翌日10:32
「〈白虎〉の攻撃、終了しました」
「戦果は?」
俺は気になっていた結果を聞いてみる。
「敵〈ワスプ級航空母艦〉撃沈、護衛していた駆逐艦4隻も沈めたそうです。被害は航空機12機」
「容赦がないな、全艦沈没か」
「戦力が違いすぎます。
〈ワスプ級〉は搭載50機ですが〈飛天〉だけでも70機、〈蒼龍〉まで含めれば130機です」
「3倍近い戦力差があったんじゃフクロ叩きですよネェ」
「それもそうだな。
よし、これで空からの攻撃はなくなった。安心して作戦が行えるな」
「ええ」
「瑞葉クン、〈ながと〉に通信、敵機動部隊を壊滅だ」
「了解!」
− 汐海 −
「レーダーに小型艦20確認、魚雷艇のようです!」
「第七駆逐隊、迎撃開始。突撃、我に続け!」
ワタシはその声を聞き隼人ちゃんを見る。
いつものイメージからは想像できない、凛々しい顔をした男がいた。
隼人ちゃんて・・・こんな格好良い人だったんだ。
昔の気弱なイメージが残っているワタシはちょっと驚いてしまう。
そんなワタシの視線を受けて隼人ちゃんが聞いてくる。
「どうしたの、やっぱり怖い?」
ワタシを安心させるように笑いかける。
その顔を見て頬が熱くなるのが分かった。
慌てて顔を外に向け隼人ちゃんに見られないようにする。
「んん、平気。大丈夫(赤)」
小娘じゃあるまいし、なんで笑顔を向けられただけで顔が赤くなるのよ。
− 瑞葉 −
「どうしたの、やっぱり怖い?」
「んん、平気。大丈夫(赤)」
艦長と彩さんのやりとりが聞こえたので仕事をこなしながら何気に彩さんの顔を見る。
あ、艦長に笑顔を向けられ彩さんの顔が赤くなっている。
もー! 艦長ってばッ!
自分では自覚してないんだろうけど、あの笑顔は反則なんだからネ!
ぎゅーっとしたくなっちゃうような笑顔なんだから。
連合海軍物語
第8話 バターン攻略
− 汐海 −
そこかしこから襲いかかってくる魚雷艇に向け主砲と40ミリ機銃を撃ち迎撃する。
そのうち2隻が攻撃の手を逃れ搭載していた魚雷を発射した。
海中に躍り込んだ2本の魚雷が〈ながと〉に忍び寄っていく。
「くそっ、良いタイミングで撃つじゃないか!」
俺は汐海を全速で走らせつつソナーを打ち進んでくる魚雷の航跡データをとる。
艦を魚雷との間に割り込ませ先に取ったデータを元に片舷5基ある40ミリ機銃を魚雷に向け射撃する。
ズズン!
「魚雷撃破!」
「残りの魚雷艇はどうだ」
「まだ少し残ってますね、早いところ片付けて護衛に戻りましょう」
− ながと −
一方、〈ながと〉と〈むつ〉は全速で港湾施設に向け爆走している。
満載で9万トン近い艦が波を押し潰し33ノットで疾駆する姿は凄まじい迫力だ。
「主砲、射程内に入りました」
「距離2万まで近づく」
「右舷砲門開け」
巨大な3基ある砲塔がゆっくりと右舷に向き、砲身が若干上を向く。
51センチ砲にとって2万メートルなど大した距離ではない為、仰角はそれほどでもない。
「撃て!」
周防級2隻合計18門の51センチが咆哮する!
潜水艦が格納されている場所に砲弾が次々と降り注ぎ爆発を起こす。
だが格納庫に使われているベトンはかなりの厚さがあるのか
主砲弾の炸裂以外の火柱は上がらない。
前後2基装備されている15センチ副砲6門は徹甲瑠弾を使用し主に港湾施設を射撃している。
その周囲を4隻のニホン海軍〈風〉級駆逐艦が警戒しつつ主砲で同じように港湾施設を砲撃していた。
− 汐海 −
「〈ながと〉〈むつ〉艦砲射撃開始しました」
「よし。魚雷艇はあらかたカタがついたみたいだな、こちらの任務を遂行しようか。
〈ながと〉に通信! 【山間に白百合咲く】だ」
「了解!」
すでに情報部によって上陸可能な場所が特定してある。
俺は艦をギリギリまで岸に寄せ短艇を降ろす準備をする。
3隻の僚艦は敵の襲撃を警戒し汐海を守るように遊弋。
「じゃ、隼人ちゃん行って来るね」
「わかった、気をつけてね」
俺が心配そうな顔をしていたのか彩ちゃんが安心させるように手を差し出してきた。
俺はその手をそっと握り彼女を送り出す。
「大丈夫だから心配しないで」
「わかっているよ」
彼女は身軽に短艇に乗りこむ。
汐海から短艇をゆっくり降ろし彩ちゃんを乗せた短艇は岸に向かっていく。
少しの間見送っていたがのんびりしている暇はなかったんだな。
「ちょっと心配ですね、艦長」
「ああ、だが彼女も軍人だ。任務成功を祈ろう」
「ええ」
戻ってきた短艇を収容しニホン艦隊の護衛任務に戻るべく進路を向けたところでソナーから報告がきた。
− 汐海 −
「艦長! ソナー感ありです! 反応・・・これはっ!」
ソナーマンが慌てた様子で報告をあげてくる。
「どうした!」
「反応とても大きです、速度・・・42ノット」
「42ノットか」
この巨体でこのスピードは・・・やはり超兵器が現れたか!
