「せい! りゃぁ!」
流れる潮風が汗を吹き飛ばしていく。
俺は胴着を着て<汐海>の上甲板でいつもの修練を行っていた。
「艦長、おはようございます! 相変わらず頑張ってますね」
「ああ、副長おはよう。すっかり習慣に・・・なって・・・いるから・・・なっ!」
拳が風を切り、足蹴が唸りを上げる。
俺は沖田提督に引き取られた時、大怪我をしていた。
そのリハビリを兼ねて近くにあった名も知れない古流道場に通いはじめたのだ。
その頃、提督は前線勤務だったからほとんど家におらず、近くに住んでいた女の子とその家族の世話になっていた。
道場に通う事になったのも先に通っていた女の子に一緒に行こうと押し切られたのもあったが(汗)。
最初は惰性で通っていたがある事件を切っ掛けに真剣に習うようになった。
強く! もっと強く! 誰にも負けない力を!
才能もあったのかみるみる腕も上がり、師匠からも認められるようになった。
軍に入隊してからも時間が取れれば毎朝欠かさずラヂオ体操と修練を行っている。
「どうだ、副長。組み手でもやらないか?」
「いえ、遠慮させていただきます(汗)。私も海兵で格闘技はやりましたがすっかり腕が鈍ってますしね」
「そうかっ!」
仮想敵に正拳突きを叩き込んだ。
連合海軍物語
第6話 潜入作戦:雷
− 風雅島地下ドック −
終了まで4ヵ月かかったがようやく第七駆逐隊の改装も終わった。
改装を終え力強さを増した自艦を見て久保田が嬉しそうに頷いている。
「ふんふん〜♪ いや〜、ヤッパ、新品は良いよな!」
鼻歌混じりでとても上機嫌そうだ。
それもそのはず武装の換装だけでなく船体も時間をかけた
メンテナンスにより新品同然に戻っている。
「アンタ、はしゃぎすぎ」
「そうですよ、久保田くん。艦長たるもの泰然自若です」
「だーっ、そういう堅苦しいのはよ、大戦艦の艦長に任せておけば良いんだって。
こっちは駆逐艦乗りなんだからよ!」
「そういう問題じゃないと思うんですが・・・」
久保田の背後から怨の字が込められていそうな声色で声がかけられる。
「うぉ! 副長じゃねえか! ビックリさせるんじゃねえよ」
その声に飛び退る久保田。思いっきり冷や汗をかいている。
「どうしたの? 赤城副長」
「あ、失礼しました、ニュー艦長、ウィーバー艦長」
「で、どうしたんだよ」
「久保田艦長、何か忘れてませんか?」
「なにかあったか?」
いかにも思い当たる節はないといった感じで頭を捻っている。
その姿を見て溜息をつきつつ久保田に仕事内容を告げる。
相当疲れてそうな感じだ。
「はぁ・・・出航に当たって物資の積込・決済や艦の受領書類、
それから艦乗組員への査定、出航前の訓辞原稿の作成などなど
デスクワークがあるんですが、ま〜さ〜か〜私一人にやれ、
と言っている訳ではないですよね?」
ちなみに赤城副長の顔には下からライトが当たり(格納庫は多少薄暗い)、
背後からはなぜか和太鼓のひゅ〜どろどろろどろという音という音が聞こえてくる。
「・・・うっ!」
「あんた・・・また赤城副長に任せっぱなしなの?」
ニューとアレスがジトーっとした眼で睨らむ。
「い、いやそんな訳ねえって。ちょっとだけ気晴らしに艦を見に来ただけだ」
「艦長のちょっとは5時間も行方不明になる事を言うんですか?」
「・・・5時間って」
3人の視線がますます厳しくなる。
更に冷や汗をかき縮こまる久保田。
いつの間にか3人に囲まれ逃げることすら不可能になっている。
「なぁ、副長、俺にデスクワークは向いてねえんだって! 頭にヒポングリフ菌が回ってないんだよ」
「さぁ〜、お仕事が待っているんですから変な造語を作ってまで屁理屈をこねないでください」
「だからよぉ・・・」
「はいはい、それは分かりましたから・・・」
襟首を捕まれ引きずられていく久保田。
