夢視ぬ星々の創世
SESSION
13 複雑な思考
私達が火星に来た目的、それは火星に取り残された人達を救助すること。
これで、私達が目的としていた救助が終わる。
あと……少しで。
「……ねぇ、そう言えばラピスちゃんは寂しくない?
お父さんとかお母さんと別れてこんな所まで来て?」
私はラピスちゃんとお話をしようと会話の糸口を探していた。
ラピスちゃんが泣きながらブリッジに来たのはついさっきの事。
最初はみんな心配したけど、今は落ち着いて私の右隣、つまりオペレーター席に座っている。
それまで何を聞いても答えなかったラピスちゃんだったけど、やっと答えてくれた。
「……寂しくない、アキトが居るから…………」
「そっか、ラピスちゃんはテンカワさんの事が好きなんだ」
何でラピスちゃんはテンカワさんの事が好きなんだろ?
このナデシコではテンカワさんは一番近づきたくない人第一位だって確か誰かが言ってたみたいだったけど。
そう言う私も余り近づきたくないかな、って思っているんだけどね。
だって……何だか何時もピリピリした表情でいるんだもの、声のかけようも無いじゃない。
だからラピスちゃんがテンカワさんの事が好きなのがよくわからなかった。
だって、絶対小さな子に嫌われそうな感じだもん。
「……アキトはラピスにとって全て、アキトはラピスに色々な物をくれた。
だから……アキトの側にいる」
ラピスちゃんのその言葉を聞いてふと疑問が湧いた。
たしか……テンカワさんとラピスちゃんはこのナデシコで初めて会ったんじゃなかったっけ?
それなのに、今のラピスちゃんの言いようだとまるで長い間一緒に居たような感じに聞こえる。
これって一体?
「ねぇ、ラピスちゃん……」
私がその先を口に出すより早く、私の席に通信が入ってきた。
もうッ、一体誰から!?
「はい」
『こちらテンカワ アキト、これからそちらに帰還する』
私はウィンドウが開いた瞬間固まっちゃった。
だって……ねぇ。
テンカワさんは良いわ、問題なのがそのテンカワさんを挟んで女の人が二人も居る事よ。
あのロボットって一人乗りなんでしょう?
それなのに計三人も乗ってるんだもの。
大体テンカワさんは故郷を見に行ったんでしょう、それなのに女の人を二人も連れてくるなんて非常識ですッ!!
そんな節操無しだとは思わなかったな、私も気をつけないとっ!
「わかりましたっ!
そのまま格納庫へと入ってくださいっ!」
私は少し乱暴だなと思えるぐらいの声でそれだけを言って通信を切った。
「……どうしたの、お姉ちゃん?」
ラピスちゃんが不思議そうな目で私を見つめている。
その目を見たとき私はある決心をした。
「ラピスちゃん、私がラピスちゃんを絶対に護ってあげるからねっ!」
「?何を言ってるの、メグミお姉ちゃん」
そう、私がラピスちゃんを護ってあげないと!
今はまだ子供だけど後十年もしたらラピスちゃんは絶対に綺麗な女の子になっているわ。
それを見越してラピスちゃんに近づいているのかも知れない。
そんな邪な考え、私が絶対にさせませんッ!!
「そうよっ!
私が護ってみせるんだからッ!!」
これからは逐一テンカワさんの行動をチェックしておかないと。
まずはあれをこうして…………
「お、お姉ちゃん、何だか怖い…………」
「ふへ?
どうしたのメグミちゃん?」
「メグミ君、一体どうしたと言うんだね?」
そんな言葉も私の耳には届かなかった。
……だって自分の考えに一生懸命だったんだもの、てへ♪。
ナデシコ……まさかこんな形でまた乗るとは、ね。
「それではその座標へ向かえば良いのだな」
「ええ、そこに地下シェルターが存在するわ」
ゴートの再度の問いに答えながらそんな事を考えていた。
ふぅ、これで『前回』みたいな事は防げるわね。
いくらなんでも悲劇が起こるとわかっているのを防がない事はないわ。
だけど……一体何なの?
何故ナデシコがここに居るの?
