夢視ぬ星々の創世
SESSION 12 火星の待ち人
うむ……さて、どうしたものか?
このままでは不味いな。
「どうしたんですか、ゴートさん?」
俺に声を掛けてきたのはメグミ君だった。
「いや、ミスターがあんな事になってしまったのでな、これからどうするか考えている最中だ」
ミスターもこんな時に暴走しなくても良いだろう。
…………まさか、俺に対する嫌がらせか?
もしかして面白いので傍観していたからか?
「これからって?」
「進路の方は決まっているから問題ないが、この艦での雑務は一手にミスターが引き受けていたのだ。
そして、俺しかその内容を知っている者がいない。
つまりそう言うことだ」
俺はそんな事に向いているとはおもわん。
身体からして肉体労働の方が性に合っている。
書類整理などやったら30分も保たんぞ。
「そうなんですか……。
だけどプロスさんって何であんな事になったんでしょう?」
「ああ、それは多分ストレスからだろうな、メグミ君。
テンカワと言う予想外の搭乗、ルリ君の眠り、それに伴う新しいオペレーターの確保、上げていけばきりがない」
ミスターは部屋に居るときは何時も書類と格闘していたからな。
…………中間管理職の辛い現実だな。
「なに!?そんな弱気なことで憎っくきキョアック星人の侵略を防ぐことなどできないぞっ!!」
「その諸悪の根元が何を言っている、ヤマダ」
お前が今座っているオペレーター用のコンソール、それは特注品で高いのだぞ。
それを壊したおかげでミスターは資金のやりくりに困っていたのだ。
それにその……巨悪か何だか知らないが敵は木星蜥蜴だ、そんな名前ではない。
「違う!!俺は悪ではないしヤマダではないっ!!
俺は正義と友情を重んじる正義の使者、ダイゴウジ・ガイだっ!!」
ドンッ!!
バキッ!!
「…………たった今俺はお前を悪から疫病神と改めよう。
名前もヤマダのままで十分だ……」
俺の右ストレートを左頬に受け自分の世界へと旅立つヤマダ。
今のは上手く決まったな、ざっと5mは飛んだか?
手足をピクピクと動かしているが問題ないだろう。
それよりもウリバタケに頼んで修理か取り替えてもらわないとな。
全く、予備として数個取り寄せておいて正解だったなミスター。
だから早く復帰してくれ、このままでは俺もミスターの二の舞になってしまう…………
「こんなに……人が居たのか……」
目の前に広がる光景に目を奪われる。
そこは広い空間に所狭しと座っている人、人、人。
ざっと見ただけでも100人以上の人が存在しているのがわかる。
「そう、これだけの人が逃げ延びていたんだよ!
ボクもここに居る人達に助けてもらったんだ」
まるで自分の事のように話す翠。
その姿は昔と変わらず、今の俺にとっては眩しかった。
「……何だか騒がしいと思ったら貴女だったのね、翠」
俺の前に出た翠の後ろから金色の髪の女が話しかけてきた。
「あまり大きな声を出すのは感心しないわよ」
「あっ、ごめんなさい……」
見た感じ生真面目そうな人だ。
翠も苦手そうにしているな。
「さて…………ようこそ地下シェルターへ、テンカワ・アキト君」
「……何で俺の名を知っている」
俺の中に緊張が走る。
確かにここは火星だ、俺を知っている奴が居ても不思議ではない。
だが、俺はこいつを知らない。
「何でって、私が貴方の事を忘れるはずが無いじゃない。
貴方こそ私を忘れたとでも言うの?」
忘れた云々以前に知らないんだよ。
まさか…………
「お前は……未来から来た者か?」
「何を言ってるのよ、そうに決まっているでしょう。
貴方だってそうなんだから」
さも当然のように答える。
やっぱりそうか。
「お前が誰であろうと俺の知ったことではないがな、俺は俺だ。
お前が思っている奴じゃない」
一体何人こんな奴がいるんだ?
大体どうやって未来から来たって言うんだ?
そこからして胡散臭いしな。
「…………どういう事かしら」
「さっき言った通りの意味だよ。
俺はお前等が知っているテンカワ・アキトじゃない」
俺は女の目を見ながらキッパリと答えた。
「ね、ねぇアキト、一体何の話をしているの?
