小さい頃から俺は強くなろうと思った。
自分の大切な物だけでも守ろうと思った。
だけど――――実際はどうだ。
俺は何も守れなかった。
俺が何かすれば必ず俺の周りが傷つく。
その中俺一人が傷つかずにただ傍観しているだけ。
何故俺は傷つかないんだ。
ナゼオレハ――――
夢視ぬ星々の創世曲
SESSION 2 瑠璃色の涙
俺はどうなったんだ?
確かエステに乗ってそれから……
そうだ、何か得体の知れないモノが俺の中に入ってきて――――
まだ、いやがるのか。
お前は何だ?
お前は――――消えろ。
少ししか時間がたっていないのか、やけに重い頭に起こされるように俺は目を覚ました。
「うっ……ここは?」
まだ焦点が合わない目で周りを確認しようとしたら横から俺を呼ぶ声が聞こえた。
「アキト!!大丈夫!?」
横を向くと涙を流しながら心配そうに俺の顔をのぞき込むカザマがいた。
「カザマ、かどうしたんだ?何泣いてるんだよ……」
まだ頭がハッキリしないのかなんか間抜けな質問をする俺。
「何言ってるのよ……アキトいきなりエステの中で叫びだしたんだよ。
私すっごく心配したんだよ。
それなのにアキトは……」
再び瞳に涙をためながら答えるカザマ。
「あぁ、そう言えばそうだったな。わりぃな心配かけて」
段々意識がハッキリしてくると、俺がどうしてここにいるのか思い出してきた。
――――また、迷惑かけたみたいだな。
「それで俺の手を握ってまで看病してくれてたのか」
「へ?」
こいつ……今自分が誰の手を握ってるかわかっていないな。
「自分の手を見てみろ」
「……ご、ごめんなさい!」
赤くなりながら慌てて手を離すカザマ。
……小学生か、お前は。
「なぁ、俺が倒れてからどれぐらい時間がたったんだ?」
「え、えっと、大体一時間弱ってところかな」
「そうか……」
結構時間がたっているな。
これだと船全て見て回るのは無理みたいだな。
「それじゃあ俺はもう一度格納庫の方へ行くとするか。
エステについてまだ聞きたいことがあるからな」
俺がベットから起きて立ち上がろうとした時、カザマが俺の腕を掴みながら引き留めた。
「ま、まだ起きたらダメ!
アキト倒れたんだよ!」
「大丈夫だ、それ程心配する事じゃない。
身体の方も何ともないみたいだからな」
心配するカザマに大丈夫だと伝えて俺は格納庫に向かった。
こちらから話をしてカザマから何故倒れたか問われなくてすんでよかった。
これ以上あいつに心配かけるわけにはいかないからな。
それに……俺自身よくわかっていないからな。
あれは、何だったんだ?
俺は格納庫に向かって歩いていると前から10歳ぐらいの女の子が走ってきた。
……何をそんなに慌てているのだろうか?
俺がそんな感想を抱いていると次の瞬間俺の身体に緊張が走った。
「アキトさん!はぁ、はぁ……だ、大丈夫だったんですね。よかった」
金色の目に瑠璃色の髪を頭の上で二つに結んでいる女の子は息を荒らしながらそう言った。
何故こいつは俺の名前を知っているんだ?
いや、それは乗組員の名簿を見ればわかる。
問題はそんな事じゃない。
こいつは『俺』を知っているようだ。
だが、俺はこんな奴は知らない。
それなのにこいつは俺のことを知っていて、尚かつ俺の心配をしているみたいだ。
これで警戒するなと言う方が無理な話だ。
……ここは一つこいつの話に乗って探ってみるか。
「ああ、大丈夫だ、それ程心配する程の事じゃ無い」
「よかった……
それにしてもアキトさん驚かないんですね」
「驚く?」
何を言っているんだ、こいつは?
「はい、私達はあの時ランダムジャンプでこの時代まで飛ばされました。
それでアキトさんは驚いていると思ったんです。
だけどそれは私の杞憂ですんでしまいましたね」
なんなんだ?
ジャンプ?
この時代?
話がわからない。
一体こいつは……
「あっ、あの時ジャンプに巻き込まれた人達全員がこの時代に来ていると思います。
全員がナノマシン処理を受けていますから大丈夫だと思いますが、後で確認を取ります」
淡々とその歳からは考えられないような言葉使いで話していく。
こちらが困惑しているのに気づかず黙々と話していく。
「それで……やはりやり直しますか?
これから起こる事はわかっていますからあの未来を無かった事にできますよ」
こいつが何を言っているのかわからないが大体の見当がついた。
ジャンプと言う単語はわからないがこいつは未来から来たらしい。
そしてこいつは未来を変えようとしているみたいだ。
でこいつは俺と未来では知り合いで今の俺と間違えている、と。
まとめると大体これぐらいだな。
こんな話普通は笑い話だがこいつは至って真面目に話してやがる。
まぁ、電波の人だと言えばそれまでだがな。
取りあえずこいつとはあまり関わらない方がいいな。
「残念だが俺はお前の知っているテンカワ・アキトじゃない。
多分他の所にいるんだろうよ。
じゃあそう言うことで」
そう言ってこいつの前から去ろうとしたらいきなり怒った表情で食ってかかってきた。
「なに言ってるんですか!!
アキトさんは未来から精神だけ飛んできたんですよ!
それなのにこの世界に同じ人なんているわけないじゃないですか!
それに……そんな事、もう言わないでください……」
最初の方は凄いいきよいだったが最後の方は消えるような声だった。
だが俺はそんな事よりこいつの言った言葉に引き寄せられていた。
「未来から……精神だけ?」
「そうですよ!
