「おい、それぞれ位置に着いたか?」
闇。
深い闇の中に身を委ねる。
それが今の俺だ。
「はい、全員配置に付きました」
後ろから返事が聞こえる。
「そうか――――なら行くぞ!」
――――俺は何でここにいるのだろうな。
夢視ぬ星々の創世曲
SESSION 1 始まりの歌
「よう、元気か」
「ああ、そこそこな」
仕事が終わって休んでいると後ろから声をかけてくる奴がいる。
「そうか、なら上手くいったみたいだな」
「そんな事を知りたいのなら直接聞けばいいだろ」
「こういう風に聞くのがまた良いんじゃないか」
「そういうもんか?」
「ああ」
自信満々に答えるもんか?
「で、なんの用だフシザナ」
「上がお呼びだよ」
フシザナは上を指しながら俺に答えた。
「ちっ、わかったよ」
俺はベンチから腰を上げて歩き出した。
「まぁがんばれや」
フシザナは上機嫌に手を振りながら俺を見送る。
……なんかむかつくし後で絞めるか。
「で、何のようだ」
「まぁ立ってないで座れ」
俺は進められるままに座る。
「俺は忙しいんだ、さっさとしろ髭爺」
「……お前だけだぞ、儂を髭爺と呼ぶのは」
「髭爺は髭爺だ。それ以外に何がある」
俺の前に座っている髭爺――――たしかサヤバ・ゴウジだったか――――は深いため息を吐く。
「まぁ良い、今日はそんな事を話すために呼んだんじゃ無い」
「同感だ」
こんな事をするために呼んだんなら吹っ飛ばす所だ。
「今回呼んだのは他でもない、お前にある仕事をしてもらいたいためだ」
「おい、ちょっと待て、俺は今さっき仕事を終わらしたばかりだぞ。それなのに直ぐに次の仕事だと。ふざけるな、お断りだ」
この会社はランクによって仕事の内容が変化する。
通常GからAまでの七段階に分けられる。
それとは別に裏としてα、β、γ(ガンマ)、σ(シグマ)、ω(オメガ)と五段階がある。
表は普通の会社の内容だが裏はその通り裏の仕事だ。
俺はその中の最高ランクωに属する。
ωはその仕事の厳しさに伴い、仕事を成功させると暫くの有休が貰えるようになっている。
それなのにこの髭爺は直ぐに次の仕事だといいやがる。
「この仕事はお前にしかできんのだ」
「そんな事知らないな。他の奴に当たってくれ」
俺は用が済んだとばかりに席を立とうとしたら髭爺が面白いことを言ってきた。
「その仕事にはあのフクベ・ジンが関わっているとしてもか?」
「なに?」
その一言に俺は立とうとしたのをやめた。
「……詳しく聞こうか」
「そういうと思ったよ」
まぁ髭爺の思惑に引っかかってしまったがそんな事はどうでもいい。
あいつだけは許さない。
あいつが火星でやった事は許せる事じゃない。
あいつのせいで俺達は、町のみんなは……
一度会ってみたいと思っていた奴だ、丁度いいこの際スッキリさせるとしよう。
髭爺の話をまとめると俺に戦艦に乗って欲しいとの事だった。
何でもライバル会社(そういえば髭爺は社長だったな)のネルガルが開発した新造戦艦、確かナデシコだったか、に乗れとのことだった。
それもクルーとしてだ。
どうやってだ、と問いただしたら手筈は整っているとのことだった。
……髭爺、初めから俺を行かせるつもりだったな。
それと何故俺を乗せようとするのかと、
ライバル会社の作った戦艦に乗せる理由は最後まで聞けなかったがな。
まぁいい、どんな手段であろうと乗れれば良いんだ。
「と言うわけで俺は暫く留守にするから後のことはお前らに任せる」
「はぁ、わかりました」
「それにしてもここって人使い荒いですね」
それを言うな、俺だってそう思った。
「じゃ後のことは適当にやってくれ」
「はい、お帰りお待ちしております!」
さてっと、部下達には話したからいいか。
フシザナは……帰ってきてから絞めればいいか。
それじゃあ行くとしますか。
「これが例の戦艦か、何とも目立つ船だな」
こんな変な形にして何か意味があるのだろうか?
まぁ大方作った奴の趣味だろうな。
「いやはや手厳しいですなぁ」
――――ほう、なかなかの気配の殺し方だな。
俺がそう思いながら振り向くと眼鏡をかけた男が立っていた。
「あなたがサヤバ社から来たテンカワ・アキトさんですね?」
「そうだがあんたは?」
「これは申し遅れました、私プロスペクターと申します。どうぞ宜しく」
身のこなしも一流、相当の場をこなしているみたいだな。
これほどの奴がネルガルにいたとはな。
「ああ、で俺は何をしたらいいんだ?
