<12月24日 曇り>
アキト君が、大門高校にやってきてすでに2週間・・・
御剣や草gはアキト君にKファイトを挑むが、アキト君は二人に対して
本気を出している雰囲気ではなかった。
アキト君の技は基本的に、相手を殺す技が多かったので、どうしても本気を出せないようだ。
最近では、その技に磨きをかける為、姫川さんのお爺さんが開いている、姫川道場に顔を出しているようだ。
もっとも、今では姫川 雷蔵さんのお気に入りになり、毎日鍛えられているらしい。
・・・人間凶器に気に入られると大変だろう。
俺はクリスマスイブに、あまり良い思い出が無い。
放浪中はその日の生活で手一杯だったし、去年のクリスマスイブは
ゲイツと言う身長3mの化物と闘っていた。・・・未だに謎なんだが、何を食ったら3mまで身長が伸びたんだろう・・・
俺としては放射能が原因だと思っている。
しかし、今年は温かいクリスマスを楽しめそうだ。
そう言えば、御剣たちがパーティを道場でやりたいと言っていた。
・・・準備は・・・俺がやるんだろうな・・・やっぱり・・・
機動戦艦ナデシコ Re Try 第14話 『熱血アニメ』でいこう Cパート
アキトが大門高校での学校生活をはじめて2週間・・・
戦争により失われた学生生活を楽しんで・・・いなかった。
アキトに恋人が居ると発覚しても、それはどうやら遠距離恋愛らしいと
勝手に判断した周りの女子生徒たちは、虎視眈々とアキトを狙っていた。
静馬や涼子とのKファイトで、互角の戦い・・・アキトは全力を出せなかっただけだが・・・を演じ、
毎日のように持参する弁当のおかずは料理人のプライドからか、慶一郎が作る料理と遜色なく、
なにより、女性に優しい事と、その笑顔により多くの女性陣を虜にしていった。
もちろん、女子生徒の中にはクリスマスを素敵な男性・・・この場合、アキトであるが・・・と過ごしたいと言う願望が現れているものもいた。
「ホンマ、天性の女ったらしやな・・・」
「前、居たところでも同じ境遇だったらしいぞ。」
静馬と慶一郎はアキトが女性陣に囲まれて困惑している顔を見ながら言う。
「あら、アキト君は結構いい男だから妬いているの?」
「フェ・・・飛鈴!何でここに居るんだ!」
慶一郎は声を掛けてきた飛鈴に尋ねる。
「校長先生に頼んだら、教育実習の続きをやっても良いって。」
「なんや、姉ちゃんも必死やな。」
「・・・これ以上、夫を犯罪者にしていられないから。」
最近の鬼塚家では、毎日のように飛鈴と美雪、時には菱沼 奈々子を加えた慶一郎争奪戦が繰り広げられていた。
今のところ三すくみの状態ではあるが、飛鈴の帰国が迫っている事もあり、かなりあせっていた。
無論、奈々子にもあせりはあった。
今まで、職場が同じと言う事もあり、飛鈴より長く慶一郎と一緒に居られると思っていたのだが
飛鈴の来日、美雪の参戦と自分を取り巻く環境が、大きく変わっていることを認識していた。
そんな中、アキトはようやく女性陣から開放されて慶一郎のところまでやってきた。
「モテモテやな・・・」
静馬の棘のある言葉がアキトを貫く。
「そんな事・・・静馬だってもてるんだろう?」
「このバカに興味を持つ女の子なんて、今世紀中には現れないわよ。」
横から涼子が口をはさむ。
「ハンッ!お前みたいなデカ女、誰が好きになるっちゅうんじゃ!」
「何ですって!この赤ザル!」
何時ものように口喧嘩が始まったのでアキトは二人を放っておき、慶一郎に
「結局、今日のパーティに皆来る事になりまして・・・」
「・・・やっぱりな。それで?準備は手伝ってくれるんだろう?」
「ええ。結城さんと飛鈴さん、あと美雪ちゃんとその友達が手伝ってくれるって言ってました。」
「ま、妥当なところですね。」
大作の言葉に涼子はキッと大作を睨みつける。
