古代の涙



第五話 変化する歴史










「これから何をするのか具体的に決めたいんだが……何か考えは無いか?」


「そうですねぇ、取りあえずは前回と同じ通りでいけば良いと思いますよ。

 その中で変えたいと思う所は変えていけば良いじゃ無いですか?」


アキトは今ルリの部屋でこれからの事について話し合っている。

前回はユリカと色々あったのでこの部屋に逃げてきたと言った方が正解かもしれないが。


「それじゃあ今はあの……名前、なんだったっけ?」


「ムネタケ副提督ですよ」


「そうそう、その副提督の反乱とチューリップをどうにかしないとな」


アキトは今までムネタケの事を忘れていたみたいだ。

まぁ、誰でも必要無い事は直ぐ忘れてしまうものだ。


「そうですね。

 まぁ反乱の方は手を出さなくても良いですからね。

 クロッカスとパンジーは私の方でどうにかしますね」


「ああ、頼む」


「はい、それじゃあ行きましょうか」


ルリは立ち上がりドアの方へ歩いていく。


「ちょ、ちょっとルリちゃん、行くって何処へ?」


アキトは慌てながら立ち上がった。


「何処ってラピスの所ですよ。

 なんたって半年もほったらかしにされたんですから」


振り返りながらそう答えたルリの表情は年相応の笑顔だった。


「あっ、後でアキトさんと一緒にいた女の方の説明もラピスと交えてゆ〜っくりとお話しましょう」


いや、その笑顔は見る者(アキト)を震え上がらせた。










「おや、アキトさん、艦長がそちらへ行きませんでしたか?」


アキトがブリッジに行くとプロスが不思議そうな顔で問いかけてきた。


「い、いえ、こ、こっちには来てないですよ」


アキトは少しどもりながら何とか答えていた。

その様子からするとユリカから逃げていたのは正解みたいだ。


「そうですか。

 おかしいですな、確かにそちらへ行くと言いながらブリッジを飛び出したと思ったのですが」


「そ、そうですか……」


「アキト!!」


ラピスがアキトを見つけ飛びついた。


「ラピス……御免な、心配をかけて」


「アキトぉ…………ヒック…………」


涙を流しながらアキトにしがみつく。


「おや、ルリさんとお知り合いで、しかもラピスさんともお知り合いでしたか」


プロスが眼鏡を光らせながら訪ねる。


「はい、私とラピスは姉妹みたいなものですから、私の知り合いがラピスの知り合いでもおかしくはないですよ」


「ふむ、それはそうですね」


一応の納得はするプロス。


「しかし艦長は何処に行ってしまわれたのでしょうか?

 大切なお話があるというのに……」


呆れ顔で溜息をつく。

そんな人を艦長に選んだのはあなたでしょう。

と、アキトは口に出そうになったのをなんとか堪える。


「それなら私が呼び出しましょうか?」


「すいません、よろしくお願いします」


暫くするとユリカが慌ててブリッジに入ってきた。


「る、ルリちゃん!アキトがここにいるって本当!!」


ユリカは来るなりルリに詰め寄った。

それはまるで獲物を狙う動物の目だった。


「はい、いますがそれより艦長としての仕事をしてください」


「え〜〜〜!ルリちゃんの意地悪〜〜〜〜〜!」


ユリカが拗ねている間にプロスが先に用件を切り出した。


「ユリカさん、これから大事な話があるので艦全体に放送を流すので、初めに艦長であるユリカさんが出てください。」


こうしてプロスの口からナデシコの目的、行き先が話された。

その話に賛成者もいれば、反対者もいた。

そのもっともの例がキノコだった。


「では火星へ向けてしゅぱ〜……」


『そうはいかないわ!』



    ガンッ!!



「「「「「「ガン?」」」」」」


通信が入ってきたと思ったら、扉の方から物が当たるような音が聞こえた。


『いっ、いったあ〜〜〜〜い!!

 な、なによ!何で開かないのよ!!』


ウィンドウに鼻とおでこを押さえたキノコが現れた。

きっと、さっきの音はキノコがぶつかった音なのだろう。


「私がロックしたので開くわけがありませんよ」


「ルリちゃん、どうしてロックなんかしたの?」


「銃なんかを持って扉の前で待機されていたらロックもしたくなります」


その一言で全ての視線がキノコに集まる。


「一体どうゆうつもりだムネタケ!」


フクベ提督が問いただす。


『こっ、これだけの戦艦を火星に行かせるなんて冗談じゃないわ。

 ナデシコは私達軍と一緒に戦ってもらうのよ!』


一応格好を付けているみたいだが、鼻が赤いせいで何とも言えない光景だ。

そんなキノコの言葉に異議を唱える者がいた。


「なに馬鹿な事を言ってるんだ」


『な、なによあんたは!!』


アキトはキノコに鋭い視線を向けた。


「そんな事は今はどうでもいい。

 今は貴様のその発言の事を言っているんだ。

 この船は確か民間が造った船だったはずだ。

 ならその運用には軍だろうと口を挟むことは出来ないはずだ」


アキトの言葉を聞いてキノコはさらにヒステリックに叫いた。


『み、民間は黙って軍の言うことを聞いていれば良いのよ!!