「な〜んかさ、意外に良いコンビじゃない? あの二人」
「そうですね」
微苦笑の混じった顔でうなずくアレス。
「しょうがないヤツは放っておいて。
これからどうなるんだろうね、私たち」
そう言って4ヵ月前に行われた乗組員全員を集めた駆逐隊司令による
説明会(主に久遠女史が説明していたが)を思い出している。
「遊撃実験艦隊ですからね、最前線に投入されるのは間違いないでしょう」
「やっぱりそうなのかな」
「旧式艦相手に装備の検証をしても意味ないですし」
「そうよねえ、やっぱり」
所属が変わろうと最前線に行く事には変わりがないって事ね。
装備が最新鋭になって生き延びられる確率が高くなったのは良い事なんだけど。
− 隼人 −
「はぁ・・・やっと改装が終わったか」
艦型が一変した<汐海>を眺め、くたびれた溜息をついた。
この4ヵ月間は新装備の特性と仕様、使用方法の勉強をしてきた。
寝る暇もなかったと言っても過言ではないくらいだ。
兵器の特性を知っていないと作戦が立てられないしな。
普通なら新装備は1つ、多くても2つくらいなのだが、
改装はやれる時にやってしまえという事でまとめて搭載する事になった。
戦況が深刻で時間がないというのもそうだが、
ドックは常に空けておかないと緊急時に他の艦が修理できないからだ。
しかも現在は小型艦艇用が埋まっており、
仕方なく大型艦用で4隻同時にやっていた訳だが当然大型艦用は数が少ない。
ドック運用側からすればさっさと追い出して、他の大型艦を修理したいだろう。
おかげで大回転で改装が施され、大は機関・主砲をはじめ小はトイレまであらゆる所に手が入れられた。
で、それら(主に装備)を憶えるのに必死だった訳だ。
搭載された装備で下手な軽巡洋艦を凌ぐ超駆逐艦になった。
改装前に搭載されていた兵器で残っているのは4連装40ミリ機銃くらいだ。
・65口径12.8cm連装対艦対空速射砲
主砲として搭載。
1門につき1分間に25発の射撃速度を誇り、装填・発射まで全自動化された。
・8cm誘導20連装噴進弾(簡易誘導型・人力装填)
さすがにあの「異形の黒」ほどの誘導精度はないが打ちっ放しの噴進弾と比べかなり命中率が上がった。
・5連装56cm誘導魚雷と対誘導魚雷用の囮(デコイ)
今まで積んでいた魚雷も簡易誘導装置はついていたが、
目標を見分けるフィルターの性能が悪く、
調整を誤ると波で誤爆したり明後日の方へ進んだりした。
その為、ほとんど誘導を使わず普通の魚雷として使用していた。
デコイは相手側の誘導魚雷からの防御に使われる。
音響追尾魚雷の場合などに有効で音を出す事で魚雷を囮に引きつける事ができる。
今回装備されたのは一回り直径が大きいが以前の物と同じ威力しかない。
なぜかというと先述したフィルターを改良した結果、
勢い電子部品の点数が増え射程距離や炸薬量などが減りそれを補う為、
より大型化してしまったんだ。
その分誘導装置はかなり信頼できる物になり打ちっ放しも可能になった。
・4連装40ミリ機銃×10
これは対空の他、魚雷や機雷を破壊するのにも使用できる。
新型ソナーからデータを受け取り自動で攻撃できるようになった。
・新型ソナー・レーダーと高速演算装置の搭載
ソナー・レーダーを高性能化した分、情報量が増え人力でデータを統合運用するには無理がある。
その為、高速演算装置を積み込み迅速にデータの統合運用を行えるようにしてある。
・機関の換装とDF発生装置
今までの機関と比べて4割向上。
この画期的新型機関は超兵器の技術を流用して作られたものだ。
それに伴いDFも使用可能になっているのは言うまでもない。
この機関を搭載することで過大な装備をしたにも関わらず、速力は48ノットと8ノットも上がった。
DFを使わず速力に回せば60ノット近い速度が出せる。
