ですね。

『ああ、そうだ・・・エリナ君、お茶を用意していなかったねぇ。』

来ました、私たちが密かに取り決めていた暗号です。

『そうでした、お茶には茶菓子がつき物ですわ。』

エリナさんもたいそうな役者ぶりです。

『すぐに用意したまえ。玉露を煎れるんだよ。』

そう言うと、アカツキさんがチラリと監視カメラのほうを見ます。

作戦スタートですね。

「ルビィ、作戦開始です。作戦後は自閉モードで待機。私の暗号で再起動開始です。」

『了解。お気をつけて。』

そう言うと、ルビィは全能力を開放して艦隊のハッキングを開始します。

と言っても、マスターキーを抜かれた状態では3割の力も出す事が出来ませんね。

私は、貴賓室の通信を妨害。ついでに重力制御を操作して0Gにします。

『おや、重力制御がおかしくなってるんじゃないかい?』

『そうですなぁ、マスターキーを抜いたので不安定になっているのでしょう。』

プロスさんが惚けて言います。

『貴様ら!何とかしろ!』

軍の人は突然の無重力状態に戸惑っています。デスクワーク中心なんでしょうか?

アカツキさん達は器用に振舞っています。

『何とかと言っても、マスターキーは抜いてますよ。』

『そうそう、暫くしたら落ち着くんじゃないの?』

ジュンさんとユリカさんが軍の人をなだめています。

もう暫くこうしていてもらいましょう。

カズマさんとアヤさんは、ラピスとユウタを連れて無事脱出していきました。

ヒナギクもミサキさんの護衛で無事発進。リョーコさん、ヒカルさん、イズミさん、イツキさん、ヤマダさんが

艦隊のブリッジをかすめるように曲芸飛行をしています。

後少し・・・格納庫ではブラックサレナが、高機動状態で待機しています。

「ルビィ、全てのセンサーをカット!アキトさんが跳びます。」

『了解。』

艦隊のセンサー全てにノイズが走ります。マスターキーを抜いた状態で、ハッキングを掛ける事は

相当の負担です。その為、センサーを全てカットする時間はほんの一瞬です。

「アキトさん!」

『ああ。』

その一瞬の間で、アキトさんはジャンプしました。木連に向かって・・・

「さて、私もそろそろ行きますか・・・と、その前に・・・」

私は貴賓室の重力制御を正常に戻します。

もちろん、タイミングを計って軍の人だけ、一番天井に居る時に戻しましたから・・・

『ぐわぁ!』

『あ、落ちちゃいましたね。』

『大丈夫?』

結構冷静ですね、ユリカさんとエリナさん・・・

これで結構時間が稼げるでしょう。私はナデシコの中を走ります。目的地はあそこ・・・

「気をつけろ!外見は少女だが、相手は改造人間だ!どんな力を持っているか判らん!」

外見は少女、改造人間?私の事?

私はとっさに走り出します。いくら私でも銃を持った相手に立ち向かえる事なんて出来ませんし・・・

とにかく私は走ります。途中で防火シャッターや自動販売機の缶がガラガラとこぼれ落ちていきます。

《ルリ、大丈夫?》

オモイカネのウィンドウが開きます。

ありがとう、オモイカネ・・・皆も無事に脱出したようですね。

アカツキさん、後は任せます・・・

 

 

 


 

ルリ:ああっ!単身赴任の夫を思う妻の気持ち・・・最高です!

作者:まぁ、アキト君にそんな浮気性なんて無いからね。

ルリ:ええ、そうですよ。

作者:ただの人間磁石女性限定バージョンだからね。

ルリ:はっ・・・そうでした・・・

作者:本人にその気が無くても無意識のうちに魅了しているだろうね。

ルリ:・・・アキトさんの特殊能力に魅了Lv.10と言うのがあるのでしょうか・・・

作者:Lv.20くらい行っているんじゃないの?

ルリ:ひ、否定できない・・・

作者:と言うわけで次回 機動戦艦ナデシコ Re Try 第23話 『故郷』と呼べる場所 です。

ルリ:猫スーツを着るんですか?

作者:そうだね・・・ポン太くんスーツなんてどうだい?

ルリ:なんです?それは・・・

 

謎のハリセン娘:どーしたの?暗い顔して・・・

謎の戦争ボケ男:マイアミ市警に売った特殊スーツが全部返品されたのだ。

謎のハリセン娘:ふぅん、まぁ元気出しなさいよ。そうだ、今晩ご飯食べに来る?

謎の戦争ボケ男:ああ、では1900時に行く。

 

ルリ:暗視装置に防弾機能など色々取り揃えている、ちょっとお間抜けなスーツですね。

作者:変なボイスチェンジャー機能もついているぞ。

ルリ:そんなのやらないで下さいね。

作者:ふもっふ。

 

―アキト君の特殊能力に魅了の特殊能力・・・あるかも・・・

 

 

 

代理人の感想

ああ、シラケ鳥が飛んで行く。

アキト君みじめみじめ〜。

 

 

>改造人間

大丈夫、この話に出てくるルリのスペックなら

ショッカーに改造されたと言っても信じてもらえます(核爆)。

もし軍人達がルリの行動を逐一把握していたら真っ先に拘束されていたでしょう(笑)。