涼子の料理は当たり外れが多く、日本食・・・煮物系以外の焼き魚など・・・しか作れず、
奈々子にいたっては料理の基本的な部分が出来ないと言うありさまだ。
「ま、まぁ会場の設営とかを涼子さんには頼んでいるから。」
アキトが慌ててフォローする。
「そんな所やろ。この女が出来る事っちゅうたら、会場の飾り付けくらいのもんや。」
「なんですってぇ!」
「あ、済まん・・・会場の掃除やったな。」
「こっ・・・このぉ!」
涼子の怒りゲージがMAXまではね上がる・・・
そのまま、涼子は問答無用で静馬に襲い掛かった。
もちろん、静馬も心得ているらしくその攻撃を避けながら、廊下に逃げていく。
「・・・まぁ・・・ケンカするほど仲がいいって言うからな・・・」
アキトの言葉に周囲の人間はその通りだと頷いた。
その日の放課後・・・鬼塚家の道場ではクリスマスパーティの準備が進められていた。
台所では慶一郎とアキトを中心に料理が作られていた。
結城 ひとみや飛鈴、美雪などは一応手伝いとして台所にやってきてはいたが
二人の料理人の息はピッタリで、入り込む隙など無かった。
その為、アキトと慶一郎が調理担当、飛鈴や美雪は盛り付け担当になっていた。
「涼子、アレなら出来るんやないか?」
「しつこいわねぇ!」
と言う周囲の喧騒もそっちのけでアキトと慶一郎は料理を作っていた。
普段は史上最強の男、人間サイズの怪獣、素手でガン○ムと戦えると言われ
その巨大な体躯からは想像できない姿ではある。
想像できないと言えば、アキトが三者面談の時に慶一郎の姿を見た時の事だ。
普段はアーミーパンツにTシャツ、革ジャンと言う姿でその眼は
数多くの修羅場を潜り抜けてきた格闘家の鋭い眼であったが
その日は、スーツ姿に髪を7・3に分け、伊達メガネをかけた
まるでスーパーマンの映画に出てくるクラーク=ケントを髣髴させる
「教師のコスプレ」
と言う評価が一番似合う姿だった。
アキトは、自分の目がおかしくなったのかと何度も目をこすり
それが慶一郎であると認識すると、今度は腹を抱えて笑い始める。
アキトが此処まで笑ったのは、人生初めてではないかと思うくらい笑った。
それを見た慶一郎はムッとし、その夜の鍛錬は一方的なものになったのだが・・・
「慶一郎さん、皆もう集まってる・・・」
「ああ、美雪ちゃん。もう少ししたら行くからそこのテーブルに並んでいる奴持っていってくれないか。」
「はい。」
美雪は沙羅やひとみと共にテーブルの上に並んでいる料理を道場に運び始めた。
「じゃぁ、私は・・・」
飛鈴が慶一郎にピッタリと寄り添う。
「飛鈴も運ぶんだ。」
慶一郎の少し怒気をはらんだ言葉に渋々と了承し、テーブルの上にあった料理を運ぶ。
「アキト君がいたお陰で助かったよ。」
「いえ、ところで美雪ちゃんへのプレゼントはどうするんです?」
「ああ、ちゃんと考えてあるよ。前回の誕生日の時は、色々バタバタしていたが
今回はちゃんと用意してある。」
そう言いながら慶一郎は懐に手を入れる。
その時・・・アキトの耳にキーンと言う甲高い音が聞こえ始めた。
「ん?何だ?この音は・・・」
「むっ・・・いかん!アキト君、後は頼む!」
慶一郎は慌てて台所を後にする。
アキトは不思議な顔でアキトを見送るが相変わらず、
耳鳴り音のような甲高い音が聞こえている。
「あれ?南雲先生は?」
涼子が台所に顔を出す。
「ああ、何だか慌てた様子で出て行ったんだが・・・」
「また?」
「良くあるのか?」
「ええ、ある事情でね。」
そう言いつつも、涼子は怪訝な顔をする。
「あれ?この音って・・・」
「ああ、さっきからずっとしているんだ。」
そう言いながら、アキトは音のする場所を探す。
程なく、自分の胸元にあるペンダントから聞こえてくる事が解った。
「ミサキさんから預かっているペンダント・・・」
そう呟いたところでアキトは妙な浮遊感を覚えた。