・出力向上に伴うスクリュー形状の見直し
速度の上がった理由にスクリュー形状の見直しもある。
高出力に伴うエネルギーを有効的に使うにはスクリュー形状の見直しも必要だった。
今までの3枚羽根から4枚羽根に替え形状を最適化させた。
このことにより2ノットの速度向上が見込まれる。
簡単に思い出せるだけでもこれだけある。
他に先述したDFの搭載によりトータル的な装甲強度も上がった。
側舷、水平装甲は以前の10センチ65口径防御のままだが、
DFを搭載する事で10%装甲強度を上げた状態になり、
結果的におおよそ12.8cm砲対応の防御力を持つ事になった。
さらにDFは艦全体を覆っているので装甲のなかった機銃座などを含めれば
10%以上の装甲を施した事になるだろう。
いかに新型機関とDFの存在が大きいか分かるってものだ。
また砲塔や機銃座の無人・自動化を進めたおかげで乗組員も
200名から150名ほどになった。
あまり減らすとダメコンで人が足りなくなるので極端な自動化を進めるのも懸念が残るんだけどね。
− <汐海>艦橋 −
「各員持ち場につけ」
「艦長、艦をドックから出します」
「了解」
「僚艦との衝突に注意!」
「ドック注水開始!」
<汐海>が改装されていた地下ドックから艦を外海に引き出すには少し面倒だ。
地下ドックと海面の水位差があるのでパナマ運河のように
閘門で仕切りさらに注水する事で徐々に海面へ上げていく事になる。
非常に面倒な作業だが重要な戦略目標である建造ドックをウィルシアから守るにはこうするしかない。
小型艦はそれ程でもないが、さすがに10万トン近い艦を上げようとすると数日かかる。
だが便利な点もあって移動の間に区画や水線下からの漏水チェックを行う事ができる。
水漏れがあった場合、本国の修理ドックで改修するという事をしている。
さすがに損害軽微な艦は本国にある修理用ドックで作業している。
この地底ドックは建艦時や大規模改装、
大損害を受けた艦が主に使用する。
いずれも艦底からの漏水チェックが欠かせないからだ。
「注水完了! 艦微速、第2閘門へ!」
半日をかけようやく外海へ出てきた。
「第七駆逐隊全艦は12バースへ」
「了解、12バースへ移動する」
指定された埠頭に横付けし、物資の積み込みに入る。
「いや〜4隻同時だから緊張したな」
「ええ、改装直後で衝突では洒落になりませんし」
− 沖田の執務室 −
「今回の任務だが敵港湾施設に対する味方戦艦の突入・戦略艦砲射撃の支援を行ってもらう。
護衛対象だがニホン海軍所属の周防級戦艦<ながと><むつ>だ。
あちらさんは駆逐艦が少ないので手を貸して欲しいとの依頼があった」
「ニホン海軍との共同作戦ですか」
先述した通りニホンとナーウィシアの関係はあまり良くない。
最初からナーウィシアと侮ってくる人間だとかなりやりづらい事になりそうだが。
「向こうの指揮官は荒々木一政(あららぎかずまさ)司令だな」
提督は手元の資料を見て司令官の名を口にする。
「どんな人間なんですか?」
「ウチの駆逐艦を貸して欲しいと頼んできた中将の懐刀だよ。
ナーウィシアを弟分と見なすようなケチな人間じゃない」
「そうですか戦(いくさ)前から険悪では成功する作戦も失敗しますから」
「まあな。実を言うとだな、断りきれんのもあるがその中将と誼を結んでおきたいんだ」
「それほどの実力者なんですか? その中将は」
「ああ、近い将来、ニホン海軍をまとめることになるだろう。
今後の事を考えると親密な付き合いがあった方が作戦がやりやすくなるんでな。
それと間接的だが「隼人」との関係もある」
「俺と?」
提督が「隼人」とプライベートな呼び方をしたので
つい普通通りに返答をしてしまう。
「以前ワシが言っていたお前のお見合相手の父親でもある」
「な・・・勝手に話を進めるなって!