俺はニホン海軍に警告を発すべく命令する。
「旗艦〈ながと〉に通信! 超兵器襲来、第七駆逐隊は迎撃に向かう」
「了解!」
− ながと −
「〈汐海〉から通信です、超兵器襲来との事です」
「そうか・・・やはりいたのか。潜水艦基地の破壊具合はどうだ?」
徹底的な艦砲射撃を受け港湾施設は火の海になっている。
いたる処で爆発を起こし黒煙が立ち上り被害が拡大していく。
「4つある内の3つは破壊しました。港湾施設は80%といったところでしょうか」
「もう少し時間がかかるか。
〈汐海〉に通信、作戦遂行までしばし時間を要す、
それと不明艦が潜水艦か戦艦か確認できるか聞いてくれ。
その返答待ちの間に基地を叩き潰すぞ」
「了解! 引き続き主砲全砲門斉射!」
「第36射、撃ぇ!」
51センチ砲が爆炎を吐きだし、音速を超えるスピードで砲弾が基地に向かっていく。
− アレス −
ソナーマンが慎重に聴音機を操り、不明艦のデータを集めていく。
「・・・4軸か、これは」
ソナーマンが振り向きアレスを見る。
「どうです?」
「んー、スクリュー音は4軸です。潜水艦ってよりは戦艦に近いような感じです」
「より戦艦に近いですか。
データベースにあった超兵器・潜水戦艦ドレッドノート級かもしれませんね。
ソナー、スクリュー音の記録は?」
「録音済みですよ」
霞兵曹長が当然とばかりに返答する。
「さすがですね(笑)」
「兵装はどうします?」
坂田副長が聞いてくる。
「誘導魚雷をセット。
まずは潜水できないようにしてあとはニホン海軍にまかせた方が良いでしょうね」
もし戦艦だとしたら、やっかいな相手ですね。
この艦の武装で撃破できるか微妙です、なにしろトンデモ艦の超兵器ですしね。
− 汐海 −
〈汐海〉は不明艦にむけDFを有効にして出せる最大戦速48ノットでまっしぐらに突撃していた。
艦首が波を切り裂き艦橋にまで海水が飛んでくる。
後続の3隻も遅れずについてきている。
「誘導魚雷セット! 雷速は最大。目標潜水中の不明艦」
俺は兵装の準備を整えつつ、作戦を考える。
「感度はどうしますか!」
「高で良い、あれだけの巨体だ、ロストする事は少ないだろう。
それと爆雷投射も準備だ、魚雷を次発装填しつつ爆雷で攻撃する」
「了解!」
− 久保田 −
「敵艦からの魚雷発射音確認! 音源6つです」
「デコイを出せ!」
デコイが海中に投げ込まれ欺瞞音を撒き散らす。
その音に反応して4発がそちらに向かう。
「残り2発、こっちに向かってきます」
くそっ、さすがに全部は引き受けてくれねえか。
「機銃群の準備はどうだ?」
「ソナーデータの読み込み完了! いつでもいけますよ」
「さあ、散々居残り自習したんだ、結果をバケモノに見せてやるぞ!」
久保田が艦橋で仁王立ちし、吠える!
「もちろんですよ!」
打てば響くように赤城副長が答えている、
実はこの人も熱血なのかもしれない。
− 〈汐海〉 −
「さらに敵艦からの噴進弾を確認!」
「水中から撃ってきただと?」
驚きの声を上げる副長。
「相変わらずトンデモ艦なんデスね」
呆れたように頭を振っている瑞葉クン。
まったくだよ、本当に。
「こっちも噴進弾で迎撃できるか?」
俺は新装備を使うべく噴進長に聞いてみる。
「噴進弾自体を直接狙うって事はできませんが、
弾頭に近接信管が入ってますから迎撃は可能です」
「そうか迎撃開始!」
〈汐海〉の艦上に設置された8センチ簡易誘導噴進弾が発射される。
ババババッ!