いえ、他にもおかしな所が沢山あるわ。
その中で一番大きいのが……アキト君。
あの時私達の乗るナデシコとユーチャリスは確かにジャンプしたわ、それは確かな事よ。
そして私はこの時代に戻ってきた。
それなのにアキト君は…………違った。
アキト君はこの時代に戻ってきてはいない。
こんな事は起こり得ない、ジャンプに巻き込まれたら少なくとも同じ場所に飛ばされるわ。
今回は時間だけが同じ場所みたいだけど。
ただ一つ、例外があるとすればそれは世界初の生体ジャンプが起こったときだけ。
あれも未だに原因は解明されていないけど、あれとは設備が違う。
あの状況でアキト君だけが戻ってないなんて事はまずあり得ないわ。
それこそ装置の暴走でも無い限りは。
だけど、ユーチャリスからはそんな様子は見受けられなかったし、第一ジャンプ装置が故障するはずがないわ。
ジャンプ装置は最重要機械のため、特に細心の注意をもって建造される、少なくとも後半年は点検しなくても良かったはず。
後は、ナデシコが打ち込んだアンカーだけだけど、あれはジャンプ装置がある場所には当たっていない。
なら……何故私達はこの時代へジャンプしてきたの?
……徹底的に調べた方が良さそうね。
それと…………
「ん、どうしたんですかイネスさん?」
私の視線に気が付き、首を傾げる一人の少女。
この『眞霧 翠』と言う少女について私は何も知らない。
そう、『前回』では私はこの少女と出会っていない。
何故なら、彼女はシェルターには居なかったから。
居なかった人間が今回は存在し、ナデシコに乗り込んでいる、それだけでこの世界は私達が知っている世界とは異なる世界と証明する鍵となる。
この先、何が起こるか想像出来ない可能性が高いわね。
「はぁ…………」
知らず知らずのうちに溜息が漏れる。
どうしてこうボソンジャンプは私達にとって忌むべき事を巻き起こしてくれるのかしら。
「……なぁ、イネスさん」
思考の海に浸っているところに声がかけられた。
その声の主は私が知っている者の声だったけど、いつもの彼女らしくない弱々しい声だった。
何かあったのかしら?
「一体どうしたのよ、スバル リョーコ?」
私は周りに誰も居ないことを確認した後、返事をした。
今私達の関係を他の人に知られる訳にはいかない。
「!!お前、本当に『イネス』なのか……」
「そうよ、私以外に誰がいるのよ」
何そんなに驚いているのよ?
「そうか……良かった…………」
それだけを述べた後、糸が切れたマリオネットのようにその場に倒れてしまった。
「ちょ、ちょっとしっかりしなさいっ!」
急いで起こしにかかったけど彼女は目を覚ます気配は感じ取れない。
「一体どうした?」
「急いで担架を……いえ、貴男が彼女を医務室まで至急連れて行きなさいっ!」
異変に気が付き近寄ってきたゴートにリョーコに運ばせ、私達は医務室へと向かった。
乗り込んで早々こんな事になるとはね……頭が痛いわ。
「お帰りなさい」
私達は今食堂に来ている。
それはアキトが無事に帰ってきたお祝いも兼ねている。
この火星では何時木星蜥蜴と出会ってもおかしくない状況で、その中単身エステだけでアキトは出かけていったんだもの、これぐらいは当然よね?
……無事に帰ってきて良かった。
「ああ、って言ってもたかが三〜四時間だろ、そんな事を言われる程じゃないさ」
アキトはそう言うけど、待っている方はそうでもないんだよ。
何も出来ない、何もわからない中待つのはとっても怖く、恐ろしい事なんだから。
それが、危険な場所なら尚更……
だから――――
「それでも……お帰り」
言いたかった。
迎えの言葉。
帰ってきてくれた事を指す言葉を。
「…………ただいま、カザマ」
それだけで、私は満足だから。
でも――――
「で、その隣の人は誰なの?」
これだけは見過ごすことは出来ない。
アキトが誰と居ようがそれはアキト本人の自由だけど、やっぱり一人で出かけていって三人で帰ってくれば気になる。
それに……何だか親しそうだし……
「ん……ああ、こいつは俺の……火星での職場の同僚だった奴……で良いのか?」
……疑問形で答えられてもわからないんだけど。
「あのねアキト、もうちょっと言い方があるでしょう、友達とか親友とか」
「いや、何だか…………そうだな、家族みたいなもんかな」
アキトは自分で言った言葉に驚いた表情をした。
多分懐かしい人に出会ってついポロリと口から出てしまったみたいに。
「へぇ〜〜、アキトってボクの事そんな風に見ていたんだぁ、うれしいなぁ〜〜〜っ♪」
身体全体で嬉しさを表現するみたいに喜ぶ彼女。
そう言えば彼女の名前もまだ知らなかった事に気が付いた。
「なっ、何を言ってるんだ翠!
