赤き星、火星。

俺はもう一度この星へ帰ってきた。

昔の俺は非力だった。

自分が護りたい物すら満足に護れないほど。

だが今は違う!

あの時よりも俺は強くなった。

もう二度とあんな事は繰り返させない!








夢視ぬ星々の創世曲


SESSION 9 火星








「今日はラピスちゃんなんだ、よかった〜〜〜」


オモイカネとお話していたら後ろから声が聞こえた。

ラピスがどうかしたの?


「あのヤマダさんだとおちおち席にすら着いて居られないもんねぇ〜」


ラピスの隣に座ったのはメグミお姉さんだった。


「だけどラピスちゃんも大変だよねぇ。

 オペレーターが二人しか居ないと遅くまでここに居ないといけないときもあるんだから」


今ナデシコの時間は夜の九時になったところ。

今から明日の七時までラピスが当番。

だからラピスはここにいる。


「わたしは別に大丈夫。

 研究所に居たときも時間の事なんて気にしなかった」


研究所だと昼夜問わずに研究をしていた。

最初は眠くて仕方なかったけどその内なれた。

夜の時期のラピスの能力低下を調べる実験もやっていたから夜も大丈夫。


「へっ?研究所?

 ラピスちゃん、そこで何をしていたの?」


メグミお姉さんが不思議そうにラピスの顔を見つめてくる。

ラピスの顔、変なの?


「なんかラピスにコードを沢山つけて大人の人がそれを見てた」


多分ラピスの事を色々調べていたと思う。

チャイルドマシンは殆ど居ないから。


「な、なんの研究所だったの?」


お姉さんの眼が大きくなった。

ちょっと怖い。


「チャイルドマシンに関する研究だった」


「こっ、こんな小さな子を研究対象にするなんて!!

 一体何考えてるの!?」


いきなり大きな声で叫んだ。

ちょっとビックリ。


「ねぇねぇラピスちゃん、変な事されなかった?

 痛い事とかもなかった?」


「そんな事はされなかった」


「そっか、良かった。

 ……よし、決めた、これから私がラピスちゃんのお姉さんになってあげる。

 ねっ、いいでしょ?」


「?メグミお姉さんはお姉さん」


「う〜ん、そう言うことじゃなくて……まぁいっか。

 これからもよろしくね」


言ってる意味がわからなかったけどその後、ラピスの頭を撫でてくれた。

ちょっとビックリしたけどなんだが暖かくなって嬉しくなった。

今度アキトにもして欲しい……

アキト、今度してくれる?








「ねぇ、一体何が原因なの?」


周りには誰もいなくて殺風景な部屋。

独特の臭いが充満するこの部屋で一人の女の子が居る。

ううん、居るんじゃなくて眠ってる。


ホシノ・ルリ


それがこの子の名前。

最初会ったときは子供らしくない雰囲気があったけど、何度か話している内にやっぱり子供なんだなぁって思ったな。


「一体何があったの、ルリルリ?」


問いかけてももちろん返事はない。

だってルリルリはずっと眠ってるから。


ナデシコが出航したあの日、ルリルリはオペレーター席に居たわ。

あの時、敵が来る少し前、突然ルリルリが苦しそうな顔をしてたの。

それを私は偶然見てしまった。

心配になってルリルリに声をかけようとしたらいきなり立ち上がったのよ。

そうして暫く辺りを見回して驚いたような表情をしたのよ。

私はそれを見てビックリしたわ。

だって今までそんな風に驚いたり、笑ったりした所を見たことがなかったから。

そしてその後、何かを呟いたかと思ったらいきなり走って出て行っちゃったの。

何が何だかわからなくて暫くその場で固まってたな、私。


だけど、それ以来ルリルリの動く姿を見ていない。

ルリルリ自身はここにいるけど自分の意志で動く姿を見ていない。

一体ルリルリに何があったの?

どうして現実世界を否定するの?


