リターナーズ
プロローグ後編
時への帰還者達
水星、太陽系第一惑星、太陽に一番近い惑星。
太陽系内において第三惑星である地球よりも内側に在る惑星
そして人類が宇宙へと進出してなお、まったく人類がその手を伸ばした事のない場所
その理由は、この惑星が太陽に近すぎるがため人類にとって余りにも環境が過酷過ぎるからである。
たいした資源も無いこの星に人類は魅力を感じなかった。
そして、その水星圏に今一隻の戦艦が虚空から出現した。
「ダッシュ艦内の状況を報告」
『了解、
艦内各所、
システム、
フィールド出力、
共に異常無し、
状況オールグリーン。』
「現在地の確認」
『現在水星圏、水星より距離二〇万キロ』
「とりあえずジャンプ成功か」
ダッシュからの報告を聞き体から力を抜き一息つく。
「ダッシュ今後の予定は?」
『通常航行により今から十二時間後に太陽重力圏内に到達予定』
「実際に太陽への到達時間は?」
『およそ三十六時間後に到達予定』
「了解した俺は一旦自室に戻って休んでいる、なにか問題が起きれば報告してくれ」
『了解』
ダッシュとのやり取りの後俺はブリッジを出て自室へと向かった。
こうして俺の命は残りおよそ三十六時間、不思議なことに俺の心は驚くほど落ち着いている。
人間覚悟を決めてしまえばこんな物なのかもしれない。
自分で言うのもなんだが波乱万丈に満ちていた俺の人生、
そんな人生でも最後の時くらいこうして静かにすごすのも悪くない。
そんなことを考えているうちに俺は自室の前に到着していた。
そしてドアを開けて中に入ると、
ラピスがそこにいた。
それも一目で不機嫌だと分かる表情で
普段は無表情なその顔を可愛らしく拗ねさせて
彼女はそこに立っていた。
「な!...ラピス!なんでお前そこに居る!?」
正直俺はこの上なく驚いている
そして頭の中ではただ何故?どうして?と疑問ばかりが渦巻く
何故ラピスがここに?
思わずラピスに詰め寄り問いただす。
「...ドアから入ったから」
そりゃそうだ...じゃなくて!
「なんでユーチャリスの中にいるのか聞いているんだ。
確か自分の部屋で眠ってるんじゃ無かったのか」
「今日のアキト様子が変だったから警備のシステムに見つからない様に仕掛けしてアキト見張ってた、
そしたらアキトとナガレの話聞いて置いて行かれたくなかったから急いでユーチャリスに乗った...
それより、なんで話してくれなかったの」
怒ったままの顔でラピスが聞いて来る。
「話したらラピスは止めようとするだろ。それか一緒に来ようとするだろ」
「うん」
即座にうなずくラピスを見て心の中でため息をつく。
説得するのに骨が折れそうだ。
「ラピス、よく聞いてくれ俺がこうするのは俺の寿命はもう残り少ないからなんだ
それに俺が生きていた事を誰にも知られる訳にはいかないんだ
そしてアカツキ達これ以上迷惑をかけないために
ユーチャリスとブラックサレナは誰にも見つからない様に廃棄するしかないんだ
そして俺がここまでボソンジャンプすれば誰にも見つからずに全てを解決できる」
「ラピス...俺がお前に話さなかったのはお前に俺と同じ道を歩んで欲しくなかったからだ
お前はまだ幼いお前の未来にはまだまだ無限に近い可能性が秘められている、
俺はお前にその未来をこんなことで終わらせて欲しくなかったからだ、
俺はお前にもっといろいろな経験を積んで欲しいんだ、
経験を積んでもっと世界の事を知って欲しい
お前には自分で納得して幸せになって欲しいんだ」
俺は自分の思った事を全て包み隠さず話した。
「アキトは勝手、自分の気持ちを押し付けるだけで私の気持ちを考えてない
私はアキトのパートナーそしてユーチャリスのオペレーター。
これは強制された物じゃなくて自分で納得して選んだ道
そして私はそれを途中で止めるつもりは無い、
自分で選んだから最後までやり通す、中途半端に終わらせたくない。」
そう言ってラピスは俺の部屋から出て行く。
「ラピス!!」
「アキトの悪い所、感情的になるとアキトはいつも状況を悪くする
なにかを正しいと信じたら自分の考え方に固執して他人の事をないがしろにしがち、
むしろアキトはなにが正しいとか間違っているとか考えないほうがいいと思う、
そうじゃないとアキトはアキトの嫌いな草壁、北辰、山崎の三人と同じになるよ、
もう少し落ち着いて周りをよく見て考えて」
その言葉を聞いて俺はまるで電撃に打たれたかのようにショックを受けた
そして気付けば俺は自分の部屋の真中で呆然と立ちすくんで居た。
