「おー、これが俺の艦か!」
ウィルシア海軍制服を着た男が艦を見上げていた。襟には中佐の階級が輝いている。
ウィルシア海軍フロリダ州にあるメイポート基地。
その埠頭に1隻の艦が停泊していた。
男の視線の先には全長298メートル、幅36メートル、長さの割には細長い艦型をした戦艦があった。
その名を〈シュトゥルムヴィント〉という。
55口径35.6センチ3連装を3基、対空・対艦ミサイル、超音速魚雷などが装備されている。
異世界から飛ばされてきた戦闘艦、
ナーウィシアで言うところの転移型超兵器と言われる存在。
「巡洋戦艦というのは気に入らねえが・・・まあこっちの戦艦以上の戦闘能力はあるしな、仕方ねえか」
男は新たなる戦場に来る事になった出来事を思い出す。
連合海軍物語
第10話 その名は・・・
− ヨーロッパ方面司令部 −
アイスランド・レイキャヴイクにあるウィルシア海軍基地。
ここにはヨーロッパ戦線の司令部が設置されている。
その司令官室内では暑苦しい男と司令の副官だと思われる女性士官が話していた。
「ジロウ・ヤ「ダイゴウジ・ガイ!」中佐・・・」
「何度も言わすな、俺の名前はダイゴウジ・ガイだ」
男は副官が告げそうになった名前に素早く訂正を入れる。
「ヤ・・・」
「だぁ〜から言っているだろ!」
どうもこの男には「ヤマダジロウ」「ダイゴウジガイ」という2つの名前があるようだ。
本人はダイゴウジの方を気に入っているようだが。
副官はどうしたらいいのか分からず司令を見る。
総司令は肩をすくめる事で返事をした。
「はぁ・・・分かりました、ダイゴウジ中佐」
副官は溜息をつき諦めたように名前を言いなおす。
「おう!」
途端ににこやかな笑み浮かべ態度を豹変させるヤマダ。
だがその喜びも次のセリフで消えてしまう。
「貴官はヨーロッパ戦線から太平洋戦線への転属が決まりました」
「はぁ?・・・いきなりだな。どういう事だ」
いきなりの内容に呆気にとられ、その後転属という内容に疑問をもつ。
今の時期ウィルシア海軍内では余程の事がない限り戦線の転属はないからだ。
「さあ、私は辞令を読み上げているだけなので分かりません。
では、続けますよ?
転属は艦長本人のみ、今までの使用していた超兵器〈アマテラス〉はこちらに残していきます」
「おいおい、俺から艦を取り上げるのか?」
ヤマダは思いっきり不愉快そうに顔をゆがめる。
「慌てないでください、向こうの司令部より〈アマテラス〉ではありませんが新しい艦が与えられます」
「新型でもくれるのか?」
「新型ではありませんが、新型を遙かに上回りますよ。
今度は転移艦〈シュトゥルムヴィント〉の艦長です」
「あの転移型の巡洋戦艦か」
意外といった顔つきで副官を見る。
「ええ。中佐の後任はコウジ・サイガ中佐です」
ヤマダは後任の名前が出されると顔色が変わる。
「ちょっとまて、アイツとはアナポリスの同期で良く知っている。
言わせてもらうがな、サイガじゃ〈アマテラス〉は操りきれねえ」
「なら余計に彼の優秀さを知っているでしょう?」
「ああ、確かに優秀だがアイツが得意なのは高速を生かした遠距離砲戦だ。
艦首ドリルを使用した超近距離の格闘戦や中距離砲戦を想定している〈アマテラス〉やアラハバキには向いてねえよ」
「言い切りますね」
呆れたように副官はヤマダを見る。
「〈アマテラス〉を一番巧く使いこなせるのはこの俺だからな」
ヤマダは気負いもなく、さりとて自慢する訳でもなくさらりと言ってのける。
「・・・」
その雰囲気は今までバカな会話をしていた変人中佐とは思えないほど真摯だ。
副官はその雰囲気に呑まれかけ慌てて話を続ける。
「2095年6月1日までにフロリダ州メイポート海軍基地に移動。