近接信管が敵噴進弾をキャッチし次々と近接信管が作動、爆発して弾幕を構成する。
その中に敵の噴進弾が飛び込み爆発する。
「なんとか上手くいったみたいだな」
「数が少なかったのも幸いでしたね」
「ああ、そうだな。レーダー、敵との距離は?」
「距離1万」
「ちっ、誘導を使うには距離があるな。
DF解除、最大戦速で敵誘導魚雷を振り切り距離を詰める。
こちらも距離7000で誘導魚雷の一斉投射だ」
「各艦DF解除、最大戦速で7000まで突撃、統制魚雷戦準備」
− ニュー −
「旗艦から通信、DF解除、最大戦速で7000まで突撃、統制魚雷戦です」
「最大戦速! 魚雷準備できている?」
「もちろんですよ、いつでもいけます」
「さあ、この艦の力を見せる時がきたのね」
あれだけ訓練したんだもの、そう簡単にやられはしないわ。
− ながと −
「〈汐海〉から返信きました!
敵は現在潜航中、4軸推進という事が判明、
戦艦の可能性大だそうです」
戦艦か、一体どのくらいのサイズの主砲を持っているかだな。
同じレベルなら〈ながと〉〈むつ〉2隻で多少こちらが有利だ。
だが向こうは超兵器、確実にDFを持っている。
51センチ砲が通じるか・・・。
「そうか。迎撃に間に合うか?」
「ちょっと待ってください・・・最後の潜水艦格納庫・・・爆発確認!」
高々と火柱と黒煙が吹き上がり元は潜水艦だった破片が飛び散る。
「よ〜し、最大戦速で第七駆逐隊のいる海域へ」
「了解、最大戦速!」
「ナーウィシア海軍に遅れをとるな、ニホン海軍の力を見せるぞ!」
− 久保田 −
迫りくる魚雷に向けソナーからデータを受け取った機銃が猛射される。
1、2、3、4秒
ズズン!
「魚雷1生きてます!」
「くそっ、追試かよ!
取舵30! DF解除、最大戦速で振り切るぞ」
「DF解除、最大戦速」
DFが切られ徐々に艦速が上がっていく。
だが速度が上がりきる前に魚雷がさらに近づいてくる。
オレは浮き出た汗をぬぐう。
畜生、間に合ってくれよ。
「引き続き追試だ、諦めんなよ!」
「艦長・・・戦闘中なんですが。あんまり嫌な事思い出せないでくださいよ」
「わりい、いつもそうだったんでな」
「すみません」
深々と頭を下げる赤城副長。
「ほっとけ!」
ズズン!
40ミリ機銃が最後の1本を撃破した。
この緊迫した場面でジョークが出る、まだまだ余裕がありそうな2人だった。
− 汐海 −
「距離7000!」
「魚雷撃ぇ!」
艦上から次々と海中へ投射される誘導魚雷。
〈汐海〉に続き3隻の僚艦から次々と投射されていく。
20本の誘導魚雷が海中を驀進、
その先には青黒い迷彩をした巨大な艦がいた。
その巨体・・・全長300メートル、全幅30メートル。
大きさを除けば飛び出した潜水艦橋や艦首にある潜舵翼などシルエットは普通の潜水艦のように見える。
− ドレッドノート級潜水戦艦アイオワ −
「魚雷発射確認、誘導20です」
「ふん、やりやがるな、上の駆逐隊は」
潜水中の艦も狙える魚雷か、どうも新型を投入してきたようだな。
「そのようです、ブラウン艦長どうされます?」
「有線アンチ魚雷セット。前部6門発射後、後部6門だ。デコイも準備しておけ」
「イエス、サー!」
次々に発射手順を整える乗組員、錬度も高い。
俺は乗り組み員の錬度を見て満足感を覚える。
この太平洋に配備されて半年、訓練・実戦を繰り返し錬度を上げてきた。
今までの連合海軍は潜水中の艦に対して効果的な装備をもたずこの〈アイオワ〉に挑んできた。
もっとも今回の敵は楽をさせてくれそうにない。
「ファイア!」
迫りくる魚雷に向け前部魚雷発射管から有線アンチ魚雷が発射される。
「データ送信良好、敵魚雷捕らえました」
「ワイヤー切断、反転180度」
有線が切断され青黒い巨体がそのサイズに見合わないほど素早く反転する。
「反転180度、サー」
「後部全門発射! 続いてデコイ」
「イエスサー! 後部アンチ魚雷、ファイア!」
− 汐海 −
「敵魚雷発射、6つ。続いて・・・6つです!」
「12門? 次発装填にしては早いですね」
あの巨体とはいえ前部に12門もの発射管を持っているとは思えない。
「ああ、反転したのかな」
「敵魚雷、こちらの魚雷に向け・・・なっ!」
ズズズーン!
