そこには1隻の鋼鉄くろがねがいた。

滑らかな曲線で形づくられた巨大な艦体は黒い電波吸収材で覆われ、

闇を凝縮したような戦艦が海上を疾駆していく。

紺碧の海水を踏み砕き波飛沫を巻き上げ、長大なウェーキを残しつつ強大な主砲を敵艦に向けた。


対外的には徹底的に改装された超兵器スティルス戦艦〈マレ・ブラッタ〉級5番艦と言われているが実際は全く別物だった。

建造したのはアスカインダストリーと呼ばれる会社だが、隼人たちの住むこの世界にあるアスカが作った訳ではない。

超兵器たちの生まれ故郷とも言える平行世界に存在する軍需企業アスカインダストリーが超兵器・スティルス戦艦〈マレ・ブラッタ〉を参考に作り上げた試作型ワンマンオペレーション艦。



────〈エグザバイト〉。



それが黒い鋼鉄に与えられた名前だった。


その漆黒の外装と同じように“黒”という色に支配された薄暗いCICの中、

少女のルビーの様な紅い瞳にナノマシンの光芒が煌めいていた。


「明人さん、敵艦種確認。超兵器・航空戦艦〈ムスペルヘイム〉」

「ほう、あの艦まで連れてきていたとはな」


台詞の内容とは裏腹に感心しているとは思えない口調で答える黒い男。

さらに少女の報告が続く。


「現在航空機発艦中です。機種特定・・・完了。

円盤型航空機ハウニブーIV、荷電粒子砲とDFを搭載しているタイプです」

「そうか。対空迎撃準備」


事もなげに迎撃を命じる明人。

これが連合海軍なら敵の持っている装備を知れば体面も捨て速攻で逃げ出すか

絶望的な思いに捕らわれ全滅を覚悟するかのどちらかだろう。


例外は試作型の超兵器級戦艦を試験運用している連合海軍第一三独立実験艦隊か

双岳隼人率いるお気楽極楽なナーウィシア海軍第七戦隊くらいだろうか。

だがDFを装備し、超兵器に近い艦を操る彼らでも〈ムスペルヘイム〉を相手にするのは荷が重かったはずだ。

艦そのものは他の超兵器と変わらなかったが、搭載されている航空機が段違いに強かった。


ハウニブーと呼ばれる円盤型の全翼機は重力波推進が取り入れられ、

その形状から同じシステムで空を飛ぶ事の出来るようになった第二世代の人型機動兵器を凌ぐデタラメな機動を発揮する事ができる。


「了解。それと護衛の軽巡洋艦1、駆逐艦4、突撃してきます。こちらはどうされますか?」

「もちろん〈ムスペルヘイム〉ともども沈める。

各個撃破に持ち込む、先に航空機を撃破、のちに砲戦だ」

「了解、戦闘開始。【タケミカヅチ】艦内警戒パターンB1へ移行。

本艦はただ今より対空・対水上打撃戦に入ります」

【了解、リース】


ワンマンオペレーション艦として完成した〈エグザバイト〉には少ない乗組員をサポートする為、

《遺跡》から得られた技術を使ったスーパーAIが搭載されている。

AS-2120型【タケミカヅチ】と呼ばれるAIは返答代わりのエアウィンドウを表示した。


灼熱の国ムスペルヘイムか・・・どちらがそうなるのかな」


結果は分かりきっている、そんな表情を浮かべ明人は状況を映しているモニタを見ている。

だが明人はこれから起こる戦闘に対して不安を抱いていた。

心を占める不安・・・目の前の転移兵器との戦闘にではなく自分の隣にいる少女のこと。


戦闘時にもかかわらず明人の心を占める不安。

この艦は〈蜃気楼〉を沈める為に作られた艦、

いくら〈ムスペルヘイム〉が転移型超兵器とはいえあの程度の敵に遅れを取る事はない。

その自信が少女を心配するほどの余裕を持たせていた。


艦の外では明人の自信通りの展開だった。

黒い戦艦は海上で出しうる最大戦速の60ノットで回避行動をしつつ、

撃ち込まれた荷電粒子砲を強力なDFが弾き飛ばしている。

飛んできたハウニブーやミサイルに対しては搭載されているCIWSの他に別の対空火器で応戦していた。


対空・対小型艦用パルスレーザー。


レーザー兵器というだけありDFのない通常の小型艦船や航空機ならかすっただけでも十分破壊できる威力を持っている。

デリケートなレーザー兵器だけに普段は艦内に収納されており、戦闘時にのみハッチを開けて砲身を突き出して使用する。

そのパルスレーザーのハッチがバクンと開き、艦外に砲身を伸ばし敵に向け連続射撃する。

黒い戦艦の艦上でそこここでぱっぱっと光が弾け、もの凄いスピードで光の矢が飛んでいく。


その光の矢の直撃を受けたハウニブーはレーザーの勢いでガクリとスピードを落とす。

だが搭載するDFでレーザーをある程度無効化しており、体勢が崩れるだけで墜落するほどのダメージは受けていない。

その様子を見ていたリースが呟いている。


「パルスレーザーの一撃では無理なようですね」

「同じ場所に連続して当てて飽和させる。

パルスレーザーの速射性とお前の射撃管制ならできるんじゃないのか」


明人の言葉に演算を開始したリースの瞳に浮かぶナノマシンの光芒が少し多くなった。


「そうですね・・・可能です、パルスレーザーの射撃管制に専念します。

その代わり繰艦は明人さん、DF制御は【タケミカヅチ】よろしくお願いします」


その言葉に明人は頷き、この黒い戦艦のスーパーAI【タケミカヅチ】が返事を返す。


【了解、リース。まかせて】

「リース」

「はい、なんでしょう?」


リースの言葉に普段は艦長席の目の前に格納されている専用の操舵輪がせりあがってくる。

明人は目の前に現れた操舵輪を手にしつつリースに声をかける。

その言葉に彼女は少しだけ明人の方に顔を向けた。


「あの程度の敵に全力を出す必要はないぞ」


その言葉の裏に隠された真意を察したのか嬉しそうににっこりと笑う。


「もちろんです。IFSフィードバック、レベル8」


少女の両手にあるIFSオペレータの紋章が薄く光を発する。

リースのその言葉と行動に明人は内心で溜息をついた。


───ったく言っているそばからレベル8か。


自分の隣にいる少女の端正な横顔を見る。

IFSのレベルを上げたせいでより瞳にはナノマシンの光芒が煌めき、

顔にもパターンが出始めている。


リースはどんな敵にも全力に近い力を使い、確実に敵艦を沈めていく。

戦闘をしているのだ、全力で戦う事に問題はないし手を抜き油断をすればこっちが沈められる。

だがわざわざ高レベルのIFSを使うほどの相手でもないのも確かだ。


まるで自分の能力を測るかのように様々な場面で高レベルのIFSを使用し経験を積んでいく。

プリムローズの設計者の1人、渡良瀬教授は言っていた。


「戦闘モード時には感情機能はフリーズさせている」


情報処理の障害となる感情をなくし、冷静にかつ効率良くという戦闘方法を採っているだけなんだろうが・・・。

その容赦のない戦闘を見ていると彼女が本当の機械になったように明人には感じてしまうのだ。

リースの親でもあった彼女、ナギさんの希望“人間として生きさせる”という想いとは裏腹に、

経験を積めば積むほど彼女は甲種人型生命体レプリスの軍事仕様“プリムローズ”として完成していく。


自分の復讐・・・リースが望んだ事とはいえ共に歩ませた事に対して未だに答えを出せていなかった。

明人はその堂々巡りの想いに一時的に見切りをつけると、

一つ頭を振って黒き戦艦〈エグザバイト〉の繰舵に専念することにした。


現実逃避しているのかもしれないという思いを持ちながら。

 

 

 

 

連合海軍物語

第21話 鬼の双角



隼人と沖田の会話から2日後、第七戦隊旗艦〈金剛〉と僚艦3隻は最大戦速で海上を疾駆し〈はりま〉へ向かっていた。

すでにニホン海軍の奪還部隊が出撃したという報告を受けておりのんびりしていると先に〈はりま〉を補足され戦闘になりかねない為だ。

そんな〈金剛〉の艦内では今回の作戦に向けた最終的な打ち合わせが行われていた。

 

 