 私が貴方達を守っているんだから!!』


誰もがあんたに守ってもらってない、と顔に出ている。

というか明らかにキノコに対して軽蔑の眼差しが刺さる。


「それって横暴です!」


「幾ら何でもそれはないんじゃな〜い」


「いやはや、軍とは話がすんでいるのですが……」


『きぃ〜〜〜〜〜〜〜!!

 こっちには人質がいるのよ!!

 今頃は各部署は制圧している頃よ、おぉ〜〜ほっほっほっ!!』


キノコが勝ち誇った笑いを上げる。

こいつは喜怒哀楽の喜と怒しかないのでは?と思わせる光景だ。


「これでもですか?」


ピッ!


『とっ、扉がロックされていて中に入れません!!』


『こちらも同じです!!』


ウィンドウに映し出されるのは、ドアが開かなくて困っている軍人達だった。

武装してドアの前にたっている光景は何だか間抜けそのもの。

そしてその光景は軍の信用を落とすのには十分だ。


「このまま素直に指示された場所に向かってください。

 そうすれば手荒な前はしません」


『ふ、ふん!!誰があなたみたいな子供の言うことに従うもんですか!!』


ピクッ。


「……そうですか、わかりました。

 それならこちらにも考えがあります」


一瞬身を固めたルリだが直ぐに再起動し、オモイカネにアクセスし始めた。


「オモイカネ、軍の人がいる区画を閉鎖して。

 その後、そこの空気供給をストップして」


『ルリ、それだと中の人間が危険』


「い・い・か・ら・やって」


無表情でそう言いのける。

だが後で聞いた話によると、後ろに居るゴートですら身震いがするほどの声だったとかなんとか。


『りょ、了解』


ルリの押しに負けたオモイカネは言われた通りに実行した。

……その恐ろしさに負けたともいうが。


『なっ!!ちょっとやめなさい!!

 そんなことしてどう……なる……と……うっ』



バタンッ!



「ね、ねぇルリちゃん、いくら何でもやりすぎじゃ……」


「大丈夫ですよ、キノコはあれ位じゃ死にませんから。

 と言っても他の人も居ますのでこれ位にしましょうか。

 オモイカネ、空気供給を元に戻して」


『了解』


オモイカネが即座に実行する。

機械でもヤバイと思ったのだろうか?


「お、恐ろしいわね、ルリちゃん」


「ええ、これからは怒らせないようにしなければいけませんね」


「ルリちゃん、怖いよ……」


その後ろではミナト、プロス、ユリカがそれぞれそんな事を口にしていた。

だが誰もキノコ達を心配する者はいなかった。

まっ自業自得なのだろう。

こうしてナデシコは軍に掌握されることなく出発できると思った矢先。


「前方に機影を確認、数3」


ラピスの声と同時に前方の海から3つの戦艦が浮上してきた。


「前方の戦艦から通信が入ります」



ピッ!!