そこから先は太平洋司令部から指示が出されます。
以上です、何か質問は?」
ヤマダは難しい顔をして何かを思案していたがもっとも疑問な点を聞いて見ることにしたようだ。
「おい、本当にそれだけか? この転属は少将も知っているのか」
本来ならこの転属はヤマダの上官を通して伝えられるべき情報なのだが、
いきなり最上部に呼び出され転属を告げられれば何かあると思うのが普通だだろう。
昨日会った少将は何も言わなかった。
普通なら部下の、それも艦隊旗艦艦長がいきなり転属となったら何か言ってくるのが自然だ。
ましてや優秀だが神経の細かいあのヒステリックな上官が何も言わない訳がない。
「貴官の上官は知りません、ですが軍での命令は絶対です」
「まさか・・・少将の力を殺ぐ為じゃないだろうな?」
「そんな事はありませんよ、疑いすぎです」
にこやかに笑っているが今の時期に異動など普通では考えられない。
ヨーロッパ戦線で多大な戦果を上げている俺の上官の力を殺ぐためとしか思えない。
太平洋戦線では海軍大国ナーウィシアを主軸とした連合海軍の反撃で量産型超兵器が何隻か沈められたという事は聞いている。
こちらの技術でマネた艦だ、殺られる可能性は充分あるだろう。
それに向こうには太平洋艦隊旗艦〈グロース・シュトラール〉も健在だ、
わざわざ俺が転属してまで出向く事もないはずなんだが。
やはり・・・嫌がらせか。
ふん、ならこっちも嫌がらせでもしてやるしかねえな。
「そうか、転属は仕方ねえな。
なあ、向こうに異動するのに階級の上がりもねえのは箔がつかねえだろ、大佐に昇進はないのか?」
「残念ですがありません」
「ダイゴウジ中佐ってのは語呂が悪ぃんだ。たかが大佐、構わねえと思うんだがな」
「そんな理由で階級を上げられる訳ないじゃないですか!」
「ふん、じゃあせめて特佐にしてくれよ」
ヤマダはふんぞり返りその副官を見下す。
「だからそんな階級はありません!」
その不愉快な態度にキレる寸前になる副官。
「まあ、落ち着きたまえ、新城クン」
それまで黙って見ていた総司令が口を開く。
「彼はわざと私と君を怒らせているのだ」
「ハイ?」
訳が分からないというような顔をする。
「わざとじゃねえよ、本当にそう思っているんだがな」
「ほう、そうなのか? なら君を大佐にしても構わない」
総司令の顔はにこやかな笑みを浮かべているが目は笑っていない、
むしろ冷たく冷えきっている。
「へえ、そりゃありがたいがね」
その言葉と裏腹に肩を竦めるヤマダ。
「だが、君がミスした場合、連座して少将を降格させる、それで構わないならな」
「なっ! 俺は向こうに転属するんだぜ、少将とは関係ねえだろ!」
「君の幼稚な嫌みに対してはこれくらいで充分だという事だ」
「ちっ」
ヤマダが舌打ちをしお互いに睨み合う。
「どうするね?」
思いっきり嫌みたらしく聞き返す総司令。
「ああ、分かった中佐で構わねえ」
「そうか残念だな。では中佐、向こうでの健闘を祈るよ」
黙って敬礼を出て行くヤマダ。
「総司令、あの男を上官侮辱罪で・・・」
拳を握り締めぶるぶると震え怒りを押し殺している副官。
「待ちたまえ、態度がああだが優秀な事には違いない」
「ですがクサカベ閣下!」
「使い方さえ間違わなければ役立つ男だ、ハサミと何とかは使いようだ。
それにここより遥かに激戦の太平洋戦線であれだけデカイ面をしていられるか、見物だがな」
− レイキャヴィク基地 −
ようやく世話になった司令部に挨拶も終わり、俺はフロリダ州にあるメイポート基地に行くという輸送機を待っていた。
ひっきりなしに発進していく航空機や輸送機。
「ちょっと、そこの馬鹿!」
その飛行機を見つつ物思いに耽っていた俺を馬鹿扱いで呼ぶヤツがいる。