− 第七戦隊旗艦〈金剛〉第一会議室 −

今回の作戦に参加する〈金剛〉陸戦隊の隊長土方中尉を始めとした陸戦要員が椅子に座り隼人の説明を神妙な様子で聞いている。


「───以上だ、なにか質問は?」

「艦長、質問があります」


その言葉に陸戦隊隊員の一人、田丸伍長が手を上げた。

隼人は田丸伍長にうなづき発言を促す。


「今回の作戦、どう考えても我々ナーウィシア海軍が出張る必要はないと思われますが?」


その言葉を聞き鋭い目付きで土方が睨む。

兵隊が作戦方針に口を出すなというように。

その視線に田丸は青い顔をして黙り込む。


「土方隊長、そんなに睨まなくても良いよ。この場は自由に話して良い。

田丸伍長の言う通り、〈はりま〉が奪われたのはニホン海軍の失態だ。

本来なら我々は高みの見物と洒落込むところだが、理由があってね」

「理由ですか?」

「ああ、暁副長の家族が人質にされている」


隼人のさりげない言葉に時間がかかったがその言葉の意味を理解した田丸を始め会議室がどよめく。


「ええええっ、副長の家族がですか!?」

「ああ、複雑な事情があって詳しい事は話せないが、そういう事だ」

「では〈はりま〉を奪還するより人質を救出する方が主目的だと?」

「そう考えてもらって構わない。〈はりま〉自身はニホン海軍に任せるつもりだが、状況によっては〈はりま〉も拿捕する。

そうなった場合、我が軍は日本海軍に大きな貸しができる。

ナーウィシア海軍の作戦だと思わず連合海軍としての任務だと思ってくれないか」


隼人のその言葉に会議室は静寂に包まれる。

その時、静寂を打ち破るように会議室のドアが開き話題になっていた暁副長が入ってきた。


その姿を見た隼人や陸戦隊はあっけにとられた。


なんだ・・・ありゃ。


暁副長の姿は・・・完全武装だった。

頭には鉢金を巻き、その中央には“”と書かれている。

さらにナーウィシア陸戦隊の正式装備のヘルメットを首の後ろに引っ掛け防弾ベストを着込み、背中には94式バズーカ、右手には95式サブマシンガン“雷”、左手には32口径の93式“雹”、サイドフォルスタには50口径の大型自動拳銃“荒鷲”、胸には手榴弾、腰にはサブマシンガンと50口径の弾装をぶら下げ、腰の後ろにはドでかいコンバットナイフまでつけている。


・・・どう見ても人質救出というよりは〈はりま〉を破壊しようと考えているとしか思えない。

・・・・・・いや、この装備なら彼女・・のようにエイリアンとの戦争もできるんじゃなかろうか。

・・・・・・・・・いやいやその前にこれだけの装備なのになぜに頭に鉢金?


隼人と陸戦隊員の気持ちは一緒だった。


ちなみに暁副長の持っている装備は陸戦隊の弾庫から拝借したものだった。

その姿を見た土方は冷や汗を流しつつ状況を確認する。どう考えても暁副長は冷静ではないし銃器のプロではない。

いくら害意がないとは言え狭い艦内で誤って銃器を振り回したり暴発したら洒落にならならん。それに勝手に俺たちの武器を持ち出して!


隼人と土方は互いに視線を送り意思を疎通、さらに陸戦隊員はお互いうなづきあうと一斉に暁副長に襲い掛かる。

重装備で動きの鈍かった暁副長はあっさりと陸戦隊員に捕らえられ、隊員たちは素早く銃器などを押さえる。


「か、艦長〜! 私にも作戦の参加許可を!」


陸戦隊員たちに捕縛され連行された暁副長が出て行ったドアを見て隼人は溜息をついた。


「一体、何考えているんだ暁副長は」

 

 

− 第七戦隊旗艦〈金剛〉太平洋上 −

そんなこんなでイマイチ士気の上がらない〈金剛〉は途中、洋上で補給を受け3日後、〈はりま〉を視界で捕らえた。

ニホン海軍との差は半日、のんびりしている時間はほとんどなかった。


〈はりま〉のその姿を見た乗組員はあまりの巨大さと存在感を主張する姿にに仕事をする手を休めて見入った。

広大としか言いようのない幅広い双胴型の艦体に同じように巨大な煙突としか表現できない56センチ砲。

艦上構造物の配置は連合海軍の主力戦艦になっている〈すおう〉のデザインを踏襲していた。


CICではなく艦橋で隼人と暁副長が〈はりま〉を見ていた。

暁副長は〈金剛〉医務室長・久遠愛女史ご自慢の“謎のお仕置き”を受けすっかり冷静になっている。

隼人の傍に立ち心配そうに〈はりま〉を見つめていた。いつもの彼なら大艦巨砲の権化とも言うべき〈はりま〉を見て興奮しただろうが、今回ばかりはそんな想いはまったく起きなかった。


隼人はすでに支度を整えている。

白い第二種軍装の中には薄手の防弾シャツを着、腰には古流師匠から譲られた愛用の小太刀“雪花”をぶら下げている。


その柄頭には2個のお守りがぶら下がっている。

1個は幼馴染で隼人の護衛を勤める西堂彩からのもので“安産祈願”、

もう一個は伊那沙の街で知り合った日下古都くさかみやこからもらった“武運長久”だった。

その柄頭に手を左手を乗せ興味深そうに〈はりま〉を眺めていた隼人は副長に視線を向けた。


「じゃあ、副長。行ってくる、家族の事は俺に任せてくれ。〈金剛〉のことよろしく頼む。下手をするとこっちの方が危ないんだ」

「はっ! 艦の事はお任せを。それより無事に帰還してください、艦長を心配している人間は多いのですから」


そう言って艦橋の後ろで隼人を見ている瑞葉に視線を投げる。

隼人は軽く頷き瑞葉に笑いかけた。


「ありがとう暁副長、じゃ瑞葉クン行ってくるよ」

「ハイ、気をつけて」


気負いもなくそう言って隼人は艦橋を出て行く。

その後ろ姿を心配そうに瑞葉(休憩を取って見送りにきていた)が見つめている。

もしかしたら死ぬかもしれない艦長を前に何も言えなかった。

言ってしまえばそれが起きてしまうような気がしたからだ。


(結局・・・艦長に大した事、言えなかったナ)


瑞葉は自分の意気地なし加減に内心で溜息をついた。

 

 

− 双胴戦艦〈はりま〉至近 −

〈金剛〉から降ろされたホバークラフト型艦載艇が微速前進している〈はりま〉に接舷し、艇内から双岳隼人が姿を現す。

隼人が素早く〈はりま〉に乗り移るのを確認すると艦載艇は〈はりま〉を離れる。

艦載艇が離れたのを確認した〈はりま〉は速力を上げると巡航速度の16ノットで航海を再開する。

一直線に〈金剛〉に戻った艦載艇を収容すると同時に〈金剛〉は速度を上げ〈はりま〉と併走するように右舷側に位置取った。


その様子を横目で見つつ隼人はタラップの上がり上がり口で待っていた日本海軍士官に敬礼し申告をする。


「ナーウィシア海軍・双岳少佐です、声明通りにやってきました。責任者の方にお会いしたい」

「ようこそ〈はりま〉へ。私は甲板士官の新宮寺少尉です、お会いできて光栄であります」


同じように士官も名乗り敬礼する。

その士官の顔を見て隼人は微笑をしつつも言葉をかける。


「こんな状況じゃなければ〈はりま〉をゆっくり見学していきたいんですがね」


そう言って隼人は広大としか言いようがない前甲板や巨大な前楼などの構造物、最後に煙突のような56センチ連装砲を見る。

隼人の状況を無視したとしか思えないのんびりした言動に新宮寺と名乗った少尉は苦笑しつつ感心する。


(巨大な双胴戦艦に一人で乗り込んでくる度胸と命の危険にさらされている状況を無視した言動、

さすが超兵器を沈めた“連合海軍の英雄”、何て豪胆な少佐殿だ)と。


「見学はいずれ。では責任者が少佐をお待ちしております」


隼人は新宮寺少尉に促され広大な甲板を歩き前楼基部にあるドアから〈はりま〉艦内に入った。

艦内は新造艦特有のピッチと塗り立てのペンキ匂いが漂っている。


隼人はおのぼりさんよろしく珍しそうにきょろきょろとし艦内を観察していくがその歩みは遅い。

その様子を伺っていた新宮寺少尉は先ほどの評価は過大だったのかと思いつつ通路を先に進む。

だが無理もない話だと思いなおしCICに向け隼人を案内していく。


新宮寺が思っているほど隼人の内心は緊張していた訳でもないしのんびりしていた訳でもない。

想像通りというか艦上で砲塔や構造物を観察した時に自分を狙った狙撃者がいるのを見た。

今のところ自分の想定以上の動きはない。


さて、艦上で狙撃はされなかったが生きてこの艦から出られるかな。

その前に作戦がうまくいって艦隊司令と副長の家族、瑠璃ちゃんとエリナさんを救出できれば最高だが。

そんな事を思いつつ責任者が待つという〈はりま〉のCICに向かった。

 

 

− 双胴戦艦〈はりま〉CIC −

双胴戦艦〈はりま〉そのCICの中では今回の事件に加担した田代正春造船中将とウィルシア諜報部の人間アウター・ドレッドがいた。


「困りますな、ミスター。勝手な事をされては」


アウターの苦々しげな言葉。田代が勝手に声明を出した事に関してだった。


「勝手な事? どうせ私がやらなくても君たちが“英雄”を誘き寄せる為にやるだろう?