ラピスが部屋を出てから数時間、俺はベッドに寝転がりながらラピスの言葉を思い出していた。
何度も何度もラピスの言葉と俺の今までの人生で起きた事を思い出していた、
俺がまだ火星にいた時の事を、ナデシコで過した時間を
そしてラピスの言葉に対する反論が出来なかった。
そして俺は部屋を出てブリッジへと向かう。
決意を固め俺はブリッジへの扉をくぐる。
ブリッジではラピスが自分のいつものオペレーター席に座っていた。
「ラピス、俺達は今太陽に向かっている」
「俺はすべて終わらせるため、ユーチャリスを太陽に落とすつもりだ中に在る
ブラックサレナと自分ごと......最後に聞きたい、
それでお前はどうしたい?今なら単独ジャンプでお前を戻す事が出来る
だがお前が共に来たいと言うのならもう何も言わない」
そういい俺はラピスの答えを待つ。
「私はアキトのパートナー最後までつきあう」
それがラピスの答えだった
「いいんだな?」
俺の最後の確認にラピスはコクンとうなずく
「わかった」
ラピスの騒動が終り、数時間たち最後の航海も静かに終わらせる事が出来るかと思っていたが
どうやら俺には最後まで静寂は与えられない様だ
「アキトさんバカな事は止めてもう帰ってきてください」
ルリちゃんの声を聞きながらそんな事を考える
今俺の目にはジャンプアウトしてきたナデシコBが映っている
「アキトさ.プチッ....
とりあえず通信のスイッチを切る
「ラピス全速力で突き放せ」
「了解」
俺の命令でユーチャリスは全速力で目の前のナデシコBを振り切る
「アキトさん待ってください!」
「問答無用、ラピス通信を完全にロック」
「アキトさん聞い「了解、通信ロック」プチッ
俺はもうこのまま一気に突っ走ると決めた
なぜルリちゃんがこの事を知っているのか興味が無いわけではないが今は気にしない
いくらルリちゃんでも艦長としての責任がある全クルーを巻き込んでまで無茶はしないだろう
クルーを避難させてからならするだろうがそんな事をしていればこちらに追いつく事は不可能になる
どっちにしろ彼女は俺達に追いつくことが出来ない
彼女との問答はもう引き返せなくなってからでいい
「アキト、ナデシコBからハッキングされてる」
「防げるか?」
「ナデシコCなら難しかったけど今追ってきているのはナデシコBだから問題無い
もともとユーチャリスはナデシコCのプロトタイプとして作られたから電脳戦に長けている
でもナデシコBはただのワンマンオペレーションの実験艦、負けるはずが無い」
そういいながラピスはウィンドウボールを発動させナデシコBからのハッキングに対処する
「ハッキングに対処しながら艦のオペレーティングは大丈夫か?」
「なんとか」
「この速度で機動兵器は発進可能か?」
今の状態でエステバリスを展開されれば厄介な事となる
「無理、戦艦が全速力で移動していればそれについてこれる機動兵器なんて
高機動ユニットを装着したブラックサレナくらい、それでもぎりぎり」
「それならこのままでも大丈夫だな」
「うん」
後は太陽の重力圏までこのまま突っ走る
二隻の戦艦がレースを始めてから数時間たったころ
「アキト、そろそろエンジンも限界これ以上の全力稼動は無理」
「太陽の重力圏まで後どれくらいだ?」
「あと五分以内に到達」
「ならエンジンを通常モードに移行、ここまで来れれば上出来だ、むこうもこれ以上
全速力での追跡は無理だろう、それとナデシコBに通信を」
「了解」
ラピスの言葉と同時にユーチャリスのブリッジにスクリーンにナデシコのブリッジの様子が映る
「先に言って置く俺は止まらないぞ」
『アキトさんそんな言わないでください。お願いです戻ってきてください、
みんなアキトさんの帰りを待っています』
ウィンドウの中でルリちゃんが必死に俺を説得しようとする
「もう遅いんだよルリちゃんあと数分足らずでユーチャリスは太陽の重力圏に飲み込まれ、
太陽に落ちるもう止める事は出来ないそして止めるつもりもない」
そう言って俺はルリちゃんに笑顔を向ける
「それに戻ったとしても俺はもう長くは持たない、
俺の身体は実験で埋め込まれた過剰な量のナノマシンによって蝕まれている
持って3日といった所だろう...だからもう諦めてくれ」
『そんな...嘘ですよね、私を諦めさせようとして、嘘をついているんですよね』
ルリちゃんは俺の言葉を必死に否定しようとしている。
だが俺は彼女の言葉に違和感を感じ取った。
「ルリちゃん君はどうやって俺がここに居るとわかったんだ?