あいにく何も聞いていないのでな」
そういえば船に乗る事は聞いたがクルーとして何をするのかは聞いてなかったな。
「テンカワさんはエステバリスのパイロットとして登録されてますが」
「そうか、わかった」
やはりな、大体は想像できたが……まぁいいか、別に困るようなことも無いからな。
「それとテンカワさんにはこれを着ていただきます。一応決まりなのでして」
プロスは俺に赤い服を渡してきた。
「なんだこれは?」
「はい、それはパイロットの方の制服となります」
「いらん」
こんな服着ていられるか。
「しかし、一応規則なのでして……」
「ならあんたは何故制服を着ていないんだ?」
「そ、それは私が特別な部署なので……」
「それに俺は戦艦には乗るがネルガルの社員になった覚えはない。と、言うわけで断る」
キッパリ言い放ったらプロスは暫く黙り込んだ。
「用はそれだけなら俺は行くぞ」
船の構造を覚えなくちゃいけないからな。
「わ、わかりました。しかし、他のパイロットさん達と挨拶はすまして置いてくださいね」
「ああ、わかったよ」
俺は後ろから聞こえる声に返事をしながら歩き始めた。
まぁ、他のパイロット達は回りながらにでも会えるだろう。
「ほぉ、最新鋭の戦艦だけあって色んな物があるな」
バーチャルルームに瞑想ルーム、おまけに娯楽施設まであるとはな、軍とは偉い違いだ。
これなら住居関係の方もなかなかの物だろう。
今の会社の社宅より良いかも知れないな。
「今度待遇の改善でも求めるかな」
そんな事を考えながら歩いていたら格納庫にたどり着いたみたいだな。
「これは……新型か」
そこには軍には無かった型のエステバリスが並んでいた。
「あの頃よりは性能が上がっていて欲しいんだがな」
「それなら乗ってみる?」
ふと呟いた言葉に返事が返ってきたのに驚き振り返るとそこには一人の女がいた。
「どうする、乗ってみる?」
こいつ、俺が気付かなかったのを面白がっているな。
現に口元が笑っていやがる。
「そうだな、俺が乗る予定のエステ位は見ておきたいな」
「なら乗るって事ね、ふふふっ」
「……なんだよ、その笑いは」
とうとう我慢できずに笑ってしまったって所だろうな。
「ふふふっ、さっき私が声かけたら凄い勢いで振り向くからね。いつものアキトらしくなかったからかな」
「なんでかな、ってつくんだ」
なんか癪にさわるな。
「ごめんごめん、謝るから許して、ねっアキト」
そういやこんな奴だったな。
人の考えている事を素早く察知しやがって。
「わかったよ――――それにしても久しぶりだな、カザマ」
「ホント久しぶり、アキト」
目の前の赤い服を着た女――――イツキ・カザマが笑いながら立っていた。
「確か前にあったのは二ヶ月位前だったかな」
「まぁね。まぁ連絡は何度かしているけどね」
「そうだったな。…で、何でお前がこの船に乗っているんだ?」
「ふふふっ、知りたい?」
また人をおちょくりやがって。ここは素直に聞いてやるか。
「ああ、まぁな」
「それはね、ネルガルからエステバリスのパイロットのスカウトがあったのが半分かな。」
「ほぅ、で後の半分はなんだ?」
「後の半分はアキトに会いたかったから、かな?」
だから何で最後にかな、って付くんだ、ってそれよりも……
「なんで俺がこの船に乗るって知っていたんだ。俺は他の奴には喋った覚えはないぞ」
「プロスさんに他に誰がエステのパイロットとして乗るのか聞いたらアキトの名前がでたの。それで知ったのよ」
「そうか……」
あの髭爺、かなり前から決めていやがったな。
「お〜〜い、イツキちゃん何やっているんだよ、エステの調整がまだ終わってないんだぞ〜!」
格納庫の奥の方からカザマを呼ぶ声が聞こえる。
「あっは〜い、今行きます。あっ、アキトも来て、一緒にエステの調整をすませた方が手っ取り早いから」
「わかった」
二人で声のした方に歩いていくと作業服に眼鏡をかけた男がいた。
もしかしてこいつが整備班の奴なのか。
なんかいかにもって感じがするな。
「おっ来たな……ってお前は誰だ?」
俺の方を見ながらその眼鏡は質問してきた。
なんか言い方がむかつくが指で差さない分許すとしよう。
「俺はテンカワ・アキト、一応パイロットだ」
「そうか、俺はウリバタケ・セイヤ、このナデシコ整備斑の班長だ。よろしくな」
「ああ」
「……なぁ二人は知り合いなのか?向こうの方で話していたみたいだが」
いきなりプライベートな所に首を突っ込んでくるな、こいつは。
まぁ俺が答えなくてもカザマが答えるだろうな。
「ええ、ちょっとした知り合いです、それがなにか?」