「なんだ、いきなり?」
振り向くとかつての上官だった、ムネタケ少将が副官を連れ立っていた。
特徴的なキノコ頭にオカマ喋り、娑婆の人間から見たらこんなのが海軍軍人とは・・・とても見えないだろうけどな。
「あ、わりい」
敬礼。
「勝手に転属とは良い度胸をしているわね」
嫌味の混じった視線を投げかけてくる。
「いや、俺が転属を希望したって訳じゃねえよ」
知ってんだろという目で司令を見る。
「知っているわ、どうせ私に対する上からの嫌がらせでしょ」
やれやれといった感じで頭を振る少将。
「分かってたのか?」
「当たり前でしょ。いっちゃあ悪いけど今の時期、アンタが転属する意味がないしね」
「ああ、向こうでは量産型超兵器が何隻か沈められているがこっちが優勢なのには変わりがねえ」
「超兵器ではないにしてもDFやレーザーを装備した新型艦も竣工し始めているから相対的に戦力は落ちていない。
わざわざウチの旗艦艦長を引き抜く必要はまったくないわね」
「少将は何も言わないのか?」
「言ったわよ! ハン、あの狸ジジイ。
太平洋戦線はこれから不利になる、アンタのような優秀な人材が必要なんだってさ」
「あの総司令に評価されてもな」
苦笑気味に笑うヤマダ。
「でもね、あながち間違いではないわよ? これから不利になるって言うのは。
その結果が導きだせるだけマシだわね」
「今のところどう考えてもそうは思えないんだがな」
「はぁ・・・アンタも少しは頭を使いなさいよ。
ま、それは後で話してあげる。
最近は軍の雰囲気がおかしくなってきているけど、無能や腰巾着が総司令になれるほど我が軍の人事システムは腐ってない」
「まあそんなのに総司令になられたらこっちの寿命が幾らあっても足りねえがな」
アンタは大丈夫なんだろうな? という目で見るヤマダ。
その視線を受け「ふふん!」といった感じで笑うムネタケ。
「そうそうさっき言った今後不利になるってやつだけど。
私からアンタに選別がわりに教えてあげるわ」
「選別? ゲキガンガーのレアアイテムの方が良いんだがなあ」
「アンタ、馬鹿?」
冷ややかな目つきでヤマダを見る司令。
「馬鹿はひでえな。で、マジな話なんだ?」
苦笑し話の続きをうながすヤマダ。
「向こうの戦線の情報。
量産型を沈めた艦隊と司令の名前だけどね、
一つは連合海軍直属の第一三独立実験艦隊で司令は伊達遙、
もう一つはナーウィシア海軍直属第七駆逐隊で双岳隼人」
「おいおい、量産型とはいえ駆逐隊に沈められたのかよ、情けねえな」
「ところがね、戦艦の援護があったとは言え、ただの駆逐隊じゃないのよ」
「へえ、どこがただの駆逐隊じゃねえんだ?」
ヤマダは興味深そうに聞く。
「まずはDFを装備している」
「駆逐艦でDFを装備かよ。ようやくこちらでも駆逐艦に載せられるサイズが開発できたって話なのに」
「それとね他の艦隊では使われていない各種新装備を積んでいるようね、
第十三と同じ任務、試作兵器の実験艦隊と推測しているわ」
「じゃあ、超兵器艦長をしている俺と出会う確率は高いって訳だな、面白え」
ヤマダは不敵に笑いパンと拳をぶつけ気合いを入れる。
「いい、ヤマ「だからダイゴウジ・ガイ!」」
ヤマダが自分の名前に素早く訂正を入れる。
「面倒くさいわねえ」
きっちりと切りそろえた前髪をかきあげ文句を言う。
「幾ら司令でもこれだけは譲れねえからな」
「分かったわよ、ダイゴウジ中佐。
向こうでドジって我が第九艦隊の名を貶めないでよね、
ただでさえ第九はアタシ達日系人ばかりを集めたアンチウィルシアと思われているんだから。
なによりウィルシア本国にいる日系人たちに迷惑がかかるんだからね」
「わーってるよ、司令・・・」
その返事をかき消すようにジェット特有の唸りが響きわたる。