それにおやじの腹づもりなら政略結婚じゃないか!」
「そうとも言うな。
いや、冗談はおいといてお前が気に入らなければその話はオシマイだ。
あくまでお見合いはおまけだがな」
そんな話を聞いた後だと断りづらいじゃないか。
意図的にそういう話のもっていき方をしているんじゃないだろうな(汗)
俺はそういう疑念をふっと思ってしまった。
「作戦の件に関しては了解しました。でもお見合いは勘弁してよ」
「美人でナイスバディで頭も気立ても良いし、お奨めなんだがなあ」
とひとしきりぼやいている。
そんなに上玉だったら提督がお見合いすれば良いのにと思うんだが。
「そういった事情でこちらも最新の装備を施した第七駆逐隊を派遣する事になった」
ったく相変わらず切り替えが早い性格なんだから。
「それとな、ナーウィシア独自の任務がある」
「独自の任務ですか?」
「ああ、今回艦砲射撃する港湾施設より少し離れた場所に超兵器関連の施設があるらしい。
そこへ混乱に乗じて諜報員を潜入させ超兵器情報の奪取を行う。作戦名は「雷」だ。
第七駆逐隊への合流はニホン海軍と合流時に行う」
「了解しました。ではその諜報員を内火艇で上陸させれば良いですね。
で、人数は何人ですか?」
「突入作戦時は一人だが、潜入後にもう1人と合流する」
「実質二人ですか、少なすぎませんか?」
「ナーウィシア情報部、腕利きの秘蔵っ子だそうだ。
それに潜入作戦だからな、数は少ない方が悟られにくい」
「へえ、そういう物なんですか」
情報の大事さは分かっているが諜報戦は範囲外なので良く分からない。
少しは勉強した方が良いんだろうか。
「ワシも昔、諜報戦を何度もやったんでな」
「え? 提督が諜報戦って・・・前線勤務でもそんな事があるんですか?」
「作戦の都合上たまたまだ」
「そうですか。では第七駆逐隊出撃します!」
敬礼。
− 瑞葉 −
第七駆逐隊はニホン海軍との合同地点、フィリピン沖に停泊している。
「なんか・・・艦長疲れてません?」
「ん、いろいろあるんだよ」
そういって外を見ながら黄昏れている。
航海中何か思い悩んでいる顔していたけどどうしたんダロ?
− 隼人 −
「艦長、今回の作戦要員が合流しました」
「そうか、で?」
「隼人さん! お久しぶりです(にこり)」
そう言って艦橋に入ってきたのは黒いスーツにサングラスをかけた長身の女性だった。
「え〜と、どちらさまでしたっけ?(汗)」
仕方ないなあといった感じで、サングラスを外す彼女。
「あ、あの時ぶつかった人! すいません大丈夫でしたか?」
「ええ、もちろん大丈夫。でも、それだけじゃないでしょ?」
それだけって・・・他になにかあったっけ?
俺はその時の状況を思い出す。
− 風雅島市街地 −
「はぁはぁ・・・ここまでくれば大丈夫か」
俺は物陰に身を寄せ襲い掛かってきた女難を避ける。
ふう、ここに隠れられなければ「お花畑」を見ていたところだ。
「も〜、艦〜長は!」
「はぁはぁ、隼人くんって足が早いわね」
「こういう時の逃げ足は早いンだから」
瑞葉クンと愛さんの2人は回りを見回しつつこの場所を離れていく。
さて、どうしてこういう状況になったかというと。
艦の改装も終り新装備の勉強も一段落つき、ようやく休暇が取れたのだ。
当然、彼女たちがお誘いにきたんだが・・・。
オヤジから話のあったお見合の事を考えていて、
瑞葉クンと愛さんの話を上の空で聞いていたんだよね。
で、つい適当にウンウンとうなずいていたらいつの間にかこういう状況になってた(汗)。
どうも約束がダブルブッキングになってしまったようで、
最初は彼女たちがどちらが優先という話あいがあったんだが決着がつかず、
俺に決めてもらうという話になってしまった(汗)。
俺が悪いのは分かっているんだが、
そういった話があって一緒に買い物に行ったり映画を見たりする気分じゃないし。
ま〜売り言葉に買い言葉的な応酬があり、かくしてこの逃走劇が起こったという訳だ。
「さ、今のうちに距離をとらないと」
俺は隠れていた場所から飛び出し、全力で駆け出そうとして人にぶつかってしまった。
ドン!