「ユゥゥゥゥゥゥゥカァァァァァァァァ〜〜!!」


「お父様!!」


アップで現れたのはユリカの父ことミスマル・コウイチロウだった。

親子での超音波は聞いていた者の鼓膜を刺激し、時に脳は外部からの感覚を遮断した。

要するに気絶したと言うことだ。


「な、何の用ですかな」


プロスが何とか立ち直って質問した。


「ごほんっ、ではこちらの用件を言おう。

 ネルガル重工の戦艦ナデシコに告ぐ!今すぐ地球連合宇宙軍提督ミスマル・コウイチロウの命の元、直ちに停船せよ!!」


「それはちょっと無理な相談ですねぇ」


アキトたちはプロスの言葉に驚いた。

『前回』ではプロスはこんな事を言ってはいなかったためだ。


「どういう事だね、それは?」


「はい、今回我がネルガル重工が建造したこのナデシコはちゃんと軍との話し合いは付いております。

 あともう一つ、今回軍からお見えになったムネタケさんがこのナデシコを掌握しようといたしました。

 その件でナデシコに乗り込んでいるクルーは軍を信用出来ない人が多々いる模様なのです。

 ですから我々としてはその申し出には答えられません」


「……掌握の件は本当かね?」
 

「はい、証拠の映像も記憶されていますよ、よろしかったらご覧なさりますか?」


「…………いや、結構」


「そうですか、それではナデシコはこのまま進ませていただきます」


困惑した表情のミスマル コウイチロウのウィンドウを閉じた。

しかし、プロスの出した結論に意義を唱える者がいた。


「え〜〜〜っ、お父様が言うように停船した方が良いと思うんですけど」


娘のユリカだった。

しかしその案はプロスによって却下された。


「先程申し上げた通り軍とは話が付いてます、したがって私達がこのナデシコをどう扱おうと私達の自由です。

 それに先程ムネタケさんが起こそうとした反乱の件といい、あの場で軍の指示に従うのは些か軽率ですな。

 艦長、もう少し感情的にならずに考えて欲しいものですな」


眼鏡を中指で上げながら答えるプロスにアキトたちは複雑な視線を向ける。


「では我々は火星へと向かうことにしましょう」


こうしてナデシコは火星へとその足を向けた。

未来を知る者達にとってその旅立ちは予想だに出来ない事であった。










「ナデシコはどうだ?」


変わってここはミスマル コウイチロウの乗る船のブリッジ。

コウイチロウは全ての仕事を終えシートに深く座りながらオペレータに問いただした。


「はい、ナデシコは高度を上げつづけています。

 もうじきレーダー範囲から抜けます」


オペレータからの答えを聞き、瞼を閉じる。

これで事実上ナデシコを捕獲する事は不可能だ。

上からの命令はナデシコの掌握、しかしコウイチロウはその任を良しとは思っていなかった。

元からネルガルとは話が付いているのにも関わらずナデシコを掌握することは違法行為に値する可能性もある。

なにより……娘が選んだ道を止めたくはなかったのだ。

母親を早くに亡くし、父親である自分を見て育ったためかユリカは父親と同じ軍へと入隊した。

確かに軍での成績はずば抜けていたが、他にも別の生き方があったのではないか?

普通に大学を出て、企業に就職をする、そんな生き方もあるのに自分のせいでその道を絶ってしまったのではないか?

そんな自問がコウイチロウの中では常におこなわれていた。

そんな矢先、自分の意志でユリカは軍を抜けると言い出した。

それはコウイチロウにとって何とも言い難い事であった。

しかし、結局ユリカが自分の意志で未来を決めるというのであれば自分はそれを応援しようと決めた。

だから今回の任は気乗りではなかったのだ。

だが…………


「ユリカァァァァァ〜〜〜〜〜ッ!!

 
パパは……パパは寂しいぞぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」


単なる親バカなのかも知れない。

そんな光景を見てもブリッジクルーは黙々と作業を続ける。

これは日常茶飯事なのだ、こんな事で驚いていたらこの船ではやっていけない。

良くも悪くもコウイチロウが乗る船のクルーは大抵の事では動じなくなっているのだ。


「提督」


そんな暴走しているコウイチロウに声をかける者がいた。


「ユリカァァァ〜〜〜〜……ん、なんだね?」


一瞬の内に表情を改める、これもいつものことだ。

仕事と私情を瞬時に変えることができる……偶に出来ないこともあるがそれはそれだろう。


「ナデシコが置いていったコンテナの積み込みが完了致しました」


「そうか、ご苦労」


ナデシコが置いていったコンテナの中身、それはムネタケ達だった。

これから火星に行くまでの約一月間、精神上よろしくないムネタケ達を連れて行くのは誰もが反対したので置いていくことにしたのだ。

某オペレーターはそのまま海に落とした方が良いと言ったが、流石にそれはかわいそうだと言う意見が出たのでコンテナに詰め込んだのだった。

その際かわいそうだと言ったのはムネタケではなくその部下達の事だと言うのがムネタケに対する全てを物語っている。


「では、これより基地へと帰還する全艦進路を…………」


「チューリップ、活動を再開っ!!」


指示を出しているところにオペレーターからの言葉が遮った。


「なにっ!?

 映像を出せ!」


途端に慌ただしくなるブリッジに映像が映し出される。

そこには既にクロッカスとパンジーがチューリップに飲み込まれようとしているところだった。


「くっ!船から脱出した者はいるかっ!?」


「救命ボートを多数発見っ!」


「これより生存者の救出をおこなう!!

 ミサイルを掃射しながら救命ボートを回収、回収が完了した後この中域から離脱する!!」


結局、生存者は全体の三分の一程度だった。

しかし、この結果が後に大きく関わってくる歴史の歪みの最初の事件だった。

歴史は少しずつその姿を変えていくことに気が付いた者はこの時、誰も居なかった。




















あとがき


がさがさ、ごそごそ。


え〜っと……おっ、あったあった、どれどれ……ふむ、四話が去年の11月にアップか、約三ヶ月ぶりだな。

……ごめんなさい、すっごく遅れました(ペコ)

これからはもうちょっとスピードをあげ……れるといいなぁ(核爆)

 

 

 

代理人の感想

>クロッカスとパンジー

あんまり「どうにか」なりませんでした(爆)。

と、言うか何かやったんでしょうかルリ。

 

>スピード

ううっ。(ちくちく)