滑走路に引き出され、タキシングしてきた赤く塗装をされた超大型爆撃機。
最初は横向きだった為、大きいだけの爆撃機のように見えた。
角度が変わりやや正面から見ると厚みのある平たい胴体から突き出した2つの機首が伸びていた。
そして胴体から出ている4本の主砲と思わしき筒。
「なあ司令、あれはなんだ?」
「超大型双胴重爆撃機〈始祖鳥〉。詳しいスペックは知らないわ、陸軍の機密兵器だから」
「アルケオプテリクス? 陸軍機?」
「ええ、海軍が技術供与をして作り上げた航空機型の超兵器よ。
ウィルシアの航空技術はもとより宇宙技術の粋を集めた機体」
「単にデカイだけじゃないのか?」
「まさかそんな訳ないでしょ」
そのムネタケもそう言いつつも半信半疑の視線で〈始祖鳥〉を見ている。
「あの機体はね、特殊任務の為に開発されたらしいわ」
「特殊任務?」
「まだ内容は極秘で知らされてないけどね、生産された先行試作型の3機が任務に投入されるらしいわ。
でもね、あんな機体を作らないと実行できない作戦では見込みが薄い」
ムネタケは知らない。自軍が何の為にあの機体を開発したのかを。
もし知っていれば作戦の失敗を願うのか、それとも効率的な作戦だと思うのか。
〈始祖鳥〉は後部にある8発の平面ノズルをアフターバーナーで光らせ、凄まじい轟音と共に飛び上がって行く。
「しっかしスゲエ迫力だな」
「迫力だけはね」
冷ややかな視線を始祖鳥が消えた空に向けつぶやくムネタケ。
「相変わらず辛辣だな、司令は」
「ほっときなさいよ! アタシはアタシの道を行くの、どんな目で見られようとね」
「わかったわかった」
ムネタケは軽く頭を振るとヤマダを見る。
頭を振ることで気持ちを切り替えたようだ。
丁度ヤマダが乗り込む輸送機がタキシングしてくるのを確認したムネタケ。
「はぁ・・・もういいわ。
バカなアンタだから念の為に言っておくけど私の推測では第一三より第七の方が要注意よ、
DFを装備しているとはいえ、駆逐隊で沈めているんだから」
「わかった、ご忠告感謝します」
「じゃ、向こうにいっても頑張りなさいよ」
そう言って司令は見事な海軍式の敬礼をする。
「ああ、期待に添えるよう頑張るぜ」
答礼。
− フロリダ州メイポート海軍基地 −
男は荷物を背負うと艦に向かって歩き出す。
背負ったズタ袋のような鞄からぽろりと何かが落ちた。
「あ、荷物が落ちましたよ」
通りかかった士官が落ちた荷物を拾う。
拾った荷物、どうも玩具の箱のようだ。
パッケージにはゲキガンガー超合金と書かれてあった。
「おー! わりいわりい、命の次に大事な物だったんだ」
いぶかしげな表情をしながら士官は荷物を手渡すと
男は今度は大事そうに鞄の奥に入れた。
士官は男の襟元の階級章と男の顔を見る。
暑苦しい顔と中佐という階級、そしてこの玩具。
士官はこの男が探していた人間だという事に気づいた。
「いえ、どういたしまして。小官は戦艦〈シュトゥルムヴィント〉副長を務めてますレイナード・A・ラスク少佐です。
失礼ですが新任のジロウ・ヤ「ダイゴウジ・ガイ!」艦長でしょうか」
「おい、憶えておけ。俺の名前はヤマダじゃない、ダイゴウジ・ガイだ」
慌てて手元の資料を見る。
やはり名前はジロウ・ヤマダになっている。
さらに書類を見ていくと特記欄に名前に対する異常なこだわりがあり注意を要すと書かれている。
「は? いただいた資料ではジロウ・ヤ「だからダイゴウジ・ガイだっての」中佐と書かれていますが」
「それは偽りの名前だ! 俺のソウルフルネーム、魂の名前はダイゴウジ・ガイ!」
士官は頭を抱えたくなった。
− レイナード副官 −
ヨーロッパ戦線でだいぶ名を挙げた艦長なんだが、
