─ 2096年7月7日 第七戦隊旗艦〈金剛〉艦上 瑠璃 ─
私は降りしきる雨を見ていた、絹のような細い雨。
みんなは雨が嫌いっていうけど、私は雨が好き。
屋根や傘に当たる雨音を聞いているととても落ちつく。
あとは窓についた水滴に反射する光がとても綺麗だとか。
こんなこと言うと数少ない友達、東雲さんに
「くっら〜い! またそんな事言ってるの?
アンタは可愛いのに、そんな暗い事言ってちゃ、もったいないよ?」
と呆れてられてしまうだろうな。
でも、ちゃんと大事な理由があるんだよ?
ちっちゃい時、家族で屋台のラーメンを食べに行ったんだ。
その時は真夜中で雨が降っていてとっても寒かった。
真っ赤な提灯に“てんかわラーメン”と書かれた屋台だった。
ビニールに当たる雨音を聞きながらときどき通る車のヘッドライトが
雨粒のついたビニールに当たりキラキラと煌めいて
とても綺麗で・・・ずっとそれを見ていた。
そのうち注文した塩バターコーンラーメンが出てきた。
とっても良い匂いがしたのでお腹がないてしまった。
あったかくて凄く美味しかった。
「ほら瑠璃、ほっぺについてる」
そう言って父さんがラーメンの熱で真っ赤になった私の頬を指差す。
「え〜ついてないもん!」
「ぷッ、あなただってついてるわよ?(笑)」
「え? 嘘だろ?」
母さんが父さんの頬を見て笑っている。
そう言われ慌てて父さんはついたラーメンと取ろうと顎などをこする。
私はそれでも父さんの頬についていたラーメンを見つけた。
「あ〜ホントだぁ、ぱぱ、るりとおんなじ〜」
「ははは、まいったな」
父さんは恥ずかしそうに笑っている。私はお顔についたラーメンをとってあげようと思った。
「るりがとってあげる〜」
「じゃ、ほら」
私がそう言うと父さんはラーメンの付いた頬を私に近づける。
少し髭がジャリジャリしていて痛かったけどちゃんとラーメンが取れた。
「ぱぱ、とれた〜」
「よ〜し、瑠璃は良い子だな〜」
と言ってとても嬉しそうに私の頭をなでてくれた。
その光景を眩しそうにボサボサ頭の店主が見ていた。
食べ終わって屋台から帰るのが寂しくて泣いてしまった。
でも、とっても懐かしくてあったかい家族の思い出。
私はいま軍艦に乗っていた、父さんが乗っている艦に。
連合海軍物語
第23話 インターミッション・瑠璃
─ 2096年6月某日 日本 ─
私の家は私が小さい頃から家族が離れ離れになっていた。
別に家庭崩壊していたって訳じゃないと思う。ただ他人が見ると父さんと母さんの仲は悪く見えたようだ。でも私は知っている、幼馴染という間からかお互い素直じゃない時がある。それが喧嘩をしているように見えるのかもしれない。
実は父さんと母さんはこっちが恥ずかしくなるくらい仲が良かった。それにお互いを信用し合っていた。だから離婚などせずお互いのやるべき事をやれているんだと思う。
私が一人ぽっちになった理由はたまたま暁家にとってが間が悪かっただけだ。母さんはお祖父さんが作ったネルガルという会社を大きくしようと寝る暇もないくらい働いている。母さんが言うには今の時代は会社を大きくするチャンスなのだそうだ。
普通の商社として出来たネルガルは、連合軍に備品や消費物の供給する会社として戦争に関わっていると言っていた。最近では父さんの趣味とかで事業を拡大して造船まで手がけるようにもなったようだ。母さんが頑張っているだけあって会社の勢いは凄いと思う。
日本は戦争で軍事特需になっており上手く波に乗れれば会社を大きくする事はそう難しくないと言っていた。確かに母さんは辣腕(子供の私から見ても)で、難しい事じゃないと思うけど、戦争で犠牲になっている人たちを糧にして大きくなったようで私はあまり嬉しくない。
私の言っている事は甘いんだと思う。自分のご飯のお金さえ稼いでいない、親の脛を齧って楽な生き方をしている子供の意見。
でもお金はあって困る物じゃない、むしろあった方がやれる事が多い。今のような殺伐とした時代に職がありきちんとご飯が食べられるというのは幸せな事だ。戦災で焼け出され食べる物も寝る場所もないって人も多い、一人ぼっちにされているからと言って親を恨むなんて事は私にはできなかった。
そして父さんは物心ついた時には出征していていなかった。
もともと軍艦とかが好きな父さんは会社を母さんに任せ(あとで聞いたら母さんの方が会社の運営が上手いからとか)日本海軍にではなくなぜかナーウィシア海軍に入隊した。日本で徴兵により引っ張られるようりは志願した方が待遇が良いからというのが理由のようだ。それ以外にも何か理由があるようだけど、どっちにしても父さんには日本海軍は魅力的に見えなかったらしい。当然ナーウィシアは海外なので単身赴任で行ってしまった。
こうして私はひとりぼっちになった。
その父さんは軍務の間にときどき帰ってきて少し困ったような顔をして私の頭をなでてくれる。だけどその困った表情に私は混乱してしまう、なぜそんな表情をするのだろう? 本当にあの屋台のラーメン屋さんで見た優しく笑っていた父さんなのか分からなくなってしまう。
そんなことを繰り返すうち私は居心地の悪さを感じて父さんと母さんを避けるようになってしまった。
何を話したら良いの? 何を聞いてもらえば良いの? どう口にすれば良いの?