それに……イネスさんと知り合いなの?」
俺達の話を聞いていた翠は訝しげに話に加わってきた。
「いや、知らない」
「そ、そうだったの?
何だか訳わからない事を喋っていたから知り合いだと思ったよ」
納得した表情でウンウン、と頷く。
まぁ、そう思うのが当然だろう。
俺だって事情も知らないでさっきの話を聞いていたら、頭おかしいんじゃないか?と思うからな。
「とりあえず、ここの責任者に会いたいんだが……わかるか?」
「それぐらいボクにだってわかるよっ!」
頬を膨らませて怒る。
子供みたいな怒り方だが、翠はいつもこうやって怒っていた。
その姿が一年前と何ら変わってないことに嬉しく思うと共に、帰ってきたんだと実感させられる。
「全く、何時もアキトはそうやってボクで遊ぶんだから……ってアキト、どうしたの?」
「……ん、なにがだ?」
「急に黙っちゃったからどうしたんだろうと思って……」
心配そうに俺の顔を覗き込む翠。
「何でもない。
それよりここの責任者に会いたいんだが……」
こういった事はさっさと話題を変えるに限る。
俺はキョロキョロと周りを見渡してみる。
「ああ、そうだったね。
えっとね、ちょっと言いにくいんだけど……」
「ん?」
「目の前にいるイネスさんが……ここの責任者なの」
俺は目の前に居る金髪の女を見る。
とうの本人は何やらブツブツと呪文みたいに何かを唱えるかのように口を動かしている。
イヤな光景だな、声が聞こえないのがせめてもの救いだが。
「そ、そうか…………
おい、そこの、イネスだったか、に話があるんだが」
俺が話しかけると何とか意識を取り戻した。
「あっ、何かしらアキト君」
「俺達は彼方達、火星に取り残された人達を救出しに来た者だ。
それで責任者の方に来てほしいのだが」
イネスは暫く考える素振りを見せ……
「そうね、私も色々と用事があるから行くことにするわ」
と答えた。
これで火星に来た目的の内の一つは果たしたという訳か。
ネルガルが何を考えてこんな所まで戦艦を飛ばしたのかはわからないが、公ににしている目的は果たしたというわけだ。
「ねぇ、ラピスちゃんはアキトの何処が好きなの?」
廊下で想香お姉さんがそんなことをラピスに聞いてきた。
「アキトだから好き」
「いや、そう言うんじゃなくてねぇ……」
何でガックリって首を落とすの?
下に何か落ちてたの?
「う〜ん、どう言ったらいいんだろう。
……どうしてアキトと一緒に居たいの?」
「アキトは家族だから」
「家族?」
「うん」
前アキトが言ってくれた。
『お前が一人なら俺は、お前から一人であることを無くそう』
『こう言うのを家族って言うんだよ』
「ラピスにとってアキトは家族。
ラピスから『一人』を無くしてくれる家族。
だからラピスはアキトと一緒にいる」
「そっか……ラピスちゃんはアキトと出会えて良かったね」
想香お姉さんは笑ってくれた。
なんだかその笑いはアキトに似てた。
アキトがラピスに笑ってくれた時と……
「うん!」
だからラピスもお姉さんに笑った。
笑顔に笑顔で返す。
そうアキトに教えてもらったから。
「そろそろアキトが帰ってくる頃よ、格納庫へ迎えに行きましょう」
さっきアキトから連絡が入って、帰ってきてくれるって言った。
想香お姉さんはラピスの手を引いて迎えに行こうって言ってくれる。
だけど…………
「…………いや」
「ラピスちゃん?」
「いやッ!!行きたくないッ!!」
お姉ちゃんの手を振り払って行こうとした方と反対方向へ走る!
だって……怖いから……
あっちには怖いモノがあるから……
だから……行きたくないッ!
行きたくないよぉッ!!
「一体どうしたって言うのよ……」
いきなりラピスちゃんが私の手を振り払って走っていってしまった。
何故ラピスちゃんは行きたくないって言ったのかしら?