自分の体から体重が半分くらい無くなったような感覚である。
「ようこそ、イエネンの鬼神よ。ケイ、またあなたの力を・・・」
不意にアキトは声をかけられる。
そこには、巫女を思わせる白と朱の衣装に身を包んだ少女がいた。
血管が透けて見える白い肌に、一目で白子とわかる赤い瞳、
ガラスのような銀髪で長く伸ばした髪は後ろで一括りにしていた。
ただ、その瞳は大きく見開いている。
「ケイ・・・あなたはいつ分裂したのですか?」
「「はい?」」
その少女がそう言うとアキトとその隣にいた大男が間の抜けた声をあげる。
慌てて声のしたほうを見ると・・・
「な、南雲先生!」
「アキト君?どうやってここに・・・」
「それはこっちの台詞です。ここは一体何処なんですか!」
「あの・・・ケイ?」
「何だ?レイハ。」
先程の巫女姿をした少女・・・レイハは慶一郎とアキトを見ながら
「分裂・・・した訳ではないのですね?」
「当たり前だ!」
慶一郎はレイハに言いながら
「それよりレイハ、俺の力が必要なんだろう?」
「はい、そうです。」
アキトは混乱しながらもこのレイハと呼ばれた少女と慶一郎が知り合いである事、
そして、ここが異世界である事を、その空の色が緑色である事から漠然と感じ始めていた。
「アキト君も来てくれると助かるが・・・」
「何をするんです?」
「怪獣退治さ。」
慶一郎とアキトの居なくなった鬼塚家では・・・
既にクリスマスパーティが始まっていた。
アキト目当てで来ていた女子生徒たちが、騒いでいる。
「何や、アキトとアイツは何処行ったんや?」
「さぁ、そう言えば涼子さんの様子も変ですよね。」
静馬と大作が涼子の様子に訝しがりながらも
目の前にある慶一郎とアキトが作った料理を貪り食っていた。
「や〜ん、ナギーったらきったな〜い。」
沙羅がその様子を見ながら言う。
「なんや沙羅、食わへんのやったら頂くで。」
「あっ!ずるい!」
「まるでハゲワシですね。」
そんな静馬達の喧騒をよそに、涼子は一人真剣な顔をしていた。
―確かにアレは南雲先生と同じ形をしたペンダントだった・・・
200年後に私達の子孫が居るって聞いてはいたけれど・・・
「・・・子ちゃん・・・涼子ちゃん。」
ひとみが考え事をしている涼子の肩を叩く。
「あ、何?ひとみ?」
「何?じゃ無いわよ。どうしたの?ぼうっとして・・・」
「チョッとね・・・それよりひとみ・・・いいの?氷室 那智とデートじゃなかったの?」
「ご心配なく、この後会う予定があるから。」
舌をペロッと出してひとみが言う。
「なぁんだ、上手くやっているんだ。」
「涼子ちゃんは?」
「あたし?無いわよ。この後なんて。」
「草g君と何処か行かないの?」
「んな!何でアイツと!」
そう言いながらもアキトが作った鶏肉のワイン蒸しを頬張る。
「素直じゃないんだから。」
ひとみは涼子を見ながら深くため息をついた。
アキトは慶一郎とレイハについていきながら不思議な感覚にとらわれていた。
どうやら重力が地球の半分くらいみたいだ。
「なぁ、さっき怪獣退治といっていたが・・・」
「そのままの意味だ。」
「ケイ、今回は魔王退治です。」
慶一郎の言葉をレイハが訂正する。
「魔王?あのシュバルツカイザーとか言う奴か?」
「いえ、今回の魔王はある一定周期で甦るモノです。」
「どんな奴なんだ?」
アキトがレイハに尋ねるが
「レイハは知りません。何しろケイ達の時読みで
七億九千五百三十二万四百八十六単位時間周期でしか復活しませんから。」
レイハの言う時間がどの程度のものなのか、アキトと慶一郎は理解できなかった。
「ま、少なくとも1年や2年の周期ではなさそうだな。」
「あ、ああ。」
アキトと慶一郎はお互い、とんでもなく長い時間なのだろうと納得しあう。
「着きました。」
不意に先頭を歩いていたレイハが立ち止まり言う。