それに君こそ私に隠し事をしているんじゃないかね?」

「まあ、声明に関してはそうですがね。隠し事ですか? 特には・・・」


空惚けるようにアウターは肩を竦める。

そのふざけた対応に田代はむっとし詰め寄る。


「この艦に民間人、それも女性を乗せているだろう?」

「ばれてましたか?」

「当たり前だ、“英雄”がここに到着次第、彼女らを降ろすぞ」

「何故です?」

「決まっている! この艦はウィルシアに投降したとはいえ、向こうの艦籍に入るまでは日本海軍の戦艦〈はりま〉だ。

この艦にとって民間人は守るべき存在、戦闘に巻き込む訳にはいかん!」

「ご高説ご立派ですな」


馬鹿にしたようにアウターは鼻で笑う。


「心配しなくても大丈夫ですよ、この艦が戦う事はありません。我々には心強い出迎えがありますからね」

「出迎えだと?」

「ええ、我が軍の転移兵器の中でも上位に位置する航空戦艦〈ムスペルヘイム〉が〈はりま〉の迎えとして来ます。

万が一〈はりま〉が“英雄”に遅れをとっても〈ムスペルヘイム〉が彼を抹殺するでしょう」


こいつらは馬鹿か? よくもまあ、これだけ自信がもてるものだ。

あの・・沖田やその息子を侮り過ぎている。

特に沖田だ、今は裏方の技術屋になっているとはいえ、彼の本領は作戦立案や艦隊戦の指揮だ。

艦隊の指揮を執らせたら世界中にいる数多の提督の中でおそらく5指に入るだろう。

艦の設計などある意味彼の豊富な経験を生かした余技に過ぎない。


その薫陶を受けた息子が何も策を講ぜずに来る訳ないだろうが。

双岳少佐はサポートがあったとはいえ超兵器を何度も退けている、どう考えても罠としか思えないこの提案だ。

自分が死なない為にも何かしら手を打ってくるに違いない。


田代はこの男を見てウィルシアに与した事を後悔する。

自分がウィルシアに与した理由は、向こうの技術力を自分の設計に取り入れ、

最終的には改良した“はりま”で一九号艦と戦いどちらが優れているかを証明したかったのだ。


沖田の余技で作られた一九号艦に自分が設計した〈はりま〉が負けた事は本職としてのプライドを大きく傷つけた。

さらに理解力のない艦政本部上層部の腐れ具合に飽き飽きしたからでもある。

ナーウィシアに移住するという手もあったが向こうは沖田がいる、自分が行っても出る幕はない。


滔々と語るアウターを田代が呆れた様子で見ていると話題に出た超兵器〈ムスペルヘイム〉から通信が入る。


「こちら〈プロミネンス〉、〈ダブル〉聞こえるか?」

「感度良好、聞こえているぞ、〈プロミネンス〉」

「出迎えに来た、ポイントAZで合“艦長!! レーダーに感あり!!”、了解した。

失礼した、AZで合流。〈ダブル〉、本艦はこれより戦闘に入るかもしれない。

出迎えデートに遅れそうだ、しばらく待っててくれないか?」


その言葉にアウターが提案を持ちかける。


「〈プロミネンス〉、こちらも参加しようか?」

「不要だ、来賓を乗せているんだ、高みの見物と洒落込んでくれ」

「了解、そちらの通信を聞いている。〈プロミネンス〉の実力を魅せてくれよ?」

「了解した、楽しんでくれ、アウト」


アウターは回線チャンネルを指示し〈プロミネンス〉の通信を傍受する。

田代や乗組員たちにいかに“プロミネンス”───〈ムスペルヘイム〉が強力かを聞かせる為だろう。


【こちらアーチャー2、敵味方識別、確認。待て、味方だ】

【冗談だろ!! 俺たちに向かって対空射撃するヤツが味方な訳ねえだろ!!】

【アーチャーリーダーだ、誤認か? 畜生! 全機誘導対艦ミサイル後、荷電粒子で攻撃だ、グッドラック!!】

【アーチャー4、ヤツの後ろに回り込め!! 飽和攻撃をしかける】

【了解、レーダー波の反応が───り小さいな】

【アーチャー5、今敵──視認。おい! 小さくなん──えぞ、ありゃ400mはある! スティルスだ!

それにあの黒い艦体は・・・〈マレ・ブラッタ〉だ。な──で味方が俺たちに向か──撃ってくるんだよ!】

【アーチャー5、文句を言う暇が──たら回避しろ!!】

【分かっ・・・】



ドガン!!




爆発音に続きスピーカーからノイズ。


その通信にアウターの顔が驚愕に歪む。

───ばかな〈マレ・ブラッタ〉がこの海域にいる訳がない、あの艦は今、北海で───。


【アーチャーリーダー、〈マレ・ブラッタ〉は北海にいる、そいつは違うぞ!!】


アウターの知っている情報は〈プロミネンス〉いや〈ムスペルヘイム〉艦長も知っていたのか混乱し始めた攻撃隊リーダーに伝える。


【くそっ、マジ──よ。ちょっ──て〈プロミ──ス〉こち──も敵艦を視認した、あれは──】

【おい、どうした!! アーチャーリーダー】

【──色は黒、胴──羽がある──! ありゃ制動ス──ライザーだ!! くそっ、ノイ──が酷いぞ】

【おい、アーチャーリーダー、通信が乱れている、再度報告せよ!!】


攻撃隊からの通信が途切れ途切れになり、サブ通信士が悲鳴のような声を上げる。


「指揮官、通信妨害です!!」

「妨害波、排除できないか?」

「マルチスキャンで対応してますが追いつきません!」


その言葉に苛立ったアウターは部下の通信士からマイクを取り上げるとアーチャーリーダーに向け怒鳴る。


「アーチャーリーダー、こちら〈ダブル〉。通信が乱れている、再度報告せよ!!」

【〈ダブル〉? 何度──やって──。アレ──〈エグザバイト〉だ!!】



ドドン!!




爆発音が響き空電の音がスピーカーから流れ出す。


【プロ──ンス、こちら──撃が全て無効化され──! それに射撃精度が──凄──!】


〈プロミネンス〉と航空隊のやりとりを聞いていたアウターは〈エグザバイト〉という単語に反応し驚愕の表情が凍りつく。


「なに!・・・〈エグザバイト〉だと!! ば、馬鹿な“異形の黒”・・・やはり生きていたのか」

「おい。〈エグザバイト〉ってなんだ」


その動揺が気になり田代は男に近寄りキーとなっている単語〈エグザバイト〉の事を聞いてみる。

男の口からはギリギリと奥歯を噛みしめる音が聞こえる。


「・・・なんでもない」

「そうか? 自慢していた割にはずいぶん苦戦しているようだが」

「なんでもないと言っているんだ!!」


からかいを含んだ揶揄の言葉にアウターは逆切れしたのかそう言って男は田代を殴りつけた。

血走った目に狂気の色をたたえ男は田代を恫喝する。


「次に口を開いて見ろ、殺す」

「ふん」


田代は鼻で笑うと殴られた拍子に切り流れ出た血を指で拭った。




─ 超兵器〈ムスペルヘイム〉CIC 

「敵艦発砲!!」

「くそっ、航空機じゃアイツは無理だ。護衛艦、全艦突撃!〈ムスペルヘイム〉も水上打撃戦に入るぞ!

航空甲板を上げろ! 水上打撃戦形態に変形・・・ドガン!!


