夢視ぬ星々の創世曲


SESSION 11 人の過去









どうしてだよ!どうしてあのラピスとかいう子はアキトと一緒に居られんだよ!!

あの子も俺達と同じ『戻ってきた』一人のはずなのに!

あのアキトは俺達が『知っている』アキトじゃないっていうのにどうして!


「くそっ!

 なんで俺達だけ戻ってきたんだよっ!!」


怒りにまかせて壁を殴る。

それでも俺の中に残っている苛立ちを蹴散らすことは出来ない。

残るのは壁を殴った痛さだけだ。

考えろ、何かあるはずだ。

俺達が戻って来れてアキトが戻れなかった訳が!


「……そうだ!ジャンプするときイネスもナデシコに乗っていたな、イネスに聞けば何かわかるかもしれない!」


あいつはボソンジャンプについては第一人者だから何か知っているかもしれない。

そうと決まればこんな所でうじうじしてる場合じゃない、どうにかして連絡を取らないと!

俺は部屋を飛び出した。

もちろん向かう先はブリッジだ。

この時間なら上手くいけばアキトがユートピアコロニーに行きたいと言う頃だ。

それに便乗すれば早めにイネスに会えるはず!



「もう出ていった!?」


「ええ、全く困ったものですよ……」


くそっ、一歩遅かったか!

ならアキトが帰ってくるまで待ってるしかないのかっ。


「私アキトの所に行きたいなぁ」


「艦長何をいってるんですか、そんな事出来ませんよ」


艦長の言葉に即座に返えすプロス。

なにかあったのか?


「え〜〜〜。

 ……あっ、そうだ!ナデシコで行けば問題ないよね、私が動けなければナデシコが動けばいいんだ。

 じゃ、そう言うことでシュッパ〜〜ツ!!」


ってちょっと待て!

このままだと前と同じになっちまう!

もうあんなのはゴメンだ!!


「おい艦長、そんな自分勝手に船を動かしちゃ不味いだろ」


「そうですよ!

 そんな事されてもらったら困ります、ナデシコはこのままオリンポス山のネルガル施設に向かってもらいます」


前もそこへ行くと言っていたが結局行かなかったな、一体何があったんだ?


「わが社の施設は一種のシェルターとしての構造でして、一番生存者が居る可能性が高そうなのですよ」


つまりそこにはネルガルにとって大切な物があると言うことか、火星に来なくてはならないほどの。

……ん?ちょっと待て、さっきの話し方だと物じゃなくて人みたいな言い方をしていたな。

ネルガルにとって大切な人物…………そうかっ、イネスか!

イネスは相転移エンジンの第一人者であり、確かこのナデシコの設計者の一人だ。

ネルガルが火星にまで来る理由がそれかっ!


「ふぇ〜〜〜っ、どおして駄目なの?

 ユリカは艦長なんだよ!?」


「会社の物を私用で扱うのは立派な規定違反だ」


まだ諦めていないのかあの艦長は。

前回は何とか出来たが今回は無理そうだな。

それに……あのメグミがアキトにくっついていかなかったのは驚いたな。

やっぱりこの世界は俺達の知っている世界とは違うのか?


「ハルカから通信、どうする?」


たしか……ラピスだったか?から通信の合図を受け、艦長がいつもの調子で答える。


「スクリーンに出しちゃって」


ピッ!


『誰でもいいからちょっと来て!

 ルリルリが目覚めたの!!』


なんだって!?


「それは本当ですか!?」


『ええ!だからお願いね』


ルリが目覚めた、これでルリが俺と同じく『戻って』きたのかわかるっ!


「私はちょっとルリさんの様子を見てきますのでゴートさん、しっかり艦長を見張っておいてくださいね。

 くれぐれも進路変更をさせないでください!」


「わかった」


「ユリカそんなに信用無いのかなぁ〜〜〜、しくしく」


なんか隅っこの方でいじけている艦長なんか無視。

その内アオイが慰めるだろうからな。

俺も早く行かないと!


「プロスさん、俺も行ってもいいか?