艦底ごしに魚雷の撃破音が伝わってくる。
「こちらの魚雷、6つ撃破、さらに6つ撃破されました、残り8つです」
「なんてこった! 水中の魚雷まで迎撃できるのか」
俺は相手のトンデモぶりに頭を抱えたくなるが、
冗談抜きで何とかしないとまずい。
「敵艦、何かを投射、この音は・・・デコイです!」
デコイの発するより強い欺瞞音に導かれ敵艦の向かうはずの魚雷が進路を変える。
ズズン、ズズン
「デコイに4発、残り4発ですが魚雷発射音確認!」
「こりゃ、駄目そうですね」
「くそっ、誘導は無理か。さらに距離を詰めて爆雷戦」
「了解」
− アイオワ −
「敵魚雷全撃破しました」
「危なかったな」
俺は出てきた額の冷や汗をぬぐう。
同じようにアイン副長も汗をぬぐっている。
「ええ、もう少し魚雷の速度が速かったら間に合いませんでしたよ」
「こっちの魚雷と対艦VLSは」
「迎撃されたようです」
「そうか2つとも大してアテにはできんか」
「連携も良いし、だいぶ良い物(システム)を積んでいるようです、精鋭ですかね」
「誘導魚雷も装備していた、そうかもしれん。
こっちは戦艦だ、浮上して叩き潰すのもいいが、水中にいる有利さを捨てる必要もない。どうするか」
通商破壊に出ている内に基地を破壊された以上、最低ニホン海軍の戦艦くらいは沈めないとな。
手強い強敵をまともに相手をするより弱い敵を先に食う方が良いだろうか。
「上の駆逐隊を振り切れるか?」
俺はこの作戦が実行できるか、その肝となりそうな上にいる駆逐隊の事を聞いてみる。
「無理ですね、先ほどのソナー結果ですが最大で60ノット近いスピードが出てますよ」
「おいおい、向こうの駆逐艦もバケモノか」
「それに近いって事ですよね、浮上しますか?」
「仕方ない、相手は駆逐艦だ。浮上して砲撃戦に移る」
「イエス、サー」
− 瑞葉 −
「敵艦急速浮上!」
「おおおうっ!」
「うわ〜!」
その報告が終わる前に巨鯨のように海中から空中へ踊り出てくる敵艦。
その巨体が水上を突き抜け空を舞うのは凄い迫力で、つい仕事を忘れて見入ってしまった。
まるで・・・白鯨を見ているみたい。
でも現実はそんなお話など嘲笑う。
盛大な水しぶきと共に着水した艦の前甲板が開いて2基の砲塔が出てきた。
ホントに潜水戦艦なんて艦種だったんだ!
アタシは溜息をついて仕事に戻る。
− 汐海 −
「目標、敵潜水戦艦、撃ぇ!」
〈汐海〉の12.8センチ主砲があの戦艦にどれだけ効くかわからないが統制射撃で弾を撃ち込んでいく。
25発/分の発射速度を誇る砲が甲高い射撃音を奏でつつ咆哮する。
ガンガン!
だが〈汐海〉の放った砲弾は数発を除き弾かれてしまう。
その数発も敵艦に大したダメージは与えていない。
せいぜい装甲に凹みを作ったくらいだろう。
「駄目です、敵はディストーションフィールドを搭載してます!」
「くっ、何発か当たったがほとんど効いてない。
これじゃあまともな被害を与えるには大口径砲しか通用しないのか」
「敵艦発砲! これは・・・!?」
巨体から眩しい光源が集まったと思った瞬間、アイスキャンディーのようなものが飛んできて瞬時に〈汐海〉に着弾する!
「うわっ!」
皆、体を床に投げ出し目を瞑る。
1、2、3秒・・・だがいつまでたっても爆発どころか衝撃がもこない。
そっと目を開け、立ち上がり艦橋から外を見る。
艦はどこもやられていない、無事みたいだな。
「汐風より報告、敵艦はレーザー兵器を発射したそうです。
どうも・・・DFで防げたようですね」
冷や汗をかきつつ立ち上がった副長が報告してくる。
「も〜、寿命が縮みましたヨ」
「さすがに今のは死んだかと思ったな」
− アイオワ −
「敵駆逐艦、レーザーをはじきました、DFです!」
「おいおい、やっぱり超兵器もどきかよ」
せっかくの奥の手も防がれちまったか。
あとはこの艦の36センチ砲で殴り合いしかないな。
「でも駆逐艦で幸いでしたよ。
向こうの載せられる小さい主砲では余程じゃない限りこっちのDFは貫けませんからね」
「そうだな。手早く沈めて大口径砲を積んでいる周防級を相手にしないとな」
俺は直接打撃砲戦を準備するように命じた。
− 汐海 −
「どうする、このままじゃ手詰まりだ」
「おそらくこの艦の持っている兵装ではあのDFは貫けないですね」
「〈ながと〉は?」
「あと10分でこの海域に到着します!」
「向こうを誘き出して距離をつめよう」
− アイオワ −
艦橋の前にある中甲板に設置されていた65口径36センチ砲が敵駆逐隊にゆっくりと向いていく。
「主砲、ファイア!」
ズズズーン!