艦長が水上打撃戦を命令する途中で列車が頭上を通るような音の後、凄まじい衝撃と轟音が沸き起こり、次々と爆発音が響く。

その衝撃にCICのスタッフが投げ出される。


「右甲板被弾ッ! 甲板にあったハウニブーが誘爆してます! 火災発生、発艦不能です!」

「どうせ格納は間に合わん! ハウニブーを投棄しろ。両甲板上げ、主砲を引き出せ」


苦痛に顔を顰めつつ艦長はその報告にダメコンを指示する。


「了解、あと1分待ってください」


〈ムスペルヘイム〉は通常時は空母として運用されているが航空戦艦という艦種名の通り変形をする事で戦艦としても使えるのだ。

左右にある航空機甲板中央部が艦橋側へ向けて持ち上がり、高い前楼や艦上構造物を守るように防御装甲を形作る。

さらに残っている前後の甲板が中央にスライドしその下に隠されていた巨大な3連装主砲が4基が現れ〈エグザバイト〉に向けた。

異形の黒バケモノめ、今度こそ叩き潰してやる」



─ 双胴戦艦〈はりま〉CIC 

田代とアウターが睨みあっているとCICのドアが開かれ連合海軍の“英雄”双岳隼人が入ってきた。

律儀にも自分たちの前に敬礼し申告をする。


「ナーウィシア海軍・双岳少佐、声明通りにやってきた。まずは人質を解放してもらいたい」


その言葉にアウターは頭を振り銃を抜き隼人に照準をつける。


「残念だが人質解放は拒否する。アンタを帰す訳にはいかないんでな。艦の上で逝くんだ、海軍軍人としては本望だろう?」

「やっぱりか・・・。

そのご好意はご辞退しますよ、俺は自分の国の艦上じゃないと安心して逝けないんでね」


隼人はさりげない動作でポケットに忍ばせておいた発信器のボタンを押す。


「そう我侭を言うなよ、“英雄”」


アウターの持つ銃が照明の光を受け黒々とした銃身が光る。



─ 第七戦隊旗艦〈金剛〉CIC 

「副長! 艦長から信号来ましたッ! 作戦開始デス」


隼人の送った作戦開始の信号を〈金剛〉で受信し、即座に瑞葉が暁副長に向かって若干焦りの含まれた声色で報告する。

彼女からしてみれれば隼人が人質同然になっている、一刻も早く事態を終息させたいだろう。


「了解! やっぱりか。ポリゴンモデルの作成は!」

「ちょっと待ってください・・・、完了! よっしゃ、何時でも転送いけます」


暁副長の言葉は作戦の一環だった。

待機している〈金剛〉は〈はりま〉の至近にいる為、カメラやビデオを使って外観を撮影し、

その映像を元に艦内では大急ぎでスタンダードミサイルSM2改“天雷”用のポリゴンデータを作成していたのだ。

今回は最小の攻撃で〈はりま〉の対空兵装をピンポイントで破壊する為、そのデータ作成は欠かせなかった。


なら何処にデータを送信するのか?

作成されたデータは“天雷”の射程ギリギリで待機してる〈金剛〉以外の第七戦隊、

次席指揮官アレスの乗る駆逐巡洋艦〈汐風〉〈汐騒〉〈汐音〉の3艦から攻撃する。

〈金剛〉が〈はりま〉の対空装備を攻撃すれば良いはずだが至近に位置するこの艦には他に作戦が割り振られていた。


それとこちらが本当の理由だが〈はりま〉のレーダーでは見えない遠距離から攻撃する事で乗組員たちに動揺を与える事を期待していた。

試作型〈汐海〉級に属する第七戦隊の3隻は護衛艦〈こんごう〉の改装時に降ろされたVLSを各艦とも10セルづつ搭載していた為、この作戦が行えるのだ。

さらに衛星回線を使い〈金剛〉とリンクしている為、〈はりま〉の至近にいる〈金剛〉が誘導波を出し、ポリゴンモデルのデータと併用する事で細かい誘導が行えるというメリットもあった。


「よし、作戦開始だ! 次席指揮官にデータを転送、〈天雷〉が50キロに届き次第〈金剛〉は機関始動。

始動後、第2部隊に向け作戦開始の合図、ピンガーを打て。

我が艦は機関始動後、最大戦速。進路〈はりま〉艦尾だ」

「了解、いつでも機関始動OKです」


暁副長はその報告に頷くとモニタに写っている〈はりま〉を見る。


クソッ、やっぱり穏便には終わらなかったか。

艦長、ご無事で。それとエリナと瑠璃の事よろしくお願いしますよ。


暁副長はモニタに写っている〈はりま〉に向け小さく呟いた。

 

 

─ 双胴戦艦〈はりま〉ソナー室 

「・・・しかしうるさい艦だな」


ソナーを担当している迫水一曹の一人言に近い愚痴を聞いたソナー長が問いただす。


「どうした? 迫水一曹」

「あ、実はですね、あの重巡ですが・・・機関音と雑音が酷いんですよ。艦内で工事でもやっているような雑音までしています。

下手すると廃艦寸前の中古駆逐艦よりうるさいくらいで」


やれやれといった感じで頭をふる。


「そうなのか? あの艦はナーウィシアの最新鋭艦と聞いているが」

「ええッ! あれで最新鋭艦ですか? とても信じられませんよ。あの艦が出す雑音で、ソナーで音をより分けるにも手間がかかってますし・・・はぁ」


ソナー長のあの艦が最新鋭という言葉に驚いたが、それより前に一曹は心底疲れた顔をしてため息をつく。


「だいぶ飛ばして来たみたいだからな機関の調子でも悪くなっているんだろう。だが注意していろよ? こんな時に襲われたらたまらんからな」

「・・・了解です」


彼の忍耐力は底を尽きかけていたがソナー長の言葉に込められた

“しばらくは状況は変化せず忍耐と勝負となる”

という意味を読み取った迫水一曹はソナー長が見てないのを確認して思い切り顔をしかめた。

 

─ 双胴戦艦〈はりま〉CIC 

「敵重巡の機関始動音を確認!」

「なに?」


その報告に田代は想像通りとほくそえむ。


───やはり、そうきたか!


このまま重巡を放っておけば〈はりま〉に重大な損傷を与えかねない。

申し訳ないが“英雄”の艦を撃沈させてもらう。


「飯田艦長、重巡の雷撃に注意だ、ウェーキライダーが来るぞ!」

「え・・・了解! 機関最大戦速! 射撃自由だ、重巡の足を止めろ!」


飯田艦長の命令で〈はりま〉はゆっくりと動き出した。




─ 双胴戦艦〈はりま〉副砲指揮所 

「な・・・なんだ、あの重巡の速さは! 速力が上がってからから5秒で25ノットを超えたぞ!!」


〈金剛〉は〈はりま〉の巡航速度に合わせ16ノットで航海していたが作戦開始により、5秒で25ノットを超える猛ダッシュを見せ付け180度回頭、〈はりま〉の後部へ向け急速に移動を開始する。

その常識はずれな速度にバイタルパート内にある副砲指揮所、その場所の責任者・田宮大尉は呆れも混ざった口調で〈金剛〉迎撃を命じた。


「くそっ、レーダー照射では間に合わん!! 3番、4番、咄嗟射撃、撃ぇ!!」


その命令を受けた右舷3番、後部4番の3連装砲塔がぐるりと〈金剛〉に指向し6つの砲門が咆哮した。

 

 

─ 第七戦隊旗艦〈金剛〉CIC 

〈はりま〉の副砲が〈金剛〉に向けられ咆哮、第一射目が至近弾になったのを見た暁副長は立て続けに命令を出す。


「DF120%、設定値変更、〈はりま〉側だ、急げ!」

「了解!」


設定値を変更されたDFが〈はりま〉側に展開された瞬間、第2射目が〈金剛〉を直撃する。

1発はDF貫通最適角度を捕らえDF内に突入、〈金剛〉の右舷20mに至近弾となった。

飛び散る破片が〈金剛〉を打ちのめしバッテリーを組み込んだ増加装甲ブラックサレナにダメージを与える。

残りの5発の内、3発の15センチ砲弾が同じように命中し〈金剛〉のDFは辛うじて耐え弾丸は弾き飛ばされた。


「DF54%、次に至近から直撃をもらったら耐えられません! それと至近弾のダメージによりBS装甲が破損、回復までに5分」

「了解!」


至近弾の衝撃で揺れる艦内で暁副長の口から賞賛の言葉が出る。


「やってくれるじゃないか。さすがニホン海軍、鉄砲を当てるのは上手い」


(だが艦長から預かった〈金剛〉を傷つけた事は許せん、きっちり返礼させて貰うぞ!)