 気になるんでな」


「ええ、構いませんよ」


俺とプロスはそろってブリッジを出て、医務室へと向かった。

そこに俺の『知っている人』を捜しに。








「ルリルリ、大丈夫?はい、お水」


ミナトさんに起こしてもらい、水を持ってきてもらいました。

喉が嗄れたみたいに声が出なかったので何とか『水』と伝えるだけでも大変でした。


「…………はぁ、ありがとう御座います」


「ううん、こんな事ぐらいおやすい御用よ」


やっと違和感が、と言ってもまだ身体のあっちこっちが動かし難いけど何とか落ち着きました。

身体がこんなになっているのならかなりの時間眠っていたのでしょうか?


「あの……ミナトさん、私ってどれぐらい眠っていたんですか?」


「う〜ん、そうねぇ……一月とちょっとかな、そう考えるとかなり眠ってたわねぇ。

 ルリルリったらお寝坊さんなんだから」


私の額を人差し指で突っつきながら嬉しそうに話すミナトさんを見ていると悪いことをしたように思えてきます。


「……ごめんなさい」


「いいのよ、こうしてルリちゃんが起きてくれたんだから」


そう言って話すミナトさんを見ているとなんだか変な感じがします。

暖かい、安らぐ、そんな感じ……

これは一体?


「ルリさんが目覚めたそうですね、いやはや良かったですな」


扉が開いて入ってきたのはプロスさんでした。

もう一人見たことのない人が後ろに居ますけど誰でしょう?


「それでルリさん、身体の方は大丈夫ですか?

 一ヶ月近く眠っていたので身体の至る所が動かし難いとは思いますが」


「はい、大丈夫です、まだ一人では動けませんが問題ないです」


プロスさんはその言葉を聞いて安心したみたいです。

確かにオペレーターが居なかったらこのナデシコは動きませんから。

……そう言えばナデシコって今何処にいるのでしょうか?


「すいませんが、今ナデシコは何処にいるんですか?」


「えっとね、今丁度火星の大気圏を抜けて火星に着いたところ、だったかしら?」


「はい、そうです」


どういう事でしょう?

オペレーターである私が居なかったのに火星まで来れるとは思いませんし……


「あの、オペレーターはどうしたんですか?」


「それはラピスが乗り込んだから解決したぜ」


私の問いに答えたのはプロスさんの後ろにいた女の方でした。

一体誰なんでしょう?


「ラピス……誰なんですか?」


「!!?ラピスを知らないのか!?」


いきなり食ってかかるようにして私の前に出て来ました。

私がラピスと言う方を知ってないのがそんなに驚くことなのでしょうか?


「なぁ、お前は『ホシノ・ルリ』だよな……?」


「はい、そうですが」


この人は何でこんなに切羽詰まっているのでしょう?

それに、私がホシノ・ルリだと知っていて声をかけたんじゃないんですか?


「そんな……なんでだよ…………」


「スバルさん?」


スバルさんと呼ばれた人は夢遊病患者みたいにふらふらとした足取りで部屋を出ていきました。

一体何だったんですか?

もしかして…………


「と、取りあえずルリさんはもう暫く安静にしていてください、船のことは気にしないでいいですから」


「ですが……」


「そうよ、ルリルリは暫く安静にしてないといけないんだからそんな事気にしないでいいの」


結局、お二人の言われたとおりベットで安静にしている事にしました。

再びベットで横になった途端、睡魔が襲ってきました。

一ヶ月も眠っていたというのに、不思議と身体はまた睡眠を必要としているみたいです。

消えそうになる意識の中、私はスバルと呼ばれた人のことを考えていました。


『もしかして……もう一人の私の事を言っていたんじゃ…………』








「ねぇ、今まで何をしてたの?」


翠を落ち着かせ暫くしてから小さな声で訪ねてきた。

流石に俺を見た途端、抱きついて泣かれるのは予想外だったな。


「……あの時、コロニーにチューリップが落ちてきた後の事は憶えていないんだ、気が付いたら地球にいた」


そう、あの時何が起こったのか俺にもわからない。

チューリップが落ちてきたところまでは憶えている。

だが、そこから地球までの間の記憶がない。

俺はどうやって地球まで行ったんだ?