今更何言ってるんですか、アキトさ……きゃ!!」
俺はそいつが言い終わる前に襟元を掴んでいた。
「な、何を……アキトさん……?」
そいつは俺のいきなりの行動に戸惑っている。
だが俺はかまわす襟元を掴んだままそいつを睨んだ。
「お前は……未来から来たと言ったな……それも精神だけと」
「…………………………」
多分俺の殺気で声が出ないのだろうが俺はそのまま話し続けた。
「お前らが未来から来ようが俺は関係ない。
だがな、お前もそうだが他の奴は精神だけこの世界に来たと言ったな?
それはどう言うことかわかっているのか?」
「あ、あなたは……」
やっと俺が自分の思っている奴と違うと気づいたのか弱々しい声を上げている。
「それはなぁ、この世界で生きているもう一人の自分を殺す事だ。
俺はさっきいきなり激しい痛みに襲われた、これがどういう意味かわかるか?」
あの痛みは普通では体験できない痛みだ。
肉体的な痛みは受けることが出来る。
そしてそれに対しての免疫もできる。
だが、あの痛みは精神に直接受ける痛みだ。
そんなのに普通免疫があるわけがない。
そんなのを普通の奴が受ければどうなるかわかったもんじゃない。
――――まぁ、俺は普通じゃないがな。
「その痛みがお前達が入ってきたからだとすれば普通の奴はどうなっているだろうな?
お前は……この世界に生きている『自分』を殺してその身体にいるんだ!
貴様はそんな事も知らずにのうのうと自分たちの未来図を描いているんだ!!
ふざけるな!!」
俺は自分の怒りをそのままぶつけた。
未来でどんな酷いことがあったかなんては知らない。
ただ、未来は未来、過去は過去だ。
たとえ過去の自分だかと言っても未来と過去の自分は同じじゃない。
人は一分一秒変わっていっていくんだ。
自分というのは『今』しかいないんだ。
だから俺は目の前にいるこいつが許せなかった。
過去に戻ったからやり直せると言ったこいつに……。
「おまえは……!!」
俺が次を言おうとしたら警報が鳴り響いた。
ビィーー!! ビィーー!!
「ちっ、敵か!?」
俺は掴んでいた手を離した。
「うっ、ゲホッ、ゲホッ……はぁ、ア、アキトさん……」
俺とこいつの身長差からして俺が持ち上げる事になる。
そこで俺が手を離すと万有引力の法則に従って床に落ちることになる。
俺は少し悪かったと思ったが何も言わずに、そのまま後ろを向いて走り出そうとした。
だがそいつは咳き込んだ後、俺に声をかけてきた。
――――さっき声が出なかったのは俺が掴んでいたせいでもあるのか。
「なんだ?」
俺は自分でも不機嫌だとわかる声で返事をした。
「ほ、本当にアキトさんじゃ……ないんですか?」
そいつは縋るような目で俺を見ていた。
まるで迷子になった子猫のように……。
「ああ、残念ながら俺はお前の知っているテンカワ・アキトじゃない」
俺はそんな奴に真実を告げた。
そう言うしか他にないからな。
「そんな……」
そいつは焦点の合わない目でそう呟いた。
だが俺はそんな事よりやらなくてはいけない事がある。
俺はこのナデシコにパイロットとして乗り込んだんだ。
パイロットの仕事は敵を倒すことだ。
俺は目の前で呆けている奴をおいて格納庫へ走った。
自分の仕事をするために――――
私はその言葉を聞いた途端目の前が真っ暗になった気がした。
確かに目はあの人を見ているが私はあの人を見ていない。
いや、あの人はいないのだ。
『残念ながら俺はお前の知っているテンカワ・アキトじゃない』
その言葉は私の中にあった『希望』を打ち砕いた。
それは私そのものに深くそして冷たく響いた。
あの人は反対方向へ走っていこうとする。
『まって!!』
その言葉を出そうと口を開いたがその先が出てこない。
まるで喉が、声が枯れてしまったみたいに……
私は座り込んだまま手を伸ばした。
だけどその手はあの人を捕まえる事は出来ない。
指の間からあの人が走っていくのが見える。
その姿が段々と歪んでゆく。
それでも私はあの人を捕まえようと一生懸命手を伸ばす。
だけど届かない。
そして私はそのまま前に倒れていった。
倒れた後に間の前が歪んだ正体が涙だとわかった。
私は……この頬を流れる涙をアキトさんに見せたかった。
私は涙を流すほど成長したんだ、と。
薄れゆく意識の中私はそんな事を思っていた。
『アキト、さん――――』
あとがき
はい、と言うわけで(どういうわけだ!)210万HIT記念です。
いや〜、最初に言っておきます。
ルリファンの方々、すいません!!!
どうしてもこの話を入れたかったので、その相手となるとルリしかいないのですよ(大汗)
一様これはダーク系として書いていますが、ちゃんとルリも救われますのでお願いですから石を投げないでくださいね(核爆)
あっ、上で出てくる女の子がルリですよ。
文章では出てないのが書き終わってから気づきました(激爆)
後これのアキトは、精神だけ逆行してその先にいる自分に移る際、相手の精神力の方が強くて移れなかった、と言う設定です。
こんなのでも読んで下さいましてありがとうです。
ではでは。
代理人の感想
おおう、凄い!
この作品、実は「逆行ものに喧嘩を売る((c)さとやしさん)」作品だったんですね(爆)!
「精神だけ逆行」の矛盾点を見事に突いています。
さてさて、この続きや如何に!