そこには辺りを黒い八角形状の柱が紫色の光を放っているものを取り囲んでいる。
「こ、これは・・・」
アキトは少し驚く。黒い八角形状の柱はまるでチューリップのような形をしていたからだ。
「魔王ってのは、何処に居るんだ?」
「あの光っているのがそうです。」
あくまでもクールにレイハが言う。
「何も動いていないぞ?」
「いえ、来ます。」
レイハが宣言するように言うと突然、八角形状の柱が崩れ落ち
紫色の光を放っていたものが徐々にその姿を現す。
その姿は、全身紫色で鎧だろうか?肩に出っ張りらしきものが見える。
身長は慶一郎と同じくらい。そして、頭には角が生えていた。
「な、なんかゴツゴツしたのが出てきたみたいだぞ・・・」
「レイハ!こいつにも、例の封魔石があるのか?」
復活した魔王は、獣のごとき雄叫びをあげながら周囲を破壊していく。
慶一郎達は、崩壊した柱の破片を避けながら、徐々に魔王との間合いを詰めていく。
「レイハは判りません。」
その間にも魔王の攻撃は次第にアキト達に向かっていく。
「くっ、アキト君!やるぞ!」
「はい!」
紫色の魔王はアキト達をはっきり敵として認識したのか
破壊活動を止め、アキト達にせまる。
アキトは何故だか判らないが、突然上にジャンプする。
一瞬でアキトとの間合いを詰めた魔王はアキトに攻撃を加えたのだ。
「くっ!何てスピードだ!」
慶一郎がそう言いながら魔王に組み付き、紫色の魔王に力比べを挑む。
「ぐ・・・力も・・・俺より・・・強い・・・」
「双龍脚!」
アキトが後ろから魔王の側面を攻撃するがびくともしない。
「な、何て強さだ・・・」
そう言いながらアキトは神気を右の拳に溜め始める。
「弓歩双掌!」
アキトは慶一郎と力比べをしていた魔王の頭を神気を篭めた掌打で攻撃する。
紫色の魔王がぐらついた瞬間、慶一郎が魔王との組み手から脱出する。
その際に慶一郎の腕から大きな血しぶきが上がる。
「南雲先生!大丈夫ですか!」
「ああ、それよりレイハ!どこか弱点は無いのか!」
「今調べています。」
レイハは空中に浮かび、見たことも無いような文字を空中に浮かべて
まるでパソコンのキーボードを叩くような仕草をする。
「南雲先生!俺がこいつを引き付けます!」
「わかった!」
そう言うとアキトは、慶一郎から教わった旋駆けを行い、紫色の魔王を翻弄する。
時には横から、時には背後から攻撃を行い、紫色の魔王を足止めしていた。
慶一郎は己の最大奥義を放つ為、神気を練っている。
「判りました!胸の赤い光点が弱点です!」
レイハが叫ぶと、アキトが慶一郎の方に紫色の魔王を伴ってやってくる。
アキトは魔王が直線で向かってくる事を察すると、慶一郎の目の前で突然方向転換をする。
紫色の魔王はそのまま慶一郎に襲い掛かるが、
「天覇龍凰拳!」
慶一郎の放った技は確実に紫色の魔王に直撃した。
Goooooo!
紫色の魔王はゆっくりと崩れ落ち、その身はクリスタル状になる。
クリスタルは鈍く紫色の光を放っていた。
「倒した・・・のか?」
アキトは肩で息をしながら言う。かなり無理をしていたのか
アキトの額から玉のような汗がびっしりと浮かんでいた。
「いいえ、再び眠りについただけです。」
「それって、また復活するって事か?」
慶一郎も負傷した腕を押さえながら言う。
「はい。ですが、今すぐと言うわけではありません。」
「そうか・・・」
慶一郎はアキトを見ながら
「今回はアキト君が居てくれたから助かったよ。」
「いや、しかし何時もこんな事をしているのか?」
「ボランティアさ。」
そう言いながら慶一郎はゆっくりと腰をおろす。
「ケイ、先程から思っていたのですが・・・」
「何だ?レイハ。」
「この方は、どうしてここに来れたのでしょうか?」
レイハと慶一郎はゆっくりとアキトに顔を向ける。