「CIWS! 〈はりま〉の副砲へ精密射撃!」


先ほどの命中弾の返礼とばかりに〈金剛〉に2基搭載されているCIWSが〈はりま〉に指向し毎分4千発という鋼鉄の嵐を叩きつける。

その嵐は2基の副砲に襲い掛かり砲身をボロボロにし使用不可能なほどのダメージを与えた。

その直後、〈汐風〉から発射されたSM2改〈天雷〉が健在な副砲と対艦ロケット弾、対空機銃に命中したが盛大な爆発は起きず、衝撃で使用不能にした。

さらに1分後、〈はりま〉の艦尾に小さな水柱が立ち上がった。


その光景を確認した暁副長は〈金剛〉の本作戦における役割、強襲乗艦を果たすべく命令を下す。


「進路〈はりま〉、右側舷に寄せろ。陸戦隊、準備だ」


だが〈金剛〉を阻むかのように巨大な56センチ砲塔が向けられた。



─ 双胴戦艦〈はりま〉CIC 

銃を向けられた隼人とアウターの睨みあいの続く中、〈金剛〉の増速で慌しくなったCIC。


「やってくれるじゃないか、“英雄”殿・・・」


急激な状況の変化に苛立たしげな表情をしつつ隼人に向け引き金を引こうとする。

そのアウターの言葉を遮るようにソナーマンから報告がくる。


「艦長! ソナーに2つ感有り!! 本艦至近! あ・・・雷撃ですっ!」


ソナーマンの絶叫と重なるよう〈はりま〉に衝撃が起こり、つんのめるように艦首が若干沈んだ。

その衝撃にCICの中で立っていた人間が転倒する。

CIC入室時に“雪花”を奪いとっていたアウターの副官も転倒し愛刀は床に転がりガチャンという音を立てた。

さらに追い打ちをかけるように爆発音と振動がCICにまで伝わってきた。


あらかじめ作戦に組み込まれた出来事に隼人は古流修練で鍛えた反射神経ですぐにしゃがみ込み、

衝撃をやりすごすと銃をを突きつけていたアウターに歩行術・流水を使って近づき、低い回蹴りを放つ。

他の人間と同じように転倒していたアウターは襲いかかる蹴りの直撃をくらい吹き飛ばされる。

それでもなお手放さなかった銃を三点バーストで隼人に向け射撃。

隼人はその射撃を転がった愛刀に向け飛び込むようにかわし、跳弾した弾はCIC内の機材にめり込み、不幸な乗組員に傷を負わす。


“雪花”を引っつかむとアウターに向け鯉口を切って居合抜きをかける。



キン!




“雪花”の鯉口をきる澄んだ音が響き、光を反射した刀身が雷光のように輝いた。その鋭い剣先がアウターの喉元に迫る。

アウターは銃を使って居合いを受けるが衝撃で銃が弾き飛ばされた。

隼人は視界の端に“雪花”を奪い取った男がふらふらと起き上がりつつ銃を構えるのを確認、

素早く懐に飛び込み掌底を打ち込んで悶絶させ、さらにあまりの状況の変化に呆然としていた首謀者の田代に一撃を食らわせ昏倒させる。


「ちぃッ!!」


その隙に鋭い舌打ちと共にCICから脱出するアウター。

それを追い飛び出していく隼人。


狭い通路をアウター・ドレッドいや十二神将が一人“太刀持つ闘神”招杜羅ショウトラは人質がいる昼戦艦橋に向け駆け抜ける。 

アウターは今の攻防で疑問があった。

ヤツが何故───“異形の黒”と同じ古流を使えるんだ?


それに予定外だが“異形の黒”が現れるとはな。

連合海軍の“英雄”と“異形の黒”、この2人を殺せば俺は十二神将内で筆頭に上がれる。

通信機を使い、〈はりま〉の航空機格納庫を呼び出した。



─ 双胴戦艦〈はりま〉CIC 

転倒した状態でその攻防をあっけにとられた表情で見ていた〈はりま〉飯田艦長は自分の責務を思い出す。

慌てて立ち上がり自艦の状態を把握すべく、マイクに向かって怒鳴った。


「各部状況知らせ!!」

「ロケット弾を被弾! 主砲以外の武器に直撃、壊滅状態です!」

「ばかな、そんな精密な攻撃が出来るのか? それは重巡からの攻撃か?」

「違います、あの艦ではありません。レーダーのレンジ外から発射されたようです」

「一体どういう事だ、そりゃ」


驚くべき報告に艦長が戸惑っているとさらに報告がもたらされる。


「重巡が接近、さらに本艦の至近にいた潜水艦2隻が浮上を開始」


遅れて機関室から被雷の被害報告がCICに飛び込んでくる。


「艦尾にウェーキーライダーを被雷、スクリューと舵が破壊されました! ですが幸いな事に浸水はほとんどありません!!」


〈はりま〉のスクリューと舵を破壊したのはナーウィシア海軍に所属する2隻のSS007級潜水艦〈神鯨〉と〈白鯨〉だった。

この2隻が〈はりま〉至近からスクリューと舵を狙って魚雷を撃ち込んだ。


鯨シリーズと言われるこの2隻はグアムに駐屯していたが沖田中将から特命令を受け〈はりま〉を拿捕すべく陸戦隊員を乗せグアムを急遽出航、航路を算定して最大戦速で〈はりま〉の進路に立ちふさがり着底して待ち受けていたのだ。


さらに〈金剛〉が〈はりま〉が近づき騒音を発する囮になる事で海水の状態を悪化させ探知されにくくし、

巡航速度の16ノットで移動する〈はりま〉の両胴の真下に滑り込んで追随していた。


そしてピンガーが作戦合図となり速力を落とし置いていかれるようにして〈はりま〉後方を位置取り、至近距離から有線魚雷で雷撃しスクリューと舵を破壊した。

その際ウェーキライダーではなく射程の短い有線魚雷を使用したのは状況によっては〈はりま〉が停止している可能性があり、ウェーキライダーでは追尾できない事態を避ける為だった。


有線誘導魚雷はロケット推進の為、雷速が速く対応されずらい。欠点の射程距離の短さは〈はりま〉至近から発射することで解決した。

それに通常量の炸薬では威力がありすぎスクリューを吹き飛ばすどころか艦底に大穴を開けかねないため、前部発射管から発射された6発の有線魚雷のうち2発が炸薬を弱装にセットされ舵とスクリュー破壊を狙った。


残りの4発は炸薬の抜かれた・・・言ってみれば模擬魚雷だ。

それ自体攻撃力のほとんどない模擬魚雷だが炸薬ありの魚雷が撃ちもらしたスクリューに有線誘導でロケット推進で速度の乗った弾体を直接命中させる物理的に損傷させスクリューを破壊し〈はりま〉の推進・操舵力を奪い取ったのだった。