話したい事はいっぱいあった、今日学校で起きた事や可愛い犬を見た事、テストで100点をとったとか些細な事ばかりだったけど。でも彼らを前にすると口が開かないのだ、だから私は言葉少なげにしか話が出来なかった。
寂しさを紛らわせるためにパソコンを買ってもらい、これで遊びはじめた。最初はいろいろな物を見ているだけで楽しかった。
そのうち自分の気持ちの曖昧さが嫌で理論的な思考ができるプログラムの勉強をはじめた。
もっと一緒にいてくれる友達が欲しくて稚拙だけど市販の人工知能のプログラムを改造してみた。
そして出来たのがワンマンオペレーションシステム(O.O.S.)と思兼。
私も子供じゃない、父さんの気持ちはなんとなく分かるけど、
どうしたらうち解けられるのか、どういった言葉をかけたら良いか分からない。
だから私はきっかけがほしくて、軍艦の好きな父さんに褒めてもらいたくて、O.O.S.を作った。
私は大好きな雨を見ながらこの〈金剛〉に乗ることになった経緯を思い出していた。
─ 2096年6月22日 日本横須賀 私立星霜女学園中等部 ─
2096年6月22日金曜日、せっかくの週末だというのに今日は雨だった。
きっとあの娘はこの雨を見ているんだろうな。
「・・・という訳だ東雲、また頼むぞ」
日本の横須賀にある私立星霜女学園中等部3-Aの教室。
ただでさえ憂鬱な天気で気が滅入るというのに、いつも通り担任から郵便配達員の役割を仰せつかった。
あ、私は東雲 摩耶。
ここのクラスの学級委員長だから仕方ないんだけどさぁ。
私は視線を窓の外から担任に戻し頷く。
「わかりました」
その担任の机には大量のプリントが乗っていた。
うわ・・・すっごい重そうだよ。
筋肉ついたらどおすんのよ、まったく。
私をこの事態に引きずり込んだ黒髪の少女の顔を思い出す。
ったく、あの引き籠もり娘は・・・もぉ!!
キンコーンカンコーン
チャイムが鳴り本日最後のHRが終了した。
担任の机に乗っていた重たいプリントを鞄に入れ、教室をでる。
重さでヨロヨロしている私を追い抜きざま同級生たちがからかいも兼ねた応援をしてくれた。
「しのちゃん、頑張ってねェ」
「奥さんによろしく言っておいてね」
「あー、ハイハイ。よろしく言っておくわ」
私は苦笑を浮かべ毎度のからかいなので適当に流す。
学校に出てこない彼女が家で待っている奥さん役で、私が旦那のサラリーマンらしい。
私はすっかりこのプリントの届け主、暁
瑠璃の旦那にされている。
まあ、あの娘は可愛いから私が男だったら放っておかないけどさ。
でも私は少女、少女なのッ!!
お気に入りのピンクの傘をさし、内心で友人たちに激しく主張しながら学校の校門を出て目的地である瑠璃の家へ向かう。瑠璃の家は学校から20分といったところにある住宅街の中にあった。
クラスの同級生達はほとんど知らないけど、瑠璃の家って“ネルガル”っていう会社をやってるんだよね。私みたいな中学生からみたら大きな会社なんだけど、社会的な規模としてはそんなに大きくないって親が言っていた。
ようやく着いた目の前の家はその会社の規模と比較してもごく普通の家だと思う。
私はチャイムを押す。
しばらくしてようやく返事が返ってきた。
毎度の事なので気にしない。
「・・・どちらさまですか」
小さな、消え入りそうな声がスピーカーから聞こえた。
また瑠璃だけしかいないんだ、エリナおばさんは会社なのか。
「私」
と一言で済ます。瑠璃には予めそう言い含めてあるんだ。
「・・・鍵、開いてるから」
私はその返事を聞き、ドアを開けて玄関に入ると頭に寝癖をつけたままの瑠璃が立っていた。
きちんとすれば可愛いのに相変わらず勿体ないわねというか、この娘はまた・・・無防備に。
薄いピンクのタンクトップに同じ色のホットパンツ。
もし私が変なおぢさんだったら喜んで尻尾(謎)振っちゃうぞ。
「ねえ、瑠璃?」
「・・・何?」
「あのねえ、その格好で玄関に出てくるのは危ないからやめなさいって」
「・・・そう?」
そう言って自分の格好をしげしげと眺める。
この危機感のなさ、私は毎度の事ながら頭が痛くなる。
「はァ。もし私が危ないおぢさんだったらどうするの?」
「・・・東雲さんは私を襲いたいの?」
そういって彼女はタンクトップの中身、日焼けとは無縁な真っ白い胸元を見せるように軽く引っ張る。家にいるせいか中は何もつけてなかったりするし。
瑠璃なりの色香というかシナを作っているんだろうけど、はっきり言ってチンクシャ(私も同じレベルなんで偉そうな事はいえないけど)がそんな事をしても思いっきり変(汗)。
まったくこの娘は・・・。
「ていッ!」
ポコっ。
「・・・あぅ、痛い。何で叩くの?」
「痛いように叩いているんだから当たり前。それに似合わない事をしない」
「・・・似合わなかった?」
「・・・。」
くっ、卑怯よ瑠璃。
そんな涙目になって見上げるなんてっ!
おぢさんじゃなくても変な気分になるじゃないッ!
黙りこくっている私を見てこれ以上追い込むのはやめたのか話題を変えてくる。
「・・・変な東雲さん。で、今日はどうしたの?」
幸い瑠璃が話題を変えてくれたのでこれ幸いとばかりに話にのる。
でも変なのは私じゃなくてアンタなの!