敵駆逐隊に発砲したところでアイオワの前方に巨大な水柱が立ち上る。
「新たな敵確認、戦艦2・駆逐艦4、距離4万」
「ジャップめ、きやがったな、急速潜航!」
「了解、急速潜航」
前部装甲板が閉じ艦首が海に沈みこみ巨体が急速に沈降していく。
「現在深度150」
「仕方ない、できれば使いたくはなかったが超音速魚雷だ」
「本物のコピー兵器ですが大丈夫ですかね」
副長が疑念を示すのも無理はない。
もともとこの超音速魚雷はこの艦の元となったオリジナルの超兵器に積まれていた装備だ。
本物は名前の通り音速を超える雷速と誘導装置を持っている。
この艦に積まれているのは速度のみを真似した魚雷、
だが技術不足によりオリジナルのコピーすらできずオリジナルほどの速度も出ない。
信頼性も低く兵器としてはまだまだ改良が必要だ、本来ならこんな場で使いたくないのは当然だろう。
「だから使いたくなかったんだよ。
それに普通の誘導魚雷ではあの駆逐隊に阻止されてしまう」
「わかりました、超音速魚雷用意!」
「まず後部6門で誘導魚雷発射後、反転180度、
敵戦艦に向けて全速突撃、途中で前部4門に装填した音速魚雷を撃つ」
「目標、敵戦艦後部6門、ファイア!」
「反転180度、全速!」
− 汐海 −
「敵艦魚雷発射音! 目標は〈ながと〉のようです。
さらに敵艦反転、〈ながと〉に向けて突撃」
「くそっ、このままじゃ〈ながと〉〈むつ〉がやばい!
瑞葉クン、〈ながと〉につないでくれ」
「了解・・・〈ながと〉つながりました!」
くそっ、間に合ってくれれば良いが。
「大佐、そっちに敵艦が向かいました、こっちも全速で追いかけます。
敵はレーザー兵器を持っています、潜水中は誘導魚雷と噴進弾に注意してください!」
「了解した」
− アイオワ −
「先に放った誘導魚雷で駆逐艦2隻に命中を確認!」
「敵戦艦1番艦は射角外れてます、2番艦は捕捉、超音速魚雷ファイア!」
超音速魚雷、この出来損ないは名前の超音速と言うほどスピードは出ない。
それでも200ノット(327キロ)と普通の魚雷の4倍の速度を誇る。
さすがにオリジナルのように誘導装置はついてないが、
そのスピードがあれば普通の艦なら逃げきれん、普通の艦なら。
ドゴォ!
爆発で起きた衝撃波が装甲を叩き艦が大きく揺れる。
俺は手近な物に捕まりそれをやり過ごす。
「敵の爆雷攻撃です! くそっ、補足されたみたいです」
「艦上部から浸水発生!」
「ダメコン急げ!」
浸水箇所に向けダメコン要員が走っていく。
「このままだと爆雷でダメージが蓄積され潜水できなくなってしまいます」
「浮上しろ、砲撃戦でケリをつける!」
− 汐海 −
「敵艦に追いつきました、距離300メートル」
「前部爆雷投射!」
〈汐海〉の前部に搭載されたロケット式爆雷投射装置から網を投げかけるように発射され、
次々と小型爆雷が海面に着水して沈んでいく。
「敵艦魚雷発射音4確認、雷速200ノット!」
「ばかな!」
「200ノットって」
ズズズン!
驚く間もなく前方に吹き上がる水柱。
「敵艦にダメージを与えたようです、急速浮上してきます」
投射された爆雷は磁気感知式の為、海中にある金属片を感知し爆発する。
爆発したって事は何かしらのダメージを与えた可能性が高い。
それに敵艦が浮上してきたか、これで勝負を決めないとな。
「全装備自由! 最大戦速、即時待機」
− ながと −
「ああ、我が駆逐隊が!」
4隻いたニホン海軍駆逐艦だったが敵艦の放った誘導魚雷により〈すずかぜ〉〈なみかぜ〉2隻に命中、
すでに甲板が波で洗われ沈没しかかっている。
その甲板から次々と人が飛び込んでいた。
ズズズーン!