「それが・・・南雲先生が出て行ってから
こいつが光っているのを見つけたんだ。
そしたら、ここに来ていた。」
そう言いながらアキトは胸元にあるペンダントを二人に見せる。
「そ、それは・・・」
「私がケイにあげた物と一緒です。」
「やはり、ミサキさんが南雲先生の子孫だったんだな。」
「そうか・・・俺の子孫か・・・」
「ケイ、もしかしてこの方は・・・」
「未来から来たそうだ。」
「200年後・・・と言ってもあんた達の呼び方は良くわからないが・・・」
「アキト君、200年後に帰る手立ては有るのか?」
「いや、チューリップクリスタルでもあれば、帰れるんだが・・・」
「チューリップクリスタル?何だそれは?」
「・・・最初から説明すると長くなるし、理解できるかどうか・・・」
アキトがそう言うとレイハは、ついてきて下さいと短く言う。
アキトと慶一郎は突然のレイハの行動に戸惑いながらもレイハの後を追う。
三人がやってきたのは慶一郎が良く呼び出される神殿だった。
「こちらへ・・・」
慶一郎はアキトと共に大広間に入っていく。
そこは以前、慶一郎が飛鈴の事を思い出したときの部屋だ。
「レイハ・・・」
「こちらに座ってください。」
レイハはアキトに部屋の中央部に座るように指示する。
アキトの周りには直径5メートル程ある魔方陣が描かれていた。
慶一郎のときと同じく、アキトの額には黄色い呪符のようなものが貼り付けられている。
「なぁ、何をするんだ?」
アキトは慶一郎に尋ねる。
「動かないほうが良いぞ。下手に動くと記憶が無くなる。」
「ちょっ!」
「行きます。」
レイハは小鳥のさえずりにも似た呪文を唱える。
すると、魔方陣を構成する文字と幾何学模様が発光し、アキト達の周りに
青い光のスクリーンがぐるりと取り囲んだ。
「こ、これって・・・」
アキトの正面にはルリの姿が見える。
「まさか!俺の記憶!」
「そうだ、言葉で説明するよりこの方が楽だろう。
君の記憶を映像に映し出す。」
「話をされるより楽だと思ったのですが・・・」
レイハが申し訳なさそうに言う。慶一郎はこんな表情をするレイハは始めて見た。
「いや、俺も話し下手だからな。思うだけで映像に出るのか?」
「はい。」
レイハの言葉を受けてアキトはイメージする。
ついでに己の身に起こった出来事を慶一郎に知ってもらおうと思った。
正面のスクリーンには、小さい時に起こった空港爆破テロ、
両親の死、バイトをしながら通った高校、そして・・・チューリップが落ちてきたとき・・・
「この時、戦争が始まったんだ。」
コロニーの中で、一人の少女との出会い、絶望に陥る人々・・・
突然の爆発・・・そして、青い光り・・・
「この時、俺は両親から託されたCCを使って地球まで跳んだ。」
「この、光を放っているものか。」
映像が続く・・・
戦闘の音で震えるアキト、働いていた食堂でクビを言い渡されるアキト、
前を走っている車からトランクケースが落ちてくる・・・
「このとき、再会したのが幼馴染だったんだ。」
両親の死の原因を聞きたいためナデシコに乗り込み、最初の戦闘・・・
ガイの死、火星での出来事、ゲキガンタイプと共にジャンプした事・・・
白鳥 九十九の死、ユキナを守って雪谷食堂で働いた事・・・
火星での最終決戦・・・ユリカとのキス・・・
サセボ拘留中のナデシコ長屋での出来事、屋台をルリとユリカと3人で引いたときの事。
そして、ユリカとの結婚式・・・皆に祝福されながら新婚旅行に旅立つ。
乗り込んだシャトルの爆発・・・ユリカをさらわれたアキトの記憶・・・
モルモットとなり実験を繰り返されるアキト・・・救出に来たゴートと月臣・・・
そして、復讐の為に自らの体を痛めつけるアキト・・・
「もういい、レイハ!止めろ!」
「いえ、あなたには知っておいて欲しい・・・復讐に身を焦がした哀れな男を・・・」