その為、命中本数の割に艦底の被害は軽かったという訳だった。〈はりま〉の行き足を奪った2隻の潜水艦は最後の仕上げをすべく浮上を開始した。


「破壊されたのに浸水が少ないだと・・・? ナーウィシアめ、やってくれるじゃないか」


その報告に田代と飯田艦長は彼らの意図を悟った。

ナーウィシアのやつら、この〈はりま〉を拿捕する気でいる。

スクリューと舵を破壊し行き足を止め乗り込んでくる気だ。

何とか艦を動かして接舷を防がないと乗り込んできた陸戦隊に艦内から制圧されてしまう。


「なんとか艦を動かせないか?」


艦長と田代の希望はあっさり否定された。


「1基でも両方生きていれば双方を逆逆転させる事で何とかなったんですが・・・駄目です」

「潜水艦、本艦の左舷に接舷しようとしています! さらに重巡が右舷に接近!」

「副砲・・・」

「主砲しか使えません!」


その報告に主砲以外の火器が破壊された事を思い出した艦長は素早く状況を確認する。

潜水艦は喫水が低い上、接近され過ぎていて主砲の俯角が足りず攻撃は無理だ。

重巡の方なら何とか攻撃が可能と判断し艦長は主砲で迎撃を命じる。


「くっ・・・主砲、重巡を狙え」



「敵潜水艦接舷しました! 艦長、指示を!!」


世界最大の主砲を持つ戦艦が拿捕・・・日本海軍の面子が潰され、さらに自身もそのような不名誉を蒙り後ろ指を指されるくらいなら・・・迎撃してやる。

艦長は決断を下し乗り込んできた陸戦隊を迎撃することを命じた。


「くそっ、今度は白兵戦か! 反乱人は見つけ次第射殺せよ。最低限の人員を残し応戦だ。

それと乗り込んできた陸戦隊を迎撃、拿捕を防げ。ただし積極的な攻撃はするな、拿捕を防ぐ事だけ考えろ。

大型火器は使うなよ、突破されたら白兵戦で仕留めろ。

ここで他国に拿捕されたら〈はりま〉は良い笑い者だぞ!!」


怒鳴るように言うとマイクを叩きつけた。

艦長の視線は隼人に気絶させられた田代に向かう。

彼を海軍司令部に突き出せば自分の不名誉は多少軽くなるかもしれない。

彼は護身のため、田代の身柄を確保した。



─ 第七戦隊旗艦〈金剛〉CIC 

〈はりま〉に向けて近づく〈金剛〉のCICではどよめきが起きていた。世界最大の主砲、56センチ砲がこちらを向いたからだ。


「戦艦の主砲を重巡に向けるか!」


暁副長のその呟きに瑞葉が慌てる。

お気楽とかのん気とか言われる彼女でもさすがに洒落にならないらしい。

若干青ざめた表情で暁副長に対策を求める。


「ふ、副長! 〈はりま〉の主砲がこっちを向いてマス、逃げないと危ないデスよ!!」


巨大な主砲が火を噴き火山もかくやと思わせるほどの火炎と爆煙が〈はりま〉の艦上に沸き起こった。


頭上を特急電車が横切るような轟音をひきずりながらジグザグに機動をはじめた〈金剛〉の後方に盛大な水柱が立ち上がる。

至近弾ではないにも関わらず爆風と水中衝撃波は直接打撃を想定していない、あまり頑丈とは言えない〈金剛〉の艦体を弄りダメージを与えた。


「報告! 今の着弾により艦底から若干の浸水発生!」

「ダメコン急げ!」

「了解!」

「副長、このままじゃ主砲で撃沈されちゃいマスよ! どうするんデスか?!」


そう言っている間にも2度目の爆風が〈はりま〉の艦上を彩り、〈金剛〉の周囲に盛大な水柱を立て地震でも起きたかのようにCICが振動で揺れる。

その飛んでくる砲弾と水柱を見ていた暁副長はハッと気づく。

レーダー員に向け問いかけた。


「レーダー、イージスで〈はりま〉の砲弾を捕らえられるか?」

「ちょっと待ってください・・・あ、可能です、スタンダードで迎撃出来そうですよ!」


その言葉に「あっ」とCICのメンバーは思い至り頷いた。

金剛のイージスシステムはマッハを超える速度で飛んでくるミサイルや航空機を撃墜できるのだ。

それより遅い戦艦の砲弾を補足出来ない訳がなかった、それに思い至らなかったのは敵の巨大な56センチ主砲の魔力にのまれていたのかもしれない。


「よし〈はりま〉の主砲弾をイージスで迎撃! 〈金剛〉は突撃だ!!」


〈金剛〉は大きく回頭すると〈はりま〉に向け加速していく。だがその動きはいつもの精彩がない。


その姿を好機とみた〈はりま〉は主砲を放った。

飛んでくる砲弾に向け、スタンダードが発射され〈金剛〉に搭載されているイルミネーターが誘導していく。

固唾を飲んで見守るCICのスタッフが見ている前で〈はりま〉の56センチ砲弾にスタンダードが全て命中し盛大な爆煙が沸き起こった。


「全弾、命中!! やったッ! 撃墜できましたよ!!」


その様子を見ていたレーダーマンが歓声を上げる。それにつられ他のスタッフも歓声を上げた。

暁副長も「よし!」と拳を握り締め頷く。

握られていた拳の内側は冷汗でまみれていたが、そんな事は他の乗組員には内緒だ。

何を思ったのかマイクを取り上げると艦内放送をかける。


「乗組員の諸君、副長の暁だ。現在我が艦は〈はりま〉と交戦し、〈金剛〉に向けられていた世界最大の主砲、56センチ主砲弾をイージスにより全弾撃墜した」


そこまで言って今までの言葉を理解させる時間を作る。


「そうだ、〈はりま〉は我が〈金剛〉を撃沈する術を失った! 諸君は撃沈の心配なしに任務を遂行してくれ。

それと戦艦が主砲を使うのは戦艦に対してだけだ! その事を知らない〈はりま〉の艦長にナーウィシア海軍が教育をしてやろうじゃないか!」

拳を突き上げ暁副長は絶叫にも近い声をあげる。

その姿は「ワン、ツー、スリー、ダーッ!!」の台詞で有名な某プロレスラーに匹敵する熱い叫びだった。


その姿を通信ブースでやれやれといった感じで瑞葉が見ている、呆れていたのかもしれない。

だが彼女は副長の意図が分かったので何も言わない、ただ苦笑していただけだった。


暁副長の熱い言葉を聞き兵たちの顔に明るさが戻ってくる。


なすすすべもなく〈はりま〉の主砲砲撃を受け、第七戦隊は創設以来最悪なほど士気が低下していた。

ただでさえナーウィシアとは無関係な任務と思われていた為、落ち気味だった士気。

そして暁副長は56センチ砲弾の撃墜をネタに士気を盛り上げる為のアジテーションをかけた。

よく考えて見れば分かるが主砲以外の武器がなければ主砲を使うしかない。だが今必要なのは事実ではなく兵たちの士気を上げるネタ。


向こうは〈金剛〉を沈められないという安心感、そしてニホンの弟分と見られているナーウィシアが彼らに教育を施してやるという対抗意識と優越感。


一方的に撃たれていたその反動もあってアジテーションの効果は素晴らしかった。

艦のそこここで雄叫びを上げる乗組員たち。


兵たちの気合を取り込み見違えるような動きで〈はりま〉に突撃する〈金剛〉の姿があった。



─ 潜水艦〈白鯨〉艦上 

〈神鯨〉〈白鯨〉の2隻は〈はりま〉の左舷側に浮上し接舷を開始する。


「よし、接舷完了、行くわよ!」


「おう!」




そう気合をかけているのはグアムに駐屯していた最精鋭の海軍第三陸戦隊を臨時で指揮する事になった隼人の幼馴染兼護衛役の西堂彩だった。

隼人が陸戦に参加するという情報を得た彩は沖田に交渉し(脅しともいう)無理やり海軍第三陸戦隊の指揮権を貰ったのだ。


当然彼らからすれば上からの指示とはいえ見知らぬ女に指揮を委ねるほど甘くはない。

交渉の結果、模擬戦闘を行い彩が勝利すれば全面的に指揮権を認めるとなった。

結果・・・激戦の末、彩が勝利を収め指揮権を認めさせたのは良かったが・・・。


「隊長! 我等が先に行きます、安全を確保してからゆっくり着いて来てください」


ゴツイ顔つきの陸戦隊員が愛想を振りまくようににっこりと笑う。

そう、精強な彼らに勝った彩は強い、美人、優しいと3拍子揃った彼女にすっかり心酔しちょっとしたアイドル状態になっていた。

まあ女が少ない最前線ゆえ仕方がない部分もあった訳だが。


───まいったなぁ、なんでこんな事になっているんだろう?


彩は内心で溜息をついた。

ちなみにその後ろでは後藤と陸戦隊員が彩の背中を守る権利をかけて闘っていた。


戦闘前なのにjこの緊張感のなさ。

すっかり彩や後藤は第七戦隊の“お気楽極楽”な雰囲気に染まっているようだ。


他の部隊からは優先的に与えられる新型艦や作戦のフリーハンドをやっかみ、

“彼らは軍人じゃない”という嫌味を言われる事もあるが普段はふざけておちゃらけていても要所は締め、

やる時はやり、きちんと結果を出してプロの軍人として自らを証明してきた。

じゃなければとうの昔に超兵器に沈められていただろう。それほどまでに超兵器は手強く、運だけでは勝てない相手だった。


彼らの上官たる沖田も試作兵器の運用という命令は極普通の軍人では型にはまった運用しかできず、

平凡な・・・偽悪的に言うなら“いざというとき大して役にたたない”運用だと思っていた。

隼人たちに任せるのは不適ではないかという意見が出ても無視している。


むしろ彼らには試作兵器をさまざまにそして手荒に扱ってもらい、多少やんちゃをやって壊す事も構わないと思っていた。

ただ人間だけはどんな事があっても生き延びさせると考えていた。

兵器など新たに作れば良いが経験を積んだ彼らと同じレベルの人間は一朝一夕では育てられないからだ。


その為に沖田はさまざまな策を練り、敵に勝てる艦を作り、柔軟な運用が出来る部隊を作り上げてきた。

その集大成が双岳隼人少佐率いる第七戦隊。


沖田が作り上げたこの部隊がどうなってゆくのか───今のところ神のみが知っているという状況だった。

 

 

─ 第七戦隊旗艦〈金剛〉艦上 

彩が指揮する海軍第三陸戦隊の反対側、右舷側では敵の抵抗を排除し〈金剛〉陸戦隊が接舷を成功。

意気上がる彼らを指揮する土方がさらに気合を入れていた。


「いいか! 精鋭なんて言われて天狗になっているグアム第三陸戦隊なんぞに手柄を持っていかれるな!