「早く、目を覚ましてほしいな……」


さらさらした瑠璃色の髪を触りながら私はルリルリを看ている。


「あなたは子供なんだから、そんなに背負い込まなくても良いのよ。

 そんな苦労をするのは大人になってからで……」


そして今日が終わる。

目覚めることが無かった一日が。

あと何日こんな日が続くのかしら…………








あいつは、アキトは俺が知っているアキトじゃなかった。

この世界に来たときは流石に驚いたぜ。

何てったってエステの調整を兼ねてのテスト飛行中だったからな。

危うくイズミのエステに体当たりを食らわす所だった。


……いや、当てて黙らした方が良かったかもしれないな。

その後、イズミの部屋で一時間駄洒落につき合わされたもんなぁ。


気が付いたらまる一日経ってたが気にしないでおこう。

それだけですんで良かった方だ。

他の奴など痙攣を起こして医務室に担ぎ込まれたって話を聞いたしな。


……真偽は知らないがな。

と言うか知りたくないぜ、全く。


そしてこの世界が過去の世界だと知った時は驚きと嬉しさがこみ上げてきた。

だってよ、あんな未来を否定できるかもしれないだぜ。

これが喜ばずにはいられるか!


で、ナデシコがこのサツキミドリにつくまでに少し時間がかかるみたいだがそれは好都合だった。

なんてったってこのコロニーは過去で蜥蜴の襲来を受けているからな。

もう一度あんなへまをするわけにはいかないからなっ。


俺は色々と考えたんだが余り良い考えが浮かばなかった。

……まっ、俺の頭じゃこんなもんか。

で、仕方ないんで最終的に誤報を流すことにしたんだが……これがまた難しかった。

誤報を流すにしてもバレてはいけないもんだから、最低一人はそこら辺に精通している奴を味方に付けなくちゃいけなかった。

まぁなんとかその辺は上手くいったな。


そうして何とか全員無事にサツキミドリから脱出する事ができたぜ。

でやっとアキトに会えたと思ったら……

あいつは俺達のアキトとは違った。

なんでだよ!俺達はあの時一緒にジャンプしたはずだ!!

ならなんで俺が戻ってきてアキトは戻ってきていないんだよ!!

他の奴、ルリに話を聞こうと思ったらあいつは今眠ったきり起きないしよ。

一体どうなってるんだよ、こんなのって……


こん、こんっ。


「ねぇ、リョーコ、大丈夫。

 もう二日も何も食べてないよ」


スバルか、もうそんなに経つのか……

ははっ、あいつらにまで迷惑をかけることになるなんてな。

だけど……暫くほっておいてくれ。

もう少しだけ…………







「なんなんだよ、この船は、ホントに戦争をしている船か?」


アキトの言い分もなんかよくわかるな。

実際にこんな光景を目の当たりにしたら、ねぇ。


「我々はっ、断固ネルガルに抗議する!!」


ウリバタケさんの大きな声がブリッジに響く。

このご時世にあの形のメガホンみたいなマイクは貴重品じゃないかなぁ。


「急に何を言い出すんですか?」


「これを見てみろ!艦長!!」


手に持っていた紙をユリカさんの目の前に突きつける。

一体何の紙なのかな?


「なに?……えっ、え〜〜!!

 男女交際は手を繋ぐまで〜〜〜!!」


「そうだ。

 お手て繋いで♪……ってここはナデシコ保育園か!?」


なんかウリバタケさんの手が変な動きをしてるけど気のせい?

何かを掴もうとして無かったような感じかな。

さり気なく想香さんの方に視線が向いてるし。


「それはこの船が男女交際を目的として造られていないからだ。

 それにこの船は戦艦だ、館内でその様なことをしてもらっては士気に影響がでるかもしれん」


それに対するはゴートさん。

……なんでゴートさんなの?

こう言うことはプロスさんの方が適切なんじゃないの。


「他の奴だってそう思っているんだ!!

 なっ、そうだろイツキちゃん!!」


なっ、なんでここで私に話を振るんですか!

私にどんな返答を期待するんです!!


「ま、まぁ人並みの交際ぐらいは……。

 あっ、そうだ!想香さんはどう思いますか!」


言葉に詰まって私は想香さんに話を振った。

想香さんごめんなさい!


「う〜ん、私ってまだ契約書もらってないのよねぇ。

 だからどうこう言えた立場じゃないのよ」


「ミスターからもらってないのか?」


「この前もらいに行ったらあんな状態になっているのを見つけたのよ。

 だからまだなの」


あんな状態?