〈むつ〉の左舷に高々と爆炎と四本の水柱が立ち上る。
「さらに〈むつ〉に被雷、左舷に4つ水柱を確認!」
「なに?」
急速に速度を落とし左舷に傾く〈むつ〉。
その艦腹には直径10mを超える穴が4つ空いていた。
「通信きました。機関損傷、速度10ノット!」
「くっ、仕方ない〈むつ〉を離脱させろ」
「了解! 〈むつ〉は艦の保持を優先、離脱せよ」
「第七駆逐隊も到着したようです」
レーダーマンから報告がくる。
第七が来てくれたか、これで何とか敵を排除できるか。
いや、向こう頼みばかりのニホン海軍では情けなさ過ぎる!
なんとしても〈ながと〉の砲撃で奴を仕留める。
「しかし1個駆逐隊で良くあのバケモノ相手に押さえるな」
「そうですね、さすがナーウィシアの新鋭艦ってところですか」
「敵艦浮上!」
「ここからが正念場だ、〈むつ〉の仇を取るぞ!」
海中から躍り上がる敵艦に向け主砲の発射準備が整えられる。
− アイオワ −
「敵二番艦が離脱します」
「逃すか! 対艦VLS、目標敵二番艦。ファイア!」
ドドドドッ!
艦後部から盛大な白煙を残し16発の対艦VLSが発射される。
これでサヨナラだ、ジャップ!
自分が狙われている事を悟った〈むつ〉も必死になって対空砲を撃つが距離が近すぎた。
打ち上げられる弾幕を抜け全弾がまんべんなく命中し艦上が火の海になる。
強固な防御を施された主砲や司令塔は無事だがそれ以外の艦上構造物が爆砕された。
完全に行き足が止まる〈むつ〉。
先の魚雷命中に加えこの打撃により完全に戦闘力を喪失、沈むだけになっている。
総員退艦命令が出たのか次々と乗組員が海に飛び込んでいく。
− ながと −
「あああ、〈むつ〉が大破!」
敵艦から発射された噴進弾が全て命中した〈むつ〉は艦上が火の海になった。
装備していた噴進弾に火が回り誘爆を引き起こす。
「報告!〈むつ〉艦長三輪大佐が戦死されたそうです!」
「三輪が逝ったか。あいつ新婚なのにな」
結婚が決まり満面の笑みを浮かべて報告にきた三輪の顔を思い出す。
なんとしても奴を沈め、貴様の仇をとってやる。
「機関室も浸水、止める事は不可能、副長が総員退艦命令を出したそうです」
「沈没は避けられないか、駆逐艦〈はまかぜ〉と〈あまかぜ〉は乗組員救助に」
「了解」
「敵艦発砲!」
敵の艦上から閃光・轟音と共に主砲が発射されるのが見えた。
− アイオワ −
「周防級はDFを装備していない、接近して砲撃すれば36cmでも殺れる。
オールウェポンズフリー!」
俺は主砲の発射命令をくだす。
潜水のために閉めてあった前方の装甲板が再度開き、36cm3連装主砲2基が顔を出す。
「敵艦捕捉! いつでも撃てます」
「ファイア!」
「レーザー、チャージはどうだ」
「あと1分ください!」
「急げ!」
レーザーと主砲を使い手早く戦艦を叩き潰す。
そしてあの駆逐隊を殺ってやる!
− 汐海 −
「敵艦速45ノット」
海上海中ともに40ノットを超える速力が出せるのか。
敵艦が発砲を開始する。
〈ながと〉の周りに吹き上がる水柱は周防級のものと比べるとはるかに小さい。
「敵の主砲36センチ級です」
「36センチですか、主砲としては小さいですね。砲撃戦なら〈ながと〉が有利ですが」
「敵艦にはレーザーが装備されているんだ、DFを積んでいない周防級ではかなりまずい。
それにすでに〈むつ〉が殺られている、任せっぱなしって訳にはいかないだろ」
「確かレーザー兵器は脅威ですね」
「ああ、こっちの主砲は小口径で貫通はできないが砲撃すれば照準の邪魔はできるからな。
〈ながと〉を援護する。全兵装自由、撃て」
〈汐海〉とその僚艦3隻から小口径とはいえ12.8センチの集中打撃を浴びせられる敵艦。
さらに残っていた噴進弾も発射する。
貫通はしないが敵のDF上に次次と爆発が起こる。
− ながと −
「敵艦命中1! 」
艦橋内に歓喜の声が上がる。
「よし! 良いぞ、このまま続けて撃て」
これで敵艦は主砲の照準に捕らえた。
向こうの主砲は36センチと小さい、余程当たり場所が悪くない限りこちら轟沈させるほどの威力はない。
同じように併走している第七駆逐隊を見る。
まるで爆発しているかと見まごうばかりの凄まじい勢い射撃している。
「それにしてもナーウィシアの新型駆逐艦の攻撃は凄まじいな」
「ええ。あの主砲の速さは特筆すべきですね。高角砲として装備したいくらいですよ」
「こっちにも導入できるように中将に頼んでみるか」
「ええ、そうして欲しいですよ」
その瞬間、敵艦に青白い光が走った。
− アイオワ −
「駆逐隊の攻撃でDFに負荷がかかってます、出力40%を切りました」
「くそ! あの駆逐隊さえいなければニホン海軍を叩き潰せたのに」
ドガン!