「うわっ!」
「きゃ!」
「あ、すみません、大丈夫ですか?」
思いっきりぶつかって倒れた拍子にその人のサングラスとバッグが落ちてしまった。
落ちてしまったバッグとサングラスを拾い見る。良かった、壊れてはいないようだ。
余談だがナーウィシアは熱帯のため日光が強く、サングラスをかけている人が多いんだよ。
お、これって有名なサングラスデザイナー、ナオ・ヤガミの新作じゃないか。
デザインの良さもそうだが頑丈さがウリなんだよな、高いけど。
デザイナー本人の趣味が日曜大工で、手先が器用だから趣味もかねて1個1個手作りって話だし。
「も〜、痛いなぁ、ちょっと、気をつけてよね」
「すみません、急いでいたもので」
尻餅をついた彼女に手を貸し、拾ったバッグとサングラスを渡す。
彼女は服についたゴミを払いつつなぜかお礼を言う。
「あ、荷物拾ってくれてアリガト」
「いえ、ぶつかったのは俺ですから。すみませんでした」
そう言って頭を下げ彼女の顔を見る。
「「あれ? どっかで・・・」」
目の前の彼女に慨視感を覚える。
この鳶色の目とか、全体の雰囲気とか・・・誰だっけ。
「「ふ〜う、そんな訳ないか」」
なんだか同じような溜息を出し同じ台詞を言う。
2人して同じ事を考えていたみたいだ。
「ア〜! 艦長、見つけた!」
しまった! 見つかったか。
「またナンパしているのね、隼人くん!」
「ですから誤解ですって!」
「「問答無用!」」
あ〜、2人とも完全に頭に血が上っているな。
こういう場合、話あいをしても無駄だ、逃げるに限る。
「すみません、急用ができたので失礼します。
もし壊れていたりとかあったら第七駆逐隊の双岳隼人を訪ねてきてください! じゃ」
しゅたっと手を上げ全速力でこの場から逃げ出す!
彼女の脇をすり抜け凄い勢いでその後を追いかける瑞葉と愛。
「「マテ〜!」」
「え? 双岳隼人って・・・やっぱり!」
− <汐海>艦橋 −
「ええ、もちろん大丈夫。でも、それだけじゃないでしょ?」
彼女の「それだけでない」というセリフに殺気立ち、
俺の後ろではいつものメンツが冷ややかな視線を送ってきた。
あの・・・後ろの視線が痛いんですが(汗)。
「しょうがないなあ。ねえ、隼人ちゃん本当に気づかないの?」
そう言ってさらに俺の顔を覗き込み見つめる。
おれも彼女の顔を見返す。
あれ? どこかで・・・先日ぶつかった時が最初のはずなのに、
それ以前から見たことがある顔のような?
意志の強さを感じる綺麗な鳶色の目をしている。
俺は真剣に考えこんだ。
こんな美人、知り合いにいたっけかな。
「隼人ちゃん?・・・って。あ! 彩ねぇ・・・」
「隼人ちゃん」と言われてようやく気づいた。
俺を「ちゃん」づけで呼ぶような女性は一人しかいない。
幼馴染の西堂 彩ちゃんだ。
「そう呼ばない!」
凄まじい勢いで繰り出される蹴りをモロに受けて壁まで吹き飛ぶ。
「ぐわっ!」
「も〜、何度も言っているでしょ。学習能力がないな、隼人ちゃんは」
「ア〜、艦長!」
「ちょっと・・・隼人くん、大丈夫? あなた、いきなり蹴飛ばすなんて酷いんじゃない?」
いきなり蹴り飛ばされたんでさすがに心配してくれたみたいだな。
ちなみに副長は関わり合いになると命が危ないと思っているのか
冷汗をかきながら静観している。
「あたたた、大丈夫です。でも、少しは手加減してよ、彩ちゃん」
「艦長の親類なんですかァ? さっき姉さんって言いかけてみたいだけど?」
「いや、親類って訳じゃないよ。ええと・・・いちおう幼馴染みってやつかな」
「いちおう?(ギロっ)」