アキトはラピスちゃんにとって特別な存在のはず。
そのラピスちゃんが会いたくないなんて……
「どうしたんですか、こんな所で?」
考えに没頭していたらしく、近づく存在に気がつかなかみたいね。
目の前にイツキちゃんが来ているというのに全然気が付かなかった位だもの。
「ううん、何でもないわよ」
「そうですか……そう言えばさっきラピスちゃんとすれ違いましたけど、何かあったんですか?
様子が少しおかしかったようでしたけど」
「それこそ何でもないわよ。
ちょっとした情緒不安定なだけだと思うから」
私はラピスちゃんの様子をそう考えた。
いや、そうとしか考えられなかった。
今はまだ考えるにはピースが足りなすぎる。
そう、すべてにおいて…………
「それよりも……言ったの、アキトのに?」
私はこの船に乗ってからずっと聞こうとしていたことを聞いた。
「……いえ、まだ…………」
「何で言わないの、火星に来たんだからいい機会でしょう?」
「確かにそうですけど……話したらアキトはきっと余計に苦しむに決まってます。
だから……」
全く、この子も優しすぎるんだから。
「確かにそうかもしれない。
だけどね、言わないといけない事は絶対にあるのよ。
たとえそれで傷ついたとしても」
言わなくちゃ誰もわからないから。
言葉にしなくては伝わらないから。
「貴女はテンカワ・アキトの事をどう思っているの?
異性として見ているの?
それともただの親友?」
そこまでアキトに言えとは言わないわ。
だけど、どちらかに決めないといけない時が必ず訪れる。
それはずっと先かもしれない、もしかしたら明日かもしれない。
だから、それだけは早く決めるべきよ。
「…………わからないんです。
私はアキトのことを好きなのかもしれません、ずっと一緒に居たいと思います。
だけど……その思いが、『成り行き』の物かもしれないって考えてしまうんです。
私はアキトを、好きで居ようとしてるだけなのかもしれないって……」
自分の内を語りながら何時しかその頬には涙が流れていた。
「……わからな…いん、です。
自分の、こと、が……ア、キトのことが…………」
イツキちゃんはその場で座り込み、泣き出した。
そっか……イツキちゃんは『振り切れ』てなかったんだ。
イツキちゃんは一途な所があるから、そのせいでアキトの事をずっと悩んでいたんだ。
そんなにも、つらい思いをしていたんだ……
「……ごめんね、きついこと言ちゃって」
私はイツキちゃんをあやすようにしてその頭を抱いた。
「……もし、貴女がアキトの事を好きなら言いなさい。
そして返しなさい『遅れてごめんなさい』と言って……」
もうじきアキトが戻ってくる。
そんなところに目の赤いイツキちゃんなんて連れて行けないわね。
だけど…………
「……は、い…………」
そうギュッと抱きつくのはよしてくれないかなぁ。
ここ通路なんだから、誰が通るかわからないのよ?
これで変な誤解が艦内に噂になった日にゃ私、外歩けないわよ。
だから……お願いだから抱きつくのはヤメテ……お願い。
…………あっ、最初にやったのって私だったっけ。
あとがき
え〜っと、290万HITですねぇ。
何だがカウンタが回るの早くなってるな。
ちょっと前は約2週間で10万だったのに今では約10日だもんなぁ(しみじみ)
この調子で行ったらドンドンと早くなって…………考えるのよそう、マヂで。
それにしてもこの話、伏線のオンパレードだな。
ちゃんと収拾がつくのだろうか……(汗)
「悪魔代理人の辞典」・特別編
「伏線」(ふくせん) (名詞)
「物語の中で後に出てくる人物、設定、展開などを読者に批判された場合に備え、
語り手が言いわけとして、また読者の主張を論破する為に混ぜこむヒントまたは前置き。
上手い語り手はこれを読者の目に止まらせぬ為に、ごく目立たないようにこっそり張る。
何故なら予定が変わったりそれが不用になった場合、気付かれてなければそのまま誤魔化せるからである」
と、言うわけで気付かれなければ大丈夫っ(核爆)!
・・・・ところで「悪魔の辞典」ってご存知ですよね(汗)?