艦長を助け〈はりま〉を再奪取するのは俺たちだ!!」

「おう!!」

「いくぞ!」


土方たちは周囲を警戒しつつ〈はりま〉の前楼に向かって進み始めた。




こうして役者が揃い双胴戦艦〈はりま〉を巡る戦いは山場を迎えた。

 

 

─ 双胴戦艦〈はりま〉艦内 

俺はヤツを追ってCICを飛び出すと誰かにぶつかりそうになった。

瞬時に小太刀・雪花をぶつかりそうになった兵に突きつける。

その鋭い剣先に慌てた声が俺の知っている人物だった。


「しょ、少佐! 自分は敵じゃありませんよ!!」

「新宮寺少尉!? ここで何をしている」


彼は見知った顔だったが雪花を突きつけるのを止めなかった。

もし何かあった場合、一撃で倒せるように油断なく構える。


「CICから銃撃音が聞こえたので様子を見に来たんです。それより少佐は?」


彼はヤツの仲間ではないようだな、俺は“雪花”を下ろした。


「今ここを出て行った男が何処に行ったか分からないか?」


たぶん彼はヤツとすれ違ったはずだ、行方が分かるかもしれない。


「あ、あいつでしたら多分、前楼だと思います。そこに続く通路を走って行きました。

それに昼戦指揮所に女性の人質がいます」


女性の人質? エリナさんと瑠璃ちゃんだろう。

探す手間が省けたがヤツが昼戦艦橋に向かったって事は・・・一刻の猶予もなくなったって事だ。


「すまん、案内してくれないか? ヤツが反乱分子の指揮を執っている。彼を捕らえてこの艦を反乱分子から開放させる」

「そ、そうだったんですか! じゃあ案内します、着いてきてください」


そう行って新宮寺少尉は走り始め俺も彼の後をついていく。

走りながらだったが新宮寺少尉に聞いてみた。


「反乱分子は何人くらいいるんだ?」

「たぶんですが5〜60人くらいだと思います。彼らは3〜4人で行動してCIC、砲撃管制センター、通信指揮所、機関室、武器庫などの要所を占められました」


俺の聞きたい事が分かったのか彼は状況を教えてくれる。


「結構いるな」

「ええ、それに艦隊司令を人質にとられていて反撃しようにも」

「仕方ない。これからナーウィシア陸戦隊が強襲接舷を行う。出来れば抵抗しないで欲しい」

「ですが・・・艦長からナーウィシアの拿捕を防げと」

「ちっ、余計な事を」


俺は貧相な顔をした保身欲の強そうな〈はりま〉艦長の顔を思い出す。


「できる限りで構わない、皆を説得してくれ。俺たちはニホン海軍・御統中将からも依頼を受けているんだ」

「ええええっ、御統中将からもですか!」

「ああ。中将からだが〈はりま〉に乗艦の兵は反乱分子に強要された物であり、自らの意思ではなかったので罪は問わない。

簡単な事情聴取の後、原隊に復帰させる旨、言付かっている」


出航間際に沖田提督から聞かされた御統中将の意思を新宮寺少尉に話した。


「そうなんですか、なら仲間を説得できやすくなります! あ、ここが前楼への入口です。でも変だな、エレベーターが止められてますね」

「止まっている?」

「はい、電源が切られているみたいです。あとは兵用のタラップを使うしかありません」

「分かった、案内ありがとう。じゃあ新宮寺少尉、仲間たちを説得してくれ」

「了解しました!!」


彼は俺に敬礼をすると走っていった。

俺は彼を見送るとタラップを上り始める。




─ 双胴戦艦〈はりま〉昼戦艦橋 ─

扉から中の様子を伺う。

アウターと部下と思しき男が母娘に銃を突きつけ籠城している。

隼人の気配に気づいたのか声をかけてきた。


「“英雄”、聞こえるか。人質を殺されたくなかったら出て来い」

「分かった、今出て行く」


隼人はその言葉に素直に従わず言葉だけを返し、ポケットから10円を取り出してあらぬ方向に投げる。



ちゃりーん!!





極度に緊張しているアウターと部下はその音に過敏に反応、10円に向かって銃を撃ちまくる。


「「きゃああああ!!」」


激しい銃撃音に耳を押さえる、母娘。

隼人は昼戦艦橋に飛び込み、歩行術・流水を使って瞬時に間合いを詰め、


「ちっ!!」


裂帛の気合と共に持っていた小太刀・雪花でアウターと部下の拳銃をはじき飛ばし、

返す刀で隙の大きな部下に一撃を加え昏倒させる。


もちろん刀で倒した部下は刃ではなく峰に変えている。

さすがに女・子供の前で人を斬り殺すのはマズイとの判断だった。

それにコイツらには情報を吐いてもらった後、それ相応の報いをくれてやらなきゃ気が収まらない!! という思いも強かった。


さらに踏み込みアウターを切りつけると飛び退ってかわし腰に下げた日本刀を抜き放った。

同じ刀という武器で激突する2人。

切り結ぶ金属音が瑠璃たちの耳を打ち、飛び散る火花が目を焼く。


エリナは目を瞑って縮こまり瑠璃はその光景をどこか夢の中の出来事のようにぼーっと見ていた。

彼女の外見は幼いが内面や思考は大人びた少女だったがやはり中学生の子供。

隼人の頬を掠った刀の後から血が飛び散れば見慣れていないだけに神経も失調するだろう。


速度を優先する隼人と剛剣のアウターいや招杜羅。

隼人はフェイントを多用し小太刀の範囲に入ろうとするがそれを理解している招杜羅はそうはさせじと距離を常に開けるような足捌きと一撃で牽制する。

お互いに致命傷とはいえない傷を負いながらも勝負は付かない。


こいつ・・・やる!

お互いにそう思い距離を置き息を整える。

まさに息の付く暇がないほどの攻防。


招杜羅は“英雄”が刀を使った接近戦で自分とここまでやりあえる事に感嘆していた。

十二神将はいずれも己の得意な武器のスペシャリスト。

さらにそれぞれに得意分野を持っており、今は亡き十二神将最強の狂女・伐折羅バサラは暗器と格闘術、それと破壊工作を担当し、兵器開発局長を務めるワイズ・ベクターこと真達羅シンダラは斧と設計を得意とし彼らの主“蜃気楼”を影で支えている。


「正直侮っていたぞ、英雄」

「そうかい」


仕掛けるタイミングを取りつつ招杜羅は声をかける。


「どうだ、我が方につかぬか?」


招杜羅は本心ではそう思っていない、あくまで英雄は彼の“獲物”だからだ。

少しでも心を動かせれば良いと思い誘ってみたが英雄は微塵も揺らがなかった。


───この程度では揺らがぬか。


ここまでやる相手がこんな言葉で揺らぐとしたら招杜羅は興醒めしたろう。


隼人はその言葉を無視し、ただ1点、招杜羅の刀をはきじ飛ばすことに神経を集中する。


じりじりと時間が過ぎ2人の重圧に耐え切れなくなった瑠璃が動いた気配で2人は相手に向け飛び込む。

招杜羅は突き、隼人も突き・・・に見せかけて小太刀・雪花を刀に巻きつけるように動かし弾き飛ばそうとする。

慌てた招杜羅が刀を引こうとする所をさらに踏み込んだ隼人は招杜羅の刀に雪花を巻きつけたまま捨てた。




───これで勝負を決めてやるッ!!




古流八式・・・・



八龍顎連環掌ォオオオッ!!