「チューリップ?」


「……ああ、知らないのも当然か、チューリップって言うのはコロニーに落ちてきた物を言うんだ」


「そうなんだ」


他愛のない会話。

時間や周りの景色は違うが、この場所でもう一度こうして話ができるなんて思わなかった。


「なぁ…………サクラやヴェルは……」


「……機体の残骸だけなら…………」


「そうか…………」


辛そうに顔を伏せる。

そうか、あいつらは助からなかったのか。

翠が助かったのならあいつらも助かっているかもと思ったんだが……


「うん…………」


「そう気を落とすな、翠のせいじゃないんだからな」


そう、実際は誰のせいでも無いのかもしれない。

フクベもあの事に付いては自分で嘆き、後悔していた。

全ては起こるべくして起きたことなのかもしれない。

だが……俺はそんな考えが出来るほど大人じゃない。

理不尽な怒りだとわかっていても、誰かにその矛先を向けなければやっていけない。

そうして、今まで生きてきたのだから…………


「そう言えば翠はここにずっと隠れていたのか?

 他の人はどうなってるんだ?」


「ボクがここに居るのは……ここが思い出の場所だから。

 時々こうしてここに来るんだ。

 みんなはここからもうちょっと離れた地下シェルターの中に居るよ」


やっぱり火星の人達は生きていたんだな、良かった。


「その場所まで案内してくれるか?」


「もちろん!」





「へぇ〜、これがエステバリスなんだぁ。

 フォボスより小型化されてるね」


今俺と翠はエステのコックピットの中に二人で入っている。

少し狭いが何とかなるだろう。

エステの手の上でも良いと翠は言ったが、そんな事をさせるはずもなくこうなった訳だ。


「まぁな、だがフォボスと同じIFSを使っての操縦だから難しくはないぞ。

 もちろんこっちの方が伝達率とかは上だがな」


そんなたわいもない会話をしながら俺達は地下シェルターを目指した。

そうして数分で目的地に着いた。


「ここがそうよ」


「ここがって何もないじゃないか」


そう、見渡す限りの平地が俺の目の前に広がっているだけだ。

それらしい入り口が見当たらない。


「ふふふっ、ここよ、ここ」


翠がそう言って指差しているのは地面だ。

……そう言うことか。


「わかった?」


「ああ、流石に地下シェルターって言うだけの事はあるな」


俺は地面にある、注意しなければ見えないほどの、取っ手をひっぱった。

そこから現れたのは地下へと続く階段。


「ようこそ、ユートピアコロニー地下シェルターへ」








「さて、そろそろお話願いますかな」


「何をですか?」


今ここ、ブリッジにはこの船の主要クルーがほとんど集められている。

例外はさっき目覚めたホシノ・ルリちゃんとハルカ・ミナトさん、それにラピスちゃん位かしら。


「惚けても無駄です。

 貴女……想香さんとテンカワさんとの関係です。

 特にテンカワさんには謎が多すぎます」


あら、ストレートに聞いてきたわねぇ。

向こうは余裕が無くなってきたのかしら?


「や〜ねぇ、男と女の関係を聞くのは野暮ってものよ」


「ぷぅ〜〜、アキトは私の王子様ですっ!!」


あ、そう言えばこの人が居たわね、マズったかしら?


「艦長は黙ってて下さいっ!!」


「ふ、ふぁい…………」


「ミスター、そう興奮するな、
鎮静剤の残りがそろそろヤバイらしいからな。

 ついでに
精神安定剤もだ」


な、なにげに凄いこと言ってるわね、ゴートさん。


「さぁ、正直に吐いてください、今すぐ、即座に、さっさと!!」


「ちょ、ちょっと落ち着きなさいって。

 大体私とアキトの関係ったって只の知り合い程度よ。

 それとアキトの事なら貴方達が調べたからわかっているのでしょう?」


そんなに捲し立てないでよね、それも血走った目で。

ある種のホラー映画に出てきそうだったわ……


「確かに、我がネルガルにサヤバ社から送られてきた書類にアキトさんに関する情報もありました。

 しかし、貴女とのあの立ち振る舞い、エステにおいて並ならぬ操縦テクニック、それらは書いてありませんでした。

 一体何を隠しているのですか?」


「や〜ねぇ、盗み見は良くないわね、
ストーカーとして訴えようかしら?」


「話をずらさないでくださいっ!!」


「ミスター、押さえろっ!」


う〜〜、なんかキャラ変わってない?