いまのはな…………」
「プロポーズの言葉ぁ?」
アキトが翠って呼んだ子の言葉を聞いて思わず息を呑む。
このテーブルとその周囲には誰も居ない。
そして女二人と男一人のこの中に緊迫した空気が流れる。
……もしかして、修羅場?
ダメダメッ!こんな事を考えるほど私はパニックに陥っているのだろうか?
その答えの代わりに焦ったアキトの声が響き渡る。
「んなはずあるかぁ〜〜〜〜ッ!!」
……アキト、声大きすぎだよ。
そんな緊張した空気をうち破ったのは他でもないこの空気を作った張本人だった。
「ぷっ、あははははははッ!、アキトってば可笑しいの〜〜〜〜ッ!!」
お腹を押さえながら笑う彼女を見て、アキトは悔しそうな顔をした。
「全く……全然変わらないな、お前は」
「あははははっ……そりゃそうだよ、そんなスグには変わらないよ。
アキトも変わって無くて安心したよ」
「そうか?」
「うん、最初は何だかよそよそしい感じだったけど、やっぱりこのアキトの方がボクは良いなぁ」
彼女の言葉にハッとする。
アキトは彼女と話をしているとき、自然と笑っている
そう、今アキトは笑ってる。
私と出会ってから殆ど笑ったことが無いアキトが今笑ってる。
これが……本来のアキトなの?
アキトはこんな笑い方が、出来るんだ。
「……なんでお前はそう言ったことがわかるんだろうな」
「う〜〜〜ん、わかんないや」
首を傾けながら答える彼女は何だか幼く感じる、私より年下かな?
「はぁ……そうそう、カザマにはまだ紹介してなかったな。
こいつは眞霧 翠、火星での知り合いだ」
そう言ってアキトは彼女、眞霧さんを親指で指す。
「で、こっちがイツキ カザマ、まぁ、ちょっとした知り合いだ」
そして私を指差す。
アキト、人を指差しちゃダメなんだよ。
そんな場違いな感想を口に出さずに挨拶をする。
「初めまして」
無難な挨拶をするが眞霧さんからは帰ってこなかった。
不思議に思って彼女の顔を見ると、なにやら考え事をしているようだった。
「……たしか…………でも…………それだったら…………るし……」
なにやら呟いているみたいだったけど私には断片的にしか聞こえなかった。
どうしたんだろう?
「おい、翠」
「……えっ、あっ、初めまして、よろしくねっ!」
彼女の笑顔はこの短い時間で何度も見ているけど、何だか人を惹きつけるなにかがあるみたい。
だって、その笑顔がとても印象に残っているもの。
「一体どうしたんだ、お前らしくもない」
「えへ、ちょっと考え事」
舌を出しておどけた眞霧さんに溜息をつくアキト。
こう見ても二人が特別な関係だなって感じ取れる。
だけど……私はそれを見ても何とも思わない。
いえ、まるでそれが当たり前のように感じている。
アキトと眞霧さん、この二人がこうしているのを私は…………?
「それにしても、この船って凄いね!
この火星まで一隻で来れるんだからっ!」
「さぁな、ここまで来るだけならさしたる敵も現れなかったからな」
私がそんな事を考えている中、アキトたちはとめどない会話をしている。
なんだか、こういった空間も良いかなって思えるな。
アキトと、私と、眞霧さん。
三人でこうしているだけで何だか、幸せな気持ちで満たされる。
何故こんな気持ちになるかわからないけど、それでも良いかなって思える。
可笑しいよね、初めてあった、しかもアキトに確かな好意を現しているのにこんな気持ちになるなんて。
だけど、やっぱり…………
「ねぇ、イツキちゃん?」
「何、眞霧さん?」
こんな時間が続いてくれたらいいと願った。
その本当の意味を、この出会いの意味を知らないまま――――
あとがき
記念すべき300万HITですなぁ。
……………………
すいません、滅茶苦茶遅れました。
これを読んでいる人がどれだけいるかはわかりませんが、すいません(ペコ)
代理人の感想
・・・・まぁ、あらかじめ用意してるんでない限り、「〜〜記念作品」てのは遅れるもんですし(トオイメ)。