「いや、別に深い意味はないんだ。それじゃあエステの調整を始めるから二人ともエステに乗ってくれ」
「ああ」
「はい」
俺達はそれぞれエステに乗り込んで調整を始めた。
「どうだテンカワ、何かおかしな所はないか?」
「ああ、大丈夫だ特に異常はない」
前の時より流石に性能が上がっているな。
後は少し動かしたいのだが流石にこの中じゃ動かせないな。
「そうか……そうだ、テンカワ何か好きな色はあるか?」
「好きな色?何でそんな事を聞くんだ」
「エステの塗装がまだだから乗る奴の好きな色にしてやろうと思ってな」
「わかった……そうだな、黒にしてくれ。その方が何かと便利だからな」
「わかった、そうしておこう」
調整も終わった事だし出るとするか。
「それじゃあ俺は出る……うっ……くっ」
「お、おいどうしたテンカワ」
な、なんだこれは、何かが俺、の中、に――――
「うっ……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ソレは何とも言い難いモノだった。
そんなのがまるでバグみたいに俺を浸食していく。
「テ、テンカワ!おい、テンカワ!!」
「アキト!?どうしたの!?アキト!!」
は、いっ、て……クル――――
「あああああぁぁぁぁぁぁアアアァァァァ!!!」
俺の身体中、蜘蛛の糸みたいに張り巡らされた神経が悲鳴を上げる。
ソレは不純物が混じったので警告を上げているようだった。
「しっかりして!!アキト!!アキト!!」
……だ……………じ………………まだ…………
「おい!!スグに医療班を呼んでこい!!大至急だ!!」
もう周りの声も聞こえなくなっていた。
ただ自分を維持しているだけで精一杯だった。
お、れは………オレハ――――――
「お――――俺は俺だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は自分に言い聞かせるように叫んだ。
「テンカワ!!!」
「アキト!!!」
「邪魔だ!!!消えろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「アキト!!アキト!!」
力の限り叫んだせいか急に痛みが退いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――――カ、カザマ……」
「そうよ私よ!!しっかりしてアキト!!」
……俺は……俺だよな――――
苦しんでいる時俺は一瞬自分が自分ではないように思えた。
だからそう思ってしまったんだろう。
そしてカザマの顔を見た途端身体の力が抜けて俺は倒れた。
「アキト?アキト!しっかりして!!」
「おいイツキちゃん!医療班が来たからテンカワをコックピットから出すのをてつだってくれ!」
「は、はい!!」
「どうですか、アキトの容態は……」
私は今医療室でベットに寝ているアキトの隣に座っている。
「どうもこうもないわ、ただ気絶しているだけよ。暫くここで寝かせていればいいわ」
「そうですか……よかった」
「ただ、何故いきなり叫びだしたのかがわからないわ。外傷も無かったしそれだけは起きたら聞くしかないわ」
「はい…………」
「それじゃあ私は隣の部屋にいるから何かあったら呼んでね」
「はい、ありがとう御座いました」
医療班の人はそう言って部屋から出ていった。
「……アキト……一体どうしたの?」
アキトはエステバリスのコックピットでいきなり叫びだした。
私はアキトが苦しんでいる時にただアキトの名前を呼ぶしかできなかった。
何も出来なくてただアキトが苦しむ姿を見ているだけ……
そして私が今できる事はこうして手を握るぐらい。
私はなんて無力なんだろう……
アキト――――
「目を覚まして――――アキト」
あとがき
どうも瑞白です。
最初に瑞白は「The Blank of 3Years」をやったことがないのでこのSSに出てくるイツキ・カザマは半オリキャラみたいなモノです。
「こんなのイツキじゃない!!」と言う方がいたらごめんなさい(ぺこぺこ)
と言うわけで今回は205万HIT記念です。
しかし約一週間で五万HIT逝くとは……
もしかしたら凄くやばいかも(激爆)
ではでは。
代理人の感想
・・・現在206万ヒット。
何ゆえこのHPはこんなにカウンタがよく回るのだろ〜か。
まぁ、それは私が心配する事じゃないからさておき(本当か?)、
最近はイツキヒロイン(というより最初からイツキパターン)がこっそり増加中。
この話ではヒロインなのかどうかはまだわかりませんが。
(いや、アキトに好意を抱く=ヒロインではないし(笑))