僕は絶対に認めない!


何故あれだけの力があるナデシコを、わざわざ火星へ行かせないといけないんだ!?

確かに火星の人々が生きている可能性はあるが、それでどうすると言うんだ!

どんなに力があろうとナデシコだけで火星に行くなんて自殺行為だ。

戻ってこれる可能性が低すぎる。

いや、火星に行けるかどうかもわからない。

そんなところに行かせるわけにはいかない!


――――ユリカ!絶対に君を止めてみせるよ!!








夢視ぬ星々の創世曲


SESSION 6 それぞれの考え





「結論から申しましょう。

 このナデシコのオペレーターは暫くの間、臨時にヤマダ・タロウさんにやっていただく事になりました」


「ヤマダ・タロウではない!!ダイゴウジ・ガイだ!!」


「ちょっと、ルリルリはどうなったの!?」


俺達は今ブリッジにいるところだ。

ついさっきまでユリカが連合軍の奴らとバリアの解除でもめていたが今はいない。

そんな中プロスがオペレーターの事について話始めたところだ。

もしかして意図的にあいつがいない時を狙って話していないか?

気持ちはわからん事もないが、一応あいつは艦長だろうが。

艦長を抜いて今後の説明をするなよ。


しかし……振り袖で交渉するか、普通?

そりゃあインパクトはあるだろうが、普通は馬鹿としか言えないぞ。

……ああいう奴なんだろうな。


「ルリルリがいるのに何でこんな奴がオペレーターをやるのよ!」


ハルカがプロスにくいかかる。

実際ちゃんとしたオペレーターがいるのに何で臨時にヤマダに任せるんだ?

その疑問は他の奴も感じているのだろう、二人のやり取りを見ている。


「そのルリさんが復帰できるまでの間ですよ」


「ただ眠っているだけだからそんなに時間はかからないわよ!