敵艦の51センチ主砲が命中、
その勢いで艦が左舷に10度ほど傾き、続いて右舷に揺り戻される。
俺はその衝撃で艦長席から投げ出された。
「敵戦艦からの砲撃が命中! 後部に被弾1です」
「ぐぅ・・・、被害報告、ダメコン急げ!」
「敵艦の砲撃で機関破損、速度35ノット」
「艦底から浸水発生、潜航不可能です!」
被害箇所に向けダメコン要員が向かっていく。
被弾した場所には大穴が開き、炎が舞い踊りバラバラになった構造材が熱で変形している。
「レーザー、チャージはまだか?」
俺は顔をしかめ痛めた腕をさすりつつ聞く。
「チャージ完了、いけますよ」
「レーザー、ファイア!」
〈アイオワ〉の甲板に青白い光が満ち、収束した光の束が〈ながと〉に向かう。
− 汐海 −
「敵艦レーザー兵器発砲!」
瞬時に〈ながと〉に命中するレーザー
第一砲塔付近に大きく爆発が起きる!
弾薬庫に直撃弾を食らえば巨艦と言えどあっさり沈む。
「誘爆か!」
「いえ、大丈夫なようですが・・・あれじゃあ使い物になりませんね」
第一砲塔の砲身が明後日の方向を向いていた。
あれでは・・・発射は無理だ、残り6門で奴を倒せるのか?
「さらに敵艦発砲!」
「なに!」
− ながと −
敵艦が光ったと思った瞬間、第一砲塔前部に爆発が起こる。
「被害報告! 急げ!」
「第一主砲破損、使用不可能です!」
「なに!」
燃えている前甲板を見ると第一砲塔の3本の砲身が爆発で捩れ、
明後日の方向を向いており役に立ちそうもなかった。
残り6門、またレーザーを食らう前になんとしてでも敵艦を沈める。
「第二砲塔は」
「大丈夫です、まだいけます!」
「斉発だ、撃て!」
ドーン!!
前部と後部にあった主砲6門が爆炎を吐き出し咆哮する。
その直後、〈ながと〉に三発の砲弾が命中した。
ズズズン!!
その直撃弾で艦がわななき震える。
一発は艦中央バイタルパートに命中するが51センチ防御を施された装甲により弾き飛ばされた。
二発は第一煙突を直撃、煙突自体を艦から吹き飛ばし、
三発目は後楼を直撃、つめていた副長もろとも爆砕する。
その衝撃で俺は投げ出され床に転がる。
続いて襲ってくる衝撃にさらに跳ね飛ばされ意識が消えた。
− アイオワ −
距離は1万を切っており、36センチ砲でも十分ダメージを与える事ができた。
だがこれで終わりだな。
妙に冷静に状況を判断した俺は目を瞑った。
その直後、51センチ砲弾が4発命中、艦長もろとも艦橋を吹き飛ばした。
− 汐海 −
「全艦突撃! 止めをさすぞ!」
4発の命中弾を受け行き足が鈍った敵艦に向け全速で突撃する。
主砲も全力射撃を開始、
すでに敵艦のDFは消失したようで主砲が次々と命中・爆発が起こる。
「魚雷、撃ぇ!」
次発装填された魚雷が海に飛び込み敵艦に向かう。
4隻合計20発もの魚雷が敵艦の左舷に命中、集中被雷を起こす。
敵艦は浸水した海水で一挙にバランスを崩しそのまま横転、大爆発を起こし沈んでいった。
「はぁ〜、今回も何とか無事に終わりましたね」
副長が深い溜息をついて宣言する。
「ああ、任務完了。瑞葉クン、〈ながと〉に連絡」
「〈ながと〉繋がりました」
瑞葉クンが報告してくる。
モニタに現れた大佐は額に包帯を巻いている。
多少怪我をしたようだが元気そうだ。
「大佐、ご無事でしたか」
「ああ、最後にやられたが何とか無事だ。君たちのおかげで作戦は成功したよ。
超兵器も沈める事ができた、これで基地を占領すればニホンのシーレーンはしばらく安泰になるだろう。
ナーウィシアの協力に感謝する。
それにしても大尉、最後は見事な突撃だったな」
「ありがとうございます、〈ながと〉の砲撃が命中して行き足を止めてくれたおかげです」
冗談抜きであの砲撃が命中しあの艦のDFと速度が落ちなければにとどめはさせなかった。
「謙遜だな、実際君たちの艦が抑えていてくれなければ全滅していたのはこっちだ」
「〈むつ〉と駆逐艦は残念でした」
俺は沈んだ駆逐艦と戦艦に思いをはせる。
俺もいつかああいう風に沈んでいくのだろうか。