「しかし、アキト君!これは君の未来ではないのか?」
慶一郎は今見ている映像は、アキトの未来の事ではないかと思った。
「いえ、これはこの方の記憶です。」
「なに?しかし、アキト君のこの姿は・・・」
明らかに今のアキトと映像の中に映し出されているアキトは年齢差がある・・・
映像がさらに続く。
北辰との一騎打ち、助け出されたユリカ、そして逃亡生活・・・
「何故逃げたんだ?」
「俺の手は血に汚れていたからな・・・俺にユリカを抱く資格なんてない。」
「そうか・・・」
「それに、俺には守りたいものが出来たからな。」
映像はルリの姿に変る。
「この少女か・・・」
「ああ、俺が今一番大切に思っている女性だ。」
映像の中のルリが問い掛けてくる。
『どうして逃げるんですか!』
『俺にはユリカをこの手にする資格など無い。』
『どうしてですか!』
『俺はユリカを取り戻そうとした・・・だが何時の間にかユリカを復讐の口実にしていた。』
アキトの支点で捕らえたルリは目を大きく見開く。
『そんなの勝手すぎます!私達は・・・私はアキトさんが戻ってきて欲しいって・・・
ずうっと側にいたいって思っています!』
ルリの瞳から涙が零れ落ちる。
「いい子じゃないか。」
「ああ・・・」
そして・・・映像は公園での映像に変る。
ルリが手渡す手編みのセーター。そして、ルリとのキス・・・
アキトとルリが光に包まれ・・・
「この時、不思議な事が起こった。俺とルリは・・・」
五感をフォローする為に付けていたバイザーは無くなり、草原に寝そべっているアキト・・・
鏡を見て己の姿があの、忌まわしい出来事の前に自分が戻っていた事・・・
ルリからの電話・・・
「過去にジャンプした・・・肉体ではなく精神が・・・」
「何だと!」
「俺は二度目の人生をやり直す事になった。」
復讐鬼として培われた武術の腕を、今度は大切な人を守る為に鍛える。
ルリの足手まといになりたくないと言う必死の願いでルリに武術を教えるアキト・・・
突然現れるイネス・・・そして、運命の日・・・
出向するナデシコ。忘れようにも忘れられない仲間達・・・
今度は親友を助け、大勢の命を救う・・・
画面上には助け出されたミサキの姿が映る。
「な!美雪ちゃん!」
慶一郎がその姿に驚く。映像に映っているミサキの姿は、大人びた美雪そのものであったからだ。
「俺が最初に美雪ちゃんを見たときはミサキさんと思ってしまったからな。」
そして、火星ではルリと二人でイネスを迎えに行く。
絶体絶命のナデシコ・・・自らを償いのため犠牲にしようとする老人を制し
戦いの中に身を投じるアキト・・・
クルーとの別れ・・・次々と声をかけられるアキト・・・
「仲間・・・か。」
「ああ、大切な仲間だ。」
そして、ミサキから渡されるペンダント・・・
「これか!アキト君が持っていたのは・・・」
「ああ、ミサキさんから先祖伝来だって。」
「続けます。」
レイハの一言で映像が続く・・・
夜の池袋公園・・・静馬に似た人物と戦うアキト・・・
「草g!ってまさか・・・」
「ああ、彼はクサナギ=カズマ・・・俺の仲間だ。」
そして、日本刀を持った少女・・・
「御剣・・・」
「彼女の名前はクサナギ=アヤ。カズマの妹だ。」
「・・・見なかった事にしていいか?」
「好きにしたらいい・・・」
そして、場面が変わりテニシアン島、ナナフシ攻撃、オモイカネの反乱・・・
そして、クリスマス・・・
「ここで俺はスメラギと戦った・・・」
狂気に支配されているスメラギ・・・アキトと互角の闘いをするスメラギ・・・
そして・・・
「俺は、自爆しようとしているコイツを月に跳ばした・・・」
そして、目の前に涼子が姿を現す。
「ここから先は、南雲先生が知っている通りだ。」
「事情は理解したが・・・さっき言っていたCCってのがあれば帰れるんだろう?