「いえ、幼馴染みでございます(汗)」
冷や汗を流して肯定する俺。
なんか尻に敷かれてるっていうか、理由があって逆らえないっていう感じ(汗)
「初めまして、西堂 彩です。
ちょっと順番が違ったけど、今回の諜報員潜入作戦【雷】の作戦要員です」
「あ、アナタが司令部の言っていた諜報員さん?」
「それにしては諜報員ってイメージそのまんまって感じね」
「ま、今日は顔合わせなんで、そういう風に見えるようにって感じの服装を着てきたから(苦笑)」
「でも、よく似合ってますよぉ。格好良いです」
ちなみに彩ちゃんは日系には珍しく赤毛だ。
腰まである赤髪は太陽に透かすと深紅と言っても良いくらい赤みを帯びている。
その長い髪をゴムで首の辺りで緩くしばっている。
女性としては長身(170センチ)の身体を上下黒のスーツで包んでいる。
やや痩せ気味だが鍛えられた筋肉を感じさせる体つきは牝豹を思い起こさせる。
それとさっき外したお約束の黒いサングラス。
「で、艦長? 説明してくれる?」
冷ややかな目つきで説明を求める愛さん。
別にやましい関係じゃないんだけどなあ。
「ああ、俺がガキの頃住んでいた家のお隣さんっていうのと通っていた武道道場の先輩です。
兄弟子ならぬ姉弟子なんですよ、なんでつい彩姉って」
「年齢もワタシの方が1つだけど年上ですね」
「へぇ〜、じゃ艦長と同門なんですか。昔から艦長って強かったんですかぁ?」
「隼人ちゃん? 弱かったよ。虐められっ子だったし」
「ええっ、艦長が虐められっ子? 信じられないなあ。
確かに女性にはからきし弱いのは分かるけど」
「あの・・・瑞葉クン、確かに女性に弱いのは認めるけど。
それに彩ちゃん、そういう事言っちゃうと艦長としての威厳ってものが・・・(汗)」
「なにか言った?(にっこり)」
「いえいえ、ナニも言ってないデス」
言葉遣いが瑞葉クンのようになってしまう。
自然に冷汗が出ていつの間にか後退しているし。
「で、ワタシがかばってあげたんだ」
「・・・」
ここで真実を語ろうものなら俺の命はあるまい。
「ま、いろいろな意味で当時は弱かったからな(苦笑)」
「って事は艦長より強いってこと?」
「んー、あの当時はワタシの方が強かったけど」
「そうだな、当時の通り名が深紅の羅せ・・・」
ドガッ!
いきなり吹き飛ぶ俺、また余計な事を言ったのかな。
激痛を感じつつ妙に冷静になって考えているあたり余裕があるのか。
「そういう危ない通り名を言わない!(汗)」
「なにそれ、深紅の・・・って?」
「ワタシ赤髪でしょ、それと合わせるのに赤色の服を良く着ていたのよ。
だからそんな変な通り名が付いたみたいなんだけど」
「ヘェ〜そうなんですか。
アタシはてっきり返り血で真っ赤になったからそんな渾名がついたのかと」
「ま、数回そんな事もあったけどな(笑)」
つい事実を述べる俺。言ってから気づいてしまった。
しまった、余計な事を言っちまった!
「古流八式、八龍顎連環掌!」
ドガッ!ドガッ!ドガガッ!
そして見事に決まる技。
吹き飛ぶ俺、壁につっこむ。
「口は・・・災いの元(がくっ)」
「なんか艦長が痙攣しているんデスけどぉ?(汗)」
「あれはかなり効いているわね(汗)」
「放っておいて良いわよ、バカなんだから!」
− 隼人 −
「古流八式、八龍顎連環掌!」
げっ! まずい、彩ちゃんの最大技だ。
身軽な彩ちゃんの流れるように円を描く体裁きで的確に人体の急所に撃ち込まれる拳、掌打、抜手の8連撃!
くっ、昔より全然速い!
このスピードでは全ての技を確実に受けようとしても・・・間に合わん!