「いつもの定期便よ、コレ」
そう言ってぷっくりとプリントで膨れた鞄を指差す。
「・・・ありがとう。せっかくだから部屋へ上がって」
瑠璃の部屋へ続く階段を上がり部屋に入る。
その惨状を見て私は溜息をついた。私も部屋掃除とか苦手だけど・・・・・・これはちょっと(汗)。
はァ・・・相変わらず女の子というか少女の部屋としては汚い。
こんな部屋に彼氏を連れてこようものなら“汚”ギャルと間違えられかねないよ。
そこら中にコンビニ弁当やジャンクフードの包み紙が丸めて落ちていたりジュースの缶やパックが転がっている。
さすがに少女としての慎み? なのか下着類が転がってない事がないのが救いだろうか。
彼女は部屋が片付けられないって訳じゃない。
いつものように何かしらに夢中になっているんだろうけど。
その他にも私なら“即”捨てるであろう小難しそうなぶ厚い本(造艦なんたらとか)や少女の部屋には似つかわしくないプログラムの本や軍事雑誌までが山積みになって転がっていた。
なんなのこの軍事雑誌・・・軍に行ってるおじさんの本なのかな?
それにプログラムの本? ホント、瑠璃は何をやっているんだろう。
そんな事を思いつつ担任に頼まれたプリントを鞄から取り出し瑠璃に渡す。
彼女はそれを受け取り、テーブルの上に置くとお茶を用意する為に部屋を出て行った。
私は華奢なその後姿を見送りつつテーブルの上に置かれたプリントを見る。
コレって瑠璃には無駄じゃないんだろうけど役にたっているのかな。
瑠璃はめっちゃ頭が良い。
私なんか毎日学校に出て頑張って勉強してようやく学年で5番以内だけど、あの娘はあまり学校に出てこなくても常に1番だったりする。
私みたいな立場からすればムカつく事この上ない存在だ。
だけどあの捨てられたような子犬の目をされるとねえ、どうしても気にかけてたくなるのよね。
少したつとコーヒーとお菓子を持って瑠璃が帰ってくる。
「・・・たいした物ないけど」
「別に気にしなくて良いよ」
私はコーヒーとお菓子をつまみつつこの部屋で存在感を主張している、
開かれたままのノートパソコンとその周りに置かれた電卓や積み上げられたプリントを見る。
パソコンの画面には幾つものウィンドウが開かれており、船の外観が描かれたものや写真の出ているウィンドウの他、黒いウィンドウの中には分からない数値や記号が表示されている。
>HLG-61 Hacking Start.
>Loginname?
>********
>OK
>System Password?
>************
>OK
>System Connect
>Welcome to HLG-61
>O.O.S. in
>Oneman Operation System Start.
>wait...■
ハッキング? ワンマンオペレーションシステム?
たぶん、これをやっているんだと思う。
2年の1学期までは休みがちだったけど学校には出てきていたのだ。
それが急に休みはじめた。
親や学校には体調が悪いからって言っているけど、私が見る限り別に体調が悪いって訳じゃない。
学校を卒業しないのは親に悪いからとテストだけはきちんと受けに来ている。
そんな状態なので私が心配して聞いても
「・・・今やっている事は東雲さんには分からないから」
としか教えてくれないのだ。
それまでは色々と相談にのったりのられたりだったんだけど。
「で、瑠璃。来週からテストだけど・・・どうするの?」
「・・・もうそんな時期なんだ、テストには行くから」
「分かったよ、担任にはそう言っておく」
「・・・ゴメン、よろしく」
─ 2096年6月22日 日本横須賀 暁家・瑠璃 ─
私はコーヒーをすすりながらノートパソコンを眺めている東雲さんを見る。
プリントとか毎度の事だけど彼女には申し訳なく思う。
そんな風に思うならきちんと学校に行けば良いだけなんだけど。
でも私には時間がない。
なるべく早くコレを完成させてあの人と仲良くなるきっかけにしたいんだ。
こういうのはノッている時じゃないと先に進めない。
ワンマンオペレーションシステムの開発は佳境を迎えている。
短い睡眠と食事、お風呂以外の使える時間を全てつぎ込んで作り上げた。
ようやく連合海軍が使用している艦船開発システム、HLG-61をハッキングできた。
このシステムを使って自分の作ったO.O.S.を組み込み運用をシミュレーションしているところ。
私が作っているワンマンオペレーションシステムは艦の自動化を進め、最終的には戦闘に耐えうる無人艦を作る計画になっている。さらに私のワンマンフリート構想では有人艦を中核にし、それぞれに役割をあたえた無人艦たちで艦隊を編成し、艦隊戦だけでも戦争による人的被害を無くそうと思っている。
───そうすれば私の父さんも帰ってこれる。
自分の理想が甘い事は知っている。
おそらくそんな事になれば人間は別の闘争方法を考えると思う。
やってみないと分からない、なら試してみるのが最善だと私は考えた。
今の有人艦はスペシャリストの集団が一致団結して動かすことでもっとも効率の良いその艦にとって最適な戦闘が行える。それ故、艦艇乗組員の養成には非常に時間がかかる。それぞれのスペシャリストを作り上げるには相応の時間が不可欠だからだ。
日本海軍の言葉に“艦に身体を合わせろ”というものがある。
与えられた艦に不満があっても口にせず、その不満に対して自分を合わせろという事らしいが私からすれば非常に無駄な事だと思う。通常時ならそれも良いだろう、だが今は危急の時なのだ。悠長に艦に身体を合わせてられるほどの余裕はない。
