古代の涙
第四話 そして、二度目の歩み
アキトが格納庫へ行くと男が担架で運ばれるところだった。
(ガイ……『前』は理不尽な理由で死んでしまった一人……
今度は絶対に死なせない!)
そんな事を考えていると担架に乗っている男……本名ヤマダ・ジロウことダイゴウジ・ガイがアキトに話しかけた。
「おい、そこの少年、そう、そこの君だよ。
実はあのロボットの中に俺の大切な物を忘れてきてしまったんだ。
すまないが取ってきてくれないか」
何故か口調がお兄さん口調だった。
アキトの意気込みが半分近くまで下がったのは言うまでもない。
ガイはそう言った後、運ばれていった。
足が折れているのにそんな事にまで気が回るのは凄いと思う。
「……ガイの奴、何でコックピットの中にゲキガンガーを持ってきたんだ?」
首を傾げながらエステへ向かう。
ふと『前回』気にならなかった事に気になるアキト。
それだけ今回はゆとりがあるのだろう。
「そんな事はあとにして、っと」
エステに乗り込むと目を瞑り、深く深呼吸をした。
そうして、静かに待った。
その時を来るのを……。
ブリッジでは賑やかな声に包まれていた
「ねぇねぇラピスちゃん、年は幾つなの?」
大人の女性を思わせる容姿の女性、ハルカ・ミナトは自分の左隣に座っている少女、ラピス・ラズリと会話をしていた。
ラピスが座っている所は本来はルリが座る所だが、ルリがいないためラピスが座っていた。
ラピスの本当の席はルリの隣にある。
ラピスが乗ることになり、大急ぎで作られた物である。
「5歳だよ」
「え〜〜!!そんなに幼い子を船に乗せてるんですか〜〜!」
二人の話を聞いていたのかラピスを挟んだ反対側、
通信席に座っている頬にそばかすのある女性、メグミ・レイナードが驚きの声を上げる。
「この船を動かせるのは私とルリ姉しかいないから。
ルリ姉だけだと大変だから……」
これはルリと二人で決めたことである。
この理由がラピスを船に乗せるのに一番良い方法だからだ。
あとルリとは一応姉妹という事にしてある。
だからラピスはルリの事をルリ姉と呼んでいる。
三人が話に花を咲かしている頃、その上ではキノコ頭の変な軍人が叫いていた。
「ちょっと!なんで艦長がいないのよ!!」
「はぁ、そう言われましても……。
艦長も年頃の女の方ですから、色々とご事情があるのでしょう」
変な頭で叫き散らしている男、……まぁ名前は良いでしょう。
仮にキノコとしておきますが、そのキノコの小言に困った顔で受け答えするプロス。
「確かに遅刻するのはけしからんな」
「まぁ良いではないか、ここは軍ではないのだから」
無愛想な顔の男、ゴ−ト・ホーリーとかなり年を取られた老人、フクベ・ジン提督の二人は静かに佇んでいた。
そんなこんなで騒いでいるといきなり船に衝撃が走った。
「何事だ、状況を知らせよ」
いち早く動いたのはフクベ提督だった。
この辺はキャリアの違いだろう。
「ただいま敵バッタが上の基地を襲撃している模様。
敵の数はおよそ100機」
「上の様子を出してくれんか?」
ルリがいないためラピスがオペレーターをつとめている。
ラピスが上の状況をリアルタイムで正面に出した。
「味方の兵器残り二割を切ったよ。
バッタ残り120機。」
そう言っている内に味方のマーカーは全て消えてしまった。
「味方兵器全て沈黙したよ。
どうする?」
「対空放火よ!ここから敵を叩くのよ!」
キノコがとんでもないことを叫ぶ。
もちろん各方面から避難の声が上がる。
「上にいる軍人さんはどうするんですか?」
「そんなの全滅しているわよ!」
「それって非人道的だと思います!」
キノコの発言に不満を言うメグミ。
確かに上に人がいれば間違いなく被害を受けてしまう。
「……確かに非人道的ですし、そんな事をすれば瓦礫が落ちてきて船は出航出来なくなります。
それでも実行すると言うんですか?」
そんな中ルリがブリッジに帰ってきた。
「おや、ルリさん、お帰りが遅かったですね」
「はい、どうもすいません。
実は迷子になっている人がいらしたので案内していたんです。」