一体プロスさんに何があったの?


「ねぇ、アキトはどう思う?」


想香さんがアキトに話を振る。


「その話以前に俺はネルガルの社員ではないからその規定には当てはまらない」


「あっ、そっか」


そう言えばアキトはネルガルの社員では無かったっけ。

と言うかこの船にいたらここが仕事場だと意識しにくいんだけどね。


「とっ、とにかく俺達はこの契約書に書いてあることに断固反対する!!」


ウリバタケさんは味方になる人がいないとわかったのか話を元に戻した。

……だけどそんなに大切なことなのかしら?


「そうです反対しま〜すっ!!」


ユ、ユリカさんまで……ユリカさんは艦長でしょうが。


「そんな事言われても俺にはどうしようもない。

 そう言ったことは全てミスターの方に任せている、ミスターに抗議をしてくれ」


なんだか埒があかないと思うのは私だけかしら。

大体契約しちゃったら取り消すこともできないと思うんだけど……


「アキトぉ…………」


「ん?なんだ」


何時の間にかラピスちゃんがアキトの側に来ていた。

ラピスちゃんって本当にアキトが好きなんだ。


「あのお姉さん、怖い……」


そう言って指差したのは艦長のユリカさんだった。

……ってなんでユリカさんが怖いの?

別に顔は怖い方でもないし性格も…………ま、まぁラピスちゃんと合いそうな性格だと思ったけど……

どこが合うかは言わないけど。


「なんでだ?」


「声、大きいから……耳が痛い……」


「ふっ、ははははっ!ラ、ラピスちゃん、それ面白いよ!」


私が?を頭に浮かべていると想香さんがいきなり笑い始めた。

一体何がどうなってるの?

確かに声は大きかったと思うけど耳が痛くなるほどの大きさじゃ無かったと思うけど。

そんなこんなでブリッジは喧騒に包まれていたんだけどそれを破る音が船全体に響いた。


ビィーーー! ビィーーー!


「なっ、なんですか!?」


『敵の機影を確認、後10秒で交戦圏内に入ります』


私の疑問に答えてくれたのはオモイカネだった。

その後ナデシコと敵との現在状況の図を出してくれた。


「み、皆さん、取りあえずは契約書のことは後にしちゃって下さい!

 折角火星まで来たのに降りられないなんて嫌です!!」


ユリカさんのその一言でみんなはそれぞれ動き始めた。

私とアキトは即座にブリッジを出て格納庫へ走り出した。

これから初めての宇宙での戦闘が始まる。

ううん、このナデシコでの二度目の戦闘。

私達にとって負けられない戦争が今始まる。

負けはそのまま死に繋がるから――――








目の前に現れる雑魚を俺は倒していった。

他の奴らがまだ来ていないせいで俺は船の周りにいなければいけない。

鬱陶しいことこの上ないな。


『アキト、無理はしないでね』


相変わらずカザマは心配性だな。


「保証はできんがな」


今こうしていても俺は敵に突っ込みたい衝動に駆られる。

それは何故なのかは俺にもわからない。

ただ敵が憎いだけなのかもしれないがな。


『ゴメンね、お待ちどう様』


『ふふふっ、星が私を呼んでいる』


やっと来たか、何をやっていたんだか。


『…………………………』


最後の一人はどこか覇気がないようだな。


『ふはははは〜〜〜〜〜!!

 このダイゴウジ・ガイ様の初陣にはもってこいの舞台だな!!』


なんでこいつがエステに!……ってこいつはパイロットだったな。

オペレーターしかやっている所を見ていなかったからな。


「これだけ来たならこの辺は大丈夫だな。

 なら俺は前へい…………く…………」


俺は見てしまった。

それは無意識に目をそらしていたためかどうかは知らないが、今初めて俺は目にした。

火星。

俺が住んでいた星。

そして悲劇が起きた場所。


『?アキト、どうしたの』
 

そうか、そうだったんだな……



《お前は優しすぎるんだよ!!》



『テンカワ君?』


俺は、さっきから……



《もっと気楽に行こうよ、生まれてきたからにはね》



『お、おいどうしたんだ、アキト?』


焦がれたんだ、火星に……



《それで……アキトはいいの?