円を描いた拳が突きが裏拳が招杜羅に叩き込まれ、連続する打撃に吹き飛ばされた招杜羅は入り口に近い壁に激突して跳ねた。


「・・・み、見事」


という言葉を最後にがっくりと項垂れた。


荒い息を吐き出しつつ隼人は雪花を拾って瑠璃とエリナに近づき身体を縛っていたロープを切った。



─ 〈はりま〉昼戦艦橋・隼人 ─

俺は刀を鞘に納めた。


その時のチン! という澄んだ音で母娘は正気に戻ったようだ。

パチパチと瞬きをし、状況を確認している。


「大丈夫かい、怪我とかない?」


俺は突然の事態でフリーズしていた副長の娘、瑠璃ちゃんを安心させるように微笑して手をさしのべた。


「・・・大丈夫(赤)。怪我はありません」


ぺたりこと座りこんでいた瑠璃ちゃんは無表情な中にほんの少しだけ恥ずかしそうな雰囲気で俺の手を掴み立ち上がった。

だが少し眉を顰めた瑠璃ちゃんの視線は俺の後ろに投げかけられていた。


「あ、あいつが逃げるわ!!」


そのエリナさんの叫び声に振り向くと気絶したはずのヤツがいない!

俺は慌ててドアに駆け寄る。振り向きざま瑠璃ちゃんとエリナさんに声をかけた。


「ここで少し待っていてください! すぐに戻ります」

「・・・はい」


瑠璃ちゃんは消え入りそうな小さな声で答えた。

俺は昼戦艦橋を飛び出し気配を探る。

階段を上る音が聞こえてきた。


「ちっ、往生際が悪い! ヤツは上か!」


前楼内にあるラッタルを駆け上り前楼の一番てっぺん、海上から70mという高所にある対空見張所と言われた場所に出た。

俺の視線の先にはあの男が構造物の端で立って俺を見ていた。

ヤツは不敵な笑みを浮かべる。


「じゃあな、“英雄”殿」


と言って艦の外に身を投げ出した。

俺は慌てて近寄ろうとして度肝を抜かれた。

ヤツが飛び降りた下から異形の物体が浮かび上がってきたのだ。

その姿は四肢を持ち、人間と同じような顔に1対の赤く光る目があり凶暴な色をたたえて輝いている。

そう、それはまさに人型をしたロボットだった。



「な、人型のロボットだと!」





真っ白い人型のロボット。

その瞬間、俺の目の前がノイズが起こったようにちらつく。



───黒い〈ブラックサレナ〉

───ピンクの〈エステバリス〉

───白い〈アルストロメリア〉



怒涛のように流れ込んでくる自分の物ではない記憶に頭が混乱し、冷汗と一緒に力が抜け雪花が手から滑り落ち、俺はがっくりと膝をついてしまった。



─ 〈エステバリス〉コクピット 招杜羅 ─

「これで最後だ、“英雄”!!」


突然現れたこの〈エステバリス〉に度肝を抜かれたのか“英雄”は崩れ落ちるように膝をつき、逃げるそぶりを見せない。

その瞬間、招杜羅は勝利を確信した。

招杜羅の操る〈エステバリス〉は持っていたラピッドライフルを対空見張所の隼人に向け引金を引け・・・なかった。




ドコン!!




突如飛んできた一撃はこの機体に装備されているDFを軽々と撃ち抜き、本体に着弾。

その砲撃の勢いは凄まじく吹き飛ばされた〈エステバリス〉は前楼から離れた場所で大爆発を起こし、

引き千切られた人形のようにバラバラになって海中に沈んでいった。

 

 

─ 〈はりま〉対空見張所・隼人 ─

自分の物でない記憶と目の前で起きた事態に呆けたようになっていた隼人はその爆発音でようやく自分を取り戻す事ができた。

射撃が飛んできた方向を見る。

そこには以前遭遇したあの黒い戦艦がいた。だが反転したその姿は水平線に姿を消そうとしていた。


(この記憶は俺のじゃない、俺は・・・俺は・・・一体誰なんだ?)


隼人は痛む頭とその想いに顔を顰めると現状を思い出し瑠璃とエリナを迎えに昼戦艦橋へ戻るためにラッタルへ向かった。


俺は他の誰でもない───双岳隼人だと言い聞かせて。



─ 〈エグザバイト〉明人 ─

「〈B-OSRブラック-オセラリス〉の射撃、敵〈エステバリス〉を完全に破壊。さすがです、明人さん」


リースの賞賛の言葉に明人はようやく一息ついた。

彼女の射撃管制の援護を受けているとは言え、人間を巻き込まないように破壊するのはかなり困難な事であり相当の緊張感があった。

だが仇敵・十二神将の一人を確実に倒した事に満足な笑みを浮かべる。


「やれやれ・・・貸し、だな」


明人は誰ともなしにそう呟くとシートに身体を預け目を閉じた。

 

 


− あとがきという名の戯言 −

瑞葉:お馴染みのご挨拶デスけど、最後まで読んでいただきありがとうございます!

隼人:ありがとうございます。

瑞葉:って事で今回は盛り沢山だったデスねえ、砲撃戦に格闘戦に対空戦闘、雷撃もあるなァ。

隼人:あまりにも話が長すぎて2話になったくらいだからね。

瑞葉:それと異形の黒こと明人さんの黒い戦艦の名前も公開されましたし。〈エグザバイト〉って名前だったんですね。

隼人:この名前だけは企画の最初に決まった名前だからね。〈エグザバイト〉以降の名前は漫画版ナデシコを読んだ方にはバレだろうけど〈メガバイト〉〈ギガバイト〉と続くんだけど・・・多分〈エグザバイト〉でこのクラスは終了だと思う、試作艦だし。

瑞葉:へェ〜そうなんデスか。リースちゃんの戦闘シーンも出てきてますが思いっきりマシンチャイルドになってマスね。

隼人:ま〜基本的にMCと役割が変わらないから(苦笑)。リースの場合、特殊な状況にならない限り100%の力が使えないし(使うと明人に怒られるから)、彼女の本当の姿は出てこないよ。

瑞葉:ほうほう、それは何時デスか?

隼人:本編・異形の黒パートの最終話。

瑞葉:ゲゲッ、まだまだ全然先の話じゃないデスか!

隼人:ま、まあ・・・お楽しみという事で(大汗)

瑞葉:あとは後書きで名前だけ出ていた〈ブラック・オセラリス〉ですか。

隼人:これは・・・内緒だ。

瑞葉:内緒って。あ、〈エステバリス〉も出てましたね、新鋭機という触れ込みの割にはあっという間に撃墜されて★になってましたけど。

隼人:あれは完全に意表を突かれた攻撃だったからね、じゃなければもうちょっと粘れていたと思うけど。

瑞葉:そうですかねえ。ま、じゃあ次回は?

隼人:救出した瑠璃ちゃんと今回の首謀者・田代中将との話がメインかな。派手な戦闘が続いた今回と違って地味になるね。

瑞葉:今回はアタシがほとんど出てきませんでしたからねえ、次回は出れるといいけど。

隼人:今から謝っておくけど・・・全くでない。

瑞葉:えーッ! 真のヒロインが出なくちゃ駄目じゃないですか!!

隼人:ここ数話は瑠璃ちゃんの為にある話だから諦めなって。

瑞葉:うーっ、仕方ないですねえ。じゃあ次に期待します!!

隼人:ゴメン、その次は最後の女性キャラが登場・・・(仕舞った、薮蛇だ(汗)。

瑞葉:ギロリ!!

隼人:べ、別に俺がナンパした訳じゃないぞ。

瑞葉:そうデスか、別に構いませんケド。(つーん

隼人:そ、そうすねるなよ、瑞葉クン。その中で君が活躍するシーンもあるんだし。

瑞葉:ホントですか?

隼人:ああ、作者に聞いた。

瑞葉:そうですかぁ、やっぱりアタシが出ないと駄目ですよねえ。

隼人:(しかし・・・その状況を知ったらどうなることやら。トホホホ(涙)

瑞葉:あれ? どうしたんデスか? 涙なんか浮かべちゃって

隼人:いや、なんでもない。じゃあ時間もきた事だし。

瑞葉:ハイ、じゃあ次回連合海軍物語二十二話「瑠璃」でお会いしましょう。

 

 

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代理人の感想

うーん。

そう言えば最近ライトノベルを読んでないけど・・・・

攻撃したり移動したりするたびに武器の名前や技の名前をわざわざ書くのが主流なんだろうか?

正直言って、読んでてうっとうしいことこの上なかったりするんだけど(苦笑)。

 

あと、射撃の場合ノックバック(殴り飛ばされること)は普通起こらないんじゃないかと。

何故かって言うと、パンチや白兵武器と違って銃撃は運動エネルギーが一点に集中するため

飛ばされる程に弾体の運動エネルギーが高かった場合、あっさり貫通するから。

そうでないとしたら巨大な暴徒鎮圧弾みたいなものなのかもしれませんが・・・・機動兵器の狙撃で普通そんなタマは使わないよなぁ。