なら確実に急所を狙ってくる打突に若干の攻撃を当て向きを変えて急所から逸らす。
それなら最小限の動きですべての技に対応できるはずだ。
でも、急所を外してもやっぱり痛いよ(泣)
− 彩 −
「いててて、本気で撃ち込むなって」
むくりと起きあがり文句を言う隼人ちゃん。
「え? 確実に入ったはずなのに!」
確かに手応えはあった・・・けど。
ああ、そうか。
ワタシの攻撃を逸らして急所を外していたんだ。
相変わらず味な真似してくれるなあ。
− 隼人 −
「いちおう軽くは捌いていたからね」
「隼人ちゃん、鍛錬欠かさずやってるみたいね?」
ちぇっ、やられたといった顔で確認してくる。
「ああ、もちろんやっているよ。もう負けたくないからな」
「そっか、良い子良い子」
そう言って嬉しそうに俺の頭を撫でるアヤちゃん。
「いい歳した男にそれはやめてくれ(苦笑)」
「そう? がんばっているご褒美なんだけど?(笑)」
「ねえちゃんには勝てないよ」
「当たり前よ」
そう言って華やかに笑う。
俺は彩ちゃんを見る。高校3年の卒業と同時に軍学校に行って以来だから5年か、
すっかり化粧も巧くなり女らしくなっている、本当に化粧をすると雰囲気変わるな。
おかげですっかり見た目も変わって最初は思い出せなかったし。
「でも・・・綺麗になったね、彩ちゃん」
「・・・ありがと(赤)」
赤くなりうつむいてしまう。
こういったところは昔と変わらない。
「「ムムッ」」
− 副長 −
それを不満そうに眺めている二人。
なかなか良い雰囲気の艦長と西堂さんだが、
波乱がおきなきゃ良いんですけどねえ、とばっちり食うのは艦長なんですからね頼みますよ、ホント。
− あとがきという名の戯言 −
隼人:最後まで読んで下さった方ありがとうございます。
沖田:ようやく7話、本編は6話まできたな。
隼人:あ、沖田提督。今回は提督ですか。
沖田:そのようだな
隼人:そうですね〜ようやく6話ですが、プロットの1/5ですからね。ゲームで言えばようやくA3〜4エリアが終わったところですか。
沖田:その割には作戦が違っているぞ(鋼鉄2の完全攻略マニュアルを見ている)
隼人:すでに参考程度にしか考えてません、あの設定だと超兵器と戦うまでに10話も通常型の艦と戦う作戦が続きますし。
それに1話で2作戦分をまとめているんですよ。
沖田:なぜだ?
隼人:簡単に言うと作者が書ききれないんです(汗)。
特に駆逐艦の場合、多目的に使用されるので戦いを書くのに色々頭を捻らないといけない訳で。
戦艦だと装備にもよりますが用法が限られてくるので定型パターンがあって楽なんです。
沖田:逆に言うとそれだけバリエーションが作れて書きやすくはないか?
戦艦の場合は基本的に「撃つ」のが主体になる、マンネリになりかねないぞ?
隼人:わかってはいるんですけどね、そういうとこが作者の力量の無さというやつで(涙)
沖田:困った奴だな、作者は
隼人:本来一部の現世型を除けば量産されていないので、頻繁に出会う訳ないんですけどね。
まあ、他の艦種も量産はされつつあるんですが。
沖田:話の盛り上がりを考えると10話に1回では厳しいか
隼人:ええ。最初は5話くらいづつで考えていたんですがそれでも厳しいので2〜3話に1回くらいづつにならないかと
沖田:それで本当に終わるのか?
隼人:そうですね・・・最悪禁じ手ですが短編のようにして、通常戦闘は全て飛ばし超兵器戦とキャライベントだけやるという方法も考えてます。
これだとせっかく作った背景がほとんど意味が無くなってしまうんですが。
沖田:うーむ、難しいところだな。
隼人:それとお約束の展開をした外伝(笑)の存在がありますからそちらも本編にまとめないと。
沖田:大風呂敷広げすぎだ(苦笑)
隼人:そうですね、まったくです(涙)
沖田:外伝も艦隊戦があるのか?
隼人:外伝に超兵器は出てきますが艦隊戦はありません、純粋にキャラ同士の話というか本編の裏話です。
沖田:そうか。だが明人は使いづらくないか?
隼人:確かに使いづらいです。彼は軍が嫌いなので入隊しないでしょうしね、特に黒明人の場合ならなおさらでしょう。
沖田:慕ってくれるマシンチャイルドがいなければお得意の機動兵器もない
隼人:おまけにこの世界には跳躍石とフィールド発生装置もないのでジャンプは不可、
本当にないないづくしで諜報戦と個人戦闘技に優れているという普通の人間です。
沖田:それで話がまとまるか不安になるな。
隼人:まぁ〜何とか頑張りますよ
沖田:そろそろ時間のようだな。
隼人:では次の戯言でお会いしましょう!
代理人の感想
つーか、出す意味がどれほどあるのかと(爆)>黒アキト
まぁ、それは話が進んでからでもいいですけど・・・・・やっぱ動かないなぁ。
戦闘シーンが戦艦同士の戦闘と言う気がしないのも問題ですしね。
そっちの小説はあまり読んでないんで偉そうなことはいえないんですが。
では。