 後悔しちゃ嫌だよ…………》



あいつらに…………会いたいと。


「おおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!」


俺の、邪魔を、するな…………








その光景は凄かった。

あれが本当にアキトなのかわからない位に。


「アキト!!どうしちゃったのアキト!!?」


私の通信にもアキトは答えてはくれなかった。

ただアキトは敵の中心に向かって飛んでいく。

ダメ!!アキトやめて!!


「ラピスちゃん、アキトと通信繋がらない!?」


『駄目だ!あの状況で通信なんかを繋いだら危険だ!!』


いきなりウリバタケさんがブリッジに通信を入れてきた。


「どうしてですか!?」


『あんなスピードを出している状態で通信なんか入れて見ろ!

 そっちに気を取られて敵の攻撃を避けられるかわからん!!

 それ以前にあいつの身体が持つのかがわからん!!

 なにを考えてるんだ、テンカワは!!?』


「どっどういう事なんですか!?」


アキトの身体が持たない?

一体……


『あいつはエステのリミッターを外しやがったんだ!

 そんな事すれば重力制御システムが追いつかないんだよ!

 まともにGなんかを受けている状態だ、何時気絶してもおかしくなはいんだ!!』


「そ、そんな……どうにかならないんですか!?」


『どうにかなるもんか!!』


アキト、何があったの?

一体アキトは……








その光景はとても信じられない事だった。

アキトは私達のエステと同じエステに乗っているはずなのにとても信じられなかった。

猛スピードで旗艦へと向かっていった。

リミッターを外したエステの速度はバッタ達も追いつけないほどだったが、旗艦の周りに居る巡洋艦・駆逐艦・護衛艦などからの攻撃に身をさらすことになってしまった。

だけどアキトはその全てをかわした。

その全てが紙一重の、それこそ不可能じゃないのかと思えるのまでかわした。

そうしてアキトの黒の機体は滑るようにして駆逐艦の前までたどり着き、そこでナイフを取り出しそのスピードのまま突っ込む!


「アキト!そのままだとフィールドに阻まれるよ!」


アキトは私の声にも関わらずそのままフィールドにぶつかった!

だけどそう見えたのは一瞬で、直ぐにフィールドを突き破り駆逐艦に大きな爪痕を走らせた!


『あっ、あの馬鹿!エステのフィールドを前面に集中させやがったな!!

 何考えてやがるんだ!!』


その後駆逐艦は火を噴きながら爆発した。

駆逐艦の爆発は思ったより大きく、周りの駆逐艦・巡洋艦を巻き込んでいった。


「今の攻撃で敵の4割撃破、残るは旗艦と護衛艦がほとんど」


的確に状況を教えてくれるラピスちゃんの言葉だけが響いた。

誰もがその光景に目を奪われていた。

アキト……一体どうしたの?

なにがアキトをそこまで駆り立てるの?


「ら、ラピスちゃん!グラビティブラストを旗艦に向けて!

 グラビティブラスト発射〜〜〜!!」


グラビティブラストで敵の戦艦を全て沈めたので、私達は残りのバッタを倒してナデシコへと帰りました。

だけど、私達は勝利ムードではありませんでした。

その原因はアキトであることには間違いありません。

多分ナデシコに戻ったらアキトは色々な視線で見られると思う。

その視線に好意がある者がどれだけいるのか……


アキト、なにがアキトをそこまで駆り立てるの?













あとがき

え〜っと、260万HITおめでとう御座います。

先に言っておきますがこの話、風邪をひいた中で書いたので何を書きたかったのか自分でもよくわかりません(激爆)

まぁこんな事もあるんだと思ってください。


あとラピスですけどこんなもんで良いかな?

結構幼いと思うけど……ま、いっか。

この方がインパクトあると思うし(ホントか?)

 

 

代理人の感想

・・・・確かに精神年齢十二歳(前後)にしては幼いかも(笑)。

ただ、情緒自体が発展途上である可能性はかなり高いので

これはこれであり・・・というか、こっちの方が自然かもしれません。