プロスの言葉に返事をしながらラピスと席を交代する。
「迷子……ですか?」
「はい、そこにいらっしゃいますよ」
プロスがドアの方を振り向くとそこには……。
「は〜い!私か艦長のミスマル・ユリカで〜〜す!ブイ!!」
この船で一番のお気楽極楽脳天気娘、ミスマル・ユリカがピースサインをしていた。
「そろそろ……か」
アキトがそうつぶやくのと同時に船が揺れた。
「もう一度、こうして誰かを守るために戦うとはな。
……俺をよほど争いのなかにいさせたいらしいな」
アキトは笑った。
しかしそれは何かを決意したような笑みだった。
「戦うからには負けるつもりはない。
俺は……目の前にいる大切な人達を守る」
それは自分自身への決意。
自分が戦う理由を言い聞かせるための。
「それが……俺が戦う理由だ!!」
『黒の王子』は再び戦場へと旅立つ。
だが、未来においての『黒の王子』とは決定的に違う物があった。
それは『復讐』ではなく『守る』ということ。
そのときのアキトの顔はとても優しくて、とても厳しい顔だった。
「このアラームみたいなのは?」
厨房では紫翠が料理長のホウメイに色々説明を受けていた。
「さぁね。さっきの揺れといい多分上でドンパチやってるんだろうよ」
ホウメイは余り関心がなさそうだった。
「戦争……ですか」
「そうだねぇ、確かに戦争とも言えるけど機械相手じゃ余り実感がわかないねぇ」
そんな声も紫翠には届いてなかった。
紫翠はずっと下を向いていた。
「なんなの……これは……?」
自分の中に突然湧いてきた感情に戸惑っていた。
それは例えるなら他人の感情がいきなり入ってきたような感じだった。
そしてそれは一瞬で消えた。
例えようのない、或いは色んな感情が入り交じっている、そんな言葉がピッタリの感情だった。
「遅刻や迷子についての話は後です。今はこの状況をどうにかしましょう。」
「それで艦長、何か意見はないか?」
この危機的状況に艦長に判断を促すゴート。
その艦長ことユリカは的確に指示を出した。
「エステバリスを囮として出撃、その間にナデシコは海底ゲートを抜けて浮上し、
囮のエステバリスと合流し一ヶ所に集まった所をグラビティブラストで一気に殲滅します!」
「その線が妥当か」
「そこで俺様の出番だな!く〜〜〜!燃える展開だぜ!」
「おたく、足折れてるだろう」
一人燃えているガイに冷静な一言が飛ぶ。
「し、しまった〜〜〜〜!!」
これでパイロットはいないことになる。
その事態を受けて他の案を考えようとするユリカだが、思わぬ報告が入る。
「エステバリス一機、エレベーターで上昇中です」
一瞬その場が固まるがフクベ提督だけはそうではなかった。
「直ぐに通信を開きたまえ」
的確な命令ををルリに下す。
「通信、スクリーン正面に出ます」
ピッ、という電子音の後に出たのは若い青年、アキトだった。
「誰だね、君は?」
フクベ提督がアキトに問いただす。
「テンカワ・アキト、コックです」
ここでも前回と変わらぬ答え。
「コックが何で俺のエステに乗ってるんだよ!」
「彼は先程私がコックとして雇ったのですが……」
「だから何でコックが俺のエステに乗ってるんだ!!」
「危ないですから降りた方が良いですよ」
「君、操縦の経験はあるのかね?」
「ねぇねぇ、怪我しないうちにやめた方がいいよ」
ブリッジにいる者達はそれぞれ好きなことを喋って会話にならない。
そこに……。
「あ〜〜〜〜〜!!アキト!!アキトなんでしょう!!」
ブリッジにいるどんな声よりでかい声によって遮られた。
「……ああ、そうだよ、ユリカ」
「やっぱりアキトだったんだ!
なんでさっきは違うっていったの!?」
アキトに先程の事が思い出されるが……。
「さっきはすまないな、だけどこうして会いに来たんだから許してくれ」
そこには普通の顔で受け答えするアキトがいた。
しかし、やはりまだ心の中では踏ん切りが付かないでいた。
「うん!あっ、だけどそこにいたら戦闘に巻き込まれるよ!!」
「パイロットがいないのだろ?