俺がここに向かっている事を知っているのはアカツキだけだ
イネスにもエリナにもここへ向かっている事を教えていない
もしアカツキに聞いたのならば俺の身体の事を知っていてもおかしくは無いはずだ
そもそもどうやってここまでジャンプしたんだ、イネスさんも乗っているのか」
そう間抜けにも今まで気がつかなかったがルリちゃんがここまでたどり付けるのはおかしい
まず俺の居場所ナデシコが現れた地点はユーチャリスがジャンプアウトした地点からだいぶ離れている
俺のジャンプアウトした地点を知っていてもあの時点でのユーチャリスの現在地が分かるはずはない
もう一つの謎はボソンジャンプだ。
どうやってここまでジャンプしてきたのだ
もう地球圏にA級ジャンパーは俺を含めて三人しか残っていない
俺以外のジャンパ−はそう気軽にここまで来れるような状態ではないはずだ
「いったいどうやってここまで来る事が出来たんだ」
『それは、「それは私がルリちゃんに頼んだからだよ」
俺の問いかけに答えようとしたルリちゃんを遮って俺の後ろから声が届いた
俺は信じられない思いで席から立ち後ろに振り向く
この瞬間俺は背後に人が居た事に驚いたのではなかった
後ろから聞こえた声を知っているから驚いたのだから
何故ならその声はここで聞こえるはずの無いものだったからだ
「ユリカ!」
そう俺の振り向いた先にはユリカがいた
ブリッジの床に座り込んで必死に立ちあがろうとしている
「ユリカ!」
俺はユリカの元に駆け寄る
「なんでユリカがここに」
「あのね、アキトが私に会いに来てくれた後、私ねイネスさんに会って全部聞いたの、
アキトの身になにが起こったのか、私が眠っている間に何が起きたのかを全部」
そう言ってユリカは俺に微笑みかける
「そしてね、私の身体にも異常がある事が分かったの」
「な..んだって」
「私の身体ねリハビリしても良くはならないの、
私が遺跡と融合させられた時に私の中のナノマシンが遺跡の物と混ざり合ってね、
そのナノマシンが私の身体が変化するを止めるのどんなに鍛えても今以上の力は出ないの、
これから先ずっと死ぬまで、満足に立ち上がる事も出来ない身体ですごすしかないの」
「そんな...なんで...なんで...」
「でもね、」
俺が突然の事にうろたえているとユリカが俺の目を真っ直ぐに見つめ俺に言い聞かせる様に喋る
「私とアキトの身体を治す事が出来る可能性があるの」
「本当か!」
「うん、あくまで理論的には、だけど」
「その方法は?」
「ボソンジャンプ」
「ボソンジャンプ?」
「通常ボソンジャンプを行なう時に最も重要なのはなんなのか分かる?」
「...ジャンプアウトする地点のイメージを強く思い浮かべる事」
少し考えた後俺は思いついた答えを言ってみる
「そう!あたり。さすがアキト!」
そう言ってうれしそうに手を叩くユリカ
「ジャンパーがイメージを浮かべる事によってジャンパーの身体はボソン粒子に変換されて
一度遺跡に取り込まれ遺跡が取り込んだボソン粒子を元の身体に再構築してイメージした地点に転移させてる。
これがボソンジャンプの大体の仕組み、
それでね一度遺跡に取り込まれた粒子を遺跡が再構築する過程で遺跡にこちらのイメージを送り付ければ」
「ジャンパーの身体はそのイメージどうりに再構築される、
だがそんな事が可能なのか?どうやってイメージを遺跡に送る事が出来るんだ?」
「その前に、アキトはラピスちゃんと考えただけで会話が出来るんだよね」
「ああ」
「それは何故でしょう」
「それはナノマシンによって感覚をリンクして...まさかユリカ!」
「遺跡とリンクしちゃいました、てへ」
「てへ、じゃない!」
俺はユリカのこの行動に呆れ、そして同時にユリカらしいと少し、ホッとしていた
「お前はなんでそんな無茶な事をあっさりと...」
そう言いながら俺は自分の顔が緩んでいくことを自覚する
何故か無性に可笑しかった
「まったくお前は...やってみるか」
「うん!」
「ラピス、ジャンプフィールド展開」
「アキト、その前に太陽の重力圏を脱出する方法を考えたほうがいいと思う」
「「え?!」」
「話しているうちにとっくに時間が切れで太陽の重力圏に入いっちゃった」
「...なにー!」
そう良く考えてみればユリカが現れてから時間を気にしていなかった
「ラピス、脱出できるか?」
「エンジンを全開にしてなんとかできそう、でも...」
ラピスは不安そうに顔をゆがめて
「でもさっきまでエンジンを全力で稼動させてたから、もう...」
グラグラ
ラピスが言い終える前にユーチャリスを振動が襲う
「今の振動はエンジンがオーバ―ヒートして活動停止したせい」
ラピスが冷静に状況を報告する
「これでもう太陽に向かって落ちるだけ、脱出は不可能、どうしよう」
『アキトさん今ナデシコのアンカーをユーチャリスに向かって打ち込みます、着弾時の衝撃に注意してください』
「わかった!」
俺は衝撃に備えユリカを抱きしめる
そして次の瞬間、
ドガガン!!!