それに長引く戦争によってスペシャリストは減り、素人に毛が生えたような乗組員ではその艦の真の戦闘力は発揮できない。それではシビアな戦争に勝つなんて事は難しい。
それなら徹底的に自動化を進め少人数のスペシャリストで真の性能を引き出せる艦を作った方が良い。
出来上がっている試作型O.O.S.は私の構想と比べて完成度はまだまだと思う。
今の私のプログラミング技術では高すぎる理想についていけてない。
本来なら国家規模のプロジェクトで大人数が投入されるような事。それを個人、しかも私みたいな小娘がやる事じゃない。
そこまで思い至って思考を止めた。
今更止める訳にはいかないんだ、これからの事を考えなきゃ。
実際の問題としてこのシステムに対応する為に多少建造費は上がってしまうけど、全自動・効率化を進める事で1艦あたりの乗組員が大幅に減らせ人件費を浮かせることで何とかなりそうだった。
それに乗組員不足と言われている連合海軍にとってはかなりオイシイ話。
今のところ実績は悪くない・・・と思う。
“・・・と思う”という言い方をしているのは、私が民間人で軍艦に乗った事がないから。
本やネットでの情報収集にも限度がある。
やはり実際に使用している兵隊さんや開発をしている技術者に見てもらい不備点を改良すれば・・・。
ふと気づいて私は内心で苦笑する。
私の年齢ならアイドルや漫画、友達や勉強そういう事を考えているのが当たり前だと思う。
いくら軍人の娘だからといって未来の艦隊編成や無人艦の建造を考えている私はとっても少女らしくないんだろうな。
私は・・・どこか狂っているのかもしれない、なら本格的に狂う前に父さんと仲直りしたい。
その為にこのO.O.S.が必要なの、だから私は・・・死ぬ気で頑張らなきゃいけない。
───父さんが私の頭を撫で「偉いぞ、瑠璃」と言って笑ってくれるまで。
─ 2096年6月22日 日本横須賀 暁家・東雲 ─
特に会話もないまま私は瑠璃の家を出た。
相変わらず無口なのは変わらないが、何かしらを熱心に考えているのは分かった。
ただその考え事は私には分からない事で、瑠璃の友達として手伝えないのはもどかしい限りだ。
ま、私はできる範囲で瑠璃の事を気にかければ良いか。
そう思うと多少気が楽になった。
「さ、今日はTVを見なくちゃね」
私は歳相応の事を考え空を見上げる。
まだ雨は降り続いていた。
─ 2096年7月2日 日本横須賀 放課後 ─
今日も雨が降っている。
憂鬱なテストも終わり私は瑠璃を誘って甘味屋にでも行こうと思っていたのだ。
ところが終了直後、担任に呼ばれ瑠璃を誘う事が出来なかった。
まったく、あの担任は話が長すぎる!!
私はお気に入りの傘を差し必死に走って瑠璃の後を追う。
ようやく途中の曲がり角で彼女の華奢な背中が見えた。
瑠璃の後ろから黒い車がゆっくりと近づいていた。
最初は道路の水跳ねとかを気にしてゆっくり走っているのかと思った。
ところが車は瑠璃の横に並ぶとドアを開け、ニット帽をかぶった若いヤツがいきなり彼女を引きずり込んだ。
「瑠璃ッ!!」
黒い車は瑠璃を引きずり込むとドアを閉め加速を開始する。
(まずいよ、コレって!!)
私は咄嗟に携帯を取り出し車のナンバーを写す。
けっこう遠いし慌てていたのできちんと写っているかどうかは分からない。
でも車の形くらいは分かるはずだ。
降りしきる雨の中、瑠璃のパステルブルーの傘が寂しそうに転がっている。
私は突然の出来事に携帯を片手にその転がっている傘を見ていた。
あ、こんな事をしている暇はないんだ。
警察に電話をかけて、それからそれから・・・。
混乱しかける頭を必死に落ち着けようとする。
まずは警察に電話をかけ瑠璃がさらわれた事を話した。
ここに警察がやってくるそうだ。
その間にエリナおばさんに連絡しなきゃ!
私は携帯に登録してあったネルガルという番号に電話をかける。エリナおばさんから瑠璃の事を頼まれているので登録しておいた事が役にたった。
「はい、株式会社ネルガルです」
「あ、私、東雲と言いますけどエリナおばさんいますか?」
「エリナおば・・・いえ社長でしょうか? 失礼ですがどういったご要件で?」
あー、もう!! ナニ悠長なこと言ってんのよ!! こっちは急いでいるっていうのに。
「私は瑠璃の友達です! 娘さんが、瑠璃が事件に巻き込まれた可能性があるんです!! だから早く代わってくださいッ!!」
「え、わ、分かりました。少々お待ちください」
私の剣幕に電話に出た人は慌てて電話を保留にした。
しばらく保留の音楽が流れていたが、出てきた人間はエリナおばさんではなかった。
「も、申し訳ありません、先ほどまで居たのですが社長は出かけております」
「そ、そうなんですか。連絡は付かないんですか? 泰山おじさんでも構わないの、一刻を争うんですッ」
「わかりました、こちらから社長に連絡をとります。貴女のお名前と連絡先を教えてください」
私はその人に自分の名前と携帯の番号を教える。
電話を切った所で警察がやってきた。
─ 2096年7月2日 日本横須賀 車中 ─
「コイツ、全然脅えた顔みせねえな、良い度胸してんじゃん?」
「・・・」
私を車に引きずり込んだニット男がいかにも馬鹿にしたように笑う。
車に引きずり込まれた私は猿轡を嵌められ、手足をしばられた。
私に恐怖を抱かせる為か目隠しはしないようだ。
顔が割れても問題ないって考えているんだろう。
逆に言えば見られても自分たちの身元は割れない、割れたとしても警察などの口が塞げるという立場にいるという事だろうか?