何をするのか知らないがパイロットがいないのなら俺が出るよ。
一応IFSを持ってるからな」
本当は何をするのか知っているアキトだが、余り疑いがかかるのは不味いので知らない振りをする。
「本当?……わかった。
だけど無理しないでねアキト。
アキトは私の王子様なんだから!!」
そうして通信を切るユリカ。
「……おい、何をするのか言ってないぞ」
そんな事を呟いているとエレベーターは地上に到着した。
「まぁいいか、内容は動きながら聞けばいいからな」
そうしてアキトは赤い目線を受けながらその中を駆け回った。
それは舞だった。
それは見る者を虜にする一つの映像だった。
全ての者は目を離せずにその、芸術とも言える舞に魅了されていた。
「……凄い……綺麗……」
誰かがそう呟いた。
それ程凄い光景だった。
バッタ達のミサイルを全てかわし、接近戦を仕掛けてくるバッタには最小限の動きで避けていき、
時にはすれ違いざまに倒していく。
それはまさに舞と呼べるものだった。
みんながぼ〜っとしている所に、ラピスへの通信を入れるアキト。
「ラピス、俺だわかるか?」
「アキト!やっと……やっと会えた……。」
瞳を涙で滲ませるラピス。
「すまなかったなラピス、色々事情があるが今はそれどころじゃないから後で話す。
それと俺はどうすればいいのか教えてくれ」
「アキトはどうすればいいのか知っているはずじゃ」
「まぁそれは立前だよ。本当はラピスを安心させたかったんだよ」
ラピスはアキトに依存していたので、長い間離れ離れになってラピスの心が不安定になっていないか確認したかったのだ。
「うん……ありがとうアキト」
「じゃあな、また後で」
通信を切るアキト。
「よかったわね、ラピス」
「うん!」
ルリの言葉に笑顔で返事をするラピス。
「ドック注水八十%完了」
「エンジンいつでもオッケーよ」
「海水ゲート開いてください」
「海水ゲート開きます」
会話が飛び交いながら出航準備が整う。
「機動戦艦ナデシコ、出航!」
そして白き船は動き始める。
「う〜ん、やっぱりエステの性能は落ちるな。
まぁそんなに強い相手がいるわけでもないのでエステの強化はもう少し先、そうだな火星につくまでにはしておきたいな。」
舞っているように見えたのは実はエステの運動性能を調べていたのだった
「あまり実力は見せない方が良いな。出来るだけ歴史にそった方が良いからな」
そうして適当にバッタ達を落としながらエステを海に向けて走る。
「よし、そろそろだな」
エステをジャンプさせ、バッタを倒した反動で海に向けて飛ぶ。
エステは水面ギリギリの所で丁度浮上してきたナデシコに乗った。
「速かったな」
「うん!アキトのために急いで来たんだよ」
ユリカがピースサインを出しながら元気に答える。
「敵、有効射程距離内に全て入っています」
「主砲グラビティブラスト、目標敵まとめてぜ〜んぶ!!」
ナデシコから一条の黒い光が放たれた。
その後には全てのバッタ達は原型を留めていなかった。
「すっご〜い」
「敵バッタ、ジョロともに残存ゼロ」
「う……嘘よ!マグレよ!」
「認めざるを得まい、よくやった艦長!」
色々な会話が飛び交う中ユリカは既に違う世界に入っていた。
「アキト!アキトはやっぱり私を助けに来てくれる王子様だね!!」
「王子様か、なんか皮肉に聞こえるな」
アキトは誰にも聞こえない小さな声で呟いた。
「へ?何か言った、アキト?」
「いや、それより収容してほしんだがな」
「あっ、うんわかった、エステバリスの収容お願いします」
(まだ、踏ん切りがつかないみたいだな……)
アキトはエステを動かしながら自分の気持ちに苦笑していた。
(またよろしく頼むよ……ナデシコ)
あとがき
いや〜、なんかこっちを書くのが凄く久し振りなような気がします(爆)
このままでちゃんと終わらせることが出来るのか……(汗)
とにかく頑張っていきますのでよろしくお願いします。
代理人の感想
確かアキトとガイって一つ違いの同学年じゃなかったかな〜、と
このシーンを見るたびにいつも思ったりするのですが。
「歳が違うにしたって18歳に「少年」はないだろう」とも(笑)。