今から世界中を捜せば・・・」
「アレは火星にあると思う。」
絶望的な言葉を言うアキト。
「後は、チューリップを使ってゲートを開くしか・・・」
「ゲート?」
「ああ、映像の中にあった、チューリップが開くジャンプゲートの事だ。」
そう言うとアキトの正面に、ナデシコがチューリップの中に入っていく映像が流れる。
「このゲートさえあれば良いのですね?」
レイハがアキトに尋ねる。
「ああ、普通の人間ではジャンプする事は出来ないが、俺達のように火星で生まれたものならジャンプできる。」
「・・・付いてきてください。」
そう言ってレイハは術を解き、アキトの額から黄色い呪符を取る。
とたんに、今までアキトを取り囲んでいた映像は消え去る。
レイハはアキトと慶一郎を促し、部屋の外に出る。
慶一郎とアキトはお互い沈黙していた。
レイハが案内したところは、慶一郎も初めて見る部屋だった。
「!これって・・・!」
アキトが驚きの表情を浮かべる。
「少し前に突然現れました。」
そこには、幾何学模様をした円形の空間が現れていた。
「・・・間違いない・・・ジャンプゲートだ・・・」
アキトはそれが、チューリップなどが開くゲートにそっくりである事、
体中のナノマシンが活性化して、光り始めている事でその結論にたどり着いた。
「と言う事は帰れるのか?アキト君は。」
「ああ。所で、この事を知っているのはあんただけか?」
「はい。レイハ以外に知っている人は居ません。」
「・・・南雲先生・・・お世話になりました。」
アキトは慶一郎と握手をする。
「アキト君・・・大切な人を守ると言う事は、必ず生きてその人の所に帰ると言う事だ。」
「ええ、解っています。これ以上、ルリに悲しい顔をさせたくありませんから。」
「そうか・・・」
「急いでください。門が閉じかかっています。」
レイハの言葉でアキトはジャンプゲートに向かう。
「じゃあ、行きます。」
「元気でな。頑張れよ。」
「南雲先生も・・・」
そう言うとアキトは200年後の月面基地をイメージし、ジャンプゲートに飛び込む。
その直後、ジャンプゲートは急速に小さくなり、慶一郎達の前から完全に姿を消した。
「ケイ、ご苦労様でした。お戻りください。」
「ああ・・・レイハ・・・」
そう言うと慶一郎の体も、徐々に青白い光と共に消えていく。
レイハは慶一郎が消え去ると、その部屋を後にした。
慶一郎が目を開けると、鬼塚家の食堂に立っていた。
周囲はすでに静寂に包まれていた。
「やれやれ・・・すっかりパーティは終わってしまったようだな。」
慶一郎は積み上げられた皿を見ながら言う。
「・・・慶一郎・・・さん?」
美雪が台所に姿を現す。すでに美雪はパジャマに着替えていた。
「ああ、美雪ちゃん。すまない・・・アキト君を送っていたから・・・」
慶一郎はとっさに言い訳をする。
「送っていた?」
「ああ、アキト君が本当に居るべき場所に帰るために・・・ね。」
そう言いながら慶一郎は、懐から美雪へのクリスマスプレゼントを取り出す。
「メリークリスマス、美雪ちゃん。これは俺からのプレゼントだ。」
そう言いながら美雪にプレゼントを渡す慶一郎。
「・・・ありが・・・とう・・・」
美雪はうつむいて慶一郎に礼を言う・・・
「美雪ちゃん・・・俺が君を守る・・・君が幸せになるその日まで・・・」
そう言うと慶一郎は積み上げられた皿を洗い始めた。
慶一郎の顔は少し赤くなっていた・・・
静馬:オイ!ワイの出番がほとんど無いやないけ!
涼子:そうよ!このバカはともかく、私の出番までほとんど無いし!
作者:い、いや・・・悪気は無かったんだけど展開上こうなるから・・・
静馬:もう一回話を続けてワイらの活躍を見せるっちゅうんはどや!
涼子:良いわね、そうしなさいよ。
作者:君達を出していると永遠に終わりそうに無いから却下。
静馬:それにしても、どないして未来に送り届けるかと思えば・・・
涼子:意外だったわね。
作者:事象の螺旋を使って・・・なんて考えていたけれど、結局ソルバニアにゲートが現れたって事にした。
静馬:紫色の魔王って・・・まさか・・・
涼子:暴走したら噛み付き攻撃で敵を粉砕する・・・
作者:ノーコメント
静馬:他にも水色の魔王とか赤い悪魔とか・・・
涼子:赤い悪魔だと某ヨーロッパサッカーチームの呼称でしょう!でも、本当に・・・
作者:だから、ノーコメントだって。
静馬:なんや、水色の方が好きならしいで。
涼子:駄目人間なんだから仕方無いでしょう。
作者:いい加減、この話題から離れてくれ!次回 機動戦艦ナデシコ Re Try 第15話 遠い星から来た『彼氏』
静馬:逃げんな!炎の虎!
涼子:そうよ!虎燕剣!
作者:ぎゃぁぁぁぁす!
―あ・・・慶一郎×レイハってのも・・・
代理人の感想
南雲慶一郎。職業・地上最強の教師。
中学生に頬を染める二十九歳。
つまり、そ〜ゆ〜話だったと解釈してOK?