凄まじい衝撃がユーチャリスを襲う
「ぐっ」
「きゃっ」
「あうっ」
振動はすぐに収まった
『アキトさん!アンカーは無事ユーチャリスを捕らえました、今からナデシコで引っ張ります』
ガックン
「ちょっと待て、そっちのエンジンの調子は大丈夫なのか?」
俺がそう言った次の瞬間、
ぼふっ
そんな感じでナデシコのエンジンも停止した
「くっ、万事休すか、いや、まだ手はある、ルリちゃん今現在のナデシコBの人員は何名だ?」
『い、今現在ナデシコBには私の他にサブロウタさんとハーリーくんの計三名しか搭乗していません』
「三人ともジャンパー処置を受けているか?」
『!はい、三人とも受けています』
「ならナデシコのアンカーを巻き戻して出来る限りユーチャリスに接近してくれ」
『分かりました!』
「ラピス今の状態でジャンプフィールドを展開できるか?」
「一応出来る、でも現在太陽に落ちている途中だから少し不安定になると思う」
「だがやるしかない、ナデシコが接近してきたらジャンプフィールドを展開」
「了解」
「ユリカ今からフィールドを展開する、具体的に俺は何をすればいい?」
「アキトは自分の身体が正常な状態を強くイメージして後は私がやってみる」
「頼むぞ」
「うん!」
「アキト、ナデシコがジャンプフィールド展開可能範囲まで届いた」
「よし!ジャンプフィールド展開!」
これで後は、自分の身体が正常な状態を強くイメージする
俺とユリカの身体にナノマシンの模様が描かれる
そして、
「「ジャンプ!!」」
そしてその瞬間2隻の戦艦はこの世界から消え去った
続く
あとに書かれし物?
どうもはじめましてミッキーもうします
祝!初投稿!初小説!実は小説を書くのは今回が初めてと言う
新参者なので、これから宜しくお願い致します。
いやしかしこのプロローグもっと短く終わる予定だったんですが
なぜかこんなにも長くなってしまいました。なぜだろう?
ほんとなら前編、中編、後編に分けずに一本にまとめる予定だったのですが。
特に中編の機動兵器の解説を書いているうちにやたらと長くなってしまって分けてしまいました
まさに予定は未定(爆)
一応格納庫の2機のコンセプトは『最強の機体』と『スーパーロボット』です
それぞれのパイロットはオリキャラになる予定です
実のところあんまり中編必要じゃなかったかも...
とにかく次回から第一話が始まります
そして一味変わった逆行物になる予定です
あ、ちなみに私
「大勢から、もてもてで主役がその事に気が付かず理不尽な目に会う」たぐいの小説が
大っ嫌いなのでそうはなりません
なにはともあれこれからよろしくお願いします。
それでは代理人さんどうぞー!
親の因果が子に報う代理人の感想
「あ〜い〜」
・・・「なんか違うだろう、それは」という突っ込みは却下。
それはさておき、面白そうですね。
「一風変わった逆行物」と言うことですが、
「これなら期待してみてもいいかな」という気にさせてくれます。
ただ、文中の会話で「。」が使われてないのが非常に大きなマイナス。
はっきり言って読みにくいです。
会話文で「。」を使ってはいけないのはカッコ閉じの直前のみであって
演出としてそう書かれてるのかも知れませんが、それにしても読みにくいかなと。
時に例の二体がデンドロビウムとサーバイン(今ならエスカフローネか?)に見えたのは私だけですか?(爆)