そのニット帽をからかうように茶髪ロンゲが会話に混じる。
「なんだよ、脅えた顔が見たかったのか? サド野郎が」
「少しは脅えて貰わねえと、“誘拐”って雰囲気が出ねえし、ツマンねだろ?」
黄色く染まった歯を見せ下卑た笑いをする。
「いっその事、犯っちまうか? そうすりゃ嫌でも見れるぜ」
引きずり込まれた時に捲れ上がったセーラー服のスカートや乱れた襟元から下着が見えてしまっておりロンゲ男の視線はそれに向けられている。隠したくても手足を縛られたこの状況ではそんな事ができない。
「おい、ガキは餌だ。疵物にしちまったら意味ねえだろ」
「別に生きていりゃ問題ねえと思うがな」
「犯りたきゃ犯っちまっても良いがよ。お前らの首が物理的に飛ぶことになっても助けねえのは覚悟しておけよ?」
「へえへえ、わーったよ。良かったな、クソガキ」
そう言って鬱憤を晴らす為か私の顎を掴み揺さぶる。
私はその男の顔を睨みつける。
「おーおー、可愛い顔がおっかないねえ」
ぎゃはははははといった感じで笑い、私に目隠しをする。
それにしてもこの状況。
もしかして私が連合海軍をハッキングした事がばれたのだろうか?
だとしてもやり方が非合法すぎないかな?
彼らのリーダーと思しき男が私を“餌”だと言った。
ならハッキングの線は消える。
かと言って襲おうとするロリコン男を止めている、私の身体が目的ではないようだ。
“餌”というからには当然その対象がいるはず。
単にお金目的の誘拐だろうか? その場合、彼らは私に顔を見られてしまっている。
お金を貰った途端に私を殺すという可能性もあるかな。
いろいろ考えて見たが身代金目的の誘拐というのが一番近そうだった。
こういう状況になった経緯を考えていたが得られる情報が少なすぎてこれ以上の推測は難しかった。
ガタゴトと揺れるのでなかなか集中して考える事ができないのがもどかしい。
体感的な時間だったが結構な時間を走っているんじゃないかな。
それに・・・なんか眠くなってきた。
そういえばテスト勉強とO.O.Sのプログラミングでちょっと寝不足だっ・・・たん・・・だ。
私の意識は闇に吸い込まれるように消えた。
─ 2096年7月2日 日本横須賀 誘拐現場 東雲 ─
「・・・という訳なんです。車のナンバーも携帯で撮ってあります、早く瑠璃を助けてください!」
「わかった分かった、落ち着いて。」
私の剣幕に櫻井警部と名乗った太ったおじさんが嗜めるように言う。
もー、そんな悠長な事してたら瑠璃が襲われちゃうじゃない!
「じゃあ撮った写真をこの携帯にメールして」
携帯で撮った車の写真を警部さんの携帯に転送する。
「うーん、ちょっとぼやけているけどこれなら大丈夫だ、良くやったね。東雲さんだっけ、お手柄だよ」
「そうですか、良かった」
私は少しほっとする。でも次の言葉でその安心感も吹き飛んだ。
「この子のお母さんもまったく連絡が取れないそうだ。もしかしたら会議で出られないだけかもしれないが時間が経ちすぎている」
エリナおばさんも行方が分からない? じゃあ瑠璃と一緒に誘拐されたんだろうか。
警部さんはどこかに電話してさっきの写真をメールで送ったようだ。
「これですぐにナンバーと車種が分かる。分かり次第、すぐに捜査に入るから。大丈夫、すぐに君の友達も助けられるよ」
私を安心させるように警部さんは笑ったけど・・・。
数日後、今回の誘拐事件の実行犯のうち二人が死体で見つかり、一人が重症。実行犯が供述したようで計画した黒幕の軍閥系会社の人間が逮捕された。
こうなった経緯は会社がらみの問題だったようだ。さらに計画犯が自供した贈収賄や利権の証言を元に警察と日本海軍上層部の逮捕者が相次ぎ警察と海軍の面目は失墜した。
その人たちがいなくなった後、海軍の司令官に任命されたのは御統という珍妙な名前の人だった。
瑠璃とエリナおばさんは行方が分からないままだった。途中までの足取りは追えたがその後、ふっつりと消息が途絶えてしまったのだ。
瑠璃やエリナおばさんは死んじゃったんだろうか? 私はその想像したくない結末に慌てて頭を振った。
本当にあの娘は心配ばかりかけさせる! 生きて戻ってきたら絶対お仕置きしてやるんだから。
でもすぐに戻ってきたらお仕置きは勘弁してあげる、だから・・・早く帰ってきてよ、瑠璃。
─ 2096年7月2日 日本横須賀 瑠璃 ─
「しっかし、良い度胸してねぇ? このガキ」
「まあ、普通は寝るなんて事はできねえんだが」
その言葉と瞼に感じた明るさで目が覚めた。
どうやら寝てしまったらしい。
呆れたような顔をして3人の誘拐犯が私を見ていた。
彼らに誘拐された私が言うのもなんだけど。
彼らの取っている行動は馬鹿げたものだけど、言っている事は至極普通だと思う。普通の中学生なら怯えて一睡も出来ないというのは当たり前ではないかと。
こういう場合でも寝れてしまう自分の度胸と性格は見上げた物だと思う。でも自分が普通の子供じゃないというのを認めるのは寂しいかもしれない。
私は目を瞬き周囲を観察する。大きなコンテナが幾つもあり、雰囲気からするとどうも倉庫のようだ。男たちは私を連れ倉庫の一番奥に歩いていく。潮の香りがする、波や汽笛とかの音は聞こえないが海の近くのようだ。
「瑠璃っ!!」
聞き覚えのある声叫び声がした。その方向を見ると母さんが私と同じように縛られて床に座らされていた。
ちょっと待って、母さんも誘拐された? じゃあこの誘拐は身代金目的じゃないって事!?
交渉相手である母さんがここにいる、この状況を鑑みるに予想以上に事態は深刻なのかもしれない。父はナーウィシアにいて軍務についている為、現実的に交渉相手にはならないだろう。
私は母さんの傍まで連れていかれ座らされた。一体これからどうなるんだろうか?