本当に大丈夫なのか・・・この人は。
それに魂の名前って・・・怪しい宗教にでも入っているんじゃなかろうか。
それにこのまま名前にこだわっているといつまでたっても自分の仕事は片づかない。
士官は溜息をつくと諦めたように言う。
「ダイゴウジ中佐、〈シュトゥルムヴィント〉へようこそ、艦を案内します」
「おう、助かるぜ!」
ヤマダは男臭い笑みを浮かべるとレイナードと共に艦に乗りこんだ。
− ナーウィシア沖田公務室 −
「双岳大尉、入ります!」
敬礼。
「ご苦労、作戦は成功したようだな」
「はい、機動部隊の派遣ありがとうございました。おかげで任務遂行が成りました」
「ニホン海軍から感謝の言葉が来ているよ、向こうとの共同も上手くいったか」
「ええ、困った事に荒々木大佐は小官の事を中将に推薦までしてくれるそうですよ」
俺は冷ややかな視線をしつつ提督に経緯を話す。
「おお、でかした!」
俺の視線を無視し、タンと軽く指で机を叩く。
提督はひどく嬉しそうな口調で言う。
「いや、でかしたではなくてですね」
俺はこの言葉だけで目一杯疲れてしまった。
「提督、いやオヤジ、本気で俺をお見合いさせようとしているんじゃ?」
「はっはっは、何のことかな(汗)」
思いっきり目を逸らしているじゃないか。
「ま、それは置いといてだな」
「・・・逃げましたね」
提督は素知らぬ振りをして報告書に目を落とす。
「報告書を読ませてもらった、新装備だが上手く稼働したようだな」
「ええ、特にDFの効果は素晴らしかったです。
実弾も結構な確率で防御できましたし、敵レーザー兵器をはじました。
おかげで命拾いしました」
俺はあのレーザーが当たった瞬間を思い出し少し冷や汗をかく。
もしDFがなかったら? たぶん・・・。
「そうか、他の装備はどうだ?」
「ソナーとリンクした対魚雷機銃もなかなか良い出来ですが、まだまだ精度が甘いです」
「ふむ、これはソナーの感度を上げて情報を増やし、迎撃精度上げるしかないか」
「そうですね。それと噴進砲ですが威力が弱いのとやはり誘導精度に問題が」
「噴進弾は固定目標なら充分役にたつのだが・・・動いている物体にはまだまだという事か。
画期的なレーダーを開発しない限りはこちらも精度が上がらんな」
腕を組み思案する提督。
その顔は苦悩しているように見える。
「ふう・・・あれがそのまま使えたらな」
提督はわずかな溜息とともに独り言を言う。
「え?」
「いや、なんでもない、独り言だ」
提督はその話題を打ち切るように別の話題を切り出す。
「汐海に搭載した主砲だがな、ニホン海軍から正式に〈周防〉級の高角砲として載せたいとの打診があった。
こちらとしては恩を売るチャンスなんでな、まずは優先的にニホン海軍に回す。
もちろん我が軍が最優先だが」
「イギリス海軍あたりが文句を言ってきそうですが大丈夫ですか」
「なに、向こうは向こうで供与するものがある、噴進爆雷投射装置と水中でも追える誘導魚雷だ」
「あれは凄い役にたちました、喜ぶでしょうね」
「ああ、大艦巨砲主義が全盛で予算もあまりかけられん。
対潜装備がお寒いのはどこの国も一緒だからな」
「ええ、これでかなり通商破壊の被害も減ると思います」
提督は姿勢をただし俺に向かって言う。
「あと1度の実戦で汐騒改の評価を完了する。
その評価をもって〈汐騒-改〉いや〈汐海〉級駆逐巡洋艦の量産化の準備になるだろう」
「え? 駆巡って」
「葛城博士に提出した設計図を見せてもらった。
あの設計図をワシがDF搭載艦として修正・設計し直した」
「では根本的なミスとかは・・・」
「なかなか良く出来た設計だったな、ワシも関心したよ」
提督は嬉しそうに俺を見る。
そうか、あの設計図、使ってもらえる事になったんだ!