こんなキャラだったかしら。

まっ、ゴートさんがかわいそうだからちゃんとしましょうか。


「はいはい、ちゃんと話しますよ。

 それにそろそろアキトに向く疑惑の目を消してあげたいしね。

 だけど必要最低限よ、人の過去を第三者に話すって言うのは余り好ましいとは思ってないから」


周りを見渡すと目をそらす人がほとんどだった。


「おお〜〜〜!男のクールな外見の裏に隠された悲劇の真実っ!!

 くぅ〜〜〜〜、燃える展開だぜっ!!」


……約一名この場のノリとあわないのが居たけど無視しましょう。

ああ言うのにつき合うと話が進まない。


「そうねぇ、格闘技全般は私が教えたかな。

 と言っても私が出会った頃はそれなりに出来ていたけどね」


「じゃあ、アキト君は昔から何か訓練でも受けてたの?」


「あの動き、ただ者じゃ無い……タダ物じゃない…………」


…………何?何が言いたかったの?


「ねぇ、今あの子…………」


「…………ハッ!もしかしてまたっ!?」


アマノさん?

またって前にもこんなのがあったの?


「皆さん静かにして下さいっ!

 話が続けられませんっ!!」


う〜ん、やっぱりプロスさんってキャラ変わってるわ、ホント。


「おい、至急鎮静剤と精神安定剤を持ってきてくれ……なに、残りが数回分しかない?

 うむ…………ならそれとクロロホルムを頼む、そうすれば一回分は節約できるだろう」



ゴートさん、そう言うことは部屋の隅で話してください(汗)

私の隣でそんな事を喋られると嫌でも聞こえるんですけど…………


「そう、そこが私の話したいことなの。

 ……『フォボス・ダイモスプロシェクト』って知ってる?」


「えっと、フォボスとダイモスは何処かで聞いたような…………」


「聞いたことがあるのは当然よメグミちゃん。

 フォボスとダイモスの二つは本来、火星の衛星の名前だからね。

 その二つの名を付けられたプロジェクトにアキトは関わっていたのよ」


「そうですか、ようやくわかりましたよ。

 何故テンカワさんがあんな動きや操縦が出来たのかが」


やっぱりプロスさん位になると知ってたか。


「そのプロジェクトって何なんだ?」


「それはね……機動兵器の開発プロジェクトの事よスバルさん。

 アキトはその内の一つ、フォボスのテストパイロットだったのよ」


周りの人達は納得いった表情をしている。


「私が話せるのはここまでよ、後はアキト本人に聞いてね」


「ふふふふっ、あのフォボスのテストパイロットならかなりの腕の持ち主のはず。

 この気にネルガルにスカウトできれば願ったり叶ったりですよ、
ふふふっ


うわっ、なんかプロスさんが壊れてる。

ま、不味かったかしら、喋ったの……


「艦長!今すぐアキトさんを戻してください!!

 これから大切な話し…………モガっ!?」


あっ。


「すまんミスター、こうするほか無いのだ!

 ミスター
一人で医務室の鎮静剤精神安定剤全て使われるのは困るんだ!」


「モガッ、モガッ!!……モ…………」


な、なんだかなぁ……

この船、こんなんで良いわけ?

絶対に何処かが違う…………









あとがき


ごめんなさい!

280万HITなんて遙か昔なのに今更の投稿です。


しかし……あとがきって何を書けば良いんだ?

このあとがきに結構時間がかかっているのはここだけの秘密です(核爆)

 

代理人の感想

呼んでる〜♪

呼んでる〜♪

ダイモス ダイモス 闘将ダイモス〜♪

みんながお前を呼んでる〜♪

 

・・・・はっ、つい!

 

何せ某所の長谷川裕一氏の連載ではダイモスと対を成す

「烈将フォボス」なんて機体も出て来てる事ですし(爆)。