しばらくすると男が2人やってきた。どちらも日本人だが生粋の日本人ではないように見える、欧米人とのハーフっぽい。動作はきびきびしており軍人なのかもしれない。私を誘拐した男たちとは別な、そう何か不安をかきたてられるような雰囲気をした人だった。
「さて、わざわざ来ていただきありがとうございます」
彼が私たちに向かって一礼する。道化じみた行動が似合っている。
「来たくてきた訳じゃないわ、私と瑠璃をどうするつもり?」
冷ややかな母さんの声に男は道化の笑みを浮かべ話を続ける。
「そんなに怒らないでくださいよ、交渉は冷静さが大事でしょう? 失礼、辣腕をもってなる貴女に言う必要はなかったですね。まあ、クライアントの依頼がありまして、あなた方に協力していただきたい事があるんですよ」
「協力? ならこの待遇を改めた方が良いんじゃなくて?」
母さんは男を睨みつけて言う。
「いやいや貴女の場合、何をしでかすか分からないですから安全という事で」
「そういう問題じゃないわ!」
冷静な母さんらしくない、相手に振り回されている。このままだとこの男のペースに巻き込まれかねない、私は自分の考えていた事を男に言ってみる事にした。
「・・・誰を誘き出せば良いの?」
私はいつも以上に感情を込めない声で彼に問いかける。
その冷え切った視線と声に男が私を見る。
「おや、どうしてそう思うんですか?」
男は少しびっくりした表情で私を見る。普通なら私は脅えているだけで話は母さんがするものだと思っていたのかもしれない。
「・・・私を攫った人たちが言ってた、私たちは餌だって。当然、その餌に釣られる誰かがいる訳でしょ。母さんはここにいるから当然、私たち家族以外の誰か」
男は「ちっ、あの馬鹿どもめ」と呟くと隣にいた男に目配せする。ひとつ頷いた男が去っていった。
私の言葉になぜかかあさんも驚いている。
「いやいや驚いた、君の予想は外れてないけどね。釣るのは大きな魚ですよ、貴女のお父さんの知り合いです。私としてはこんな陳腐な事をせずさっさと乗り込んでカタをつけたかったんですがね」
「・・・知り合い?」
「まあ、それは誘き出されてからのお楽しみって事で。協力のお礼としてこれから艦に乗って海外旅行にご招待しますよ」
男は楽しげに笑う。先ほど出て行った男が戻って来るのを確認した男は傍にあった大きなコンテナを船に積み込むように命じた。
さらに時計を見ると再度私たちに目隠し、車に乗せどこかへ連れて行く。車から降りると今度は濃厚な潮の香りがするし、船の動力音が聞こえてきた。この音は・・・ディーゼルかな? 船と言っていたけどあの大きなコンテナが積み込めるくらいだから結構大きいのか。
階段を上りしばらく歩いていたが、急に足音が反射して聞こえているのは狭い通路になったからだろう。今度はエレベータに乗せられるようで、先ほどの動力音は足元から聞こえていたがだんだん遠くなってきた。重力が上から来るのは上がっているのか。チンという音と共に目的の階についたようだ。
目隠しを外されると眩しい光が差し込んで目がチカチカする。ようやくそれも収まったのであたりを観察するとさまざまな機器に囲まれた部屋だった。操舵輪とかもあるしこれは軍艦の艦橋の中?
「・・・ここは、艦橋?」
「そう、良く知っているね。一般人は入れない特等席だよ」
男は私と母さんを窓の近くまで連れてきて外を覗かせる。見慣れた地形が観察できた、幾隻もの輸送船や軍艦が見える、ここは横須賀の軍港だ。それにこの高さは・・・。相当大きな艦、それも戦艦級の艦橋にいる事になる。
目の前には鋭い舳先が2つあり巨大な連装砲塔が両方に2基づつ、合計4基8門。これだけ大きな重量物を前部だけに載せるとバランスを取るのが難しい、後部にも前部と同数前後の数があるはず。だとすると6〜8基で最大16門、もしかするとそれ以上の主砲を持っていることになる。それに双胴戦艦を日本は所有してなかったはず、この艦は新型?