俺が戦場に到着した時、〈むつ〉が左舷に転覆、
その衝撃で砲弾が誘爆したのか艦は3つに分断され沈んでいくところだったのだ。
「超兵器を相手にしているんだ、無傷で勝てたら今頃連合海軍はもっと楽ができているよ」
「そうですね、反撃は始まったばかりです」
「そうだ・・・あの件だが合格だよ、大尉。
中将に自信をもって君の事が薦められる」
大佐は思い出したように満足そうに頷き合格だというように俺を見ている。
「え、ちょ、ちょっと! 大佐。別に推薦していただかなくても・・・」
「白百合も君を気に入ると思う、必ず摘みに来いよ? 大尉(笑)」
「・・・頑張ります。では」
敬礼。
仕方なく返答をする、もう少し人の話を聞いて欲しいんだがなあ。
俺と大佐のやりとりを見て不思議そうに瑞葉クンが聞いてくる。
「ネ、艦長、白百合ってナンですか?」
「いや、大した事じゃない、作戦符牒だよ(汗)」
「変ですねえ、ナニか隠してませんか?」
「さ、艦隊をまとめてナーウィシアに帰還するぞ!」
「あ、逃げた!」
− あとがきという名の戯言 −
ニュー:最後まで読んでくださった方ありがとうございます!
隼人:あ、今回はニューなんだ
ニュー:ええ、そうよ。
隼人:戯言を始める前に。
ご返事を返す前に感想掲示板が使えなくなってしまったので。
ノバさん感想ありがとうございましたm(__)m
ニュー:さて、今回の話よね。
隼人:ああ、ようやく最後の方で戦艦同士の砲撃戦があったね
ニュー:今まで駆逐艦の艦砲射撃とか巡洋艦との話だったから。
隼人:確かに地味だし。黒い戦艦は強すぎてあっさり蒼い突風が沈んでいるし(苦笑)。
迫力がないのは作者の書き方も悪いとは思うけど。
ニュー:でも今回の超兵器は割と弱くなかった?
隼人:そうでもないと思うよ。
実際〈アイオワ〉は戦艦として見たら〈ながと〉と比べて3ランクも格下だよ。
それでいて駆逐艦2、戦艦1撃沈、1中破させているからね
ニュー:じゃあ私たちがいなかったら?
隼人:ニホン海軍はあっさり壊滅しているだろうね、砲撃戦にこだわらなきゃ良いだけだし。
ニュー:そうか!
潜水戦艦と名前は付いているけど戦艦の苦手な潜水艦として見れば良いのね。
隼人:〈ながと〉の51センチは飛距離と威力がウリだからわざわざそれに付き合う必要はないんだよね。
ニュー:確かに敵の得意技で戦う必要はないか。
隼人:〈ドレッドノート〉級は戦艦としての機能はおまけかな。
戦艦の場合、幾ら10ノット近い速度差があっても〈ながと〉にダメージを与えられる15000メートルに近づく前に捕捉・撃沈されてしまう。
砲撃するならその15000メートル以下まで潜水して近づき、一挙に浮上してミサイル・レーザー・主砲で攻撃すれば良いんだ。
もっとも敵にダメージが与えられるという事はより大きい主砲を持つ〈ながと〉はそれ以上にアイオワに与えられる。
その距離で51センチを打ち込まれれば20センチ防御の艦などハリボテみたいな物で
重防御を施された部分でも簡単に打ち抜かれる。
こればかりは幾らDFがあっても無理。
ニュー:そうなんだ。DFも万能じゃないんだね。
隼人:ゲームの中だと実弾防御用の重力防御壁を装備しているのは〈ヴォルケンクラッツァー〉級だけなんだ。
光学兵器を防御できる電磁防壁は超兵器もそうだけど、後半では一般艦にも装備されている。
重力防御はプレイヤーに許された特権みたいな物だね、電磁防壁も装備できる訳だし。
ニュー:でもさ、レーザーってそんなに強いの?
隼人:データだと3連装50口径50.8センチが935、光学兵器は軒並み1000以上、最強のオメガレーザー三型が3000。
ちなみに波動砲は一番弱いものでも18000、もっとも強力な超波動砲にいたっては32000だよ。
ニュー:話にならないわね。あ、そろそろ時間だね。
隼人:じゃあ次の戯言で!
代理人の感想
うーむ。
やっぱ海戦物として読むと違和感がバリバリだなぁ。
下手に海戦物として書かないで、ゲームっぽくしちゃった方がまだいいかも。
って、前言ったかな。