 それなのに暫くはやってもらおう、ってどう言うことなのよ!」


「眠っているから問題なんですよ……」


プロスが溜息を吐きながら呟いた。


「……それってどういう意味なの?」


さっきまでの勢いはなく、真剣は表情でプロスに問う。

さっきのプロスの言葉で大体の察しは付くが。


「確かにルリさんは眠っています、それは確かです。

 しかしその眠りが……専門用語だとわからない人もいるかと思いますので簡単に説明しますと、ルリさんは夢を見ているのです」


「そりゃ眠れば夢も見ますよ?」


メグミが当然のように答える。

そりゃあ当たり前だろうが。

そんな事ならプロスも説明しない。


「確かに人は夢を見ます。

 ですが眠っている時は、夢を見る時間と、夢を見ない時間があるのです。

 しかしルリさんはずっと夢を見続けている状態なのです。

 これは本来の眠りとは異なる状態なのです」


淡々と喋るプロス。

他の奴らはプロスの話についていけないようだ。


「それだと何がいけないんですか?」


「つまりはルリさんがこの現実世界にいることより夢の中、すなわち空想の世界にいることを望んでいるということなのです」


メグミの問いにプロスが答えると周りの奴らはその状況が理解できたのかざわつき始めた。


「それじゃあルリルリは一体どうなるのよ!?」


「ルリさんが現実世界に戻ろうと思わないかぎり目覚める事はないでしょうな……」


「そんな…………」


ハルカはプロスの言葉に顔を青くする。

確かハルカはルリとか言う奴の事を気にかけていたな。

それならショックも受けるだろう。

しかし……何時目覚めるかわからない、か。

嫌なことを思い出すな……

やめておこう、今はこれからのことを考えよう。


「やっていただくといってもコロニーにつくまでの間ですよ。

 そこで新たにオペレーターが乗り込む手筈になっています」


「それで、ルリルリはどうなるの?」


「それまでに目覚めて、身体に異常がなければ引き続きオペレーターを継続していただきます。

 しかし目覚めなければ、新規のオペレーターと交代で船を下りていただく事になります」


そこまで言われると言い返しようがないようで黙り込む。

確かにオペレーターが今の状態のままで火星に行くのは危険すぎるからな。

裏を返せばそれだけ火星に重要な何かがあるといった所か。


ネルガルは一体何を企んでいるのだろうな。








ユリカが軍を怒らせたから色々とやってくるだろうと予想していたが、ナデシコは対空ミサイルを受ける程度で収まっていた。

それもナデシコを覆っているディストーションフィールドの前ではただの花火だ。

そのせいで今のところ俺とカザマはエステの中で暇を持て余していた。


『暇だね、アキト』


「俺に愚痴る前に軍にでも愚痴れ」


『軍が来たら暇じゃ無くなるから愚痴れないよ』


そう言って背伸びをする。

どこから見ても暇していますといった所だな。

こうしてみると最初にカザマと出会った時とは全然雰囲気が違うな。

あの頃はいかにも真面目な軍人と言った感じが全面に出ていたな。

それが今じゃあこれだ。

人は変われば変わるもんだと説明しているみたいだ。

その原因は間違いなく俺だろうがな。


『ねぇ、アキト』


「ん、なんだ?」


『どうしたの、さっきからぼ〜っとして』


「いや、何でもないぞ」


いかん、近頃考えている時間が多いみたいだな。


「それで用件はそれだけか?」


『もうそろそろ第3防衛ラインだよ』


「そうか、わかった」


第三防衛ライン。

軍が作ったこの防衛ラインはついさっきユリカが解除して欲しいと言っていた物の一つだ。

第三防衛ラインは軍の宇宙ステーションからのデルフィニウムでの攻撃だ。

デルフィニウムとは軍が作ったロボットだ。

資料では見たことがあるがとてつもな変なロボットだったと思う。

あんなに機体を長くしたら正面以外は隙だらけにならないか?

俺は乗らないから別にどうでもいいがな。


ピッ!


『さぁアキト!お前の出番だ!!

 我らの前に立ちふさがる敵をやっつけてくるのだ!!』


……こいつがオペレーターだったのをすっかり忘れていた。


「もう少し静かに喋れ、心臓に悪すぎる」


『そんな事よりさぁ!悪の帝国の手先を倒すのだ!!』


「そんな事であってたまるか!

 っておい、相手は軍だと言うことを知っているのか?」


こいつもパイロットならまず軍人だったのだろうが。

それなのになんの躊躇も無く元同僚を倒すか?


『俺達は火星にいる人々を助けるために動いているのだ!!

 それを邪魔する奴は倒すまでだ!!』


「……ふっ、お前はつくづく馬鹿だな」


思いこみが激しいのか、それとも本当にただの馬鹿なのかわからない奴だな。

だが、その考えは嫌いではない。


「じゃあその邪魔な奴らを叩き伏せて来るかな」


『私も出ますよ』


俺とカザマはハッチを出て地球と、宇宙との狭間に飛び出した。








『テンカワ・アキト!!僕と一騎打ちで勝負だ!!』


俺達が出てからスグにデルフィニウムが来たと思ったら、その中の一つから通信が入ってきた。

なんなんだ一体?


「何故お前と勝負しないといけないんだ?

 って言うか、お前は誰だ?」


『お前には無くとも僕には……ってぼ、僕のことを知らないのか!?』


知らないから聞いているんだろうが。


「何があったのかは知らないが、変な突っかかりはよしてもらおうか」


『う、五月蠅い!
 
 いいから勝負しろ!!』


『おい、アキト勝負するんだ!!

 男と男のタイマン!

 くぅ〜〜〜〜!これぞ王道だぜ!!』


「お前は黙ってろ!」


と言ってもどっちにしろ戦わなくてはいけないんだろうなぁ。


「わかった、受けよう」


そんなぐらいならさっさと終わらせるに限る。

そして俺と……あいつ名前なんだ?……奴の一騎打ちが始まった。








『テンカワ・アキト!僕はお前が憎い!』


「勝手に憎まれてもしらん!」


『一体お前のどこが、ユリカを魅了したんだ!

 特別何も持っていないお前が!!』


こいつも人の話を聞かない奴だな。

頭に血が上っているのかも知れないがいい迷惑だ!


「そんな事は本人に聞け、俺が知るか!」


『聞いてわからなかったから聞いているんだ!!』


「それなら尚更知るか!」


いかん、このままじゃあ埒があかない。


「そんな事を聞きにここまで来たのか?」


『そんな事じゃない!

 ナデシコが火星に行くということがどんなことか知らないから止めに来たんだ!!

 たとえナデシコが最新鋭の船だろうが一隻で行くなんて自殺行為だ!!

 それにそんな所にユリカを行かせるわけにはいかない!!』


「そんな……所、だと?」


俺はこの時、自分でもわかる程冷めた声だった。


『そうとも、だから止めに来た!』


そいつは俺の様子が変わったことに気づかずに話し続ける。

俺はそいつのコックピットに無意識のうちに狙いを定めていた。


「そんな所、だと…………

 そんな所にしたのはお前達軍人だろうが!!

 お前達は自分の面子のために多くの人を殺し、見捨てた張本人だ!