O.O.S.の開発で散々、軍事の資料を収集したり読み漁った関係でこの艦の規模が想像できた。おそらく10万トンは軽く超えている、装甲の厚さにもよるけど下手すると20万トン近いかもしれない。
速度は30ノット前後だろうか? クリッパー型の舳先を採用しているけど双胴は水の抵抗が大きく高速艦にはあまり使われない艦形だ。さっき聞こえた音からディーゼルという感じだったがこの機関は省エネルギーの為で速度があまり出ない。もしかするとタービンと併用したCODOGかCODAGだろうか。CODOGは巡航時にディーゼルエンジンを使用し、高速時にはガスタービンを駆動する方式で、CODAGは高速航行時にガスタービンエンジンを追加する。想像通りの巨艦なら運用効率を考慮しているこの機関は良いんじゃないかと思う。
私は自分の乗っている艦に大体の見当をつけると腰のポーチに入っているディスクを思い出す。家のパソコンに入っている物が壊れた時のためにバックアップを取り常に持ち歩いているのだ。コレをこの艦に乗せたらどうなるだろうか。そうか、今までは単胴でシミュレーションしていたので双胴で試した方が良いか。
私の思案を邪魔するように男が声をかけてくる。
いけないいけない、ついO.O.S.の事に気を取られてしまった。瞬時に頭を切り替えた。
「どうです、特等席でしょう?」
「・・・そうですね、良い眺めです」
私の皮肉の混じった自分の立場とはどこかちぐはぐな言葉に男はやりにくそうに微苦笑を浮かべる。
その時、その男の携帯電話が鳴った。電話をとり二言三言言葉を交わすと男の顔に失望とも取れる表情が浮んだ。「構わない。こちらは向こうと無関係、どうなろうと自業自得だ」という言葉と共に電話を切った。
「ここでしばらくは遊覧していただく事になりますね。外に見張りを置いておきますので御用は申し付けてください。あ、ちなみにここの機器類はまったく使えないので無駄な事はしないように」
そう言うと見張りを2人残し足早に艦橋を出て行った。
男の姿を見送った母さんが私に声をかけてきた。
「瑠璃は怖くないの?」
「・・・大丈夫、どうして?」
「ん、さっきの人との話ぶりを見ているとね」
「・・・別に、普通じゃないかな」
その言葉に母さんは苦笑を浮かべる。その表情で大体の想像はつく、普通の中学生の対応には思えないかもしれない。だからさっき母さんは驚いていたんじゃないかな。
そんな事を話しているとわずかに聞こえていた機関音が大きくなり艦がゆっくりと動き出した。
景色が流れていく、一体私たちはどこに、誰の餌とされるのだろう。よもやサメやフカの餌じゃないとは思うけど。
こうして私たちは数日間の航海を経てあの人に助けられ、父さんと逢うことになった。
双岳隼人海軍少佐、連合海軍の英雄と呼ばれ造船官でもある人。この人なら私のO.O.Sを託すだけの力を持っていると考え渡したんだ。
そして逃げ場のない艦の上で父さんと・・・。
─ 2096年7月7日 第七戦隊旗艦〈金剛〉艦上 瑠璃 ─
「瑠璃ちゃん、こんなところにいると風邪、引くよ?」
「・・・隼人さん?」
私は声をかけられた事で今の状況を思い出した。
軍艦の一番てっぺん、対空見張所ってところで座りこんで雨を見ていたんだ。
そこからだと空一面から振ってくるのが良く見えるから。
「え、泣いてるの?」
「・・・あれ?」
私の顔を見た隼人さんが焦った表情をしていた。
いつの間にか泣いていたみたい。なんか子供みたいで恥ずかしい。
私は慌てて目をこすって涙を拭った。
「お父さんと喧嘩したとか? それとも・・・」
頭を振って違う事を伝え、また空を見上げる。
隼人さんは私の隣に座り込み、同じように空を見上げた。
とぎれる事なく雨が降ってます。
「瑠璃ちゃんはお父さんの事が嫌い?」
私はまた頭を振って違う事を伝える。
「・・・昔の事を思い出していたんです」
「昔?」
「・・・ええ、家族みんなで屋台のラーメンを食べに行ったこととか仲の良い同級生のこと」
私は誰にも話したことがない思い出を話した。
なんのためにO.O.S.と思兼を作ったのか。
私の話を真剣な眼差しで聞いていた隼人さんは途中で相槌を打ったりもせず黙って最後まで聞いてくれた。
そして聞き終わった後、とても真摯な表情をしてこう言ったんだ。
「瑠璃ちゃんはとっても良い子だよ、お父さんと仲良くなりたくて一所懸命がんばったんでしょ? 俺も応援するからさ、お父さんと仲良くなろうよ」
その表情と言葉にせっかく止まった涙がまた出てきてしまった。
「・・・うん、うん。」
なぜだか涙が止まらないの。
「そっか、頑張ったんだね、瑠璃ちゃんは良い子だよ」
そういって隼人さんはあの時の父さんのように優しく笑って私の頭をなでてくれた。
そして私を抱き寄せ、広い胸を貸してくれた。
私は頭を胸に当ててもっと泣いてしまった。
しばらく頭をなでてもらい安心したせいか泣きやむ事ができた。
相変わらず雨は降り続いています。
「・・・隼人さん、ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。大した事はしてないよ(笑)」
涙を拭い隼人さんの顔を見つめます。
私の視線を受けた彼は照れくさそうに笑いました。
「・・・子供みたいではずかしいです」
「良いんだよ、大人だって泣きたいことはあるし、実際泣くから。それに瑠璃ちゃんは子供じゃないよ、いろいろ考えていたんでしょ。
大人と子供の中間、ん〜ってことは少女?」
「・・・ぷっ、それマンマです(笑)」
その言葉につい笑っちゃいました、隼人さん変な人です。
でも強くてとても優しい人です。
「・・・隼人さんも泣くんですか?」
「まっ、極たま〜にだけどね」
「・・・そうなんですか、私は見られちゃったから。見てみたいな」
「いや、とてもじゃないけど見せられないよ(笑)」
私の言葉に隼人さんは笑いながら頭をかきました。
男の人ですからそう簡単には見せてくれないのは分かっています。
「・・・でも、いつか私に泣き顔を見せてくれるようになったら」
「なったら?」
「・・・内緒」
私は自分の心の中で独白します。
(・・・なったら)
「ええ? 教えてよ」
「・・・ダメです」
(隼人さんと同じ・・・大人に。大人の女性になれたんだと思います)
「ちぇ、瑠璃ちゃんのケチ」
「・・・くすくす(笑)」
口を尖らせ不満げな顔をしています。
こういった子供っぽいところ父さんみたいです。
隼人さんは表情を改めると立ち上がって私に向かって手を差し伸べてきます。
私もその手を握り立ちます。大きな手はあったかくて手を繋ぐと何だか勇気がわいてきそうです。
「さ、お父さんやお母さんも心配しているし行こうか」
「・・・はい」
私は隼人さんと手をつなぎ父さんのところへ向かおうとしたら入口にいました。
さっきの話し聞いてたのかな。
「瑠璃」
「・・・あ、父さん」
その姿を見たらいつものようにちょっと足がすくんでいます。
「ほら瑠璃ちゃん、頑張って」
私の躊躇いを感じたのか隼人さんはそう言って優しく私を送り出してくれました。
私は隼人さんの応援を受けました、ここで頑張らないと今までの苦労が水の泡となってしまいます。
だから私は今の自分に出す事のできる一番大きな声で父さんに話しかけました。
「父さん、私・・・いっぱい話したい事があるの!」
私はそう言って父さんに駆け寄ります。
いつの間にか雨は上がり夜が支配する漆黒の中に星が煌いていました、まるで私の努力を認めてくれたように。
2096年7月7日、今日は七夕です。小さいころ短冊に“おとうさんとなかよくしたい”と書いた小さな織姫の願いは今、叶えられました。
そして私がナーウィシアに移住、本格的にO.O.S.を開発し〈和泉〉という戦艦に乗り込むきっかけにもなった人、双岳隼人さんと出会った日でした。
− あとがきという名の戯言 −
瑞葉:お馴染みのご挨拶デスけど、最後まで読んでいただきありがとうございます!