「それと同時に〈汐海〉に載せたDF発生装置と新型機関は前倒しで増加試作型の生産に入った」
俺は嬉しさで顔が緩みそうになるが必死に押さえまじめな顔を作る。
「もう、そこまでいっているんですか」
「DF自体は超兵器が積んでいる物をこちらで改良し小型化しただけだ、
実績は向こうが積んでくれている、皮肉な事に連合海軍艦艇でな」
苦笑というには苦すぎる笑いを浮かべる提督。
「だいぶ横道にそれたな。
今回の任務だが増加試作をした12.8センチ連装速射砲をニホン海軍に届ける輸送船の護衛をして欲しいのだ」
「護衛ですか?」
「ああ、今のところ第七駆逐隊が一番対潜装備も優れている」
「了解しました」
「それと潜入した諜報員から緊急報告が来ている」
彩ちゃんも任務に成功したのか。
それより無事だったのが一番嬉しいけどな。
「確か超兵器関連の情報ですよね?」
「ああ、超兵器・〈始祖鳥〉によるナーウィシア、というか風雅島への核攻撃だよ」
「なっ!!」
あまりの暴挙に驚く。
いくらウィルシアでもいきなり核兵器で攻撃とは。
「風雅島とナーウィシア首都・水都は40キロしか離れていない、
核の規模にもよるがまず間違いなく影響がでる」
「ですがシドニー条約があるじゃないですか!」
「本来ならな。
核を攻撃兵器に転用する事を禁止した条約だが向こうは尊守するつもりはない。
世界から孤立する事も恐れない・・・か。
いよいよあの国はおかしくなってきたようだな」
「計画書が出ているという事はすでに兵器自体は試作には入っていてもおかしくはないのでは?」
「その可能性は大いにある。
さらに詳しい情報を入手し、もし本当なら攻撃に使われる前に破壊する。
間に合わなかった場合でも〈始祖鳥〉を撃破できるだけの装備を調えておかなければならないだろう」
提督は目をつぶり覚悟を決めるようにその台詞を言う。
「可能なのですか?」
「幸いナーウィシアは連合海軍に所属しているどの国よりも先に最新装備が与えられる」
提督は立ち上がり窓の外を見る。
夕日が沈みかけこの窓から見える海は真っ赤に染まっている。
もし核攻撃が行われればこの海以上にナーウィシアは赤く染まるだろう。
そんな事を想像させる赤さだった。
「先ほど葛城博士から連絡があった。レーザー砲の開発に成功したそうだ」
「ついにレーザーも実用化ですか! それは凄いですよ!!」
「ただな、お前も知っている通りレーザー兵器はほとんどがDFで阻止されてしまう。
これはワシの予想だがな、DFの存在がある限りレーザーは主兵装にはなれない」
提督はそう言い切りいったん言葉を区切った。
「多分・・・今の段階でもっとも有効にレーザーの威力を活かせる装備は対空レーザーだろう」
「対空装備ですか?」
「ああ、航空機に積めるほど小型化されたDFの開発は無理だ。
そもそもサイズが小さすぎて新型機関が載せられないし開発の見込みはまったくない」
「そうなんですか」
「ベースが大型化すれば強力なDFを載せられるが、
そのDFを打ち抜き艦にダメージを与えるほどの大出力を得るには超兵器が搭載している超高出力機関が必要だ」
「汐海に載せられたあの新型機関ですか」
「いや、あれとは別だ。
汐海のはその技術を流用した初歩的な簡易型だが葛城博士がさらに改良を重ねている。
現在は戦艦用の試作型が零号艦へ搭載されているところだ」
「そういえばその新型機関の名前、なんと言うんですか?」
「ああ、ようやく決まった。相転移機関という名前だ」
− あとがきという名の戯言 −
アレス:最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
隼人:お、アレスか。久しぶりに登場だな。
アレス:もっと出演したいのですけどね、作者がスランプらしくてなかなか難しいようです。
隼人:スランプ?
アレス:ええ、どうもメインヒロインの登場時期や扱いが他のキャラとの兼ね合いで難しいらしいし。
隼人:相変わらず、余計な事を考えているんだろうな。
アレス:まあ毎度の事ですからね。中盤の山場までには何とか登場させたいらしいけど・・・どうかな。
隼人:中盤ね。それにしてもようやく10話か、30話は無理としても外伝を含めて40話以内には収めたいもんだ。
アレス:40話ですか・・・長いですね、そこまで作者が轟沈または自爆自沈せずに生きてられるかは・・・。
隼人:おいおい、縁起でもないこと言うなよ。
作者の第一目標は努力した上で稚拙でも良いからまずは完結させるって事だぞ。
アレス:あ、そういえば前回のお話、タイトルの話数間違っていましたね
隼人:ぎくっ!
アレス:駄目ですよ、きちんと話数の管理をしないと
隼人:あはははは、外伝も入れて数えてたんだ。後藤さんの説明不足の件もあるんで後で改定しないといけないよな
アレス:当たり前です。
隼人:すまんm(__)m
アレス:あ、時間のようですよ
隼人:では皆さん、たぶんだけど外伝2の戯言でお会いしましょう!
代理人の感想
うーむ、アレスといわれても誰が誰だか、読み返してみないとわからんですよ。
キャラが立ってない状態で脇役がいっぺんにゾロゾロと出てこられても、読むほうは覚えきれませんし。
それこそガイみたいな原作キャラでもないと。