 そんな奴が俺の邪魔をするな!!」


自分でも頭に血が上っているのがわかる。

それ程、俺にとってはあいつが言ったことは許せなかった!

先程でも自分の利益しか考えていない軍人がこの船を乗っ取ろうとした。

この船があれば火星の奴らを助ける事ができかも知れないのに、軍はこの船を自分達の面子の為に動かそうとする。

そんな事しか出来ない軍にとやかく言われる筋合いは無い!!


『そ、それは…………』


「これ以上、俺の邪魔をするなら、打つ」


俺が本気だと悟ったのか、そいつはそれ以上言葉を出すことが出来なかった。


『ねぇ、アオイさん。

 貴方はどうしてユリカさんを守りたいの?』


その膠着状態の中カザマが話に入ってきた。


『僕はユリカを守りたいだけじゃない!

 僕は本当は正義の味方になりたかった。

 だが、連合軍も決して正義という存在ではなかった!

 そしてナデシコを見逃せばユリカの帰る場所が無くなる!!』


『それは大丈夫だと思いますよ。

 そういった所はネルガルがどうにかしてくれると思います。

 それより……戻ってきませんか、ナデシコに』


『本気で言っているのか!』


『はい、ナデシコには副艦長がいないんですよ。

 誘うのは当たり前だと思いますけど』


二人の会話の中から奴はアオイと言う奴で、多分ナデシコの副艦長だったんだろう。

そんな奴が何で今目の前にいるんだ?

どこかで置いてきぼりでも食らったのか?


『おい!どうでもいいがミサイルが接近しているぞ!』


臨時オペレーターが初めてオペレーターらしき仕事をした。

その状況は結構鬼気迫っているみたいだが。


『くっ!しかたがない、ステーションへ戻るんだ!』


『りょ、了解!』


あちらさんは戻るみたいだな。


『ちょっと、何しようとしているんですか!?』


カザマが通信の向こうで声を上げた。

俺が確認してみると、一機のデルフィニウムがミサイルへと向かっていくのが確認できた。

何考えているんだ!


『ユリカ……僕ははじめからこうなりたかったのかもしれない。

 君を守るナイトとして死にたかったのかもしれない』


「ふざけるな!

 死にたいのなら他の所でやれ!

 俺の前で死ぬことはさせない!!」


俺はデルフィニウムに追いつくとナデシコに向かって蹴り飛ばした。


『なっ、何をするんだ、テンカワ!!』


奴が抗議するがそんな事は関係ない。


「人が死ぬ事の意味を知らないのか!

 それも自分のせいで死んだとなったら、その者がどれだけの苦しみを抱えるのか考えろ!!」


『テンカワ…………』


チッ!ここからだとナデシコに戻るのは不可能か。


「カザマ!」


『なに、アキト』


嫌に冷静に受け答えするカザマ。

俺が何をするのかわかっている風な態度だ。

……実際わかっているんだろうがな。


「その馬鹿を頼む。

 俺はミサイルを落とす!」


そうして俺はミサイルと向かい合った。

ナデシコからは何か言っているがそんなのは無視することにした。


この緊張感。


心地よい重圧。


全てが昔味わった感覚。

その全てが、今俺が戦場に立っている事を教えてくれる。

さぁ、今一度あの時の感覚を。

されど、あの時以上の強さを。


――――守りたい物を守れるだけの強さを。








あの人は絶対に成し遂げてくれる。

そう信じている。

だから私はアオイさんをナデシコに連れて行く

普通ならアキトを止めているけど出来なかった。

それは……アキトの言葉のせい。

軍を憎むあの言葉。

私も軍にいたから、あの言葉はどんな痛みより強く私の中に響き渡った。

アキトの言葉を頭の中に響かせていると、ナデシコに振動が伝わる。

今、アキトはミサイルの中にいる。

信じているけど、やはり不安になってしまう。

早く終わって欲しい。

そうしてアキトからの通信がくるのを待つ。

その時には精一杯の感謝を込めて言いたい。


『ありがとう……そして、ご苦労様、アキト――――』











 



あとがき

さぁ、230万HIT記念です。

やっと上がったよ。

えっ、何時の話だって?

……そうですね、どうもすいません(汗)

ちょっと書くのが進まなくて苦労していたんですよ。

これからは10万単位で暫くは書いていきたいと思います。

理由は……忙しいからです(爆)

特にこの時期は忙しいので余り書くことが出来ないんです。



それでは次は早い内に書きたいと思います。

 

 

代理人の感想

 

タロウ?ジロウじゃなくて?

・・・そうか、これがパラレルワールドって物なんですね(笑)