隼人:ありがとうございます。
瑞葉:あーやっぱりまたまたアタシ出られなかったデスね。
隼人:だから前々回の戯言で言ったろ。
瑞葉:あ、これって前回と同じネタでしたネ。
隼人:まったく。
瑞葉:はい、インターミッションシリーズ・瑠璃ちゃん編です。いや〜見ていて恥ずかしいというかあまりにもベタでお約束な展開じゃないデスか?
隼人:良いんだよインターミッションはそのキャラの日常を書くんだから。それに変な捻りを加えると瑠璃ちゃんの素直な気持ちが伝えきれないだろ。大人(筆者)の邪な小細工は彼女の素直さを消してしまうんでベタでも良いと思うんだけど。
瑞葉:でも屋台のラーメン屋が“てんかわ”って(笑)
隼人:ま、洒落だけどね(笑)。今回の屋台の話しは筆者の思い出で、当時2〜3歳だったにも関わらず、鮮明にラーメンの匂いとか雨がビニールを叩く音とか記憶に残っているって言っていたよ。“てんかわ”はもちろん冗談だけど。
瑞葉:へ〜じゃあ作者も鍵っ子だったんデスか?
隼人:それに近い環境だったようだよ。そのせいか個人的に妙に思い入れのある話になっているし。奇しくもこっちの“瑠璃”ちゃんも、向こうの“ルリ”ちゃんもラーメンに特別な思い入れがあるようだね。
瑞葉:はぁ〜、完璧に狙ってますね、作者。
隼人:まあ良いんじゃないかな(苦笑)。
瑞葉:で、これからの話はどうなるんですか?
隼人:もう1話くらい瑠璃ちゃんに使ってから中盤の山場、ウィルシアの太平洋侵攻作戦・風雅島攻略が始まるよ。
瑞葉:へ〜、そうなんですか。じゃあバリバリと戦闘シーンになる訳デスね。
隼人:そう、日常の話を書くより余程頭を使うから作者的にはあまり嬉しくはないな〜と。
瑞葉:ナニ言っているんデスか、そのシーンが戦記ものの醍醐味なのに。
隼人:それはそうなんだけどさ、マンネリにならないように工夫するのも大変なんだって。あ、そう言えばもう一人大事なキャラの話が入るんだった。
瑞葉:はぁ〜また新キャラですか?
隼人:前回の戯言で書いた“あの女性”だよ。
瑞葉:む〜、また艦長の毒牙にかかる人が現れる訳デスか。
隼人:おいおい毒牙って・・・別に俺は何にもしていないぞ。
瑞葉:ギロリ! 瑠璃ちゃんに何もしなかったデスか?
隼人:ハイ、何にもしていないハズです、多分(大汗)。
瑞葉:・・・まったく自覚のない天然はこれだから。
隼人:・・・(こいつはまずい、切り上げよう)。じゃあ時間もきた事だし。
瑞葉:む、なんか誤魔化された気もするケド。次回連合海軍物語二十四話「零号艦、その名は〈和泉〉」でお会いしましょう。
代理人の感想
うーん。一人称で時間軸が前後すると変な感じだなぁ。
三人称なら「話は少し前に遡る」とでも入れておくところですが、
一人称では「このときルリは〜〜だったのだが、その時のアタシは知る由も無かった」などと回想風にしておくのがいいかと。
後、今回は文章の粗が目立ちました。
>私は突然の出来事に携帯を片手にその転がっている傘を見ていた。
東雲は目の前での誘拐劇という事件にもかかわらず咄嗟に車のナンバーを携帯で撮っていたはず。
それなのにわざわざ動きを止めてぼんやりしているのは明らかに行動が矛盾しているかと。
>いやいや驚いた、君の予想は外れてないけどね。
子供の頃母親の前で「そうだけど・・・」と口篭もると必ず「何が『けど』なの?」と厳しい追及があったものです。w
外れていない、けどなんなのか。
この場合も前後で言ってる事が変わっているわけではないので「けど」という逆接の言葉を使う意味はありません。
>私の皮肉の混じった自分の立場とはどこかちぐはぐな言葉に男はやりにくそうに微苦笑を浮かべる。
間違ってはいませんが、どこにどの語がかかるのか分かりづらい文章です。
こうした文章は読点の活用や語の順序の整理、重複する語の省略(「私」と「自分」とか)によってもう少し読みやすくしたほうが良いかと。
「私の置かれた立場とはどこかちぐはぐな、皮肉の混じった言葉に、男はやりにくそうに微苦笑を浮かべる。」
とか。
>遊覧
遊覧ってのはあちこち見て回ることですから、艦が動いているいないに関わらず、状況にそぐいませんね。
文章の間違いって訳じゃないんですが、キャラにこう言うアホなことを言わせていると
言ったキャラクターもアホに見えますし、話自体もアホに見えてきます。ご用心ご用心。